博 士 ( 農 学 ) 南 田 公 子
学 位 論 文 題 名
オ リ ゴ 糖 Difructose anhydride III (DFAm ) 摂 取 に お け る 腸 内 菌 叢 動 態 に 関 す る 研究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近年、プロバイオティクス、プレバイオティクスを含む機能性食品の研究開発が盛んである。すで に、応用菌学教室ではチコりのイヌリンをArthorobacter属のイヌラーゼIIの酵素を使って、DFA III の 大 量 生産 の 開 発 が進 ん で い た。DFA IHは 小腸 で の直接 作用と 大腸で の間接 的作用 のニっ の 機構でカルシウム吸収を促進する難消化性のオリゴ糖である。オリゴ糖ゆえに、bifidobacteriaを増 やす効果があると期待されて動物試験が行われたが、従来からの培養法では、bifidobacteriaを増 やす効果は見られず、レシチナーゼ陰性のclostridiaが増加したことが示されたが、詳しいことは不 明 であった 。その 後、分 子生物 学的手 法によ って、 培養法 では腸内 菌叢の8割近くが培養できな いことが明らかになった。そこで、培養可能と培養困難な細菌を含めた腸内菌叢全体を調べること が 可能な分 子生物 学的ツ ールを 開発・ 改良す る必要 があっ た。腸内 細菌に は未知 の細菌 も多い た め、既知 のみな らず未 知の細 菌のデ ータも 得られ ること から変性 剤濃度 勾配ゲ ル電気 泳動法 (DGGE法 ) を 選 択 し 、 主 要 な 腸 内 細 菌 が バ ン ド と し て 検 出 さ れ る よ う に 改 良 を 行 っ た 。 ま た、DFA IIIをラット に摂取させると、大腸発酵が起こり、有機酸の増加と盲腸内pH低下が観 察 されてい た。腸 内の酸 性化は 有害な 細菌の 増殖を抑えるほかに、宿主に悪影響を与える微生物 由来の酵素活性を阻害することによって、宿主に健康をもたらす。この悪影響を与える反応の中で、
食 の欧米化 に伴い 大腸癌 の発症率が増加していることから、7a‑脱水酸化反応に注目した。これは 腸 内でー次 胆汁酸 を、二 次胆汁 酸に変 換する 反応で 、この 二次胆汁 酸は大 腸癌の 誘導物 質とし て 疫学的調 査・動 物実験 により 研究さ れてい る。7a‑脱 水酸化 活性の 最適pHは7‑8で、加vitroで はpH 6.5以下で 活性が 下がる ことが 示され ている 。そこで 、DFA III摂 取によって、盲腸内pHが 6.5以下になることにより、7a‑脱水酸化反応が阻害され、二次胆汁酸生成が抑えられるのかどうか をラットやヒトで調べた。
上記のようなDFA IIIのプレバイオティクス効果を調べるほかに、加vitroでは発見することができ な かったDFA III資化性 細菌の 単離をDGGE法で得 られた 菌の情 報を元 に試みた。さらに、ラット やヒトで初めて見っけたDFA III資化性細菌とDFA IIIを同時に投与するシンバイオティクスによる 新たな効果についても調査した。
1.DGGE法を改 良した 結果、 ヒトを含めた動物の主要な腸内細菌といわれているグループは検 出できていた。
2.DGGEプロフイールによると、3%DFA III添加食群のラット盲腸内でClostridium lituseburens グ ループ に含ま れる細菌 とBacteroides acidofaciensと相 同性が 高い細 菌は減少して、B.
