博士(農学)西田 学位論文題名
ヒドロキシカルコン類の抗酸化活性に関する研究 学位論文内容の要旨
純
本研究はより効果の高い天然 由来抗酸化活性物質の探索およぴ応用研究を目指したもの であり、内容は大きく三部から なる。まず第一に、新しいりード化合物となりうる活性物 質を見出す目的で、酸化ストレ ス条件化で生育している海浜植物に着目し、ハマハタザオ 根 か ら
DPPH
ラ ジ カ ル 消 去活 性物 質を 探索 し、bavachalcone (1)
を 単離 、同 定し た。第二に、ヒドロキシカルコン
(1)
がラジカル消去活性物質として単離されたことから、6 種のヒドロキシおよびメトキシカルコン(2‑7)を合成し、アセトンおよびメタノール中における
DPPH
ラジ カル消去活性の 構造活性相関および反応機構 の 解明 を 行っ た。第三 に 、ヒドロキシカルコン類はチ ロシナーゼ阻害活性を有 す るこ と がすでに知られていることか ら、2‑7に加えて新たにH
9
種 のヒ ドロ キシ カル コン(8‑16)
を 合 成し、ヒドロキシカルコ ン 類の 構 造とチロシナーゼ阻害活性の 関係について検討を加えた 。以 下 にそ の結 果を 要約 する 。 bavachalcone (1)
H
(1)ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン 類 の ラ ジ カ ル 消 去 反 応
6種 の ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン (2 ‑7)を 対 応 す る ア セ ト フ ェ ノ ン と ベ ン ズ ア ル デ ヒ ド を ア ル カ リ 条 件 化 で 縮 合 さ せ る こ と に よ っ て 合 成 し 、 ア セ ト ン お よ び メ タ ノ ー ル 中 に お け るDPPH ラ ジ カ ル 消 去 反 応 機 構 の 解 明 を 行 っ た 。 化 合 物2は2′ . ヒ ド ロ キ シ‑,6′ . ジ メ ト キ シ 化 さ れ た A環 と3,4. ジ ヒ ド ロ キ シ 化 さ れ たB環 か ら な り 、3は2の2′ ,4′ ,6′ ‐ ト リ ヒ ド ロ キ シ 体 、4,5 は そ れ ぞ れ2,3に 対 応 す る2,3. ジ ヒ ド ロ キ シ 体 、6,7は そ れ ぞ れ3,4,5. ト リ ヒ ド ロ キ シ 体 に 相 当 す る 。DPPHラ ジ カ ル 消 去 当 量 ( ア セ ト ン 中 、 メ タ ノ ー ル 中 ) は 、2(2.1、5.8)、3(3.8、 4.0)、4(1.8、4.8)、5(3.0、3.9)、6(4.4、5.6)、7(4.6、5.1)で あ っ た 。 興 味 深い こ と に 、4′ ,6′ . ジ メ ト キ シ 体2,4は そ れ ぞ れ 対 応 す る ヒ ド ロ キ シ 体 で あ る3,5と 比 較 し て ア セ ト ン 中 で の 活 性 は 低 か っ た が 、 メ タ ノ ー ル 中 で は 逆 に 高 く な る と い う 逆 転 現 象 が 起 こ っ た 。 一 方 で 、B 環 に ピ ロ ガ ロ ー ル 型 構 造 を 持 っ た6,7の 活 性 の 差 は 小 さ く 、 両 溶 媒 と も 同 程 度 の 活 性 を 示 し た 。 DPPHラ ジ カ ル と の 反 応 を 経 時 的 に1HNMRを 用 い て 分 析 し た 結 果 、 ア セ ト ン 中 で は2は キ ノ ン 体 を 生 成 し 、 徐 々 に 分 子 内 閉 環 に よ っ て オ ー ロ ン ヘ と 変 化 す る の に 対 し 、3は キ ノ ン 体 か ら 急 速 に 閉 環 し て オ ー ロ ン お よ び フ ラ バ ノ ン を 生 成 す る こ と が わ か っ た 。 こ の −1374―
