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博士(歯学)石尾知亮 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(歯学)石尾知亮 学位論文題名

脳幹スライス標本における中枢ニューロンの 生命カに対するポ1J エチレングリコールの作用

学位論文内容の要旨

  脳スライス法はこの数十年間において確立された実験方法であり,単一ニュ ーロンの機能やシナプス伝達を調べる実験に広く用いられている.脳を薄切す る際に運動ニューロンが著しく大きな損傷を受けることは経験的に知られてい たが,これを定量的に示した報告はなく,そのメカニズムにっいても不明であ った.ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol,PEG)を投与することで,

脊髄運動ニューロンの経時的な生存率が増加するという報告がされて以来,多 くの研究が行われてきたが,形態や膜特性の異なる脳の神経細胞や自律系のニ ユーロンに対しても同様の効果があるのかにっいては全く不明である.そこで 本研究では,運動ニューロンと自律系ニューロンのin vitroにおける生命カの違 いを定量的に明らかにし,また,各ニューロンに対するPEGによる細胞死抑制 効果にっいて明らかにすることを目的とした.このために,前頭断脳幹スライ ス標本中の運動ニューロンである舌下神経核と,自律系ニューロンである孤東 核および最後野の各部のニューロンの経時的な生存率を測定し,PEGの効果を 比較し検討した

  SD系雄性ラットを用いて舌下神経核,孤束核,最後野を含む前頭断脳幹スラ イス標本を作製した.従来の電気生理学的実験に用いていた脳スライス作製法 に従って作製した脳スライスをコントロール群とし,途中で30%ポリエチレン グリコール溶液中に1分間浸漬したスライスをPEG十群とした.その後,各脳     ‑ 546−

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ス ラ イ ス 群 を 細胞 死の マー カー であ るヨ ウ化 プロ ビジウ ム(PDを 添加 した 人工 脳 脊 髄 液 中 で15,60,240分 間 培 養 し , 直 後 に4% パラ ホル ムア ルデ ヒド にて 固定 した .凍 結切 片( 厚さ20pm)を作 成し ,ニ ュー ロン を染 色するためにnissl 染 色 を 行 っ た 後, 螢光 顕微 鏡に て螢 光フ イル ター の波長546.lnmを用 いて 舌下 神 経 核 及 び 孤 束核 ,最 後野 を観 察し ,CCDカメ ラに て撮 影し た. その 後画 像解 析ソ フト を用 いてPI螢 光染 色像 とnissl染色像を画像合成し死細胞を同定した.

合 成 画 像 上 で 各神 経核 内に おい て目 視下 で2重 染色 され た細 胞を 死細 胞と して 計 算 し て そ れ ぞ れ の 単 位 面 積 あ た り の ニ ュ ー ロ ン の 生 存 率 を 算 出 し た .   脳 スラ イス 中に おけ る各 部ニ ュー ロンの 経時 的生 存率 を比 較すると,全ての 部位 でニ ュー ロン の生 存率 が経 時的 に減少 した が, その 変化 は舌下神経核ニュ ーロ ンに おい て最 も著 明で ,っ いで 孤束核 ニュ ーロ ンで あり ,最後野ニューロ ン に お い て は 他 の2部 位 と 比 較 し て240分 後 に おい ても 著し く高 い生 存率 を示 した.

  次 に 各 ニ ュ ーロ ンの 生存 率に 対す るPEGの効 果を 以下 に示 す, 舌下 神経 ニュ ー ロ ン に お け る15分後 の 生 存 率 の 平 均 値 は コ ント ロー ル群 で72.5土13.9%,

PEG十 群 で66.7土15.6%であ り, 統計 学的 有意 差を 認め なか った(P>0.05). 60 分 培 養 し た 群 の生 存率 の平 均値 はコ ント ロー ル群 で55.6土11.4% ,PEG十 群で 71.5土11.4%であり,PEG(十)群の生存率の方が有意に高い値を示した(R0.05).

240分 培 養 し た 群 の 生 存 率 の 平 均 値 は , コ ン トロ ール群 で32.7土20.0%,PEG 十群 で32.2土18.5%であり,有意差を認めなかった(p0.05).孤束核ニューロ ン に お い て は ,15分後 ,60分後 ,240分後 の生 存率 の平 均値 はコ ント ロー ル群 でそ れぞ れ69.2土 &5% ,61.6土11.6%,52.3土7.7%であり,PEG十群で74.4土 5.3%,70.6土10.0%,56.0土10.2%であった.15分後においては両群に有意差 は 認 め ら れ な か っ たが (pO.05) ,60分 後 と240分後に おい てはPEG十群 の生 存率 の方 が有 意に 高い 値を 示し た(Pく0.05).最後野ニューロンに韜いては,

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15分後 ,60分 後 ,240分 後 の生 存 率 の平 均 値は コ ン トロ ール群 でそれぞ れ82.8 土3.6%,79.8土4.2%,76.2士4.9%であり,PEG十群で79.2土4.3%,80.8土5.1%,

78.3土6.6%で あ っ た, 最 後野 ニ ュ ーロ ン につ い て は,PEG投与に よって240分 後 ま での 全 て にお い て生 存率 の有意な 増加は認 められな かった(p 0.05).

