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第 4 章 実用流体機器への応用

4.3 石炭焚き発電用ボイラにおける伝熱管群周りの灰粒子挙動の解析

4.3.4 解析結果と考察

(1) 流れ方向に垂直な振動流れ

① 燃焼ガスの流れ

燃焼ガスの渦要素分布,速度分布,渦度分布の時刻歴を図4.3.4~図4.3.7に示す.

渦要素分布は,紙面方向の三次元的な分布を積層している.各伝熱管の後流には,

互いに回転方向の異なる渦が周期的に発生している.また,横二列に伝熱管が並ん でいることで,非定常的ではあるが管列の間で流れが加速する様子も見られる.

このように,流れ方向に垂直な方向に振動する流れが生じるため,前方の管で発 生した振動流によって,後方の管に左右交互に衝突する流れが発生する.そのため,

この振動流れに石炭灰粒子が随伴される場合には,後段に設置された伝熱管におい ても,管壁に粒子が衝突する可能性がある.

また,流れ方向を軸とする渦度分布をみると,伝熱管から流れがはく離する箇所 において,渦度が大きくなることがわかる.このように,伝熱管後流では,三次元 的で非定常な渦構造が形成される.そのため,主流方向に比べれば小さいが,フィ ンに垂直な方向においても流れが生じている.

② 石炭灰粒子の流れ

石炭灰粒子の挙動として,瞬時の粒子分布と体積濃度分布を図 4.3.8,図4.3.9 に 示す.粒子分布は,紙面方向の三次元的な分布を積層している.流れ方向に多段配 置された管と管の間に,粒子が巻き込まれている様子がわかる.これは,流れ方向 に垂直な方向の振動流が発生しているためである.特に,段数方向(流れ方向)に おいて2~4段目の管の隙間において,粒子が多く巻き込まれることがわかった.ま た,管列の間で,粒子速度が増加している箇所もみられる.

このように,流れ方向に垂直な方向の振動流れによって,石炭灰粒子が随伴され,

後段に設置された伝熱管においても,管壁に粒子が衝突していることが明らかにな った.衝突に関しては,摩耗量を算出することで詳しく評価したので後述する.

図4.3.4. 瞬時の渦要素の分布(コンタは紙面方向の渦強度)

図4.3.5. 燃焼ガスの瞬時の速度分布(フィン間中央断面)

tV/D=38 tV/D=39 tV/D=40

αy/(VD2)

tV/D=38 tV/D=39 tV/D=40

vfz/V

流れ方向

流れ方向

z/(VD2)

図4.3.6. 燃焼ガスの瞬時の渦度 y(紙面方向)の分布(フィン間中央断面)

図4.3.7. 燃焼ガスの瞬時の渦度 z(流れ方向)の分布(フィン間中央断面)

tV/D=38 tV/D=39 tV/D=40

y/(VD2)

tV/D=38 tV/D=39 tV/D=40

流れ方向

流れ方向

図4.3.8. 瞬時の石炭灰粒子の分布

図4.3.9. 瞬時の石炭灰粒子の体積濃度分布(フィン間中央断面)

tV/D=38 tV/D=39 tV/D=40

vpz /V

tV/D=38 tV/D=39 tV/D=40

CV

流れ方向

流れ方向

(2) フィン間での三次元的な渦流れ

① 燃焼ガスの流れ

フィン間での三次元的な流れの解析結果として,フィンに垂直な断面における流 れ方向速度分布を図4.3.10に示す.上述したように,伝熱管後流では,三次元的で 非定常な渦構造が形成される.そのため,フィンに垂直な方向の流れによって,伝 熱管周りの主流方向速度分布がフィン間で非定常に揺れる様子が捉えられた.この ような流れによって,フィン間方向においても粒子分布に偏りが生じると推測され る.また,伝熱管への粒子衝突に比べると,頻度・エネルギとも小さいと考えられ るが,フィンと粒子との衝突も発生すると思われる.

② 石炭灰粒子の流れ

石炭灰粒子の挙動として,フィンに垂直な断面における粒子の体積濃度分布を図

4.3.11 に示す.フィンの間で,粒子濃度分布の高低が三次元的に偏在していること

がわかった.この三次元的な分布は,時間的に変動している.

本節で取り上げた燃焼ガスと石炭灰のような高温固気混相流が,伝熱管などの低 温壁に接触する場合には,低温壁表面に固体粒子が付着層を形成する現象が起こる ことが知られている[116].節炭器においても,フィンおよび伝熱管に石炭灰が付着・

堆積することがある.そのため,本節で着目している摩耗とは異なるが,石炭灰が 伝熱面に付着・堆積することで,伝熱性能の低下,流路の閉塞,腐食などが問題と なることがある.今回の解析で明らかになったように,伝熱管群周りでは三次元的 な渦流れが非定常に発生しており,フィン近傍で粒子濃度が局所的に高くなる様子 が観察されたので,フィン壁面に灰粒子が付着する可能性があることがわかった.

