九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
低アスペクト比・高密度ヘリコンプラズマの生成と その特性に関する研究
本村, 大成
九州大学大学院総合理工学府
https://doi.org/10.15017/21743
出版情報:Kyushu University, 2011, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
低アスペクト比・高密度 ヘリコンプラズマの生成と
その特性に関する研究
本村 大成
2012 年 博士学位論文
目 次
第1章 序論 1
1.1 ヘリコンプラズマ . . . . 1
1.2 ヘリコン波の歴史 . . . . 1
1.3 ヘリコンプラズマの特徴とその応用例 . . . . 5
1.4 低アスペクト比・高密度プラズマ源の必要性 . . . . 10
1.5 ヘリコンプラズマ源の大口径化と短軸長化 . . . . 12
1.6 本研究の目的 . . . . 14
第2章 ヘリコン波の理論 18 2.1 一様プラズマ中のヘリコン波の分散関係式 . . . . 18
2.2 ヘリコン波の構造と境界条件 . . . . 23
2.3 ヘリコン波の減衰 . . . . 25
第3章 実験装置及び測定方法 30 3.1 大容量ヘリコンプラズマ発生装置 . . . . 30
3.2 測定方法 . . . . 37
第4章 低アスペクト比ヘリコンプラズマにおける定在波構造 42 4.1 軸方向定在波構造を持つヘリコン波 . . . . 42
4.2 短軸長ヘリコンプラズマ生成とヘリコン波の関係 . . . . . 45
第5章 低アスペクト比ヘリコンプラズマ生成と制御に関する考察 55 5.1 磁場強度による電子密度の変化 . . . . 56
5.2 入力パワーによるヘリコンプラズマの径方向分布変化 . . . 61
5.3 ヘリコンプラズマの生成効率 . . . . 68
5.4 ヘリコンプラズマ源の制御性に関する考察 . . . . 70 5.4.1 高密度化に対する考察 . . . . 70 5.4.2 大口径化に関する考察 . . . . 74
第6章 結論 77
付 録A Trivelpiece Gould 波に漸近するモード 80
参考文献 86
謝辞 92
第 1 章 序論
1.1 ヘリコンプラズマ
非平衡媒質としてのプラズマは,通常の物質では見られない特異な性 質を示すので,産業分野や宇宙推進器開発等に広く応用されている.中 でも,プラズマ波動の一種であるヘリコン波を用いた生成法は,高密度 プラズマを容易に得ることができるので,次世代プラズマ源として有望 視されている.ヘリコン波によって生成されたプラズマは「ヘリコンプ ラズマ」と呼ばれ,多様なプラズマ生成法の中でも応用を指向した簡便 な高密度プラズマ生成法として一線を画している.
1.2 ヘリコン波の歴史
ヘリコン波は,有限境界の磁化プラズマ中を伝搬する,高周波 (rf)領 域の右回り円偏波の電磁波である[1–3].また,ヘリコン波は有限境界中 のホイスラー波(bounded whistler wave)とも呼ばれており,ホイスラー 波の一種であると分類されている.ホイスラー波の初観測は1953年の事 であり[4],雷放電から発生したインパルス状の電磁波の一部が,地球磁 力線に沿って反対半球の磁気極に到達した際にホイッスル音のような雑 音として観測されたため,その名がつけられた (図1-1参照)[5].
磁気圏内で発見されたホイスラー波に対し,ヘリコン波は金属中の波
動現象を研究する中で発見された.金属は,自由電子と束縛されたイオン から構成されるため,プラズマと同様に電子の挙動に起因した静電的・電 磁的波動が励起されることが古くから知られている.1960 年に Aigrain が,低温金属中に伝搬する低周波領域の電磁波の偏波がヘリカル(螺旋) 状であったことから,この電磁波をヘリコン波と名付けた[6].1961年に
Bowers らとLibchaber らにより,金属及び半導体中に伝搬するヘリコン
波が,ホイスラー波と同様の性質を持つ事が示され,ヘリコン波の現在 の認識が確立した[7, 8].1964年には,Legendyより,一様磁場・一様密 度分布を仮定した金属中のヘリコン波の分散関係式が与えられた[9].
翌年の 1965 年に,金属中で定式化されたヘリコン波の分散関係式は,
Klozenberg,McNamara,Thonemannによりプラズマ中における分散関 係式に拡張され,現在のヘリコン波研究に用いられる基本的な波動特性 が確立された[10].また同年には,Lehaneと Thonemanが,磁化円柱プ ラズマ内に励起された電磁波を計測したところ,Klozenberg‐McNamara
‐Thonemann らが提唱したモデルの分散関係式とよく一致する事を示し
た(図1-2参照) [11].図1-3は,プラズマ中のヘリコン波の初観測に成功 した装置の概略図である.興味深い事に,現在使用されている殆どのヘ リコンプラズマ装置の基本構造が,この装置に類似している.
1970 年,Boswell の報告[12]によって,ヘリコンプラズマがプラズマ 源として注目されるようになった.この報告により,ヘリコンプラズマ は,数kW の投入パワーで1019m−3 程度の高密度プラズマを生成できる プラズマ源であると広く認識され,応用目的で利用されるようになった.
以来,現在に至るまで,へリコンプラズマ源は基礎と応用分野を問わず に様々な分野で用いられている[1–3, 13, 14].
図 1-1: 地球磁気圏で測定・検波された可聴周波数領域(<5.5 kHz)の電 磁波の周波数スペクトルの時間発展[5].時間の経過と共に周波数が低下 する信号がホイスラー波である.
図 1-2: 磁化円柱プラズマ中で測定されたヘリコン波に対する実験値と 理論値の比較[11].電子密度を一定に保ち,磁場強度を変化させた場合の 実験値とKlozenberg‐McNamara‐Thonemann理論が定量的に一致して いる.
図 1-3: 初めてプラズマ中のヘリコン波の観測に成功した装置の概略図 [11].真空容器サイズ φ 0.1m×1m.Exciter loop 及び Radio-frequency coils で周方向モード数 m= 0, ±1 のヘリコン波を励起できる.