  PEG濃 度 の 影 響 を 明 ら か に す る た め に , 浸 漬 す るPEG濃 度 を20,30,40% と 変 化さ せ た 際の 各 ニュ ー ロ ンの 生 存 率に っ いて ,PEGを 投与しな いコントロ ー ル 群と 比 較 した と ころ ,PEGに浸 漬 処 理を し なか っ たコ ントロー ル群と処理 し た 群の 各 生 存率 の 平均 値は ,コント ロール群 :55.6土12.82%,20%PEG群:

66.4+11.2% ,30%PEG群 :74.8土10.0% ,40%PEG群63.5土9.9% で,20% , 30% 群 に お け る 生 存 率 が 他 の 群 と 比 較 し て 有 意 に 高 か っ た .(l:k0.05)   本研 究 の 結果 か ら1)脳 幹 部 ニュ ー ロ ンの 脳 スラ イ ス中 での経時 的変化とし て , 舌下 神 経 核に お ける 細胞 死の割合 が最も高 く,次い で孤束核 ,最後野の 順 で 低い値を示 した,2) PEG浸漬によ り,脳ス ライス中 での舌下 神経核およ び孤 束 核ニューロ ンにおい て経時的 生存率が 増加した .3) PEGによ る細胞死抑 制効 果 が 最 大 と な るPEG濃 度 は20% 以 上40% 以 下の 範 囲 で,30% 前 後 が至 適 濃 度 であることが示唆された.

  舌 下 神経 核 に 存在 す るの は 全 て運 動 ニュ ー ロ ンで あ り, 舌 の 運動 を 制 御す る . 一方 , 孤 束核 お よび 最後 野のニュ ーロンは 自律系の 調節に関 与する.舌 下 神 経 核ニ ュ ー ロン は 直径 が約30〜40ミクロ ンと巨大 であり, 樹上突起 は長く,

分 岐 に富 ん で いる . 最後 野ニ ューロン は細胞体 の直径が10ミクロン 程度と小さ く ,樹上突起 は比較的短く,分岐も少ないという特徴がある(Funahashi et al., 2006).また , 樹 状突 起 を切 断するこ とでニュ ーロンは 細胞死を 生じる可 能性が 高 くなること が報告されている(Davis et al.,2007).過去の組織学的研究よりこ れ ら3つ のニ ュ ー ロン の 樹状 突 起 の分 布 範囲 を 比 較す る と,舌下 神経核ニュ ー ロ ン,孤束核 ニューロ ン,最後 野ニュー ロンの順で小さくなっている(Borke et

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al.,1982,Vincent et al.,1999).そのため,脳スライスを作成する際に樹状突 起 が切 断さ れる 確率は 舌下 神経 核に おい て最 も高 くな り, 生存 率を著しく低下 さ せ る 原 因 の ー っと 推測 され た.PEGを 用い たプ ロト コー ルに より ,下 肢運 動 ニ ュー ロン にお ける細 胞内 記録 の成 功率 が有 意に 上昇 した 事が 過去に報告され て い る が , 本 研 究に おい ても 舌下 神経 核ニ ュー ロン を30%PEG溶液 中に 浸漬 処 理 を行 うと ,培 養を開 始し て60分後 の生 存率 が有 意に 増加 する ことが明らかと な り , 細 胞 死 の 抑制 効果 が確 認で きた .し かし ,培 養を 始めて240分後 にお い て は ,PEGに よ る 舌 下神 経核 ニュー ロン の細 胞死 抑制 効果 は見 られ なく なり , 脳 スラ イス 中の 舌下神 経核 ニュ ーロ ンか ら長 時間 活動 記録 を行 うことは依然と し て困 難で ある ことが 分か った .反 対に ,孤 束核 や最 後野 のニ ューロンでは,

PEGを 用 いな く て も 舌下 神経 核ニュ ーロ ンよ りも 脳ス ライ ス中 にお ける 生存 率 が 高く ,こ れら の部位 の単 一ニ ュー ロン 活動 を電 気生 理学 的手 法を用いて解析 した多くの報告があることを裏付けている.

  本研 究は脳幹部スライス標本におけるニューロンの生存率を明らかにしたが,

生 体内 にお ける 脳幹各 部の ニュ ーロ ンが 何ら かの 損傷 を受 けた 際の生存率を反 映 した もの と考 えられ る, 運動 ニュ ーロ ンの 損傷 は自 律系 のニ ューロンと比べ て著しく重篤になることが示唆された.

