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火花点火式ガソリンエンジンの ノック予測計算手法に関する研究

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火花点火式ガソリンエンジンの ノック予測計算手法に関する研究

A Study on Numerical Calculation Methods for Knock in Spark Ignition Gasoline Engines

2007 年 2 月

中間 健二郎

(2)

目 次

第1章 序 論

1.1 はじめに 1

1.2 従来の研究 5

1.2.1 ノックに関する従来研究 5

1.2.2 ノック予測計算の従来研究 9

1.3 本研究の目的 12

1.4 本論文の構成 13

第1章 参考文献 15

第2章 基礎モデルの検討

2.1 緒 論 21

2.2 流れ場のモデリング 26

2.2.1 流れ場の支配方程式 26

2.2.2 時間平均量の支配方程式 27

2.2.3 乱流モデル 29

2.3 乱流燃焼のモデリング 31

2.3.1 Flameletモデル 31

2.3.2 火炎面積密度Σと火炎の存在確率γ の関係 35

2.3.3 乱流歪み速度が火炎伝播速度に与える影響の考慮 36

2.4 自着火のモデリング 38

2.4.1 Shell自着火モデル 38

2.4.2 反応速度 40

2.4.3 Shellモデルの多次元への拡張 42

2.4.4 熱炎反応モデル 43

2.4.5 自着火モデルの発熱量の取り扱い 44

2.5 各種モデルの計算精度検証 45

2.5.1 可視化エンジン実験装置 45

(3)

2.5.2 単気筒エンジン実験装置 48

2.5.3 PIV実験および燃焼可視化実験 50

2.5.4 エンジン諸元 52

2.5.5 計算手法および計算メッシュ 54

2.5.6 流れ場の計算精度検証 57

2.5.7 火炎伝播挙動の計算精度検証 66

2.5.8 燃焼速度の計算精度検証 75

2.5.9 着火遅れ時間の計算精度検証 81

2.6 まとめ 87

第2章 参考文献 88

第3章 ノック予測計算手法の開発

3.1 緒 論 92

3.2 乱流燃焼モデルと簡易化学動力学モデルの連成手法 93 3.3 ノック予測計算精度の検証 97

3.3.1 ノック発生位置の可視化計測 97

3.3.2 エンジン諸元 99

3.3.3 計算条件および初期条件 100

3.3.4 ノック発生位置の予測計算精度の検証 101

3.3.5 ノック発生時期の予測計算精度の検証 110

3.4 まとめ 114

第3章 参考文献 115

第4章 壁法則の改良によるノック予測精度の向上

4.1 緒 論 116

4.2 温度壁法則の改良 117

4.2.1 壁法則の問題点と改良のねらい 117

4.2.2 瞬時熱流束測定装置 119

4.2.3 壁法則の基礎方程式 125

4.2.4 定常,非圧縮,非反応流れにおける壁法則とその問題点 126

(4)

4.2.5 圧縮性および化学反応流れの考慮 129

4.2.6 非定常性の考慮 131

4.2.7 各現象の考慮が熱流束に与える影響 132

4.2.8 壁法則が未燃ガス温度およびノック発生時期に及ぼす影響 138

4.3 まとめ 140

第4章 参考文献 141

第5章 Shellモデルの改良によるノック予測精度の向上

5.1 緒 論 142

5.2 Shellモデル反応速度定数の改良 143

5.2.1 平均温度により最適化されたモデルパラメータの問題 143

5.2.2 Shellモデル反応速度定数の改良 145

5.3 ガソリン代替機構によるガソリン着火遅れ時間の予測計算 146

5.3.1 PRF用Shellモデルパラメータの問題点 146

5.3.2 ガソリン着火遅れ時間の計測 149

5.3.3 ガソリン代替反応機構 152

5.3.4 ガソリン代替反応機構の計算精度検証 153

5.4 ガソリン用Shellモデルパラメータの最適化 161

5.5 まとめ 167

第5章 参考文献 168

第6章 ノック予測計算を用いたノック抑制手法の検討

6.1 緒 論 171

6.2 ノック発生位置の予測計算 172

6.3 壁面温度がノックに及ぼす影響 177

6.3.1 ノック発生時期の予測計算 177

6.3.2 実機による検証実験 183

6.4 壁面温度分布がノックに及ぼす影響 191

6.4.1 燃焼室壁面温度分布の解析 191

6.4.2 燃焼室壁面温度分布がノックに与える影響の解析 196

(5)

6.4.3 熱流体解析によるヘッドガスケット形状の検討 201

6.4.4 壁面温度分布の改善によるノック抑制効果の検証 207

6.5 まとめ 215

第6章 参考文献 217

第7章 結 論

7.1 結 論 219

7.2 今後の研究の方向性 223

第7章 参考文献 226

謝 辞 228

研究業績 229

(6)

1 章 序 論

1.1 はじめに

内燃機関の歴史は1876年Nicolaus Ottoによる火花点火機関の成功に端を発する.それ以 来,燃料の持つ熱化学エネルギを動力に変換する内燃機関は交通機関の原動機としての主 役を担ってきた.特に,乗用車用として広く用いられているガソリンエンジンは,我々の 重要な動力源としての役割を果している.このような内燃機関を動力源とする自動車の保 有台数は年々増加し,2005年では全世界において 8億台に達するまでになった(1).2020年 には12億台に達するという予測もされており(2),内燃機関の重要性はますます増大すると いえる.しかしながら一方で,自動車の増加は二酸化炭素(CO2)の排出量や窒素酸化物

(NOx),炭化水素(HC),一酸化炭素(CO)などの有害排出ガス量の増加を招き,地球温 暖化現象や局所的な大気環境汚染を引き起こす主たる要因にもなっている.また,化石燃 料の大量消費はその限りある天然資源の枯渇問題をも顕在化させている.将来にわたり 我々の社会および環境を持続するためにも,内燃機関の熱効率向上を柱とした環境負荷低 減技術への取り組みを続けていく必要がある.