反 応 性 の 差 は2で は 分 子 内 水 素 結 合 の 切 断 に よ る コ ン ホ メ ー シ ョ ン の 変 化 が 閉 環 反 応 に は 必 要 で あ る た め と 示 唆 さ れ た 。 メ タ ノ ー ル 中 で は2,3と も に 多 数 の 解 析 不 能 な シ グ ナ ル パ タ ー ン と な り 、 複 雑 な 反 応 が 進 行 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 こ の こ と よ り 、2の メ タ ノ ー ル 中 の ラ ジ カ ル 消 去 当 量 が 飛 躍 的 に 増 大 す る の は 溶 媒 和 に よ っ て 分 子 内 水 素 結 合 が 弱 ま っ て い る た め と 説 明 で き た 。 化 合 物4,5の 活 性 が 対 応 す る2,3よ り も 低 い の は キ ノ ン ヘ の 酸 化 速 度 が 遅 い た め で あ る こ と 、6,7は 没 食 子 酸 な ど 他 の ピ ロ ガ ロ ー ル 類 と 同 様 複 雑 な 酸 化 物 へ 変 化 し て い る こ と も 明 ら か と な っ た 。
(2)ヒド ロキシカルコン類 のチロシナーゼ阻 害活性
ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン の 構 造 と チ ロ シ ナ ー ゼ 阻 害 活 性 に つ い て は す で に い く っ か の 報 告 が あ り 、B環 ヒ ド ロ キ シ 基 の 置 換 位 置 の 重 要 性 が 示 さ れ て い る 。 本 研 究 で はA環 に つ い て 着 目 し 、2‑7に 加 え て 各 種 ヒ ド ロ キ シ あ る い は メ ト キ シ 体(8‑16)を 調 製 し て 活 性 を 比 較 し た 結 果 、8 (IC50 120 yM)が 活 性 を 示 し た の に 対 し9お よ び10が 活 性 を 示 さ な か っ た こ と か ら 阻害活性には2′,4′,6′‐トリヒドロキ シ構造が重要であることがわかった。化合物3は2′,4′,6′.
ト リ ヒ ド ロ キ シ 構 造 を も ち な が ら 阻 害 活 性 を 示 さ な か っ た が 、 こ れ は3がB環 に3,4‑ジ ヒ ド ロ キ シ 構 造 を も ち 、 基 質 類 似 構 造 を と っ て い る た め 、 チ ロ シ ナ ー ゼ の 基 質 と し て 機 能 し た た め と 考 え ら れ た 。 化 合 物15 (ICso 5pLM)は こ れ ま で に 報 告 さ れ て い る カ ル コ ン 類 の 中 で 最 も 活 性 の 高 い も の で あ る が 、15に さ ら に2´ ,4′ ,6′ . ト リ ヒ ド ロ キ シA環 構 造を あ わせ も た せ た14(2,2′ ,414′ ,6′‑pentahydroxychalcone,ICso 1LLM)は15よ りも さら に5倍 活 性が 上 昇 し た 。 ま た 、14の6′ 位 を メ ト キ シ に 変 換 し た16 (IC50 3.1 pM)も14よ り は や や 低 い も のの15よりも高 い活性を示した。
供 試 ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン の 中 で 最 も 強 い 阻 害 活 性 を 示 し た14に つ い てL. チ ロ シ ン を 基 質 と し た チ ロ シ ナ ー ゼ 阻 害 活 性 の 阻 害 様 式 を 求 め た 。Lineweaver‑Burkプ ロ ッ ト よ り 、14の 阻害様式は拮抗 阻害、阻害定数(脚 は3.1 yMであった 。
R4
O H O R 2 R4 R3
2: R2, Rs = H, R3, R4 = OH, R4, R6 = Me 3: R2, R4, Rs, R6 = H, R3, R4 = OH 4: R4, Rs = H, R2, R3 = OH, R4, R6 = Me 5: R4, R4, Rs, R6 = H, R2, R3 = OH 6: R2 = H, R3, R4, Rs = OH, R4, R6 = Me 7: R2, R4, R6 = H, R3, R4, Rs = OH
R4 R3
R4 R3
