博士(工学)萩原 学位論文題名
運転者の視点に関する研究
学位論文内容の要旨
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本論 文は, 運転者 の視 点の測 定と評価にっいて新しい手法を考案し,それらの手法を用いて様々 な 走 行 現 場 に お け る 運 転 者 の 視 点 と 道 路 の 関 係 を 分 析 し た 研 究 を ま と め たも の で あ る 。 道路 交通は ,道路 ・車 両・人 間から 構成さ れて いる。 この道 路交通 システ ムにおいて,人間は 能動 的な意 志決定 の要素 であ り,シ ステム のオペ レート は人 間の行 動にか かわってくる。調和の とれ たシス テム制 御を行 うに は,人 間に多 くの能 カが要 求さ れる。 例えば ,運転者は,道路状況
・他 の交通 の状況 ・自車 の状 況を視 覚から 入カし ,適切 なコ ント口 一ル動 作に関する意志決定を 下し ,動作 を行い ,それ によ って生じる新しい状況を観察し,反応しなければならない。そして,
事故 が起こ ったと きはい っも 問題に なるこ とであ るが, その 原因の 多くを 運転者が負わされる。
一方 ,人間 の行動 に関 する研 究は, 心理学 や医 学の分 野で過 去一世 紀にわ たって発展をみてい るが ,本論 文で扱 う眼の 動き に関す る基礎 的,応 用的研 究も ,今世 紀初頭 以来,個々の学問分野 で体 系が確 立しっ っある 。し かし, それら の研究 成果を その まま道 路交通 システムに生かすこと は困 難であ る。な ぜなら ,各 分野にはそれぞれの学問体系があり,一っの行動にっいての研究も,
研究 者の分 野によ って体 系内 の位置 づけが 異なる ためで ある 。
本論 文は, この様 な道 路交通 システ ムの特 徴を 踏まえ ,技術 的成果 である 道路構造とそれを利 用す る人間 との関 連性を 運転 者の視 点から 分析す ること を目 的とし て行っ た研究をまとめたもの であ る。道 路と人 間の関 連性 を明ら かにす れば, 人間の 行動 を考慮 したよ りよい機能をもつ安全 な道 路交通 システ ムが生 まれ ること が期待 される 。
本論 文は10章から 構成さ れてい る。運 転者 の視点 の測定 法・解 析法 ・評価 法に関して新たな手 法の 提案を 行った 。近年 の急 速な科 学技術 の進歩 による 測定 手法を 用い解 析手法にも最新の技術 を注 いだ。 過去に なされ た運 転者の 視点に 関する 研究は 主に 定性的 な議論 に終始したのに対し,
運転 者の視 点の動 きを定 量的 に議論 するこ とがで きるよ うに なった 。
第1章は本 論文の 序論で あっ て,道 路交通 におけ る運 転者の 役割を 述べる ととも に, 各章の 内 容を 簡単に 記して いる。
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第2章で は,眼 球運動 の生理 学的な 意味 と位置 づけに っいて 述べ る。後 半で, 運転者 の視点 の 研究に っいて 整理し た。 運転者 の視点 とその 挙動に 関す る研究 と交通 問題に おけるそれらの研究 の位置 付けに っいて 論じ る。
第3章で は,眼 球運動 の測定 手法に っい て検討 した。 科学技 術の 大幅な 進歩か ら近年 開発さ れ た, Vision Analyzer い っ いて 紹 介 す る 。1970年 代に 使われ た眼球 運動測 定手法 から 数段 進歩し た測定 装置で ある ことを 示した 。
第4章 は, 初 め て Vision Analyzer を用 い て 運 転 者の 視 点 を 測 定し た結 果にっ いて であ る。視 点の測 定は, 信号 交差点 を多数 含む札 幌市内 中心 部の路 線と曲 線半径 の小さいカーブが連 続する 郊外の 路線で 行っ た。視 点と道 路条件 の関係 にっ いて定 性的な 検討を 行った。視点のりア ルタイ ム処理 ができ るよ うにな ったこ と,測 定装置 が被 験者の 視野ヘ 与える 影響が少なく実験条 件 が 拘 束 さ れ な い こ と 等 か ら , 従 来 の シ ス テ ム に 比 べ て 格 段 の 進 歩 か ら 認 め ら れ た 。 第5章 では , Vision Analyzer を 用 いて , 種 々 の 条件 で 運 転 者 の眼 球運 動を測 定し た。
本章の 実験は ,運転 者の 眼球運 動と走行条件の関係を知ることを目的として実施した。実験には,
