博士(農学)奥田 学位論文題名
低温ストレスに対する高等植物の情報発現 学位論文内容の要旨
徹
本 論文 は和 文64頁 ,図26,表2,引 用文 献124,10章 から な り, 他に 参 考論 文6編 が添 え られ て いる。
低 温度 は種 々 の生 物に 代 謝上での影響を与 える。北方圏に生 育している高等植物 は低温環境下 で も 生存 する こ とが でき る が,このようなス トレス条件下にお ける植物の生存のメ カニズムはま だ 明 ら か に さ れ て お ら ず , こ の 問 題 を 解 決 す る た め に い く っ か の 研 究 が 為 さ れ て き た 。 冬 期間 に過 酸 化物 除去 系 に関与する一連の 酵素活性の増加す ることがいくっかの 植物において 知 ら れて いる 。 これ らの 報 告は冬期または低 温処理により植物 細胞内で過酸化物の 濃度が増加す る ことを示唆している 。
本 論文 では 低 温処 理と 活 性酸素種の生成と の関連を明らかに し,低温環境下での 活性酸素種の 役 割にっいて論じた。
第1章 で は現 時点 ま での 関連 研 究の 歴史 と 本研 究の 目 的に っい て 記し ,第2章か ら 第5章 まで は 研 究 内 容 と 意 義 に っ い て , ま た 第 6及 び7章 で は 総 合 的 な 考 察 を 行 っ て い る 。 第2章 で は秋 播小 麦 の葉 にお い て低 温及 び 人工 的な過酸化処 理を与えた場合の酵 素活性及び基 質濃度の変化にっいて論じている。人工的な過酸化処理は,ク口口プラスト内で作用するパラコニ一一 ト ま たは 細胞 質 で作 用す る と考えられるアミ ノトリアゾール処 理により行い,各処 理に対する酵 素 活 性や 基質 濃 度の 変化 か らそれぞれの特徴 と共通点を示して いる。低温処理を含 めて全ての処 理 に おい てグ ル コー ス6燐 酸脱 水 素酵 素の 活 性と 糖燐酸エステ ルの濃度の増加が認 められた。こ れ に 対し てア ス コル ビン 酸 とグルタチオンの 濃度は処理によっ て異なる挙動を示し た。そしてこ れ ら の結 果か ら 過酸 化物 に 対する応答が細胞 質,ミトコンドリ ア及びク口口プラス トでは異なる こ とを示唆している。
第3章 で は秋 播小 麦 の葉 を低 温 処理 した 場 合, 過酸化水素が 生成することにっい て報告してい る 。 過 酸 化 水 素 の 濃 度 は 低 温 処 理 に よ り 数 分 以内 に コン ト口 ー ルの3倍(1.5彫mol/gfresh weight)に 増加 し,15〜 20分 後 には もと の レベ ルに戻った。 この結果は低温処理 によって過酸
化物が生じ,細胞内が一時的に酸化的状態になることを直接的に示している。また光照射下の小 麦の葉組織を暗所に移すことによって,処理後1分間程度の間に過酸化水素の濃度が照射してい た場合の4分の1程度に低下することも明らかにしている。このことは光合成をする際に過酸化 水素が生成していることを示している。さらにキュウりの子葉にっいても同様な低温処理によっ て過酸化水素が生じることを示し,この現象が特別な植物において起こる現象ではなく,一般的 に起こる可能性を示唆している。
第4章では非光合成組織である秋播小麦の茎組織を用いて,同様に低温処理により過酸化水素 濃度が一時的にコントロールの5倍に高まり,その後オシレーション形式で過酸化水素の濃度が 変化すること,同時期にアスコルビン酸と還元型グルタチオンの濃度が減少し,デヒド口アスコ ルビン酸の濃度が増加することを示している。暗所での低温処理により過酸化水素が生成するこ と独,積雪下のような光合成を行っていない状態でも細胞の酸化が起こることを意味し,アスコ ルビン酸とグルタチオン の濃度変化はこのことを直 接的に裏付けいる。さらにKCNやNaNヨ による処理でミトコンドリアの電子伝達系を阻害した場合には,低温処理と同様に過酸化水素が 生成し,続いてオシレーション現象が見られること,また酸化的燐酸化の脱共役剤で処理した場 合は,さらに低温処理を行っても過酸化水素の生成が見られなくなることを明らかにしている。
