博士(医学)齋田吉伯 学位論文題名
NO 生 成阻 害剤 と非 選択的及び
選 択 的 シ ク ロ オ キシ ゲナー ゼ (COX) 阻 害剤の 併 用 に よ る 動 脈 管 収 縮 作 用
学位論文内容の要旨
くはじめに>
胎 児動脈管 はプロス タグラン ジンEによ り拡張し、 その合成 酵素であ るシクロオ キ シゲナー ゼ(COX)を阻害 すること で収縮す る。また動 脈管は一 酸化窒素(NO)によ っても拡張し、NO合成阻害剤であるN ーnitro―L−arginine methyl ester(L―NAME) に より収縮 する。COXに はCOX‑1とCOX一2の2つのアイ ソザイムが 存在する 。COX―2 選 択的阻害 剤はCOX―1阻 害による 消化管、 血小板などーの副作用が少なぃ抗炎症剤 と して、慢 性関節リ ウマチな どの治療 薬に使用されはじめている。rof ecoxibは近 年 開発され たCOX―2選択 的阻害剤 で、動脈 管収縮作用を有する。現在未熟児動脈管 開 存症の治 療に用い られてい るindomethacinは、COX−1、COX―2の両方を阻害する た め、消化 管出血等の副作用がある。L−NAMEはエンドトキシンショックでの使用報 告があり臨床使用ヘ向けて研究が進んでいる。
rofecoxib、indomethacin、L―NAMEによる動脈管収縮作用は投与量依存性であり、
低量では十分な収縮が得られない。
今 回、rofecoxib 0.3mg/kgとL−NAME 3mg/kgおよ びindomethacin0.3mg/kgと L−NAME 3mg/kgの 併用 を行い 、低量で の併用に よる動脈 管収縮作 用を検討し た。
く対 象と方法 >
rofecoxib0.3mg/kgとL−NAME 3mg/kg、indomethacinO.3mg/kgとL―NAME3mg/kg の単 独投与と 併用を行 った。
雌 雄 別 の 場 所 で飼 育 した ラ ッ ト(Wistarrats)を 午 後8時か ら 午前8時 ま で の間 の1夜 間同じ飼 育場所に収 容し性交 を促した 。その後 膣スメア に精子を 確認した場 合を 妊娠O日と した。ラ ットの妊娠 期間は21.5日 である。
それ ぞ れを 単 独 に投 与 し た群 と 、併 用 し た群 で 、投 与 後2時 間、4時間 、8時間 後 に 頚椎 脱 臼法 を し た後 、 帝王 切 開を施行 し胎仔を 迅速に娩 出した。 娩出直後の 胎仔をー80℃のドライアイスーアセトン溶液に投入して全身急速凍結法で固定した。
凍 結 固定 し た胎 仔 の 胸部 全 額面 を ミクロト ームで切 り、顕微 鏡下に断 面上の主肺 動 脈(P)と 動 脈 管(D)の 内 径 を 計 測 し て 動 脈 管/主 肺 動脈 内 径比(D/Pratio)を求
め た 。そ れ ぞれ を 単独 に 投与 し た 群と 併 用し た 群で のD/Pratioの 比 較は unpaired−t検定を行い、p<0. 05を有意差有りとした。
妊娠時期での収縮の違いを観察するため、以下の実験を施行した。全ての実験 で投与後2時間、4時間、8時間後のD/Pratioを計測した
1)妊娠の21日目(満期近く)の親ラットに、rofecoxib 0.3mg/kgを胃内注入し、
L−NAME 3mg/kgを腹腔内注入した。2)妊娠の19日日(満期以前)の親ラットに、
rofecoxibO.3mg/kgを胃内注入し、L−NANE 3mg/kgを腹腔内注入した。3)妊娠 21日目の親ラットに、indomethacinO.3mg/kgを胃内注入し、L−NAME 3mg/kgを 腹腔内注入した。4)妊娠19日目の親ラットに、indomethacin0.3mg/kgを胃内 注入し、L一NAME 3mg/kgを腹腔内注入した。
