第 3 章 混相内部流への適用と検証
3.4 相間相互作用を考慮した解析(Two-way 解析)
3.4.2 固体粒子群の自由沈降流の解析(三次元解析)
W=50mm,奥行き15mmである.直方体の高さは投下量(空隙も含む見掛けの体積)に よって変化する.粒子径dp=5mmの場合の投下量はQp=75cm3,dp=1.3mmの場合の投下 量はQp=300cm3とした.
解析でモデル化した水槽は,高さ1100mm,幅800mm,奥行き 150mmであり,水槽 壁をスリップ壁としてモデル化した.落下させる粒子群下端から水槽底部までの水深は
900mmである.
(3) 比較対象とした既存研究
① 粒子群の沈降・堆積挙動に関する既存研究
対象とした固体粒子群の自由沈降流は,埋め立て工事における直投土砂の沈降挙動 を模擬しており,土木・海洋分野で多くの研究例がある.人工島建設,防波堤築造や 産業廃棄物の埋め立て処分など,土砂や砕石,廃棄物などの海域への投棄は様々な目 的や方法で実施されている.
従来研究[109], [110]において,投棄物の拡散や堆積形状,海底地盤への影響などを精度
良く予測するためには,固体粒子群が水中落下時に誘起する流動場を把握することが 重要であることが指摘されてきた.また,誘起流動による大規模な底泥の巻き上げや 濁りの拡散等の水質汚染も懸念されることから,周囲環境に対する影響を評価する上 でもその流動特性の把握が重要である.
本項では,静止水中においてポイントソースから瞬間的に投入された固体粒子群の 沈降挙動を解析する.
② 既存実験の概要
比較対象とした玉井らの実験[110]は,高さ1300mm,幅900mm,奥行き900mmの水 槽の前面部150mmを仕切って行われている.水槽の上部に設置された高さ100mm,
幅50mm,奥行き150mmの底開バージを模倣した箱の底部を瞬時に開口することによ
って,固体粒子群が瞬間的に投下される.箱の底部には幅25mm,奥行き150mmの2 枚のアクリル板がそれぞれ箱の側壁に滑らかに回転可能なように蝶番によって取り付 けられている.箱の設置位置は水表面下300mm程度の位置であり,固体粒子は完全に 湿潤状態にある.固体粒子投下の瞬間の水表面の変動は非常に小さいことが確認され ている.したがって,水面変動が固体粒子群の落下挙動に与える影響は小さい.
投下される粒子はガラスビーズである.粒子レイノルズ数の範囲から,dp=3mm 以 下の粒子は概ねストークス則からニュートン則への遷移領域に,dp=5mm 以上の粒子 はニュートン則に属する粒子である.
(4) 解析パラメータ
境界パネルの一辺の長さ : lbp /W =0.5~1 境界パネル枚数 : Nbp=1160
流れ解析の時間刻み : tfVp0/W=0.025 粒子解析の時間刻み : tpVp0 /W =0.001 一個の標本粒子が代表する実際の粒子数: Np=1
Two-way用の計算格子幅 : ltwo way /W=0.25
(Vp0は単一粒子の終端沈降速度)
(5) 解析結果と考察
① 粒子径・投下量による粒子群の沈降挙動の違い
粒子径・投下量による粒子群の沈降挙動の違いを調べるため,(a) dp=5mm,Qp=75cm3,
(b) dp=1.3mm,Qp=300cm3の二つの条件について解析した.
二つの条件の対比を明確にするため,単一粒子の自由沈降に対する両者の特性を表
3.4.2-1に示す.解析条件で記したように,粒子レイノルズ数から,Case (a)ではニュー
トン則に属する条件,Case (b)では,ストークス則からニュートン則への遷移領域に属 する条件であることがわかる.また,粒子の流体への追従性を表すストークス数Stか
ら,Case (a)では粒子径が大きいため粒子の流体への追従性は悪いが,Case (b)では粒
子径が小さいため流体への追従性が良いことがわかる.
表3.4.2-1. 解析条件に対する単一粒子の自由沈降の特性
(終端沈降速度での沈降状態)
解析条件 粒子径 [mm]
終端沈降速度 Vp0 [mm/s]
粒子レイノル ズ数 Rep
ストークス数 St
Case (a) 5.0 463 2320 32
Case (b) 1.3 179 233 0.8
解析結果として,固体粒子分布と液相速度ベクトル,および渦要素分布を時刻暦で 図3.4.2-2,図3.4.2-3に示す.
初めに,Case (a)は,粒子径が大きく,かつ投下量の小さいケースである.粒子群は
水平方向に若干拡散しながら落下している.粒子群の沈降に伴って,液相に下降流が 誘起されているが,粒子の流体への追従性が悪いため,液相流れが粒子群の変形に及 ぼす影響は小さい.このように,粒子の散乱機構は,単一粒子の自由沈降挙動と同様
であると推測される.玉井らの実験では,このような挙動のことを「自由沈降的落下 挙動」と呼んでいる.
