博士(医学)赤石康弘 学位論文題名
心筋 ムス カリン受容体刺激非依存性の抑制性 GTP 結合 蛋 白 質 Gi の 基 礎 活 性 に 関 す る 研 究
一ふ 筋にお ける〃 受容 体機構 に対するGi基礎活性による抑制性調節発現の機序およびその生理的意義一
学位論文内容の要旨
pアドレ ナリン受 容体(p AR)機 構は、生体 内で心筋 収縮カを増強させる主要な情報伝達 系であ るが、こ の系で中 心的役割を 担うァデ ニル酸シ クラーゼ(AC)活性は刺 激性GTP結合 蛋白質(Gs)活性によ り促進さ れる一方,ムスカリン(M)受容体刺激により亢進する抑制性 GIP結合蛋 白質(Gi)活性 により抑 制されると ぃう二重 制御を受 けている 。GiによるAC活性 抑制系 について は、M受容 体に対する アゴニス ト刺激が ない場合 にもGiがそ の基礎活 性に より, 緊張性にAC活性に抑 制性のシグ ナルを発 している ことが従来より試験管内の培養心 筋細胞 を用いた 実験系で 示唆されて いる。し かしなが ら、生体位心臓においてもGiが受容 体 刺激 が 存在 し な くて も 緊張性 にAC活性を抑 制してい るかどう かは明ら かにされ ていな い。ま た、この 緊張性抑 制の原因と なるGiの基 礎活性が 生じる機序については十分には解 明され ていない 。試験管 内での実験 でGiのaサブ ユニット(Gi。)をADPリ ボシル化 するこ とによ りGiと受容 体とを脱 共役状態に するPTXがGiに よる緊張 性抑制を 消失させ ることか ら、ア ゴニスト が結合し ていないGi共役型受容体(いわゆるempty receptor)によるGiの活 性化が、Giの基礎活性の本態である可能性が提唱されている。
そこで 本研究で はこのGiに よる緊張性 抑制につ いて以下のような詳細な検討を加えてみ た。PTXの 静注とぃ うin situのPTX処置 を施したウ サギより 得た心室 筋膜蛋白 標品を用い て 、1)種 々 の刺 激 下 での 心筋AC活 性が増大し ているか どうか、 また心筋pAR機能に変 化 が 生じ て いる か ど うか に つ いて 評 価し 、Gi基 礎 活性 が 心筋AC活 性さらに は心筋pAR機 能 に及ぼ す影響の 検討、2) ウサギ心室 筋膜蛋白 標品にお ける種々 の刺激下 でのAC活性 に及 ぼ すM受容 体 拮抗 薬 単 独添 加の影 響を血v的で 評価し、empりなM受容 体によるGi活性化を 介したAC活性抑制 現象の有 無の検討、3)最近p2ARがGs以外にP1X感受性G蛋白質(Gi/Go) と も共 役 して い る こと を 示唆す る報告もあ るので、AC活性に与 えるp2AR拮抗 薬の影響 に ついて も2)と同 様の手法 で評価し、p2ARによるGi活 性化を介 したAC活性 抑制現象 の有無 の検討をおこなった。
すなわち、ウサギにP1X10戸g瓜g(PTX群)、あるいは生理的食塩水(対照群)を静注し、40 時間後に心室筋の膜蛋白標品を作製し、[1251]iodocyanopindol01([1251]ICYP)およぴ Isopr0他r閲01(ISo)を用い た受容体結合実験によりp受容体機能を、Smomonの方法により AC活 性 を 測定 し て両 群 間 で比 較 検討 し た 。対 照 群の 膜 標 品を 用 ん ゝて1メMのatropine
(AT: 非 選択 的M受 容体 拮 抗 薬) 、1ルMのAF‐DX114(AF:M2選択的M受容体拮 抗薬)あ る いは10nMのIC1118,551(ICI:p2AR選択的 拮抗薬) 存在下でAC活 性を測定 して、各 受 容 体ア ゴ ニス ト 非 存在 下 での各 薬剤のAC活性 に与える 直接作用 を評価し た。10メg瓜gの PTX静注 で 生体 位 ウ サギ 心 筋Gi。 の十 分 なADPリ ボ シル 化が 生じるこ とは、PTX群 の心室 筋 粗膜 蛋 白標 品 に おけ る 加W的で のGi。 のADPリボ シ ル化 反応(外 来的に添 加したPTX触
