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博 士 ( 医 学 ) 宮 本 大 輔 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 医 学 ) 宮 本 大 輔

学 位 論 文 題 名

Isolation of a distinct class of gain‑of‑function SHP‑2 mutants with oncogenic Ras‑like transforming activity        from solid tumors

(固形腫瘍に由来し発がん性RAS 様形質転換能を示す      機 能 獲 得 型 SHP ― 2 変 異 体 の 単 離 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

    【背景と目的】

  非受容体型チロシン脱リン酸化酵素SHP2は、増殖刺激等で活性化された受容体型チロシンキナーゼか らの細胞内シグナル伝達を担う分子である.SHP‑2活陸に依存した細胞内シグナルはRAS‑ERK‑MAPK経 路を滑陸化し、細胞の増殖、分化及び運動能を制御する.しかしながら、このシグナル伝達に関わるSHP‑

2の基質分子に関しては未だ不明な点が多く残されている,一方、SHP‑2をコードするPTPN11遺伝子の生 殖系細胞変異は小児骨髄単永陸白血病を好発する先天奇形症候群であるNoonan症候群の原因であることが 知られていたが、その後散発性の血液悪陸疾患においてもPTPN11の機能獲得型変異が報告されるように なり、SHP2の異常活性化がヒトの発癌に直接関与することが強く示唆されている.しかしながら、PTPN11 変異は固形癌ではこれまでほとんど報告されておらず、SHP‑2の異常と固形腫瘍との関係は不明のままで ある,そこで本研究では、固形癌発症におけるSHP・2の役割を明らかにすることを目的とし、外科切除固 形腫瘍検体におけるPTPNIJtの変異探索を進め、新たに見出した変異型SHP‑2の生化学的及び細胞生物学的 機能解析を行った。

    【対象と方法】

  対象: 2001年6月から2003年2月までに北海道大学腫瘍外科およびその関連施設において切除後凍結 保存された腫瘍組織および正常組織を用いた.SHP2発現ベクターの構築:Mycタグ配列を付加した野生 型および変異型ヒトSH1コ・2cDNAを、哺乳類発現ベクターpSP65SRaヘ挿入した.大腸菌発現ベクターに ついては、SHP‑2 cDNAをpGEX―6P・2ベクターへ挿入した.遺伝子変異の探索:組織検体におけるP野N〃 変異の探索をPCR一singlBstrandconfonn面onpolym呷msm法及び塩基配列決定法により行った。mW加ホ スファターゼアッセイ:大腸菌体内に発現させた種々のgluta師one‐S‐ロ孤s緬se融合SHP−2をグルタチオ ンビーズを用いて精製し、p−m舶phenylphosphateを基質としてその潛陸を測定した.細胞培養および遺 伝子導入:ヒト胃上皮細胞株AGSは10ワ。ウシ胎児血清を含むRPM11640にて培養し、遺伝子導入には upo俶ぬInjne2000試薬を用いた.マウス繊維芽細胞株MmT3は10ワ。仔ウシ血清を含むDMEMで培養し、

遺伝子導入はりン酸カルシウム法を用いた.免疫沈降反応船よび免疫ブロット:遺伝子導入36時間後の AGS細胞より細胞抽出液を調製し、抗Myc抗体による免疫沈降反応を行った.細胞抽出液および免疫沈

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降物を用いてSDS‑PAGEおよび免疫ブロットを行った,NIH3T3フオーカスフオーメーションアッセイ:

NIH3T3細胞に 遺伝子導 入12時間 後5%仔ウシ 血清を 含むDMEMに 交換し、 以降3日ごと に培地交換を 行い3週間培養した.細胞をホルマリン固定後、クリスタルバイオレット染色でフオーカスを可視化した.

Soft agarアッセイ:DMEMに10%子ウシ血清と0.5%Agarを加えた軟寒天培地で細胞を2週間培養後、形 成されたコロニーを撮影した,伽vnめ異種移植アッセイ:生後6週の雌BALB/c・‐nu/11uマウスに一部位に っ き 1xlぴ 個 の 細 胞 を 皮 下 注 射 し 、 腫 瘍 性 増 殖 の 有 無 を 最 長 3ケ 月 間 観 察 し た .

    【結果】

  1.固形腫瘍におけるPTPN11遺伝子変異の探索

  肝癌72例、胃癌108例、甲状腺腫瘍54例についてPTPNI1遺伝子変異を探索し、肝癌の1例より1520〉.

