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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

局所化学修飾した単層カーボンナノチューブの電子 特性解明と修飾分子デザインによる新規発光特性の 開拓

白石, 智也

http://hdl.handle.net/2324/2236205

出版情報:Kyushu University, 2018, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

九州大学大学院工学府 化学システム工学専攻

博士論文

局所化学修飾した単層カーボンナノチューブの 電子特性解明と

修飾分子デザインによる新規発光特性の開拓

平成31年1月

白石 智也

(3)

目次

1

1-1. はじめに ... 1

1-2. 近赤外発光材料 ... 1

1-3. カーボンナノチューブ ... 2

1-3-1. カーボンナノチューブの構造と種類 ... 2

1-4. SWNTの電子構造と光学特性 ... 5

1-4-1. SWNTの電子構造 ... 5

1-4-2. SWNTの光学特性 ... 5

1-4-3. SWNTの発光特性における環境効果 ... 8

1-4-4. SWNT励起子 ... 9

1-4-5. SWNTの光学特性を利用した応用 ... 11

1-5. 局所化学修飾法によるSWNTの光学的特性変化 ... 15

1-6. 本論文の構成 ... 19

参考文献 ... 20

22-1. 序 ... 24

2-2. 実験 ... 26

2-2-1. 使用試薬 ... 26

2-2-2. 使用機器 ... 26

2-2-3. SWNTの可溶化 ... 26

2-2-4. O-doped SWNTの合成と評価 ... 27

2-2-5. In-situ PL分光電気化学測定・解析 ... 27

2-2-6. 理論計算によるO-doped SWNTの電子準位予測 ... 29

2-3. 結果・考察... 30

2-3-1. 可溶化SWNTの評価 ... 30

2-3-2. O-doped SWNTの評価 ... 30

2-3-3. Na-CMC置換O-doped SWNTの評価 ... 32

2-3-4. SWNTフィルムの評価 ... 32

2-3-5. In-situ PL分光電気化学測定 ... 34

2-3-6. In-situ PL分光電気化学測定の解析 ... 38

2-3-7. 理論計算 ... 43

2-4. まとめ ... 44

参考文献 ... 45

(4)

3

3-1. 序 ... 47

3-2. 実験 ... 48

3-2-1. 使用試薬 ... 48

3-2-2. 使用機器 ... 48

3-2-3. 修飾分子(Benzenediazonium tetrafluoroborate (Dz-H))の合成... 49

3-2-4. Dz修飾SWNTの作製と評価 ... 49

3-2-5. In-situ PL分光電気化学測定・解析 ... 50

3-3. 結果・考察... 51

3-3-1. 修飾分子(Benzenediazonium tetrafluoroborate (Dz-H))の合成... 51

3-3-2. Ar-SWNTの合成と評価... 52

3-3-3. In-situ PL分光電気化学測定の解析 ... 54

3-3-4. In-situ PL分光電気化学測定の解析 ... 61

3-4. まとめ ... 69

参考文献 ... 70

44-1. 序 ... 71

4-2. 実験 ... 73

4-2-1. 使用試薬 ... 73

4-2-2. 使用機器 ... 73

4-2-3. 多点修飾構造の理論計算によるバンドギャップ予測 ... 74

4-2-4. 新規修飾分子ビスジアゾニウム(2Dz)の合成 ... 74

4-2-5. SWNTの分散 ... 76

4-2-6. 2Dzによる局所化学修飾 ... 76

4-2-7. 2Dz修飾時の経時変化観察 ... 77

4-2-8. 透析処理による2Dz-SWNTの精製 ... 77

4-2-9. 精製した2Dz-SWNTの量子収率評価 ... 77

4-.3 結果・考察... 78

4-3-1. 多点修飾構造の理論計算によるバンドギャップ予測 ... 78

4-3-2. 新規修飾分子2Dzの合成 ... 79

4-3-3. SWNTの分散 ... 87

4-3-4. 2Dzによる局所化学修飾 ... 87

4-3-5. 2Dz反応の経時変化観察 ... 93

4-3-6. 精製処理後の2Dz-SWNTの評価及び量子収率の評価 ... 94

4-4. まとめ ... 95

参考文献 ... 96

(5)

5

結言 ... 97

謝辞 ... 99

(6)

1

第1章

序論

1-1. はじめに

第1章では、研究の背景と目的について述べた後、第2章以降の内容に関連する基礎事項につ いて概説する。

1-2. 近赤外発光材料

近赤外光(700~2500 nm)は可視光(400~700 nm)の赤色よりも波長が長く、「見えない光」と して知られている。近赤外光を放出する(発光)材料は発光ダイオード(LED)、太陽電池、化学 センサー、バイオイメージングなどの応用が期待されている(Figure 1-1)。例えば、色素の光吸収 領域を近赤外領域まで拡張することで、太陽光中には近赤外光のエネルギーを50%近く含むため、

太陽光を高効率に変換するデバイスの作製が可能となる。医療の分野においては、赤外光が高い 生体透過性を示すことや生体材料中では近赤外光の自家蛍光をほとんど示さないことから、観察 深度の高いイメージングが可能となる。また通信分野において、光通信で用いられる光ファイバ

中では1310 nmと1550 nmの近赤外光が利用されていることから、その光源を有機LEDに代替す

ることは非常にチャレンジングなテーマであると考えられている1

Figure 1-1. Electromagnetic spectrum and application of near-infrared light. These figures are taken from ref. 1.

