博 士 ( 農 学 ) 高 田 克 彦
学 位 論 文 題 名
樹 幹 ヤ ン グ 係 数 に よ る カ ラ マ ツ 林 木 の 評 価
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本論文は,北海道における主要造林樹種であるカラマツ(Larix leptole pis Gord.)を対象 に,立木の樹幹の曲げ変形から求められるヤング係数(樹幹ヤング係数)によって林木の強度材 質評価を行った結果をまとめたものである。本研究の目的は,樹幹ヤング係数を指標として非破 壊的に林木の評価を行なうことであるが,ここで言う林木の評価とは,木材の最終用途に要求さ れる品質で,しかも種々の発現要因をもつ林木の強度材質の変動を明らかにし,それらの知見を もとに現存の造林地に対する林分単位の強度材質検定法,および今後の造林事業に関連したカラ マ ツ の材 質育 種と 林木 改 良の 方向性を示すため の基本的な資料提供として 定義される。
第1章の「緒論」においては,近年の林業・林産業を取り巻く情勢,すなわち木材利用が高度 化・多様化する反面,その材質変動に関する知見が乏しいことを指摘すると共に,北海道におけ る カ ラ マ ツ 造 林 の 現 状 を 論 じ た 上 で , 本 研 究 の 目 的 に っ い て 述 べ た 。 第2章では,日本の主要針葉樹に対してその材質変動の把握を目的として行なわれた研究をレ ビューしている。特に,カラマツに関しては,種子産地及び精英樹ク口一ンの材質変動を扱った 研究からその問題点を整理し,これまで木材強度の推定に直結する形質に関する研究が少なかっ たことを示すと共に,本研究の重要性に対する裏付けを与えた。
第3章では,各種の林木材質評価法を比較・検討した上で,本研究で用いた樹幹ヤング係数の 材質指標としての妥当性を示し,その測定方法を概説している。更に,樹幹ヤング係数と同様に 樹幹の曲げ変形から求められる丸太ヤング係数の有用性を述べると共に,丸太ヤング係数と樹幹 ヤ ン グ係 数と の関 係を 検 討し ,両者を同等とし て扱う場合に留意すべき点 を指摘した。
第4章から第8章までが研究結果である。
第4章では,丸太ヤング係数と胸高直径,樹心部・辺縁部別の平均年輪幅,容積密度数及び晩 材率との相互関係を調べると共に,諸形質の半径方向の変異にっいて検討した。その結果カラマ ツにおいては,(1)樹幹の曲げ変形から求められるヤング係数は,試験体の辺縁部の材質を顕 著に反映する形質であり,(2)胸高直径等の肥大生長に係る形質との相関が無いことから,肥
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大 生 長 の 良否 に よ る 影 響を 受けな い形 質であ ること が示さ れた 。(3)平 均年輪 幅は 樹心部 と辺 縁 部の間 で負の 相関関 係にあ り, 肥大生長量が生育環境の影響を大きく受ける可能性が示された。
(4)容積 密 度 数 , 晩材 率 は 樹 心 部― 辺 縁 部 相 関 が高く ,遺 伝因子 の寄与 が大き い形 質であ るこ と が推察 された 。
第5章で は,早 ・晩材 のヤ ング係 数の相 違に起 因する 樹幹 ヤング 係数の 変動を 一年 次内の 変動 と 経 年 変 動に 分 け て 調 査し ている 。そ の結果 ,(1)一 年次 内の樹 幹ヤン グ係数 は形 成層活 動期 間 中 変動し ,形成 層活動 の休 止期に あたる9月 中旬以 降に安 定す ること を検証 し,材 質評価 を目 的 と する樹 幹ヤン グ係数 の測 定は, 測定値 が安定 する9月中 旬以 降に行 なうの が効果 的であ ると 結 論 し て いる 。(2)樹 幹 ヤ ン グ 係数 は 樹 齢15年 前 後 で 急 激に 増 加 し ,30年以 降は年 増加率 が2
