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博 士 ( 農 学 ) 高 橋 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 農 学 ) 高 橋 学 位 論 文 題 名

土壌動物・微生物と投入有機態窒素の動態からみた 乳牛の放牧管理と牧草生産の関連

学位論文内容の要旨

  放牧地における家畜生産は、絶対量のみならず生産効率を考慮する必要があることから、単 位面積あたりの家畜生産量という観点で評価することが重要である。単位面積あたりの家畜生 産量を増加させるためには、単位面積あたりの牧草生産量、利用草量および窒素利用量の増加 が重要であり、そのためには放牧強度や放牧方式などの放牧管理の調節が有効であるという指 摘がこれまで数多くなされている。一方、牧草は生長過程において土壌中の無機窒素を吸収す ることから、施肥による土壌への無機窒素供給の重要性も指摘されてきている。施肥以外の放 牧地への窒素供給源としては牧草枯死物や家畜排泄物などがあるが、牧草枯死物および糞に含 まれる窒素の大部分は有機態で存在しており、土壌動物および微生物により分解・無機化され なければ牧草は利用できない。したがって、これら土壌動物および微生物の働きは放牧地にお いて非常に重要である。放牧管理および草地管理の違いは、放牧地に投入される有機態窒素と しての牧草枯死物および糞の量を変化させることから、土壌動物および微生物によるこれらの 無機化動態、すなわち牧草への無機窒素供給を通じて単位面積あたりの家畜生産量に影響を及 ばすと考えられる。

  以上の観点から、本研究では乳牛放牧地における放牧管理および草地管理の違いが土壌動物 および微生物による有機態窒素の無機化を介して、放牧地の牧草生産および窒素利用量に及ぽ す影響の作用機序を解明し、土壌動物および微生物による有機態窒素の無機化量を高めうる放 牧 管 理お よ び 草地 管 理 を追 究 する こ と を目 的 とし 、 以 下の 点 につ い て 検討 した。

  1)乳牛放牧地における放牧管理および草地管理の違いと土壌動物・微生物および土壌中無     機 態 窒 素 濃 度 の 関 連 を 実 際 の 放 牧 利 用 酪 農 家 に お け る 実 地 調 査 で 検 討   2)放牧管理の違いが土壌動物・微生物,投入有機態窒素の動態および牧草生産に及ぼす影     響を実験条件下の乳牛放牧地において検討

  主な結果は次のように要約される。

1)放牧を比較的広範に利用している草地型酪農地帯において、放牧利用酪農家延べ12戸を対 象とした調査を行った。その結果、窒素施肥量が60kgN/ha/yr以上の農家では50kgN/ha/yr 以下の農家と比較して、牧草枯死物量が増加する傾向を示し(Pく0.1)、土壌動物数は減少 (Pく0.05)することが明らかとなった。一方、窒素施肥量が50kgN/ha/yr以下の農家では放牧 強度の増加に伴って牧草枯死物量が減少する傾向がみられた。放牧期間を通じての単位面積あ たりの窒素利用量は、放牧強度が4,400cow‑hr/haの農家で167.5kgN/haと最も高く、2,235 cow‑hr/haの農家で52.7kgN/haと最も低く、単位面積あたりの牧草窒素利用量は放牧強度の     ‑ 1305―

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増加に伴って増加する傾向を示した。それに対して、こ れらの放牧地へ化学肥料および家畜排 泄物 とし て投 入さ れた 窒素 量は それ ぞれ89.3 kgN/haお よび82.5 kgN/haと差がなかったこ とから、放牧強度が高い場合には投入窒素量に対する牧 草窒素利用量が増加することが明らか となった。また、放牧強度が高い放牧地では土壌動物数 および土壌微生物数が多かったことか ら、放牧強度の増加により土壌動物および微生物による 有機態窒素の無機化量は増加する可能 性が示唆された。放牧強度の増加は分解速度の遅い牧草 枯死物量を減少させ、同時に分解速度 の速い糞としての投入量を増加させるためと考えられた 。

2)1日 あた りの 放牧 強度 を10、20、30、40およ び50 cow‑hr/haとし た15日 間隔の輪換放牧 において、放牧強度の増 加により放牧地に投入される有機態窒素の総量は同程度であったが、

投入有機態窒素全体に占 める枯死物の割合は98.2から86.0%ヘ減少した。ー方、各処理におけ る牧草窒素利用量はそれ ぞれ、88.5、134.6、192.1、236.8および206.4kgN/haと40cow‑hr/ha までは放牧強度の増加に 伴い増加したが、50 cow‑hr/haでは減少に転じた。50 cow‑hr/haの放 牧地では他の処理と比較 して土壌動物数、土壌中アンモニア態窒素および硝酸態窒素濃度が著 しく低下する傾向を示したことから(Pく0.1)、40cow. hr/haまでの放牧強度の増加は放牧地に おける単位面積あたりの 牧草生産量、利用草量および窒素利用量を増加させるが、より放牧強 度を高めた場合には土壌 動物が減少し、有機態窒素の無機化量が減少することにより単位面積 あたりの牧草生産量、利用草量および窒素利用量が減少に転じることが明らかとなった。また、

