博 士 ( 医 学 ) 別 役 智 子
学 位 論 文 題 名
Neutrophil elastase associated with alveolar macrophages form older volunteers
( 健常 中 高年 者におけ る肺胞マ ク口ファー ジ中の好 中球エラ スターゼ )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
研 究目的
肺 気腫 は 、 ほと ん どが 中高年 以上の喫 煙者に発 症する疾患 で、肺の 弾性収縮 カを担 う 肺 胞 壁エ ラ スチ ン 線 維の不 可逆的破 壊を特徴 とする。し かし、臨 床的には 重喫煙者 の 一 部 にし か 肺気 腫 を 発症し ないこと から、喫 煙に対する 個体の感 受性の差 が注目さ れ る 。 そこ で 、本 研 究 は従来 の報告と は異なる アプローチ によって この喫煙 感受性因 子 の 一 端を 明 らか に し ようと 試みた。 多くの自 覚症状のな い中高年 ボランテ イアの中 か ら 、 肺CT検 査に よ って 臨床的 肺気腫発 症前の気 腫病変を有 する被験 者を選び 出し、
同 程 度 の喫 煙 歴が あ り ながら 同検査で 気腫病変 のない被験 者や非喫 煙者と比 較するこ と に よ り、 単 に喫 煙 と ぃう刺 激に対す る生体反 応を見るば かりでな く、より 直接的に 気 腫 化 に関 与 する 機 序 を検索 した。本 研究は喫 煙により増 加する炎 症細胞の ひとつで あ る 肺 胞マ ク ロフ ァ ー ジが気 腫化に関 与してい るとの仮定 に基づき 、この細 胞の特殊 な 機 能 、す な わち 好 中 球から 放出され る好中球 エラスター ゼをレセ プターを 介して取 り込み、活性を保持したまま再放f:I:1するとぃう機能に着目した。この機能の個体差が 気 鳳 化 に 1剄 す る 喫 煙 感 受 性 を 反I吠 す る 因 子 で あ る か 否 か を 検 討 し た 。
対 象 と 方法
自 覚 症 状 の な い 中 高 年 男 性 ボ ラ ン テ イ ア36名 ( 平 均 年 齢61土2 SE歳 ) を 対 象 に 同 意 を 得 た う え で 、 肺 高 解 像CT検 査 、 呼 吸 機 能 検 査 、 採 血 、 気 管 支 肺 胞 洗 浄(BAL)を 行 っ た 。 肺CTで の 気 腫 化 の 診 断 は 呼 吸 器 内 科 医3名 が 独 立 し て 、 各 対 象 の 喫 煙 歴 や 呼 吸 機 能の 情 報 を伏 せ て 読 影し 、low attenuation area( 以 下LAAと略 す ) の有 無 で評価し た。3 名 が 一 致 し て 肺 野 の一 部 に でも 明 ら かにLAAが存 在 す ると 評 価 した 群 を し岨 く 十 )群 、 そ れ以 外 の 群をLAA(− ) 群 とし た 。 また 、u峨( 十 )群は その気 腫化の程 度をvisual scoring methodsに よ ル グ レ ー ド1か ら5の5段 階 に 分 類 し た 。 現 在 の 喫 煙 習 慣 と 肺CTで の 気 腫 性 変化の有無によりLAA(−)非喫煙者群(n=9)、LAA(―)喫煙者群(n〓13):LAA(十)群(n=14、 う ち 非 喫 煙 者4名 ) の3群 に 分 類 し た 。 血 液 検査 で は 、検 査 の 数目 前 か らの 喫 煙 量を 反 映 する 血 漿 コチ ニ ン 濃 度を 測 定 した 。BAL回 収 液よ りFicoll−Paqueを 用 い肺 胞マ クロファ ー ジを 分 離 しlxlO'/mICこ 調 整 した 後 一70゜Cにて 保 存 した 。 解 凍 後超 音 波 破砕 によルマ クロ フ ァ ー ジ を 溶 解 し 、 そ の 上 清 の 酵 素 活 性 を 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ に 高 感 度 の 合 成 基 質 methoxysuccinyl−alanyl‑alanyl‑prolyl‑valyl paranitroanilide (MEOS´4APVNA)を用いて分光光 度 法 に よ り 測 定 し た 。 さ ら に そ の 活 性 が 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ に 特 異 的 な も の で あ る か 否 か を 確 か め る た め 、 各 種 プ 口 テ ア ー ゼ イ ン ヒ ビ タ ー を 加 え そ の 抑 制 率 を 検 討 し た 。 ま た 、 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ をlx10'/mlに 調 整 し24時 間 培 養 し 、 培 養 液 上 清 の 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ ‐ ゼ 1− ア ン チ 卜 リ プ シ ン 複 合 体 濃 度 を ELISA法 に て 測 定 し た 。
