博 士 ( 獣 医 学 ) 浅 沼 武 敏
学 位 論 文 題 名
高磁 場 MRI のマウス ・ラットヘの適用に関する基礎的研究 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本 研 究 は マ ウ ス ・ ラ ッ ト な ど の 実 験 小 動 物 へ のMRI適 用 の 可 能 性 を 検 討 す るた めに 行 わ れ た 。 小 型 動 物 を 対 象 に 分 解 能 の 高 いMR画 像 を 得 よ う と す る 場 合 、 画 像 の 構 成 単 位(pixeDを 出 来 る だ け 小 さ く し 、 し か も 高S7N比 のMRI信 号 を 得 る 必 要 が あ る 。 そ の た め 、 高 磁 場 と 強 傾 斜 磁 場 が 要 求 さ れ 、 か つ 動 物体 やRFコイ ルを 組み 込ん でも それ ら の 磁 場 が 乱 さ れ な い こ と が 要 求 さ れ る 。 そ の た め、 本研 究で は磁 場均 一性 が優 れ、
7.05Tの 高 磁 場 を 作 る 超 伝 導 マ グ ネ ッ ト を 使 用 し 、 特 殊 に デ ザ イ ン さ れ た コ イル を組 み 込 ん たMRI装 置 を 用 い 、 モ デ ル 疾 患 臓 器 ( 急 性 肝 炎 期 、 慢 性 肝 炎 期 お よ び 肝癌 期の LECラ ッ 卜 肝 臓 ) へ の 診 断 学 的 適 用 性 を 検 討 し た 。 さ ら に 、 マ ウ ス 脳 の 局 所 解剖 学的 画 像 化 へ の 適 用 性 に つ い て も 検 討 し た 。 し か し な が ら 、LECラ ッ 卜 肝 臓 の 場 合、 その 内 部に 高濃 度 の常 磁性 金属 が存 在し てい るこ とか ら( 正常 の40〜50倍 )、 高磁 場の適用 に は 幾 っ か 克 服 し な け れ ば な ら な い 問 題 点 が あ る こ と が 判 っ た 。 第1に 、 常 磁性 金属 が 多 量 に 存 在 す る と 組 織 内 の 磁 場 環 境 が 変 化 レ 、 共鳴 周波 数が 大き くず れて 、組 織内 水 と 中 性 脂 肪 の プ □ ト ンの ケミ カル シフ 卜に 大き な差 が生 じ 、励 起/ヾル ス幅 や強 度の 変 更 が 必 要 と な る か も 知 れ な い こ と 、 第2に 、 常 磁 性 金 属 の 濃 度 が 高 い と 組 織プ □ト ン の 緩 和 時 間 が 短 縮 す る こ と か ら 、 弱 い 信 号 強 度 によ るコ ント ラス トの 悪い 画像 が得 ら れ る 可 能 性 が あ っ た 。 ま た 、 通 常 の マ ウ ス ・ ラ ッ卜 への 適用 性に 関し ても 、高 磁場 の 効 果 だ け で 緩 和 時 間 に 影 響 が 生 じ 、 単 に 均 一 性 の優 れた 高磁 場と 強グ ラジ ェン 卜コ イ ル を 適 用 す る だ け で は 実 際 に 局 所 解 剖 学 的 分 解 能 の 良 いMR画 像 が 得 ら れ る か 否 か 明 確で はな か った 。
本 研 究 で は こ れ ら の 問 題 点 を 検 討 す る た め 、 ま ずLECラ ッ ト 肝 臓 の7.05T高 磁 場 MRS( 磁 気 共 鳴ス ベク ト 口メ トリ 一) によ り信 号成 分の 分析 を行 い、 高濃 度常 磁 性金 属 の 組 織 内 水 及 び 中 性 脂 肪 の プ □ ト ン の ケ ミカ ルシ フト ヘの 影響 を調 べた 。そ の デー タ に 基 づ き 最 適 な 励 起 バ ル ス 幅 と 強 度 を 選 択 し た 。 