博 士 ( 医 学 ) 吉 田 純 一
学 位 論 文 題 名
Hepatocyte Growth Factor (HGF) に よ る
培養鉄負荷ラット肝細胞への保護効果に関する実験的研究
学 位 論 文 内 容 の要 旨
I. 緒 言
肝 臓 は 鉄 貯 蔵 臓 器 で あ り 、 肝 細 胞 傷 害 と 細 胞 内 鉄 と の 関 連 は 古 く か ら 指 摘 さ れ て い る 。 本 邦 に お け る 肝 硬 変 の 大 部 分 を 占 め る ウ イ ル ス 肝 炎 由 来 の 肝 硬 変 に お い て も 、 病 理 組 織 学 的 に 肝 細 胞 に は 軽 微 で は あ る が 、 種 々 の 程 度 に 鉄 沈 着 が み ら れ 、 肝 病 変 の 進 展 に 細 胞 内 過 剰 鉄 が 影 響 を 及 ば し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 慢 性 肝 障 害 で は 肝 細 胞 の 壊 死 に よ る 脱 落 が 生 じ 、 そ の 後 再 生 と と も に 線 維 化 が 加 わ り 肝 硬 変 へ と 進 展 す る 。 す な は ち 慢 性 肝 障 害 の 進 展 は 、 肝 細 胞 傷 害 に 基 づ く 細 胞 壊 死 と 、 そ れ に 引 き 続 く 再 生 の 不 均 一 に よ る と 考 え る こ と が 出 来 る 。 肝 細 胞 の 再 生 ・ 増 殖 に 関 し て は 、Hepatocyte Grorvth Factor(HGF) がそ の主 役 と さ れ て い る が 、HGFに は 肝 細 胞 の 増 殖 促 進 作 用 以 外 に も 多 彩 な 作 用 が 報 告 さ れ てお り、
障 害 か ら 肝 細 胞 を 保 護 す る 作 用 の あ る 可 能 性 も 考 え ら れ る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 鉄 沈 着 に よ る 肝 細 胞 傷 害 とHGFの 関 連 を 検 討 す る た め に 、 鉄 負 荷 ラ ッ ト よ り 作 製 し た 初 代 培 養 肝 細 胞 を 用 い て 実 験 的 肝 細 胞 傷 害 を 作 成 し 、HGFの 傷 害 肝 細 胞 へ の 影 響 を 検 討 し た 。
n.材料と方法 1.ラットへの鉄負荷方 法
ウ イ ス タ 一 系 雄 性 ラ ッ ト に 、 カ ル ボ ニ ル 鉄 約80 0mgを 含 む ァ ガ ー を 、 標 準 固 形 飼 料 と共に摂食させて 鉄負荷ラットを作成した。
2.初代培養肝細胞の作 製
0.05% コ ラ ゲ ナ ー ゼ 溶 液in situ持 続 灌 流 法 に よ り 肝 細 胞 を 分 離 し 、10%FBS加 ウ イ リ ア ム スE培 地 に て24穴 培 養 プ レ ー ト を 用 い 、1xlo s/ml/vtellに て37.C、 5%C02気相下にて 培養した。
3.肝の組織学的検討
肝 を 摘 出 後10% ホ ル マ リ ン に て 固 定 し 、 ヘマ トキ シリ ン・ エ オジ ン法 (H.E) 及 びプ ル シアンブルー法に て染色し観察した。
4.遊離肝細胞の鉄濃度
遊離肝細胞を硝酸 処理し、原子吸光法にて鉄濃 度を測定した。
5. MTT(3−(4.5―dimet−hylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyl tetrazolium bromide)による判定 (MTTアッセイ)
MTT溶 液 (5mg/ml)100ロ1を 各 ウ ェ ル に 添 加 し 、37.C4時 間 培 養 後 、DMS01mlを 加えて溶解し、吸 光度を測定した。
6.実験的肝細胞障害の 作製
四 塩 化 炭 素 をO、1 .o、 お よ び10mMの 濃 度 で 添 加 し24時 間 培 養 後 、MTTア ッ セ イ 及 び 培 地 中 のGOT濃 度 をuv法 に て 測 定 し た 。HGFは10ng/mlの 濃 度 で 四 塩 化 炭 素 と 同 時 に添加した。
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7.DNA合 成 の 測 定