自動車の多くを占める乗用車用内燃機関の構成比率に着目すると,図1.1 に示すように,

2005年では日本を含むアジア地域において車両生産台数の約80%(日本国内は96%),欧州

(WEU: Western European Union)において約45%,北米(NAFTA: North American Free Trade

Agreement)において約95%,全世界においてもその74%が火花点火式のガソリンエンジン

である(1)(3).また,図1.2 で示されるように,性能面やコスト面から考えて総合コストパフ

ォーマンスに優れるガソリンエンジンは,将来においても有望な動力源のひとつとして考 えられている(4).このため,ガソリンエンジンの環境負荷低減に対する技術開発の取り組み は,今後さらに重要になると考えられる.

ガソリンエンジンの環境負荷低減技術に着目すると,図1.3に示されるように,筒内直噴 による成層燃焼技術(5)-(10),可変圧縮機構(11)(12)や可変動弁機構(13)(14)などの可変機構技術,自

着火燃焼(15)-(19)に代表される新燃焼技術およびエンジンの高圧縮比化技術に代表されるノッ

ク抑制技術(20)-(26)などの進展が今後必要とされている.中でもノックの抑制については,ガ ソリンエンジンの発明直後から宿命的ともいえる関わり合いを持ち続けて今日に至ってい る.同一圧縮比において,サイクル論的にはディーゼルエンジンのサバティサイクルを上

(7)

回るガソリンエンジンのオットーサイクルが,実質的にサバティサイクルを超えることが できないのは,このノックにより圧縮比を向上できないことが原因であり,ガソリンエン ジンの熱効率や比出力を向上させるためには避けては通れない大きな課題である.

ノックの現象については,一世紀以上にわたる極めて多くの研究によってその輪郭が明 らかにされつつあり,エンジン設計に際しても経験的とはいえ,これまでの知見が大いに 役立てられている.しかしながら,末端ガス中の前炎反応から自着火に至る過程の詳細に ついては,その前段の火炎伝播の影響や微少擾乱の影響,化学反応論をはじめとして未解 明な点が多い.また,自着火にともなう衝撃波の発生やガス振動の詳細な機構,さらには 燃焼室壁面への熱伝達に及ぼすそれらの影響などについては,理論的にはもちろん経験的 にさえ十分明らかになっていない.ノック抑制技術をさらに進展させるためにも,各種状 態量の詳細な計測によるノック発生機構の解明が求められている.

一方で,性能向上の著しい計算機を用いて数値流体力学的な側面から現象の把握を行う ことのできる数値解析手法の開発が進められており,計測が困難なノック現象やノックの 要因と考えられる末端ガスの温度履歴や化学種濃度の局所瞬時値を解析する試みがなされ ている(23).計測によるノック現象の把握に加え,数値流体解析の側面からノック現象を捉 えることは,その抑制手法を検討する上で有用である.このため,ノック予測計算手法の 開発はノック原因究明の鍵を握るものと考えられる.

そこで本研究では,計算モデルの検討と実験結果との比較による計算精度の詳細な検証 により,多次元モデルにおけるガソリンエンジンのノック予測計算手法の開発を行うとと もに,開発した手法と実験により燃焼室内ノック現象の解析とノック抑制手法の検討を行 うことで,その手法の有効性を明らかにすることを目的とする.

(8)

ASIA WEU NAFTA WORLD 0

20 40 60 80 100

Market penetration %

Gasoline Diesel Others

Figure 1.1: World market trend for passenger vehicle powertrain in 2005(1)(3). (Japan is included in Asian market.)

2000 2004 2008 2012 2016 2020 0

20 40 60 80 100

Year

Market penetration %

Gasoline Diesel Others

Figure 1.2: Passenger vehicle powertrain technology trends(4). (Forecast for Japan market.)

(9)

E/G Down sizing + Turbo charge VVT - Cam Phaser

Mechanical VVA Cylinder De-activation

MPI Stoichiometric MPI Lean burn

HCCI

2st/4st Switching DI Homogeneous

DI Stratified

EM/EH Valves

Lean boost DI High compression ratio

1995 2000 2005 2010 2015

E/G Down sizing + Turbo charge VVT - Cam Phaser

Mechanical VVA Cylinder De-activation

MPI Stoichiometric MPI Lean burn

HCCI

2st/4st Switching DI Homogeneous

DI Stratified

EM/EH Valves

Lean boost DI High compression ratio

1995 2000 2005 2010 2015

Figure 1.3: Gasoline engine technology roadmap(4). (Range of options for future gasoline powertrains.)

(10)

1.2 従来の研究

1.2.1 ノックに関する従来研究

火花点火機関のノックは熱効率や比出力の向上を抑制する現象として知られている.す なわち,ある限界以上に圧縮比を高めたり,吸気圧力を増したり,点火時期を進角したり すると,図1.4のように燃焼末期に急激な圧力上昇とそれにともなう圧力振動を生じ,機関 の構成部品を介して共鳴音を発生するとともに,燃焼室周りの過熱をもたらす現象である.

強いノックは出力を低下させるだけでなく,機関の損傷ももたらす(図 1.5).なお,ノッ クの名称は,機関の構成部品を介して発生する共鳴音,いわゆるノイズに由来している.

