博士(歯学)石井教生 学位論文題名
歯科用高出カレーザーの透過率に関する研究 学位論文内容の要旨
緒言
歯科矯正治療においては、歯の移動を速やかに行う事が重要であることから、
レーザーによる組織の活性化という着想に至った。すなわち、表面性状に影響 を与えずに、有効なエネルギー量のレーザー照射を行い、歯根膜や歯槽骨とい った深部の組織のりモデリングを活性化し、歯の移動を速やかに行うという考 えである。このためには深部にエネルギーを効率的に到達させやすい高出カレ ーザーが望ましいが、高出カレーザーにっいては、組織活性はもとより、組織 透過率そのものを検討した報告が少ない。今回、各種歯科用高出カレーザーの 組織透過率を明確にすることを目的として、規格化された工業製品である人工 真皮を用いて検討した。
資料と方法
資料に はコラーゲ ン製人工真 皮(テルダ ーミステル モバイオ社製以下人 工真皮)を用いた。一方、歯科用高出カレーザー発生装置としては半導体レー ザー、Nd‑YAG レーザー、Er‑YAG レーザーおよぴ炭酸ガスレーザーを用いて下 記の検討を行った。
実験1 .照射による臨界値の測定
レーザー光を所定の条件で照射した際に、人工真皮の表面性状に変化が無く、
最も高い出カかつ最も近い距離が得られる状態を臨界値と定義し、各レーザー 発生装置の臨界値を求めた。照射時間は180 秒とし、レーザー照射器先端から 人 工真 皮 ま での 距 離を 40mm 〜10mm ま で 10mm 間隔 で、臨界 値を求めた 。な お10mm の距 離で最高出 カにて照射した際にも、臨界値に至らない場合は 1‑¥
5mm の距離で同様の実験を繰り返した。
実験2 .各種レーザーの人工真皮透過率測定
臨界値のデータをもとに人工真皮の透過率計測を行った。出カの検出にはサ
ー モパ イ ル セン サ ー方 式 レー ザ ーパ ワ ーメ ー ター (30A‑SHOPHIR 社製 エル
サレ ム)を用い た。透過率 の計測は人 工真皮の表 面から 40mm (検知面から
50mm) の部位にレーザー照射器先端が来るように設定して行った。基準値とし
て、レーザー照射器先端を検知面から50mm に設置し人工真皮の無い状態でレ ー ザー出 カを 計測 した 。出力 条件 は3.5W (Nd‑YAG レー ザー のみ3.6W) パル ス波とした。パルス波のDuty 比は各レーザー発生装置で可及的に近い値とした。
計測は3 回行い平均した。これらの各種レーザー光における透過率について一 元 配 置 分 散 分 析 を 行 っ た 後 、 Tukey に よ る 多 重 解 析 を 行 っ た 。 実験3 .半導体レーザーにっいての検討
1 )レーザー照射器先端と検知面の距離によるレーザー強度の変化に関する検討 レ ー ザ ー 照 射 器 先 端 と 検 知 面 の 距 離 を 10mm か ら 70mm ま で 各 10mm 間 隔 で変化させ、レーザー強度を計測した。出カにっいては連続波とパルス波を用 い 、両者 とも 1.0 〜 4.OW ま で各 1.OW 間隔にて3 回計測した。算出された連続 波 と パ ル ス 波 の 両 者 に お け る レ ー ザ ー 強 度 を t 検 定 に て の 検 定 し た 。 2 )レーザー照射器先端と人工真皮の距離による透過率の差異に関する検討 レーザー照射器先端と人工真皮の距離の違いによる透過率に対する影響を検 討した。出カについては1 )と同様の条件とした。基準値は人工真皮を介在させ ない状態で測定した。透過率は測定された計測値の基準値に対する百分率とし て算定し、3 回計測して平均値を用いた。これらの数値について一元配置分散分 析を行い検定した。
結果
実験1 .高出カレーザー発生装置による臨界値の測定