1.3 ヘリコンプラズマの特徴とその応用例
実験室では,磁場中に設置されたアンテナに高周波電圧を印加する事 でヘリコンプラズマを生成できる.高周波電圧をアンテナに印加するタ イプのプラズマ放電は,入力パワーの増加と共に,容量性結合型プラズマ (Capacitively Coupled Plasma: CCP)放電[15]から 誘導性結合型プラズ マ (Inductively Coupled Plasma: ICP)放電[16],ヘリコン波放電へと放 電形態が変化する[17].特に,ヘリコン波放電で得られるプラズマ密度 は,CCP 放電 (およそ≤1016 m−3) 及び ICP放電 (およそ ≤1017 m−3) よりも 2‐3 桁程度高いため,ヘリコンプラズマへ放電形態が移行する際 に急激に密度増加が起こり,密度ジャンプと呼ばれる現象として観測さ れることが知られている(図1-4[18]参照).図1-5に,本実験で得られた ヘリコンプラズマ放電の様子を示す.ヘリコンプラズマ放電は,電子サ イクロトロン共鳴加熱 (Electron Cyclotron Resonance Heating: ECRH) のように共鳴磁場を必要としないので,励起周波数に応じた磁場強度の 制限がなく,広い磁場領域および磁場配位を選ばずにプラズマ生成が可 能である.また,数 mTorr 程度の比較的低い中性ガス圧力でプラズマ生 成が可能である点も特徴として挙げられる.表 1.1 に代表的な高周波プ ラズマ源の電子密度,中性ガス圧力,励起周波数,磁場強度の典型的な 領域をまとめる.
図 1-4: 電子密度の入力 rf パワー依存性[18].アンテナ形状を変更して m = 0, ±1 のヘリコン波を励起している.図中 300‐700 W の領域の,
急激な密度の増加現象を密度ジャンプと呼ぶ.
表 1.1: 高周波プラズマ源の分類
ヘリコン波 CCP ICP 電子サイクロトロン波 電子密度
m−3 1018−1019 1015−1017 1017−1019 1017−1019 ガス圧力
mTorr 0.5-100 100-5000 0.5-500 0.1-10
励起周波数
MHz 5-30 0.05-13.56 1-20 2450
磁場強度
T 0.005-0.1 - -
0.0875
(励起周波数2.45 GHz時)
図 1-5: 高密度ヘリコンプラズマ放電の様子.高密度領域 (1018 m−3 程 度) が青白く見える.
多様なプラズマ生成法が存在する中で,ヘリコンプラズマ源は産業応 用,電気推進,基礎プラズマ実験等の様々な応用分野において,高密度 領域 1017 - 1019 m−3 をカバーできるプラズマ源として用いられている.
しかし現状では,更なる物理現象の理解を含め,次世代の高性能プラズ マ源としての有用性を実証する事が求められている.
今後の産業応用分野では,これまでの品質向上の課題に加えて,高速 処理の観点から高密度プラズマ源が有望になると考えられる.また最近 の半導体の集積度の向上の観点からは,微細エッチングが比較的容易と なる低ガス圧放電が可能なプラズマ源が求められている.これらの問題 に対し,低ガス圧力放電で高密度化が可能なヘリコンプラズマ源が有用 であると考えられ,ヘリコン源を用いた産業技術の研究開発が行われて いる.例えば,エッチングや薄膜堆積のためにヘリコンプラズマ源が用 いられた例[19, 20]や,製品化された例[21]がある.
宇宙推進分野にも,プラズマ技術は不可欠である.代表的な例として,
小惑星探査機「はやぶさ」[22]に用いられたイオンエンジン[23]には,ECR 源を搭載したプラズマ推進機が用いられている.当分野でも,ヘリコンプ ラズマ源は入力パワーあたりのプラズマ密度が高い高効率なプラズマ源と して認識されている.例えば,様々な磁場配位や磁場強度でプラズマ生成 が可能な高密度プラズマ源として,有人火星飛行ミッションであるNASA のVariable Specific Impulse Magnetoplasma Rocket (VASIMR)プロジェ
クト (図1-6参照)[24]にヘリコンプラズマ源が採用されている.はやぶ
さと VASIMR の中間程度の航行距離と推進性能を目指す High Power
Helicon Plasma Thruster にも,名前にあるようにヘリコンプラズマ源が 採用されている[25].高密度放電が可能なヘリコンプラズマ源を推進機に
図 1-6: VASIMR の概略図[24].ヘリコンプラズマをヘリカルアンテナ で生成し,その後イオン共鳴加熱を行い,磁気ノズルでプラズマ加速を 行い排出された運動量の反作用力により推力を得る.
用いると,現行の静電加速型エンジンに比べ最大で 3 桁程度高い推力を 得る事ができると期待されている.
1.4 低アスペクト比・高密度プラズマ源の必要性
これまで述べたように,ヘリコンプラズマは様々な分野において高密 度領域をカバーできるプラズマ源として認識され,その応用が試みられ ているが,現状では軸方向に長い装置が多く,適用範囲が限られている.
各研究分野に用いられるプラズマ源をアスペクト比と電子密度について 分類すると,図1-7のようになり,アスペクト比 0.1 程度(軸長 10 cm以 下) で,1017 m−3 以上のプラズマを安定して生成できるプラズマ源がな いことが分かる.ヘリコンプラズマ源を低アスペクト化できれば,低ア スペクト比・高密度プラズマ源の未開発領域をカバーする有力なプラズ マ源の1 つになると考えられる.
軸方向に長いヘリコン装置が殆どを占める理由として,次節で述べる アンテナ形状の問題が挙げられる.また,ヘリコンプラズマの生成機構 を含めたヘリコン波の基礎物理現象を調べるために,軸長の短い装置は 不向きとされてきた経緯も挙げられる.長軸長ヘリコンプラズマの生成 に関する「特性」という面では,その殆どが明らかになっており,その特 徴を活かした応用が行われている.
