博士(工学)石井 悟 学位論文題名
間接仮想境界積分法による衝撃応力解析 学位論文内容の要旨
物理量が時間とともに変化する現象は多くの分野で見受けられる。特に,応力 波の伝ぱを伴う衝撃現象は構造物などの思わぬ損傷や破壊を招<ために,その解 明は極めて重要である。物理現象を定量的に明らかにする方法の1 っとして数値解 法がある。線形静弾性問題に対しては様々な数値解法が提唱され,それらは実用 の域に達した感があるが,衝撃問題の数値解法に関する研究は,その重要性が認 識されながらも,十分に行われているとはいい難い。したがって,衝撃現象解明 のための数値解法を確立することは,工学上重要な課題の1 っと考えられる。とこ ろで,衝撃問題は,基本的に,静的問題の数値解法を拡張することで扱うことが できる。現在,衝撃問題によく用いられているのは,有限要素法,境界要素法そ して差分法である。この中で,最も広く用いられている有限要素法は,複雑な形 状を持つ場合と非線形挙動を含む多くの問題に適用可能であるが,領域型の解法 であるため,実用問題では入カデー夕作成に多大な労カが必要であり,また計算 機の記憶容量で大きな制約を受ける。これに対し,動的問題への適用も行われつ っある境界要素法は,境界型の解法であるため,入カデ一夕作成が容易であり,
計算時間も短縮できるが,境界とその近傍での解析精度が著しく低下するので,
境界上の応カが対象となる応力集中問題や接触問題では,得られた結果の信頼性
が損なわれる。古くから用いられてきた差分法は,有限要素法と同様に,非線形
問題への適用が可能であるが,複雑な境界形状の取り扱いが困難である。以上の3
解法を線形問題に限って比較すると,境界要素法が有利と思われる。さて,線形
静弾性境界値問題の一数値解法として,ポテンシヤル論に基づ<間接仮想境界積
分法がある。これは仮想境界面を考えることにより,境界上の特異積分を必要と
しないことや,対象としている境界面を含む全領域において滑らかで連続なポテ
ンシヤル場が得られるために,境界とその近傍でも高精度の解析が可能となるこ
となど,一般の境界要素法に比べて優れた点を持っている。したがって,この間
接 仮 想境 界 積 分 法 の 衝 撃 問 題 へ の拡 張 は , 意 義 あ るこ とと考 えら れる 。
本論文は,このような観点から,衝撃問題に対する間接仮想境界積分法を提示
し,その妥当性と有用性を明らかにするものであり,全5 章から構成されている。
その概要は以下の通りである。
第1 章は緒論であり,衝撃問題の数値解法に関する現況と問題点に触れ,本研 究の目的と意義について述べている。
第2 章は衝撃問題に対する基礎理論である。ここでは,微小変形理論に基づく 運動方程式の解を,物理空間ではスカラーポテンシヤルとべクトルポテンシャル の和で,ラプラス像空間ではガラーキンのべクトルポテンシャルで示している。
第3 章は解析法である。ポテンシャル論に基づく一重層ポテンシャルを導入し,
間接仮想境界積分法による衝撃問題の解析手順について述べている。この解法は,
物理空間においては時間関数の集中カを基本解とし,ラプラス像空間においては 集中カを基本解とするが,いずれも,未知密度関数に関するフレヅドホルム形積 分方程式を解くことに帰着される。さらに,これらの積分方程式の数値解析法に ついて述べている。
第4 章は前章で述べた
2解法による数値解析例である。まず,時間依存基本解に よる解法によって,球か内面に衝撃内圧を受ける無限体の問題と2 剛平面によって 衝撃圧縮される弾性球や衝突する
2弾性球の動的接触問題を扱っている。前者では,
解析解との比較から,本解法の妥当性を明らかにし,後者では,ヘルツの接触理 論を用いた準静的解との比較から,本解法のこの種の動的接触問題に対する適用 性を示している。次に,ラプラス変換基本解による解法では,球か内面に衝撃内 圧を受ける無限体の問題と切欠き丸棒の動的応力集中間題を扱い,前者では,解 析解ならびに既存解との比較から本解法の妥当性を明らかにし,後者では,動的 応力集中間題に対する適用性を示している。境界条件の時間依存性で2 解法を比較 すると,動的接触のように,境界条件が時間に依存するときは,時間依存基本解 による解法が有用であり,境界条件が時間に関して既知のときは,ラプラス変換 基本解による解法が有利であることが確かめられている。