1910年頃には燃料によって耐ノック性に違いがあることが知られ,1920年にはその評価 のための可変圧縮比試験機関がRicardoによって作られている.C.F.Ketteringらによりアン チノック剤としてTetraethyl leadが見つけ出されたのもほぼ同じ1921年である.また,1926

年にはG.Edgarにより耐ノック性能の指標としてn-heptaneとiso-octaneを利用するオクタン

価の概念が提案されている.その頃から火花点火機関の燃焼過程に関する研究も本格化し,

それと同時にノック現象解明やその抑制のための研究も行われるようになった.

ノック発生過程の解析に古くから用いられている有力な手法の一つに燃焼室内の高速度 写真撮影(27)がある.ノックの発生に至るまでの燃焼過程は,非常に高速で推移する現象で あり,高速度での写真撮影を行うことではじめてノック現象をとらえることが可能となる.

火炎伝播の高速度写真撮影によると,その末期に未燃の燃焼ガスがほぼ瞬間的に燃焼する ことから,ピストンの往復運動と火炎伝播によってほぼ断熱的に圧縮されて高温高圧とな った末端ガスが極めて短時間に燃焼し,そのために燃焼室内に空間的な圧力の非平衡を生 じてガス振動を引き起こすことがノックの正体であり,燃焼室の過熱や出力の低下はガス 振動による熱伝達の促進の結果であると考えられた(28).末端ガスの急激な燃焼については,

前炎反応の存在が認められることから自着火が原因と考えられたが,1940 年代に入って高 速度シュリーレン写真撮影より,高速で伝播する波面の存在が Miller ら(29)によって認めら れ,デトネーションの可能性も示唆された(30)

末端ガス中での前炎反応の計測が進み(31),1950 年代には混合気の自着火に着目した多く の研究が行われ,活性化エネルギが異なる冷炎支配域,負の温度係数域,青炎支配域など 温度域の挙動を中心に,着火遅れに及ぼす緒因子の解明が進められた(32)(33).また,ノック を回避するためには末端ガスが自着火を起こす前に火炎伝播を完了させればよいという考 えから,ノックに対する機関の運転因子や設計因子についての詳細な研究も行われ(34)(35)

(11)

乱れによる火炎伝播加速のノック抑制効果なども確かめられた(36)

1960年代も自着火に至る反応の研究(37)が進められ多くの知見が集積され,Shell Thornton

Research CenterのAllfeckらを中心に,ノックの原因は末端ガスの自着火が原因であるとい

う考えを裏付ける研究が多くなされた(38)(39).1970年代初頭は大気汚染物質の生成機構の解 明とその抑制に研究が集中したこともあって,ノックの研究は停滞したが,1970年代後半 からエネルギ問題の深刻化とともに再び注目されることとなる.

レーザの普及と共に,1980年代からはレーザを光源としたシュリーレン法などの間接撮 影によるノック発生過程の詳細な観察も行われるようになり,実機ないし実機に近い装置 での高速度シュリーレン撮影による末端ガス挙動や衝撃波の発生状況なども調べられた

(40)-(42).さらに,高速度シャドウグラフ写真撮影と燃焼室内圧力をベースにした熱力学的な

手法を組み合わせることで,自着火により燃焼する混合気の量や燃焼率を定量的に求める 方法(43)やサイクル毎の自着火現象の把握(44)などが試みられた.

ノックの定量的な解析のためには,末端ガスの温度履歴や化学種濃度の局所瞬時値計測 が求められる.このため,1990年代はCARS(Coherent Antistokes Raman Spectroscopy)法や レーザ干渉法などの非接触計測法を用いた未燃ガス温度分布の計測などが盛んに行わるよ

うになる(45)-(47).しかしながら,非接触計測法には計測精度の問題あり,高精度の結果を得

るためには,さらなる手法の改良が必要である.このため,二線式熱電対などによる直接 接触計測法を用いた瞬間温度計測(48)も試みられているものの,未だにその計測は困難であ り,今後新しい計測手法の開発が望まれる.

以上がノックに関する従来研究であり,高速度写真撮影を中心とした研究から,ノック 発生過程について定性的にはかなり明らからになってきたといえる.しかしながら,末端 ガス中の前炎反応から自着火に至る過程の詳細については,その前段の火炎伝播の影響や 化学反応面を始めとして未だ不明確な点が多く,また,ノックの直接の要因として考えら れている末端ガスの温度履歴や温度分布,化学種濃度履歴やその分布の影響などについて も定量的には明らかになっていない.これらの影響を明らかにし,ノック抑制方法を検討 するためには,これまでに述べた計測だけではなく,次節で述べる数値流体解析の側面か らノック現象を捉えることが求められている.

(12)

-60 -30 0 30 60 0

2000 4000 6000

Pressure kPa

Crank angle deg. ATDC Exp. 4000 rpm WOT

(a) non-knocking condition

-60 -30 0 30 60

0 2000 4000 6000 8000

Pressure kPa

Crank angle deg. ATDC Exp. 4000 rpm WOT

(b) knocking condition

Figure 1.4: Examples of knocking and non-knocking pressure trace on test engine which was used in this study. (Experiment was conducted under the condition of 4000 rpm, WOT and A/F= 14.5.)

(13)

(a) (b)

(c) (d)

Figure 1.5: Examples of component damage from abnormal engine combustion.(27) (a) Piston holing by preignition. (b) Piston crown erosion after 10 hours of high-speed knocking. (c) Cylinder head gasket splitting failure due to heavy knock. (d) Erosion of aluminum cylinder head along the top of the cylinder liner due to heavy knock.

(14)

1.2.2 ノック予測計算の従来研究

計算機の高性能化にともない,数値流体力学的な側面からエンジンシリンダ内の現象の 把握を行う試みが数多くなされている.ノック現象に関する研究についても,炭化水素系 燃料の化学動力学に関するデータの蓄積により,自着火過程の反応モデルの研究が進めら れ,ノック時の末端ガスの挙動を解析する試みがなされている.