‑ 223―
vulgatus、Auniformis、Ruminococcus productusと相同性が高い細菌は増加していた。ヒトでは
(9〆 日,4週間、3〆日,2‑12ケ月摂取)、腸内菌叢の個人差が大きく、被験者全員で共通した 細 菌 の 増 減 は な か っ た 。 便 秘 傾 向の 被 験 者 ではBacteroides属 の バ ンド が 増 え てい た 。 3.3%DFA III添加 食群の ラット 盲腸内 容物か らDFA III資化性細菌足productus M‑2を単離し た 。 こ の株 はR productus ATCC 27340Tと16S rDNA全 長で98%の相同 性をも ち、主 に酢酸 を 生 成 し た。 リ ア ル タイ ムPCRの 定量 に よっ て、足productus M‑2はDFA III摂取1週 間以内 に 106 cells/g乾燥糞 からl08̲109 cells/g乾燥糞の定常に達したことが示された。また12ケ月問 DFA IIIを摂取したヒトからも、DFA III資化性細菌Ruminococcus sp.を数株単離した。これらの 株 はRuminococcus obeum ATCC 29174Tと16S rDNA全長で95%の相 同性があ り、主 に酢酸 を 生 成 し てい た 。 こ れら の 株 を 単離 し た被 験者のDGGEプロ フイー ルでは資 化性細 菌に相 当す るバンドが増加していた。
4.3%DFA HI添加 食群の ラット 盲腸内 容物で はpHが低 下して 、短鎖 脂肪酸量 、特に酢酸が増 加し ていた 。ヒト 試験で も糞便pHは減少 傾向が あり、 糞便中 の有機酸 は増加 傾向があった。
5.3%DFA III摂取によって、ラット糞中の二次胆汁酸の割合は減少して、糞中の胆汁酸の組成 が変 化した 。盲腸 内pHと二 次胆汁 酸の割 合は相 関があ り、pHが 下がる と、二 次胆汁酸の割合 も減 少して いた。 ヒトで も糞便 中の二 次胆汁 酸の割合 は減少 傾向が あり、 糞便pHと二次胆汁 酸の 割合は 相関が あった 。盲腸 内容物と糞便を使ったin vitroの試験でも、低pHによって二次 胆汁 酸生成 が阻害されていた。このことからDFA IIIを摂取することによって、腸内pHが低下し た結 果、7a‑脱水酸化活性が阻害されて、二次胆汁酸生成が減少することが示された。しかし、
ヒ ト 試 験の 場 合で は、腸 内pH低下 による7a‑脱水酸 化活性 阻害だ けではな く、二 次胆汁 酸生 産菌の減少による可能性も示唆された。
6.ラ ットに 、ヒト から単 離したDFA III資化 性細菌 足productus AHU1760を、一日当たり、R productus添 加食群 で、4.9x10' CFU、囂,productus十3%DFAIII添加食群で4.7x107 CFU、そ れぞれ与えたところ、盲腸内に生存していることをランダム増幅多型法で確認した。このことに より、兄ヴ,。.ぬ觚AHU1760は酸と酸素に弱いが、工夫次第によってはプロバイオティクスまた はシンバイオティクスも可能なことが示された。
7.DFAmを 投 与 す る こ と に よ る 腸内 の 酸 性 化はDFAm資 化 性 細 菌で あ るR卿 所DcD舛 珊 属 が DFAmか ら生成 する酢 酸が主な 要因で あった 。この ことに より、 今まで 注目さ れていなかった R嫺 所DcDcc珊 属 は 有 用 菌 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た。 ま た 、DFAmの働 き はDFAm資 化 性 細菌 足p・′ 。dむ知AHU1760と一 緒に摂 取する ことで 、腸内の有益な細菌であるlactobac川と bifldobacteriaの生菌数を増やす効果もあった。