次 に 、7.05Tの 磁 場下 で磁 化 反転 回 復 法 及 びCPMG法 に よ り 肝 臓 のTiとT2緩 和 時 間 を 測 定 し 、 そ れ ら に 対 す る 高 濃 度 常 磁 性 金 属 の 影 響 を 調 べ た 。 そ の 測 定 値 に 基 づ きMRIバ ラ メ 一 夕 ー 強 調 指数 を計 算 し、 信 号 強 度 へ のTi緩 和 時 間 、T2緩 和 時 間 及 び プ□ トン 密度 それ ぞれ の相 対寄 与に つ いて 検 討 し た 。 最 終 的 に 肝 炎 発 症 前 、 急 性 肝 炎 期 、 慢 性 肝 炎 期 及 び 肝 癌 期 のLECラ ッ ト肝 臓 を 外 部 磁 場7.05T及 び 傾 斜 磁 場0.3 mT/cmで 撮 像 を 行 い 、 上 述 の 計 算 結 果 と 総 合 し 、 診 断 法 と し て の 本 高 磁 場MRIの 妥 当 性 を 検 討 し た 。 次 に 、 高 磁 場(7.05T)で 磁 場 均 一 性 に 優 れ 、 し か も サ ン プ ル 挿 入 に よ る 磁 場 の 乱 れ を 補 正 す る 機 能 を 有 す る 縦 型 マ グ ネ ッ ト に 、 さ ら に10倍 強 い 傾 斜 磁 場 コ イ ル(3.5mT/cm)を 組 み 込 み 、 局 所 解 剖 学 的 分 解 能 を 示 すMR画 像 が 得 ら れ る か 否 か をC57BL/6マ ウ ス 頭 部 を 対 象 に 検 討 し た 。 MRSに よ り 、LECラ ッ ト 肝 臓 の プ □ ト ン のMRI信 号 は 水 と 脂 肪 の2成 分 に よ っ て 構
成 され ているが、その主成分は水であることが判明した。また、ウイスターラットで も 同様 の結 果が 得ら れた 。一 方、水 と脂肪成分のケミカルシフトの差は、LEC 及びウ イ スタ ーラットとも約3.Oppm であることが判り、ケミカルシフトへの金属の影響はほ と んど 無視 でき るこ とが 判明 した。 以上 のこ とか ら、 LEC ラット のMRI を行う際、プ 口 卜ン の励起バルス幅(水成分を中心に2 〜4kHz) とその強度は正常なラットとほぼ同 じ条件で良いことが判った。
次に 、LEC ラッ ト肝 臓の Ti と T2 緩 和時間について、肝炎発症前、急性肝炎期及び慢 性 肝炎 期の摘出肝臓を対象に測定したところ、急性肝炎期の肝臓においてのみ両緩和 時 間の 短縮が起こっていることが観察された。原子吸光光度法により銅と鉄の含有量 を 測定 したところ、銅はどのステージでも変化が無く、鉄は急性肝炎期において有意 に 増加 していた。このことから、急性肝炎期におけるTi 、T2 緩和時間の短縮は鉄に起 因 して いる と考 えら れた 。次 に、MR 撮像 条件 とし て、 TR( 繰り返 し時間、ms)/TE( 工 コ ー時 間、 ms) を 500/20 、 2 , 000/80 及び 2 , 000/20 の 3 っに 設定 し、各ステージで測 定 され たTi とT2 緩和 時間 を用 い、各 条件 下で のMR 信号 強度 とそ の信号強度へのMR バ ラメ一夕ー(Ti とT2 緩和時間及びプ口トン密度)の相対寄与を計算により求めた。その 結 果TR/TE=2 ,000/20 の条 件に おい て信号強度が最も大きく、TR/TE =2 ,000/80 の条 件 で 最 も 小 さ くな る結 果が 得ら れた 。実 際に MRI を 行っ たと ころ 、計 算結 果どお り TR/TE=2 ,000/20 の条件でコントラス゛トの良い画像が得られ、TR/ ′TE =2 ,000/80 では 暗 く、 判別 困難 な画 像が 得ら れ、TR/TE 〓2 ,000/20 で撮像された画像では、3 つのバ ラ メー ターのうち、Tl とT2 緩和時間の相対寄与は小さく、プ口トン密度の相対寄与が 最 大で ある こと が判 明し た。 