博士(医学)宮武 学位論文題名
司
血液灌流 discordant 異種移植心モデルにおける心機能の検討
学位論文内容の要旨
I研 究目的
discordant異 種 心 臓 移植 モデル として 用いら れてき た異 所性心 臓移植 では, 心機 能の評 価を 十分 にでき ないと いう欠 点が ある。 本研究 では, ラット の動 脈血を ポンプ により脱血し,その血 液を モルモ ット摘 出心に 灌流 し,灌流後の血液をラットの静脈に返血する,いわゆるサポートラッ ト を 用い た 血 液 灌 流回 路 をdiscordant異種心 臓移植 モデル とし て開発 した。 このモ デルを 使用 し て , 超 急 性 拒 絶 反 応 時 の心 機 能 を 測 定 する と 共 に , 補体 成 分C3を消 費 さ せ るCobra Ven‑
om Factor(CVF) を サ ポ ー ト ラ ッ トに 投 与 し ,C3が 拒 絶 時 の心 機 能 に ど のよ う に 関 与 して いる かを検 討した 。
皿 実験 材 料 お よ び 方法
1)実 験 は 以 下 の4群 に 分 け ,A群 ( サ ポ ート ラ ッ ト , ラ ット 摘 出 心 灌流群n二 二6),B群( サ ポ ート モ ル モ ッ ト ,モ ル モット 摘出心 濯流群n=ニ6),C群( サポ ートラ ット, モルモ ット 摘出 心 灌流 群n― 一6) ,D群 ( サポ ー ト ラ ッ ト, モ ルモ ット摘 出心灌 流,CVFO. 2mg/kg腹 腔内投 与 群n=6) と し た。 ラ ッ ト 摘 出心 は350回/ 分 , モル モット 摘出心 は300回/ 分心拍 数を定 め,.
灌 流 量 は3ml/ 分 の 定 常 流 と し た 。 左 室 内 バ ル ― ンを 挿 入 し , 左室 拡 張 末 期 圧 をlOmmHgと し て 左 室 収 縮 末 期 圧 (LVESP) お よ び 冠 灌 流 圧(CPP) を2時 間 測 定 し た 。 途 中 ,LVESPが 20mmHg未 満 と な る も のfま 心 停 止 と 定 め て 灌 流 を 中 止 し た。 異 種 間 灌 流 のC,D群 でC3量 , 免 疫 グ 口 ブ リ ンIgM量 を 一 元 放 射 免 疫 拡 散 法(SRID)で 測 定 し た 。 モ ル モ ッ ト 心 灌流 のB, C,D群 で は 灌 流心 の 単 位体 重当た りの乾 燥重 量およ び心筋 組織水 分含 有量を 測定, 算出し た。
心 筋組 織 水 分 含 有 量二 ニ ( 湿 重 量― 乾 燥 重 量 )/ 湿 重 量
こ れと は 別 に 各 群 と同 じ 組み合 わせで 潅流を 行な ってへ マトキ シリン エオジ ン(HE)染色 で病 理 組織 像 を 観 察 し ,C,D群 に関 し て は 抗C3抗 体 , 抗IgM抗 体 に より 免 疫 螢 光 染色 を 行 っ た 。 2) 上 記C群 に 同 条 件 の9例 を 追 加 し 計15例 と して ,discordant異 種 間 灌 流に お け るLVESP,
CPPと灌流 から 心停止 までの 時間( 心機 能継続 時間) の関係 を調べ た。
3) 危険率0. 05未 満を 有意とし,数値は平均値土標準誤差で表示した。
m結 果
1. LVESPお よ びCPP
A群 ,B群 で は 測 定120分 以 内 にLVESPが20mmHg未 満 と な る 例 は1例 も な か っ た 。A群 のLVESPは 灌 流10分94.3土25. ImmHg,120分87.O土11. 5mmHgと 両者 に 有 意 差 はな か っ た 。 B群 に お い て も10分34.5土4.6mmHg,120分56.5土4.8mmHgと 灌 流120分 でLVESPが低 下 す る こと は な か っ た。CPPはA群 で 灌 流120分 の 値77.2土10. 7mmHgと なり10分 の 値49.7土3. 9mmHgよ り も 上 昇 し た 。B群 で は10分 の41.7土3.7mmHg,120分41.5土4.7mmHgと な り 両 者 で 有 意 差 は な か っ た 。C群 で は ,6例 中4例 が120以 内 に 心 停 止 し た 。C群 の10分のLVESP は53. 3mmHg土17. OmmHg,CPPは85.8土7.OmmHgと な りLVESPは ち ら ば り が 大 き くB 群 と 有 意 差 を 示 さ な か っ た がCPPはB群 よ り も 高 値 を 示 し た 。