この結果から,低温処理による過酸化水素の生成は,低温度によって急激にミトコンドルアの電 子伝達が阻害され,リ―クした電子が細胞中の酸素分子と結合することによりsu peroxideを生 じ,superoxideの不均化反応及びアスコルビン酸等による還元反応により過酸化水素が生じる ことを示している。
第5章では低温処理により細胞内でヒド口キシルラジカルが生じることを示している。ヒド口 キシルラジカルは,遺伝子や細胞膜等にダメージを与える非常に反応性の高いラジカルとして知 られており,細胞内では過酸化水素から生成する。小麦の茎組織を暗所で低温処理した場合,−
5℃処理からヒド口キシルラジカルの生成が認められ,処理温度の低下にともなって生成量が増 加し ,―20℃ 処 理では 処理後数分以内に著量(0.3〃m017gfresh weight以上) のヒド口キ シルラジカルが生成することを明らかにしている。このことは低温処理による細胞のダメージが ヒドロキシルラジカルにより生じている可能性を強く示唆する結果である。ヒド口キシルラジカ ルの捕捉剤であるdimethyl sulfoxide(DMSO)が,細 胞の凍結傷害の保護剤として有効であ ることが古くから知られ ており,ここで得られた結果はDMSOの役割を直接的に示したもので あり,細胞の低温による傷害の原因を明らかにする上で非常に重要な知見になると考えられる。
第6章及び第7章では,それぞれ低温処理の際の細胞内での活性酸素種の生成と消去にっいて,
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実験結 果に基 づい て総合 的ナょ 考察を行い,低温ストレスに対し細胞がどのような機構で活性酸素 種 を 生 成 , ま た は 消 去 し , こ の 反 応 の 生 理 的 意 味 に っ い て 幅 広 く 論 じ て い る 。
学位論文審査の要旨
本 論 文 は 和文64頁 , 図26, 表2, 引 用 文 献124,10章か らなり ,他に 参考論 文6編が添 えられ ている 。
冬期間 に過 酸化物 除去系 に関与 する 一連の 酵素の 活性の 増加す るこ とがい くっかの植物におい て知ら れてい る。 これら の報告 は冬期 または 低温 処理に より植 物細胞 内で 過酸化物の濃度が増加 するこ とを示 唆し ている 。
本論文 では 低温処 理と活 性酸素 種の 生成と の関連 を明ら かにし ,低 温環境 下での活性酸素種の 役割に っいて 論じ た。
第1章 で は 現 時 点 ま で の 関 連 研 究 の 歴 史 と 本 研 究 の 目 的 に っ い て 記 し て い る 。 第2章では 秋播小 麦の 葉にお いて低 温及び 人工的 な過 酸化処 理を与 えた場 合の 酵素活 性及び 基 質濃度 の変化 にっ いて論 じてい る。人工的な過酸化処理は,ク口口プラスト内で作用するパラコー トまた は細胞 質で 作用す るアミ ノトリ アゾー ル処 理によ り行い ,各処 理に 対する酵素活性や基質 濃度 の 変化か らそれ ぞれ の特徴 と共通 点を示 して いる。 全ての 処理に おいて グル コース6燐 酸脱 水素酵 素の活 性と 糖燐酸 工ステ ルの濃 度の増 加が 認めら れた。 これに 対し てアスコルビン酸とグ ルタチ オンの 濃度 は処理 によっ て異な る挙動 を示 した。 これら の結果 から 過酸化物に対する応答 が 細 胞 質 , ミ 卜 コ ン ド リ ア お よ び ク 口 口 プ ラ ス ト で は 異 な る こ と を 示 唆 し て い る 。 第3章では 秋播小 麦の 葉を低 温処理 した場 合,過 酸化 水素が 生成す ること にっ いて報 告して い る 。 過 酸 化 水 素 の 濃 度 は 低 温 処 理 に よ り 数 分 以 内 に コ ン ト 口 一ル の3倍(1.5肛mol/gfresh weight)に 増 加 し ,15〜20分 後 に は も と のレ ベ ル に戻 った。 また光 照射下 の小 麦の葉 組織を 暗 所に 移 す こ と に よっ て , 処理 後1分間程 度の 短期間 に過酸 化水素 の濃 度が照 射して いた場 合の4 分の1程度 に低下 するこ とも明 らか にして いる。 このこ とは 光合成 をする 際に過 酸化水 素が 生成