(7)

2

このような背景から、医療分野・産業分野で有用な近赤外発光を示す有機材料は非常に注目が 集まっている。近赤外発光を示す有機材料は共役構造体や有機色素が挙げられる。中でも共役 構造体である「カーボンナノチューブ」は一次元構造性、構造安定性から近赤外発光を示す新た な有機材料として期待されている。そこで本章では、まずカーボンナノチューブの基本特性を交 えながら、近赤外発光材料としての利点について述べる、その後、カーボンナノチューブの近赤 外発光特性を向上させる手法として新たに発見された局所化学修飾法について述べ、本論文の構 成について記す。

1-3. カーボンナノチューブ

1991年、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube ; CNT)は飯島博士によりアーク放電法でフ ラーレンを合成する研究の過程で発見された2。CNTは直径が数nm、長さがmオーダーの円筒 状の構造体で、黒鉛、ダイヤモンド、フラーレンに次ぐ炭素同素体である。CNTは芳香環のみか らなるため、非常に剛直な構造を有しており、優れた機械的強度、耐熱性、化学的安定性、電気 伝導性、光学特性などで従来の物質から飛躍した特性を持っていることから、幅広い用途への応 用の可能性を秘めている。CNTは今後の我々の生活を支える重要な素材になると期待でき、現在 その電子特性や光学特性、反応性を調べる基礎研究からエレクトロニクス、複合材料、生体材料 などの応用研究に至るまで多岐にわたって行われている。

1-3-1. カーボンナノチューブの構造と種類

CNTは1枚のグラフェンシートを継ぎ目なく丸めた円筒状の構造をしており、大きく分けて層 が1層の単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotube ; SWNT)3と2層以上の多層 カーボンナノチューブ(Multi-Walled Carbon Nanotube ; MWNT)がある(Figure 1-2)。

このときグラフェンシートの丸め方は多数あり、SWNT の構造は異なる格子点を結んだベクト ル(Figure 1-3 OA

)により決まる。OA→

をカイラルベクトル𝐂𝐡という。𝐂𝐡は二次元六角格子の基 Figure 1-2. Schematic structures of (a) single-walled carbon nanotube and (b) multi-walled carbon nanotube.

(8)

3 本並進ベクトル𝐚𝟏= (√3

2 𝑎,1

2𝑎)、𝐚𝟐= (√3

2 𝑎, −1

2𝑎)とカイラル指数(n,m)を用いて

𝐂𝐡= 𝑛𝐚𝟏+ 𝑚𝐚𝟐 ≡ (𝑛, 𝑚) (1.1) と表される(但し、n,mは整数、0 ≤ |𝑚| ≤ 𝑛、𝑎 = |𝐚𝟏| = |𝐚𝟐| = √3𝑎𝑐−𝑐= √3 × 1.44 Å)。このとき 得られた SWNTのカイラリティを(n,m)と表現する。(n,m)が決まるとSWNTの基本構造は以下の ようになる。SWNT一周の長さ𝐿 = |𝐂𝐡|、直径𝑑𝑡、𝐚𝟏ベクトルとカイラルベクトル𝐂𝐡のなす角(カ イラル角)𝜃、軸方向の基本並進ベクトルである格子ベクトルT (Figure 1-3)はそれぞれ

𝐿 ≡ |𝐂𝐡| = a√𝑛2+ 𝑛𝑚 + 𝑚2 (1.2) 𝑑𝑡= 𝐿

𝜋= 𝑎√𝑛2+𝑛𝑚+ 𝑚2

𝜋 (1.3)

𝜃 = cos−1(2√𝑛22𝑛+𝑚+𝑛𝑚+ 𝑚2) (1.4)

𝐓 =[(2𝑚+𝑛)𝐚𝟏− (2𝑛+𝑚)𝐚𝑑 𝟐]

𝑅 (1.5)

𝑇 = |𝐓| =√3𝑑

𝑅|𝐂𝐡| (1.6)

但し、𝑑𝑅nmの最大公約数dを用いて

𝑑𝑅= { 𝑑 (𝑛 − 𝑚 が3𝑑の倍数のとき)

3𝑑 (𝑛 − 𝑚 が3𝑑の倍数でないとき) (1.7)

と表される。

a 1

a 2

 O

A Ch

T

B

Figure 1-3. A developed figure of unrolled SWNT.

(9)

4

カイラリティが(n,0)(𝜃 = 0°)の構造はジグザグ型(zigzag)、(n,n)(𝜃 = 30°)の構造はアームチ

ェア型(armchair)、その他の場合はカイラル型(chiral)ナノチューブと呼ばれる。Figure 1-4に3

つの異なる構造のSWNTを示す。

電気的性質においては、n-m(または2n+m、以下略)が3の倍数のSWNTは金属性を示し、n- mが3の倍数でないSWNTは半導体性を示す。即ち、アームチェア型は全て金属性、ジグザグ型 はnが3の倍数のとき金属性でそれ以外は半導体性、キラル型はn-mが3の倍数のとき金属性で それ以外のときに半導体性を示す。また直径が大きな半導体性SWNTほどバンドギャップが小さ いことが知られており、直径の大きなMWNTの最外層はほとんど金属性に近いといえる。また各 カイラリティの発光波長や量子収率における挙動から n-m を 3 で割ったときの余りが 1 の場合

(mod = 1)と2(mod = 2)の場合でタイプ分けした報告がある4

Figure 1-4. Structures of (a) armchair, (b) zigzag and (c) chiral tubes.

(10)

5 1-4. SWNTの電子構造と光学特性

SWNTの電子構造は、SWNTの電子デバイス応用にとって重要であるばかりでなく、SWNTの 共鳴ラマン分光、吸収分光、蛍光分光などの分光測定におけるスペクトル解釈などに関連してお り、非常に重要である。

1-4-1. SWNTの電子構造

SWNTの光学的性質は電子構造と深く関係しており、カイラリティ(n,m)によって大きく異なる。

SWNT 中の膨大な数の電子のエネルギー準位は集合しバンド構造を形成している。Figure 1-5 に 半導体性 SWNTと金属性 SWNT の電子構造を示す。SWNT の電子状態は曲率の影響を無視すれ ばグラファイトのエネルギーバンドを円周方向に量子化して得られる。縦軸は電子のエネルギー で、中心を挟んで上が伝導帯(Conduction Band)、下が価電子帯(Valence Band)である。横軸は 電子状態密度で、van Hove 特異点(v1、v2、…、c1、c2、…)とよばれる電子状態密度が発散し ている点がある。

1-4-2. SWNTの光学特性

SWNTの光学特性は主にこのvan Hove特異点(VHS)間の電子遷移によるものである。van

Hove 特異点間のエネルギーギャップに応じて半導体性SWNTは近赤外域(E11)、可視域

E22)、紫外域(E33E44、…)に特徴的な光吸収をもち、金属性SWNTは主に可視域(M11)や 紫外域(M22、…)に光吸収をもつ。また半導体性SWNTはFigure 1-6(a)に示すような、E22以上 の光を吸収し近赤外のE11の光を発するという機構のPhotoluminescence(PL)を示す。一方金属 性SWNTはバンド間にエネルギー準位が連続しているため、励起された電子と正孔は無輻射で 再結合し、通常の測定においてはPLを示さない。バルクの状態では半導体性・金属性SWNTが 混在しSWNT間の強い相互作用でバンドル化するため、半導体・金属接合のような状態が形成

Figure 1-5. Schematic illustration of electronic structure of SWNT and mechanism of electron transition. (a) Semiconducting SWNT and (b) Metallic SWNT.