一方,産業応用や電気推進分野における装置形状に目を向けると,シス テム内に占めるプラズマ源に関するコストの割合を低減する目的で,装 置のコンパクト化が求められている.加えて,大面積処理や推力増加の 観点からは,プラズマ源を大口径化する事が望まれている.即ち,装置 の低アスペクト化(アスペクト比A =装置軸長/装置直径)が求められて いる.高密度・高電離・コンパクトなプラズマ源の実現に伴うプラズマ 技術の発展のためには,低アスペクト比ヘリコンプラズマ源の開発が必
0.01 0.1 1 10 100 10
12 10
13 10
14 10
15 10
16 10
17 10
18 10
19 10
20
Electrondensity[m
-3 ]
Aspect ratio = device length / diameter
図 1-7: 電子密度及びアスペクト比 (A = 装置軸長/装置直径) で整理し たプラズマ源の分類.
要である.
表 1.2: 図1-8における各アンテナの分類.
アンテナの種類 大口径化 短軸長化
(a): シングルループ 不適(×) 適(○) (b): ダブルループ × × (c): ダブルサドル × × (d): 名古屋 タイプIII × ×
(e): ヘリカル × ×
(f): フラットスパイラル ○ ○
1.5 ヘリコンプラズマ源の大口径化と短軸長化
プラズマ源の大口径化と短軸長化を同時に実現するため,即ち低アス ペクト化のためには,励起アンテナの選定が特に重要であると考えられ
る.図1-8[3]に,現在用いられている主要なヘリコンプラズマ生成用のア
ンテナを示す.「大口径化」及び「短軸長化」についてアンテナ種を分類 し,低アスペクト比ヘリコンプラズマの生成に最も適したアンテナ形状 を考える.低アスペクト化に着目して各アンテナの構造をまとめたもの を,表1.2に示しているが,高密度を維持しつつプラズマを大口径化する 場合には,アンテナ誘導電場がプラズマ中心に十分供給される必要があ る.また,一般的にプラズマの短軸長化限界は,波長程度の長さで決定 されると考えられるので,軸方向波長がアンテナによって決まらないも のを選ぶ必要がある.これらの理由より,大口径化と短軸長化の両方に 適したフラットスパイラルアンテナ[26] [図1-8中 (f)] を用いる事で,低 アスペクト比ヘリコンプラズマの生成を試みた.
図 1-8: 様々なタイプのヘリコン波励起アンテナ[3]: シングルループア ンテナ(a) ,ダブルループアンテナ (Boswellタイプ) (b),ダブルサドル
アンテナ(c),名古屋タイプIII アンテナ(d),ヘリカルアンテナ (e),フ
ラットスパイラルアンテナ (f).[(a),(f)] のアンテナは周方向モード数 m = 0,他のアンテナは周方向モード数 m =±1 のヘリコン波が主に励 起される.
1.6 本研究の目的
本研究の目的は,低アスペクト比・高密度ヘリコンプラズマ源の実現 により,各分野におけるヘリコンプラズマ源の適用範囲を広げる事であ る.そのために,短軸長・低アスペクト比・高密度ヘリコンプラズマの 生成実験を行う.プラズマの大口径化および短軸長化に適したフラット スパイラルアンテナと,真空容器内に軸方向に可動な終端板を設置し軸 長を制御する事で,大口径ヘリコンプラズマの短軸長化を行ない,A ∼
0.075 までの低アスペクト比ヘリコンプラズマの特性を調べた[27–29].
図1-9は,本研究と他のヘリコン装置のアスペクト比[30–35]を分類し た図である.本研究では0.075 ≤A < 0.5 の領域の実験を行なっており,
他のヘリコン装置よりも短軸長で大口径の装置を用いて,さらに小さな アスペクト比のヘリコンプラズマ特性を調べた.我々以外の研究で最も軸 長の短いヘリコンプラズマ実験は,軸長0.1 m,A∼2 (図1-9中 Nagoya
U.) [32]であるが,本研究は最短で 0.055 m の軸長下でその特性を調べ
た.フラットスパイラルアンテナを用いたもので,最小のアスペクト比 ヘリコンプラズマ装置は A ∼ 0.5 (図1-9中 Princeton U.)[30]であるが,
本研究はさらに1 桁程度小さな領域を調べた.
短軸長化した場合には,軸方向境界がプラズマに与える影響が強くな ることが予想される.またその場合には,ヘリコン波の波長(実験室での 典型的な値は数十cm) が装置長よりも短くなり,軸方向境界の形状や材 質により波動が変化する事が予想される.これにより,波長よりも装置 長が十分に長い装置内で行う従来の波動伝搬実験とは異なる波動現象が 起こる事が予想されるため,本研究は波動物理としても興味深い内容を
0.01 0.1 1 10 0.01
0.1 1 10
Kyushu U.
VINETA (Max Planck)
Nagoya U.
Princeton U.
NLD (Ruhr U.)
LHPD (ISAS/JAXA)
Aspect ratio = 0.5
Devicelength[m]
Device diameter [m]
0.05
図 1-9: 直径及び軸長で整理したヘリコンプラズマ装置の分類.
含むと考えられる.本研究では,各応用分野で用いられている軸方向境 界を模擬するために,以下に示す 3種類の異なる性質や構造を持つ軸方 向境界に対してヘリコンプラズマの生成実験を行った.
1. 絶縁体板 (Insulator):
エッチング及び薄膜形成時に使用される絶縁体基盤はガラスやセラミッ ク製であり,本実験ではマイカ(人工雲母) を用いて模擬した.
2. 穴あき導体板 (Conductor with holes):
「はやぶさ」等の静電的加速法を用いるイオンエンジンのイオン加速グ リッド等と同程度の穴あき率 (∼ 35 %) のステンレスの終端板を用いて 模擬した.
3. 導体板 (Conductor):
絶縁体板との比較及び穴の有無の結果を比較するために,ステンレスの 導体板を用いた.