8: R2, R3, R3, R4,‑R5 = H, R2, R4, R6 = OH 9: R2, R3, R3, R4, Rs, R6 = H, R2, R4 = OH 10: R2, R3, R3, R4, R4, Rs = H, R2, R6 = OH 11: R2, R2, Rs, R6 = H, R3, R3, R4, R4 = OH 12: R2, R3, R4, Rs, R6 = H, R2, R3, R4 = OH 13: R2, R3, Rs = H, R2, R4, R6 = OH, R3, R4 = OMe 14: R3, R3, Rs = H, R2, R2, R4, R4, R6 = OH 15: R3, R3, Rs, R6 = H, R2, R2, R4, R4 = OH 16: R3, R3, Rs = H, R2, R2, R4, R4 = OH, R6 = OMe
‑ 1375 ‑
学位論文審査の要旨 主 査 教授 川端 潤 副 査 教授 鍋田憲 助 副 査 教 授 原 博 副査 助教授 橋床泰之
学 位 論 文 題 名
ヒドロキシカルコン類の抗酸化活性に関する研究
本 研 究 は よ り 効 果 の 高 い 天 然 由 来 抗 酸 化 活 性 物 質 の 探 索 お よ び 応 用 研 究 を 目 指 し ヒ ドロキシカルコン類の抗酸化活性について検討を加えたものである。
酸 化 ス ト レ ス 条 件 化 で 生 育 し て い る 海 浜 植 物 ハ マ ハ タ ザ オ 根 か ら
DPPH
ラ ジ カ ル 消 去 活 性 物 質 と し て 、bavachalcone (1)
を 単 離 、同 定 し た 。ヒ ド ロ キ シカ ル コ ン(1)
が ラ ジ カ ル 消 去 活 性 物 質 と し て 単 離 さ れ た こ と か ら 、6
種 の ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン(2‑7)
を 対 応 す る ア セ ト フ ェ ノ ン と ベ ン ズ ア ル デ ヒ ド を ア ル カ リ 条 件 化 で 縮 合 さ せ る こ と に よ っ て 合 成 し 、 ア セ ト ン お よ び メ タ ノ ー ル 中 に お け るDPPH
ラ ジ カ ル 消 去 反 応 機 構 の 解 明 を 行 った。化合物2は2′−ヒドロキシ‐4′,6′_ジメトキシ化されたA環と3,4‐ジヒドロキシ化さ れたB環 からな り、3は2
の2′,4
′,6′ −トリ ヒドロ キシ体 、4,5は それぞれ2,3に対応する2
,3
‐ジ ヒドロ キシ体 、6,7は それぞ れ3,4,5
‐トリ ヒドロ キシ体に 相当す る。DPPHラジカ ル消去当量(アセトン中、メタノール中)は、2 (2.1、5.8)、3(3.8、4.0)、4(1.8、4.8)、5(3.0、3.9)
、6(4.4、5.6)、7(4.6、5.1)であった。興味深いことに、4′,6′―ジメトキシ体2,4はそ れ ぞ れ 対 応 す る ヒ ド ロ キ シ 体 で あ る3
,5
と 比 較し て ア セ トン 中 で の 活性 は 低 か った が 、 メ タ ノ ー ル 中 で は 逆 に 高 く な る と い う 逆 転 現 象 が 起 こ っ た 。 一 方 で 、B
環 に ピ ロ ガロ ー ル 型 構 造 を 持 っ た6
.7
の 活 性 の 差 は 小 さ く 、 両 溶 媒 と も 同 程 度 の 活 性 を 示 し た 。DPPH
ラ ジ カ ル と の 反 応 を 経 時 的 に1H NMR
を 用 い て 分 析 し た 結 果 、 ア セ ト ン 中 で は2
は キ ノ ン 体 を 生 成 し 、 徐 々 に 分 子 内 閉 環 に よ っ て オ ー ロ ン ヘ と 変 化 す る の に 対 し 、3は キノ ン 体か ら 急 速 に閉 環 し て オー ロ ン お よび フ ラ バ ノン を 生 成 する こ と が わ、 か っ た。こ の反応 性 の 差 は2
で は 分 子 内 水 素 結 合 の 切 断 に よ る コ ン ホ メ ー シ ョ ン の 変 化 が 閉 環 反 応 に は 必 要 で あ る た め と 示 唆 さ れ た 。 メ タ ノ ー ル 中 で は2,3と もに 多 数 の 解析 不 能 な シグ ナ ル パ タ ー ン と な り 、 複 雑 な 反 応 が 進 行 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 こ の こ と より 、2