媒下での、Gi。への[32P]N ADからの[32P]ADP‑riboseの取り込み反応)の程度が対照群の膜 標 品 の そ れ と 比 較 し て 著 明 に 低 下 し て い る こ と に よ り 、 あ ら か じ め 確 認 し た 。 得 ら れた 結果 は次 のと おり であ る。AC活 性基 礎値 は対照 群とPTX群と で差 がな かった が、GTP類似体である5.‑guanylyl imidodiphosphate(GppNHp:10‑6‑‑10‑3M)によるGs刺激 下 、 お よ びIS0(10‑9〜10‑4M)によ るpAR刺 激下 でのAC活性 上昇 反応 がPTX群 では 対照群 と 比較し て有意に増強していた。すなわち、in situのPTX処置によっても、Gsあるいはロ AR刺激下 でのAC活 性に 対し て、Giが その 基礎 活性 によ る緊 張性の 抑制的情報伝達信号を 発していることが確認された。また、[125 I]ICYPの結合飽和曲線のScatchard解析により求 め たp AR密 度 に つ い て は 、 有 意 な 増 減 は 認 め ら れ な か っ た が 、PTX処 置 に よ りpARの ISOに対 する 高親 和性 結合 部位 の有意 な増 加が 認め られ た。pARの アゴニストに対する高 親 和性結 合部 位はGsと 機能 的共 役状 態に ある 分画 とさ れて いるの で、この受容体結合実 験 の 結 果はGiが その 基礎 活性 によ りpARとGsとの 機能 的共 役状 態に 抑制 的影 響を 及ぽし て いるこ とを 示唆 して いる 。一 方、M受容 体拮 抗薬 の血vitroの処 置ではAT、AFのいずれ に ついて も、AC活 性基 礎値 には 影響 せず 、GppNHp (10‑4〜10‑3M)によるGs刺激下および ISO (10‑8〜10‑4M)によるpAR刺激下でのAC活性上昇反応を増大させ、PTXのin situ処置の 場 合と類 似の 結果 を示 した 。し たが って 、リ ガン ドが 結合 してい ないemptyなM受容体に もGi活性 化能 があ り、 この 機序 によ ってAC活 性に 抑制 性の 調節を 与えていることが示唆 さ れ る 。 さ ら に 、PTX群 の 膜 蛋 白 標 品 につ いて も、100メMのGTP刺 激下 でのAC活 性に与 え る1〃MのATの 影 響 を 評 価 し たと こ ろ 、PTX処 置 で 増 大 し たAC活 性 は 反応 液中 へのAT 添 加によ って も何 ら影 響を 受け なか った 。こ のよ うにPTXお よびM受容体拮抗薬によるAC 活 性増大 効果 に相 加性 は認 めら れず 、PTXとM受容 体拮 抗薬 によるAC活性増大効果はぃず れ も、empぢ なM受 容体 によ るGi活性 化を 阻害 する こと によ りACを 抑制性の調節から解放 するという共通の機序を介していると考えられる。またp 2AR拮抗薬ICIの伽vitroの添加に つ い て はPTX処 置 に よ るAC活 性 増 強 効 果、 お よ び100〃MのGTP、100ルMのGppNHp、10
〃MのISOによ るAC活性 上昇 反応 のい ずれ に対 する 影響 も認 められ なかった。ウサギ心室 筋 におい てはp 2ARとGiと の共 役の有 無は不明であるが、少なくともGiの基礎活性発現へ のp 2ARの関与はないものと結論される。
従来受 容体拮抗薬は受容体へのアゴニストの結合を単に競合的に阻害するのみで、受容 体 とG蛋 白質 との 相互 作用 には 影響せ ず中立的であるとされてきたが、本研究で認められ たM受容 体拮 抗薬 の作 用か ら示 唆され るように、ある種の受容体拮抗薬の受容体への結合 は 受容体 ―G蛋白 質問 の相 互作 用に対 して中立的ではなく、これを阻害し抑制的に作用す る と 考 えら れる 。こ のよ うなM受容 体拮 抗薬 の作 用はM受容 体へ の結 合を 介し てM受容体 の コンフ ォメーションの変化を惹起することにより発現すると考えられ、結果的にGi。の ADPリボ シル 化に より その コン フォメ ーシ ョン の変 化を 介し てM受 容体ーGi間の共役を阻 害 す る と さ れ る PTXと 類 似 の 効 果 が 認 め ら れ た も の と 推 論 さ れ る 。 