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博士(農学)菅野達夫 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(農学)菅野達夫 学位論文題名

イネ培養細胞を用いた遺伝子の相同性に依存する      遺伝子の不活性化機構の研究

学位論文内容の要旨

  近年、トランスジェニック植物を用いた実験系において、導入遺伝子のみが、あるぃ は導入遺伝子およびこれと高い相同性を持つ内在性の遺伝子が、共に不活性化を受ける 現象が数多く報告されている。これはgene silencingと呼ばれ、後者は遺伝子の相同性に 依存した遺伝子の不活性化現象と捉えることができる。この現象は転写段階での調節も し〈は転写後の調節により生じており、DNAの塩基配列の変化を伴わないと考えられて いる。この、遺伝子の相同性に依存した遺伝子の不活性化現象は、基礎研究から分子育 種まで広く用いられるトランスジェニック植物に生じた問題点であるのみならず、植物 の遺伝子発現調節機構と深く関わっているものと考えられる。

  転写後調節型の遺伝子の相同性に依存した遺伝子の不活性化においては、導入遺伝子 および内在性の遺伝子から転写されるRNA間の相互作用を介してRNAの分解が起こるた めに遺伝子の不活性化が引き起こされるとぃう仮説や、導入遺伝子および内在性の遺伝 子から転写されるRNAの量に依存してRNAの分解が起こるために不活性化が引き起こさ れるとぃう仮説等が提唱されている。すなわち、転写後調節による遺伝子の相同性に依 存した遺伝子の不活性化には、導入遺伝子および内在性の遺伝子からの転写産物が何ら かの形で関与することにより生じると考えられている。しかしながら、分子レベルでの 発生機構の解明には未だ至っていない。

  この現象の分子機構の解明のためには、この現象の鍵を握ると考えられているRNAの 挙動を直接的に解析できる実験系の確立が必要である。そこで、本研究では実験材料と して培養細胞に着目した。培養細胞はプロトプラスト化およびDNAやRNAの導入が容易 に行える。そこで、まず、レポーター遺伝子をゲノム上に挿入し、安定に発現している トランスジェニック細胞株を確立する。次いで、そのレポーター遺伝子を内在性遺伝子 と見立てて、相同配列を持つDNAやRNA分子を導入すれば、転写後調節型の遺伝子の相 同 性 に依 存 した 遺 伝子 の 不活 性 化を 解 析 でき る 系が 開発 できると期 待される。

  本研究では、イネの培養細胞を実験材料として用い、遺伝子の相同性に依存した遺伝 子の不活性化現象を支配する分子機構の解析を行った。得られた結果は以下のようにま とめられる。

(1)遺伝子の相同性に依存した遺伝子の不活性化現象の解析のための実験系の確立

(2)

  カリフラワーモザイクウイルス(CaMV) 35Sプロモーターにレポーター遺伝子として ロ・グルクロニダーゼ(GUS)の構造遺伝子をっないだキメラ遺伝子を構築し、イネの培 養細胞であるOc細胞に電気穿孔法によって導入し、25株の形質転換細胞株を得た。得ら れた細胞株についてGUS活性を測定したところ、活性の高いGUS夕ンパク質高発現細胞 株と、導入遺伝子に不活性化が起こったと考えられるGUSタンバク質低発現株に分類す ることができた。GUSの活性染色を行ったところ、低発現細胞株において、完全な導入 遺伝子を持つにも関わらず、染色の見られない細胞株が存在した。ノーザン解析ならび にrun‑on assayによって、この細胞株においてはGUS mRNAの蓄積が低下しており、こ れ が 転 写 後 調 節 に よ り 引 き 起 こ さ れ て い る こ と を 明 ら か に し た 。 (2)相 同 配 列 を 持 っ プ ラ ス ミ ド DNAの 導 入 に よ る 不 活 性 化 現 象 の 誘 導   GUS夕ンパク質高発現細胞株およびOc細胞株を再度プロトプラスト化し、GUSプラス ミドDNAを再導入して一過的に発現させた。この時、親株であるOc細胞株では導入後48 時間目までGUS活性は上昇するのに対して、高発現細胞株では24時間目以降にGUS活性 は減少した。一方、GUS遺伝子と相同性を持たない、ルシフウラーゼ(LUC)遺伝子を 導入したときのLUC活性の経時変化には、親株と高発現細胞株の間で顕著な差違は観察 されなかった。このことは、酵素活性レベルではあるが、GUSプラスミドDNAの一過的 発現により、高発現細胞株において24時間目以降、遺伝子の不活性化が誘導されたこと を示唆している。

