博士(歯学)Asad −uZ ―ZAMAN 学位論文題名
Histopathologic studies of DMBA ―induced adenocarcinomas 1ntheSubmandibularglandS0ffemaleWiStarratS . DMBA 誘発雌性ラット顎下腺腺癌に関する病理組織学的研究
学 位 論 文 内 容 の 要旨
緒 言
唾液腺の発癌実験の報告は多いが、その殆どが扁平上皮癌及び線維 肉腫に関するものであり、腺癌の誘発実験は非常に少なく、それも偶 発的に発生したものが多い。そのため唾液腺腺癌の発癌過程、進展な どについては不明な点が少なくない。これらの点を明らかにするため に、DMBA による顎下腺腺癌の誘発を試み、さらに、その形態および発 癌 過 程 を 解 明 す る こ と を 目 的 に 本 実 験 を 行 っ た 。
材料および方法
7〜9週齢 の雌性 ウイ スター ラッ ト94匹 を用 い、以 下の様に4群に分け た。1群(36匹 ) :エ ーテ ル麻酔 下で 前頚部 皮膚 を切開 し、 初回の み顎 下腺 に 径 約2mmの 外 傷 を 加 え 、O.05mlの1%DMBAアセ トン 溶液を 両側 の 顎 下 腺 に そ れ ぞ れ 注 入 し た 。DMBAの 投 与 は 隔 週 毎 に6回 行 い 、 DMBA6回 投 与 後4、5、6、8週 に 誘 発 腫 瘍 を 検 索 し た 。 なお 、18匹 に つ い て は 、DMBA6回 投 与 後1、2、3週 に腫 瘍 の 発 育 過 程 を検 索 し た 。 また 、5匹 のラ ッ ト には顎 下腺 への外 傷を 加えて から1週後 にDMBA投与 を開始 した 。2群 (18匹 ): 対照群 とし てアセ トン のみを同様方法にて 投 与 し 、6回 投 与 後4、5、6、8週 に 検 索 し た 。3群(25匹) :DMBA投 与に よ る 顎 下 腺 の 経 時的 変 化 を 検 索 す るた め に 、DMBAを1群と同 様に 投 与 し 、 DMBAl‑5回 投 与 後1、2週 に 、 そ れ ぞ れ に つ い て 検 索 し た。4群(15匹) :3群 の対照 群と して、 アセ トンの みを2群と同様に投 与し 、1〜5回 投 与後1、2週に顎 下腺 を検索 した 。顎下 腺は 病理組 織学 的、 組 織 化 学 的 、免 疫組 織化学 的に 検索し た。 摘出腫 瘍は10%中 性緩 衝ホ ル マ リ ン 固 定後 、通 法に従 いバ ラフイ ン包 埋し薄 切し た。染 色と して はHE染 色 、PAS染 色 、 銀 染色 な ど を 行 っ た 。 なお 、細 胞増殖 活性 を検索するために、5‑bromo‑2丶‑(leoxyuridine(BrdU)を屠殺1時間前に投
与し、抗BrdUモ ノクローナル抗体を用いて免疫染色を施した。
結果
DMBA誘 発 顎 下 腺 腫 瘍 は 早 い も の で は 、DMBA6回 投 与 後1週 に み ら れ た が 、 多 く は 、DMBA投 与 後4〜8週 に 認め られ た 。顎 下 腺腫 瘍 は結 節状 を 示し 、割 面 は灰 白色で軟ら かく、周囲は 薄い線維性結合 組織で囲まれ ていた。 顎下腺腫瘍の組 織像とその発 生頻度につい ては、腺癌は36例中2 4例(66% ) で、 そ のう ちの6例 (1/4)に 線 維肉 腫 が合併 し、局平上皮癌 は6例 (16% ) で 、 そ の う ち2例 (1/3)に 線 維 肉 腫 が 合 併 し て い た 。 組 織 学的 に、 腺 癌細胞は低円柱 状および立方 形の細胞から 成り、大き な 明る ぃ核 あ るい はクロマチ ンに富んだ核 を有し、多くの 細胞分裂像が 認 めら れた 。 