〜4%程 度と安 定する ことを 検証し ,こ の変動 は始原 細胞の 成熟 に伴う 晩材部 細胞の ヤング 係数 の 変化に 起因す るもの と結論 した 。
第6章 では, カラマツ,トドマ.ソ及びァカエゾマ.ソの樹幹ヤング係数の林地内の変動特性を検 討 し て い る。 そ の 結 果 ,(1)ト ドマ ツ , ア カ エ ゾマツ では 胸高直 径と樹 幹ヤン グ係 数の間 に顕 著 な 負 の 相関 が 認 め ら れる こ と が 示 され た 。(2)カラ マツ では胸 高直径 と樹幹 ヤン グ係数 に相 関 関係が 認めら れず, 胸高直 径の 大小に 関わら ず一定 の下 限値が 存在す ること,林分内で平均的 な 生長を 示して いる固 体群の 樹幹 ヤング 係数の 分布域 をも って当 該林分 の樹幹ヤング係数の分布 域 と看做 すこと ができ るとい う2点を指 摘し た。
第7章 で は , 樹 幹ヤ ン グ 係数を 含む8形質 (他 に胸高 直径, 樹心部 ・辺縁 部別 の容積 密度数 , 平 均年輪 幅及び 晩材率 )にっ いて 種子産 地内・ 種子産 地間 のバラ ツキ, 種子採集地に伴う形質傾 斜 を検討 すると 共に, 樹幹ヤ ング 係数に っいて は北海 道内30所の試 験地間 相関を検討している。
そ の 結 果 ,(1)種 子産 地 間 に 統 計上 有 意 差 が 認 められ た形 質は, 樹心部 の平均 年輪 幅,辺 縁部 の 平 均 年 輪幅 及 び 容 積 密度 数で, 樹幹 ヤング 係数に っいて は30所 の試験 林中種 子産 地間に 有意 な 差 が 認 めら れ た 試 験 林は10所 だ けで あ っ た 。 (2) 種子 採集地 の緯度 ,経度 及び 海抜高 と諸 形 質 の 間 には 有 意 な 相 関関 係 は 認 め られ な か っ た。(3)樹 幹ヤン グ係数 の種子 産地 平均値 に関 す る 試 験 地間 相 関 は い ずれ の試験 地間 におい ても有 意な関 係は 得られ なかっ た。(4)樹幹 ヤン グ 係数の 各試験 林の平 均値は 最大3. 4GPaの 差が認 められ ,生 長が最 も良好 な試験林の樹幹ヤン グ 係数が 最も大 きい値 を示し た。 以上の 結果か ら,各 種子 産地は それぞ れの試験地において,植 栽 環 境或い は産地x環 境の交 互作用 の影 響を受 けるこ とによ って その遺 伝的特 性の発 現に差 異を 生 じてい ると推 論した 。
第8章 で は , 樹 幹ヤ ン グ 係数を 含む6形質 (他 に胸高 直径, 樹心部 ・辺緑 部別 の容積 密度数 及
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び平均年 輪幅)にっいてクロ ーン内・クローン 間のバラ`ソキを 検討するとともに, 樹幹ヤング係 数にっい ては複数の林地間の 相関を求め,材質・生長両面において優良ナょク口ーンの選定を試み,
さ らに ,精 英 樹ク ロー ン の実 生次代検 定林において樹幹 ヤング係数の遺伝性 を検討した。その 結 果 ,(1)樹 幹ヤ ン グ係 数の ク ロー ン間 差 は高 度に 有意 であり,試験地間相 関も大きいことが わ か った 。ま た ,ク ロー ン 平均 の胸高直 径と樹幹ヤング係 数の間には相関関係 が認められず生長 ・ 材 質共 に優 れ たク 口ー ン が存 在す る こと が示 さ れた 。(2)実生次代検定林 では,樹幹ヤング 係 数,胸高 直径ともに家系内の バラ`ソキが母樹 クローンのそれに 比ベ大きくなること が判った。