比較の ために 大型車 も用 いた。 これら の条件 で,昼 間と 夜間に おいて 実験を 行った。その結果,
同じ被 験者で 走行条 件が 類似し ている 場合の 視点分 布は ほば同 じであ った。 特に,運転に慣れて いる運 転者は ,毎回 ほと んど同 じ視点 分布を 示した 。一 方,走 行条件 の違い が視点分布に与える 影響は ,被験 者によ り程 度の違 いは見 られた が,同 じ傾 向を示 した。
第6章 では , 運 転 者 が 見て いる 道路上 の3次元視 点位置 を求 める手 法を開 発し, 運転 者の見 方 を評価 した。 頭部運 動を 測定す る方法 を導入 し,眼 球運 動のデ ータと 合成し た。その結果,運転 者が 見 た位 置を3次元 的に求 めるこ とが可 能と なり, 視点と 道路空 間の関 係を 計算機 内で結 び付 けれる ように なった 。ま た,運 転者の 情報収 集パタ ンを 評価す る新し い手法 を導入した。運転者 の視覚 行動は 道路環 境を 情報源 とする 情報の 収集で ある と仮定 し,情 報量の 期待値であるエント 口ピー を指標 として ,情 報収集 パタン を評価 した。 その 結果, 曲線区 間にお いて運転者は多くの 情報を 得よう として いた 。
第7章で は,運 転者の 視点を 表示す る画 像とカ メラ映 像を実 験後 に合成 するこ とによ り,視 点 とカメ ラ映像 の関係 をよ り明確 にでき る新し い視点 解析 システ ムにっ いて詳 細に示した。従来の 視点解 析シス テムで は運 転者と カメラ の視点 座標系 の一 致の定 義があ いまい であった。また,第 6章 の シス テムは 運転 者の視 点表示 画像と カメ ラ映像 を合成 するシ ステム を持 たない ため, 視点 が示す 視覚対 象物の 判断 が困難 であっ た。新 たに開 発し た視点 解析手 法では ,視点と映像内の視 覚対象 物の関 係を明 確に 定義し た。
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第8章では,吹雪時における運転者の視覚挙動にっいて多角的に検討した。吹雪時における安 全な走行を確保することは,冬期間の道路交通において大きな課題である。これまで,吹雪が激 しくなった状態での運転者の視覚的な評価は車両の挙動や運転者の報告等から間接的に行う以外 方法がなかった。第7章で開発した視点解析システムを応用し,吹雪時の測定を行い運転者の視 覚挙動の評価を行った。視程距離が200m以下での測定を実施することができた。分析の結果,
視界が悪い状況で走行するとき,運転者はとにかく見えるものに視点を集中させていた。また,
ファジーエント口ピーによる解析から,吹雪時の運転に熟練した被験者は視程距離が短い状況に お い て も 多 く の 情 報 を 得 ら れ る 視 覚 挙 動 を 行 っ て い る こ と を 定 量 的 に 示 し た 。 第9章では,種々の走行条件での測定実験の結果から,走行条件と運転者の情報収集パタンと の関係にっいて細かく分析した。実車実験は,高速道路で実施した。比較を行う走行条件は,速 度の高低,昼夜,先行車の有無と道路線形の4っである。評価指標としては,運転者の眼球運動,
3次元視点位置と情報処理速度を取り上げた。情報処理速度は,運転者が注視を行っている視覚 対象物の画像情報量から求めた。そのため,画像情報を情報量に算定する手法を導入した。分析 の結果,眼球運動そのものにっいては,運転者が最も大きい要因であったが,視点の位置や対象 物の選択に関しては道路線形が大きな要因となっていた。また,運転者の情報処理速度は人間の パフオーマンスを越える値となった。
第10章 の 結 論 は , 前 章 ま で に 得 ら れ た 結 果 を 総 括 し 本 論 文 の 成 果 と し て い る 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授
加来 五十嵐 村山 斉藤
照俊 日出夫 正
和雄(医学研究科)
本論文は,道路交通システムにおける運転者の視点の測定と評価にっいての一連の研究成果を とりまとめたものであり,10章から構成されている。
著者はこの論文において道路交通システムの安全に関する問題として,運転者の視点をその主 要なものとして取り上げた。著者は,新しい視点解析システムの開発に取り組むとともに,現場
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にお ける 走行実 験(以 下では 実車実 験と 表す) を重ね 運転者 の視 点と道 路交通条件との関係につ いて 詳細 に分析 してい る。
