博 士 ( 農 学 ) 佐 々 木 克 友
学 位 論 文 題 名
植 物 ベ ル オ キ シ ダ ー ゼ の 病 傷 害 に 対 す る 発 現 機 構 の 解 析 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
病原 体の 感染 や傷 害は ,植 物を 含む 生物 全般 の生 命を 脅 かす ス卜 レス の一種で ある。
本研究は,過酸化水素を酸化 剤とする酸化還元反応を触媒する酵素class III植物ベルオキ シ ダー ゼ(POX; EC l.11.1.7)遺伝子の病傷害に対する発現機構を明らかにし,植物 の病傷 害 応 答 機 構 ( 病 傷 害 シ グ ナ ル 伝 達 機 構 ) の よ り 深 い 理 解 を め ざ し て 行 わ れ た 。
(1) 傷 害 誘 導 性 タ バ コ ベ ル オ キ シ ダ ー ゼtpoxN´ 遺伝 子の 器官 およ び組 織特 異的 発現 タ バコ 葉に おい てタ バコ モザ イク ウイ ルス 感染 なら び に傷 害処 理に より 発現が 誘導さ れ るP〇X遺 伝 子 ,0n州 ´ 遺 伝 子 の 傷 害 後 の 器 官特 異的 発現 をタ バコ の葉 ,茎 ,葉 柄お よ び 根 を 用 い て 調 べた 結果 ,茎 で最 も強 い発 現応 答が 見ら れた 。0鹹NJ遺 伝子 の茎 での 傷 害 誘 導 発 現 は 傷 害 後1時 間 か ら 認 め ら れ ,36時 間 後 を 最 大 に 少 な く と も54時間 後ま でそ の転 写産 物の 蓄積 が認 めら れた 。タ バコ の茎 を用 いたRNAゲルブロット解析に より,
ア鹹N´ 遺伝 子は 既知 の傷 害 シグ ナル 物質 およ び植 物ホルモン処理等に対して応答 を示さ ず, その 発現 誘導 は新 規の 傷害シグナル伝達経路を介することが示唆された。また ,種々 の阻害剤を用いた発現解析から,ゆD.洲´遺伝子の傷害誘導発現には,プロテイン キナー ゼ/ プロ テイ ンフ オス タタ ーゼ 活性 なら びに ぬnDvDタ ン パク 質合 成が 必要 である ことが 示 さ れ た 。 約2kbの ヶ 鹹N´ プ ロ モ ー タ ー を 用 い た ヶ 甜NJプ ロ モ ー タ ー : :GW形 質 転 換 タ バ コ 植 物 の 組 織 化 学 的 解 析 に よ り ,RNAゲル ブロ ット 解析 の結 果と 同 様, ケ鹹M遺 伝子 の茎 にお ける 顕著 な傷 害応答が示され,また,傷害により主として傷害部位な らびに 維管 東組 織特 異的 に発 現誘 導さ れる こと が示 され た。
(2)傷害誘導性 に関与するtpoxMプロモータ ー領域の特定
0D.xM遺伝 子が 新規 の傷 害 シグ ナル 伝達 系を 介し て発 現誘 導さ れる こと が示唆 された こ と か ら ,0甜M遺 伝子 の傷 害応 答に 関与 する プロ モー ター 領域 (cis領域 )を 限定 する 目的 で, 約2kbのヶ 誠N´プ ロ モー ター の削 り込 み解 析を 行っ た。 種々 の長 さのヶDxヘリ プロモーター(np2〜np7)::GUS形質転換タバコ植物の傷害応答性を調べた結果,ア鹹N|遺 伝子の傷害応答にはnp6〜np7領域(‐278〜−115bp)が重要であることが示された。np6〜 np7領 域を さら に削 り込 み(np6a,np6bお よびnp6c),タバコの茎を用いたボンバ ードメ ント法により解析したところ,np6a〜np6b領域(‐239〜−201bp)にァD.む〃遺伝子の転写 に 関 与 す る 領 域 の 存在 が示 唆さ れた 。ま た,np6〜np7領域 をさ らに4っに 分割 した 領域
(np61〜np64冫をそれぞれ4回連続した配列(np61〜np64x4)を用い,np61〜np64x4::GW 形質 転換 タバ コ植 物を 作成 し傷害応答を調べた結果,顕著な傷害応答性は示されな いもの
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の,np6a〜np6b領域を含むnp62領域(‑239〜ー191 bp)に強い転写活性が認められた。np62 領域には既知の傷害に関与するCIS領域は認められず,この領域にtpoむH遺伝子の転写 に関与する新規cis領域の存在が示唆された。