その 組織像は基 本的には導管 状および腺様構 造を示し、時 に は、 充実 性 、小 管状、嚢胞 状、篩状、乳 頭状嚢腺腫様構 造などが混在 し てい た。BrdUの標識 細胞は導管部 および腺様部 の双方にみられ 、導管 部細胞(17.66土2.72 SD)は腺様部細胞(14.81土5.68 SD)より高い標識率 を 示し た。 導 管状 および腺様 構造を示す癌 胞巣は、それぞ れ細い好銀線 維束によ り囲まれていた 。導管状構造 の腔内に|まPAS陽性の分泌物がみ ら れた 。種 々 に拡 張した管状 構造を示す組 織の管腔壁は、 単層ないし二 層 の明 るい 導 管上 皮細胞から なっていた。 腫瘍内の嚢胞様 構造の腔内に は 、多 量のPAS陽性 物 質が み られ た。 腺 癌は 周 囲の 脂肪組織 および結合 組 織ヘ 浸潤 し てい たが、検索 した範囲にお いては、リンパ 節および臓器 への転移はなかった。
腺 癌 の 発 癌 過 程 に つい ての 検 索で は 、DMBA6回 投 与後1週 の残 存 顎下 腺 組織 に近 接 して 多数の小型 の導管状構造 の増生がみられ 、BrdU陽性細 胞 も 多 く み ら れ た 。DMBA6回 投 与 後3週 で は 、 残 存 顎 下 腺 組 織 に 近 接 し 、小 導管 様 構造 と混在して 、異型増殖を 示す種々の大き さの導管様構 造 が多 数み ら れ、 それら導管 上皮細胞は部 分的に多層化を 示し、BrdU陽 性細胞も多く認められた。
腺 癌 以外 の腫 瘍 としては、角化 傾向の著明な 高分化型扁平 上皮癌がみ ら れ、 それ ら は導 管が拡張し 嚢胞様構造を 示す部分に認め られた。線維 肉腫は異型増殖を示す紡錐形細胞から成っていた。
DMBA1〜5回 投 与 ま で の 顎 下 腺 組 織 の 経 時 的 変 化 に つ い て の 検 索 で は 、DMBA1回 投 与後1週 の顎 下 腺内 に は、 残存 顎 下腺 組 織に 近 接し た肉 芽 組織 中に 多 数の 上皮細胞巣 の増生がみら れ、それらは小 導管様および 扁 平 上 皮 様 構 造 を 示 し 、BrdU陽 性 細 胞 も 多 く 認 め ら れた 。DMBA2回投 与後1週の顎 下腺部には、 残存した顎下 腺組織に近接 して、多数の導管様 構 造 お よ び 少 数の 扁 平上 皮 様構 造 を示 す 上皮 細胞 巣 がみ ら れた 。DMBA 4回 投 与 後1週 の 顎 下 腺部 の組 織 像はDMBA2回 投与 後1週の 顎 下腺 部 の組 織 像 と 一 部 同 様で あ った が 、小 導 管様 構 造を 示す 上 皮に 多 層化 が みら れ 、 ま た 、 上 皮細 胞 の索 状 増殖 や 、一 部 に管 状な い し小 導 管様 構 造が 認 め ら れ た 。DMBA5回投 与 後1週の 顎 下腺 部で は 異型 増 殖し た 上皮 細胞
巣はやや大型になり、胞巣内には小導管様構造および小腔がみられた。
アセトンのみ1回投与1週後の対照群の顎下腺内には、顎下腺組織に近 接した肉芽組織中に、小導管様構造を示す上皮細胞巣の増生がみられ、
BrlU陽性細胞がわずかに認められた。
考察
誘発顎下腺腺癌は、諸家の報告に比し高頻度に発生した。諸家の報告 の実験方法と比較して、今回の実験では顎下腺に外傷を加えたことが相 違し てお り 、DMBA投 与開 始時 期が外 傷を加えた直後で も、1週後で も、腺癌の発生頻度に差異はなかった。これらのことから高頻度の顎下 腺 癌 誘 発 に 外 傷 が 関 与 し て い た 可 能 性 も 考 え ら れ た 。 誘発顎下腺腺癌は細胞増殖活性が高いにも関わらず、局所浸潤性はみ られるものの、転移はなかった。その理由は明かではないが、これらの 所見|よ諸家の報告と一致していた。