プレバ イオテ ィクス は、大 腸にいる宿主の健康を改善する限られた細菌の増殖や活性を選択的 に刺激することによって、宿主に有益な影響を与える難消化性のものと定義されている。DFA IIIは 難 消 化 性 で あ り 、 腸 内 の 常 在 菌 で あ るRuminococcus属 のみ が 資 化 する こ と が 示さ れ た 。 Ruminococcus属 はDFA IIIを資 化して 、酢酸 を生成 し、腸内pHを低下させ、腸内環境をより健康 な菌叢 にかえ た。さ らに、 腸内pHの低下により、二次胆汁酸形成を阻害し、大腸癌の誘導物質で ある二次胆汁酸の割合を減らした。以上のことより、DFA IIIはミネラル吸収促進効果があり、大腸 癌 発 生 を 抑 制 す る 可 能 性 の あ る 新 し い プ レ バ イ オ テ ィ ク ス 素 材 と 考 え ら れ る 。 さらに 、DFA III資 化性細 菌R.productus AHU1760とDFAIIIの同時摂取は、ヒトに有益な細菌 であるbifidobacteriaとlactobacilliの生菌数が増加するなど腸内菌叢の改善にっながることも示唆 された。
‑ 224 ‑
学位論 文審査の要旨 主 査 教 授 浅 野 行 蔵 副 査 教 授 横 田 篤 副 査 教 授 原 博
副 査 名 誉 教 授 冨 田 房 男 ( 放 送 大 学 北 海 道 学 習 セ ン タ ー )
学 位 論 文 題 名
オリゴ糖 Difructose anhydride III (DFA lII )摂取に おけ る腸内 菌叢動態に関する研究
本 論 文 は 、7章 か ら な り 、 図39、 表11、 文 献128を 含 む 総 頁 数139の 日 本 語 論 文で ある 。 別 に 参 考 論 文1編 が 付 さ れ て い る 。
DFA IIIは 腸 管で ミネ ラル 吸収 を促 進す る難 消化 性の オリ ゴ糖 であ る。従来からの 培養法で は 、 摂取 時の 詳し い腸 内菌 叢動 態は 不明 であ っ た。 そこ で、 培養 可能 と培 養困 難な 細菌 を含 め た 腸 内 菌 叢 全 体 を 調 べ る こ と が で き る 変 性 剤 濃 度 勾 配 ゲ ル電 気泳 動法 (DGGE法 )を 改良 した 。
ま た 、DFA IIIを ラ ッ ト に 摂 取さ せる と、 大 腸発 酵が 起こ り、 有機 酸の 増加 と盲 腸内pH低 下 が 観察 され てい た。 腸管 の酸 性化 は有 害な 細 菌の 増殖 を抑 える ほか に、 宿主 に悪 影響 を与 え る 微生 物由 来の 酵素 活性 を阻 害す るこ とに よ って 、宿 主に 健康 をも たら す。 この 悪影 響を 与え る酵 素の 中で 、7a‑脱水 酸化 反応 に注 目し た。 これ は腸 内で 一次 胆汁酸を、二次 胆汁酸に 変 換 する 反応 で、 この 二次 胆汁 酸は 大腸 癌の 誘 導物 質と して 疫学 的調 査・ 動物 実験 によ り研 究 さ れ て い る 。7a‑脱 水 酸 化 活 性 の 最 適pHは7‑8で 、 加vitroで はpH 6.5以 下 で 活 性 が 下が る こ と が 示 さ れ て い る 。 そ こ で 、DFA III摂 取 に よ っ て 、 盲腸 内pHが6.5以下 にな るこ とに より 、7a‑脱 水 酸化 活性 が阻 害さ れ、 二次 胆汁 酸生 成が 抑え られ るの かどうかをラッ トやヒト で 調 べ た 。 さ ら に 、 加vitroで は 発 見 す る こ と が で き な か ったDFA III資 化性 細菌 の単 離を DGGE法 で 得 ら れ た 菌 の 情 報 を 元 に 試 み た 。 ま た 、 ラ ッ ト や ヒ ト で 初 め て 見 っ け たDFA III 資化 性細 菌とDFA IIIを 同時 に投 与す る効 果に つい ても 調べ た。
1.DGGE法 を 改 良 し た 結 果 、 ヒ トを 含め た動 物の 主要 な腸 内細 菌と い われ てい るグ ルー プ は 検 出 で き て い た 。
2.DGGEプロ フイ ール によ ると 、3%DFA III添 加食 群の ラッ ト盲 腸内 でClostr idium
―225―
lituseburensグループに含まれる細菌とBacteroides acido′ロciensと相同性が高い細菌は減 少して、B. vulgatus、B.uniformis、Ruminococcus productusと相同性が高い細菌は増加し ていた。ヒトでは(9g/日,4週間、3 gl日,2‑12ケ月摂取)、腸内菌叢の個人差が大きく、
被 験 者全 員 で 共通 した 細菌の増 減はな かった。 便秘傾向 の被験 者ではBacteroidis属の バ ンドが増えていた。
