博士(歯学)石 典芳 学位論文題名
試作 Au ― Cu − Co 歯科用金合金の諸特性 学位論文内容の要旨
緒言
歯科用金 合金は従 来から,Au‑Cu‑Ag三元系合金を基本として,それに機械的性 質およぴ鋳造性等の向上のために,他の金属を添加している.また機械的性質を向 上させる 時効硬化 は主にAuとCuとの規則格子の形成によるが,更に特性を向上さ せるためにPtやPdが添加されることが多い.現在,市販されている金属床用やロング スパンブ リッジ用 等の強度 を必要と する歯科用金合金はAu‑Cu‑Ag三元系合金にPt やPd等の希少金属を添加した多元金合金が多く使用されている.しかし,PtはAuよ り更に高価格であり価格変動も大きい.またPdは過去において,産出国に偏りがある ため産出 国の情勢 や工業界 での需要 の増加から供給不足となり2001年初頭にはlg 当たり4,000円を超える異常な価格になった事がある.これら希少元素を添加せずに 金合 金 の 機械 的 特性を向 上させる 元素のー っとしてCoが考えら れる.しか し,
Au‑Cu‑Co三元系歯 科用金合 金にっい ての研究報告は見当たらない.そこで本研究 ではAu‑Cu‑Co三 元歯科用 金合金を 試作し,Co添加が機 械的性質 および耐 食性に 及ばす影響を評価することを目的とした.
材料およぴ方法 1.試料
試作 金合金はAu:Cu重量比 率を80対20にし て,基本 金合金80%Au‑20%Cu(以 下,」¥uCu)と,それに1%Co (Co‑l),2%Co (Co‑2)及び3%Co (Co‑3)を添加した組成 の4種類とした.アルミナ坩堝中でアルゴンガス雰囲気下にて高周波溶解し、インゴッ トを 作製し,比較のためADA規格TypelVの市販金合金(以下,TypelV)を含め合計5 種類の金合金を用意した.それぞれ鋳造法により,硬さ測定,引張試験,組織観察,
X線回折およぴ溶出試験用の試験片を作製した.
2.熱処理
溶体 化処 理試 験片 は炭 素坩 堝中 で, 減圧 下に て800℃で10分間保持し,氷水中 に急冷して得た.溶体化処理後,および熱処理時間を1時間一定とし,100℃,150℃,
200℃ ,250℃の 各温 度で 時効 硬化処理し,試作金合金の最適時効硬化処理温度を 決定した.
3.特性解析
熱処理した試験片についてマイクロビッカース硬さ試験機を用いビッカース硬さの 時効温度依存性を調べた.引張試験はインストロン万能試験機を使用し,引張強さ 及び伸びを測定し,破断面を走査型電子顕微鏡にて観察した.試験片を塩酸・六価 酸化クロム液でエッチングし,光学顕微鏡で組織観察した.金属相の同定はX線回 折測定装置により行った.
4.溶出試験
溶出試験は試作金合金と市販のTypeIV,金合金(ソファード),金銀パラジウム合金 およびコバルトクロム合金を擬似体液に浸漬して37℃に30日問保持した後,ICP発光 分 析 装 置 を 使 用 し て Au, Cu及 び Co元 素 の 溶 出 定 量 分 析 を し た .
結果 1.熱処理条件
ビ ッカー ス硬 さの 時効 温度 依存性は各試作金合金とも溶体化処理時の硬さ180前 後から増加して200℃で最高の硬さを示したので,同温度を時効硬化処理の最適温 度と判断し,以下の実験はすべて200℃,1時間保持後,大気放冷を最適条件として 時効硬化処理を行った.
2.機械的特性
ビッカース硬さは溶体化処理時,全て180前後で材料間に有意差は見られなかった が,時効硬化処理時の平均値はAuCu: 268,Co‑l: 291,Co‑2: 313,Co‑3: 311, TypelV:271であり,Coを添加したものはAuCuよりも硬く,TypeIVをも上回る硬さを示 した.引張強さは時効硬化処理時,Co添加金合金は」¥uCuの760Mpaより増加し,平 均値Co‑1:781MPa,Co‑2: 820MPa,Co‑3: 822MPaとなり,Co添加量と共に上昇する 傾 向を示 し, 特にCo‑2及びCo‑3はTypelVの812MPaと同 等以上の強さを示した.