CVFを 投 与 し たD群 で はC群 に 比 較し て 有 意 にC3量 が 低 下 した が ,IgMは 有 意 差 はな か っ た 。D群 で は120分 以 内 に 心 停止 す る 例 は1例 も な く ,LVESPは10分43.2土7.2mmHg,120分61.3土10.2mmHg。CPPは10 分45.O土5.5mmHg,120分57.O土7.3mmHgで あ っ た 。LVESP,CPPは 共 に10分 と120分 の 値 に 有 意 差 は な く , 灌 流10分 のCPPはC群 と 比 較 し て 低 値 を 示 し た 。10分 及 び120分 の LVESP,CPPは そ れ ぞれB群 の 値 と有 意 差 は な かっ た 。
2. discordant異 種 間 灌 流 の LVESPお よ びCPPと 心 機 能 継 続 時 間 の 関 係 C群 に 同 条 件の9例 を 追 加し た 計15例で は , 灌 流10分 に2例 が心 停 止 し3例が120分瀧 流 時 に も 拍 動し て い た 。120分 を 越え て 機 能 し て いた3例 を 除 く12例 で の10分LVESPと 心 機能 継 続 時 間 はSpearmanの 相 関係 数r二 二O.85,10分CPPと 心機能 継続時 間はr二ニ‑O, 72であ った。 さ ら に10分 時 心 停止2例 を 除 いた10例 で の10分 以 後 のLVESP上 昇 率 ( (最 終圧―10分時 圧)/ 時 間 ) と心 機 能 継 続 時間 はr =0. 88と な っ た が ,10分 以後CPP上昇 率と心 機能継 続時 間は有 意な 相 関 関係 を 示 さ な かっ た 。
3,乾 燥 重 量 , 心 筋組 織 水 分 含 有量
C群 の 単 位 体重 当 た り 乾 燥重 量 はB,D群 よ り も高値 を示 した。 心筋組 織水分 含有量 はB,C, D群間 で 有 意 差 を 示さ な か っ た 。
4.病 理 組 織 学 的 所見(HE染色 , 免 疫 螢 光染 色 )
HE染 色で,C群 に血管 周囲, 組織 間の出 血およ び浮腫 を認 めた。 他群は ほぼ正 常像を 呈し た。
免 疫螢 光 染色 では ,C群で,血管周囲にC3,IgMの沈着を認めた。D群でtま ,C3は極く少 数 の血 管 で染 まり ,IgMはC群 と同 様の 所見 で あっ た。
1V考 察
同 種間 の2時間 灌流 でLVESP,CPPfまdiscordant異種間灌流 に比較して安定していた。
discordant異 種間 灌 流ではLVESPは著明に低下し,CPPは上昇 した。それらの変化は10分 以内に既に大部分が進行していることが示された。超急性拒絶反応は本モデルにより心機能では LVESPの 低 下 ,CPPの 上昇 とし て あら われ るこ とが 示 され た。CVF投与 によ るC3量 の低 下は上記のLVESPの低下およ びCPPの上昇を少なくとも2時間,ほば完全に抑制した。また,
そのLVESP,CPPの値はモル モット間灌流とほぼ等しい値 を示した。このことは,超急性拒 絶反応を抑制すれば同程度の心機能を有するdiscordant異種心臓移植が機能面からは可能であ ることを示唆した。単位体重当たり心乾燥重量がC群で高値を示したことは病理像と併せ考察す ると出血の量を反映しているものと考えられ,乾燥重量が超急性拒絶反応の指標となりうること が示された。一方,心筋組織水分含有量はB,C,D群で有意差はなく,心筋組織・水分含有量は 本モデルでは超急性拒絶反応の指標とするのは困難であると考えられた。C群の灌流5分での免 疫螢光染色で選択的に血管 周囲にC3およびIgMの沈着を認めたことは,超急性拒絶反応が血 管の傷害を起点として生ずることを示唆した。
V結 論
サポ―ト小動物を使用した血液灌流回路を応用し,discordant異種心臓移植モデルとして移 植心の心機能にっいて検討した。
1. 超 急 性 拒 絶 反 応 は 心 機 能 で はLVESPの 低 下 お よ びCPPの 上 昇 と し て 示 さ れ た 。 2. C3を 低下 させ るこ とに よ りLVESPの低 下お よびCPPの上昇は2時間,ほぼ 完全に抑制 された。
3. C3を低下させることによルモルモット心はラット血液によっても,モルモッ卜血液による と同程度の収縮能を示した。
