博 士 ( 獣 医 学 ) 簗 瀬晴 子
学 位 論 文 題 名
マ ウ ス の 消 化 管 と 神 経 組 織 に おけ る
diazepam binding inhibitor の 細胞 局 在お よび 脂 肪 酸 結 合 蛋 白 と の 共 存
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
diazepam binding inhibitor(DBI)は、GABAA受容体上のべンゾジアゼピン受容体に結合す る内因性の物質としてラットの脳から単離された分子量約10.000の細胞質蛋白で、植物界、
動物界を通じて多 くの種に広く存在し、その構造は種間でよく保存されている。哺乳類に お いて は脳 以外 の様々な組織に広く分布することから 、DBIはQ堪A作動性の神経伝 達と は 別の 多様 な機 能をもっていることが考えられる。ま たDBIは、長鎖脂肪酸acy卜COA工 ステルに高親和性に結合するacylICOAbindingprotein(ACBP)と同一の分子であることが示 されている。acyllCOA工ステルは脂質代謝における基質および中間体として重要な分子で あると同時に、酵 素活性の調節や細胞内情報伝達、遺伝子の転写など、細胞内の様々な機 能を調節している 。したがってDBIの主な機能は、acyl.COA工ステルの細胞内輸送や代謝 の調節を介して細 胞の基本的な活動に関係していると予想される。DBIの機能を明らかに するにあたって、DBIの組織発現、細胞内局在 についての情報が不足している。そこで本 研究では、m馴mhybndization法と免疫組織化学を用いて、DBIがもっとも強く発現してい る 消化 管、 っぎ にDBIがは じめ に単 離さ れた場である 脳を含めた神経系において、DBI mRNAと蛋白の分布 を詳細に調ベ、さらに長鎖脂肪酸の代謝に関係すること で知られる脂 肪 酸 結 合 蛋 白 (fatぢacidbinmngprotein,FABP) の 分 布 と 比 較 検 討 し た 。 消化 管で は、DBIのmRNAと蛋 白は 、口 腔、 食道 およ び前 胃に お いて重層扁平上 皮の 有棘層、腺胃の表層粘液細胞および腸絨毛の吸収上皮細胞に強く発現していた。小腸のDBI mRNAは 絨毛 の基 部に 強く 発現 して い た。 また 、十 二指 腸腺 の腺 上皮 細胞にもDBImRNA の シグ ナル を認 めた。消化管を通して、DBImRNAがもっとも強く発現していたのは 回腸 で あっ た。 大腸 では、DBImRNAのシグナルは陰窩の上皮にびまん性に分布していた 。過 去 の 報 告 でDBIを 発 現す ると され てい た杯 細胞 はDBImRNAおよ び蛋 白を 発現 して いな かった。
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神経組織におけるDBIの発現は、アストログリア系の支持細胞に選択的に認められた。
中枢神経系では、DBIの免疫反応は小脳のバーグマングリア、olfactory ensheathing glia、海 馬歯状回顆粒層の基底部細胞層、上衣/脈絡叢、網膜のMuller細胞に見られた。末梢神経 系では 、知覚・自律神経節の衛星細胞、副腎髄質の支持細胞がDBI抗体に対し免疫反応を 示した 。神経線維におけるDBIの免疫反応は、背根、坐骨神経、迷走神経、および小腸壁 内神経のシュワン細胞、視神経のアスト口グルア、嗅神経のolfactow ensheathing gliaに認 められた。
DBIはFABPと消化 管全体を 通して 上皮にお いて共 発現していた。すなわち、口腔から 前胃までは皮膚型(E‑) FAI3Pと、腸では腸型(I‑) FABPと共存していた。ヒト腸上皮由来の 細 胞株 で あ るCaco‑2細 胞で は、RT‑PCR法 によりDBIと肝 臓型(L‑) FABP mRNAの 発現が 認められた。神経組織では、上記のアストログリア系の支持細胞において、DBIと脳型母‐)
FABPの共存が頻繁に認められた。中枢神経系では、小脳パーグマングリア、嗅球のolfactory ensheathing glia、海馬歯状回顆粒層の基底部細胞層が両抗体に免疫反応を示した。末梢神 経系では、背根神経節と小腸の粘膜下・筋層間神経叢の衛星細胞、副腎髄質の支持細胞が 両抗体に染包された。神経線維では、嗅神経のolfactory ensheathing 'gliaがDBIとB‑FABP 抗体の両方に対し陽性反応を示した。本研究で明らかになった消化管や神経組織以外でも、
肝 臓、 脂 肪 組織 、 心 臓、 精巣 などの 組織でDBIのmRNAお よび蛋白 の発現 が報告さ れて い るが 、 こ れら の 組 織は それ ぞれ別 のサブタ イプのFABPを含有し ている 。DBIとFABP が体内で広く共存していることは、両者が細胞内の基本的な活動や代謝に協調して働くこ とを示 唆してい る。例 えば、腸 上皮細 胞では、DBIとI‑FABPは食物由来の脂肪の吸収・