これまでの研究の多くは,冷炎発現までの誘導期間τ1や青炎発現までの誘導期間τ2といっ た着火遅れ時間を正確に再現可能な簡易化学反応動力学モデルの開発に注がれてきた.

1950 年代に末端ガス中での前炎反応の計測が進んだことで,混合気の自着火モデルに着目 した研究が行われるようになった.Livengoodらは火花点火機関の末端ガスの温度履歴を超 音波法で計測し,急速圧縮装置を用いて求めた着火遅れτ のアレニウス型表示式によりノッ ク発生時期を予測する予測式,いわゆるLivengood-Wu積分を提案した(49).着火遅れτ のア レニウス型表示式に入れる定数が的確であれば,この予測式は十分実用に耐えるとされ,

現在においても広く使用されている(50).Moscow State UniversityのSemenovにより炭化水素 の低温酸化反応機構(51)が提案されたのもこの時期であり,この功績によりSemenovは1956 年にノーベル化学賞を受賞している.

1970年代からは,Shell Thornton Research CenterのHalsteadらを中心に簡易化学動力学モ デルに関する研究が精力的に行われ(52)(53),アルカン燃料の低温酸化過程を再現可能なモデ ルとして有名なShellモデル(54)が提案された.Shellモデルは実在する多くの化学種を一般化 された数種類の化学種で代替することで低温酸化反応を再現するモデルであり,幅広い温 度域と A/F の条件下において実験の着火遅れを正確に再現することが確かめられている.

このため,ノックモデルとしてだけではなくディーゼル着火や圧縮自着火燃焼のモデルと して現在も広く用いられている(55)

1980年代は,Shellモデルをベースにした研究が続く一方(56),一般的な酸化反応機構から

経験則にもとづき簡略化を行う研究がなされるようになった.Hu らは Primary Reference Fuel(PRF:n-heptaneとiso-octaneの混合燃料)の着火過程について反応数13,素反応数18 からなる簡略化学動力学モデルを提案した(57).このモデルは以降に提案される多くの炭化 水素系の簡易化学動力学モデルのベースとして使用されている.

計測精度と計算機性能の向上とともに1990年代以降からは燃料の酸化過程を正確に再現 可能な詳細化学動力学モデルに注目が集まるようになった.米国DOEのLawrence Livermore

National Laboratoryのグループを中心に,さまざまな炭化水素燃料の詳細化学動力学モデル

(15)

が公表されている(58)(59).ガソリンエンジンの新燃焼技術として予混合圧縮自着火燃焼が注 目されだしたのもこの頃で,予混合圧縮自着火エンジンの着火制御方法を検討するため,

化学動力学モデルが盛んに利用されるようになる.このような背景の下,計算負荷を低減 するために,詳細化学動力学モデルから重要な反応種や素反応を感度解析により自動的に 抽出して簡易化学動力学モデルを構築する研究も数多く行われるようになる(60) (61).一方で,

炭化水素燃料の詳細化学動力学モデルが明らかになるにしたがい,これらの燃料を組み合 わせてガソリンの着火過程を予測する試みも行われるようになる.Oginkらは感度解析によ るPRFの簡易化学動力学モデルにaromaticsやnaphthenesに関する反応を考慮することでガ ソリンの着火過程を再現可能なモデルを提案している(62)

以上のように,化学的な知見をもとに自着火過程を予測可能なモデルは数多く提案され おり,今後もさまざまな炭化水素燃料の詳細化学動力学モデルや簡易モデル,またそれら を利用した混合燃料のモデルの開発が続けられていくと考えられる.

一方,ノック予測計算手法に目を向けると,その多くが 0 次元計算に前述の化学動力学 モデルを適用したものである.1960年代から1980年代にかけてのノック予測計算は,その ほとんどが0 次元計算を主体としたものである(49)(52)-(54)(56)(57)(63).1990 年代からは,実験に おける着火遅れ時期を正確に予測するために燃焼室内をいくつかの領域に分割して計算を 行う 0 次元の多領域計算の試みも多数行われた(64).近年においてもノック発生時期予測や ノック強度予測を対象とした計算が0次元で行われている(65)(66)

0次元計算による化学動力学計算の利点は計算負荷が低いということにある.しかしなが ら一方で,流れや乱れがノックに与える影響については全く考慮されていないという根本 的な問題を含んでいる.このためノックの概念を検討するためには使用はできるものの,

エンジン設計においてノック特性に影響する主要因の明確化や効果的な抑制手法を検討す るためのツールとしての使用は困難である.また,2領域モデルも多領域モデルもノック発 生時期の予測精度を向上させるために,多くの実験との相関を必要とすることは避けられ ず,モデルとして未成熟であると言わざるを得ない.

一方,このような観点からノック計算を多次元へ拡張する試みも行われている.1985 年

にはSchäpertönsらにより2次元モデルでのノック計算が行われた(67).Shellモデルと流体計

算コードKIVA-IIを組み合わせることによりノック現象を解析し,火炎伝播とノック発生位

置の関係やノック発生後の衝撃波の伝播などを解析することに成功している.それ以降,

ノック計算の多次元化が進み(23)(68),火炎伝播により発生する微小擾乱がノックに与える影

(16)

響を計算により明らかにするなどの研究も行われてきた(69)

最近では,詳細化学動力学計算を利用してあらかじめ着火遅れ時間のテーブルデータを 作成した上で,Livengwood-Wu 積分を用いて燃焼室内のノック発生位置の予測を行う研究

(70)なども行われている.また,西脇ら(71)(72)は火花点火機関におけるノック現象の解析およ び燃焼室内でランダムに発生するノック開始位置予測の新しい試みとして,LES (Large Eddy Simulation)と簡易化学動力学モデルを組み合わせる研究を行っている.