第5 章は結論であり,本解法が衝撃問題に対する有カな一数値解法であること を述べている。
なお,付録に,本解法による結果を検討するため,球か内面に衝撃内圧を受け
る無限体の解析解,接触する2 弾性球の静的解析解と衝突する2 弾性球の準静的解
析解を示してある。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
間接仮想境界積分法による衝撃応力解析
衝 突 現 象 は 微 小 時 間 内 に 生 ず る 非 定 常 現 象 で あ る た め 、 実 験 的 に も 数 理 的 に も 、 そ の 正 確 な 解 明 が 困 難 と さ れ て い る 。 近 年 、 線 形 静 弾 性 問 題 の 有 カ な 数 値 解 法 と し て 境 界 型 の 境 界 要 素 法 が 登 場 し 、 そ の 後 の 改 良 を 経 て 、 そ の 適 用 範 囲 を 幾 何 学 的 非 線 形 性 や 材 料 非 線 形 性 を 含 む 問 題 な ど に 拡 げ て き た 。 し か し 、 そ の 方 法 を 衝 撃 問 題 に 適 用 す る た め の 研 究 は 十 分 に 行 わ れ て い な い 。
本 論 文 は 、 線 形 静 弾 性 問 題 の 一 解 法 と し て 提 示 さ れ た 間 接 仮 想 境 界 積 分 法 を 、 線 形 動 弾 性 問 題 の 解 法 へ と 拡 張 し 、 そ の 適 用 性 と 有 用 性 に つ い て 、 基 礎 的 研 究 を 行 っ た も の で あ り 、 主 要 な 成 果 は 、 次 の 点 に 要 約 さ れ る 。
@ 微 小 変 形 理 論 で の 運 動 方 程 式 の 解 を 、 物 理 空 間 で は ス カ ラ ー ポ テ ン シ ャ ル と べ ク ト ル ポ テ ン シ ャ ル で 、 ラ プ ラ ス 像 空 間 で は ガ ラ ー キ ン の べ ク ト ル ポ テ ン シ ャ ル で 表 す が 、 い ず れ も 基 本 解 と し て 、 ポ テ ン シ ャ ル 論 に 基 づ く 一 重 層 ポ テ ン シ ャ ル を 導 入 し た 。
◎ 時 間 依 存 の 境 界 条 件 が 未 知 の と き 、 物 理 空 間 で 時 間 の 関 数 で あ る 集 中 カ に 対 応 す る 解 を 用 い 、 そ れ が 既 知 の と き は 、 ラ プ ラ ス 像 空 間 で 集中 カに 対 応す る解 を取 上げ 、 こ れ ら の 解 を 用 い た 間 接 仮 想 境 界 積 分 法 に よ る 解 析 手 順 を 定 式 化 し 、 い ず れ も 、 未 知 密 度 関 数 に つ い て の フ レ ッ ド ホ ル ム 形 積 分 方 程 式 を 解 く こ と に 帰 着 さ れ る こ と を 示 し た 。
◎ 本 解 法 に よ っ て 、 厳 密 解 や 信 頼 す べ き 数 値 解 の あ る2‑3の 問 題 を 解 析 し 、 容 易 に 精 度 の 高 い 解 を 得 る こ と が で き る こ と で 、 本 解 法 の 適 用 性 と 有 用 性 を 示 し た 。
@ さ ら に 、 今 ま で 準 静 的 に し か 解 か れ て い な い 、 剛 平 面 に 衝 突 し 跳 ね 返 る 弾 性 球 の カ 学 挙 動 を 明 ら か に し 、 比 較 的 衝 突 速 度 の 低 い と き の 準 静 的 解 析 解 の 妥 当 性 を 評 価 す る と と も に 、 こ の 種 の 動 的 接 触 問 題 に 新 し い 知 見 を 加 え た 。 こ れ を 要 す る に 、 著 者 は 、 層 ポ テ ン シ ャ ル を 基 本 解 と す る 間 接 仮 想 境 界 積 分 法 を 衝 撃 問 題 に 初 め て 適 用 し 、 衝 撃 問 題 の 解 法 上 有 益 な 新 知 見 を 得 て お り 、 材 料 力 学 の 進 歩 に 貢 献 す る と こ ろ 大 で あ る 。
よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 され る資 格 ある もの と認 める 。