(11)

6

されることにより、PLは観測されない。溶液中で界面活性剤などの可溶化剤でSWNTを覆い、

バンドル化を防ぐことで半導体性SWNTが孤立した状態になりPLを観測できる5。光励起によ

り900~1500 nmの近赤外波長域に複数のピークから成るPLスペクトル(Figure 1-6(b))が得ら

れ、また少しずつ励起波長を変え、そのPLスペクトルを測定し重ね合わせることでPL 2Dマッ

プ(Figure 1-6(c))を得ることができる。PL 2Dマップ中の各スポットは様々なカイラリティに

由来するPLである。これらの実験値と理論計算6を照らし合わせることで、各PLスポットのカ イラリティ帰属がなされた7。このPLの2Dマップはサンプル中のSWNTのカイラリティ帰属 などに広く用いられている。各カイラリティのエネルギーギャップに関しては、直径の太い SWNTほど小さくなることが明らかになっている。

Figure 1-6. (a) Schematic density of electronic states for semiconducting SWNT. (b) Emission spectrum (red) of SWNT excited by 532 nm laser pulses, overlaid with the absorption spectrum (blue). (c) 2D PL mapping of the dispersed SWNT. These figures are taken from (a) and (c) ref. 5 and (b) ref. 4.

(12)

7

SWNT の発光波長はカイラリティによって限定的であり、例えば(6,5)のカイラリティであれば 発行波長は976 nmの位置に示すことが知られている。Table 1-1にBachiloらにより半経験的に求 められた7カイラリティ毎の光学特性を示す。しかし、実際にはSWNT周りの溶媒や分散剤によ って、得られる波長がシフトすることも知られている。

Table 1-1. Structures and first and second van Hove optical transitions for semiconducting SWNT structures with diameters between 0.48 and 2 nm. This table was taken from ref. 7.

(13)

8

1-4-3. SWNTの発光特性における環境効果

SWNT(以後SWNT表記は半導体SWNTを示す)の光学特 性は周囲の環境効果に大きく依存することが知られている。

環境効果とはSWNT周りの分散剤や溶媒から受ける影響であ り、SWNT の PL は特に環境効果によってその性質を大きく 変化させる。例えばStranoらは界面活性剤のSodium dodecyl sulfate(SDS)、Sodium cholate(SC)やDNA中で可溶化した SWNTのPLの発光波長シフト(Eii)について、[(Eii)2 Eii vs d-4](dはSWNTの直径)でそれぞれ異なる傾きを持って直線 的に表せることを示した(Figure 1-78。また、大野らは石英 基板上に幅1 m程度の溝を彫り、そこにSWNTを架橋する ように合成後、異なる溶媒中に浸漬させ、そのときの吸収波 長のシフトやPLの発光波長シフトを観察した9-10。その結果、

誘電率()が大きな溶媒ほどE11E22がレッドシフト(長波 長化)し、最大 50 meV までシフトすることを明らかにした

Figure 1-8)。またBlackburnらは水中や有機溶媒中でSWNT の分散が可能なポリマーを利用し、分散剤中での溶媒効果に ついて検討を行い、溶媒の誘電率だけでなく、SWNTの溶媒 和の違いも発光波長のシフトに影響することを明らかにして

いる11。これらの発光波長の変化の要因として考えられる環境効果は後述するSWNTの励起子効 果によるものと考えられているが、複数の要因が絡んだ結果である。

Figure 1-8. (a) E22 versus E11 plots in air (

env = 1.0), hexane (

env = 1.9), and chloroform (

env = 4.8).

With increasing

env, both E11 and E22 show redshifts. (b)

env dependence of E11 and E22 of various (n,m) SWNTs. These figures are taken from ref. 10.

Figure 1-7. Solvatochromic shifts calculated for SWNTs. E11 shift scaling from PL values of SWNT in 118 nM DNA and 2 wt% SC aqueous solutions in solid films of PMAOVE.

This figure is taken from ref. 8.

(14)

9 1-4-4. SWNT励起子

SWNT の発光を考える上で励起子は非常に重要である。半導体に光照射すると価電子帯から伝 導帯に電子が励起され、価電子帯では正孔を生成し、電子と正孔がクーロン力によって束縛され た状態の励起子が生成される。一般的な半導体の場合、励起子の束縛エネルギーが室温のエネル

ギー(~26 meV)よりもはるかに低いため形成された励起子はすぐに解離するが、SWNTは一次元

構造のため、高い励起子束縛エネルギーを有し、室温でも安定に励起子が存在することができる。

励起子が解離せず、再結合することで発光が生じ、PLとして観測することが可能となる。このよ うなSWNTにおける励起子の存在は2005年にWangらによって初めて実験的に示された12。彼ら は二光子吸収測定を行い(Figure 1-9)、SWNTの励起子束縛エネルギーが200~400 meVと非常に 大きな値であることを示した。励起子束縛エネルギーは励起子のサイズ(電子とホール間の距離、

励起子のボーア半径)と関係があり、励起子のサイズが小さくなると励起子束縛エネルギーは増 加する。直径1 nm程度のSWNTの励起子のサイズは~2 nmと理論的13にも実験的14にも決定さ れている。

SWNT における励起子準位は、電子と正孔のスピンの向き及 び波数空間でのK点とK’点の遷移によって、第一サブバンド間 のみで考えると16種類の状態が考えられる15。そのうち光学的 に許容になる明励起子は KK間の遷移及びスピン一重項をそれ ぞれ満たす 1種類のみで、それ以外は全て禁制の暗励起子であ る。中でも直接遷移型(KKもしくは K’K’間の遷移)の暗励起 子は明励起子よりも数meV低いエネルギー準位のため、SWNT の軸方向に磁場を印加することで明励起子から数 meV 低いエ ネルギーの暗励起子の発光を観測することができる。(Figure 1-10)16

Figure 1-9. (a) 2D plot of two-photon excitation spectra of SWNTs. (b) Schematic illustration of the density of states for SWNTs, showing the two-photon excitation (blue arrows) and fluorescence emission (red arrows) in the exciton and band pictures. These figure are taken from ref. 12.

