博士(医学)小林秀一 学位論文題名
Dyspnea sensation and chemlcal control of breathing in adult twins
(成人双生児における呼吸困難感と化学的呼吸調節)
学位論文内容の要旨
研 究目 的
低 酸 素 及 び 高 炭 酸 ガ ス 換 気 応 答 に 反 映 さ れ る呼 吸 調 節 系 の 化 学 感 受 性 は 個 体 差 が 非 常 に 大 き い が 、 少 な く と もそ の 一 部 は 遺 伝 的 に 決 定 さ れ る 。 そ の 影 響 は 特 に 低 酸 素 換 気 応 答に 強 い と さ れ て い る が 、 高 炭 酸 ガ ス 換 気 応 答 に つ い て は こ れ ま で一 定 の 見 解 は 得 ら れ て い な ぃ 。 さ ら に 低 酸 素 及 び 高 炭 酸 ガ ス 化 学感 受 性 の 相 互 作 用 お よ び 吸 気 粘 性 抵 抗 を 加 え た 際 の 呼 吸 の 代 償 反応 に 対 す る 遺 伝 の 影 響 に つ い て は こ れ ま で よ く 知 ら れ て い な い 。一 方 い わ ゆ る 呼 吸 困 難 の 感 じ 方 も 個 体 差 が 非 常 に 大 き い が 、 そ のば ら っ き は 個 人 の 心 肺 予 備 能 の 差 だ け で は 説 明 さ れ ず 、 一 部 は 遺伝 的 に 決 定 さ れ て い る か も 知 れ な い 。 今 回 著 者 ら は 双 生 児 法 を 用い て 、 高 炭 酸 ガ ス 負 荷 中 の 呼 吸 困 難 感 、 低 酸 素 及 び 高 炭 酸 ガ ス 換気 応 答 の 相 互 作 用
. お ょ び 吸気 粘 性 抵 抗 代償 反応 に対す る遺 伝の 影響 につい て検 討し た 。
対 象 と 方 法
健 常 成 人 双 生 児19組 、 一 卵 性 ( 以 下MZ)10組 ( 平 均 年 令 47 才 ) 、二 卵 性 ( 以 下DZ)9組(42才 )を 用いた 。被 験者 には仰 臥位 で マ ウ スピ ー ス を 介 して自 発呼 吸さ せた 。分時 換気 量、 一回換 気量 、 呼吸数、呼気終末02、C○2分圧(以下PETく冫2,PETC○2)をモニター
し ながら(1)高酸素 下(PET○2150Torr以上)、 (2)中 等度低酸素 下 (PET○250‑55 Torr)、(3)高 酸 素下 で 吸気 粘 性抵 抗 (17crTiH20/U sec)を 併 用 、 の3条 件 で 高 炭 酸 ガ ス 換 気 応 答 を 行 な っ た 。 最 初 に 3% C02を 吸 入 さ せ 、 そ の 後 吸 入 気 高 炭 酸 ガ ス 濃 度 を 漸 増 し た (PETC02 60 Torrま で )。 こ の際 同 時にVisual Analog Scale(以下 VAS)に よ り 呼 吸 困 難 感 を 定 量 化 さ せ た 。PETC02増 加 に 伴 う 分 時 換 気 量 の 増 大 を 直 線 回 帰 し そ の 傾 き を 換 気 応 答 値 と し 、 さ らに 体 表 面 積 に よ り 体 格 補 正 し た 。 呼 吸 困 難 感 は 分 時 換 気 量 お よ び PETC02に 対 し 直 線 回 帰 し 、 前 者 は そ の 傾 き お よ び 予 測 最 大 換 気 量 の 40% に お け るVAS値 、 後 者 は そ の 傾 き お よ び PETC02 55 Torrで のVAS値 で 比 較 し た 。 呼 吸 パ タ ー ン は3%C○2吸 入 時 な ら び にPErC02 55 Torr前 後 に て 一 回 換 気 量 、 呼 吸 数 を 比 較 し た 。遺 伝 の 影 響 に つ い て の 検 討 は 分 散 分 析 法 を 用 い 、MZ及 びDZの 組 内 分 散 の 比(VDz〜 胞 ) を 求 め 、 危 険 率5% で こ の 比 が1よ り 有 意 に 大 である場合 に遺伝の影 響があると 判定した。
結 果
高 酸 素 下 で は 吸 気 粘 性 抵 抗 の 有 無 に か か わ ら ず 、 一 卵 性 と 二卵 性 群 間 で 高 炭 酸 ガ ス 換 気 応 答 値 の 組 内 分 散 の 有 意 差 を 認め ず 、遺 伝 の 影 響 は 明 ら か で は な か っ た 。 一 方 中 等 度 低 酸 素 下 で は VDz〜 胞が 有 意に1より 大 きく 遺 伝の 影 響が 示 され た (pく0.05)。