半導体レーザーでは距離をImm とした場合は4.5W が臨界値であるが、距離 が 2mm にお いて は最 大出カである20W においても表面性状の変化は見られな か っ た 。 Nd‑YAG レ ーザ ーで は距離 1mm の時 4W で 表面 性状 は変化 せず 、5mm の距離では最高出カである7 . 2W でも表面性状が変化しなかった。Er‑YAG レー ザ ーで は0.5W 10mm で表面 性状 が変 化せ ず、 40mm の 距離で最高出カである 3.5W でも表面性状の変化は見られなかった。炭酸ガスレーザーは最少出カであ る 1.OW の距 離10mm が臨界値であった。これらの結果より人工真皮の表面性 状に影響を与えず、最も高出カで最も近くからの照射が可能であったのは半導 体レーザーであった。
実験2 .各種レーザー光の人工真皮透過率測定
透過率が高かったのは、半導体レーザーで約 24 %、次いでNd‑YAG レーザー で約18 %、さらに、炭酸ガスレーザーレーザー 2 `3 %と Er‑YAG2 〜 3 %の順で あった。これより、Er‑YAG レーザーと炭酸ガスレーザーはともに透過率が低か った。一方、半導体レーザーの透過率は他の3 っの透過率に対して有意に大き く 、Nd‑YAG レーザ ーもEr‑YAG レーザー、炭酸ガスレーザーに対して有意に 大きかった。Er‑YAG レーザーおよび炭酸ガスレーザー間においては有意差はな かった。
実験3 .半導体レーザーにっいての検討
1 )レ ーザ ー照 射器 先端と検知面の距離によるレーザー強度の差異に関する検討 半 導 体 レ ー ザ ー は 連 続 波 、 パ ル ス 波 の ど ち ら で あ っ ても 約 40mm の 距 離 で 50 % 程度 の減弱 が認 めら れる 事が わか った 。ま た、距離によるレーザー強度の 差 異 に っ い て 連 続 波 と パ ル ス 波 と の 間 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 2 ) レ ー ザ ー 照 射 器 先 端 と 人 工 真 皮の 距 離 に よ る 透 過 率 の 差 異に 関する 検討 透 過率 は 人 工 真 皮 か ら の 距 離あ るい は連 続波 かパ ルス 波か によ らずす べて 22.82 〜25 .60 %であった。連続波とパルス波の間、またそれぞれにおける異なる 距離の結果間には有意差はなかった。
考察
高出 カレ ーザー 発生 装置 によ る臨 界値 の測 定に おい ては 、Er‑YAG レーザーお よ び炭 酸ガ スレー ザー の両 者は 表面 性状 の変 化を おこ しや すいが、半導体レー ザ ーお よぴ Nd‑YAG レー ザー は、 近距 離で も表 面性 状に 変化 を与えにくかった。
こ れは 熱や 他の物 理的 要因 によ る要 因が 強い ため と考 えら れる。一方、各種レ ー ザー 光の 人工真 皮透 過率 測定 結果 から 、今 回の 実験 結果 はこれまでの実験者 が 行っ た実 験との 間に 違い が見 られ た。 実験 方法 等が 異な るため、直接比較は で きな いも のの、 一般 に透 過率 には 、試 料の 材質 のみ なら ず照射するレーザー 光 の波 長や 被照射 体の 色調 船よ び水 分量 など が影 響を 与え るといわれている。
こ れより、レーザー発生装置の特徴や人工真皮の特徴が要因として考えられる。
な お、 これ まで工 業製 品を 用い た同 種の 実験 はな いが 、構 造が比較的均質であ る 等の 利点 から、 人工 真皮 は条 件設 定を 一定 にで きる とい う優れた特長を有す ると考えられる。