Figure 1-10. Normalized magneto- PL spectra of a single (9,4) SWNT at 20 K in the (a) Voight geometry and (b) Faraday geometry. These figures are taken from ref. 16.

(15)

10

また励起子は SWNT 上を自由に動くことが可能であり、界面活性剤水溶液中でミセル化した

SWNTで100 nm程度14, 17、溝中に架橋されたSWNTで600 nm程度18移動可能である。加えて励

起子のサイズは2 nm程度14, 19であるため、直径が1 nm程度しかないSWNT上では直線的にしか 移動することができない。一方これらの励起子の挙動により、SWNT の PL量子収率は低くなる ことが知られている。これは①金属性SWNTとのバンドル形成に伴うエネルギー移動5だけでな く、②SWNT 上で消光サイトとして機能する構造欠陥や端部、吸着分子などへの励起子の衝突を 避けることができないこと20や③励起子-励起子衝突(EEA)が頻繁に生じるため21だと考えられ る。さらに④明励起子だけでなく非発光性の暗励起子が低エネルギー側に存在するため、非発光 の遷移が生じること22も原因として考えられる(Figure 1-11)。

Figure 1-11. Schematic drawing for the mechanism of exciton quenching.

(16)

11

1-4-5. SWNTの光学特性を利用した応用

SWNT の特異な光学特性を利用した様々なアプリケーションが提案されている中で、特に SWNTのPLを利用する応用に注目が集まっている。SWNTはPLを近赤外領域に示すことや、構 造安定性が高いことから、退色しないことが大きな特徴である。SWNT 表面に特定の分子を化学 修飾及び物理修飾することで、SWNT を反応場として分子認識反応(センシング)を行った例が 多数報告されている23-28。StranoらはSWNTを可溶化するポリマーとの複合体から生じる空間に おいて分子認識を行うことを報告した27。これは SWNTの周囲の環境によってPLの発光波長や 発光強度を変化させる現象を利用しており、SWNT とポリマー間の空間に特定分子が入り込むこ とで変化するSWNTのPLを観測している(Figure 1-12(a))。実際にSWNT上で密に吸着してい る界面活性剤 SC の場合では分子認識を行えないのに対して、SWNT との間に空間を生じること ができるDNA((GT)15)の場合だと様々な分子認識が可能であることを示している(Figure 1-12(b))。

Figure 1-12. (a) Schematic of the molecular recognition concept. (b) Sensor response after addition several molecules. These figures were taken from ref. 27.

(17)

12

また、生体透過性の高い近赤外光を利用したバイオイメージング材料に向けた研究も多数行わ れている 29。バイオイメージングとは、生物の分子や細胞レベルでの生体内作用を可視化、特性 評価、測定すること30を指す。イメージングの大きな障害は、生体組織における光の低い透過率 と光の散乱である。上述のように、SWNT は生体を透過し他の組織や血液に自家蛍光がほとんど ない近赤外域に吸収・発光を持つ。それに加えSWNTは他の蛍光色素で問題となる光退色がない ことから、長期間安定なイメージングが期待できる。バイオイメージング材料として求められる 条件は発光波長領域が生体内物質の吸収領域と重ならないことが必要である。そのため可視光領 域(400~700 nm)の利用を避け、NIR-1領域(700~1000 nm)、NIR-2領域(1000~1700 nm)が励起 光、検出光として利用するのが最も良いとされている。NIR-2領域は生体組織の吸収・散乱がNIR- 1 領域よりもさらに小さく、自家蛍光を大幅に減少させることで分解能の向上及び測定深度の増 加 が 期 待 で き る 。 近 年 で は

NIR-2 領域の中でも水の吸収

(1400~1500 nm) を 避 け た NIR-2b領域(1500~1700 nm) を利用することで、さらに高 分解能のイメージングが可能 となることも報告されている

Figure 1-1331。特にSWNT

はNIR-1領域や NIR-2領域の

光で励起・検出可能であるこ とや、形状やサイズの観点か ら細胞に取り込まれやすい32、 というメリットが存在する。

一般的に生体親和性の高い

分子をSWNTの分散剤として利用することで生体内での SWNT の利用を可能にしている。このときの分散剤に対 して特定の箇所と相互作用するように設計することで目 的の場所への選択的な集積を引き起こすことが出来る。

実際にBelcharらはM13バクテリオファージをSWNTの

分散剤として利用することによって、生体内でSWNTの 選択的な集積効果を引き起こし、イメージングによる観 察を行った33Figure 1-14)。

Figure 1-13. Fluorescence images of the cerebrovasculature of mice without craniotomy in the (a) NIR-1, (b) NIR-2 and (c) NIR-2b regions, with the corresponding SBR (signal-to-background ratios) analysis shown in (d)-(f). Scale bars: 2mm. These figures are taken from ref. 31.

Figure 1-14.

Schematic of the SWNT probe and

representative muscle tissue, denoting the right flank (R, site of infection) and the left flank (L, control). Mouse 1 received the targeted anti-S. aureus-M13-SWNT probe, while (b) Mouse 4 was injected non-targeted M-13 SWNT probe. These figures are taken from ref. 33.

(18)

13

SWNT は高い一次元性、電気伝導特性を有しながらも、基板上への直接的な集積が可能である ことから従来の半導体を大きく超える、発光デバイスに向けた材料として注目されている。2003 年に架橋SWNTを利用した電界効果トランジスタ発光デバイスが報告された34。その後、2010年 にはSWNTの発光ダイオードも作製され、発光の半値幅が~35 meVと高い性能を示した35。また、

SWNT の小さな熱容量を利用した高速で動作する発光デバイスも報告された。シリコン上に SWNT 薄膜を集積することでパルス幅は~150 ps という超高速な発光応答を示し、LED よりもは るかに速い発光デバイスを実現した36Figure 1-15)。