次に,Case (b)は,粒子径が小さく,かつ投下量が大きいケースである.粒子群は投
下直後に水平方向に急激に広がり,中心軸に関して左右対称で逆方向の回転を有する 二つの循環が現れることがわかる.本条件では,粒子径が小さいため,粒子の流体へ の追従性が良い.そのため,粒子群は,周囲の粒子が誘起する流れの影響を相互に受 けながら沈降する.前方に位置する粒子は強い流体抗力を受け減速するが,後方の粒 子は前方の粒子のウェイク内に入るため落下速度が加速する.粒子群の沈降によって 誘起された液相の循環流は,粒子群の周囲の水を粒子群後端より連行し,凹型の形状 を有する.また,粒子群は概ね相似な形状を保って落下することがわかる.こうした 挙動は周囲流体と密度差を有する流体を瞬間的に放出した時に形成される乱流サーマ ルの挙動に類似している.玉井らの実験では,このような挙動のことを「乱流サーマ ル的挙動」と呼んでいる.
固体粒子群の三次元的な挙動について,本解析で得られた投下から1.2s後の粒子分 布を鳥瞰図で図3.4.2-4に示す.対象場は,玉井らの実験と比較するため,奥行き150mm の全域を粒子群で満たしている.奥行き方向の両端はアクリル壁があるため,奥行き 方向への粒子群の拡がりが制限されており,準二次元的な挙動を示していることがわ かる.
図3.4.2-2. 粒子径・投下量による粒子群の沈降挙動の違い (b) dp=1.3mm,Qp=300cm3 (a) dp=5mm,Qp=75cm3
初期状態
1.2s後 0.86s後 0.43s後
初期状態
1.2s後 0.84s後 0.42s後
vpy / Vp0 vpy / Vp0
図3.4.2-3. 粒子径・投下量による渦要素の発生・フローパターンの違い (b) dp=1.3mm,Qp=300cm3 (a) dp=5mm,Qp=75cm3
0.22s後
1.2s後 0.86s後 0.43s後
0.28s後
1.2s後 0.84s後 0.42s後 αx/(Vp0W 2) αx/(Vp0W 2)
② 粒子群の変形に関する定性的比較検証
投下から 1.2s 後の固体粒子分布について,玉井らの実験[110]と本解析結果との比較
を図3.4.2-5に示す.粒子径・投下量による粒子群の変形形状の違いが,実験と解析と
で概ね一致することを確認した.これにより,二次元だけでなく三次元解析に対して も,相間相互作用が支配的な中・高濃度の粒子流に本手法を適用できることを示すこ とができた.
図3.4.2-4. 粒子径・投下量による粒子群の沈降挙動の違い(鳥瞰図)
(b) dp=1.3mm,Qp=300cm3 (a) dp=5mm,Qp=75cm3
1.2s後 1.2s後
vpy / Vp0 vpy / Vp0
900mm 50mm
図3.4.2-5. 粒子群の変形に関する定性的比較検証(左:玉井らの実験,右:本解析)
(b) dp=1.3mm,Qp=300cm3 (a) dp=5mm,Qp=75cm3 1.2s後
1.2s後
vpy / Vp0
vpy / Vp0
③ 粒子群の沈降速度に関する定量的比較検証
粒子群先端部(最下端部)における沈降速度vpについて,玉井らの実験[110]と本解析 結果との比較を図3.4.2-6に示す.図中に示す沈降速度は,二つの条件それぞれの単一 粒子に対する自由沈降速度Vp0(表3.4.2-1)により無次元化した.
初めに,Case (a)では,沈降挙動で考察したように自由沈降的落下挙動となるため,
沈降距離に関わらず,単一粒子に対する自由沈降速度 Vp0と同程度の速度で沈降して いることがわかる.
一方,Case (b)では,乱流サーマル的挙動となるため,投下直後から粒子群先端部で
の沈降速度は急激に増大して,沈降距離l/W=3(Wは投下時の粒子群の初期幅50mm) 付近で極大値を示した.その後,沈降が進むに従って緩やかに減少する傾向がみられ た.粒子群先端部における沈降速度vpは,単一粒子の自由沈降速度Vp0に対して,極 大値が 2.5 倍程度に達していることがわかる.これは,粒子径が小さく,粒子の流体 に対する追従性が良いため,粒子群が誘起した液相の下降流によって,粒子群の沈降 速度が加速されたと考えられる.
玉井らの実験と本解析を比較すると,粒子径と投下量による粒子群の沈降速度の変 化,および沈降距離に対する沈降速度の変化が定量的に良く一致することを示すこと ができた.
0 2.5 5.0 7.5 10.0 12.5 15.0 0
1 2 3
沈降距離 l / W 粒 子 群 の 沈 降 速 度 v
p/ V
p0: d
p=5.0mm : d
p=5.0mm
実験 解析
: d
p=1.3mm : d
p=1.3mm
図3.4.2-6. 固体粒子群の沈降速度