く結果>
胎仔は全例が奇形のぬい心臓大血管を有した。
1) rofecoxibとL−NAMEの投与では19日、21日ともに、2時間後、4時間後、8時 間後の全て の時間で、 併用で単独 投与より有 意に動脈管は収縮していた。
2) indomethacinとLーNAMEの投与では19日、21日ともに、全ての時間で併用で単 独投与より有意に動脈管は収縮していた。
3) COX阻害剤の収縮は21日で19日より強く認められ、L―NAMEの収縮は19日で21 日より強く認められた。併用では19日、21日ともに単独投与に対し全ての時間 で有意に収縮していた。
く考察>
今回の実験では、indomethacinO.3mg/kg、rofecoxibO.3mg/kg、L−NAME 3mg/kg を用いた。妊娠満期で、COX阻害剤であるindomethacinとrofecoxibがL−NAMEよ り強い収縮作用を持ち、妊娠満期以前ではL−NAMEがCOX阻害剤より強い収縮作用 を示した。indomethacinとL−NAME、rofecoxibとL−NAMEの併用では妊娠時期に関 わ ら ず 、 と も に 単 剤 投 与 時 に 比 べ 有 意 に 動 脈 管 収 縮 を き た し た 。 これまでの報告から、今回の投与量は最大収縮が得られる量に達しておらず、今 回の実験でも単独投与においては充分な収縮が得られなかった。またL−NAMEとCOX 阻害剤では胎仔動脈管収縮作用に妊娠時期による差があり、L−NAMEは妊娠満期以前 で強い収縮作用を有し、COX阻害剤は妊娠満期で強い収縮作用を有することが報告 されている。胎盤でのプロスタグランジン産生が妊娠後期から満期に増加すること、
NOが一般的に細胞増殖と線維化とアポトーシスを抑制することなどから、胎生期の 動脈管維持と出生後の動脈管閉鎖に対しては合目的的な変化であると思われるが、
この詳細な機序は不明である。
indomethacinは未 熟 児動 脈 管開 存症にはO.1〜O.4mg/kgで用いてお り、
rofecoxibはアメリカでは成人で12. 5〜50mg/dayで用いている。このことから今回 の投与量は実際に投与可能な量と考えられる。一方、L−NAMEはエンドトキシンショ ック時の臨床例での使用が報告されているが、副作用の問題が大きく、現時点での 早産児への投与は安全性の確認が不可欠である。
今回の結果は、未熟児動脈管開存症の治療において、COX阻害剤とNO合成阻害剤 であるL−NAMEの併用は、患児の在胎週数によらず治療効果が期待できることを示
唆する。また両者の併用により、それぞれの投与量を減量できれば、副作用の軽減
も期待できる。L −NAME での副作用の問題が残っているが、副作用の少ないCOX ―2
選択的阻害剤である
rofecoxibとNO 合成阻害剤であるL −NAME の併用は将来的に未
熟 児 動 脈 管 開 存 症 の 治 療 法 と し て 期 待 で き る と 考 え ら れ る 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
NO 生成 阻害 剤と非選択的及び
選 択 的 シ クロ オキ シゲ ナー ゼ (COX) 阻害 剤の 併 用 に よ る 動 脈 管 収 縮 作 用
