博士(歯学)萩原 淳 学位論文題名
臼歯部咬合支持を喪失した症例における義歯の治療が 身体平衡機能に及ぼす影響
学位論文内容の要旨
【緒言】
わが 国は ,世 界一 の長 寿国 とな ったが,ADLの低下により自立陸.が損 なわれることが問 題 とな って いる .身 体平 衡機 能の 低下 は種 々の 要因 に よっ て惹起され, 転倒や歩行障害の 危 険因 子で あり ,高 齢者 のADLや自 立陸 を低 下さ せる .残 存歯 の咬 合支 持域 や顎 位 の変 化 が 身体 平衡 殴能 に関 連す るこ と, 残存 歯や 義歯 によ る 咬合 支持域がある ことが,転倒の頻 度 を減 少さ せる こと が明 らか にさ れて いる が, 咀嚼 能 カが 身体平衡機能 にどのように関連 す るか は, 明ら かに され てい ない 。そ こで ,咬 合支 持 を喪 失し咀嚼能カ が低下した症例を 対 象に ,歯 科治 療に より 咀嚼 能カ を改 善す るこ とが , 身体 平衡機能にど のような影響を及 ぼすかを明らかにする.
【研究方法】
北 海 道 芦 別 市 の は ぎ わ ら 歯 科 ク リ ニ ッ ク に お い て , 平 成19年4月 か ら 平 成20年5月 ま で の 初 診 患 者 の う ち ア イ ヒ ナ ー の 分 類 でB4,Cの25名 ( 男 性9名 , 平 均 年 齢73.4土3.9 歳 , 女 陸16名 , 平 均 年 齢66. 0+9.6歳 ) を 対 象 と し た , 対象 者は 、初 診時 に欠 損 部分 に は 義 歯 が 装 着 さ れ て い た . 治 療 内 容 の 内 訳 は , 義 歯 作 製20例 ,修 理・ りべ ース5例で あ っ た. これ らの 者は ,介 護認 定を 受け て船 らず 独歩 で 通院 可能で,視聴 覚疾患,骨・運動 器 疾患 ,神 経疾 患に 罹患 して いな かっ た. 治療 前, 治 療終 了時,リコー ル時に,自己評価 咀嚼能力(「何でも噛める」,「少し硬い物なら噛める」,「柔らかい物しか噛めない」),ガ ム によ る咀 嚼能 力判 定, 開眼 片足 立ち秒数お よび重J己動揺度を評価した ,自己評価咀嚼能 カ およ びガ ムに よる 咀嚼 能力 判定 の結 果に おい て, 治 療前 に比べ改善が みられた群と改善 が み ら れ な か っ た 群 の 間 で , 開 眼 片 足 立 ち 秒 数 茄 よ び 重 心 動 揺 度 を 比 較 し た .
【結果】
自 己 評 価 咀 嚼 能 カ は , 治 療 後に 有意 に改 善し てい た(く0.001,x21検定 ). ガ ムに よ る 咀嚼 能力 判定 の結 果は ,治 療前 に比 べ治 療終 了時 に 有意 に改善し,さ らに治療終了時に 比 ベリ コール時で 改善していたヤくO. 001,Kruskal―Wallis検定).自 己評価咀嚼能カお よ びガ ムに よる 咀嚼 能力 判定 結果 にお いて ,治 療前 に 比べ 改善がみられ た群と改善がみら れ なか った 群と の比 較に おい て, 治療 前, 治療 終了 時 ,リ コール時に, 開眼片足立ち秒数 の平均値では有意差はみら れなかった.同じ比較においても,重´己丶動揺検査の閉眼時の外 周 面積 ,単 位時 間軌 跡長 ,左 右変 位, 前後 変位 では , 有意 差はみられな かった.ロンベル グ 率例 丶周 面積 の閉 眼と 開眼 の比 率) は, 咀嚼 能力 判 定の 結果がりコー ル時に改善した20
例では,治療前2. 16土1.16,治療終了時1.49土0.65,リコール時1.44土O.75(P=0. 022, 一元 配置 分散 分 析法 )で あり ,さ らに 治療 前と 治療 終了 時の2群間 では 有意 差はぬく,治 療前 とり コー ル 時の2群 間で は, 有意 差が み られ たや‑0. 040,Bonferroni/Dunn test). 一方,咀嚼能力判定の結果がりコ亠 ル時に改善しなかった5例で は,治療前1. 79土O.86, 治療終了時1. 76土0.76,リコール時2.01土0.54で,有意差はなかった.自己評価咀嚼能 カが 改善 した 群 では 、治 療前 に比 べ, 治療 終了 時およびりコール時におい ては,ロンベル グ率に有意差はなかった.
