第 3 章 混相内部流への適用と検証
3.2 二次元解析(One-way 解析)
3.2.5 高速化手法の有効性と妥当性の検証
渦法と粒子追跡法を用いた混相流解析技術の開発にあたり,Two-way モデルの導入や 三次元化を行っていくには,流れ解析自体の高速化が重要となる.ここでは,渦法を用 いた流れ解析の高速化手法の導入を図る.高速化手法導入以前の従来手法と比較するこ とによって,高速化手法の妥当性・計算時間の短縮度合いを明らかにすることを目的と する.ここで用いる高速化手法は,2.2.8項で記した方法である.
(2) 対象流れ場と解析条件
① 解析対象と流動条件
ここでは,3.2.4 項で対象とした二次元の T字型合流路内での固液二相流に対して,
高速化手法を適用する.解析対象を図 3.2.5-1 に示す.流量比は支流流量/主流流量=2 の一条件に対して解析を行う.固体粒子は支流のみから流入する.流動条件は以下の 通りである.代表長さを主流路幅H1,代表速度を主流路流入速度U1とする.
流路高さ :H1=20 mm, H2=10 mm
流量 :Q1=60 l/min, Q2=120 l/min
流速 :U1=0.25 m/s, U2=1.0 m/s
レイノルズ数 :Re U1H1/ 5000 固体粒子の比重 : p/ f 2.5
固体粒子径 :dp=0.02 H1= 400 μ m 固体粒子体積濃度 :CV =0.01
ストークス数 :St=0.31
図3.2.5-1. 解析対象
H1
H2
Q2 , U2 Q1 , U1
x y
Mixing point (x, y)=(xm, ym)
Gravity
② 解析パラメータ
境界パネルの長さ : lbp /H1=0.05~0.125 境界パネル枚数 : Nbp=144
壁面上の速度参照点高さ : h/H1= 0.00147 流れ解析の時間刻み : tfU1/ H1=0.02 粒子解析の時間刻み : tpU1/H1=0.01 一個の標本粒子が代表する実際の粒子数: Np=1
③ 高速化解析のパラメータ
高速化解析のパラメータは,計算を省略する計算ステップ数Nnとする.遠方に存在 する渦要素からの誘起速度算出を省略する範囲(速度算出点から距離Rn以上離れた渦 要素からの誘起速度は数ステップおきに計算)はRn=H1で固定する.計算パラメータ をケース順に表3.2.5-1に示す.
ケース名 速度算出点からの距離Rn 計算ステップ数Nn
Case01 1(省略なし)
Case02 H1 2
Case03 H1 5
Case04 H1 10
④ 比較項目
比較対象の基本となるケースはCase01である.Case01では高速化処理を全く導入せ ずに解析していることから,Case01を基準となる解析結果とする.
高速化手法の妥当性・計算時間の短縮度合いを把握することを目的とするため,比 較項目は,流れ場・固体粒子運動・計算に要した時間とする.
(3) 高速化手法の適用範囲,精度,計算時間の検証
① 流れ場の比較検討
時間平均速度および変動速度の比較結果を図3.2.5-2,図3.2.5-3,図3.2.5-4に示す.
また,Case01に対する誤差を表3.2.5-2に示す.
時間平均速度および変動速度に関して,Case02, Case03は誤差10%以内であるが,
Case04は著しく誤差が大きくなっている.時間平均速度場に関して,Case04では,は
く離領域を過小評価しているのがわかる.このため,はく離渦の変動によって発生す ると考えられる変動速度成分に関してもCase04では過小に捉える傾向がある.
表3.2.5-1. 解析条件
全ケースにおいて,時間平均特性よりも変動特性に対する誤差の方が大きくなるこ とがわかる.今回用いた高速化手法は,遠方に存在する渦要素から生じる誘起速度の 計算を,計算ステップ間隔Nnに1回として,その間は省略している.そのため,時間 平均特性よりも非定常特性の精度の方が低下したと考えられる.
ケース名 時間平均速度 変動速度
Case01 - -
Case02 2.9% 4.5%
Case03 3.2% 8.6%
Case04 17.3% 19.4%
② 固体粒子運動の比較検討
固体粒子に対する瞬時分布,時間平均分布,時間平均速度および変動速度の比較結
果を図3.2.5-5~図3.2.5-8に示す.また,Case01に対する誤差を表3.2.5-3に示す.
時間平均特性および変動特性に関して,Case02, Case03は誤差10%以内であるが,
Case04は著しく誤差が大きくなっている.流れ場自体の計算精度の低下に伴って,固
体粒子運動に関しても流れ場同様の誤差が生じていることがわかる.本手法では,流 れ場と固体粒子運動の両方共に高速化手法を導入して計算している.そのため,固体 粒子運動の誤差は,流れ場で生じた誤差以上に大きくなっている.