抵 抗 負 荷 前 後 で の 換 気 応 答 値 の 変 化 率 で 評 価 し た 吸 気 粘性 抵 抗代 償 反 応 に つ い て 組 内 分 散 の 有 意 差 は な く 、 遺 伝 の 影 響 は明 ら かで は な か っ た 。 呼 吸 ノ く タ ー ン は 、3%C02吸 入 時 に は 一 回 換 気 量 は吸気粘性 抵抗併用時 のみ(pく0.01)、呼吸数 は低酸素下 のみ組内 分散 の 有意 差 を認 め た(pくO.05) 。PETC0255Torrで は 一回換 気量 に つ い て は す べ て の 条 件 下 で 組 内 分 散 の 有 意 差 を 認 め たが ( いず れもpく0.05)、呼吸数は低酸素下でのみ有意差を認めた(pく0.05)。
一 方 高 炭 酸 ガ ス 負 荷 中 の 呼 吸 困 難 感 に つ い て は3条 件 下 で い ず れ の 指 標 を 用 い て も 組 内 分 散 の 有 意 差 は な く 、 遺 伝 の 影 響は 示 され なかった。
考案
低酸 素及び高炭酸 ガス換気応答に 反映される呼 吸調節系の化学 感受 性の個体差は 非常に大きぃ が、少なくと もその一部は遺伝的 に決 定すると考え られている。 その応答値は 比較的個有のもので あり 、その大小が 慢性閉塞性肺 疾患、睡眠時 無呼吸症候群などの 一部 の呼吸器疾患 の病像、予後 などを修飾す る可能性が指摘され てい る。この遺伝 の影響は特に 末梢化学受容 体の感受性を反映す る低 酸素換気応答 に強く、その ばらっきは出 生後も年余にわたり 維持 されることが 知られている 。一方高炭酸 ガス換気応答につい ては これまで一定 の見解は得ら れていない。 今回著者らは高炭酸 ガ ス 換気 応 答を2つ の吸 入 酸素 濃度で比較し 、さらに呼吸 パター ンに 注目すること により、高炭 酸ガス吸入に 対する一回換気量の 応答 に遺伝の影響 が認めちれる こと、呼吸数 の応答に対してはそ の影 響は明らかで はないが、低 酸素を加える ことにより認められ るよ うになること を示した。以 上の結果は低 酸素ばかりでなく高 炭酸 ガス換気応答 もまたその一 部が遺伝的に 決定されることを示 すと ともに、化学 感受性に対す る遺伝の影響 が低酸素に対してよ り強 い可能性を裏 付ける。一方 吸気粘性抵抗 に対する呼吸代償反 応に おける遺伝の 影響を検討し た報告はこれ まで皆無で、今回初 めてその反応を決定するのは後天的要因が大きぃことが示された。
一方 呼吸困難感に ついてはいずれ の条件下でも 遺伝の影響は示 されなかった。呼吸困難の感じ方もまた個体差カ浄F常に大きぃが、
同程 度の呼吸機能 障害でもその 訴え方が様々 であるように、その ばら っきは個人の 心肺予備能の 差だけでは説 明されない。今回著 者ら は健常人を用 いて、高炭酸 ガス負荷中の 呼吸困難感の個体間 のば らっきを決定 するのは後天 的要因が大き いことを客観的に示 した 。この感覚は あくまで主観 的なもので、 その感じ方は出生後 の体 験や本人の性 格、あるいは 家族や環境の 影響などの社会的な 要 因 を 通 じ て 形 成 さ れ る も の な の か も 知 れ な い 。 これ まで低酸素及 び高炭酸ガス換 気応答値は呼 吸調節系の化学 感受 性を比較的純 粋に反映する と考えられて きた。しかし実際に はこ の応答が大脳 皮質活動によ る修飾をうけ ている可能性が最近 指摘されている。呼吸の最適化理論によ れば、安静時あるいは負 荷時 の換気量特に 呼吸数はその 呼吸活動に伴 う呼吸困難感を最小
にするように調節されているとぃう仮説がある。従って今回いず れの条件下でも呼吸困難感に遺伝の影響が認められなかった結果 を踏まえると、換気応答値のばらっきの少なくとも一部は呼吸困 難による行動性調節のばらっきを反映している可能性がある。高 酸素下で高炭酸ガスに対する呼吸数応答に遺伝の影響が示されず、
低酸素を加えると明らかとなった事実は、呼吸困難感による行動 性調節に対し低酸素の併用により化学的調節系の関与が相対的に 優位となったためとの解釈することもできる。