【考察 】
本研 究で は ,咬 合支 持を 喪失 し咀 嚼能 カが 低下 した 症例を対 象に,歯科治療による咀嚼 能 カ の 改 善 が 身 体 平 衡 機 能 に 及 ぼ す 影 響 に っ い て , 前 後 比 較 研 究 に よ り 検 討 し た . 咀嚼 能カ に っい ては ,簡 便な 自己 評価 に基 づく 咀嚼 能カで評 価したが,これはこれまで 高 齢者 の栄 養 状態 や体 力, 生存 率, 全身 の健 康状 態な どに関連 することが実証されている た め, 咀嚼 能 カの 評価 法の ーっ とし て有 用な 方法 であ る.ガム による咀嚼能力判定は,食 物 の混 和能 カ を評 価す る方 法で あり ,せ ん断 能カ や唾 液との混 和や嚥下可能な食塊の形成 能 を評 価す る こと はで きた いが ,義 歯治 療前 後の 咀嚼 能カの客 観的な一指標として有用で あ る. 結果 で は, 自己 評価 咀嚼 能カ は治 療前 に比 べ治 療後,リ コール時に有意に改善して い た, ガム に よる 咀嚼 能カ の評 価は ,治 療終 了時 に改 善し,さ らにりコール時に改善して い た. これ は ,義 歯治 療に より 咀嚼 能カ が治 療前 に比 べ治療終 了時に改善し,さらに治療 終 了時 から り コー ル時 にか けて ,患 者が 義歯 に対 して 順応し, 咀嚼能カが向上したためと 考えら れた.
ヒト の姿 勢 制御 機構 は, 視覚 から の入 カと 視覚 に依 存しない 前庭や深部知覚からの入カ に よル コン ト ロー ルさ れて いる .ロ ンベ ルグ 率は この 相対的関 係を表し,臨床的に重要な 意 味を 持つ , 高齢 者の ロン ベルグ率 の平均値は1.5前後であるのに対し,視覚J陸の姿勢制 御 能カ が低 下 し転 倒の りス クの 高い 高齢 者で は, ロン ベルグ率 は低くなり,視覚に関係し な い脊 髄陸 , 迷路 陸平 衡障 害な どの 場合 には ,ロ ンベ ルグ率が 高くなることが,報告され て いる .す な わち ,ロ ンベ ルグ 率が 標準 値の1.5前後 から減少 する場合には、視覚陸姿勢 制 御機 能が 低 下す るこ とを 意味 し、1.5前後 から 増加 する場合 には、視覚に依存しない姿 勢 制御 機能 が 低下 する こと を意 味す る。 今回 の検 討で ,リコー ル時に咀嚼能カの改善がみ ら れた20例 で ,治 療前 のロ ンベルグ 率の平均値は2. 16で高い 値を示したが,リコール時 に は1. 44と 統計 学的 に有 意な 改善 を認 めた 、し たが って,臼 歯部の咬合支持を喪失し咀 ロg專胄亀カが低下している症例において,歯科治療前では,姿勢制御機能の視覚に依存する割 合 が視 覚に 依 存し ない 割合 に比 ベ相 対的 に高 い状 態と なってい たが,歯科治療により咀嚼 能 カが 改善 し たこ とに とも ない ,こ の比 率が 改善 した .このメ カニズムは,ロンベルグ率 が 高い 値か ら 正常 値に 改善 した こと から ,視 覚に 依存 しない姿 勢制御機能が高まったこと による と推察した.
