博士 ( 獣 医 学) 鈴 木 正 嗣
学 位 論 文 題名
野 生二 ホ ン ジ カ( Cer ぴ LLs nLppon )にお ける 不 動 化 , 成 長 お よ び 繁 殖 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容の 要 旨
本 研 究 は 、 ニ ホ ン ジ カ の 成 長 な ら び に 繁 殖生 理 に 関わ る 特性 を 明ら か に し 、 野 生 個 体 群 の 適 切 な 保 護 管 理 に寄 与 する こ とを 目 的と し た 。 材 料 に は 、 有 害 烏 獣 駆 除 や 学 術 研 究 捕 獲、 交 通事 故 など に よる 死 亡 個 体(北海道斜里IlIT産、同足寄町産、同音男|』町産ならびに兵庫県中部産)
お よ び 生 体 捕 獲 の 個 体 ( 北 海 道 洞 爺 洲 中島 産 )を 用 い、 主 とし て 体 格 や 生 殖 器 、 胎子 に 対 する 形 態学n勺な 検 索を 行 った 。 また 、 野生 動 物 の 研 究 に 欠 く こと の で きな ぃ 化学 的 不勁 化 (い わ ゆる 麻 酔) 技 術を4離 立 す るた め 、北 海道 洞爺洲lニlこI島の 野生個体を 対象に、塩 酸キシラジ ン
.塩酸ケタミン混合法を試行した。
以下、得られた結果と考察について要約する。
I)25頭の 野 生個 イ 本を 対 象に し た不 勁 化実 験 の 結果 、 塩酸キシラ ジン , 塩 酸 ケ タ ミ ン 混 合 法 は エ ゾ シ カ に 対 し 適 切 な 方 法 で あ り 、 安 静 状 態 に あ る オ ス な ら ば 、 と も に1mg/kgの 投 与 で 不 動 化 が 可 能 で ある こ とがj離か め られ た 。 また 、 塩酸 ト ラゾ リ ンの 投与は、不 勁 化 か ら の 回 復 を 早 め る 効 果 が あ る と 考 え ら れ た 。 し か し 、 こ の 方 法に韜け るエゾシカ の感受性は 、性や*肓 ネlll状態 に影響される傾向 にあった 。
2)90r7ijlのエゾシカ胎子に対し、外部形態の計測と肉‖艮lrl'J観察を行っ た 結 果 、 性 比 は 統 計 学 的 に1:1で あ り 、 双 胎 は 稀 で あ る こ と が iiVr;認 さ れ た 。 胎 齢T( 日 ) と 胎 子 体 重W(g)、 胎 子 後 足 長H (cm)との問には、
Tニニニ( (W)l´3+2.730}/0.091 ならびに、
T=ニ(H+11.357)/0.172
の 関 係 式 が 成 り 立 って い た。 こ れら の 関係 式 をも と にエ ゾ シカ の 胎 齢 を 推 定 し た 結 果、 お よそ100日 にお よ ぶ受 胎 日 の変 異 (10月7 日 頃 か ら 翌 年 の1月17日 頃 ま で の 問 ) が 示 さ れ た 。 ま た 、 胎子 の 皮 膚 に お け る 斑 紋 と被 毛 の出 現 過程 を 応用 し 、体 表 の観 察 のみ に よるおおまかな胎齢推定も可能であった。
3)299頭 の エ ゾ シ カ に お い て 外 部 形 態 の 計 測 を 行 っ た 結 果 、 成 熟 個 体 で の 体 長 と 体 高 、 後 足 長 、 体 重 ( 秋 期 ) の 平 均 は 、 オ ス で そ れ ぞ れ110.32cm、106.20cm、52.83cm、131.55 kg、 メ ス でそ れ ぞれ 101.57cm、94.60cm、49.24cm、86.36kgに 達し て レヽ た。体 重は顕 著 な 季 節 変 勁 を 示 し 、 冬 期 間 の 減 少 率 は 、 成 獣 オ ス で29.5% 、 成 獣 メ ス で25.4% に お よ ん だ 。 枝 角 は4歳 ま で 年 々大 き くな り 、 そ れ以 後 の平 均 角長 は65.09cm、平均角 幅は61.67cmに 達していた 。 こ れら は 、高 質 個体 群 におけるエ ゾシカの特 徴と考えら れるため、
個 体群 モ ニタ リ ング の 際の基準値 として用い ることが可 能である。
4) オ ス の 季 節 繁 殖 性 を 明 ら か に す る た め 、150頭 か ら 得 た 精 巣 ( う ち37頭 はbiopsyに よ り 一 部 の組 織 を採 取 した ) につ い て肉 眼 的 ・ 組 織 学 的 観 察 を 行 っ た 。 生 体 捕 獲 し た33頭 で は 、 血 漿 テ ス ト ス テ