(3)相同配列を持つRNAの導入による不活性化現象の誘導

  GUS夕ンパ ク質 高発現細胞株に、試験管内で合成したGUS RNAあるいはLUC‑GUSキ メラRNAを導入した。その結果、細胞株間においてばらっきはあるものの、導入後数時 間の内にGUS活性の減少が観察された。一方、GUS遺伝子と相同性を持たない、緑色螢 光 夕 ン パ ク 質(GFP)遺 伝 子 に 由 来 するGFP RNAあるい はLUC‑GFPキ メラRNAを導 入 し た と き に は 、 そ の よ う な GUS活 性 の 減 少 は 観 察 さ れ な か っ た 。   さらに、RNAを導入したプロトプラストから抽出した全RNAを用いたRNase protection assayにより、GUS遺伝子と相同性を持つRNAをGUS夕ンパク質高発現細胞系統に導入し た と き に の み 、 導 入RNAの 特 異 的 な 分 解 が 誘 導 さ れ る こ と を 明 ら か に し た。

  本論文は、培養細胞の実験系において、遺伝子の相同性に依存した遺伝子の不活性化 現象が生じることを明らかにした。また、DNAおよびRNAの再導入による一過的な遺伝 子の相同性に依存した遺伝子の不活性化現象の解析から、この不活性化現象は、RNAに よって生じることを直接的に示した。これらのことは、培養細胞を材料として用いるこ とにより、従来の植物体を用いた実験系では困難と考えられる、不活性化現象の初期過 程を解析できることを示している。本実験系は今後、遺伝子の相同性に依存した遺伝子 の 不 活 性 化 現 象 の 研 究 の た め の モ デ ル 手 法 に な る と 期 待 さ れ る 。

(3)

学位論文審査の要旨 主査    教 授    内藤    哲 副査    教 授    冨田房男 副査    助教授   石川雅之

学 位 論 文 題 名

イネ培養細胞を用いた遺伝子の相同性に依存する      遺伝子の不活性化機構の研究

  本 論 文 は23図 、 引 用 文 献55を 含 む 和 文79ペ ー ジ か ら な り 、 別 に 参 考 論 文1編 が 添 付 さ れ て い る 。

  形 質 転 換 植 物 に お い て 、 導 入 遺 伝 子 の み が 、 あ る い は 、 導 入 遺 伝 子 お よ び こ れ と 高 い 相 同 性 を 持 つ 内 在 性 の 遺 伝 子 が 、 共 に 不 活 性 化 を 受 け る 現 象 が 知 ら れ て い る 。 後 者 は 、 遺 伝 子 の 相 同 性 に 依 存 し た 遺 伝 子 の 不 活 性 化 現 象 と 捉 え る こ と が で き る 。 こ の 現 象 は 、DNAの 構 造 変 化 を 伴 う も の で は な く 、 転 写 段 階 で の 調 節 あ る い は 転 写 後 の 調 節 に よ り 起 こ る と 考 え ら れ て い る 。 遺 伝 子 の 相 同 性 に 依 存 し た 遺 伝 子 の 不 活 性 化 現 象 は 、 植 物 の 遺 伝 子 発 現 調 節 機 構 と 深 く 関 わ っ て い る と 考 え ら れ 、 そ の 分 子 機 構 の 解 明 は 興 味 深 い 研 究 課 題 で あ る 。

  本 論 文 は 、 イ ネ の 培 養 細 胞 を 実 験 材 料 と し て 、 遺 伝 子 の 相 同 性 に 依 存 し た 不 活 性 化 現 象 の 分 子 機 構 の 研 究 を 行 っ た も の で あ る 。