以上よ り、ウサギ心室筋においてはGi共役型受容体に対するアゴニストによる刺激がな く て も 、GiはACおよ ぴpAR−Gs間の 機能 的共 役状 態に 対し て緊 張性 の抑 制性 シグ ナルを 発 してい るこ と、 このGiの 基礎 活性 発現には主としてりガンドと結合していないemptyな M受 容体 によ るGiの活 性化 が寄 与して いる こと 、が 示唆 され た。 不全心ではM受容体密度 お よ びGiの 蛋白 量が 増加 して いる とさ れて いる こと を考慮 すれ ば、 不全 心に おけ るpAR 反 応の脱 感作 現象 に、 このemptyなM受容 体に より 惹起 され る抑制 性のGiの基礎活性が寄 与している可能性がある。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
心 筋ムスカ リン受容 体刺激非 依存性の抑制性 GTP 結合 蛋 白 質 Gi の 基 礎 活 性 に 関 す る 研 究
― 心筋に おける 声受容 体機 構に対 するGi基礎活性による抑制性調節発現の機序およびその生理的意義―
本 研究で は、従来より培養心筋細胞を用いた実験系で示唆されているように、生体位心 臓に おいて も抑制性GTP結合蛋白質(Gi)がその基礎活性によルムスカリン(M)受容体刺激に 依 存せ ず に 、pア ドレ ナリン 受容 体(pAR)機構 を緊 張性 に抑 制し てい るか どう かを確 認 し 、 こ の 緊 張 性 抑 制 の 原 因 と な るGiの 基 礎 活 性 発 現 の 機 序 に つ い て 検 討 し た 。 方 法とし ては、ウサギにGi機能を阻害する百日咳毒素(PTX)10pg/kg(PTX群)、あるいは 生理 的食塩 水(対照群)を静注し、40時間後に心室筋の膜蛋白標品を作製して、【1251】 iodocyanopin dolol([125IlICYP)およぴisopro terenol (ISO)を用いた受容体結合実験によりp受 容体 機能を 、Salomonの 方法 によ ルアデ ニレートサイクレース(AC)活性を測定して両群間 で 比較 検 討 し た。 また 、両 群の 膜標 品のAC活 性に ついて 、M受容 体ア ゴニ スト 非存在 下 で 、1メMのatropine(AT:非 選 択的M受 容 体 拮 抗 薬 ) お よ び1メMのAF‑DX 114 (AF: M2 選択的M受容体拮抗薬)のassay mediumへの添加の影響を評価した。
GTP類似体である5 ‑guanylyl imidodiphosphate (GppNHp)によるGs刺激下、およびISOに よ るp AR刺 激 下 で のAC活 性 上 昇 反 応 がPTX静 注群 およびM受 容体 拮抗 薬添 加群 では対 照 群と 比較し て有 意に 増強 して いた 。ア ゴニストが結合していないem ptyなM受容体にもGi 活 性化 能 が あ り、M受 容体拮 抗薬 のemptyなM受 容体 への 結合 はこ のGi活性 化を 阻害す る とさ れてい るの で、 ウサ ギ心 室筋 にお いて もemptyなM受 容体 がGiの 活性化を介してAC活 性 を緊 張 性 に 抑 制 し て い る と 考 え ら れ る 。さ らに このAC活 性に 対す るPTXおよ びM受 容 体 拮抗 薬 に よ る増 大効 果に 相加 性iま 認め られ ず、 両者 のAC活性 増大 効果 はい ずれも 、 em ptyなM受 容体 によ るGi活 性化 を阻 害す ると ぃう 共通 の機 序を 介し てい ると 考えら れ た 。p AR機 能 に つ い て は 、PTX処置 に よ りpARのISOに 対 す る 高 親 和 性 結 合部 位の有 意 な増 加が認 めら れた 。p ARの アゴ ニス トに 対す る高 親和 性結 合部位 はGsと機能的共役状 態 にあ る 分 画 とさ れて いる ので 、Giはそ の基 礎活 性によ りpARとGsと の機 能的 共役状 態 にも 抑制的 影響を及ぼしていると考えられた。このように本研究により、ウサギの生体位 心 室筋 に お い ても 、GiはM受 容体 に対 する アゴ ニス ト刺 激に 依存 する こと なく 、ACお よ びp ARーGs間の 機能 的共 役状 態に 対し て緊 張性 の抑 制性 シグ ナルを 発しており、このGi