伸ぴは時効硬化処理時,4.5%〜7.0%程度を示したが,試作金合金の伸びの平均値 はCo添加量とともに増加し,特にCo‑2,Co‑3はAuCuに対して大きい伸びを示した.
破 断 面をSEM観 察 す る とい ず れ も多 数 の ディ ン プルが見 られ, 延性破壊 像であ る.溶 体 化 処理 時 は 大小 の デ ィ ンプ ル が 混在 し て おり , 時 効硬 化 処 理時 で は 試作 金合金は 微細化したディンプルが全体的にみられた.
3.組織の同定
試 作 金 合 金 は 溶 体 化 処 理 時 も 時 効 硬 化 処 理 時 もCo添加 量 と 共に , 結 晶粒 ば 微 細 化 し た. ま た 溶体 化 処 理 時は い ず れも 不 規 則固 溶 体 の等 軸 晶 から な る 均質 な組織で あ る . 時 効 硬 化 処 理 時 に お い て はAuCu及 ぴCo‑lで は 結 晶 粒 内 に 一 定 角 度 で 互 い に 交 差す る 線 状模 様 が見られ ,規則格 子形成 による格 子歪み 像と考え られる が,Co‑3 で は 結晶 粒 が 微細 化 し 明 瞭で は な った .X線回 折 を 行う と 溶 体化 処 理 時は (111),
(200)及 び(220)面 の 明 瞭 な ピ ー ク が 現 れ , 典 型的 な 面 心立 方 晶 の不 規 則 格子 相 と 同 定 さ れ た . 時 効 硬 化処 理 時 は新 た に 半値 幅 の 広い 相 の ピ ーク が 出 現し ,CuAuI型 規則格子相単相と同定された.
4.溶出試験
Au溶 出 量 は 試 作 金 合 金 も 市 販 合 金 も 検 出 限 界 以 下 か, 同 等 レベ ル で あっ た .Cu 溶出量は試作金合金では7.3 yg/cm2(Co‐2)から9.5嵋/cm2(Co‐1)の範囲で,市販合 金 で は5.2ng/cIn2から10.7嵋/cm2の範囲で あり, 同等の検 出量であ った.Co溶出量 は試作金合金では0.4鵬/cm2(Co‐1)から1.7嵋/cm2(Co‐3)の範囲で,市販コバルトク ロム合金の2.5ug/Cm2より少ない検出量であった.
考察
試 作Co添 加 金 合 金 の 機 械 的 性 質 は 時 効 硬化 処 理 時 ,ビ ッ カ ース 硬 さ はTypelVよ り 高く , 引 張強 さは 同等以上 であった .また 伸びは時 効硬化 処理時,TypeIVより若 干 低 い が ほ ぼ 同 等 で あ っ た . 時 効 硬 化 処 理 時 の 金 属 相 はCuAuI型 規 則 格 子相 単 相 と 同 定さ れ , 面心 正方 晶の規則 格子が形 成され ていると 判断さ れる,こ れが試 作金合金 の 機械 的 性 質を 向上 させた主 な要因で あると 考えられ る.ま た溶体化 処理時 ,引張強 さ と伸 び が とも にCo添 加量とと もに増 加したが ,これはCo添加量 とともに 結晶粒 が微 細 化す る 効 果に よ る もの と 考 え られ た . また 時 効 硬化 のCo添 加 量 依存 性にも 結晶粒 微 細 化 に よ る 強 化 効 果 が 寄 与 し て い る . 試 作 金合 金 のCu溶 出 量 はCu含 有市 販 歯 科 用合金 と同等 であり,C0溶出量 も市販歯 科用コ バルトクロム合金より少なく,耐食性は 良好で あると 考えられ た.
結論
基本金 合金80%Au‑20%Cuと,それ に1%Co,2%Co,3%Coを添加した組成の4 種類の 試作歯科 用金合金 を溶製し ,ADA規格TypeIV金合 金と比較 した.溶体化処 理およぴ時効硬化処理を行い,時効硬化性,ビッカース硬さ,引張強さ,伸び,破断 面のSEM観 察,組織 観察,X線 回折およ び溶出試験の実験を行い,検討した結果,
以下の結論を得た.