の メ タ ノ ー ル 中 の ラ ジ カ ル 消 去 当 量 が 飛 躍 的 に 増 大 す る の は 溶 媒 和 に よ っ て 分 子 内 水 素 結 合 が 弱 ま っ て い る た め と 説 明 で き た 。 化 合 物4
,5
の 活 性 が対 応 す る2
、3
よ りも 低 い の は キ ノ ン ヘ の 酸 化 速 度 が 遅 い た め で あ る こ と 、6
,7
は 没 食 子酸 な ど 他 のピ ロ ガ ロ ール 類 と 同様複雑な酸化物へ変化していることも明らかとなった。―1376―
次 に 、 ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン 類 が チ ロ シ ナ ー ゼ 阻 害 活 性 を 有 す る こ と が す で に 知 ら れ て い る こ と か ら 、
2‑7
に 加 え て 新 た に9
種 の ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン(8‑16)
を 合 成 し 、 ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン 類 の 構 造 と チ ロ シ ナ ー ゼ 阻 害 活 性 の 関 係に つ いて 検討 を加 えた 。 その 結果 、2
′,4´,6 . トリヒドロキシ体8 (ICso 120 yM)が活性を示したのに 対しジヒドロキシ体9お よび10
が活 性を 示さ な かったことから阻害活性には2
′,4′,6′‐トリヒドロ キシ構造が重要 であ る こと がわ かっ た 。化 合物3
は2
′,4
′ ,6′ .トリヒドロキシ構造をもち ながら阻害活性 を 示 さ な か っ た が 、 こ れ は3
がB
環 に3
,4
_ ジ ヒ ド ロ キ シ 構 造 を も ち 、 基 質 類 似 構 造 を と っ て い る た め 、 チ ロ シ ナ ー ゼ の 基 質 と し て 機 能 し た た め と 考 え ら れ た 。 化 合 物15
(2,2′,4,4′
‑tetrahydroxychalcone
,IC50 ̄5yM)はこれまでに報告されているカルコン類の中 で最 も 活性 の高 いも の であ るが 、15にさ ら に2′,4
′,6′‐トリヒドロキシA
環構造をあわせ もたせた14(2,2
′,4,4′,6′‑pentahydroxychalcone,IC50 1yM)は15よりもさらに5倍活性が 上 昇 し た 。 ま た 、14
の6
′ 位 を メ ト キ シ に 変 換 し た16 (ICso
―3.1 yM)
も14
よ り は や や 低 い も の の15
よ り も 高 い 活 性 を 示 し た 。 供 試 ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン の 中 で 最 も 強 い 阻 害 活 性 を 示 し た14
に つ い てL
. チ ロ シ ン を 基 質 と し た チ ロ シ ナ ー ゼ 阻 害 活 性 の 阻 害 様 式 を 求 め た 。Lineweaver‑Burk
プ ロ ッ ト よ り 、14
の 阻 害 様 式 は 拮 抗 阻 害 、 阻 害 定 数(Ki)
は3.1 UM
であった。以 上 の よ う に 、 本 研 究 は ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン 類 縁 体 の ラ ジ カ ル 消 去 反 応 機 構 解 明 と チ ロ シ ナ ー ゼ 阻 害 反 応 の 構 造 活 性 相 関 研 究 に よ っ て 、 植 物 フ ラ ボ ノ イ ド 類 の 中 で は 研 究 の 進 ん で い な い 天 然 カ ル コ ン の 抗 酸 化 反 応 メ カ ニ ズ ム に 新 た な 光 を あ て る も の で あ り 、 今 後 の 機 能 性 食 品 、 美 白 化 粧 品 デ ザ イ ン の 科 学 的 根 拠 を な す 重 要 な も の で あ る と 認 め ら れ た。
よ っ て 審 査 員 一 同 は 、 西 田 純 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。
―1377ー