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授 授
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していることを示している。さらにキュウりの子葉にっいても同様に低温処理によって過酸化水 素が生じることを示し,この現象が特別な植物において起こる現象ではなく,一般的に起こる可 能性を示唆している。
第4章では非光合成組織である秋播小麦の茎組織を用いて,同様に低温処理により過酸化水素 濃度が一時的にコントロールの5倍に高まり,その後オシレーション形式で過酸化水素の濃度が 変化すること,同時期にアスコルビン酸と還元型グルタチオンの濃度が減少し,デヒドロアスコ ルビン酸の濃度が増加することを示している。暗所での低温処理により過酸化水素が生成するこ とは,積雪下のような光合成を行っていない状態でも細胞の酸化が起こることを意味し,アスコ ルビ ン酸とグルタチオンの濃度変化はこのことを直接的に裏付けている。さらにKCNやNaNヨ による処理でミトコンドリアの電子伝達系を阻害した場合には,低温処理と同様に過酸化水素が 生成し,続いてオシレーション現象が見られること,また酸化的燐酸化の脱共役剤で処理した場 合は,さらに低温処理を行っても過酸化水素の生成が見られなくなることを明らかにしている。
この結果は,低温処理による過酸化水素の生成は,低温度によって急激にミトコンドリアの電子 伝達が阻害され,リークした電子が細胞中の酸素分子と結合することによりsu peroxideを生じ,
superoxideの不均化反応及びァスコルビン酸等による還元反応により過酸化水素が生じること を示唆している。
第5章では低温処理により細胞内でヒド口キシルラジカルが生じることを示している。ヒド口 キシルラジカルは,非常に反応性の高いラジカルとして知られており,細胞内では過酸化水素か ら生成する。小麦の茎組織を暗所で低温処理した場合,―5℃処理からヒドロキシルラジカルの 生成が認められ,処理温度の低下にともなって生成量が増加し,‑20℃処理では処理後数分以内 に著 量(0.3〃mol/g fresh weight以上)のヒド口キシルラジ カルが生成することを明らか にしている。この結果は,低温処理による細胞のダメージがヒド口キシルラジカルにより生じて いる可能性を強く示唆する結果である。またヒド口キシルラジカルの捕捉剤であるdimethyl‑
sulfoxide (DMSO)が,細胞の凍結傷害の保護剤として有効であることが知られており,ここ で得 られた結果はDMSOの役割を直接的に示しており,細胞の低温による傷害の原因を明らか にする上で非常に重要な知見になると考えられる。
第6章および第7章では,それぞれ低温処理の際の細胞内での活性酸素種の生成と消去にっい て,実験結果に基づぃて総合的な考察を行い,低温ストレスに対し細胞がどのような機構で活性 酸 素 種 を 生 成 , ま た は 消 去 し , こ の 反 応 の 意 味 に っ い て 幅 広 く 論 じ て い る 。 以上の研究報告は,高等植物の低温傷害と低温耐性にっいて重要な知見を与える報告であり,
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よって審査員一同は,最終試験の結果と合わせて,本論文の提出者奥田徹は博士(農学)の学位 を受けるのに十分な資格があるものと認定した。