しかしながら,いずれの手法においてもエンジン開発においてノック特性に影響する主 要因の明確化や効果的な抑制手法を検討するためのツールとなるまでには至っていないの が現状である.この要因として,ノック前段における流れ場や乱流火炎伝播の計算精度に 問題があること,壁面熱損失の影響が正確に考慮されていないこと,燃料の着火遅れを正 確に予測できてないこと,またモデルの多くが低温酸化反応までを対象としており,ノッ ク発生後の熱炎反応を正確に記述できていないこととなどが挙げられる.

数値流体力学の側面からノック現象の理解やノック抑制技術の検討を行うためには,こ れらの課題を克服し,ノックの発生位置やその発生時期を正確に予測できる手法を構築す る必要があるといえる.

(17)

1.3 本研究の目的

ガソリンエンジンの非燃焼場および燃焼場を対象に,数値解析と実験的解析を行い,両 者の比較検討から,エンジン開発においてノック特性に影響する主要因の明確化や効果的 なノック抑制手法を検討するためのツールとして使用可能な 3 次元ノック予測計算手法を 構築することを目的とする.研究は以下の手順で行う.

(1) レイノルズ平均ナビエストークス方程式(RANS)をベースに,3 次元ノック予測計算 手法を構築するのに妥当な流れ,乱流燃焼,自着火の数値計算モデルの選定を行う.

(2) k-ε 乱流モデルに対して,散逸率ε の方程式に高速流における圧縮性を考慮した生成項を 付加することと,モデル定数を修正することで,エンジンシリンダ内の複雑な流れを予 測できるか可視化実験との比較により明らかにする.

(3) 乱流混合特性時間に律速される予混合乱流火炎伝播モデルで問題になる壁面近傍での 局所熱発生率の増大を抑制するためにFlameletモデルの改良を行い,可視化実験および 燃焼解析実験との比較によりモデルの妥当性を明らかにする.

(4) Shell モデルと一段熱炎反応モデルを組み合わせた自着火モデルの構築と多次元へ拡張

するための改良を行い,着火遅れ時間計測結果との比較によりモデルの妥当性を明らか にする.

(5) 改良 Flamelet モデルと改良自着火モデルを組み合わせてノック発生位置および時期を

予測する手法を提案し,ノック発生位置の可視化結果および燃焼解析結果と比較を行う ことでモデルの妥当性と問題点について明らかにする.

(6) 小型高速熱流束センサによる瞬時熱流束計測結果との比較により熱伝達モデルの改良 を行い,ノック予測精度の向上を図る.

(7) 衝撃波管におけるガソリンの着火遅れ時間の計測結果およびガソリン代替反応機構を 用いた計算結果との比較により,Shell モデル反応速度定数の改良とモデルパラメータ の最適化を行い,ノック予測精度の向上を図る.

(8) 構築した3次元ノック予測計算手法をエンジン冷却系の改良に適用し,エンジン開発ツ ールとしての有効性を明らかにする.

本研究は,乱流火炎伝播モデルや壁面熱伝達モデル,自着火モデルの問題点を解決し,

ノック発生からその後の挙動までの計算を可能とする手法を提示している点と可視化手法 を用いて流れ場からノック発生位置に至るまで計算モデルの詳細な検討を行っているとい う点で独創性の高い研究となっている.

(18)

1.4 本論文の構成

本論文は以下の7章にて構成されている.

第1章は序論であり,研究の背景と目的,従来の研究ならびに解決すべき問題点を示す.

また,研究の方法と概要について述べ,本論文の意義や独創性を明らかにしている.

第 2 章では,可視化結果および燃焼解析結果との比較によりノック予測に用いる数値計 算モデルの予測精度の検証を行っている.ノック予測計算にあたっては,流れ,乱流燃焼,

自着火を正確に記述する数値計算モデルが必要となる.まず,乱流場の計算モデルとして 使用したk-ε 乱流モデルとその修正内容について述べ,可視化結果との比較によりモデルの 妥当性について説明している.ついで,予混合火炎伝播モデルとして選定した Flamelet モ デルの問題点とその改良方法について述べ,可視化結果および燃焼解析結果との比較から モデルがエンジン燃焼室内の火炎伝播挙動を再現するに足る精度を持っているか否かにつ いて説明している.また,末端の未燃ガスの低温酸化反応モデルとして選択したShellモデ ルを多次元へ拡張するための改良方法について述べ,着火遅れ計測結果との比較から Shell モデルと一段熱炎反応モデルの連成による自着火モデルの妥当性を明らかにしている.

第 3 章では,第2 章のモデルを連成させたノック予測計算手法の提案を行っている.は じめに,乱流歪み速度を考慮した改良 Flamelet モデルと多次元へ拡張するための改良が加 えられた自着火モデルの連成によるノック予測計算の具体的な方法について提案している.

ついで,本計算で用いた数値計算法のアルゴリズム,初期条件,境界条件について述べて いる.最後に,開発したノック予測手法の計算精度とその問題点について,可視化および 燃焼解析の結果との比較検証をもとに考察している.

第 4 章では,第3 章で問題点として挙げられた燃焼室壁面からの熱損失の予測精度につ いて取り上げ,小型高速熱流束センサによる熱流束計測実験との比較から壁法則の改良方 法についての提案を行っている.最初に,壁面熱流束を正確に予測するための従来手法お よび新しく提案された手法の説明と,従来の壁法則の考え方の重要性について述べている.