第1章 は 序 論 で あ り , 本 研 究 の 背 景 , 目 的 と 方 法 及 び内 容 の 概 要 にっ い て 述 べ てい る 。 第2章 は,眼 球運 動の生 理学的 な意味 から出 発し て,運 転者の 視点に っい て行わ れた従 来の研 究に っい て整理 し,交 通安全 問題に おけ る運転 者の視 点とそ の挙 動に関 する研究の位置付けを明 らか にし ている 。
第3章でtま ,眼球 運動 の測定 手法に っいて 論じ ている 。本論 文で開 発された新しい視点解析シ ス テ ム で用 い ら れ る 眼球 運 動 測 定 装 置で あ る Vision Analyzer と Talk Eye にっい て紹 介し ,従 来の同 様な測 定機器 との比 較を 行って いる。
第4章tま, 運転者 の視 点を実 車で測 定する 手法 とその 結果に っいて 述べている。この結果,眼 球運 動の りアル タイム ・デジ タル処 理が できる ように なった こと ,測定 装置が被験者の視野へ与 え る 影 響が 少 な く 実 験条 件 が 拘 束 さ れな い こ と等 の面か ら, Vision Analyzer を用い た測 定の 優位 性にっ いて述 べてい る。
第5章 では, これ まで不 可能で あった ような 道路 交通条 件も含 めて, 様々 な道路 交通条 件で運 転者 の眼 球運動 を実車 で測定 し,走 行条 件と眼 球運動 との関 係に っいて 分析した結果にっいて述 べて いる 。
第6章 で は , 運 転者 が 見て いる道 路上の3次 元視点 位置を 求める 手法 を開発 し,実 車実験 に応 用し ,運 転者の 見方を 評価し ている 。眼 球運動 のみで は運転 者の 見方と 道路空間との関係を評価 する こと はでき ない。 そこで ,著者 は頭 部運動 を測定 する方 法を 導入し ,眼球運動のデータと合 成 し,道 路空間 にお ける視 点位置 を3次元的 に求め るシ ステム を開発 した。 また, 運転 者の視 覚 行動 は道 路環境 を情報 源とす る情報 収集 である と仮定 し,情 報量 の平均 値であるエント口ピーを 指標 とし て,そ の情報 収集パ タンを 評価 してい る。
第7章 で は , 前 章で の3次 元 視点 位 置 解 析 シス テムの 成果 を踏ま えて,3次 元的に 求めた 視点 と そ の 軌跡 を カ メ ラ 映像 に実 験後に 合成す る新し い視 点解析 システ ムにっ いて論 述し ている 。 著 者は, この方 法の有 効性 にっい て実車 実験を 繰り返 し行 い,そ の妥当 性を立証している。こ の方 法に よれば ,視点 と映像 内の視 覚対 象物の 関係が 明確に 定義 されて おり,映像内で動く視点 の軌 跡は 非常に 正確な ものと なって いる 。
第8章 は吹雪 時に おける 運転者 の視覚 挙動に っい て述べ たもの である 。吹 雪時に おける 安全な 走行 を確 保する ことは ,冬期 間の道路交通において大きな課題である。吹雪時の実車実験を行い,
前章 で開 発した 視点解 析シス テムを 応用 し視界 不良時 の運転 者の 視覚挙 動の評価を行っている。
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吹雪の程度による運転者の見方の違いを明確にするとともに,吹雪時の安全な走行を確保するた めの具体的な対策にっいて言及している。
第9章は,種々の走行条件での測定実験の結果から,走行条件と運転者の見方との関係にっい て細かく分析した結果にっいて論述している。特に,情報処理速度から運転者に要求される視覚 処理能カを評価し,運転者の情報処理速度が通常の状況で示される人間の情報処理速度の限界を 越えていることを明らかにしている。
第10章は結諭であり,各章で得られた多くの成果を整理,要約し,本論文の総括を述べると共 に,運転者の視点の測定法と評価法,及びその実用的価値にっいて総合的な見地から展望してい る。
これを要するに,本論文は道路交通の安全問題にっいて,運転者の視点から取り組むための新 しい解析手法を考案し,合理的な評価方法を確立したもので,交通工学,自動車工学ならびに人 間 工 学 に 寄 与 す る と こ ろ 多 大 で あ り , そ の 実 用 的 価 値 も ま た 高 く 評 価 さ れ る 。 よ っ て , 著 者 は , 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。
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