本論文は 6章で構成される.第 2章では,一様磁場・一様密度の場合 の冷たいプラズマ中のヘリコン波の分散関係式を導き,ヘリコン波の空 間構造,境界条件,減衰について述べる.第 3 章では,大口径のヘリコ ンプラズマ発生装置,フラットスパイラルアンテナ及び測定方法につい て述べる.第4 章では,プラズマ中に励起されるヘリコン波動を計測す る事により,軸方向に定在波が形成される事が短軸長ヘリコンプラズマ 生成に必要である事を明らかにする.第 5章では,外部磁場強度及び電
子密度に着目した低アスペクト比ヘリコンプラズマの特性及び,低アス ペクト比ヘリコンプラズマの高密度化・大口径化に対する考察を行う.第 6章で本論文の結論を述べる.
第 2 章 ヘリコン波の理論
本章では,周方向モード数m = 0 のヘリコン波を知る上で必要な理論 について述べる.2.1節で,最も簡単な近似である一様プラズマ中のヘリ コン波の分散関係式について述べる.2.2節では,周方向モード数 m = 0 のヘリコン波の波動構造,及び境界条件について述べる.2.3節では,
ヘリコン波の減衰のなかで支配的な衝突減衰とランダウ減衰について述 べる.
2.1 一様プラズマ中のヘリコン波の分散関係式
文献[36–38]を参考にし,一様密度・一様磁場及び,冷たいプラズマの近
似を用いてヘリコン波の分散関係式を導出する.一様外部磁場B0 =B0zˆ 中に励起される電場と磁場に関する方程式は,以下のマクスウェル方程 式により表される.
∇ ×E = −∂B
∂t [2.1]
∇ ×B = µ0j [2.2]
E, B, j は変動成分である.cは光速である.ωci ωωce の周波数領 域を考え,式[2.2]において,変位電流項は電流密度の項に比べ十分小さ いとして落とした.ここで ωci, ωce はそれぞれイオンと電子のサイク
ロトロン周波数である.また,ωci ω ωce の周波数領域においてイ オンの運動は無視できるので,電子のみが高周波電場に追随して E×B ドリフトするために電流が生じる.抵抗率はゼロであると仮定する.即 ち Ez = 0 であると仮定する.電子の運動方程式で質量が無視できるほ ど小さく,冷たい近似を用いて線形化すれば,電磁流体近似から求めら れるオームの法則は,
E = j ×B0
en0 [2.3]
となり,電流密度と電磁場を関連付ける.添え字の「0」は定常状態の密 度や磁場を表す.ここで円柱プラズマを考え,以下のように電場及び磁 場を仮定する.
E(r, θ, z, t) = E(r) expi(kzz+mθ−ωt) [2.4]
B(r, θ, z, t) = B(r) expi(kzz+mθ−ωt) [2.5]
kz は軸方向波数,m は周方向モード数である.式[2.5]を用い,∂/∂θ → im, ∂/∂z →ikz, ∂/∂t → −iω とすると,マクスウェル方程式より,
iωB = ∇ ×E =∇ ×(j ×B0)/en0
= (B0· ∇)j/en0 = (ikzB0/en0)j [2.6]
となる.jに式[2.2]を代入すると,
∇ ×B =αB [2.7]
となる.ここで,
α ≡ ω kz
µ0en0 B0 = ω
kz ωpe2
ωcec2 [2.8]
である.両辺の回転を取ると,
∇2B+α2B= 0 [2.9]
となり,ヘリコン波の分散関係式が得られる.
k2 =k2⊥+kz2 =α2 = (ω
kz µ0en0
B0 )2
= (ω
kz ω2pe ωcec2
)2
[2.10]
式[2.10]は,実験時の主な可変パラメータである軸方向波数と密度の関係
を示しており,図2-1は式[2.10]を図示したものである.垂直方向の波数 は,k⊥1 = 3.83/aよりa= 0.1,0.2,0.3として求めた.k⊥ は次節で説明す るヘリコン波の境界条件より求めた.図2-1より,式[2.10]の右辺の外部 パラメータである励起周波数f および磁場強度 B と径方向波数k⊥ を固 定し,軸方向波数を増加させれば,ヘリコンプラズマを高密度化できる.
即ち,ヘリコンプラズマの密度制御を行うには,外部パラメータあるいは 軸方向波数を制御する必要がある.また付録Aでは,ωci ω ωce の 周波数領域における分散関係式のもう一つの解である,Trivelpiece Gould (TG) 波[39]に漸近するモードについて述べた.
本論文では一様プラズマを仮定しているが,一様近似が成り立つため の条件を考える.径方向に非一様な密度分布 n(r) を考慮し,式[2.1],式 [2.2]及び
E = j ×B0
en(r) [2.11]
を用いると,
iωB = ∇ ×E =∇ ×
[j×B0 en(r)
]
= (B0· ∇) j
en(r) −B0 (
j· ∇ 1 en(r)
)
[2.12]
となる.式[2.6]の右辺の2 つの項を比較すると,右辺第1項よりも右辺 第 2 項が十分小さい条件
1 kz
∂
∂rlnn(r)
nb 1 [2.13]
を満たせば,境界上を除き径方向に密度が一様であると近似してもよい 事がわかる.nb は電子密度の代表値である.軸方向波数が密度勾配長よ りも小さくなれば,一様な軸方向波数を用いる事ができなくなる.その 場合は局所的な密度の値で軸方向波数が決定される事になり,数値的に 分散関係式を解く必要がある.
次に冷たいプラズマの近似が,ヘリコン波の分散関係式に適用できる かを考える.冷たいプラズマの近似は温度をゼロとし,運動方程式の圧 力勾配の項をゼロにすることに対応する.また分布関数の広がりを考え ないため、ランダウ減衰も考慮されない.電子の運動方程式で質量が無 視できるほど小さいと仮定し線形化すれば,電磁流体近似から求められ るオームの法則は,
enE=j×B0− ∇p [2.14]
となる.電子であることを示す下付きの e は省略した.冷たいプラズマ の近似が成り立つためには,式[2.14]の右辺より,
∇p j ×B0
1 [2.15]
となる必要がある.j に式[2.2]を代入し,典型的な実験パラメータの ne = 1018 m−3,Te = 3 eV,B0 = 0.005 T を代入すると,
∇p j ×B0
∼ µ0neKTe
BB0 ∼ 10−4
B [2.16]
1 10 100 1
10 100 1000
k 1
= 3.83 / a
a = 0.1 m
0.2 m
0.3 m
f[MHz]n e
[10
19 m
-3 ]/B[T]
k z
[m -1
]
図 2-1: 一様磁化プラズマ中のヘリコン波の分散関係式[2.10] (cold 近似) より得た kz に対する f ne/B の依存性.垂直方向の波数 k⊥1 ∼ 3.83/a, プラズマ半径a= 0.1,0.2,0.3 m とした.