結 果
対 象 は 、 病 雅 、 理 学 所 見 、 胸 部 単 純 レ ン ト ゲ ン 写 真 、 呼 吸 機 能 、 血 液 諸 検 査 に お い て 、 全 員 明 ら か な 感 染 や 炎 症 所 見 はな く 、 ま た胸 部 疾 患は 認 め られ な か った 。LAA(ー ) 非喫 煙 者 群、LAA(‑)喫煙 者 群 、LAA( 十) 群 の3群 間 で 年齢 に は 差が なかっ た。LAA(―) 喫
煙者群、LAA(十)群間では累積喫煙量と血漿コチニン濃度のいずれについても差はなかっ た。LAA(十)群のなかでその気腫化の程度はグレード2以下の軽度の気腫化所見を呈す るものが14名中11名であった。
BAL中マクロファージ数はLAA(‑)喫煙者群、LAA(十)群ともにLAA(ー)非喫煙群に対し てそ れぞ れ有 意に 高値 を示 し喫煙の影響が明らかであった(23.9士4.0 SE、26.3土7.2 vs 6.6土1.5xl04/rTil,pく0.05)。一方、同一個数マクロファージ溶解液上清の酵素活性 は個 体差 が大 きい にも 関わ らず 喫煙歴 とは 関係 がな かっ た。しかし、気腫病変を有す るLAA(十)群では同程度の喫煙歴をもつLAA(‑)群と比較して有意に高値を示した(1116 土0.40 SE vs 0.34土0.07 nM,pく0.05)。この酵素活性は好中球エラスターゼに特異的 なも ので はな く、 好中 球エ ラス ターゼ 阻害 剤で あるPMSFによりLAA(―)喫煙者群では 41%抑制されたが、LAA(十)群では71%抑制された。マクロファージ培養液中の好中球 エラスターゼーゼ1−アンチトリプシン後合体濃度は、LAA(十)群ではLAA(‑)群に比ベ有意 に高値を示した(17.4土6.5 SE vs l.8土0.6 yg/l,pく0.05)。
考案
肺気 腫の 外的 要因と して 喫煙 は最 も重 要な 原因物質である。夕バコ成分自体あるい は 炎症 細胞 から 放出さ れる オキ シダ ント や種 々のプロテアーゼなどの攻撃凶子が、生 体の緻密な防御機能を上回るときにイく可逆的な肺の破壊が進行し肺気腫発症に至ると 考えられている。
本研 究は 、自 覚症状 のな い中 高年 ボラ ンテ ィアを対象としたことに特徴がある。肺 気 腫患 者を 対象 にする 場合 、気 管支 肺胞 洗浄 の回収率も悪く、加えて気道感染の影響 を 無 視 で き な い 。 肺 高 分解 能CTスキ ャン で初 期の 気腫病 変を とら える こと によ り気 腫化の生成過程を反映する因予を明らかにしようとした。
肺胞 マク ロフ ァージ は、 セリ ン、 メ夕 口、 システインプロテアーゼ等の各種プロテ
アーゼとそれらのインヒビターを有し、その機能の調節が肺の餌構築や種々の炎症に 関与していると考えられている。今I亜J著者らが着Iゴした好中球エラスターゼは各種プ ロテアーゼのなかでも最も強カなプ口テアーゼであり、エラスチンのみでなく、他の 結合組織に対しても広く活性を有している。好中球エラスターゼは主に好中球から放 出されるが、肺内にははるかに多くのマクロファージが存在する。レセプターを介し てマクロファージに取り込まれた好中球エラスターゼは細胞内で長期間活性を保持し 再放出することが報告されている。肺胞マクロファージは好中球と異なり細胞外マト リックスに接着し可溶性インヒビターの作用を避け直接エラスチンを攻撃する可能性 も指摘されている。しかも肺胞マクロファージは好中球よりも肺内に長く留まってい るとの報告もある。このような理由から、著者らは肺胞マクロファージの持つ好中球 エラスターゼが肺の気腫化に強く関与しているのではないかとの仮説を持つに至った。
今回の研究結果は、その仮説を立証するものであり、肺胞マクロファージの持つこ の特殊な機能は喫煙暴露に対する生体反応を反映しているのではなく、肺気腫の内因 としての喫煙感受性の一部を説明するものと考えられた。
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中高年ボラ ンティアに おぃて、肺 胞マクロファージ中の合成基質MEOSAAPVNAに 対する酵素活性は同じ喫煙歴を持ちながら気腫変化のある群ではなぃ群に比べて有意 に高く、その活性に占める好中球エラスターゼの関与は大きかった。また培養肺胞マ クロファージからの好中球エラスターゼ放出能も前者で有意に高かった。以上より、