3.3%DFA III添加食群 のラッ ト盲腸内 容物か らDFAIII資化 性細菌R.p′DぬcfHJM‐2を単離 し た。こ の株は主に酢酸を生成した。リアルタイムPCRの定量によって、R.p′DぬcfMぷM‐2 はDFAIII摂 取1週間 以 内 に106から108.109cens/g乾 燥 糞の 定 常 に達 し た ことが 示され た 。 ま た12ケ 月 間DFAmを 摂 取 し た ヒ ト か ら も 、DFAm資化 性 細 菌R甜 所 所DcDcc甜ssp. を 数株単 離した。 これら の株も主 に酢酸を 生成し ていた。
4.3%DFA III添 加 食群のラ ット盲腸 内容物 ではpHが低 下して 、短鎖脂 肪酸量 、特に酢 酸が 増 加 し て いた 。 ヒ ト試 験 で も糞 便pHは 減 少 傾 向が あ り 、糞 便 中 の有 機 酸 は増 加 傾 向が あ っ た 。
5.3%DFA III摂 取 に よって、 ラット糞 中の二 次胆汁酸 の割合 は減少し て、一 次胆汁酸 が増 加 し て い た 。 盲 腸内pHと二 次 胆 汁酸 の 割 合は 相 関 が あり 、pHが 下 が ると 、 二 次胆 汁 酸 の 割 合 は減 少 し てい た 。 ヒ トで も 糞 便中 の 二 次胆汁酸 の割合 は減少傾 向があ り、糞便pH と 二 次 胆汁 酸 の 割合 は 相 関 があ っ た 。盲 腸 内 容物と糞 便を使 ったin vitroの 試験でも 低 pHに よっ て 二 次胆 汁 酸 生 成が 阻 害 され て い た。 こ の こと か らDFA IIIを 摂取 すること に よ っ て 、腸 内pHが 低 下 し た結 果 、7a‑脱 水酸 化 活 性が 阻 害 され て 、 二次 胆 汁酸生 成が減 少 す る こ と が 示 され た 。 しか し 、 ヒト 試 験 の場 合 で は 、腸 内pH低 下 に よる 酵 素 活性 阻 害 だ け で は な く 、 二 次 胆 汁 酸 生 産 菌 の 減 少 に よ る 可 能 性 も 示 唆 さ れ た 。
6.ラッ トに、 ヒトから 単離し たDFAIII資化 性細菌R.p′Dぬcf ぷAHU1760を、一日当たり、
R.prDぬcfw5添加食群で、4.9x107CFU、R.p′Dぬcf甜ぷ十3%DFAIII添加食群で4.7x107CFU、 そ れぞ れ 与 えた と こ ろ 、盲 腸 内 に生 存 している ことを ランダム 増幅多 型法で確 認した。
こ のこ と に より、R,prDd甜cf甜sAHU1760はプ ロバイ オティク スまた はシンバ イオテ ィク ス が 可 能 な こ と が 示 さ れ た 。 ま た 、DFAmとDFAIII資 化 性 細 菌R.prDぬcf JAHU1760 を同時摂取することで、lactobac川iとbifldobacteriaの生菌数を増加させる効果もあった。
以上 の こ とよ り 、DFA IIIはミネ ラル吸 収促進効 果があ り、大腸 癌発生を 抑制す る可能性 の ある 新しい プレバイ オティ クス素材 と考えられる。さらに、DFAIII資化性細菌R.p′〇d甜cf甜s AHU1760とDFAIIIの 同時 摂 取 は、 ヒ ト に有 益 な 細菌 であるbindobacteriaとlactobacilliの生 菌数 が増加 するなど 腸内菌 叢の改善 にっなが ること も示唆さ れた。
本 研 究 で は 、DFA III摂 取 に お け る腸 内 菌 叢動 態 を 調べ る た めにDGGE法 を 改 良し 、 培 養 法 で は不 明 だ った 摂 取 時 の腸 内 菌 叢の 変 化に ついて、 ラット とヒトで 明らか にした。 また、
DFA III資化性 細菌Rumz門 〇cDcc ぷ属 を世界 で初めて 単離し、摂取時における二次胆汁酸減少 等 の 有益 な 効 果、DFAIIIとDF・A川資 化 性 細菌 の 同 時投 与 に よる 効 果 等も明 らかにし た。こ
‑ 226―
のような多くの新知見を得ており、学術的並びに実用的に高く評価される。よって審査員一 同は、 南田公子 が博士( 農学)の 学位を受 けるのに十 分な資格を有するものと認めた。
‑ 227ー