またSWNTの特性を活かした光学デバイスとしては、一次元構造に伴う励起子ダイナミクスを 利用した単一光子源としての応用も提案されている。単一光子源は 1パルス中に含まれる光子を 1 個に制限できる素子であり、量子力学に関する基礎研究分野や安全な量子暗号通信などの応用 分野において近年注目されている。特に量子暗号通信には通信波長帯である波長1300 ~ 1500 nm での単一光子伝送が必要とされている。従来の単一光子源は化合物半導体量子ドットなどで実現 されているが、極低温のみでしか動作しないことが課題である。その中で、2015年に牧らはSWNT が単一光子発生の証拠であるアンチバウンチング観測が、室温で可能であることを明らかにした

37。これは SWNT 上の欠陥サイトなどに生じる局在励起子の形成(励起子の閉じ込め)により 1 つの励起子から1つの光子を取り出すことが可能となることを示唆している(Figure 1-16(a))。ま

たHtoonらはSWNTに対して酸素の導入を制御し、局在励起子の高効率な生成を試みた38。アン

チバウンチングの検出には 2つの検出器が用いられる。一方の検出器で光を検出した際には同時 Figure 1-15. (a) Schematic illustration of the device. CNT film is lying on a SiO2/Si substrate between two Pd electrodes. Modulated blackbody emission is obtained by applying either a rectangular or pulsed bias voltage Vds. (b) Experimental high speed emission modulation (red curve) under a continuous input of 1 Gbps (green curve). These figures are taken from ref. 36.

Figure 1-16. (a) Schematic illustration of the exciton confinement effect from amorphous carbon surrounding a SWNT. (b) The result of photon correlation measurement of individual SWNT at 298K.

These figures are taken from (a) ref. 37 and (b) ref. 38.

(19)

14

に他方の検出器では光子が観測される確立が下がる。この場合、光子相関測定における遅延時間 ゼロで規格化された2次の相関関数の値(g2(0))は1を下回り、この値が低いほど高いアンチバ ウンチングの効率を示す。量子暗号技術へ実用化する場合は2 光子同時発生の確実な抑制を示す g2(0) < 0.5が求められているが、彼らの報告ではg2(0) = 0.32と良い値を示している((b))。さらに 近年ではアリールジアゾニウム塩(Ar-Dz)によるsp3欠陥による局在化励起子を利用し、欠陥準 位とカイラリティを対応させることで通信波長領域での単一光子発光を観測した 39。その結果、

通信波長1.55 mにおけるg2(0) = 0.01を記録した。

本章ではSWNTの基本的な特性、特に発光特性から発光を利用した応用まで述べた。SWNTは 1 次元構造に由来する特異な発光特性から、現在も基礎研究から実用化に向けた研究が活発に行 われている。しかしながら、応用を考えるうえでSWNTの発光特性にはその構造の剛直性から発 光波長の制御が難しいことや励起子効果による量子収率の大幅な低下が大きな課題となっている。

次章ではこれらの課題を解決するためのブレイクスルーとなりうる新たな発見について述べ、そ の発見に対する現在までの知見について紹介する。

Figure 1-17. (a) Illustration of exciton localization and wavelength-tunable defect-state emission in aryl- functionalized SWNTs. (b) PL spectrum and (c) second-order photon correlation (g2) plots of (10,3) SWNTs functionalized with MeO-Dz in DOC encapsulation. These figure are taken from ref. 39.

(20)

15

1-5. 局所化学修飾法によるSWNTの光学的特性変化

SWNTに非共有的に化学修飾することで、SWNTの電 子特性を選択的に変化させることができる 40。しかし、

化学修飾は SWNTにsp3結合を導入することで、SWNT 由来の規則的なπ電子構造が失われ、光学的な電子遷移が 起こらなくなる。つまり、SWNT特有の光吸収や発光が 消失してしまう(Figure 1-18)41

その中で2010年に、Weismanらは極めて少量の酸素が

導入されたSWNT(O-doped SWNT)が有用な光学特性の 変化を示すことを明らかにした 42。界面活性剤 Sodium tridecylbenzenesulfonate(STBS)で可溶化した(6,5)リッチ SWNTに低濃度のオゾンを含んだ水を加え、光照射する ことで、酸素の導入量を制限することが出来る。その結

果、(6,5)SWNT由来のE11の発光が大きく抑制され、長波

長 側 に 新 た な ピ ー ク (E11*) が 観 察 さ れ た (Figure

1-19(a))。光照射時間の増加につれて、E11の強度が減少し、E11*の強度が増加しているため、E11*

が酸素原子の導入されたサイトに由来し、そのサイトの数が増えるに従って E11の強度が減少し ていると考えられる。通常の SWNT は連続した共役構造より縮退した電子構造を有する。その 中で酸素原子が導入されたサイトではSWNTの構造対称性を壊し、縮退しているHOMO、LUMO の分裂を引き起こす。その結果、酸素原子導入サイトのみSWNTの電子状態の変化を引き起こす ことを示している43。そのため、励起光のほぼすべては未修飾サイトで起こり、E11*の吸収はほと んど観測されない(Figure 1-19(b))。

Figure 1-18. Absorption spectra in DMF, Illustrating the loss of structure on functionalization; (a) pristine SWNT and (b) functionalized SWNT. This figure is taken from ref. 41.

Figure 1-19. Spectral changes in a (6,5)-enriched SWNT dispersion exposed to ozone and light. (a) Emission spectra measured with 785 nm excitation after a single treatment with ozone and 1 to 16 hours of white-light irradiation. (b) Absorption spectra of the SWNT before (black) and after (red) treatment with ozone and light. These figures were taken from ref. 42.

(21)

16 E11*の発光は局所的に電子状態が変化した酸素 原子導入サイトに生じた自由励起子がトラップさ れることによって発光が起こると考察されている

Figure 1-20)。また2013年にMatsudaらが、O-

doped SWNTは従来のSWNTよりもはるかに高い

量子収率(最大18倍)を示すことを報告した44

これはO-doped SWNT上の酸素原子導入サイトに

自由励起子をトラップすることで、欠陥などの消 光サイトへの励起子の衝突や励起子同士の衝突

(EEA)を抑制することができるためである。さ

らに興味深いことにO-doped SWNTは酸素の導入される構造によって異なる波長にピークを示す ことも報告されている(Figure 1-21(b)45E11の発光ピークに対して、O-doped SWNTの酸素原 子の導入構造がエーテル構造のときは約130 meV低いエネルギーのE11*、エポキシド構造のとき

は約300 meV低いエネルギーのE11*-のピークをそれぞれ形成する(Figure 1-21(a))。これは酸素

原子の導入構造によってSWNTの電子状態に与える摂動が異なるためと考えられているが、未だ 詳細については不明な点が多い。

Figure 1-21. (a) Structure of ether-l (left), ether-d (center), and epoxide-l (right) adducts on a segment of (6,5) SWNT. Deep trap states and states that result from the brightening of dark states are marked with brown and blue lines, respectively. Bright exciton states of undoped tube is represented by the red line. Fluctuation of small potential barriers in the vicinity of the trap site leads to fluctuation of exciton trapping efficiency and negatively correlated PL intensity fluctuations between E11 (top), E*11 (middle), and E*11-(bottom). (b) Low temperature PL spectra of the O-doped SWNT at low (black) and high (gray) pump powers. These figures were taken from ref. 45.