肺胞マクロファージ中の好中球エラスターゼは肺の気腫病変に1刻するI喫煙感受性を説 明するひとつの因子である。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Neutrophil elastase associated with alveolar macrophages form older volunteers
( 健常 中 高年 者におけ る肺胞マ ク口ファ ージ中の好 中球エラ スターゼ )
目 的と 方 法 :肺 気 腫は 、 ほ とんどが 中高年以 上の喫煙 者に発症す る疾患で 、肺の弾 性 収 縮カ を 担 う肺 胞 壁エ ラ ス チン線維 の不可逆 的破壊を 特徴とする 。しかし 、臨床的 に は 重喫 煙 者 の一 部 にし か 肺 気腫を発 症しない ことから 、喫煙に対 する個体 の感受性 の 差 が 注 目さ れ る 。本 研 究は 多 く の自 覚 症状 の な い中 高 年ボ ラ ン ティ ア の 中か ら 、肺 CT検 査 に よっ て 臨 床的 肺 気腫 発症前の 気腫病変 を有する 被験者を選 び出し、 同程度の 喫煙歴 がありな がら同検 査で気腫 病変のな い被験者 や非喫煙者と比較することにより、
単 に喫 煙 と いう 刺 激に 対 す る生体反 応を見る ばかりで なく、より 直接的に 気腫化に 関 与する 機序を検 索した。 喫煙によ り増加す る炎症細 胞のひとっである肺胞マクロファー ジ が好 中 球 から 放 出さ れ る 好中球エ ラスター ゼをレセ プターを介 して取り 込み、活 性 を 保持 し た まま 再 放出 す る とぃう機 能に着目 した。対 象は自覚症 状のない 中高年男 性 ボ ラン テ イ ア36名 (平 均 年齢61士2 SE歳)。 肺高解像CT検査、呼 吸機能検査 、採血、
気 管 支 肺 胞 洗 浄 (BAL)を 行 っ た 。 肺CTで の 気 腫化 の 診 断は 呼 吸器 内 科 医3名が 独 立 して、 各対象の 喫煙歴や 呼吸機能 の情報を 伏せて読 影し、low attenuation area(以下 LAAと略す )の有無 で評価し た。現在 の喫煙習 慣と肺( 汀での気腫 性変化の 有無によ り LAA(‑)非喫煙者群(胆9)、LAA(‑)喫煙者群(nニ13)、L´岨(十)群(n=14、うち非喫煙者4名)
和 光
雄
義 利
和
上 出
藤
川 上
斉
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
の3群に 分 類し た 。BAL回 収 液よ り 肺 胞マ ク ロ ファ ー ジを 分 離 しそ の 溶解 液 上清の 酵 素活性を好中球エラスターゼに高感度の合成基質
methoxysuccinyl‑alanyl‑alanyl‑prolyl‑valyl paranitroanilide (MEOSAAPVNA)を用いて分光光 度法 に より 測 定 した。 また、肺 胞マクロ ファージを24時間培養 し、培養 液上清の 好中 球 エ ラ ス タ ー ゼ‑a1‐ ア ン チ 卜 リ プ シ ン 複 合 体 濃 度 をELISA法 に て 測 定 し た 。 結果:同一個数マクロファージ溶解液上清の酵素活性は気腫病変を有するし`A(十)群で は同程度 の喫煙歴 をもつLAA(−) 群と比較 して有意に高値を示した。マクロファージ培 養液中の 好中球エ ラスターゼ .ゼ1.ア ンチトリプシン複合体濃度は、LAAく十)群では LAA(‑)群に比ベ有意に高値を示した。
結語 : 肺胞 マ ク ロファ ージ中の 好中球エ ラスターゼ は肺の気 腫病変に 関する喫 煙感受 性を説明するひとつの因子である。
口頭 発 表に あ た り、上 出教授よ り、肺胞 マク口ファ ージ中の 好中球エ ラスター ゼの調 節機序に 関して、 斉藤(和) 教授より 対象年令、個体差を規定している因子について、
浅香 教 授よ り 肺 気腫の 早期診断 、好中球 と炎症に関 してそれ ぞれ質問 があった 。申請 者は概ね妥当に答えたと思う。
また 、 上出 教 授 、斉藤 (和)教 授より個 別に審査を 受け、合 格との御 返事をぃ ただぃ ている。
本論 文 は肺 胞 マ クロフ ァージの 持つ好中 球エラスタ ーゼは喫 煙暴露に 対する反 応を反 映し て いる の で はなく 、肺気腫 発症の内 因としての 喫煙感受 性の一部 を説明す ること を初 め て報 告 し た。臨 床的にも 肺気腫の 素因の一端 を明らか にする意 義ある研 究と思 われる。よって本論文は博士(医学)に相当するものと認めた。