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成人双生児を用いた検討により、高炭酸ガス換気応答におぃて
一回換気量の応答に遺伝の影響が示された。吸気粘性抵抗に対す
る呼吸代償反応及び呼吸困難感にはその影響は認められなかった。
学位論文審査の要旨 主 査 教授 川 上義和 副 査 教授 小 山富康 副 査 教授 寺 沢浩一
学 位 論 文 題 名
Dyspnea sensation and chemlcal control of breathing in adult twins
(成人双生児における呼吸困難感と化学的呼吸調節)
目 的 : 低 酸 素 及 び 高 炭 酸 ガ ス 換 気 応 答 に 代 表 さ れ る 呼 吸 調 節 系 の 化 学 感 受 性 は 個 体 差 が 非 常 に 大 き ぃ が 、 少 な く と も そ の 一 部 は 遺 伝 的 に 決 ま る と 考 え ら れ て い る 。 こ の 遺 伝 の 影 響 は 特 に 末 梢 化 学 受 容 体 の 感 受 性 を 反 映 す る 低 酸 素 換 気 応 答 に 強 い と さ れ て い る が 、 高 炭 酸 ガ ス 換 気 応 答 に つ い て は こ れ ま で 一 定 の 見 解 は 得 ら れ て い な い 。 一 方 呼 吸 の 行 動 性 調 節 の 関 与 が 大 き ぃ と 考 え ら れ る 吸 気 粘 性 抵 抗 代 償 反 応 及 び 呼 吸 困 難 感 に 対 す る 遺 伝 の 影 響 は こ れ ま で 報 告 さ れ て い な ぃ 。
本 論 文 は 双 生 児 法 を 用 い、 低 酸 素及 び 高炭 酸 ガス 換 気応 答 の相 互 作用 、 高 炭 酸 ガ ス 負 荷 中 の 吸 気 粘 性 抵 抗 代 償 反 応 及 び 呼 吸 困 難 感 に 対 す る 遺 伝 の 影 響 に つ い て 検 討 し た も の で あ る 。 対 象 は 健 常 成 人 一 卵 性 双 生 児10 組 ( 平 均 年 齢 47才 ) 、 二 卵 性 9組 ( 同42才 ) で 、 高 炭 酸 ガ ス 換 気 応 答 検 査 を1) 高 酸 素 下 、2) 中 等 度 低 酸 素 下 、3) 高 酸 素下 で 吸気 粘 性抵 抗 を 併 用 、 の3条 件 で 行 な ぃ 、 同 時 に 呼 吸 困 難 感 を 定 量 化 さ せ た 。 換 気 応 答 値 はPETC02‑分 時 換 気 量 回 帰 直 線 の 傾 き に よ り 求 め 、 吸 気 粘 性 抵 抗 代 償 反 応 は 抵 抗 負 荷 前 後 で の 換 気 応 答 値 の 比 で 評 価 し た 。 呼 吸 困 難 感 は 分 時 換 気 量 及 びPETC○2を 基 準 と し て 評 価 し た 。 呼 吸 パ タ ー ン はPeTC02 55 Torrで 比 較 し た 。 一 卵 性 及 び 二 卵 性 兄 弟 間 の 組 内 分 散 の 比 が1よ り 有 意 に 大 で あ る 場 合 に 遺 伝 の 影 響 が あ る と 判 定 し た 。
結果:高炭酸ガス換気応答値に対する遺伝の影響は高酸素下では吸気 粘性抵抗の有無にかかわらず明らかではなく、低酸素の条件下でのみ認 めた(p く0.05) 。吸気粘性抵抗代償反応には遺伝の影響は認められなかっ た。呼吸パターンについて、一回換気量はすべての条件下で、呼吸数は 低酸素下でのみ遺伝の影響を認めた(p くO .05) 。呼吸困難感にはいずれの 条件でも遺伝の影響は明らかではなかった。
結語:健常成人において、高炭酸ガス換気応答値に対する遺伝の影響 は低酸素下でのみ認められた。吸気粘性抵抗代償反応及び呼吸困難感に はその影響は明らかではなかった。
口頭発表にあたり、小山(富)教授より後天性要因の兄弟間ばらっき の影響、加令の影響や低酸素感受性の遺伝の機序について、寺沢教授よ り呼吸困難感を決める後天性要因の具体例について、藤本教授より双生 児の卵性診断、性差、性周期の影響について、斉藤(和)教授より性別 の内訳についてそれぞれ質問があった。申請者は概ね妥当に答えたと思 う。
また、小山(富)教授、寺沢教授より個別に審査を受け、合格との御 返事をいただぃている。