第 4 章 低アスペクト比ヘリコンプラズマにおける定在波構造 42
4.2 短軸長ヘリコンプラズマ生成とヘリコン波の関係
終端板位置を変えた場合の波動構造の変化に着目して,低アスペクト 比ヘリコンプラズマ生成時のヘリコン波の軸方向分布を測定した.図4-2 に,各終端板位置 zE におけるヘリコン波の軸方向分布 B˜z(z)/Iant を示 す.終端板には絶縁体板を使用し,終端板位置 zE は 0.055 m (a),0.125 m (b),0.345 m (c) とした.入力rfパワーPrf は 3‐4 kWで,測定位置 は x = 0 mとした.
各終端板位置で測定した軸方向波長を求めると λz ∼0.12 m (a),0.26
m (b),0.15 m (c)となる.いずれの場合においてもヘリコン波の分散関
係式を満たしており,定在波構造を持っている.軸長 0.055 m の場合に おいてヘリコン波が測定されたことから,A ∼ 0.075 の非常にアスペク ト比の小さいヘリコンプラズマ源を実現できた.
図4-3に,図4-2(a) の測定時に得られた低アスペクト比ヘリコンプラ
ズマ放電の様子を示す (A ∼ 0.075,軸長55 mm).電子密度は x = 0 m かつz =zE/2 m で 1017 m−3 以上である.
図4-4に異なる磁場配位や中性ガス圧力を用いた場合の,各軸長に対 する軸方向波長をまとめた.これらの事を理解するために,ヘリコン波 の入射側の境界の材質及び終端板の材質が絶縁体板の場合 (絶縁体-絶縁 体)の定在波について考えると,ヘリコン波の入射波B˜z,inj(z, t)と反射波
0.0 0.1 0.2 0.3 -4
-2 0 2 4 -1 0 1 -0.5 0.0 0.5
(c) z E
= 0.345 m
z [m]
(b) z E
= 0.125 m
~ B z
/I ant
[arb.u.]
(a) z E
= 0.055 m
図 4-2: 各終端板位置 zE におけるヘリコン波の軸方向分布B˜z(z)/Iant (x
= 0 m).終端板には絶縁体板を使用している.終端板位置zE= (a) 0.055 m,(b) 0.125 m,(c) 0.345 m,入力 rf パワー Prf = 3‐4 kW.
図 4-3: 低アスペクト比ヘリコンプラズマ放電(A∼0.075,軸長55 mm).
B˜z,ref(z, t) が減衰しなければ,合成波 B˜z(z, t) は,
B˜z(z, t) = B˜z,inj(z, t) + ˜Bz,ref(z, t)
= Bz,injsin(kzz−ωt) +Bz,refsin(−kzz−ωt)
= (Bz,inj+Bz,ref) sin(−ωt) cos(kzz) [4.1]
となる.絶縁体-プラズマ-絶縁体の系で電磁波を取り扱う場合は,プラズ マ領域の誘電率が絶縁体の誘電率よりも十分に小さいという事が前提と
なる.Bz,inj 及びBz,ref は入射波及び反射波の振幅である.簡単のために,
時刻 t = 0 における初期位相をゼロとしている.ここで終端板が絶縁体 である事を考慮すると,境界上において電磁波は自由端反射するため,以 下の境界条件が課せられる.
∂B˜z(z, t)
∂z z=0
= ∂B˜z(z, t)
∂z z=Lp
= 0 [4.2]
ただし,境界条件[4.2]を与える時はB˜z(0, t), B˜z(Lp, t)6= 0である.Lpは プラズマ実効長を表し,Lp ∼zE とする.式[4.1],[4.2]より,kzLp = pπ (p = 0,1,2,· · ·) となる.この時,軸方向波長モードN は
N = Lp λz = p
2, (p = 1,2,3,· · ·) [4.3]
となり[32],軸方向波長は離散値を取る.図4-2 (a)-(c) の軸方向波長モー ドは,N ∼1/2 (a),1/2 (b),2 (c)と見積もられる.図4-4より,軸方向 波長はN ≥1/2 の領域に存在し,離散的な値をとる事がわかる.この事 より,絶縁体‐絶縁体の境界条件下の短軸長ヘリコンプラズマの生成に は,N ≥ 1/2 の軸方向波長モードの定在波構造を持つヘリコン波が励起 される必要があると結論できる.実際に測定された波形は,終端板上で
振幅が最大値ではないが,この事は終端板を挟んだ領域のプラズマ密度 の違いで説明できる.z < zE の屈折率を n1 =ckz1/ω,z > zE の屈折率 を n2 =ckz2/ω とし,n1 n2が成り立つ時,境界上で振幅は完全に腹 となる.n1 > n2 の時は,境界より下流に電磁波の一部が伝搬し,残りの 分が反射するため,境界上で腹にならない.本実験では,絶縁体境界で 発生するシースや絶縁体境界裏側 (z > zE) の領域との密度差等の影響に より,n1 > n2 となるような定在波構造を取っていると考えられる.ヘリ コンプラズマを短軸長化し,n1 > n2 となる時,ヘリコン波の軸方向分 布は進行波と定在波が混在するような構造になると結論できる.