の点変異を検出した.これはSHP―2タンパクの507番目のスレオニンをりシンに置換するぐr507K)ミス センス変異であった.同一症例の正常組織においてはこの変異は検出されず、腫瘍特異的な体細胞変異と 考えられた,

    2.T507KSHP・2の酵素活性

  mvl加ホ スファ ターゼア ッセイ により野 生型SHP−2、T507KSHP12および白血病由来E76KSHP12く76 番目のグルタミン酸がりシンに置換)の漕陸を比較した.野生型に比してE76KSHP‐2は100倍以上の活 性を示し、一方T507KsHP一2は約2倍の活陸を示した.

    3.T507K変異が基質特異性に与える影響

  基質捕捉 型SHP‐2変 異体(DMSHP・2:D425AおよびC459Sを 有する) およびDMS班}‐2にT507Kま たはE76K変 異を導入 した変異 型Sm ‐2のMT507KSHP−2及ぴDM圧76KSHP‐2)をAGS細胞に発現させ、

免疫沈降法を用いて各SHP・2により捕捉されたチロシンリン酸化タンパクの比較を行った.その結果、

DM脚6KSm) ‐2とDMSHP―2で は 見 られ な い分子量65000〜70000ダル トンの タンパク 群がDM汀507K SHP12と特異的に共沈殿しナこ.このことから、T507K変異はSHP・2の基質特異性を変化させ、野生型Sm}‐2 では脱リン酸化を受けないチロシンリン酸化タンパク質を基質として認識している可能性が示唆された,

    4.T507KSHP一2の形質転換能

  固形腫瘍由来T507KSHP‐2並びに白血病またはNoonan症候群由来変異型S班)‐2を用いてフオーカスフ オーメーションアッセイを行った.その結果、T507KSHP・2を発現する細胞においてのみフオーカスが形 成され、T507KSHP12はMmT3細 胞を形質 転換さ せること が示され た.そ こで、T507KSHP‐2を構成的 に発 現 す るMmT3細 胞株(MH酉507K)を 樹立し、T507KSHP12の発癌 への関 与を検討 した.MH汀507K 細胞 株 の 細胞 形 態 は、 発 が ん性RAS変異 体 (mMSv12) で 形質 転 換 され たMH3B細 胞 株(MH侭AS) と酷似し ていた .さらに 、SORagarアッセイ におい ては、MH叮507K細胞はMH侭AS細胞と同様に足場 非依存的 な増殖 能を示し 、加v.加異種移植アッセイにおいてMH酉507K細胞およびMH侭AS細胞は共に 腫瘍陸増 殖を示 した.こ れらの ことから 、T507K変異を有するSHP12は、MmT3細胞において発がん性 RAS変異 体とき わめて類 似した 形質転換能を示すことが示唆された.次に、T507KSm)−2によるMmT3 細胞形質 転換に 関わる下 流シグ ナル系を検討するため、MH叮507K細胞およびMH侭AS細胞においてRAS の直接標的分子である凡廿−1の活 陸化状態を調べた.その結果、MH侭AS細胞と同様にMH叮507K細胞 においても凡廿‐1の活性化が観察され、T507KSHP一2および胤`sV12による凡師一ERK経路の活性化が MH3T3の形 質転換 に寄与し ている ことが予 想され た,しか しながら 、MmT3細胞 を形質転換できない 白 血 病 お よ びNoonan症 候 群 由 来 のSHP12変 異 体 も 凡 虹 . 1の 活 陸 ・ 化 を 誘 導 し た .

    【考察】

本研究は、SHP‑2の変異が固形腫瘍の発症に関与し得ることを生化学的および細胞生物学的に示した最     ―460−

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初の報告である.本研究において固形腫瘍から単離された機能獲得型T507K SHP‑2変異体は、野生型SHP‑2 と比 較して酵素活性が質的および量的に変化していた.加えて、T50'7K SHP‑2は発がん性RASと同様の 形質転換能を示し、NIH3T3細胞をin vitroおよびin vivoの両方で形質転換させた.白血病およびNoonan 症候群に由来するSHP2変異体にはこのような性質を認めないことから、T507KSHP・2変異体は他のSHP―2 変異体には認められない基質特異性の質的・量的変化を獲得しているものと推察される。これに関連して、