胎 児 動 脈 管 は プ ロ ス タ グ ラ ン ジ ンEで 拡 張 し 、 そ の 合 成 酵 素 で あ る シ ク ロ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ(COX)を 阻 害 す る と 収 縮 す る 。 ま た 動 脈 管 は 一 酸 化 窒 素(NO)に よ っ て も拡 張し 、NO合成 阻害剤であるN ―nitro―L―arginine methyl ester(LーNAME)により 収 縮 す る 。COXに はCOX―1とCOX−2の2っ の ア イ ソ ザ イ ム が 存 在 す る 。COX―2 選 択 的 阻 害 剤 はCOX−1阻 害 に よ る 消 化 管 、 血 小 板 な ど へ の 副 作 用 が 少 な い 抗 炎 症 剤 と し て 、 慢 性 関 節 リ ウ マ チ な ど の 治 療 薬 に 使 用 さ れ は じ め て い る 。rofecoxibは 近 年 開 発 さ れ たCOX‑2選 択 的 阻 害 剤 で 、 動 脈 管 収 縮 作 用 を 有 す る 。 現 在 未 熟 児 動 脈 管 開 存 症 の 治 療 に 用 い ら れ て い るindomethacinは 、COXー1、COX‑2の 両 方 を 阻 害 す る た め 、 消 化 管 出 血 等 の 副 作 用 が あ る 。L―N」WEは エ ン ド ト キ シ ン シ ョ ッ ク で の 使 用 報 告が あり 臨床 使用 ヘ向 けて 研 究が 進ん でい る。rofecoxib、indomethacin、 L―NAMEに よ る 動 脈 管 収 縮 作 用 は 投 与 量 依 存 性 で 、 低 量 で は 十 分 な 収 縮 が 得 ら れ な い 。 申 請 者 は 、 こ れ ら の 薬 物 の 低 量 併 用 に お け る 動 脈 管 収 縮 作 用 を 検 討 し た 。 1) 妊娠 の21日目 (満期近く)の親ラットに、rofぬoxibO.3mg瓜gを胃内注入、LーNAME 3mg瓜gを 腹 腔 内 注 入 し た 。2) 妊 娠 の19日 目 ( 満 期 以 前 ) の 親 ラ ッ ト に 、rofecoxib O.3nlg瓜gを 胃 内 注 入 、L゜NANE3mg瓜gを 腹 腔 内 注 入 し た 。3) 妊 娠21日 目 の 親 ラ ッ ト に 、indomethacinO.3nlg/kgを胃 内注 入、L‐NAME3mg瓜gを腹 腔内 注入 した 。4) 妊 娠19日 目 の 親 ラ ッ ト に 、indomethacinO.3nlg/kgを 胃 内 注 入 、LーNAME3mg瓜gを 腹 腔 内 注 入 し た 。 投 与 後2時 間 、4時 間 、8時 間 後 に 頚 椎 脱 臼 法 を し た 後 、 帝 王 切 開 で 胎 仔 を 迅 速 に 娩 出 し た 。 娩 出 直 後 の胎 仔を ‐80℃の ドラ イア イ ス― アセ トン 溶液 で 全 身 急 速 凍 結 法 で 固 定 後 、 胎 仔 の 胸 部 前 額 面 を ミ ク ロ ト ー ム で 切 り 、 顕 微 鏡 下 に断 面上 の主 肺動 脈(P)と 動脈 管(D)の 内径を計測して動脈管 /主肺動脈内径比(D暦 ratio) を 求 め た 。 そ れ ぞ れ を 単 独 に 投 与 し た 群 と 併 用 し た 群 で のD暦ratioの比 較は unpaired―t検 定を 行い 、pくO.05を 有意 差有 りと した 。
1)rofc℃0xibとL−NAMEの 投 与 で は19日 、21日 と も に 、2時 間 後 、4時 間 後 、8
彦 秀
顕
邦 慶
林 田
畠
小 安
北
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
時 間 後 の 全 て の 時 間 で 、 併 用 で は 単 独 投 与 よ り 有 意 に 動 脈 管 は 収 縮 した 。 2) indomethacinとL―NAMEの 投与 で は19日 、21日 とも に 、全ての 時間で、 併用 では単独投与より有意に動脈管は収縮した。