以 上 の結 果か ら ,無 性繁 殖 法に よって生 長・材質共に優良 な個体の生産が可能 である一方,有性 繁 殖 に よ っ て 生 じ た 次 代 に 母 樹 の 優 良 形 質 を 伝 え る こ と は 難 し い と 結 論 し た 。 第9章 は総 合考 察 とし て, 前 章ま でに 得 られ た知 見 をも とに , (1) 樹幹 ヤング係数の基準 値 を 木構 造計 算 規準 から 求 め, 林分単位 の強度材質検定の 具体的な方法を示す と共に,主伐木の 材 質向上を 目的とした保育・管 理法にっいて論じ ,カラマ`ソに対 しては独自の保育・ 管理システム が 必要 であ る こと を指 摘 した 。さ ら に(2)次 期植 林事 業に関連したカラマ ツの材質育種の方 向 性 と林 木改 良 の可 能性 に っい て論じ, 種子産地をグルー プとする選抜では強 度材質における大 幅 な改良は 見込めナょいことか ら,無性繁殖法の 確立及び母樹とし て有用な種苗の選定 の重要性を指 摘 する と共 に ,土 壌・ 気 象因 子等の定 量化による植栽環 境の評価法の確立が 重要な課題である と 結論付け た。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授 深 教 授 笹 教 授 寺 助教授上
澤和三 谷宜志 澤 實 田恒司
本論 文 は, 北海 道 にお ける 主 要造 林樹 種 であ るカ ラ マツ(Larix leptole pis Gord.)を対象 に ,樹 幹 ヤン グ係 数 を指 標とする非破壊的材 質評価結果をまと めたものであり, 表25,図51,写 真1, 引 用 文 献135を 含 む 総 頁 数105頁 の 和 文 論 文 で , 参 考 論 文11編 が 添 え ら れ て い る 。 第1章 「緒 論 」で は, 本 研究 の背 景 ,目 的に っ いて 述べ て いる 。
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第2章では,カラマ` ソの材質変動に関す る既往の研究を検 討し,その問題点を整理すると共に,
本研究の重要性 にっいて述べてい る。
第3章では ,樹幹ヤング係数 の材質指標として の妥当性を示し,そ の測定法を概説す ると共に,
丸太 ヤ ング 係数 と 樹幹 ヤン グ 係数との関係を検 討し,両者を同等と して扱う場合に留 意すべき点 を指摘している 。
第4章から第8章までが研究結果 である。
第4章でfま, 丸 太ヤ ング 係 数を用いて樹幹の 曲げ変形から求めら れるヤング係数と 胸高直径,
樹心 部 ・辺 縁部 別 の平 均年 輪 幅,容積密度数及 び晩材率との相互関 係を調べると共に ,諸形質の 半径 方 向の 変異 に っい て検 討 している。その結 果,丸太ヤング係数 は,試験体の辺縁 部の材質を 顕著 に 反映 する 形 質で あり , 肥大生長にかかる 形質との相関が無い こと,平均年輪幅 は樹心部と 辺緑 部 の間 で負 の 相関 関係 に あり,肥大生長量 が生育環境の影響を 大きく受けること ,容積密度 数, 晩 材率 は樹 心 部一 辺縁 部 相関が高く,遺伝 因子の寄与が大きい 形質であることを 指摘してい る。