HGF添 加24時 間 後 に、18.5KBqの1251−deoxyuridineを 加え さら に6時 間培 養後 、 細 胞 を 溶 解 し 放 射 活 性 を 測 定 し た 。
m.成績
1.コントロールラット及び鉄負荷ラット肝の組織 学的検討
H.Eによる検討で は、コント口一ル及び鉄負荷肝いずれにても、肝細胞壊死や線維化 の所見は認めナよかった。鉄染色では、コントロール肝では染色陽性細胞は認めなかっ たが、鉄負荷肝に のみ陽性肝実質細胞が少数ながら認められた。原子吸光法で測定し た コ ン ト ロ ー ル ラ ッ ト 肝 細 胞 の 鉄 濃 度 は 、ixi 05細 胞 あ た り76.45土 9.38ロg (Me an土SD)で あ っ た が 、 鉄 負 荷 ラ ・ ゾ ト 肝 細 胞 で は185.53 土10.56ロgと明らかに増加していた。 、
2.初代培養肝細胞におけるMTTアッセイの検討 、
MTTアッセイにおける吸光度は、培養肝細胞数と 正の相関を示し、さらに四塩化炭素 添加時に培地中に増 加するGOT濃度と負の相関を 示した(MTTアッセイは、初代培養肝 細胞の細胞傷害の 判定に有用であると考えられた)。
3.四塩化炭素による培養肝細胞傷害に及ばすHGFの影響
コ ント ロー ル肝 細胞 では 、四塩化炭素1mM添加にてMTTアッセイの吸光度は非添加の 約60% に低 下し たが 、10 mMで はMTTの 還 元を 示さ なか った 。四 塩化 炭素 と同 時に HGF10ngを 添 加し ても 吸光 度の 改善 はみ られ なか った 。鉄負荷肝細胞では吸光度の 四塩化炭素l mMill度で、非添加時の10%以下と 低下しており、コントロール群と比 較して明らかに細胞 傷害の増強がみられた。一方HGFを添加すると、四塩化炭素濃度 1 mMでの吸光度は有 意に改善しており、HGFによ る鉄負荷肝細胞への保護作用が示唆 された。
4.HGFによる1251−deoxyuridineの取り込み
HGF添 加に よ ルコ ント ロー ル群 、鉄 負荷 群と もに 非添 加時 の約200% の増 加が えら れたが、両群間では有意差は認められナょかった。今回用いた初代培養肝細胞は、鉄負 荷 の有 無に かか わら ずHGFに反 応し 、同 程度 にDNA合成 の増 加を 示す こと が示 唆さ れた。
IV.考察
カルボニル鉄を 用いることにより、鉄吸収の生理的な経路である経口投 与にて、細胞内 鉄 量が 対照 と比 較して約2倍量の鉄負荷肝細胞を得ることができ、初代培養実験に 供しえ た。そこで、四塩 化炭素を用いて細胞傷害を惹起し鉄との関連を検討した 結果、鉄負荷肝 細胞では、コント ロール肝細胞に比較して四塩化炭素による細胞傷害が著 しく増強され、
鉄負荷肝細胞の脆 弱性が明らかとなった。四塩化炭素は、脂質過酸化反応 により細胞を傷 害するとされてお り、四塩化炭素によって引き起こされる脂質過酸化反応 が、細胞内に増 加 して いる 鉄に より増強された可能性が考えられた。HGFは、鉄負荷肝細胞におけ る四塩 化 炭素 によ る細 胞傷害の増強を抑制した。本研究では 、DNA合成に及ばす作用は鉄 負荷肝 細 胞と 対照 肝細 胞との間に差がなかったことより、こ の作用がHGFの増殖促進効果 のみに よ ると は考 え難 く、HGFは 細胞内鉄過剰状態と関連して細胞保護作用を示す事が示 唆され た。
V. 結語
カル ボニ ル鉄 負荷 ラッ ト初 代培 養 肝細 胞を用いて、実験的肝細胞傷害におよば す鉄と HGFの 関 連を 検討 し、 以下 の結 果を 得た 。
1.カ ル ボニ ル鉄負荷によ り、細胞内鉄量が約倍量の遊離肝細胞が得られ、初代培 養に供 ー し得 た。
2.鉄 負 荷培 養肝細胞では 四塩化炭素による細胞傷害が増強し、鉄負荷肝細胞の脆 弱性が 示 唆さ れた 。
3.HGFは、 鉄負 荷肝 細胞 にお ける 四 塩化 炭素による細胞傷害の増強を抑制し、肝 細胞保
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護作用が示唆さ れた。
以上 より 、肝 細胞 内鉄 の増 加が 肝細 胞 の脆 弱性 をも たらす事を明らかにし 得たがHGFの 作用の観点からは、 むしろ過剰鉄の存在によりHGFが細胞保護作用を示すことが示唆された.