となる.K はボルツマン定数である.典型的なヘリコン波の磁場強度は 10−4 T のオーダーである[36].ヘリコン波の磁場と外部磁場が等しくな るような実験条件で,β 値が最大 0.8 程度のプラズマ生成実験[29]が行 われたが,低電離度のためイオン-中性粒子のホールパラメータが磁気流 体近似を満たしていない.上記のような低磁場領域において,厳密には 有限温度プラズマの分散関係式を解く必要があるが,ヘリコン波の全体 像を簡便に解析するために,冷たいプラズマの近似を用いる事とする.
2.2 ヘリコン波の構造と境界条件
式[2.9]のz 成分を円柱座標系で表すと,以下のBessel方程式で表せる.
∂2Bz
∂r2 + 1 r
∂Bz
∂r + (
k2⊥− m2 r2
)
Bz = 0 [2.17]
式[2.17]が r = 0で解を持つためには,Bz =C1Jm(k⊥r)となることが知 られている.Jm(k⊥r) は周方向モード数 m に対する第 1種 Bessel 関数 である.C1 は後に述べる任意定数である.式[2.7]より,Br, Bθ は,
im
r Bz−ikzBθ =αBr [2.18]
ikzBr− ∂Bz
∂r =αBθ [2.19]
となる.それぞれをBz, ∂Bz/∂rで表すと以下のようになる.
Br = iC1
k⊥2 (m
r αJm(k⊥r)−kz
∂Jm(k⊥r)
∂r )
[2.20]
Bθ = C1 k2⊥
(m
rk⊥Jm(k⊥r) +α∂Jm(k⊥r)
∂r )
[2.21]
ここで以下の公式 m
r Jm(k⊥r) = k⊥
2 (Jm−1(k⊥r) +Jm+1(k⊥r)) [2.22]
∂Jm(k⊥r)
∂r = k⊥
2 (Jm−1(k⊥r)−Jm+1(k⊥r)) [2.23]
を用い,C ≡iC1/(2k⊥)とおくと,Br, Bθ, Bzは,
Br = C2Jm−1(k⊥r) +C3Jm+1(k⊥r) [2.24]
Bθ = i(C2Jm−1(k⊥r)−C3Jm+1(k⊥r)) [2.25]
Bz = C1Jm(k⊥r) [2.26]
となる.ここで,C1 =−2ik⊥C, C2 = (α+kz)C, C3 = (α−kz)Cである.
各式の実部を取り,式[2.1]を用いると,磁場Br, Bθ, Bzは,
Br = −kz
ωEθ
= 2C k⊥
[mα
r Jm(k⊥r) +kz∂Jm(k⊥r)
∂r ]
cosψ [2.27]
Bθ = kz ωEr
= −2C k⊥
[
α∂Jm(k⊥r)
∂r + mkz
r Jm(k⊥r) ]
sinψ [2.28]
Bz = 2Ck⊥Jm(k⊥r) sinψ, Ez = 0 [2.29]
となる.ここで,ψ =mθ+kz−ωtである.本論文で用いるアンテナは 理想的に周方向モード数m = 0のヘリコン波を励起するよう設計されて いる.m= 0 の場合に式[2.29]は,
Bz =Ck⊥J0(k⊥r) sin(kzz−ωt) [2.30]
となる.
ヘリコン波の境界条件
プラズマと壁との境界について考える.式[2.2]を式[2.7]に代入すると,
j = α
µ0B [2.31]
となる.境界が絶縁体の場合 jr = 0 となるので,式[2.31]より,Br = 0 となる.
次に境界が導体の場合を考える.導体の側壁上では同電位となり電場は形 成されないので,導体の境界上ではEθ = 0 となる.式[2.1]よりEz = 0 であるため,Eθ =−(ω/k)Brとなる.結果として,真空容器側壁が絶縁
体もしくは導体であったとしても,Br = 0 が境界条件となる.r=a (a:
プラズマ半径) で Br= 0 である事より,式[2.27]からヘリコン波の境界 条件は,
Br(a) = mαJm(k⊥a) +kza∂Jm(k⊥a)
∂r = 0 [2.32]
となる.周方向モード数m = 0 の場合,上式は,
Br(a) =J1(k⊥a) = 0 [2.33]
となる.式[2.33]を満たすためには,1次の第1種Bessel関数のゼロ点 より,k⊥a ∼ 3.83, 7.01, 10.17,· · · となり,k⊥ の小さい方から 1,2,3 次,... の径方向波数と呼ぶ.また j 次の径方向波数については,k⊥j の ように表記する.
2.3 ヘリコン波の減衰
衝突減衰
実際のヘリコン波の波動構造を理解するために,衝突減衰とランダウ 減衰を考える[37].ν ω ωce の条件を満たすと仮定するので,磁場に 垂直方向の電子の運動は磁気流体的であるため元の方程式に衝突を考慮 する必要がなく,磁場に平行方向の電子の運動のみを考えればよい[37]. 衝突によるヘリコン波の減衰長を求めるために,方程式は式[2.1],[2.2]
と以下の衝突を考慮したオームの法則を用いる.
E = j ×B0
en0 − im
n0e2(ω+iν)j [2.34]
式[2.34]は冷たい近似の電子運動方程式から得られる.分散関係を得た際
と同様に,式[2.1],[2.2],[2.34]より磁場に関する以下のような波動方程
式が得られる.
(ω+iν)(∇ × ∇ ×B)−kzωce(∇ ×B) +αkzωceB = 0 [2.35]
式[2.35]をまとめると,
(β1− ∇×)(β2− ∇×)B= 0 [2.36]
となる.β1及びβ2は以下の2次方程式の2つの解である.