(3) tpoxrV1遺伝子発現に関与する転写因子の単離および解析
tpo,xM遺伝子の転写誘導に関与する転写因子の単離を目的とし,タバコの茎に傷害を 与えた゛30分ならびに2時間後の発現ライブラリーを作成し,np62x4配列をプローブと したy髄stワンハイブリッドスクリーニングを行った。その結果,DNA結合ドメインと し て 知 られ るAP2ド メ イ ンを 持 っタン パク質をコ ードする2種の新規cDNAが単離さ れた。これらのタンパク質をWRAFl(凹undーresponsiveAP21ikefactorl)およびWRAF2 と 命 名 した 。WRAF1な らび にWRAF2のGST融 合 タ ンパ ク 質 によ るゲル シフト解 析の 結 果 ,2種 のWRAFタ ン パク 質 は 共にnp62領 域に 対 す る結 合 性を 示し,珈vffmでの DNA結合活性を有することが明らかとなった。np62領域をさらに限定してグルシフト解 析を行ったところ,而タンパク質が結合するヶDxMプロモーター上のcis領域は,新規 cis領 域 であ るAAGAAAAlTTC配 列 であるこ とが示唆 された。こ の配列はnp5〜np6領 域(−546〜―279)にも存在し,AAGAAA」へn`TC配列を含む47bpの領域(434〜‐388)を 用 い て ゲル シ フト 解 析 を行 っ たと ころ,WRAFlなら びにWRAF2は共 にこの領 域に対 す る結 合活性を 示した。 朋MF´およ び贓川つ遺 伝子の発 現をRNAゲル ブロット 解析 に より調べ た結果, 傷害後1時間を最大に一過的に誘導されており,その誘導は似MM 遺伝子の発現誘導より迅速であった。タバコの茎を用いたボンバードメント法により WRAFlならびにWRAF2タンパク質のヶ°.む〃遺伝子の転写誘導活性を調べたところ,
WRAF1の みに転写 誘導活性 が認めら れた。こ れらの結果 ,ケ鹹M遺伝子の傷害誘導の 少 なくとも 一部は,WRAFlがァD.洲´プロモーター上のAAGAAAA冂`TC配列に結合す ることで実行されると考えられた。
(4)イモチ病菌誘導性のイネPOX遺伝子の発現解析
イ ネ に おけ るPOX遺 伝 子 の病 傷 害応答の解 析を目的 に,22種の イネPOX遺伝 子を 用いてイモチ病菌感染への応答を解析した。罹病性およぴ抵抗性イネの第8葉期の葉を 材 料とし ,イモチ 病菌感染 後の22 POX遺伝子 の発現誘 導をRNAゲル ブロット 解析に より調べた結果,10種のP〇X遺伝子で応答が認められた。これらの遺伝子は,罹病性 イネでは感染5日後に特に強い発現応答が認められ,一方,抵抗性イネでは感染初期に 罹病性より強い発現応答が認められる傾向が示された。また,イモチ病菌感染に対する発 現応答 パターン より6種類 に分類さ れた。22種POX遺 伝子のイモチ病菌感染に対する 発現応答とイネ染色体上での局在性には関連が見られなかった。イモチ病菌感染により誘 導され るイネPOX遺 伝子の器 官特異的 発現をRNAゲル ブロット解析により調べたとこ ろ,根,鞘葉,穂において,構成的な発現傾向が認められた。イモチ病菌感染応答性の10 種POX遺伝子のプロベナゾール,ジャスモン酸ならびに傷害に対する応答を調べたとこ ろ,イモチ病菌感染により誘導される共通項を持ちながらも,それぞれの分子種は多岐に わたる応答性を示した。POX遺伝子はイモチ病菌感染を含め,一つの刺激に対して複数 の分子種が応答し,発現の重複性が示された。これらのことから,イネのイモチ病菌感染 を含むス卜レス抵抗性に関してPOXの重要性が示唆された。
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学位論文審査の要旨 主 査 教授 松井博和 副 査 教授 横田 篤 副査 助教授 伊藤浩之 副 査 講師 曽根輝雄
学 位 論 文 題 名
植物ベルオキシダーゼの病傷害に対する発現機構の解析
本 論 文 は , 図49枚 , 表7枚 , 引 用 文 献163を 合 み ,6章 か ら な る 総 ベ ー ジ163の 和文論 文であ る。別に 参考論文5編 が添えら れてい る。