輸送に 重要な役割を果たしており、またアスト口グリアとその関連細胞においては、DBI とB‑FABPはェ ネルギ ー代謝に 関係し、神経の発達や機能の調節していると考えられる。
ある細 胞におい て両者 がどのよ うな機能に関与するかは、共発現するFABPサブタイプの 種類によって決まるのであろう。
DBIはこれまでの報告から考えられていたよりもはるかに広い分布様式を示していた。
がしか し、特定 の細胞 において っねにFABPと共存していたことは機能を考える上で重要 である 。本研究 で得ら れた所見 は、DBIあるい はDBI/FABPの機能を解析する際の基盤と なると思われる。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
マウスの消化管と神経組織における
diazepam binding inhibitor の細胞局在および 脂肪酸結合蛋白との共存
diazepam binding inhibitor (DBI)
は、GABAA
受 容体上の ベンゾジ アゼピン受 容 体 に 結 合 す る 内 在 性 の 物 質と し て ラッ ト の脳 か ら 単離 さ れた ぺ プ チド ( 分 子 量 約10
,000)
で あ る 。DBI
は 消 化 管 な ど 脳 以 外 の 組 織 に も 大量 に 存在 し 、 長 鎖 脂 肪 酸acyl‑CoA
エ ス テ ルに 高 親 和性 に 結合 す る 分子 (acyl‑CoA binding protein
、ACBP)
で も あ る こ と か ら、GABA
作 動 性の 神 経伝 達 以 外に 、 例え ば 脂 肪 酸 の 取 り 込 み ・ 代 謝 に 関 係 し て い る こ と が 予 想 さ れ る 。し か し、DBI
の 機 能 を 明 ら か に す る 上 で 重 要 な 細 胞 局 在 に つ い て の 情 報 が 大 い に 不 足 し て い る。そこで 本研究で は、in situ hybridization
法と 免疫組織 化学により、DBI
の 発 現 を マ ウ ス の 消 化 管 と 神 経組 織 に おい て 検索 し 、 長鎖 脂 肪酸 の 代 謝に 関 係 するとされ る脂肪酸結合蛋白(fatty acid binding protein
、FABP)
の発現と比較し た。消 化 管 に お け る
DBI
のmRNA
と 産 物 は 、 口 腔 、 食 道 お よ び 前 胃 に お い て 重 層 扁 平 上 皮 の 有 棘 層 、 腺 胃 の表 層 粘 液細 胞 およ び 腸 絨毛 の 吸収 上 皮 細胞 に 強 く 発 現 し て い た 。 神 経 組 織 に お け るDBI
の 発 現 は 、 星 状 膠 細胞 を 含む 支 持 細 胞 に 選 択 的 に 認 め ら れ た 。 すな わ ち 、中 枢 神経 系 で は小 脳 のパ ー グ マン グ リ ア、olfactory ensheathing glia
、網膜のミュラー細胞、上衣細胞など、末梢神経 系 で は 知 覚 ・ 自 律 神 経 節 の 衛星 細 胞 、シ ュ ワン 細 胞 、副 腎 髄質 の 支 持細 胞 な どであった 。上 記
DB1
発 現 細 胞 に お い てFABP
と の 共 存 関 係 が 認 め ら れ た 。 口 腔 か ら 胃 ま で は 皮 膚 型FABP
と 、 腸 で は 腸 型FABP
と 、 ま た 神 経 系 で は 脳 型FABP
と 共 発 現 し て い た 。 こ れ ら 以 外 の 組 織 で も 、DBI
は 別 の タ イ プ のFABPと 共 存し て い る こ と か ら 、DBI
とFABP
の 共 存 は 普 遍 的 な 現 象 で あ る こ と 、両 者 が 共同 で 脂 肪 酸 の 取 り 込 み ・ 代 謝 、 ひい て は 細胞 の 機能 発 現 、分 化 に関 与 し てい る こ とが強く示 唆された 。彦 之
司 春
敏
昌
孝
善
永
藤
村
本
岩 斉
梅 橋
授 授
授 授
教
教 教
教 助
査 査
査 査
主 副
副 副
以上の結果は、 DB1 が過去に報告されていたよりもはるかに広い分布域を示 すと ともに、FABP との 共存が、 DBI の存在意 義、脂肪酸代謝のメカニズム、
グリ ア系細胞の機能を明らかにする上で重要な所見であり、この方面の研究 に大きく寄与すると思われる。よって、審査員一同は、簗瀬晴子氏が博士(獣 医 学 ) の 学 位 を 受 け る 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。
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