第5章で は ,早 ・晩 材 のヤ ング 係 数の 相違 に 起因 する樹幹ヤング 係数の変動を一年 次内の変動 と経 年 変動 に分 け て検 討し て いる。その結果, 一年次内の樹幹ヤン グ係数は形成層活 動期間中変 動し , 形成 層活 動 は休 止期 に あた る9月 中旬 以 降に 安定すること, 樹幹ヤング係数は 樹齢15年前 後で 急 激に 増加 し ,30年以 降 は年 増加 率 が2〜4% 程 度と 安定 す るこ とを 明らかにし ,この変動 は 始 原 細 胞 の 成 熟 に 伴 う 晩 材 部 細 胞 の ヤ ン グ 係 数 の 変 化 に 起 因 す る も の と結 論し て いる 。 第6章では ,樹幹ヤング係数 の林地内の変動特 性を検討している。 その結果,トドマ `ソ,アカ エゾマツで認め られる胸高直径と 樹幹ヤング係数との間の負の相関が,カラマ`ソでは認められナょ いこ と を示 した 上 で, カラ マ ツの樹幹ヤング係 数に関して,胸高直 径の大小に関わら ず一定の下 限値 が 存在 する こ と, 林分 内 で平 均的 な 生長 を示 し てい る個 体 群の 樹幹 ヤング係数 の分布域を も って 当該 林 分の 樹幹 ヤ ング 係数 の 分布 域と 見 なす こと が でき ると い う2点 を指 摘し て いる 。 第7章で は ,樹 幹ヤ ン グ係 数を 合 む8形 質( 他に 胸 高直 径, 樹 心部 ・辺 縁部別の容 積密度数,
平均 年 輪幅 及び 晩 材率 )に っ いて,種子産地の 違いに基づく変動を 調査すると共に, 樹幹ヤング 係数 に っい ては 試 験地 間相 関 を検討している。 その結果,樹心部の 平均年輪幅,辺縁 部の平均年 輪幅 及 び容 積密 度 数に 関し て 種子産地間差が認 められたものの,樹 幹ヤング係数に関 しては明確 な種子産地間差 異が認められない ことを指摘してい る。
第8章で は ,精 英樹 接 ぎ木 ク口 ― ンに おけ る 樹幹 ヤン グ 係数 を含 む6形 質(他に胸 高直径,樹 心部 ・ 辺緑 部別 の 容積 密度 数 及び平均年輪幅) の変動を検討すると ともに,樹幹ヤン グ係数につ
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い ては複 数の林 地間の 相関 を求め ,材質・生長両面において優良なク口一ンの選定を試みている。
さ らに, 精英樹 ク口一 ンの 実生次 代検定 林にお いて樹 幹ヤ ング係 数の遺 伝性を検討している。そ の 結果, 無性繁 殖法に よっ て生長 ・材質共に優良な個体の生産が可能である一方,有性繁殖によっ て 生 じ た 次 代 の 母 樹 の 優 良 形 質 を 伝 え る こ と は 難 し い と 結 論 し て い る 。 第9章は総 合考 察であ り,前 章まで に得ら れた 知見を もとに ,林分 単位 の強度 材質検 定の具 体 的 な方法 を示す と共に ,主 伐木の 材質向 上を目 的とし た保 育・管 理法に っいて論じている。さら に 次期植 林事業 に関連 した カラマ ツの材 質育種 の方向 性と 林木改 良の可 能性にっいて論じ,母樹 と して有 用な種 苗の選 定及 び無性 繁殖法 の確立 の重要 性を 指摘す ると共 に,土壌・気象因子等の 定 量 化 に よ る 植 栽 環 境 の 評 価 法 の 確 立 が 重 要 な 課 題 で あ る と 結 論 付 け て い る 。 本 研究は ,カラ マツ の材質 変異に 関して 多く の新知 見を加 えると ともに ,林業・林産業を結ぶ 橋 渡しと して多 くの有 益な 情報を 提供す るもの であり ,学 術的に 高く評 価されるのみならず,林 業 ・林産 業に寄 与する とこ ろが大 である 。
よ って審 査員一 同は ,最終 試験の 結果と 合わ せて, 本論文 の提出 者高田 克彦は博士(農学)の 学 位を受 けるの に十分 な資 格があ るもの と認定 した。
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