フィンは伝熱管に比べて表面積が大きいため,灰付着が発生・成長する一要因とし て,フィン壁面への灰付着が起点となる可能性が考えられる.

図4.3.10. 燃焼ガスの瞬時の流れ方向速度分布(フィン間での三次元性)

vfz /V

tV/D=38

tV/D=39

tV/D=40 伝熱管中央断面

伝熱管中央断面 から±0.8D脇 流れ方向

解析領域側面

解析領域側面

図4.3.11. 瞬時の石炭灰粒子の体積濃度分布(フィン間での三次元性)

tV/D=38

tV/D=39

tV/D=40

流れ方向 伝熱管中央断面

伝熱管中央断面 から±0.8D脇 解析領域側面

解析領域側面 CV

(3) 伝熱管での摩耗の評価

固体粒子が伝熱管壁に衝突することによって生じる摩耗現象を評価するため,伝熱管 壁における摩耗量W(Wear)を算出する.摩耗量を推算する方法として,固体粒子を壁 面に衝突させて摩耗量(摩耗によって減少する材料の質量や厚さなど)を計測する基礎 実験から,多くの推算式が提案されている[117] - [121].また,これらの推算式と粒子追跡法 を用いた数値シミュレーションとを組み合わせることで,摩耗し易い位置や摩耗量を推 定する研究が行われている[28] - [31]

そこで,これら既存の知見を参考に,本計算では固体粒子と壁面との衝突に対して,

衝突の速度や角度などを元に摩耗量を推定するFinnieやBitterの式を用いた.粒子の衝 突速度を流入速度9.12m/s,粒子径を20 μmとした場合の衝突角度 に対する摩耗量を算 出した結果を図4.3.12に示す.摩耗量は壁面に衝突した粒子の単位質量に対して,摩耗 で失われた壁面材料の質量で表した.摩耗量は,切削による摩耗量 Wc(Cutting wear) と材料の塑性変形による摩耗量 Wd(Deformation wear)の二種類に分けられ,図 4.3.12 ではWcWd,および両者の総和である総摩耗量Wt(Total wear)を示した.ここで,摩 耗量を定量的に算出するためには,衝突条件だけでなく,固体粒子や衝突壁の材料物性,

および多くの経験定数が必要となる.経験定数に関しては既存研究を参考にした[117] - [121]. 本解析で得られた摩耗量(単位時間,単位面積あたりの摩耗量 [kg/m2 s ])の分布

を図4.3.13に示す.解析結果から,最前段だけでなく,後段の2~4段目程度の伝熱管に

おいても摩耗量が大きい領域があることがわかった.これは,上述したように,カルマ ン渦列に類似した流れ方向に垂直な方向の振動流れに石炭灰粒子が随伴され,後段に設 置された伝熱管においても,固体粒子の衝突が起るためである.また,伝熱管の上流側 の斜め45度近傍において摩耗量が大きいことが解析結果で示されており,一般的に使用 されている節炭器での摩耗状態と定性的に一致した.さらに,解析で得られた摩耗量を もとにして,摩耗によって失われる管壁厚さに換算すると,最大で0.3mm/year程度であ り,一般的に知られている運転データとオーダーが一致することを確認した.

一般に,節炭器では,最前段あるいは二段目程度までは,伝熱管の摩耗を防止するプ ロテクタが設置されることが多い.しかし,今回の解析で明らかになったように,伝熱 管群後流では三次元的なはく離渦が非定常に発生するため,プロテクタが設置されてい ない後段の伝熱管においても石炭灰の衝突による摩耗が生じる可能性があることを示す ことができた.

0.0E+00 2.0E-07 4.0E-07 6.0E-07 8.0E-07 1.0E-06

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

衝突角度 θ[°]

摩耗量 [kg/kg]

図4.3.12. 衝突角度に対する摩耗量の推算

切削摩耗 Wc

変形摩耗 Wd

総摩耗 Wt

Vp =9.12m/s, dp =20 μm

図4.3.13. 石炭灰粒子による伝熱管壁の摩耗量分布

(a) 切削摩耗量 Wc (b) 変形摩耗量 Wd (c) 総摩耗量 Wt

流れ方向 流れ方向 流れ方向

摩耗量W [kg/m2 s ]