ロン濃度も測定した。その結果、*肖巣と精巣上体は交尾期にあた る10月か、ら11月頃に最も発達し、5月から6月に最小となることカミ 示さ れた 。 精巣上体管 内の精子の存在 から、オスの 受精能カは9 月か ら4月に かけて保持さ れるものと考 えられた。血 漿テス卜ス テロ ン濃 度 は、精巣の 季節的変勁と対 応し、10月に最 高値を、6 月に最低値を示 した。しかし 、得られた血漿テストステロン濃度 には、pulsatile. secretionに原因すると思われる大きな変異が観察 された。
5)173頭の 頭蓋骨で枝角 を観察した結果 、3〜4歳以上の 袋角は9月に 枯角と なり、4月頃には 脱落すること が示された。 枯角の保持期 間は、 繁殖能カの維 持期間と一致していた。また、若齢個体の枝 角サイ クルは、成獣 に比べやや遅れる傾向にあることが碓かめら れた。
6)95頭 (北 海道 産50頭 、兵 庫 県産45頭 ) のメ ス で妊 娠状況 を調査 した結果、ほとんどのメスは1歳で性成熟に達し、妊娠していた。
1歳以 上 の妊 娠率 も極めて 高い(95%以上)こ とから、メスは 毎 年 妊娠し、胚の 早期死滅や流産は稀であると考えられた。これら は、良好な栄養状態にある高質個体群で得られた結果であるため、
個体群の質の低下が起これば1歳の妊娠率は下がると予想された。
ま た、推定受胎 日の変興は、 ほとんどが1歳の 個体によることも 碓認された。推定受胎日から算出した出産!釧は、5月下旬から9月 上旬までの範囲で変異していた。
7)124頭(北海道産62g=l、兵庫県産62VH).から得た卵巣で、肉‖艮的・
組織学的観察を行った結果、ニホンジカの黄体細胞は顆粒層細胞 と内卵胞膜細胞とに由来する二元的なものと考えられた。妊娠佃 体の卵巣には、70 ‑‑80 %の割合で副黄体が出現していた。副黄体 の組織像は、一次黄体のものと極めて類似する場合が多いため、
両者は共同して機能しているものと推察された。副黄体の由来に は、「発情性黄体の遺残」ならびに「受胎後の新規形成」の二通 りが想定され、後者がほとんどを占めることが示唆された。また、
秋に得られた卵巣において、同世代と思われる2 個の退行黄体が
観察されたため、副黄体も自体として遺残すると考えられた。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授
副 査 教 授 副 査 教 授 副査 助教授
金 川 弘 司 杉 村 誠 前 出 吉 光 大 泰 司 紀 之
学 位 論 文 題 名
野生 ニ ホ ン ジ カ (Cer ぴ LLS nr,pp 〇 凡 ) におけ る 不 動 化 , 成 長 お よ び 繁 殖 に 関 す る 研 究
野生 動物cJな保 護管理に は、対象 唾の成長や繁殖生理に関する知識が不可欠である。
また、外部形態計測や電波発信機装着などの捕獲謡座を円滑に遂行するためには、化学的 不動化(いわゆる麻酔)技術も碓立されていなければならない。本研究は、野生ニホンジ カについて上記の諸問題を検討し、次に挙げる新知見を得た。
1)塩 酸キシラ ジン―塩 酸ケタミ ン混合法 は、本種 に適切な不 動イヒ方法と判断され る。ただし、その感受性は性や精神状態に影響される。
2)体 格の成長は、2 ‑‑3歳までにほぼ終了する。ただし、枝角の発達は4歳まで続く。
3) オ ス は1歳で性成 熟に達す る。精巣と *肯巣上 体は、10月 から11月に かけて最 も 発 達 し、 受精能カ は9月から 翌年の4月ま で保持さ れる。血 漿テスト ステロン 濃 度 は 、 10月 に 最 高 の 平 均 値 を 、 6月 に 最 低 の 平 均 値 を 示 す 。 4) メ ス は1歳で 性 成熟 に 達 し、 妊 娠 する 。1歳以 上の妊娠 率は極め て高く、 胚の早 期死滅や流産は稀である。 ゛
5) 胎 子 の性 比 は1:1で、 双 胎 は稀 で ある 。受胎 日は、1歳 メスを中 心に100日に 韜 よぶ範囲で変異する。
6) メ ス の 繁 殖 状 況 は 、 生 息 密 度 や 栄 養 状 態 な ど 個 体 群 の 質 に 影 響 さ れ る 。 7)黄体細胞は、顆粒層細胞と内卵胞膜細胞とに由来する。
8) 副 黄 体の 出 現 率は70〜80%に 達 し 、そ の組織像 は一次黄 体と類似 すること が多 い 。 副黄 体は受胎 後に形成 される場合 が多く、 出産後も 自体とし て遺残す るこ とが示唆される。
以上のとおり、本研究により、ニホンジカの不動化、成長ならびに繁殖に関する事項が
ほぼ明らかにされ、野生個体群の保護管理に必要な基礎的データが提出された。さらに、
内分泌や生殖器の形態に関する新知見も多く得られたため、シカ類における繁殖生理学的 研究の発展に寄与するものと判断された。よって、審査員一同は、鈴水正嗣氏が博士
( 獣 医 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。