次に 半導 体レー ザー にっ いて の検 討で は、 レー ザー 照射 器先端と検知面の距 離 によ るレ ーザー 強度 の変 化に 関す る検 討か ら、 連続 波か パルス波かによらず 距 離に より 一定の 減弱 が見 られ た。 本レ ーザ ー発 生装 置は 、レーザー光が拡散 さ れて 照射 される タイ プの レー ザー 照射 装置 であ るこ とが 、この様な結果を生 じ た大 きな 要因と 考え られ る。 また 、レ ーザ ー照 射器 先端 と人工真皮の距離に よ る透 過率 の差異 に関 する 検討 結果 から 、人 工真 皮の 透過 率は、発振方式(連 続波およびパルス波)、出力・距離を問わず、ほば一定の値を示した。すなわち、
一 定の 距離 と出カ を設 定す ると 、対 象と なる 部位 に到 達す るレーザー光の量は
確 定出 来る ことが 示さ れた 。こ れら から 被照 射体 に与 える 影響や効果を考慮し
た 照 射 条 件 で あ る パ ワ ー 密 度 を 決 定 す る 事 が 可 能 で あ る と 考 え る 。
以上 の結 果より 、組 織深 部へ のレ ーザ ー光 の透 過を 考え ると、半導体レーザ
ー が最 も安 全に、 をお かっ 効率 的に レー ザー 光を 到達 させ ることができる可能
性が示された。
学位論文審査の要旨 主査 教授 飯田順一郎 副査 教授 中村太保 副査 教授 亘理文夫
学 位 論 文 題 名
歯科用高出カレーザーの透過率に関する研究
審査は審 査員全 員出席の 下で行 った。まず申請者に提出論文要旨の説明を求めるととも に、適宜提出論文の内容と関連分野に関する説明を求め、その後、口頭試問の形式でその 内 容 お よ ぴ 関 連 分 野 に っ い て 試 問 し た。 ま ず 申請 者 か ら以 下 の 説明 が な され た 。
【 緒言】 歯科矯正 治療で は、歯の 移動を速 やかに 行う事が 重要で ある。表面性状に影響 を 与えず に、深部歯周組織のりモデリングの活性化に有効なエネルギー量のレーザー照射 を 行う事 が出来れぱ、歯の移動を速やかに行える。本研究では人工真皮を組織材料に、エ ネルギー量の高い各種歯科用高出カレーザーの照射が表面性状に与える影響と組織透過率、
半 導 体 レ ー ザ ー の 距 離 に よ る 減 弱 と 透 過 率 に つ い て 検 討 す る 事 を 目 的 と し た 。
【 試料と 方法】試 料には コラーゲ ン製人工 真皮を 用いた。 歯科用 高出カレーザー発生装 置として半導体(波長805nm)、Nd‑YAG(1.06弘m)、Er‑YA G(2.94p mおよび炭酸ガス(10.6 pm)の各レーザー光を用いて以下の検討を行った。
実験1.〔臨界値の測定〕人工真皮の表面性状が変化しなぃ最大のエネルギー条件(臨界値)
を求めるため、レーザー照射器先端から人工真皮までの距離を変化させ、各々180秒間照射 して表面性状を実態顕微鏡で観察した。
実 験2.〔各種 レーザー の人工 真皮透過 率測定〕人工真皮の表面から40mmの部位にレーザ ー照射器先端が来るように設定し、透過率を計測した。出力条件は3.5〜6Wパルス波とし、
3回計 測し平均 した。得 られた 各種レー ザー光の透過率について一元配置分散分析の後、
Thkeyによる多重解析を行った。
実験3.〔半導体レーザーについての検討〕
1) レ ー ザ ー 照 射 器 先 端 と 検 知 面 の 距 離 に よ る レ ー ザ ー 強 度 の 変 化 に 関 す る 検 討 計 測 す る距 離 を10mm〜70mm各10mm間 隔 で 変化 さ せ レー ザ ー 強 度を 計 測 した 。1.O
〜4.OWまで各1.OW間 隔で3回計測し 、連続 波とパル ス波に おけるレーザー強度をt検定 した。