RAF―ERK経 路 の 構成 的 活性 化はT507KSHp2お よびHRASv12ば かり でな くMmT3細 胞 を形 質転 換で き ない自血病およびNoon孤症候群由来のSHP―2変異体においても引き起こされた.このことから、RAF−ERK 経 路の構成的活性化 はT507KSmセによるMH3T3細胞形質転換の十分条件ではな く、固形癌の発症には RAF−ERK経路に加え、さらに他の細胞内分子の必要であると推察される。T507KSHP一2により特異的に 脱リン酸化される基質タンパクは固形癌の発症に深く関与している可能陸が高く、その同定がSHP―2の異 常と固形癌との関係をより明確に説明可能にするものと期待される.また今回得られた結果より、個々の 変異型Sm)‐2分子種問におけるホスファターゼ活性の質的・量的な差異が、SHP‐2依存的に恩隆化する細 胞種ならぴに組織・臓器の特巽陸を決定している可能陸が示唆された。

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学位論 文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

Isolation of a distinct class of gain‑of‑function SHP‑2 mutants with oncogenic Ras‑like transforming activity        from solid tumors

(固形腫瘍に由来し発がん性RAS 様形質転換能を示す      機 能 獲 得 型 SHP − 2 変 異 体 の 単 離 )

  非受容体型チ口シン脱リン酸化酵素SHP‑2は、RAS‑MAPK経路を活性化し、細胞の増殖、

分化及び運動能を制御する.しかし、このシグナ ル伝達に関わるSHP‑2の基質分子に関し ては未だ不明な点が多く残されている.一方、SHP‑2をコードするPTPN11遺伝子の生殖系 細胞変異は小児骨髄単球性自血病を好発する先天奇形症候群の原因であり、散発性の血液 悪性疾患においてもPTPN11の機能獲得型変異が報 告され、SHP‑2の異常活性化とヒト発癌 の関連が示唆されている.しかし、SHP‑2の異常と固形腫瘍との関係は不明である,本研究 では、固形癌発症におけるSHP‑2の役割を明らかにすることを目的とした。2001年6月か ら2003年2月 ま でに 北海 道大 学腫 瘍外 科お よび その 関連 施設 にお いて 切除後凍結保存 された肝癌72例、胃癌108例、甲状腺腫瘍54例についてPCR‑single‑strand conformation polymorphism法及び塩基配列決定法によりPTI)〃〃遺伝子変異を探索し、肝 細胞癌の1 例 よ り1520C>Aの 点 変 異 を 検 出 し た . こ れはSHP‑2夕 ン パク の507番 目の スレ オニ ン をり シン に置 換す る(T507K)ミス セン ス変 異で 、腫 瘍特 異的 な体 細胞 変異と考えられ た. この 変異 は活 性中心に面した位置にあり、SHP‑2の自己抑制および基質の活性中心 への 進入 に影 響し うる と考 えら れた .血vitroホス ファ ター ゼア ッセ イにより野生型 SHP‑2、T507K SHP‑2およ び 自血 病由 来E76K SHP‑2 (76番目 のグ ルタ ミン 酸が りシ ン に 置 換 ) の 活 性 を 比 較 し た . 野 生 型 に 比し てE76K SHP‑2は100倍以 上の 活性 を示 し T507K SHP‑2は 約2倍 の 活 性 を 示 し た , 基 質 捕 捉 型SHP‑2変 異 体(DM SHP‑2:D425A お よ びC459Sを 有 す る ) お よ びDM SHP‑2にT507Kま た はE76K変 異 を 導 入 し た 変 異 型SHP‑2 (DM/T507K SHP‑2及 びDM/E76K SHP‑2)をAGS細 胞 に 発 現 さ せ、 免疫 沈降 法 を用 いて 各SHP‑2に より 捕捉 され たチ 口シ ンリ ン酸 化夕 ンパ クの 比較 を行った.その 結 果 、DM/E76K SHP‑2とDM SHP‑2で は 見 ら れ な い 分 子 量65000‑70000ダ ルト ンの タ ン バ ク 群 がDM/T507K SHP‑2と 特 異 的 に 共 沈 殿 し た , す な わ ち 、T507K変 異はSHP‑2

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寛 俊

則 哲

雅 弘

村 田

山 藤

(5)