病原体 の感染 や傷害は ,植物 を含む生 物全般の 生命を 脅かすス トレス の一種である。本 研究は ,酸化 還元反応 を触媒す る酵素class III植 物ベルオキシダーゼ(POX; EC l.11.1.7) 遺伝子 の病傷 害に対す る発現機 構を明 らかにし ,植物 の病傷害 応答機 構(病傷害シグナル 伝達機 構)の より深い 理解をめ ざして 行われた 。
(1) 傷 害 誘 導 性 夕 バ コ ベ ル オ キ シ ダ ー ゼtpoxNI遺 伝 子の 器 官 およ び 組 織特 異 的 発現 夕バ コ 葉 にて タ バ コモ ザ イ ク ウイ ル ス 感染 なら びに傷害 処理に より発現 が誘導 される POX遺 伝 子 ,tpoxNJ遺伝 子の傷害 後の器 官特異的 発現を調 べた糸 古果,茎 で最も 強い発現 応 答 が見 ら れ た。0甜N´ 遺 伝 子 の転 写 産 物の 蓄 積 は, 茎 に おい て 傷 害後1時間か ら少な く と も54時 間 後 ま で 認 め ら れ た 。 り 甜M遺 伝 子 は, 既 知 の 防御 シ グ ナル 物 質 およ び 植 物ホ ルモン 処理等に 対して応 答を示 さず,そ の応答 は新規の 傷害シ グナル伝 達経路を介す る こ とが 示 唆 され た 。また ,種々の 阻害剤 を用いた 発現解析 から, ゆ甜N´遺伝 子の傷害 応答 には, プロテイ ンキナー ゼ/プ ロテイン フォス 夕夕ーゼ活性ならびに出門〇v〇夕ンパ ク 質 合成 が 必 要で あ る こと が 示 さ れた 。 約2kbの ァ〇 ぬ り プ口 モ ー ター を 用いたp甜N´ プロ モータ ー::G乙ぶ形 質転換体の組織化学的解析により,りDぬり遺伝子の応答と同様,
茎に おける 顕著な傷 害応答が 示され ,また, 傷害に より主と して傷 害部位な らびに維管束 組織特異的に発現誘導されることが示された。
(2)傷害誘導性に関与するァ鹹N´プロモーター領域の特定
りDxM遺 伝 子 の 傷 害 応 答 に 関 与 す る プ ロ モ ー タ ー 領 域 を 特 定 す る 目 的 で, 約2kbの ヶ 鹹Mプ 口 モ ータ ー の 削り 込 み 解 析を 行 っ た。 種 々 の長 さ の り鹹N´ プ口 モー ター(np2
〜np7)::G昭形質転換体の傷害応答性を調べた結果,np6〜np7領域(‐278〜−l15bp)が重 要で あるこ とが示さ れた。こ の領域 をさらに 削り込 み(np6a,np6bおよびnp6c) ,夕バコ の茎を用いたボンバードメント法により解析したところ,np6a〜np6b領域(‐239〜‐201bp) に りDxM遺 伝 子 の 転 写に 関 与 する 領 域 の存 在 が 示唆 さ れ た 。ま た ,np6〜np7領 域を4分
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割 し た 領 域(np61〜np64)を そ れ ぞ れ4回 連 続 し た 配 列(np61〜np64x4)を 用 い ,np61〜 np64x4::GUS形 質 転 換 体 を 作 成 し プロ モー ター 活性 を調 べた 結果 ,np6a〜np6b領 域を 含 むnp62領 域(‑239〜‑191 bp)に 強 い転 写活 性が 認め られ た。np62領域 には 既知 の スト レ ス 応 答に 関与 するCIS領 域は 認め られ ず, この 領域 にtpoxN´ 遺伝 子の 転写 に関 与 する 新 規cis領域の存在が示唆 された。
(3)ゆ¢ぬり遺伝子発 現に関与する転写因子の単離および解析
アD. ぬ′ ´遺 伝子の誘導に関与する転写因子の単離を目的とし,夕バ コの茎の傷害30分 な ら び に2時 間 後 の 発 現 ラ イ ブ ラ リ ー を 作 成 し ,np62x4配 列 をプ ロー ブと したyeastワ ン ハ イ ブ リ ッ ド ス ク リ ー こ ン グ を 行 っ た 。 そ の 結 果 ,DNA結 合 性 のAP2/ERF夕 ン バ ク 質 を コ ー ド す る2種 の 新 規cDNAが 単 離 さ れ , こ れ ら をWRAF1(盥ound‐responsive△P2 likefactor1) お よ びWRAF2と 命 名 し た 。