腺癌の組織像は、基本的には導管状および腺様構造を示し、諸所に PAS陽性物質も みられ、細胞増殖活性が高く、また、部分的に、充実 性、小管状、嚢胞状、篩状構造などが混在し、ヒトの腺癌との類似点が みられた。
腺癌の組織発生をDMBA投与による顎下腺組織の経時的変化から検討 した。主な早期の変化|ま、腺房の消失痕部の肉芽組織中の扁平上皮様構 造を示す上皮細胞巣と、小導管様構造の増生であり、DMBA投与回数が 4、5、6回と増加するに従い、小導管様構造の増生が主体となり、それ らは高い増殖活 性を示した。また、DMBA6回投与後1〜3週までの腺癌 発生過程の検索では、残存顎下腺の多数の小型の導管様構造が、過形成 を示す導管様構造に近接してみられ、その小導管様構造|ま介在部導管お よぴ一部は線条部導管に類似し、細胞増殖活性も高く、癌発育過程にお いて、重要な役割を演じているものと思われる。
結 語
1. 雌性ラットの顎下腺へ外傷を加え、DMBAを反復直接投与すること に よ り 顎 下 腺 癌 が 、 諸 家 の 報 告 に 比 し 、 高 頻 度 に 発 生 し た 。 2.腺癌は組織学的には、導管状、腺様構造、充実性、嚢胞状、篩状、
乳頭状嚢腺腫様構造などを示し、ヒトの腺癌との類似点がみられた。
3. 組織発生には過形成の導管上皮の異型的な増殖の関与が示唆され た。4. 本実験は、唾液腺腫瘍の研究に有効な動物モデルとなると思われ る。
学 位 論 文 審 査 の 要旨
学位論文題名
Histopathologic studies of DMBA ―induced adenocarcinomas 1ntheSubmandibularglandS0ffemaleWiStarratS ・ DMBA 誘発雌性ラット顎下腺腺癌に関する病理組織学的研究
唾 液 腺 腺 癌 の 誘 発実 験 | ま 非 常に 少な く、そ れも 偶発 的に 発生し た も の で 、 そ の た め 唾 液 腺 腺 癌 の 発 生 過 程 、進 展 様 式 な ど に つ い て は 不 明 な 点 が 少 な く な い 。 本 実 験 で は 顎 下 腺腺 癌 の 誘 発 を 試 み 、 そ の 形態および組織発生について検索した。
実 験 に は7〜9週 齢 の 雌 性Wistar系 ラ ッ ト94匹 を 用 い 、 以 下 の 実 験 を 行 っ た 。1) エ ー テ ル 麻 酔 下 で 、 初 回 の み 顎 下 腺 に 径 約2mmの 外 傷を加え、O.05mlの1%9,10‑dimethyl‑l,2,‑benz−anmぬcene(DMBA) ア セ ト ン 溶 液 を 、 両 側 の 顎 下 腺 に 隔 週 毎 に6回 注 入 し た 。 注 入 開 始 時 期 を 外 傷 を 加 え た 直 後 あ る い は1週 後 と し た 。DMBA6回 注 入 後8 週 ま で の 各 週 に 屠 殺 し た 。2)DMBAl〜5回 注 入 後1、2週 に 検 索 し た 。 顎 下 腺 は 病 理 組 織 学 的 、 組 織 化 学 的 、免 疫 組 織 化 学 的 に 検 索 し た 。 な お 、 細 胞 増 殖活 性 の 検 索 のた めに5・bromo‐2丶‐deoxyuddi鵬
¢rdU)を用いて免疫染色を施した。