の基 質 特 異性 を 変 化さ せ 、 野生 型SHP‑2で は脱リン 酸化を受 けない チ口シン リン酸 化 夕ン バ ク 質を 基 質 とし て 認 識し て い る可能 性が示 唆された .次に 、各SHP‑2変異体 の 形質転換 能を検討 するた め、T507K SHP‑2並びに 白血病 または先 天奇形症候群由来変異 型SHP‑2を 用 い てNIH3T3フ オ ー カ ス フ オ ー メ ー シ ョ ン ア ッ セ イ を 行 っ た ,T507K SHP‑2を 発 現 する 細 胞 にお い て のみ フ オ ーカ ス が 形 成さ れ 、T507K SHP‑2はNIH3T3細 胞を形質 転換させ ること が示され た.そ こで、T507K SHP‑2を構 成的に発現するNIH3T3 細胞 株(NII‑VT507K)を 樹立 し 、T507K SHP‑2の 発 癌へ の 関 与を 検 討した .NIIVT507K 細 胞 株 の 細 胞 形 態 は 、 発 が ん 性RAS変 異 体(HRASV12)で 形 質 転換 さ れ たNIH3T3細 胞 株(NIHIRAS)と 酷 似し て い た. さ ら に、Soft agarア ッセイ において は、NIH/T507K細 胞はNIH/RAS細胞と 同様に 足場非依 存的な 増殖能を 示し、in vivo異種 移植ア ッセイに お い てNIH/T507K細胞 お よ びNIH/RAS細胞 は 共 に造 腫 瘍 性 を示 し た .従 っ て 、T507K 変 異 を 有 す るSHP‑2は 、NIH3T3細 胞 に お いて 発 が ん性RAS変異 体 と 類似 し た 形質 転 換能 を 示 すこ と が 示唆 さ れ た. 次 に 、T507K SHP‑2によるNIH3T3細胞形 質転換 に関わ る 下 流 シ グ ナ ル 系 を検 討 す るた め 、NIH/T507K細 胞 お よびNIH/RAS細胞 に お いてRAS の直 接 標 的分 子 で あるRAF‑1の 活性 化 状 態を 調 べ た .そ の 結 果、NIH/RAS細 胞と同 様 にNIH/T507K細 胞 にお い て もRAF‑1の 活 性 化が 観 察 され 、T507K SHP‑2およ びHRASVl2 によ るRAF‑ERK経 路 の活 性 化 がNIH3T3の形 質転換に 寄与し ているこ とが予想 された . しか し 、NIH3T3細 胞 を形 質 転 換で き ない 自血病 および先 天性奇 形症候群 由来のSHP‑2 変異 体 もRAF‑1の 活 性 化を 誘 導 した . 本研 究におい て固形腫 瘍から 単離され た機能 獲 得型T507K SHP‑2変 異 体 は、 野 生 型SHP‑2と 比 較 して 酵 素 活性 が 質的・ 量的に 変化し てい た . また 、T507K SHP‑2は 発 がん 性RASと 同 様 の形 質 転 換能 を示 し、NIH3T3細 胞 をin vitroおよ びin vivoの両方で形質転換させた.自血病および先天性奇形症候群に由 来す るSHP‑2変異 体 に はこ の よ うな 性 質 を認 め ず 、T507K SHP‑2変異体 は他と は異な る基 質 特 異性 の 質 的・ 量 的 変化 を 獲 得して いるも のと推察 される 。RAF‑ERK経 路の構 成 的 活 性 化 はT507K SHP‑2お よ びHRASW2ば か り で な くNIH3T3細 胞 を形 質 転 換で き ない 自 血 病お よ び 先天 性 奇 形症 候 群 由来のSHP‑2変 異体にお いても 引き起こ された , 従 っ て 、RAF‑ERK経 路 の 構 成 的 活 性 化 はT507K SHP‑2によ るNIH3T3細 胞 形 質転 換 の 十分 条 件 では な く 、固 形 癌 の発 症 に はRAF‑ERK経路の 他に、 細胞内分 子の脱制 御が必 要である と推察さ れる. T507K SHP―2により特異的に脱リン酸化される基質夕ンパクは 固形 癌 の 発症 に 深 く関 与 し てい る 可 能性が 高く、 その同定 がSHP‑2の異常と 固形癌 と の関係をより明確に説明可能にするものと期待される,

  口 頭 発表 に 続 き、 副 査 秋田 弘 俊 教授 よりT507K SHP‑2の 獲得した 新しい基 質につ い て、 副 査 近藤 哲 教 授よ り 固 形癌 に お けるSHP‑2変異 の低頻度 につい て、副査 畠山昌 則 教 授 よ りSHP‑2の 異 常 が先 天 奇 形症 候 群 の原 因 と なる こ と に基 づ くRAS‑MAPK経 路の 細胞 増 殖 以外 の 機 能に つ い て、 最 後 に主査 今村雅 寛教授よ りSHP‑2変異の分 類の背 景 についての質問があった.

  いずれの質問に対しても申請者はその主旨をよく理解し,自らの研究内容と文献的考察を 混じえて適切に回答した,

  審査員一同はこれらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る と 判 定 し た .

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