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学位論文審査の要旨 主査   教授   井上農夫男 副査    教授    舩橋    誠 副査    教授    鈴木邦明

学 位 論 文 題 名

脳幹スライス標本における中枢ニューロンの 生命カに対するポリエチレング1J コールの作用

審 査は ,審 査担 当者 全員 の出 席の下,申請者の研究内容の説明がなされ,関連 事 項に っい て口 頭試 問が 行わ れた 。

1. 申 請 者 に よ る 研 究 内 容 に っ い て 以 下 の 通 り 説 明 さ れ た 。   脳ス ライ スを 用い た電気 生理 学的 手法 は脳 の任 意の 部位 を薄 切し て人工脳脊 髄 液中 でニ ュー ロン を生存 させ てお く方 法で あり ,こ れま でに 幾多 の工夫がな さ れて 確立 され てき た。申 請者 がこ の手 法を 用い て実 験を 行う 中で ,脳幹スラ イ ス中 にお ける 舌下 神経核 など の運 動系 ニュ ーロ ンは ,最 後野 ぬど の自律系ニ ユ ーロ ンと 比べ て, 経時的 生存 率が 低い ので はな いか との 経験 的推 察に至った が ,こ れを 示す ため には科 学的 根拠 が必 要で ある と考 えた 。ま た, ポリエチレ ン グ リ コ ー ル(PEG)投 与が 脊髄 運動 ニュ ーロ ンの 生存 率を 増加さ せる とい う報 告 に着 目し(Carp et al,2008),脳 幹部 ニュ ーロ ンに 対す る効 果を 検証したい と 考え た。 そこ で本 研究で は, 運動 ニュ ーロ ンと 自律 系ニ ュー ロン のむ汀む〇 に おけ る生 命カ の違 いを定 量的 に明 らか にし,また,各ニューロンに対するPEG の 作 用 に っ い て 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 実 験 を 行 っ た 。     SD系 雄 性 ラ ッ ト(5〜7週齢 )を 用い て舌 下神 経核 ,孤 束核, 最後 野を 含む 前 頭 断 脳 幹 ス ラ イ ス 標 本 ( 厚 さ400ルm)を 作 製 し , ヨウ 化プロ ビジ ウム(PI) を 添加 した 人工 脳脊 髄液中 にて15,60,240分間 培養し ,固 定後 ,nissl染色を 施 して 組織 学的 解析 およぴPI集 積細 胞の 計測 を行 い, 各部 ニュ ーロ ンの生存率 を 算 出 し た 。 一 部 の 脳 ス ラ イ ス は 作 成 直 後 にPEG溶 液 中 に1分 間 浸 漬 し た 。   すべ ての 部位 にお いてニ ュー ロン の経 時的生存率の低下が認められたが,240 分後における生存率(%)は舌下神経核32.7土20,孤束核53.2土9.5,最後野79.6 土5.2であ り,舌下神経核ニューロンの生存率は他の部位と比較して著しく低い

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ことが明らかとをった。PEG浸漬により,舌下神経核および孤束核において有意 な生存率の増加が認められた(60分後における比較)。PEG濃度(%)を20,30, 40と 変化させた 実験から,30%前後がPEG至適濃度であることが分かった。

  本研究により舌下神経核ニューロン活動の細胞内記録が著しく困難であるこ との一因が定量的に示された。特に舌下神経核ニューロンの樹状突起は長く,

分布範囲が著しく広いため,薄切時の損傷が生じやすいことが予測され,生存 率を著しく低下させる原因のーっと推測された。また,PEGが著明に舌下神経核 ニューロンの経時的生存率を増加させるのは60分後までであり,脳スライス中 の舌下神経核ニューロンから長時間活動記録を行うことは依然として困難であ ることが分かった。以上より,PEG投与に加えて他の物質も併用して,舌下神経 核ニューロンの生存率を増加させる新たな方法を模索することが必要であり,

今後の課題とたった。

2.申請者に対する口頭試問の内容

1) 自 律 系 ニ ュ ー ロ ン と 運 動 ニ ュ ー ロ ン の 具 体 的 な 区 別 お よ び定 義 . 2)  950酸 素 と5% 二 酸 化 炭 素 で バ ブ リ ン グ し た 理 由 と そ の 機 序 , 3) PEGと同様の効果があるとされる高濃度のスクロース等を代わりに用いた場   合の知見

4) 舌 下 神 経 核 ニ ュ ー ロ ン の 生 存 率 が 著 し く 低 い こ と の 機 序 5)本研究におけるアポトーシスとネクローシスの区別

6)樹 状 突起 の 損傷 の みに よ る 細胞 死 と軸 索 切断 に よる 細 胞死 にっ いて 7) nissl染色の方法と意義

8) PEGの臨床応用にっいて

9) 今 後 の 展 望 に っ い て 高 齢 者 歯 科 と の 関 連 に お い て の 考 察 10)今後の研究の展望

3.口頭試問に対する申請者の回答

  すべての質問に対して申請者から,文献的考察も含めて適切かつ明快な回答,

説明が得られた。また,今後も研究を継続して行い,本研究内容をさらに発展 させて,臨床応用も含めた将来展望が示された。

  以上より,本研究には結果の新規性が認められると同時に,論文には根拠に 基づぃた論理の展開がなされて船り,申請者が学位取得に十分な業績と知識を 有していることが確認された。今後の脳機能に関する研究や治療の発展へっな がる可能性が高いことも評価され,本研究は歯学領域に寄与するところ大であ り , 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 に ふ さ わ し い も の と 認 め ら れ た 。

参照

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