(ω+iν)β2−kzωceβ+αkzωce = 0 [2.37]
式[2.37]の解は
β1 = 1−√
1−4αγ
2γ [2.38]
β2 = 1 +√
1−4αγ
2γ [2.39]
である.ここでγ = (ω+iν)/(kzωce)である.β2をαγが十分に小さいと して展開し定数項のみを取ると,β2 ∼ 1/γとなり,β2は遅波 (TG 波に 漸近するモード) である事がわかる.同様に,β1をαγ 1として,一次 の項まで展開すると,
β1 = 1
2γ[1−√
1−4αγ]∼α(1 +αγ)
= α [
1 + (αc
ωpe
)2( 1 + iν
ω )]
[2.40]
となる.ここで式[2.7]と式[2.36]がβ1に対して同一であることに着目す ると,β12 =k⊥2 +kz2であることがわかる.kz = Re(kz) +iIm(kz)であり,
σ≡Im(kz)/Re(kz)と定義すると,αは以下のように変形できる.
α=α0(1 +iσ)−1, α0 ≡ ω Re(kz)
ω2pe
ωcec2 [2.41]
Im(kz)を求めるためには,β12 = k2⊥ + k2z の虚数部に着目すればよく,
1/Im(kz) より減衰長を求める事ができる.簡単の為に減衰が小さいと仮
定し,式[2.40]をσとν/ωの1次の項まで展開すると,衝突減衰長は以
下となる.
Lcoll = 1
Im(kz) = 1 + (k⊥/α)2
Re(kz)(ν/ω)(αc/ωpe)2 [2.42]
ここで,減衰が小さいと仮定しているので,α ∼ α0と置いている.ま た式中のνは,電子‐イオンの衝突周波数と電子‐中性粒子の衝突周波 数の和として扱う.以降,衝突減衰の衝突周波数であることを示す際は,
νcoll =νen+νeiと表す.
ランダウ減衰
ランダウ減衰を考える場合,運動論的な取り扱いが必要となる.ν ω ωce の条件を満たすと仮定するので,磁場に平行方向の電子の運動 のみを考えればよい[37].この場合Boltzmann 方程式は,無衝突である と仮定して,
∂f1
∂t +v∂f1
∂z − e mE∂f0
∂v = 0 [2.43]
となる.上式でz 及び粒子種(この場合電子)を示す添え字は省略してお り,線形化している.f1 ∝expi(kzz−ωt) とすれば,
f1(v) = 1 ω−kzv
[ieE m
∂f0(v)
∂v ]
[2.44]
となる.ここで以下の量を定義する.
u≡v/vth, v2th ≡2KTe/m, ζ ≡ω/kzvth
速度分布関数はMaxwell 分布
f0(u) = n0
√πvthe−u2 [2.45]
であると仮定する.プラズマ分散関数 Z(ζ) を
Z(ζ)≡ 1
√π
∫ ∞
−∞
e−u2du
u−ζ , ∂Z(ζ)
∂ζ ≡ 1
√π
∫ ∞
−∞
e−u2du
(u−ζ)2 [2.46]
と定義する.磁場に平行な電流密度は以下で与えられる.
jz =−e
∫ ∞
−∞
vf1(v)dv [2.47]
式[2.44]‐[2.47]より,
jz = i0ωpe2 Ez
ω ζ2∂Z(ζ)
∂ζ [2.48]
となる.式を簡単にする為に,ω/kz vthe(ζ 1)を仮定し,ζ2∂Z(ζ)/∂ζ を展開する.特異点は実軸上にあることに注意すると,
ζ2∂Z(ζ)
∂ζ = 1 + 3 2
1
ζ2 +· · · −2i√
πζ3e−ζ2 [2.49]
となる.jzを求めるに当たり,ζ2 は十分大きいとすれば,
jz = i0ωpe2 ω Ez
(
1−2i√
πζ3e−ζ2 )
[2.50]
となる.右辺第2 項はランダウ減衰の衝突周波数 νLD = 2√
πωζ3e−ζ2 [2.51]
である.衝突減衰の衝突周波数を考慮すれば,実効的な衝突周波数は
νeff =νcoll+νLD [2.52]
である.k⊥ kzの場合,ランダウ減衰による減衰長は,
LLD = ωce
νLDk⊥ = ωce 2√
πωk⊥ζ3e−ζ2 [2.53]
となる.式[2.42]及び式[2.53]より全減衰長 Ltotal は,
Ltotal = ( 1
Lcoll + 1 LLD
)−1
[2.54]
となる.
本実験の典型的なヘリコンプラズマのパラメータを用いると,衝突減 衰の減衰長は Lcoll ∼ 7.8 m となる.電子-イオンの弾性衝突の衝突周波 数は,
νei = 3.15×10−12ln ΛzeffneTe−1.5 [2.55]
を用いた.電子‐中性粒子(アルゴン)の弾性衝突の衝突断面積は,文献 [15]を用いた.また,典型的なランダウ減衰の減衰長はLLD ∼2.3 m と なり,全減衰長はLtotal ∼1.8 m となる.本論文において,終端板位置は 全減衰長に比べ十分に短い (zELtotal)ため,衝突減衰とランダウ減衰 によるヘリコン波の減衰は殆ど生じないと考えられる.
式[2.51]より,νLD が最大値 νLDmax となるのは,ζ =√
3/2 の時であ る.その場合 νLDmax ∼9.1 f となる.Te= 3 eV, ln Λ = 10, zeff = 1と
して,νLDmax =νei となるのは,ne ∼1.5×1012f m−3 の場合である.
第 3 章 実験装置及び測定方法
本章では,3.1節で,短軸長ヘリコンプラズマ生成実験に用いた宇宙科 学研究本部/宇宙航空研究開発機構(ISAS/JAXA)にある大容量ヘリコン プラズマ発生装置について述べる.3.2節では,電子密度及びヘリコン波 の振動磁場の測定に用いた,静電プローブと磁気プローブ測定法につい て述べる.