  本 論 文 の 内 容 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。

1) 遺 伝 子 の 相 同 性 に 依 存 し た 遺 伝 子 の 不 活 性 化 現 象 の 解 析 の た め の 実 験 系 の 確 立   カ リ フ ラ ワ ー モ ザ イ ク ウ イ ル ス(CaMV)35Sプ ロ モ ー タ ー に レ ポ ー タ ー 遺 伝 子 と し てp‑グ ル ク 口 ニ ダ ー ゼ(GUS)の 構 造 遺 伝 子 を っ な い だ キ メ ラ 遺 伝 子 を 構 築 し て 、 イ ネ の 培 養 細 胞 で あ るOc細 胞 に 電 気 穿 孔 法 に よ っ て 導 入 し 、25株 の 形 質 転 換 細 胞 株 を 得 た 。 こ れ ら の 株 に つ い てGUS活 性 を 測 定 し た と こ ろ 、GUS夕 ン パ ク 質 高 発 現 細 胞 株 と 、 導 入 遺 伝 子 に 不 活 性 化 が 起 こ っ た と 考 え ら れ るGUSタ ン パ ク 質 低 発 現 株 に 分 類 す る こ と が で き た 。 低 発 現 細 胞 株 に お い て は 、 完 全 な 導 入 遺 伝 子 を 持 つ に も 関 わ ら ず 、GUS活 性 の 見 ら れ な い 細 胞 株 が 存 在 し た 。 低 発 現 細 胞 株 を 用 い た ノ ー ザ ン 解 析 に よ りGUS mRNAの 蓄 積 量 が 低 下 し て い る こ と 、 お よ びrun‑on assayに よ りmRNAの 蓄 積 低 下 が 転 写 後 調 節 に よ り 引 き 起 こ さ れ て い る こ と を 明 ら か に し た 。

2) 相 同 配 列 を も つDNAの 導 入 に よ る 遺 伝 子 の 不 活 性 化 の 誘 導

(4)

  GUS夕ンパク質高発現細胞株およぴOc細胞株を再度プロトプラスト化し、GUSプラス ミ ドDNAを再 導入して一 過的にGUS mRNA量を増加させた。この時、親株であるOc細 胞株では導入後48時間目までGUS活性が上昇するのに対して、高発現細胞株では24時 間目以降GUS活性の低下が観察された。一方、GUS遺伝子と相同性を持たない、ルシフ ェ ラーゼ(LUC)遺伝子を導 入したとき のLUC活性 の経時変化 には、親株と高発現細 胞株の間で顕著な差違は観察されなかった。このことから、相同配列を持つ遺伝子を 導入して一過的に発現させることにより、遺伝子の相同性に依存した遺伝子の不活性 化が誘導されたと判断された。

3)相同配列をもつRNAの導入による遺伝子の不活性化の誘導

  GUS夕ンパク 質高発現細 胞株に対し 、試験管内 で合成したGUS RNAあるいはLUC‑

GUSキメラRNAを導入して、GUS活性の経時変化を調べた。その結果、導入後数時間の うちにGUS活性の減少が観察された。ー方、GUS遺伝子と相同性を持たない、緑色螢光 タ ン パク 質(GFP)遺 伝 子のRNAあ る いはLUC‑GFPキメラRNAを導入した 時には、そ のようなGUS活性の低下は観察されなかった。

  さ ら に 、RNAを 導 入 し た プ 口 ト プ ラ ス ト か ら 抽 出 し た 全RNAを 用 いたRNase protection assayにより、GUS遺伝子と相同性を持つRNAをGUS夕ンノヾク質高発現細胞系 統に導入したときにのみ、導入RNAの特異的な分解が誘導されることを明らかにした。

  本論文により、培養細胞を用いた実験系において、遺伝子の相同性に依存した遺伝 子の不活性化現象が起こることを明らかにし、DNAおよびRNAの再導入による一過的 な不活性化現象の解析から、遺伝子の相同性に依存した遺伝子の不活性化現象は、相 同配列を持つRNAによって引き起こされると考えられた。導入遺伝子の不活性化の現 象は、従来、植物体を用いた実験系によって研究されてきたが、本論文で報告した培 養細胞を用いた実験系は、この現象の研究に新たな研究手法を導入するものである。

  近年、有用遺伝子の導入により作物の品質等を改善する分子育種が盛んに行われる ようになったが、導入遺伝子の不活性化は大きな問題となっている。本研究はこうし た分子育種を行う上での基礎研究としても重要なものである。よって審査員一同は、

菅 野達夫 が博士(農 学)の学位 を受けるに 十分な資格 を有するも のと認めた 。

参照

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