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学 位 論 文 審 査 の要 旨
学 位 論 文 題 名
Hepatocyte Growth Factor ( HGF ) に よる
培養鉄負荷ラット肝細胞への保護効果に関する実験的研究
I緒言
肝 臓 は 鉄 貯 蔵 臓 器 で あ り 、 鉄 と 肝 細 胞 傷 害 と の 関 連 は 古 く か ら 指摘 さ れ てい る 。 本 邦 に お け る 肝 硬 変 の 大 部 分 を 占 め る 肝 炎 ウ イ ル ス 性 肝 硬 変 に おい て も 、 病 理 組 織 学 的 に 肝 細 胞 に は 種 々 の 程 度 に 鉄 沈 着 が み ら れ 、 肝 病 変 の 進展 に 細 胞 内 過 剰 鉄 が 影 響を 及 ぽ して い る 可能 性 が 考 えら れ る 。一 方 、 ´ぼ 陸 肝 障害 の 増 悪 は 、 肝 細 胞 傷 害 に 基 づ く 細 胞 壊 死 と 、 そ れ に 引 き 続 く 再 生 の 不 均 一 によ る と 考 え る こ と が 出 来 る 。 肝 細 胞 の 再 生 ・ 増 殖 に 関 し て は 、HGFが そ の 主 役 と さ れ て い る が 、HGFに は 肝 細 胞 の 増 殖 促 進 作 用 以 外 に も 多 彩 な 作 用 が 報 告 さ れ 、 傷 害 か ら 肝 細 胞 を 保 護 す る 作 用 の あ る 可 能 性 も 考 え ら れ る 。 そ こ で 、 本 研究 で は 鉄 負 荷 ラ ッ ト よ り 作 製 し た 初 代 培 養 肝 細 胞 を 用 い て 、 鉄 と 実 験 肝 細 胞 傷と の 関 連 を 、 近 年 培 養 細 胞 の 細 胞 数 や 薬 剤 感 受 性 の 判 定 に 用 い ら れ て い る 、 MTT(3‑(4,5‑dimethylthiazol‑2‑yl)‑2,5‑diphenyl tetrazolium bromide)アッセイにて検 討し、HGFの影響をあわせ検討した。
n材料と方法
1、ラットへの鉄負荷方法
ウ イ ス タ ー 系 雄 性 ラ ッ ト に 、 カ ル ボ ニ ル 鉄 約800mgを 含 む ア ガ ー を 、 標 準 固 型飼料と共に摂食させて鉄負荷ラットを作成した。
2、初代培養肝細胞の作製
コラゲナーゼ溶液in situ持続濯流法により肝細胞を分離し、
10%F‐ BS加 ウ イ リ ア ム スE培 地 に て24穴 培 養 プ レ ー ト を 用 い 、 細 胞 数 は 1Xl 05/ml/wellの 低 密 度 に て 37゜ C、 5% CQ2気 相 下 に て 培 養 し た 。 3、肝の組織学的検討
ヘマ ト キ シリ ン ・ エ オジ ン 法 (H.E)及 びプル シアンブ ルー法に て染色 し観察し た。遊離肝細胞の鉄濃度は原子吸光法にて測定した。
4、MTTアッセイ
MTT溶 液 (5mg、 /ml)100Plを 添 加 し 、4時 間 培 養 後DMSOに て 細 胞 を 溶 解 し、吸光度を測定した。
5、実験的肝細胞障害の作製
四 塩 化 炭 素 を O〜10mMの 濃 度 で 添 加 し 24時 間 培 養 後 、MTTア ッ セ イ 及 び 培 地 中 のGOT濃 度 をUV法 に て 測 定 し た 。HGFは10ng/mlの 濃 度 で 四 塩 化 炭 素と同時に添加した。
6、DNA合成の測定