Figure 1-20. Schematic of exciton migration and successive trapping by local quenching sites (including the end sites of SWNT) or by local luminescent sites. This figure is taken from ref. 44.

(22)

17

2010年のWeismanらの報告から、ほんのわずかな修飾の導入に伴うSWNTの発光特性の変化

は酸素原子の導入のみならず、様々な修飾方法によって引き起こすことが出来ることが分かり、

複数のグループによって報告されている46-51。WangらはSWNT上にアルキル鎖46やアリールジ アゾニウム塩(Dz)によって修飾47したSWNT(Ar-SWNT)においても同様な新たなPLピーク E11*を生じることを報告した(Figure 1-22)。

以上のように、ほんのわずかな化学修飾を導入した(局所化学修飾)SWNTはPLを用いる応用 を考える上で大きな利点を有する。通常 SWNTのPL を利用する際は、可視光領域のE22で励起 しなければならず、近赤外領域のE11発光の特徴である高い生体透過性を活かすことが出来ない。

E11でも励起可能であるが、励起波長と発光波長が近すぎるため検出が困難である。しかし局所化 学修飾SWNTの場合は近赤外領域のE11で励起可能しても、大きくレッドシフトした高発光のE11* で検出可能であり、近赤外光の特徴を活かすことが出来る。つまり局所化学修飾したSWNTは① 発光効率の大幅な向上、②大きくレッドシフトした E11*を生成、という点から非常に注目が集ま っている。

Figure 1-22. (a) Schematic illustration of a SWNT with chemical modification. (b) Covalently attaching an aryl functional group to the sidewall of a SWNT introduces a sp3 defect in the sp2 carbon lattice. This symmetry-breaking sp3 defect splits the doubly degenerate frontier orbitals to create local energy minimum from which the exciton can optically emit efficiently as E11*. (c) Correlated absorption (grey to dark lines) and PL (colored) spectral evolution revealed energy splitting of E11 frontier orbitals in (6,5)- C6H4NO2. These figures were taken from ref. 47.

(23)

18

特に Dz による局所化学修飾は与える化学修飾の置換基によって E11*の発光波長や発光強度が 変化する現象も見られている。この発光波長の変化は置換基の電子求引性、電子供与性を表すパ ラメーターであるハメット則置換基定数に依存してリニアな相関が得られた(Figure 1-23(a))。例 えば電子求引性である-NO2基は、(6,5)SWNT において180 meVのピークシフト(E11-E11*)を与 え、電子供与基である-OCH3基は160 meVのピークシフトを与える。また、同グループらはpHの 変化に伴って置換基がプロトン化、脱プロトン化を起こすことで発光波長が変化することも報告 している52。すなわち、これらの報告は与える修飾分子の構造や特性というわずかな変化だけで、

SWNTの物性、つまり発光波長が変調できることを示唆している。通常SWNTはカイラリティに より発光波長が決まっているため、波長の制御は困難であるが、局所化学修飾したSWNTは与え る化学修飾の置換基だけで発光波長を変調出来るため、非常に興味深い。

しかし、以上の局所化学修飾SWNTは非常にわずかな数の修飾のみの導入(SWNT約20 nmに 1つの修飾、炭素原子2000に対して1つの修飾)であるため、通常の分析法では修飾分子がSWNT に与える効果について詳細に解析することが出来ない。現在では、PL測定やそのダイナミクス評 価、光吸収、ラマン測定といった分光学的な手法のみ、局所化学修飾によるSWNTへの効果を調 べることが出来る唯一の手法である。そのため、局所化学修飾の効果について、理論計算による 基礎物性の知見は得られているものの、実験的に詳細に調べた報告は存在しない。そのため局所 化学修飾 SWNT の電子準位の解明や制御を行うことは局所化学修飾の利点を活かし、さらなる SWNTの応用拡大に繋がると考えられる。

Figure 1-23. (a) The new PL peak of covalently functionalized (6,5) SWNTs occurs at a red-shifted energy that is linearly correlated with the Hammet substituent constant of the terminating moieties on the aryl functional group. (b) The maximum PL brightening, (E11*)/(E11), of covalently functionalized (6,5) SWNTs increases exponentially as a function of the red-shifted energy. These figures were taken from ref.

47.

(24)

19 1-6. 本論文の構成

SWNT の発光には、発光波長制御が困難であることやその量子収率が極めて低いという課題が 存在する。SWNT の発光波長はカイラリティにより制限されており、また環境効果による波長の シフトも詳細について不明な点が多いため、その制御は困難である。またSWNTの量子収率は水

溶液中で1%以下と極めて低いことも知られている53。これは前述した励起子効果だけでなく、環

境効果も大きな要因であると考えられている。そのため、発光波長の制御や量子収率の向上は、

SWNT の発光特性の有効な利用に向けて改善すべき要素である。一方、局所的な化学修飾を導入 したSWNTはDzの添加という簡単な操作のみで、1-4章で述べたような発光波長の制御、量子収 率の大幅な向上をそれぞれ達成することができる 47。しかし、局所化学修飾の効果について現在 わかっているのは修飾後の PL に E11*が生じるという現象だけであり、どのような原理で生じて いるのか不明な点が多い。また E11*の波長のシフトについても詳しいことはわかっておらず、こ れらの現象の解明が求められている。

そこで本研究では修飾分子とSWNTのPL特性との相関を明らかにすることを目的とする。特 にDzにより局所化学修飾したSWNTの修飾構造が与えるSWNTの特性変化に着目した。これら を明らかにすることで、通常ではカイラリティに依存したSWNTの発光特性が後から行う修飾操 作だけで制御可能になり、また新たな発光特性を産み出す可能性もある。

本論文では、第 2章では局所化学修飾 SWNTの修飾分子に応じたSWNT の物性変化を電子準 位解析によって評価を試みた。これにより、SWNT の物性制御を修飾分子のみだけで行うための 指針を得ることを目指した。第3章では局所化学修飾SWNTの修飾構造制御による新規発光開拓 を試みた。ここでは修飾分子を変化させることで、得られる修飾構造制御について記載した。

本論文の構成は第1章に緒言、第2章及び第3章に局所化学修飾したSWNTの電子準位決定、

第4章に修飾構造制御によるSWNTの新規発光特性の開拓、第5章に結論で構成されている。

(25)

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(29)

24

2

酸素ドープ SWNT の実験的な電子準位評価

2-1.