2種 のWRAF‐GST融 合 夕 ン パ ク 質 を 作 成 し , こ れ ら を 用 い た ゲ ル シ フ ト 解 析 の 結 果 , 両WRAF夕 ン パ ク 質 共 にnp62領 域 に 対 す る 結 合 性 を 示 し , 加vff′Dで のDNA結 合活 性を 有す るこ とが 示さ れた 。np62領 域を さ らに 限 定し てゲ ルシ フト 解析 を行 った とこ ろ, 両夕 ン パク 質が 結合 する ゅ甜N´プ口モーター上 のcis領 域と して 新 規cis領 域( ‐226〜‐216) の存 在が 示唆 され た。この新規cis配列は np5〜np6領域(‐546〜 ‐279)内にも存在し,.この領域内の47bpの領域(ー434〜‐388)に 対 し て も2種 のWRAF共 に 結 合 活 性 を 示 し た 。 両 彫MF遺 伝 子 の 発 現 を 解 析 し た 結 果 , 傷 害 後1時 間 を 最 大 に 一 過 的 に 誘 導 さ れ て お り , ゆ 甜M遺 伝 子の 傷害 応答 より 迅 速で あ っ た 。 夕 バ コ の 茎 を 用 い た ポ ン バ ー ド メ ン ト 法 に よ り 両WRAF夕 ンバ ク質 の転 写 活性 を 解析したところ,WRAFlのみに転写活性が認められた。
(4)イモチ病菌誘導性 のイネ凡舛遺伝子の発現解析
イ ネP(W遺 伝 子 の 病 傷 害 応 答 の 解 析 を 目 的 に ,22種 のP(M遺 伝 子 を 用 い て イ モ チ 病 菌 感 染 へ の 応 答 を 解 析 し た 。 罹病 性お よび 抵抗 性 イネ の第8葉 期の 葉を 材料 と し, イ モ チ 病 菌 感 染 後 の 応 答 を 解 析 し た 結 果 ,22種 中 ,10種 の バW遺 伝 子 で 応 答 が 認 め ら れ た。 これ らの 遺伝 子は ,抵 抗性 イネ では 感染初期に罹病性より強い発現 応答が認められる 一 方 , 罹 病 性 イ ネ で の 感 染5日 後 に特 に強 い発 現応 答が 認め られ る傾 向が 示さ れ た。 ま た , イ モ チ 病 菌 感 染 に 対 す る 発 現 パ タ ー ン よ り6種 類 に 分 類 され た。22種P( 垪 遺伝 子 のイ モチ 病菌 感染 に対 する 応答 と, イネ 染色体上でのP()X遺伝子の局 在性には関連が見 ら れ なか った 。イ モチ 病 菌感 染に より 誘導 され るイ ネP〔W遺 伝子 の器 官特 異的 発 現を 解 析し たと ころ ,根 ,鞘 葉, 穂に おい て構 成的発現の傾向が認められた。 イモチ病菌感染応 答 性 の10種P(M遺 伝 子 の プ 口 ベ ナ ゾ ー ル , ジ ャ ス モ ン 酸 な らび に傷 害に 対す る 応答 を 調べ たと ころ ,イ モチ 病菌 感染 によ り誘 導される共通項を持ちながらも ,その応答に多様 性が 認め られ た。P〔冴 遺伝 子は イモ チ病 菌感 染に 対す る応 答を 含め, 一つの刺激に対し て複 数の 分子 種が 応答 する とい った ,応 答の重複性が示された。これら のことから,イネ の イ モ チ 病 菌 感 染 を 含 む ス ト レ ス 抵 抗 性 に 関 す るPOX活 性 の 重 要 性 が 示 唆 さ れ た 。 本研 究で は, 夕バ コ植 物に つい て未知の傷害シグナル伝達により誘導される遺伝子 の発 現 機 構 を 解 析 し , そ の プ ロ モー ター 領域 を特 定し た。 この 領域 に結 合す る2種 の新 規な 傷 害誘 導性 転写 因子 を単 離し ,新 規CIS領域 の存 在を 示し た。また,イネイモチ病菌 感染 な ら び に ス ト レ ス に 対 す る 発現 解析 によ り, 植物 のス トレ ス耐 性に おけ るPOX機能 の重 要 性が 示唆 され た。 これ らの 知見 は学術的な知見に限らず,植物に病傷害ストレス耐 性を ―1390−
与える応用面に関しても大いに貢献するものと判断される。
よって審査員 ̄同は,佐々木克友が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有する と認めた。
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