本 実 験 に よ り 、 顎 下 腺 腺 癌 が 従 来 の 報 告 に 比 し 高 頻 度 に 発 生 し た 。 早 い も の で は 、DMBA6回 投 与 後1週 に 見 ら れ た が 、 多 く は 投 与 後4〜8週 に 認 め ら れ た 。 顎 下 腺 の 誘 発 腫瘍 の う ち 、 腺 癌 は36例 中 24例 (66% ) で 、 そ の う ち の1/4に 線 維 肉腫 を 合 併 し 、 扁 平 上 皮 癌
璋稔 博 宮 田 田 雨 脇 福 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
は6例 (16% )で 、 その うち1/3に線 維 肉腫 を 合併 して い た。 腺 癌発 生 に 外傷 を加え た時期による 差異はみられな かったが、高 頻度の顎下 腺 癌 誘 発 に 外 傷 が 関 与 し て い た 可 能 性 も 考 え ら れ た 。 腺癌 は 組織学的に 基本的に導管 状および腺様 構造を示し、 時には、
充 実 性、 小管状 、嚢胞状、篩 状、papillary cysticな構 造などが混在 し 、 ヒ ト の 唾液 腺 癌と の類 似 性が 認 めら れ た。 腺 癌のBrdUの標 識 率 は16士2で あ っ た 。 腺 癌 は 周 囲 組 織 ヘ 浸 潤 し て いた が 転移 はな か っ た。
DMBA投 与 に よ る 顎 下 腺 組 織 の 早 期 変 化 に つ い てみ る と、1回 投与 で は 、腺 房の消 失痕部の肉芽 組織中に多数の 小導管様およ び扁平上皮 様 構 造の 増生 が みら れ 、多 く のBrdU陽 性細 胞が 認められた。2回 投与 で は 扁平 上皮様 構造が減少し 、その後、投与 回数の増加に 伴い小導管 様 構 造の 増生が 主体となり、 一部に導管上皮 の多層化、管 状構造、索 状増殖がみられた。
腺 癌 の 発 癌 過 程 で は 、DMBA6回 投 与 後1週 で は 、 残 存 顎 下 腺 組 織 の 過 形成 を示す 導管様構造に 近接して多数の 小型の導管状 構造の増生 が み られ 、BrdU陽 性 細胞 も多 く 、投 与 後3週では、 小導管様構造 に多 数 の 導管 様構造 の異型増殖が 混在した。それ ら導管様構造 は介在部導 管 お よび 一部は 線条部導管に 類似し、細胞増 殖活性も高く 、顎下腺癌 の 組 織発 生には 、小導管の過 形成と導管上皮 の異型増殖が 関与するも のと考察している。
本 実 験 に よ り 、 雌 性 ラ ッ ト の 顎 下 腺 へ 外 傷 を 加 え 、DMBAを 反 復 直 接 投与 するこ とにより組織 学的に、ヒトの 腺癌との類似 性を示す顎 下 腺 癌を 、諸家 の報告に比し 、高頻度に発生 させ得ること を明らかに 示し、さらに、その組織発生に|ま小導管の過形成と゛導管上皮の異型的 な増殖が関与しているものと考察を加えている。
論文 の 審査は審査 員全員により 口頭で行われ た。論文提出 者に要旨 を 説 明さ せた後 、論文の内容 、および関連事 項について質 問がなされ
たが、いずれについても明快な回答が得られた。
本研究は、ラ ットを用いその顎下腺に外傷を加えた後、DMBAを反 復投与することにより、ヒト腺癌との類似性を示す唾液腺癌を、従来 の報告に比し高頻度に発生させたこと、さらにその病理発生について 詳細に検討し、発癌過程の一端を明らかにしたことが高く評価された。
また、本研究は唾液腺腫瘍の研究に有用な動物実験系になり得るもの と思われる。
以上のように、本研究業績は口腔病理学の分野のみならず、広く関 連領域の発展にも寄与するところ大であり、博士(歯学)の学位授与 に価するものと認められた。