1.試 作 金 合金 は全て時 効硬化性 を有し, それは主 にCuAuI型規則 格子相の形 成よる.
2.Co添加量とともに結晶粒微細化が進行し,機械的性質はAuCuよりも顕著に向 上した.
3. C0・2及 び Co.3の 機 械 的 性 質 は1卯eIVと 同 等 以 上 に な っ た . 4.溶出試験から合金元素溶出量は各種市販歯科用合金と同等かそれ以下であり,
耐食性は良好であると示唆された.
5.以上 の結果か ら試作Au‐Cu‐Co金合金は1卯eWと同等の機械的性質及び耐食 性を有し,優れた歯科用金合金であると考えられる.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
試作 Au ― Cu ― Co 歯科用金合金の諸特性
審査 は、審 査員が一 同に会し 、申請者に対して提出論文とそれに関連した学科目につしゝて口答 試問 により行 われた 。以下に 提出論 文の要旨 と審査 の内容を 述べる。
1. 目的
ADA規 格TypelV歯 科用 金 合 金は 金 属 床 義歯 や 口 ング ス パ ンブ リ ッ ジな ど用 いられ ている優 れ た 金 合金 で あ る。TypeIV金合 金 はAu、Cu丶A暑 の ほか に 機 械的 性 質 の向 上の 為PtやPdが 添加さ れて いる。し かし、 それらは 高価で あったり 、供給が 不安定 になるこ とがあ る。その 代替金属の ー っ とし て と して の が 考え ら れ る。 し か し、Au‑Cu‑Co三元 系歯科 用金合金 につい ての研究 報告 は 見 当た ら な い。 本 研 究で はAu‑Cu‑Co金 合 金を試 作し、TypelVを比較に 用いて 、の添加 が機械 的性 質および 耐食性 に及ばす 影響を 評価する ことを目 的とし た。
2. 試料およ び実験
試作 金合金は 基本金 合金80%Au‑20%Cu( 以下、AuCu)と、 それに1%Co (Co‑l) 、2%の(Co‑2) 及 び3%Co (Co‑3)を 添 加 し た 組 成 の4種 類 を 作 製 し た 。 比 較 の た めADA規 格TypeIVの 市販 金 合金 (以下、TypeIV)を 含め合計5種 類の金合 金を用 意した。 それぞれ 鋳造法 により、 硬さ測 定、
引張 試験、組 織観察 、X線 回折およ び溶出 試験用の 試験片 を作製し た。溶 体化処理 試験片は800℃ で10分 間保持し 、氷水 中に急冷 して得 た。溶体 化処理 後、熱処 理時間を1時 間一定と し、100℃、
150℃ 、200℃ 、250℃の各温 度で時 効硬化処 理し、 ビッカー ス硬さの 時効温度依存性を調ベ試作金 合金 の最適時 効硬化 処理温度 を決定 した。引 張試験は インス ト口ン万 能試験 機で引張 強さお よび 伸 びを 測 定 し、 破 断 面をSEMで 観 察 した 。 ま た 光学 顕 微 鏡で 金 属 組織 観 察 した 。 金属 相の同 定 はX線回折測 定装置 により行った。溶出試験は試作金合金と市販のTypelV、金合金(ソフアード)、
金銀 パラジウ ム合金 およびコ バルト ク口ム合 金を擬似 体液に 浸漬して37℃に30日 間保持し た後、
ICP発 光 分 析 装 置 を 使 用 し て Au、 C1i及 び の 元 素 の 溶 出 定 量 分 析 を し た 。 3. 結 果
ピ ッ カー ス 硬さ の時効温 度依存 性は各試 作金合 金とも溶 体化処理 時の硬 さ180前 後から 増加し
夫 昇
郎
文
敦
理 畑
山
亘 大
横
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
て200℃ で 最 高の 硬 さ を示 し た の で、 同温度を 時効硬 化処理の 最適温度 と判断 し、以下 の実験 は す べ て200℃ 、1時 間 保持 後 、 大 気放 冷 を 最適 と し て時 効 硬 化処 理を行 った。ビ ッカース 硬さは 溶 体 化 処理 時 、 全て180前 後 で 材 料間 に 有 意差 は 見 られ な か った が 、 時効 硬 化 処理 時 はAuの:
268、Co−1:291、Cb‐2:313、CO‐3:311、 聊eN:271であり 、Cbを添加 したも のは聊eIV以上 の 硬 さ を示し た。引 張強さは 時効硬 化処理時 、AuCu:760MPa、Co‐1:781MPa、Co‐2:820MPa、 の ‐3:822MPaで あり 、 の 添 加量 と 共 に上 昇 す る傾 向 を 示し 、C0‐2及 びの ‐3は 聊eWの812MPa 以 上の強さ を示し た。伸び は時効 硬化処理 時、4.5%〜7.0%程度を示したが、伸びの平均値はの 添 加 量 とと も に 増加 し た 。破 断 面 をSEM観 察す る と いず れ も 延性 破 壊 像で 、 溶 体化 処 理 時は 大 小 の デ ィンプ ルが混 在してお り、時 効硬化処 理時では 試作金 合金は微 細化し たディン プルが 全体 的 に み られ た 。 組織 観 察 では 溶 体 化 処理 時 も 時効 硬 化 処理 時 もの添 加量と 共に、結 晶粒は 微細 化 し た 。また 溶体化 処理時は いずれ も不規則 固溶体の 等軸晶 からなる 均質な 組織であ る。時 効硬 化 処理時に おしゝ てはAual及びCo‐1では結晶粒内に一聢角度で互いに交差する線状模様が見られ、
規 則 格 子形成 による 格子歪み 像であ るが、の ‐3で は結晶 粒が微細 化し明 瞭ではな かった。X線 回 折を行うと溶体化処理時は(111)、(200)及び(220)面の明瞭なピークが現れ、典型的な面´己丶立 方 晶の不規 則格子 相と同定 された 。時効硬 化処理 時は新たに半値幅の広しゝ相のピークが出現し、
CuAuI型 規 則 格 子 相 単 相 と 同 定 さ れ た 。 溶 出 試 験 の 結 果 、 の 溶 出 量 は 試 作 金 合 金 で は 713〃酢m2(Co‐2)から9.5〃酢m2(の‐1)の範囲で、市販合金では5.2〃酢m2から10.7〃酢m2の範 囲であり、同等の検出量であった。Co溶出量は試作金合金ではO.4〃鮒(の ̄1)から1.7ロ飢;・m2
(Co.3) の 範 囲 で 、 市 販 コ パ ル ト ク 口 ム 合 金 の2.5ロ 伽n2よ り 少 な い 検 出 量 で あ っ た 。 4.結 諭
1. 試 作 金 合 金 は 全 て 時 効 硬 化 性 を 有 し 、 そ れ は 主 にCuAllI型 規 則 格 子 相 の 形 成 よ る。
2.Co添 加 量 と と も に 結 晶粒 微 細 化が 進 行 し、 機 械 的性 質 はAuの よ り も顕 著 に 向上 し た 。 3.の ー2及びの‐3の機 械的性 質はTゝ供Wと同等 以上にな った。
4. 溶出 試験 から合金 元素溶出 量は各 種市販歯 科用合 金と同等 かそれ 以下であ り、耐食 性は良 好であ ると示唆 された 。
5.以 上の結 果から試 作Aい0LlニICo金合 金はTシpeWと同等 の機械的 性質及び 耐食性を有し、優 れた歯 科用金合 金とな る可能性 が示され た。
各 審 査 員 が 行 っ た 主 な 質 問 は 、 以 下 の 通 り で あ る 。
(1) の 添 加量 を3%迄 に し た 理由 に つ いて
( 2) の 添 加 に よ り 強 度 も 伸 び も 増 加 す る 理 由 に つ い て
(3) 市 販 金合 金 と 比較 し て 鋳 造時 の 操作性や 鋳造精 度につい て
( 4) 酸 化 被 膜 形 成 の し や す さ と 接 着 性 へ 寄 与 に つ い て
( 5) 溶 出 特 性 に 基 づ く 合 金 の 生 体 適 合 性 に つ い て
こ れら の 質問に 対し申 請者はそ れぞれ 適切に回 答し、歯 科用金 合金を含 む歯科 用金属に ついて −150−
の 豊 富 な 臨 床 経 験 と 関 連 領 域 の 幅 広 い 知 識 を 有 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 以上のことから、全員の審査担当者は本研究が学位論文として十分値するものとし、申請者が 博士(歯学)の学位を授与される資格を有するものと認めた。