次に,計測結果と標準の壁法則を用いて行った計算結果の比較から標準の壁法則の問題点 を明らかにしている.続いて,エンジン内流れ場に適用可能な壁法則を構築するためにモ デル化が必要な現象について調査し,改良方法についての提案を行っている.さらに,改 良壁法則を異なる運転条件へ適用し,エンジン燃焼室内流れ場への適用の妥当性について 述べている.最後に,壁法則の改良がノック発生時期に及ぼす影響について言及している.

第5章では,第3章で他の問題点として挙げられたShell低温酸化反応モデルの予測精度

(19)

について取り上げ,Shell モデルの反応速度定数の改良とガソリン代替機構を用いたモデル パラメータの最適化方法についての提案を行っている.まず,Halstead らが RCM(Rapid

Compression Machine)を用いて最適化したShellモデル反応速度定数パラメータの問題点に

ついて述べ,反応速度定数に含まれる局所ガス温度に補正を加えることで着火遅れ計算精 度を向上する方法について説明している.次に,HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)およびSCCI(Stratified Charge Compression Ignition)の実験結果から,ガソリンの 着火遅れ予測に PRFのモデルパラメータを用いることの問題について述べ,ガソリン代替 反応機構を用いたモデルパラメータ調整の可能性について考察を行っている.続いて,Shell モデルパラメータの感度解析結果とガソリン代替反応機構を用いたパラメータの最適化に ついて説明している.最後に,本章および第 4 章の改良を加えた改良ノック予測モデルの 計算精度について述べ,構築したノック予測計算手法の妥当性について考察している.

第 6 章では,開発された3 次元ノック予測計算手法をエンジン冷却系の改良に適用する ことにより,エンジン開発ツールとしての有効性について述べている.はじめに,熱流体 解析および高速熱電対を用いた燃焼室壁面温度計測から燃焼室の温度分布について述べ,

温度分布がノックに与える影響についてノック予測計算により考察を行っている.続いて,

計算結果から提案されたノック抑制案を検証するため,ヘッドガスケット形状を変更した 検証実験結果について述べている.最後に,耐ノック性能の向上代と開発したノック予測 計算手法のエンジン開発ツールとしての有効性について考察している.

第 7 章では,各章で得られた結果を総括するとともに,ノック予測計算手法やノック抑 制手法に関して残された技術的な課題とその将来展望について述べている.また,本研究 の今後の方向性について言及している.

(20)

1章 参考文献

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(26)

2 章 基礎モデルの検討

2.1 緒 論

近年,コンピュータの高性能化にともない,計算流体力学を基盤とした数値計算により ノックを予測する研究が盛んに行われるようになってきている.数値計算によるノックの 予測は二種類に大別できる.一つはノックの発生時期予測を目的とした0次元計算である.

燃焼室内の温度,圧力,混合気分布を空間的に均一と仮定して非定常計算を行うもので,

ノックの予測には CHEMKINⅡ(1)に代表されるような詳細化学動力学計算や Livengood-Wu 積分(2)による着火遅れ計算などを用いる.もう一つは多次元計算である.多次元流体計算と 上述のモデルを組み合わせ,ノックの発生時期に加え,発生位置を予測することを目的と したものである.ノック特性に影響する主要因の明確化やノックを効果的に抑制する手法 を模索するためには多次元による計算が有効である.

ノックの発生には,吸気から燃焼に至る過程で,乱流,混合,熱伝達,化学反応などの 多岐におよぶ現象が相互に関与している.このため,多次元でのノック予測計算を行うた めには,これらの現象を精度良く予測する必要がある.高精度のノック予測計算方法とし ては,DNS(Direct Numerical Simulation)による流れ場予測,詳細化学動力学計算による火 炎伝播および自着火予測が考えられる.計算対象をエンジン内の局所領域に限定し,これ らの計算手法を連成させノック現象を再現する研究も行われている(3)

このような数値計算を行う上でコンピュータの性能向上は重要な因子の一つであるが,

最近のスーパーコンピュータを頂点としたコンピュータの性能向上には目を見張るものが ある.280.6 TFLOPS(1TFLOPSは1秒間に1012回の浮動少数点演算を行う能力)の計算処 理能力を持つ世界最高速のIBM Blue Gene/Lを頂点に,最近ではTFLOPSオーダーのコンピ ュータが数多く市場に投入され,DNS による流体,燃焼解析も研究レベルでは数多く行わ れるようになってきた.しかしながら,このようなコンピュータをもってしても,エンジ ン燃焼室内流れへのDNSの適用は依然として計算コストが高く実用は困難である.詳細化 学反応計算とDNSの連成解析の困難さについては言うまでもない.

実用的,つまりエンジンの開発に適用可能なレベルで計算を行うためには,実現象との 差異を許容範囲内に留め,計算コストを最小限とする必要がある.このような観点から考 えると,エンジン燃焼室内流れ,乱流,混合,燃焼の計算にはRANS(Reynolds Average Navier

(27)

Stokes)をもとにしたモデルを用いることが妥当である.

RANSをエンジン燃焼室内流れに適用する際の弱点として,乱流モデルの問題が挙げられ る.多くの流れ計算には乱流モデルとしてk-ε モデルが用いられているが,エンジン燃焼室 内流れ計算においても,ほとんどの場合このモデルが用いられる.しかしながら,エンジ ン燃焼室内のように強い旋回を有する流れ場など乱れの非等方性の強い場において,標準 のk-ε モデルは予測精度が低いことが報告されている(4).その一方で,モデル係数を修正す ることで,エンジン燃焼室内の流れ場を正確に予測可能であるという報告(5)もなされており,

現象にあった適切なモデル係数の設定を行うことで,エンジン燃焼室内の解析においても 十分適用が可能であると考えられる.