図4-5に,終端板を導体板及び穴あき導体板にした時の各終端板位置 zE におけるヘリコン波の軸方向分布 B˜z(z)/Iant を示す.終端板位置 zE は (a),(d) で 0.055 m ,(b),(e) で 0.125 m,(c),(f) で 0.345 m とし た.図4-5(d)のみ,アルゴンガス圧力pAr = 3.75 mTorrとし,その他は pAr = 0.75 mTorrとした.他の実験パラメータは図4-2と同様である.
各境界条件の軸方向波長は (c) が 0.27 m,それ以外は 0.15‐0.2 mと なる.いずれの軸方向波長も分散関係式を満たし,ヘリコン波は定在波 構造を持つ.この事より,終端板を導体板及び穴あき導体板に変更した 場合においても,A ∼ 0.075 までヘリコンプラズマを生成できた.電子 密度は,絶縁体‐絶縁体の境界条件の時と同様にx = 0 mかつ z =zE/2 mで 1017 m−3 以上である.
図4-6に異なる磁場配位や中性ガス圧力を用いた場合の,各軸長に対す る軸方向波長をまとめた.
ここで終端板の材質が導体板の場合(絶縁体‐導体)の軸方向波長モー ド N を考えてみると,終端板上で電磁波は節 (軸方向境界上で振幅値が
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
2 1
3/2 Insulator
z
[m]
z E
[m]
N=1/2
図 4-4: 各終端板位置 zE に対する軸方向波長 λz の関係.図中の実線は 軸方向波長モード N = 1/2,1,3/2,2 を表す.
-1 0 1
-1 0 1
0.0 0.1 0.2 0.3
-1 0 1
0.0 0.1 0.2 0.3
-1 0 1 -1 0 1 -1 0 1 (a) z
E
= 0.055 m
~ Bz
/|ant
[arb.u.]
(b) z E
= 0.125 m
(c) z E
= 0.345 m
z [m]
Conductor with holes
(f) z E
= 0.345 m
z [m]
Conductor
(e) z E
= 0.125 m (d) z
E
= 0.055 m
図 4-5: 各終端板位置 zE におけるヘリコン波の軸方向分布B˜z(z)/Iant (x
= 0 m).終端板には穴あき導体板及び導体板を使用している.終端板位
置 zE = 0.055 m [(a),(d)],0.125 m [(b),(e)],0.345 m [(c),(f)] とし た.図4-5(d) のみ,アルゴンガス圧力 pAr = 3.75 mTorr,その他は pAr
= 0.75 mTorrである.他の実験パラメータは図4-2と同様である.
常にゼロ)となるので,境界条件は,
∂B˜z(z, t)
∂z z=0
= ˜Bz(Lp, t) = 0 [4.4]
となる.ただし,境界条件[4.4]を与える時はB˜z(0, t)6= 0 である.式[4.1]
から,軸方向波長モードN は,
N = Lp λz = 1
4+p
2, (p = 0,1,2,· · ·) [4.5]
となる[45].絶縁体-プラズマ-導体の系で電磁波を取り扱う場合は,プラ ズマ領域の誘電率が導体の誘電率よりも十分に大きいという事が前提と なる.図4-5の軸方向波長モードは,N ∼1/4 (a),3/4 (b),5/4 (c),1/4 (d),3/4 (e),7/4 (f) と見積られる.図4-6より,軸方向波長はN ≥1/4 の領域に存在し,離散的な値を示す.装置長とヘリコン波の 1/4 波長が 同程度の長さになるような場合,即ち N = 1/4 の定在波構造のヘリコン 波とエバネッセント波の区別がつきにくい場合は,式[3.5]と式[4.5]を用 いて評価すれば良い.軸方向境界条件に穴あき導体板を使用しても,境 界上でヘリコン波の振幅はゼロとなる.これは波長に対し十分に終端板 の孔径が小さく,ヘリコン波は境界上において導体板の場合と同様に振 る舞うためである.また式[2.10]より,ヘリコン波の分散関係式には径方 向波数も含まれ,厳密にはその変化についても調べる必要がある.しか し第 5 章の5.2節において示すように,ヘリコンプラズマの生成に関し てはk⊥1 = 3.83/a として取り扱って差し支えない.
本章の結果から,短軸長ヘリコンプラズマの生成のためには,軸方向 境界条件(材質及び構造)によって決まる離散的な軸方向波長モードNを 持つ定在波が励起される必要がある事が明らかになった.軸長の長い場
合のヘリコンプラズマ生成時と異なる点として,ヘリコンプラズマを短 軸長化した場合は,軸方向減衰長が装置長よりも十分に長くなる場合が ある.その時,短軸長ヘリコンプラズマの特性として,ヘリコン波は軸 方向境界条件に応じた定在波構造を持つ.この事は軸方向波長モード N を持つ定在波を励起させる事で,短軸長ヘリコンプラズマを生成できる 事を示している.即ち,短軸長ヘリコンプラズマの生成のためには,軸 方向に定在波構造を持つヘリコン波を励起させればよい.これまでのヘ リコンプラズマ源では A ∼ 0.5 [30]が最小で,通常 A ≤ 1 であったが,
今回軸方向に定在波構造のヘリコン波を励起する事で,A ∼ 0.075 まで 低アスペクト化出来ることが確かめられた.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
7/4 3/4
5/4 Conductor w/ holes
Conductor
z
[m]
z E
[m]
N=1/4
図 4-6: 各終端板位置 zE に対する軸方向波長 λz の関係.図中の実線は 軸方向モード数N = 1/4,3/4,5/4,7/4を表す.