3.1 大容量ヘリコンプラズマ発生装置
図3-1(a)にISAS/JAXAにある大容量ヘリコンプラズマ発生装置(Large Helicon Plasma Device: LHPD)[34]の概略図を示す.LHPD は外径0.74
m,長さ 4.86 mの円筒形真空容器を持つヘリコンプラズマ発生装置 (容
量 ∼ 2.1 m3) である.真空容器側面に 14 か所,エンド部とソース部の
フランジには各々8か所のポートがあり,プローブ測定等が可能である.
真空排気に使用したポンプは,直列接続されたロータリーポンプ(排気速 度510 `/s)とターボ分子ポンプ (排気速度 1800`/s)である.容器内のガ ス圧力は,真空容器エンド部付近の上部に取り付けた 2 つのイオンゲー ジ,ターボ分子ポンプ上流のアンテナ付近に取り付けた SCHULZ ゲー ジを用いてモニターした.典型的な実験時の到達真空度は,<5×10−6 Torrである.放電にはアルゴンガスを用い,pAr = 0.75‐15 mTorrの圧
力範囲で実験を行った.本実験において特に断らない限り,アルゴンガ ス圧力は,pAr = 0.75 mTorr で実験を行った.
14個のメインコイル群は常時水冷されており,最大で ∼0.2 Tの磁場 を発生させることができる.アンテナ近傍磁場強度 Bz0 (x = 0 m,z = 0 m の軸方向磁場強度) を増加させるため z = 0 m に設置した補助コイ ルは,最大で∼ 0.045 Tの磁場を発生できる.
図3-1(b)に,メイン磁場コイル電流 Im= 50 A で,補助磁場コイル電 流 Is を変化させた場合の軸方向磁場分布 (径方向位置 x= 0 m) を示す.
本実験は特に断らない限り,メイン磁場コイル電流Im = 50 A 及び補助 磁場コイル電流 Is = 20 A で固定して実験を行った.その場合,およそ z ≤ 0.5 mでは Bz ∼ 5 mT の一様磁場配位である.
本研究では高周波ケーブル等への熱負荷を考慮し,放電時間12∼40 ms のパルス放電 (放電間隔 1 s) を行った.放電パルスは,ファンクション ジェネレータより高周波の正弦波を発振させ,パルス発生装置を用いて 制御した.高周波電圧の放電パルスのパワーを rf電源 (最大 5 kW)によ り増幅させ,マッチングボックス(スプリットタンク回路)で整合をとり,
フラットスパイラルアンテナからガス中に rfパワーを投入しプラズマの 生成を行う.励起周波数はf = 7 MHz で固定して実験を行った.マッチ ングボックスの整合回路には,1500 pF の可変コンデンサ2個と2000 pF の可変コンデンサ1 個,1500 pF の固定コンデンサ2 個が伝送路に直列 および並列に接続されており,励起周波数及びアンテナインダクタンス に応じてコンデンサのキャパシタンスを変更させ整合を取る事ができる.
入射,反射パワーは方向性結合器を用いて測定し,反射率は 0.2 以下に なるように整合を取った.アンテナ電圧及び電流は,アンテナ抵抗やイ
Flat-Spiral Antenna
Turbo Pump Langmuir and
Magnetic Probe
Termination Plate
14 Magnetic Field Coils Separate
Coil
Ar Plasma
I.D.
0.738 m
z = 4.86 m
(a)
(b)
図 3-1: (a)実験装置概略図,(b)補助磁場コイル (Separate Coil)電流 Is を変化させた場合の軸方向磁場分布 (x= 0).
ンダクタンスを計測するために,時系列信号を常時モニターした.入力 rf パワーPrf は,入射パワーPinj から反射パワーPref を差し引いて見積 られる.プラズマに投入された正味のパワー Pin は,回路の全抵抗ηcと プラズマ抵抗ηp を用いて,以下の式で表される.
Pin= ηp
(ηc+ηp)Prf [3.1]
回路の全抵抗ηc 及びプラズマ抵抗 ηp は,プラズマ非生成時及びプラズ マ生成時のアンテナ電流と電圧により求められる.実験で用いた入力 rf パワーPrf は1‐4 kW であり,実験で得られたηp/(ηc+ηp)は 0.8 程度 である.プラズマ生成に用いたフラットスパイラルアンテナ[26]の写真を 図3-2に示す.スパイラルアンテナで励起されるへリコン波の周方向モー ド数はm∼ 0である.フラットスパイラルアンテナは,エンドフランジ に取り付けた直径52 cm,厚さ3 cmのガラスとおよそ1 cm離れて大気 側に設置されている.アンテナのターン数は 4 ターンで,各ターンには タップが取り付けられており,励起ターン数を 0.5 からフル 4 ターンに 0.5 ターン毎に変更可能な構造となっている.フラットスパイラルアンテ ナの直径は,4ターンの場合に∼0.43 m である.また真空容器に巻きつ ける構造でないため保守点検作業が非常に容易であり,整合回路からア ンテナまでの回路長を短くでき高周波ケーブル等の回路容量を低減でき る.しかしフラットスパイラルアンテナは巻き付け型に比べ,構造上ア ンテナ線路が長く,各ターン同士の距離が近いため,容量性カップリン グの割合が大きくなる.そのため回路容量と励起周波数の最適化を行う 際に,構想上不可避な大容量のキャパシタンスを考慮する必要がある.
本実験では実効プラズマ長を制限するために,真空容器内に可動終端
図 3-2: フラットスパイラルアンテナ[26]外観図.最も外側のターンの 平均直径∼ 0.43 m.ターン数を 0.5 ∼4 ターンに0.5 ターン毎に変更で きる.
表 3.1: 3種類の終端板の直径及び材質 穴あき導体板 導体板 絶縁体板
直径 0.54m 0.54m 0.5m
材質 ステンレス ステンレス 人造マイカ
板 (浮遊電位)を挿入している.終端板の材質や構造がヘリコンプラズマ 生成に及ぼす影響を調べるために,3 種類の終端板 (穴あき導体板[28], 導体板,絶縁体板)を用いた.終端板の可動域は,z = 0.055 - 1.25 mで ある.各終端板の材質及び直径を表 3.1 に示す.各終端板の厚さは 0.5
mm,穴あき導体板の穴の直径は 1.5 mm,中心間隔は 3 mmで,電極の
空隙率はおよそ 35 % である.アンテナ近傍の装置と穴あき導体板の概 略図及びアンテナ近傍の軸方向磁場分布(x = 0) を,図3-3に示す.