以上の ことから、LEC ラット肝臓のように常磁性金属が 高 濃度 に存 在す る組 織の M 尉を 高磁 場下で行う場合、プ口トン密度の相対寄与が最大 と なる ような条件(本実験ではTR/TE =2 ,000/20 )が適していると示唆された。各ス テ ージ のラ ット にお いて 実際 にこの 条件でM 耐を行ったところ、急性肝炎期肝臓に高 信 号を 示す領域が観察され、病理学的検査との比較から肝炎による組織変性部位に一 致 して いることが判明した。このことから、TR/TE 〓2 ,000/20 の撮像条件下で得られ た MR 画 像は正確に組織変性を反映するものであることが判った。このことは、例え高 磁 場下 のM 耐 でし かも 常磁 性金 属が 多く存在していても、その撮像の条件を的確に選 択 すれ ば実験小動物の病変部の診断法としての適用性は十分に満たされるものである ことを示唆していた。
高 磁 場 M 耐 をさ らに50 及び 116 週齢 の肝 癌期 のLEC ラッ トに も適 用し た。 まず試 み にヒトの肝実質性細胞癌(HCC )の場合にならい、Tl 緩和時間が相対的に大きく反映さ れる条件TR/ ′TE =500/20 で撮像したところ、肝臓内に幾っかの高信号領域が観察され た 。上 述のTR/TE =2 ,000/20 でも結果は同様であった。肝癌のような大きい組織病変 に なる と、 TR/TE 〓500/20 でも 十分 に画像化が可能になるものと思われた。高信号領 域はHCC に相当していると考えられた。
最後に、7 .05T 縦型マグネットにさらに強い傾斜磁場コイル(3 .5mT/cm )を組み込
ん だ装 置に よル マウ ス頭 部の 撮像を 行った。この装置では、TE を10 .4ms と上述の装
置 より もさ らに 短く 設定 でき るので 、よルプロトン密度を反映したM 尉が可能であっ
た 。さ らに高外部磁場と強傾斜磁場であることから、理論的に撮像断面のスライス厚
を 極端 に薄 くで きる ので 、実 際にTR/ ′ TE 〓 3 ,000/10 .4 、スラ イス厚1mm あるいは
0 . 3mm の 条 件 でM 瓰を行 った とこ ろ、 高い 局所 解剖 学的 分解 能を 示す 画像 が得ら れ
た 。矢 状断面像では、脳の各部位が同定できること、さらに灰白質と白質が明瞭に区
別 でき ることが判明した。冠状断面像においても各部位を同定できたが、特に海馬に
お ける CA1 〜3 領域が明瞭に区別できることが特徴的であった。これらの結果は、実験
小 動物 を用いた脳研究にこのマイク□イヌージング法の適用が可能であることを示唆
していた。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主 査 教 授 桑 原 幹 典
学 位 論 文 題 名
晃 徹 修
高磁場 I¥/IRI のマウス・ラットヘの適用に関する基礎的研究
マウ ス・ラ ットなど の実験 小動物疾 患モデル にMRIを適用する場合、対象となる臓器を 明瞭 に画像 化する事 が必要と なる。 そのため 、画像 構成単位 すなわ ちMR信号を得る体積 を出 来るだ け小さく すること が要求 される。 すなわ ち、ビク セルサ イズを小さくし、か つス ライス 厚を薄く 取れぱ良 いこと になる。 しかしながら、この時S/N比の良い信号を得 る事 が必要 である。