放牧強度が等しい定置放牧と輪換放牧を比較した場合、糞窒素投入量は両区同程度であったが、

牧 草枯 死物 窒素 投入 量は 定置 放牧 で65kgN/ha、 輪 換放 牧で43kgN/haと定置 放牧で多く、投 入 有機 態窒 素量 は定 置放 牧で 多く なっ た。 それ に対し、牧草窒素利用量は定置放牧で258.2 kgN/ha、輪 換放 牧で298.6 kgN/haと輪換放牧で多かった。定置放牧では牧草 枯死物の増加に 伴い土壌動物、特にダ二類の増加が見られた(Pく0.05)が、土壌微生物数は減少した(Pく0.05)。 牧草枯死物は分解速度が 遅いため、定置放牧では投入有機態窒素全体に対する無機化量は低下 し 、 牧 草 の 窒 素 吸 収 量 お よ び 家 畜 に よ る 窒 素 利 用 量 は 低 下 し た と 考 え ら れ た 。

3)本研究 の結果から、放牧管理と牧草生産には以下のような機序 が想定される。@放牧強度 が低い場合は枯死物の増加により、土 壌動物および微生物による投入有機態窒素の無機化量が 減少し、放牧期間中の牧草生産量は低 下する。◎放牧強度の増加は、放牧地に投入される有機 態窒素に占める糞窒素の割合を増加さ せることにより、土壌動物および微生物による有機態窒 素の無機化量を増加させ、放牧期間中 の牧草生産量は増加する。◎放牧強度の著しい増加は、

放牧地に投入される有機態窒素に占める糞窒素の割合が増加しても、土壌動物が減少するため、

放牧期間中の牧草生産量は減少に転じ る。@放牧強度が適切であっても枯死物が増加するよう な放牧方式を用いた場合には、土壌動 物および微生物による投入有機態窒素の無機化量が減少 し、放牧期間中の牧草生産量は低下す る。これらから、放牧期間中の牧草枯死物量を低減させ るような放牧管理および草地管理を行 うことにより、土壌動物および微生物による投入有機態 窒素の無機化量は増加すると考えられ た。従来提唱されてきた温帯地域における単位面積あた りの乳生産を高めるための放牧管理は 、枯死物窒素投入量を減少させるという観点から、土壌 動物および微生物による有機態窒素の 無機化量を増加させうると考えられた。本研究で得られ た結果は、従来から提唱されている高 放牧強度による放牧生産の向上を土壌動物・微生物およ び投入有機態窒素の動態という観点か ら裏付けるものであった。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    近 藤誠司 副査    教授    田 中桂一 副査    助教授    秦    寛 副査   助教授   小林泰男 副査    講師    中 辻浩喜

学 位 論 文 題 名

土壌動物・微生物と投入有機態窒素の動態からみた 乳牛の放牧管理と牧草生産の関連

  本 論 文 は6章 か ら な り 、 図46、 表9、 引 用 文 献89を 含 む 、 総 頁 数89の 和 文 論 文 で あ り 、 別に1編の 参考 論文 が添 えら れて いる 。

  放 牧地 にお いて 単位 面積 あ たり の家 畜生 産量 を増 加さ せる ため には 、単 位面 積あ たりの牧 草生 産量 、利 用草 量お よび 窒 素利 用量 の増 加が 重要 であ り、 その ため には 放牧 強度 や放牧方 式な どの 放牧 管理 の調 節が 有 効で ある とい う指 摘が これ まで 数多 くな され てい る。 一方、牧 草は 生長 過程 にお いて 土壌 中 の無 機窒 素を 吸収 する こと から 、施 肥に よる 無機 窒素 供給の有 効性 も指 摘さ れて いる 。施 肥 以外 の放 牧地 への 窒素 供給 源と して は牧 草枯 死物 や家 畜排泄物 など があ るが 、こ れら に含 ま れる 窒素 の大 部分 は有 機態 で存 在し てお り、 土壌 動物 および微 生物 によ り無 機化 され なけ れ ば牧 草は 利用 でき ない 。従 って 、こ れら 土壌 動物 およ び微生物 の働 きは 放牧 地に おい て非 常 に重 要で ある 。放 牧管 理お よび 草地 管理 の違 いは 、放 牧地に投 入さ れる 牧草 枯死 物お よび 糞 の量 を変 化さ せる こと から 、土 壌動 物お よび 微生 物に よるこれ らの 無機 化動 態、 すな わち 牧 草へ の無 機窒 素供 給を 通じ て単 位面 積あ たり の家 畜生 産量に影 響を 及ば すと 考え られ る。