Hole diameter 1.5 mm 3 mm Vacuum chamber
probes
Termination plate (SUS plate with holes)
4-turn flat spairal antenna
z = 0 m Quartz window
Front view A
A’
A
A’
図 3-3: アンテナ近傍の装置と穴あき導体板の概略図及びアンテナ近傍 の軸方向磁場分布 (x = 0).
3.2 測定方法
静電プローブ
軸方向,径方向から挿入した 4 本の静電プローブを用いてイオン飽和 電流Iis を測定し,電子密度を以下の式より求めた[40].
|Iis|= 0.61nee
√KTe mi
S [3.2]
ここでS はプローブの捕集面積である.本実験では,電子温度Te= 3 eV と仮定してイオン飽和電流Iisから電子密度neを求めた.静電プローブの 電極は,円柱型と平板型の2種類を用いた.各静電プローブの電極は,直
径0.8 mm,長さ 3 mmのタングステン棒と,直径 3 mmのタンタル円盤
を用いた.捕集面以外の電極部分は絶縁管(Al2O3)によってプラズマから 絶縁されている.軸方向より挿入されたプローブは,シャフトの先端部分 がL字型に曲げられており,先端部を回転させることで,磁力線に垂直な 方向の測定が可能である.径方向の測定範囲は,−0.35 m≤x≤0.35 m, 軸方向の測定範囲は,0.005 m ≤ z ≤ 0.8 m である.静電プローブの電
極は -90 V の電池と -70 V の直流電源でバイアスした.このバイアス電
圧は本実験中に得られたプラズマの浮遊電位よりも十分に低く,両バイ アス電圧において得られたイオン飽和電流が同程度である事を確認した.
イオン飽和電流は,電極と直列接続した抵抗(50 Ω,1 kΩ)間の電圧降下 を測定して決定した.
磁気プローブ
軸方向,径方向から挿入した 3 本の磁気プローブを用い,ヘリコン波 の振動磁場成分B˜ を測定した.磁気ループは楕円形状であり,長軸 13
mm,短軸 8 mmの 1 ターンで構成される.磁気ループ及び,プラズマ に直接接触する部分は,絶縁管及びアルミナセメントにより絶縁されて いる.波動計測で得られた各測定値はオシロスコープを用いて,サンプ リングレート 500 MS/s でデジタル化される.また高周波領域の信号を 測定するためには,同軸ケーブルの特性インピーダンスとインピーダン ス整合をとるような終端抵抗を直列に接続し,その両端の電圧降下を測 定する.
磁気ループ内の磁束が時間変化するとき,磁気プローブの巻線の電圧 差 VMP は,
VMP =−N SMP∂B
∂t cosψ [3.3]
となる[41].SMP は磁気ループの断面積,N は導線の巻数,B は磁場 強度である.ψ は磁気ループの面積ベクトルと磁場のなす角度である.
N SMPcosψが実効的な鎖交面積となり,磁気プローブの感度に相当する.
高周波領域の信号を計測する場合,同軸ケーブルの容量が静電容量と して働き,共振周波数 fr ∼ (2π√
LMPCMP)−1 で共振が生じる.LMP は 磁気ループ及び同軸ケーブルのインダクタンス,磁気プローブの静電容 量CMP は同軸ケーブルのみで決まるとすれば100 pF/m程度である.通 常,f < fr/2の条件を用いて磁気プローブ信号の計測周波数 f を決定す る.本実験の磁気プローブは,高周波帯(7 MHz) の振動磁場を計測する ために,断面積 SMP ∼92 mm2 で N = 1 ターンとしている.このとき,
LMP ∼5×10−8 H,CMP ∼100 pFとすれば,共振周波数fr はおよそ 70 MHzであることから,f < fr/2の周波数応答を満足する.また,磁気プ ローブの出力側に直流電圧のブロッキングのためにキャパシタを直列接 続した.実際に正確な合成リアクタンスを計算するのは難しく,高い周
波数領域までの応答と信号強度にはトレードオフの関係があるため,既 知の高周波磁場下で周波数特性を調べ,絶対値補正を行なう方が望まし い[42].
高周波励起磁場の計測のために,磁気プローブ信号 (高周波励起磁場の 軸方向成分 B˜z) と,励起アンテナに流れる高周波電流 I˜ant を測定する.
整合回路内に設置された電流プローブ (Pearson 6600)で測定したアンテ
ナ電流をz = 0 m における高周波励起磁場と見なし,参照信号として用
いる.磁気プローブ信号とアンテナ電流の振幅比 Bz/Iant 及び,位相差 φrel の軸方向分布を測定する事で,式[2.30]より高周波励起磁場の波動構 造を
B˜z(z)
Iant = Bz(z)
Iant sin[φrel(z)] [3.4]
と表すことができる.
装置長が伝搬波の 1/4 波長よりも短くなるような場合に,エバネッセ ント波と伝搬波の区別が困難になる時がある.そのような時には,励起 アンテナの誘導磁場 (エバネッセント波) を高周波励起磁場 (伝搬波) の 実部から差し引く事で,伝搬波の軸方向波数を求める事ができる.その 際,位相差 φrel(z) は,
φrel(z) = arctan
( B
z
Iantsinφrel
Bz
Iantcosφrel−BIantantcosφrel,ant )
[3.5]
と求める事ができる[32].ここで,Bant と φrel,ant は,それぞれアンテナ 誘導磁場の振幅と,磁気プローブ信号とアンテナ誘導磁場との位相差で ある.式[3.5]より2 点の軸方向位置のφrel の差を用ると,軸方向波数kz を求める事ができる.
実験に用いた静電プローブ及び磁気プローブの概略図を図3-4に示す.