今回 ,ロ ン ベル グ率 が改 善し た機 序は ,適 切な 顎間 関係と咬 合支持を付与することが,
咀 嚼筋 の筋 紡 錘, 顎関 節か らの 入カ シグ ナル など に影 響を及ば し,中枢神経の反射・制御 系 を介 して , 頚部 ,四 肢・ 体幹 の姿 勢の 制御 に関 連す る筋肉に 影響を及ばしたと考えられ た,
本研 究では,義歯の治療により咀嚼能カが改善するとともに,身体平衡磯清亀カ§改善する
ことが明らかになった.よって,咬合支持を喪失し咀嚼能カが低下した症例に義歯治療を 行 う こ と が , 身 体 平 衡 饑 能 の 改 善 に 有 効 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た ,
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
臼歯部咬合支持を喪失した症例における義歯の治療が 身体平衡機能に及ぼす影響
審 査 は . 審 査 担 当 者 全 員 の 出 席 の 下 に 行 わ れ た ‐ 最 初 に 申 請 者 よ り 提 出 論 文 の 概 要 が 説 明 さ れ , そ の 後 , 申 請 者 に 対 し 提 出 論 文 と そ れ に 関 連 し た 学 科 目 に っ い て 口 頭 試 問 が 行 わ れ た . 以 下 に , 論 文 の 要 旨 と 審 査 の 内 容 を 述 べ る , 【 論 文 の 要 旨 】
本 研 究 の 目 的 は , 臼 歯 部 咬 合 支 持 喪 失 者 の 義 歯 治 療 が 身 体 平 衡 機 能 に ど の よ う た 影 響 を 及 ば す か を 明 ら か に す る こ と で あ る .
研 究 対 象 は , は ぎ わ ら 歯 科 ク リ ニ ッ ク に お い て , 平 成19年4月 か ら 平 成20年5 月 ま で の 初 診 患 者 の う ち ア イ ヒ ナ ー の 分 類 でB4,Cの 義 歯 を 装 着 し て い る25名 ( 男 性9名 , 平 均 年 齢73.4土3.9歳 , 女 性16名 , 平 均 年 齢66.O土9.6歳 ) で あ っ た . 治 療 内 容 の 内 訳 は , 義 歯 作 製20例 , 修 理 ・ り べ ー ス5例 で あ っ た . こ れ ら の 者 は , 独 歩 で 通 院 可 能 で , 視 聴 覚 疾 患 , 骨 ・ 運 動 器 疾 患 , 神 経 疾 患 に 罹 患 し て い な か っ た . 治 療 前 , 治 療 終 了 時 , リ コ ー ル 時 に , 自 己 評 価 咀 嚼 能 力 , ガ ム に よ る 咀 嚼 能 力 判 定 , 開 眼 片 足 立 ち 秒 数 お よ び 重 心 動 揺 度 を 評 価 し た . 自 己 評 価 咀 嚼 能 カ お よ ぴ ガ ム に よ る 咀 嚼 能 力 判 定 の 結 果 に お い て , 治 療 前 に 比 べ 改 善 が み ら れ た 群 と 改 善 が み ら れ な か っ た 群 の 間 で , 開 眼 片 足 立 ち 秒 数 韜 よ ぴ 重 心 動 揺 度 を 比 較 し た . 自 己 評 価 咀 嚼 能 カ お よ ぴ ガ ム に よ る 咀 嚼 能 力 判 定 の 結 果 は , 治 療 前 に 比 べ 治 療 終 了 時 に 有 意 に 改 善 し て い た . 対 象 の25例 に お い て , ロ ン ベ ル グ 率 ( 外 周 面 積 の 閉 眼 と 開 眼 の 比 率 ) は , 治 療 前2. 08土1.10, 治 療 終 了 時1.55土0.66, リ コ ー ル 時1.56 土O. 74 (P ‑0. 047,One−way ANOVA)で あ っ た . 咀 嚼 能 力 判 定 の 結 果 が 改 善 し た 群 と し な い 群 に 分 け て , 治 療 前 後 で の ロ ン ベ ル グ 率 の 変 化 を み て み る と , ロ ン ベ ル グ 率 ( 外 周 面 積 の 閉 眼 と 開 眼 の 比 率 ) は , 咀 嚼 能 力 判 定 の 結 果 が り コ ー ル 時 に 改 善 し た20例 で は , 治 療 前2. 16土1.16, 治 療 終 了 時1.49土0.65, リ コー ル時1.44土0.75 (P ‑0. 022,One−way ANOVA)で あ り , さ ら に , 治 療 前 と り コ ー ル 時 の2群 問 で は , 有 意 差 が み ら れ た (P ‑0. 040,Bonferroni/Dunn test).一 方 , 咀 嚼 能 力 判 定 の 結