4.サポート小動物を使用した血液灌流回路モデルは,discordant異種心臓移植の実験モデル として 有用であることが示された。LVESPの低下,CPPの上昇お よび心乾燥重量の増加は,
超急性拒絶反応の指標となりえた。さらに薬物などによる超急性拒絶反応の抑制程度を評価する 上でこれらの指標が有用であることが示唆された。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 教授
田邊 小林 劔物
達 三 邦 彦 修
心臓 移 植の 基礎 的 研究 にお い て心臓移植 後の心機能を評価 する場合に,従来 用いられてきた異 所 性心 臓 移植 では 十 分に 行い え なかった欠 点を解決する方法 が求められてきた 。本研究では,新 た なモ デ ルと して ラ ット の動 脈 血をポンプ により脱血し,モ ルモット摘出心に 灌流し,灌流後の 血 液を ラ ット の静 脈 に返 血さ せ て,いわゆ るサポートラット を用いた血液灌流 回路をdiscordant 異種心臓 移植モデルとして 開発し,心機能に っいて検討した。実験は !君¥に分け,A群(n二二ニ 6) ; ラ ッ ト 間 灌 流 ,B群 (nニ=6) ; モ ル モ ッ ト 間 灌 流,C群(n=6) ;サ ポ ート ラッ ト ,モ ル モ ッ ト 心 異 種 間 灌 流 ,D群 (n=6) ;Cobra Venom Factor (CVF)0.2mg/kgを 腹 腔 内 投 与 し た サ ポー ト ラッ ト, モ ルモ ット 心 異種 間灌 流 とし た。SRID法 にてD群の サ ポ― トラ ッ トの 補 体 成 分C3がC群 に 比 ベ 滅 少 し て い る の を 確 認 し た 。 冠 灌 流 量 を3ml/ 分 と し, モル モ ット 心 は300回 / 分 , ラ ッ ト 心 は350回/ 分に ぺ ーシ ング し た。 実験 結 果は ,A群 ,B群 ,D群 では2 時 間 , そ れ ぞ れ ほ ば 安 定 し た 左 室 収 縮 末 期 圧(LVESP) と 冠 灌 流 圧 (CPP) を示 し たが ,C群 で は6例 中4例 が120分 以 内 に 心 停 止 し た 。 ま た10分 後 のLVESPは ば ら っ き が 大 き くB,D群 と 有 意 差 を 示 さ な か っ た が ,CPPは 高 値 を 示 し た 。C群 に9例 を 追 加 し て15例 と し ,LVESP とCPPに っ い て そ れ ぞ れ の 心 機 能継 続 時間 との 相 関関 係を 検 討し た。120分 を 越え て機 能 した 3例 を 除 く12例 で は10分 後 のLVESPと 心 機 能 継 続 時 間 は正 の 相関 ,CPPは負 の 相関 を示 し た。
さ ら に 灌 流10分 で 心 停 止 し た2例 を 除 く10例 に お い て10分 以 後 のLVESP上 昇 率は 心機 能 継続 時 間 と 正 の相 関 を示 した が ,CPP上昇 率は 有 意な 相関 を 示さ なか っ た。 心乾 燥 重量 は出 血 を反 映 してC群で 高 値が あっ た が, 心筋 組 織水 分含 有 量はB,C,D群 で 有意 差は ナ ょかった。病理組 織 像 で はC群 で 問 質 内 出 血 と 浮 腫 を 認 め , 免 疫 染 色 で は 血 管 周 囲 にC3お よ びIgMの沈 着 を認 め た 。 以 上の 結 果か ら本 モ デル はdiscordant異 種 心臓 移植 モ デル とし て 有用 であ り ,LVESP, CPP, 心 乾 燥 重 量 は 超 急 性 拒 絶 反 応 の 程 度 を 示 す 指 標 と な る こ と が 示 唆 さ れ た 。 口頭 発 表に おい て 小林 教授 よ り超 急性 拒 絶反 応に お ける 補体 成 分C3の関 与 ,心筋傷害,血管 傷 害 , 自 血 球 , 凝 固 系 因 子 の 変 動 な ど , 劔 物 教 授 よ り超 急 性拒 絶反 応 の発 症時 間 ,DP/DTの 検 索, 臨 床応 用可 能 な補 体抑 制 薬など,安 田教授より超急性 拒絶反応の基本的 機序,今後の免疫
抑制法などにっいて質問があったが,申請者倣おおむね妥当な回答を行った。また,小林,劔物 両教授には個別に審査を受け合格と判断された。本研究は異種心臓移植の場合の心機能検索法と して新たなモデルを開発し,超急性拒絶反応と補体成分C3との関与を検討して新たな知見を加 えたものであり,学位授与に値すると考える。