SWNTに対して修飾基の導入は、1) SWNTの電子 特性の変調1、2) SWNTの分散性の向上 2、3) 金属 性 SWNT の除去3-4が目的であった。しかし、この ような修飾基の導入は SWNT の骨格を壊すこと で、その光学特性を大きく抑制する。その中で、導 入する修飾基の数をごく少数に制限した局所化学修

飾(SWNT約20 nmに1つの修飾、炭素原子2000に

対して1つの修飾)は、元々のSWNT発光(E11)よ りも大きくレッドシフトした新たな発光E11*を生成 し、その量子収率は最大 28 倍まで向上することを 示した 5。修飾反応としてオゾンによる酸化を利用 した酸素ドープSWNT(O-doped SWNT)は、分散状 態のSWNTにオゾンを少量溶かした溶液を添加し、

光照射することでする手法6に加え、バルクのSWNT に対してオゾン処理する手法 7でも作製することが できる。このO-doped SWNTは酸素の導入構造によ ってE11*が変化することが理論計算によって示され ており、大別してE11から150 meV程度のレッドシ フトしたE11*を示すエーテル構造と300 meV程度の レッドシフトしたE11*を示すエポキシド構造と帰属 されている。実際の PL スペクトルにおいても良い

一致を示していることが知られている(Figure 2-248。このようなE11*の生成には局所の修飾サ イトにおいて、その部分の電子準位が変化していることが起因している。電子準位が変化した結 果、その部分のバンドギャップが減少する。その後、SWNT 上で自由に動いている励起子を修飾 サイトにトラップすることでバンドギャップが減少した E11*を生成させる。そのため、局所化学 修飾SWNTの発光特性の現象について深く理解するため、またその特性を拡張させるために電子 準位の理解は欠かすことが出来ない。そこで本研究では、最も基本的な特性であるそれらの電子 準位を実験的に決定することを目的とした。

しかしながら局所化学修飾SWNTの実験的な評価法として、修飾サイトの数がごく少量に限ら れているため、直接的な修飾構造の決定を目指した透過型電子顕微鏡(TEM)測定9、直接的な電 子準位の決定を目指した紫外光電子分光(UPS)測定やサイクリックボルタンメトリーによる電 気化学測定10では評価することができず間接的な分光学的な測定法に限定されている。現在では、

PL 測定や吸収、ラマン分光等の分光学的手法でそれらの局所化学修飾の SWNT の特性が解析さ Figure 2-24. (a) Structure of ether and epoxide adducts on s segment of SWNT. (b) Upper panel:

a histogram of experimentally observed spectral features in oxygen-doped SWNTs. Lower panel:

theoretically calculated absorption spectra of different electronic states in undoped SWNTs and O-doped SWNTs with different functional groups. These figures are taken from ref. 8.

(30)

25

れている。その中で特にPL測定のみが、励起子トラップにより修飾の数が少ない状態でも修飾サ イトの状態をE11*発光として評価することができる。そのため、本論文では、PL測定とSWNTの 電子状態の実験的な観測が可能な電気化学法を組み合わせたin-situ PL分光電気化学測定11-17を利 用することを提案している。

この手法は、SWNTを電気化学的に酸 化もしくは還元することでSWNTのPL が消失する特性を利用し、PL が消失す る電位を酸化電位もしくは還元電位と して決定する手法である。実際に様々な カイラリティの電子準位の評価11、電子 準位に及ぼす溶媒効果14・分散剤効果12 の評価に成功している。この手法は PL ピークに注目し、印加電位に対して変化 するPL強度を観測するため、未修飾サ イト由来の発光と修飾サイト由来の発

光と区別して評価することができる。本章ではO-doped SWNTに対して、in-situ PL分光電気化学 測定を行うことで、修飾サイトの電子準位を評価し、実験的な知見を得ることを目的として実験 を行った18。さらには理論計算も行い、実験データと理論計算の整合性を調べた。

Figure 2-25. Schematic summary of in-situ PL electrochemical measurements.

Figure 2-26. Schematic illustration of the PL electrochemical measurements of the O-doped SWNTs. This figure is taken from ref. 18.

(31)

26 2-2. 実験

2-2-1. 使用試薬

・SWNT((6, 5) Rich CoMoCat) (SWeNT)

・Sodium dodecyl benzene sulfonate(SDBS) (キシダ化学)

・Deuterium oxide (D2O) (Cambridge Isotope Laboratories)

・Carboxymethylcellulose sodium salt (Na-CMC) (キシダ化学)

・Polydiallydimethylammonium chloride(PDDA) (SIGMA-ALDRICH)

・Sodium chloride(NaCl) (Wako)

・Disodium hydrogenphosphate(Na2HPO4) (Wako)

2-2-2. 使用機器

・ホットプレート (AS ONE)

・卓上送風式恒温器:MD-100 (ヨネザワ)

・超音波照射装置(バス型):BRANSON5510 (Yamato)

・超音波照射装置(プローブ型):UD-200 (TOMY)

・分離用小型超遠心機:himac CS100 GXL (日立工機株式会社)

・紫外可視近赤外分光光度計:V-670ST (日本分光)

・蛍光分光用光源ユニット (堀場製作所)

・蛍光分光用試料室ユニット:Nano Log (堀場製作所)

・蛍光分光用蛍光側分光器:TRIAX320 (堀場製作所)

・蛍光分光用検出器:Symphony (堀場製作所)

・レーザーラマン顕微鏡:RAMANtouch (Nanophoton)

・オゾン発生器:ED-OG-R4BW (エコデザイン社)

・原子間力顕微鏡(AFM):Agilent5500 (東陽テクニカ)

2-2-3. SWNTの可溶化

CoMoCAT SWNT 10 mgを20 mLの0.2 wt% SDBS重水溶液に加え、バス型の超音波照射装置

で1時間超音波を照射後、さらにプローブ型の超音波照射装置(46 W)で30分間超音波を照射 することでSWNTを分散させた。その後150000 ×gで4時間遠心分離(スイングローター)し、

上澄みを集めることで、SWNT/SDBS重水溶液を得た。このサンプルの吸収スペクトル、PL測 定を行った。

PL測定条件

Figure 2-27. Chemical structure of (a) SDBS, (b) Na-CMC, (c) PDDA.