申請 者は、 実験小動 物のMRIを行う に当たり 、高S/N比と小 ピクセ ルサイズの条件を満 たす ため、 均一性の 優れた7.05Tの高 磁場を用 い、さらにスライス厚を薄くするため傾斜 度の 強い0.3mT/cmの グラジ ェントコ イルを用 いるこ とを計画 した。 そのため、強グラジ エン トコイ ルを内蔵 するOxford社 の超伝導 マグネ ットに、 自作の 送信および受信用鞍型 コイ ルをセ ットし、 東芝ワー クステ ーション 上にてイメージングソフトSISCOを操作し、
LECラ ッ ト の急 性 ・ 慢性 肝 炎 期 およ び 肝癌 期の肝臓 をスラ イス厚Immにて 撮像した 。通 常、 大中動 物用MRIでは0.5 ¥‑1.OTの 磁場、0.02mT/cmのグ ラジェ ントコイル、スライス 厚5mmが 適 用さ れてい ることか ら、そ れに比ベ 申請者の 撮像条 件は実験 小動物 疾患臓器 の撮 像によ り適して いるよう に思わ れた。し かしながら、LECラット肝臓の場合、高濃度 の常 磁性金 属(通常 の40〜50倍 )が存在 するた め、高磁場下でのMRIに幾っか問題が生じ た。 すなわ ち、高濃 度常磁性 金属に より磁場 環境が 変化し、 それに 伴い共鳴周波数にず れが 生じ、 さらに組 織のプロ トンの 緩和時間 が短縮 すること が判明 した。最初の問題は ブロ トンの 励起バル スの幅や 強度の 、第二の 問題は 画像信号 強度の 低下に伴う低画質の 問 題 を提 起 した 。その ため、申 請者はMRS(磁気共鳴 スベク トロスコ ピー) 法によりLEC ラッ ト肝臓 プロトン の共鳴周 波数な らびにケ ミカル シフトへ の高濃 度常磁性金属の影響 を 調 ぺた 。 さら に、Tlお よびT2緩和 時間を 測定し、MRIバ ラメータ ー強調 指数を計 算す る こ とに よ りMR画 像 低画 質 化 の 原因 を 探った 。その結 果、LECラット 肝臓のMRI信号 の 主成 分は水 のプロト ンである こと、 常磁性金 属のケ ミカルシ フトへ の影響が小さいこと を明 らかに し、最適 な励起バ ルス幅 および強 度値を 決定した 。また 、緩和時間がいずれ も急 性肝炎 期の肝臓 で有意に 短縮す ることを 観察し 、それが 常磁性 鉄イオンによるもの であ り、そ れに伴い 画質の低 下が起 こる事を 明らか にした。 しかし ながら、低画質化が プロ トン密 度の相対 寄与が最 大とな る条件で の撮像 で克服さ れるこ とを示し、実際に肝 炎 期 お よ び 肝 癌 期 で の 組 織 の 病 理 学 的 診 断 可 能 なMR画 像 の 撮 像 に 成 功 し た 。 申請 者 は 、LECラット の実験に 止まら ず、局所 解剖学 的分解能 のさらな る向上 を目指 し、10倍のグ ラジェン ト(3.5mT/cm)コイ ルを用 いて麻酔 下C57B L/6マウ ス頭部の撮像を スラ イス厚0.3mmにて 行った 。その結 果、白質 と灰自質が明瞭に区別でき、海馬における CA1〜3領 域が 同 定 でき る 高 画質 のMR画 像 が 得 られ た 。 本画 像 法 は今 日MRマ イ ク ロイ
本
永 波
橋 藤
稲
授 授
授
教
教 教
助
査 査
査
副 副
副
メ ージ ング 法と 呼ぱ れているが、本研究はより詳細な組織像を描 画する方法としてその 可能性を示唆したものとい える。
以上 のよ うに 、申 請者 は高 磁場MRIの 実験 小動物への適用にお ける問題点を明らかに し、実際の使用の可能性を示した。よって、審査員一同は申請者が博士(獣医学)の学位を 受ける資格を有するものと 認めた。
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