3) COX阻 害 剤 の 収 縮 は21日 で 、19日 よ り 強 く 認 め ら れ 、L‑N」WEの 収 縮 は19 日 で 、21日よ り 強 く認 め られた。 併用では19日 、21日とも に単独投 与に対し 全ての時間で有意に収縮していた。
以 上 から 、 妊 娠満 期 で は、COX阻害 剤 がL−NAMEよ り 強 い収 縮 作 用を 示 し、 妊 娠 満 期 以 前 で はL―NAMEがCOX阻 害 剤 よ り 強 い 収 縮 作 用 を 示 す こ と 、 両 者 の併 用 は 妊娠 時 期に 関 わ らず 、 単剤 投与時に比 べ有意に 動脈管収 縮をきた すことが 明 ら か と な っ た 。L‑NAMEとCOX阻 害 剤 で は 胎 仔動 脈 管収 縮 作 用に 妊 娠時 期 に よる 差 が あ り 、L―NAMEは 妊 娠 満期 以 前で 強 い 収縮 作 用を 有 し 、COX阻 害剤 は 妊 娠満 期 で 強い 収 縮作 用 を 有す る こと は既に報告 されてい る。胎盤 でのプロ スタグラ ン ジ ン 産生 が 妊娠 後 期 から 満 期に 増加するこ と、NOが一 般的に細 胞増殖と 線維化と ア ポ トー シ スを 抑 制 する こ とな どから、胎 生期の動 脈管維持 と出生後 の動脈管 閉 鎖に 対しては 合目的的 な変化で あると思わ れる。indomethacinは未熟児動脈管開存 症には0.1〜0.4mg瓜gで用いており、rofecoxibはアメリカでは成人で12.5〜50mg/day で 用 いて い る。 こ の こと か ら今 回の投与量 は人の早 産児にも 投与可能 な量と考 え ら れ る。 一 方、L−NAMEは エ ンド 卜 キシ ン シ ョッ ク 時の 臨 床例で の使用が 報告さ れ て いる が 、副 作 用 の問 題 が大 きく、現時 点での早 産児への 投与は安 全性の確 認 が 不 可欠 で ある 。 し かし 、 未 熟児 動 脈管 開 存 症の 治 療に お いて、COX阻 害剤とN0 合 成 阻害 剤 であ るL‐NAMEの 併用 は 、患 児 の 在胎 週 数に よ らず治 療効果が 期待で きる ことを示 唆する。 また両者 の併用によ り、それ ぞれの投与量を減量できれば、
副 作 用の 軽 減も 期 待 でき 、 将来 的に未熟児 動脈管開 存症の治 療法とし て期待で き ると考えられる。
公開 発 表 に際 し 、副 査 の 安田慶 秀教授から 、動脈管 と他の動 脈との間 で薬物反 応 性 の差 が でる 機 序 、組 織 学的 な差、NO産生 と内皮細 胞成熟と の関係な どについ て 、 副 査 の北 畠 頭 教授 か らNO阻 害剤 の 副 作用 、NO阻 害 剤投 与 と 生体 に おけ るNO 産 生 変化 と の相 関 な どに つ いて 、ついで主 査の小林 邦彦教授 から、胎 児での研 究 の 早 産児 へ の応 用 の 問題 点 、今 後の研究の 方向性な どにっい て質問が あった。 最 後に フロアー から、動 脈管の変 化時の分子 生物学的 変化について質問があったが、
申 請 者 は 、 自 験 例 や 文 献 を 引 用 し て 概 ね 妥 当 な 回 答 を 行 っ た 。 本研 究 は 、未 熟 児動 脈 管 開存症 の薬物治療 に対する 基礎的研 究で、今 後の副作 用 の 少な い 有効 な 治 療法 と して の併用療法 の開発に っながる ことが期 待される 。 審査 員 一 同は 、 これ ら の 成果を 高く評価し 、大学院 課程にお ける研鑽 や取得単 位 な ども 併 せ申 請 者 が博 士 (医 学)の学位 を受ける のに十分 な資格を 有するも の と判定した。