ケース名 時間平均分布 時間平均速度 変動速度
Case01 - - -
Case02 5.1% 2.5% 8.2%
Case03 9.1% 2.8% 9.6%
Case04 15.2% 6.2% 17.3%
③ 計算時間の比較検討
各ケースにおける計算時間の比較を表3.2.5-4に示す.クロック周波数833MHzのアル ファ計算機で計算した(全計算ステップ数は2000ステップで,無次元時刻tU1/H1= 40ま で計算した).
高速化手法を導入することで,明らかに計算時間を短縮できることがわかる.今回 の計算では,従来手法のCase01に比べて最大で約半分の計算時間まで短縮できた.
表3.2.5-2. 液相に対する誤差評価
表3.2.5-3. 固体粒子運動に対する誤差評価
今回用いた高速化は,離散渦要素からの誘起速度計算に対する処理のみであるため,
計算ステップ間隔Nnの増加に伴って,計算時間が単調に短縮するわけではない.
ケース名 計算時間 [min] 計算時間 [hour] 計算時間の比
Case01 1,076 17.9 1
Case02 857 14.3 0.80
Case03 676 11.3 0.63
Case04 590 9.8 0.55
④ 総合的な比較検討
高速化手法導入による計算結果の妥当性および解析時間の短縮度合いの両方を考慮 すると,今回実施した4ケースの中では,Case03とCase04との間にクリティカルポ イントがあることがわかる.Case03からCase04において,計算誤差が2倍以上に増 加しているにも関わらず,計算時間の短縮度合いは 1.15倍とあまり増加していない.
Case03の条件では計算誤差が10%以内で,計算時間を6割程度に短縮することができ
ており,今回導入した高速化手法においてはCase03程度のパラメータが妥当であるこ とがわかる(Nn =5ステップ間隔で誘起速度の計算をする).
また,ここで導入した高速化計算は,計算時間刻みや境界パネル数などによる直接 的な高速化と同時に実行できる利点を持つ.ただし,時間刻みや境界パネル数などに よる直接的な高速化は,流れ場を離散化する渦要素数自体が減少してしまうため,時 間および空間解像度を損なう危険性があり,十分留意する必要がある.
(4) まとめ
渦法を用いた流れ解析の高速化手法を導入し,従来手法と比較することによって,高 速化手法の妥当性・計算時間の短縮度合いを明らかにした.これにより,従来手法に比 べて,計算誤差が10%以内で,計算時間を6割程度に短縮することができることがわか った.本高速化手法を用いることによって,これまで困難であった三次元複雑構造を持 つ産業機器での混相流への適用が可能となり,設計・開発の効率化が期待できる.
表3.2.5-4. 計算時間
Case01
Case02 uf /U1
uf /U1
Case03
Case04 uf /U1
uf /U1
図3.2.5-2. 液相の時間平均速度分布の比較
-2 0 2 4 6 0
0.25 0.5 0.75 1
u
f/U
1y/ H
1 Case01Case02 Case03 Case04
-2 0 2 4 6
0 0.25 0.5 0.75 1
u
f/U
1y/ H
1x-xm=H1 x-xm=3H1
図3.2.5-3. 液相の時間平均速度分布の比較
Case01 Case02 Case03 Case04
図3.2.5-4. 液相の変動速度分布の比較
0 0.5 1 1.5 2
0 0.25 0.5 0.75 1
√ (u
f'
2) /U
1y/ H
10 0.5 1 1.5 2
0 0.25 0.5 0.75 1
√ (u
f'
2) /U
1y/ H
1x-xm=H1 x-xm=3H1
図3.2.5-5. 瞬時の固体粒子分布の比較 Case01
Case02 up /U1
up /U1
Case03
Case04 up /U1
up /U1
0 0.1 0.2 0.3 0
0.25 0.5 0.75 1
N
p(i)/N
p(total) y/ H
10 0.1 0.2 0.3
0 0.25 0.5 0.75 1
N
p(i)/N
p(total) y/ H
1Case01 Case02 Case03 Case04
x-xm=H1 x-xm=3H1
図3.2.5-6. 固体粒子の時間平均分布の比較
0 2 4 6
0 0.25 0.5 0.75 1
u
p/U
1y/ H
10 2 4 6
0 0.25 0.5 0.75 1
u
p/U
1y/ H
1図3.2.5-7. 固体粒子の時間平均速度の比較
x-xm=H1 x-xm=3H1
Case01 Case02 Case03 Case04
0 0.5 1 1.5
0 0.25 0.5 0.75 1
√ (u
p'
2) /U
1y/ H
10 0.5 1 1.5
0 0.25 0.5 0.75 1
√ (u
p'
2) /U
1y/ H
1Case01 Case02 Case03 Case04
x-xm=H1 x-xm=3H1
図3.2.5-8. 固体粒子の変動速度の比較