  本 研究 は、 乳牛 放牧 地に お ける 放牧 管理 およ び草 地管 理の 違い が放 牧地 の牧 草生 産および 窒素 利用 量に 及ば す影 響を 土 壌動 物お よぴ 微生 物に よる 投入 有機 態窒 素の 無機 化動 態という 観 点 か ら 検 討 し た も の で あ り 、 得 ら れ た 結 果 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。

1. 乳 牛 放 牧 地 に お け る 放 牧 管 理 お よ び 草 地 管 理 の 違 い と 土 壌 動 物 ・微 生物 およ び土 壌中 無 機 態 窒 素 濃 度 の 関 連

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  道東の草地型酪農地域において、放牧利用酪農家延べ12戸を対象とした調査を行った。

窒素施肥量が60kgN/ha/yr以上の農家では50kgN/ha/yr以下の農家と比較して、牧草枯死物 量が増加する傾向を示し(Pく0.1)、土壌動物数は減少(Pく0.05)することが明らかとなった。

一方、窒素施肥量が50kgN/ha/yr以下の農家では放牧強度が高いほど牧草枯死物量が減少す る傾向がみられた。放牧期間を通じての単位面積あたりの牧草窒素利用量は放牧強度の増加 に伴って増加する傾向を示した。それに対して、これらの放牧地へ化学肥料および家畜排泄 物として投入された窒素量に差がなかったことから、放牧強度が高い場合には投入窒素量に 対する牧草窒素利用量が増加することが示唆された。また、放牧強度が高い放牧地では土壌 動物数および土壌微生物数が多かったことから、放牧強度の増加により土壌動物およぴ微生 物による有機態窒素の無機化量は増加する可能性が示唆された。放牧強度の増加は分解速度 の遅い牧草枯死物量を減少させ、同時に分解速度の速い糞としての投入量を増加させるため と考えられた。

2.放牧管理の違いが土壌動物・微生物、投入有機態窒素の動態および牧草生産に及ぼす影響   1日あたり の放牧強 度を10、20、30、40および50cowーhr/haとした15日間隔の輪換放牧 区を設定し供試した。放牧強度の増加により放牧地に投入される有機態窒素の総量は同程度 であった が、枯死 物割合は98.2から86.0%ヘ減少した。一方、各処理における牧草窒素利 用量は40cow‑hr/haまでは放牧強度が高いほど多かったが、50cow−hr/haでは減少に転じた。

50 cow−hr/haの放牧地では他の処理と比較して土壌動物数、土壌中アンモニア態窒素およぴ 硝酸態窒素濃度が低い傾向にあったことから(Pく0.1)、40cow‑hr/haまでの放牧強度の増加 は放牧地における単位面積あたりの牧草生産量および牧草窒素利用量を増加させるが、より 放牧強度を高めた場合には土壌動物が減少し、有機態窒素の無機化量が減少することにより 単位面積 あたりの 牧草生産 量および 窒素利用量 が減少に 転じることが明らかとなった。

  放牧強度を30cow‑hr/ha/dayとした定置放牧区と輪換放牧区を供試し、比較検討した結果、

糞窒素投入量は両区同程度であったが、牧草枯死物窒素投入量は定置放牧区で多く、投入有 機態窒素量合計は定置放牧区で多くなった。それに対し、牧草窒素利用量は輪換放牧区で多 かった。定置放牧区では牧草枯死物の増加に伴い土壌動物、特にダニ類が増加した(Pく0.05) が、牧草枯死物は分解速度が遅いため、定置放牧区では投入有機態窒素全体に対する無機化 量 は 低 下 し 、 牧 草 窒 素 吸 収 量 お よ び 牧 草 窒 素 利 用 量 は 低 下 し た と 考 え ら れ た 。   これらのことから、放牧期間中の牧草枯死物量を低減させるような放牧管理および草地管 理を行うことにより、土壌動物および微生物による投入有機態窒素の無機化量を増加させう ると考えられた。

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  以上のように本研究は、従来から提唱されている温帯地域における単位面積あたりの乳生 産を高めるための放牧管理を土壌動物・微生物および投入有機態窒素の動態という観点から 裏 付 け る も の で あ り 、 学 術 面 お よ び 実 用 面 に お い て 高 く 評 価 さ れ る 。   よって審査員一同は、高橋誠が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するも のと認めた。

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参照

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