ノックの正確な予測にあたっては,その前段の現象となる火炎伝播を正確に予測する必 要がある.RANSと乱流モデルの組み合わせによる流れの計算に適用可能な予混合乱流火炎 伝播モデルとして,これまでさまざまなモデル(6)(7)が提案されているが,これらのモデルの 多くは乱流混合特性時間τt = k/ε に律速されるという性質を持つ.

図2.1にエンジン燃焼における乱れ混合ならびに反応特性時間のおおよその範囲を示す(8). 乱流混合特性時間τtk-ε モデルを用いた数値シミュレーション結果から推定した結果で,

図に示すようにおおよそ1~10 msの範囲にある.これに対して熱炎反応の特性時間は10 µs のオーダーである.この状況では反応は乱れ消散によって分子混合状態になるのを待つ状 態になり,熱炎では乱れ混合律速となるため,モデリングとしては反応速度無限大の仮定 を適用できる.乱流予混合燃焼モデルおよび乱流拡散燃焼モデルのほとんどはこの観点に 立脚している.したがって反応動力学式を解く必要はなく,発熱量のみが関与する.また,

既燃ガス成分が必要な場合は,平衡論で求めることができる.このような燃焼率が乱流混 合特性時間τtに律速されるという考え方は,壁面近傍を除く主流においては妥当かつ合理的 であり,モデルの予測精度も高い.モデルが簡便であり,計算コストが低いことも,この 種のモデルがエンジン開発に数多く適用される要因となっている.

しかしながら,壁面近傍に目を移すと,その領域においては乱流混合特性時間τtが小さく なるため,燃焼率が乱流混合特性時間τtに逆比例する性質を持つこれらのモデルでは,壁面 近傍における局所熱発生率は主流に比べて大きくなる.このため,火炎面は進行方向に凹 となる形状を示し,実現象と乖離した結果となる.この現象は壁面近傍の未燃領域で発生 するノックの予測に影響を及ぼすと考えられる.計算精度および計算コストの観点から考 えると壁面での燃焼率の増大を抑えた予混合乱流火炎伝播モデルの適用が望ましいといえ

(28)

る.

ノックの発生時期および発生位置を再現するためには,図2.2のように時々刻々と変化す る燃焼室エンド部の圧力,温度に対する着火遅れを表現するための何らかの手法が必要と なる.代表的な手法として,経験則をベースにしたLivengood-Wu積分,燃料全ての素反応 計算を行う詳細化学動力学計算,自着火に寄与する代表的な反応を選択し,いくつかの反 応を一般化した反応式で置き換えて計算を行う簡易化学動力学計算などが挙げられる.エ ンジン開発への適用という観点から,エンジン燃焼室内の化学反応の表現方法について考 えると,Livengood-Wu 積分に代表される経験則をベースにしたモデルをノックモデルとし て用いる利点は大きい.寺地ら(9)は反応動力学計算で予め着火遅れ時間のテーブルデータ作 成し,温度,圧力履歴に沿ってLivengood-Wu積分を行うことで,ノックの定性的な予測を 行っている.しかし,この手法ではテーブルを作るための膨大なデータが必要になる可能 性がある.また,温度,圧力履歴に沿って計算を行う場合,物質の移流の影響を表現する ことが難しい.図2.1に示すように,自着火の特性時間は乱流特性時間とほぼ同等のオーダ ーであり,自着火反応に与える乱流や物質の輸送の影響を無視することはできない.さら に,Livengood-Wu 積分では,図 2.2(b)に示したような温度や圧力,当量比等により複雑に 変化する着火遅れを正確に予測することは困難である.このことから,Livengood-Wu 積分 のような経験則をベースにしたモデルをそのまま多次元のノック予測計算に適用すること には問題があると思われる.

一方,詳細化学動力学計算を用いた場合,生成物の移流効果やその酸化反応機構を検討 することが可能となる.草鹿ら(10)(11)は,RANS による流れの計算と詳細化学動力学計算を 連成させ,エンジン筒内の燃焼現象や燃焼生成物質の生成過程を詳細に調査している.こ のような試みは,現象の詳細な理解という観点から非常に重要である.しかし,エンジン の開発に適用可能なレベルで計算を行うことを考えると,数千におよぶその酸化反応機構 を多次元計算に展開するためには膨大な計算コストがかかり,現時点では現実的ではない.

第 1 章で述べたように,簡易化学動力学計算に関する研究は数多くなされている.これ らのモデルは,全ての素反応を考慮したモデルに対して,物質の生成過程を詳細に評価す ることや極端な条件下において高い計算精度を維持することについては性能が劣る.しか しながら,実際のエンジンで使用するような条件下においては,着火遅れを予測するため の十分な計算精度を有していることが過去の研究から明らかであり,着火遅れの予測精度 に対する計算コストのパフォーマンスは非常に高い計算手法であるといえる.このような

(29)

点から考えると,ノックの発生位置や発生時期およびその強度の予測を主な目的とする計 算において,簡易化学動力学計算を自着火予測手法として取り扱うことは妥当であるとい える.

このことから,実用的なモデルとしてノック予測手法を確立するためには,1. RANSおよ び修正k-ε モデルによる乱流場の予測,2. 壁面での燃焼率増大を抑制した乱流燃焼モデルに よる火炎伝播予測,3. 簡易化学動力学計算による自着火予測という各計算手法を確立する ことが重要である.

以上のような観点から本章では,ノック予測手法を確立するために必要な流れ,乱流,

乱流燃焼,自着火モデルの検討と実験との比較による各モデル精度の検証を行い,ノック 予測計算に用いるモデルとしての妥当性について述べる.また,取り扱う流れ,乱流,乱 流燃焼,自着火モデルについて説明する.