2冫 レ ー ザ ー 照 射 器 先 端 と 人 工 真 皮 の 距 離 に よ る 透 過 率 の 差 異 に 関 す る 検 討 出カは1)と同様の条件とした。基準値は人工真皮を介在させない状態で測定し、透過率 ―495―
は測定 された 計測値の 基準値に 対する百分率として算定し3回計測して平均値を用いた。
結果について一元配置分散分析を行い検定した。
【 結果 】 実 験1. 〔 臨界 値 の 測定 〕 半 導 体で は4.5Wで 距離Imm、Nd‑YAGでは4.OWで 距 離Imm、Er‑YAGで は0.5Wで10mm、 炭 酸 ガ ス は 最 少 出 カ で あ る1.OWで 距 離10mm、 がそれぞれの臨界値であった。
実験2.〔人 工真皮 透過率〕 透過率 が高い順に、半導体で約24%、Nd‑YAGで約18%、炭酸 ガス2〜3%、Er‑YAG2〜3%であ った。検 定の結 果、半導 体の透過 率は他 の3つ の透過 率 に対し て有意 に大きく 、Nd‑YAGもEr‑YAG、炭酸ガスに対して有意に大きかった。ErーYAG および炭酸ガスの間では有意差はなかった。
実験3.〔半導体レーザーにっいての検討〕
1) レ ー ザ ー 照 射 器 先 端 と 検 知 面 の 距 離 に よ る レ ー ザ ー 強 度 の 差 異 に 関 す る 検 討 連続波 、パル ス波の両 者で40mmの 距離で約50%程度 の減弱が認められ、検定の結果連 続波とパルス波との間に有意な差は認められなかった。
2) レ ー ザ ー 照 射 器 先 端 と 人 工 真 皮 の 距 離 に よ る 透 過 率 の 差 異 に 関 す る 検 討 透過率は人工真皮からの距離、連続波かパルス波かによらず全て22.8 '‑‑25.6%であった。
連続波とパルス波の間、またそれぞれに茄ける異ぬる距離の結果間には有意差はぬかった。
【考察 およぴ結論】組織深部へのレーザー光の透過を考えると、半導体が最も安全に、な お か つ 効 率 的 に レ ー ザ ー 光 を 到 達 さ せ る こ と が で き る 可 能 性 が 示 さ れ た 。
以 上 の論 述 に引き 続き、以 下の項 目を中心 に口頭 試問を行 った。
1. レー ザ ー を使 用 す る目 的 に つい て 2.各レ ー ザ ーの 波 長 と効 果 の 相違 に っ いて 3.レー ザ ー の水 に よ る吸 収 と 拡散 に っ いて 4.今後 の 研 究の 展 望 にっ い て 。
歯 科矯正治 療にお いては、 矯正カ により歯 周組織 の改造現 象を惹起 して歯 を移動させ 不 正咬合の 治療を 行うが、 その組 織反応を より活性 化させ れば歯の 移動速 度の亢進 につ な がり、治 療期間 の短縮に っをが る。申請 者はこの 組織活 性化の方 法のー っとして 高出 カ レーザー の照射 に着目し 、各種 レーザー 光の組織 透過性 に関する 基礎的 データを 提示 し た。その 結果、 半導体レ ーザー が最も組 織に障害 を与え ることな く、透 過性が高 いこ と を示した 。この 成果は今 後の歯 科矯正学の発展のために重要な情報を与えたものと高く 評 価できる 。加え て、試問 に対す る回答は 適切なも のであ り、申請 者は本 研究に直 接関 係 する事項 のみな らず、関 連分野 における基礎的な広い学識を有していると認められた。
ま た、本研 究を基 にして今 後益々 発展させて行く可能性があるものと評価された。よって 審査担当者全員は、申請者は博士(歯学)の学位を授与される資格を有するものと認めた。
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