(32)

27

光路:FF、スリット幅:励起/発光側ともに10 nm、Grating:100、発光中心波長:1200 nm、シ

グナル:S1c/R1c、ダーク補正あり、積算時間:2 s

2-2-4. O-doped SWNTの合成と評価

2.0 mLのSWNT/SDBS重水溶液に対して、オゾンをバブリングした重水溶液0.75 mLを加えた。

その後、デスクランプ(~5 mW/cm2)により光照射しながら一晩静置した。コントロールとして

SWNT/SDBS重水溶液2.0 mLに重水のみを0.75 mL加え、同様の条件で作製した(pristine SWNT)。

オゾン発生器の条件

圧力計:0.1 MPa、流量計:150 mL/mm、電流値:3 A、バブリング時間:60 s

吸収測定条件

光路長:1.0 cm、参照:Air、ベースライン:重水、測定温度:298 K、波長範囲:200 ~ 1600

nm、データ取り込み間隔:1.0 nm、バンド幅:2.0 nm(UV, vis), 8.0 nm(NIR)、レスポンス:

Medium、走査速度:400 nm/min

ラマン測定条件

レーザー波長:532 nm、スリット幅:50 m、回折格子:600 gr/mm、平均回数:10回、サンプル 状態:溶液、測定中心:1200 cm-1

PL測定条件

光路:FF、スリット幅:励起/発光側ともに10 nm、Grating:100、発光中心波長:1200 nm、シグ

ナル:S1c/R1c、ダーク補正あり、積算時間:2 s

2-2-5. In-situ PL分光電気化学測定・解析

以下に示す実験を通して、In-situ PL分光電気化学測定及びその評価・解析を行った。

2-2-5-1. In-situ PL分光電気化学測定のセットアップ

O-doped SWNT 1.0 mLに1.0 wt%のNa-CMC重水溶液を111 L加え一晩静置した。分画分子量

10000のフィルターで撹拌しながらろ過と再分散を6回繰り返し、SDBSを除去した。1.0 mLの

溶液を回収し、900000 ×gで1時間超遠心分離した。上澄みを除去し、沈殿物を500 Lの水で再 分散することでSWNTと相互作用していないフリーのNa-CMCを除いたO-doped SWNTのNa- CMC分散溶液を得た。この吸収スペクトル、PLスペクトルを測定した。

SWNTフィルムの作製

ITO電極を水、エタノールでそれぞれ10分間超音波洗浄した後に、40 ºCに加熱した温度コン トローラー上に載せ、SWNT/Na-CMC可溶化溶液を50 Lキャストした。3時間乾燥させた後に

20 wt% PDDA水溶液を約10 Lキャストし、イオンコンプレックスを形成させた。さらに3時

間乾燥させた後に、過剰のPDDAを水に浸漬させることで除去した。同様の操作をpristine

(33)

28

SWNTとO-doped SWNTに対して行った。作製したSWNTフィルムが孤立分散状態を維持して

いるか調べるためにPL測定及びAFMにより評価した。

電気化学セルの作製

0.3 M NaCl、30 mM Na2HPO4となるように支持電解質溶液を調製した(pH 7.87)。次にSWNT

フィルム修飾電極を作用極、Pt線を対極、Ag/AgCl電極(飽和KCl)を参照極とし、電気化学セ ルを組み立てた。ここで、作用極は2面透明石英セル内に貼り合わせるように挿入した後、セル 内を支持電解質で満たした。PL測定前にアルゴンガスで30分ほど脱気することで、酸素の影響 を避けるようにした。

2-2-5-2. In-situ PL分光電気化学測定

アルゴン雰囲気下でPLの測定行った。まず0 mVのPLを測定し、それから任意の電位の平衡 に達するまで電位を保持(5分間)させた後のPLを測定した。各電位に保持する前に0 mVに電 位を戻して同じ時間保持した。酸化側は0 mVから+1000 mV、還元側は0 mVから-1000 mVの範 囲で測定を行った。またこれらの操作は酸化側・還元側ともに2回ずつ行った。

PL測定条件

光路:FF、スリット幅:励起/発光側ともに10 nm、Grating:100、発光中心波長:1200 nm、シグ

ナル:S1c/R1c、ダーク補正あり、積算時間:5 s

Figure 2-28. Schematic depiction of setup condition of preparation of the SWNTs modified ITO electrode.

Figure 2-29. Schematic depiction of setup condition of in-situ PL electrochemical measurement.

(34)

29

2-2-6. 理論計算によるO-doped SWNTの電子準位予測

Density Functional based Tight Binding(DFTB)法により、理論計算を行った。DFTB+ program (ver 1.2)を使用し、タイトバインディング近似のSlater-Kosterパラメータ19を利用した。SWNTの3D モデルとしては繰り返し単位の最小を4 nmとし、最大100 nmの長さに設定した。酸素ドープは 1ユニット(4 nm)ごとに1つ導入し、ドープ構造はエーテル構造を選択した。

Figure  1-5.  Schematic  illustration  of  electronic  structure  of  SWNT  and  mechanism  of  electron  transition
Figure 1-12. (a) Schematic of the molecular recognition concept. (b) Sensor response after addition several  molecules
Figure  1-16.  (a)  Schematic  illustration  of  the  exciton  confinement  effect  from  amorphous  carbon  surrounding a SWNT
Figure 1-17. (a) Illustration of exciton localization and wavelength-tunable defect-state emission in aryl- aryl-functionalized SWNTs
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参照

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