(30)

10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 Characteristic time scale sec

turbulent mixing self ignition (c.i.)

self ignition (s.i. knock) thermal NO wall quenching

exothermic reaction

10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 Characteristic time scale sec

turbulent mixing self ignition (c.i.)

self ignition (s.i. knock) thermal NO wall quenching

exothermic reaction

Figure 2.1: Characteristic time scale of turbulent mixing and chemical reaction in an engine (8)

1.0 1.2 1.4 1.6

1 10 100 1000

5.0 MPa 4.0 MPa

3.0 MPa 2.0 MPa

Total ignition delay ms

1/Temperature 103/K

1.0 MPa

(a) (b)

-60 -40 -20 0 20

0 1 2 3 4 5

500 1000 1500 2000 Pressure

Pressure MPa

Crank angle deg. ATDC

Temperature K

Temperature

1.0 1.2 1.4 1.6

1 10 100 1000

5.0 MPa 4.0 MPa

3.0 MPa 2.0 MPa

Total ignition delay ms

1/Temperature 103/K

1.0 MPa

(a) (b)

-60 -40 -20 0 20

0 1 2 3 4 5

500 1000 1500 2000 Pressure

Pressure MPa

Crank angle deg. ATDC

Temperature K

Temperature

Figure 2.2: A representative sample of (a) History of end gas temperature and pressure, and (b) Ignition delay of hydrocarbon fuel. (Dash line in the figure (b) represents history of end gas temperature and pressure in the figure (a).)

(31)

2.2 流れ場のモデリング

2.2.1 流れ場の支配方程式

燃焼場では燃料,酸化剤などの流動,拡散,反応,熱発生,熱の移動の過程が同時に生 じる.このため,燃焼をともなう流れを記述する方程式は,質量,運動量,エネルギおよ び各化学種についての保存式である.これらは,次のように表される.

質量の保存式:

( )

u 0 x

t k k =

∂ + ∂

∂ρ ρ

(2.1) 運動量の保存式:

i k ik i k

i k

i g

x x

p x

u u t

u ρ τ ρ

ρ +

∂ +∂

−∂

∂ = +∂

∂ (2.2)

化学種jの保存式:

( )

jk j k

k j k

j j R

x x

Y u t

Y +

− ∂

∂ = +∂

∂ρ ρ

(2.3) エネルギの保存式:

h n

1

j jk j

k k k

k q j h Q

x x

h u t

h +

 

 +∑

− ∂

∂ = +∂

=

ρ ρ

(2.4)

これらの式は燃焼流における流速,各化学種濃度,エンタルピを規定する一般的な方程 式である.エネルギの保存式は多成分系では温度よりもエンタルピを従属変数にする方が 式が簡単になる.

ここで,t は時間,xii 方向の座標,uii 方向の流速成分,ρは密度,pは圧力,τikは 粘性によるi方向運動量のk方向流束,gii方向重力加速度,Yjは化学種jの質量分率,jjk は化学種jk方向への拡散流束,Rjは化学種jの単位体積当りの生成速度,h,hjは混合ガ ス,化学種 j のエン夕ルピ,qkは質量平均速度に相対的なk 方向熱流束,Qhは幅射や粘性 による発熱等による単位体積当りの受熱量を表す.なお,添え字については総和規約を適 用する.

式(2.2)におけるτikはニュートンの粘性の法則から次式で与えられる.

(32)





− ∂

∂ +∂

− ∂

= ik

j j i

k k

ik i x

u 3 2 x u x

u δ

µ

τ (2.5)

ここで,µは混合気体の粘性係数,δikはクロネッカーデルタである.

式(2.3)における化学種jの質量拡散流束jjkは一般に次式のように,化学種の濃度勾配によっ て駆動される濃度拡散j( )jkx ,温度勾配により駆動される温度拡散 j( )jkT ,圧力の勾配により駆 動される圧力拡散j( )jkp ,および各化学種に対する外力の差異により駆動される拡散 の和 となる.

( )g

jjk

( ) ( ) ( ) ( )g p jk T jk x jk

jk jjk j j j

j = + + + (2.6)

多くの場合の支配的な拡散は濃度拡散であり,次式で表される.

( )

k jm i

jkx x

D Y

j

− ∂

= ρ (2.7)

この式はフィックの拡散の法則(Fick’s law)と類似しているが,Djmは化学種jの多成分系 における有効拡散係数であり,物性値ではない.温度拡散は重い分子を低温側へ,軽い分 子を高温側へ駆動する.温度勾配の急峻なところではH原子やH2分子の拡散に影響をもつ 可能性があるが,通常の燃焼場ではあまり大きい影響はないといわれている(12).また,圧 力拡散は強い遠心力場で生じる可能性はあるが,通常の燃焼場では大きな影響はないとさ れている.

qkは次式のフーリエの熱伝導の法則による.多成分系ではエネルギの輸送は一般に圧力や 化学種濃度の勾配によっても駆動されるが,その影響は小さい.

k

k x

q T

− ∂

= λ (2.8)

ここで,λは混合気体の熱伝導率,Tは絶対温度である.式(2.1)~(2.8)により,ui, p, Yjおよ び h を時間と場所の関数として求める方程式が表されたことになる.これらの式を解くに は,熱力学的諸量や輸送物性,反応速度などを算出する補助式が必要となる.

2.2.2 時間平均量の支配方程式

乱流火炎においても瞬時,局所の流速,化学種濃度,エンタルピを規定する式として,

先の2.2.1節に記した保存式および補助式がそのまますべて成り立つ.しかし,乱流場にお

ける乱れによる時間変動も含めて追跡するべく,2.2.1 節の式(2.1)~(2.4)をそのまま数値解

参照

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