奈良教育大学学術リポジトリNEAR
わが国における教職員を育てる人事考課と指導力不 足教員に対する支援策
著者 八尾坂 修
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 37
ページ 19‑29
発行年 2001‑03
その他のタイトル Teacher Evaluation and Support Policy for Incompetent Teachers
URL http://hdl.handle.net/10105/7115
わが国における教職員を育てる人事考課と 指導力不足教員に対する支援策‡
八尾坂I修
(教育経営学教室)
要旨:わが国では教職員の資質向上策として今日、人事管理の在り方に関 する研究が全国的に求められている状況にある。そこで本稿では、まず本 来教師に求められる姿はどのようなものかにっいて探るとともに、現行の 勤務評定システムの問題点を検討しれ次に、東京都が2000年4月から実 施している教員の人事考課制度についてその特質と課題について分析した。
さらに、特に改善策として注目されている 指導力不足教員 をめぐる現 況と今後の支援の対応策について先行事例(大阪府)をもとに具体的に考 察している。
キーワード:人事考課、指導力不足教員、勤務評定
1.今日求められる教師の姿は何か
教育改革国民会議(首相の私的語悶機関)の最終報告(平成12年12月)においては、優秀な教 員に報いるため、手当、人事、表彰などで処遇するとともに、改善されない問題教員については、
学校内での役割変更、転職、免職などの処遇をとることを提言している。〕状況にある。
この点、指導力不足数貫への対応を考える前提としてまず、今日教師に期待される姿は何であ るかを考えることにしたい。教養審答申(第1次〜第3次、平成9年〜11年)によると、今後求 められる資質・能力として、①「地域的視野に立って行動するための資質能力」(地球、国家、
人間等に関する適切な理解、豊かな人間性、国際社会で必要とされる基本的資質・能力)、②
「変化の時代を生きる社会人に求められる資質・能力」(課題解決能力、人間関係にかかわるもの、
社会の変化に適応するための知識・技能)を取り上げている。
また、いつの時代にも求められる不易の資質・能力として、③「教員の職務から必然的に求め られる資質・能力」(幼児・児童・生徒や教育の在り方に関する適切な理解、教職に対する愛着、
誇り、一体感、教科指導、生徒指導等のための知識、技能、及び態度)をとらえる。
この点、③についてはこれまで臨教審答申(昭和59年〜62年)、教養審答申(昭和62年)で取 り上げられていた資質・能力とほぼ同じ内容である。つまり、教育者としての使命感、人間の成 長・発達について深い理解、幼児・児童・生徒に対する教育的愛情、教科等に関する専門的知識、
そしてこれらを基盤とした実戦的指導力といった内容が求められていた。今回の答申では、①や
②といった新しい内容とともに、期待される資質・能力について詳しく例示されているのが特徴
.Teacher Eva1uation and Support Po1icy for Incompetent Teachers
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である。
この点、いつの時代にも教師に期待される資質・能力で第一義的なものは、「教育的愛情に基 づき、子どもを思いやり感情移入できる姿」であろう。つまり、個々の教師が子どもの心を理解
し、その悩みを受け止めようとする態度を身につける重要性が求められる。その教師像を学校・
学級という場に求めれば受容的風土をつくれる教師である。クラス集団において子どもたちが存 在感を実感し、しかも情緒的に安定した生活を過ごせるような学級の雰囲気づくりに優れた教師 である。このような教師は子どもの生き抜く力の要因である知力面とともに徳力面、体力面、気 力面を高める資質・能力を有している。
教師と子どもの人間関係として、「さわやかな言葉づかい」「ユーモアのあるセンス」「受容的 態度」などが不可欠となる。学級内において児童・生徒の発言・発表をよく受け入れようとする 教師側の態度によって教師に対する親しみや信頼感を増幅すると考えられる。学校で生起してい
るいじめ、不登校、学級崩壊などの問題のなかで望まれる豊かな人間性の側面といえよう。
上記で示したように、教師には多様な資質・能力が求められているが、不可欠なのはミニマム エッセンシャルズであり、すべての教師が一律に、しかも高度に身につけることを期待されるわ けではない。むしろ学校という組織全体において、多様な資質・能力を持っ教師集団が連携・協 働し、しかも充実した教育活動を展開できる学校風土を築くことが求められる。このことは教師 一人ひとりに対して、「生涯にわたる職能成長過程において学び抜く教師」が期待される。各人 の職能、専門分野、能力・適性、興味・関心等に応じ継続的に向上を図ろうとする姿が見いださ れることによって得意分野を持っ個性豊かな人材も出現してこよう。
さらに、今日における教師の年齢構成をみると一般教員のなかで20代教師の減少が目立ってい る。特に25歳未満の教師は小学校117%、中学校2.5%、高校1.8%に過ぎない。平均年齢は高年齢 化にある。逆に管理職では全体的に若年傾向がみられ、教頭の場合、40歳以上45歳未満で9.4%、
半数近くが50歳未満である。また女子教員の比率も毎年高まり、99年度において小学校62.3%、
中学校40.6%、高校25.2%に及ぶ状況である。
このような教師をめぐる状況のなかで、子どもを把握する感性、共感的に子どもを受容し、子 どもに対して心を開く姿勢をみがく点からも・「暦年齢にかかわらずっねに前向きのスピリット を持った教師」が今後ますます求められる。アクティブに自己改革・向上していく態度それ自体 が児童・生徒に対する教育的励ましとなるのであ孔
2.現行動務評定の側面
勤務評定の本来の意図は、人事管理の適正を図るため職員の勤務実績、能力、性格、適性を公 平に評価し記録することにある。勤務評定は特に昭和30年代初頭から全国的に普及しているが、
現行規定は地方公務員法第40条第1項に依拠する。すなわち「任命権者は、職員の執務について、
定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない」のであ る。ここで任命権者とは、都道府県立学校職員、県費負担教職員いずれの場合も各都道府県の教 育委員会である。ただ県費負担教職員については、地方教育行政法第46条で特例があり、「県費 負担教職員の勤務成績の評定は、地方公務員法第40条第1項の規定にかかわらず、都道府県教育 委員会の計画の下に、市町村教育委員会が行うものとする」とされている。このことは、県費負 担教職員の服務監督権が市町村教育委員会にある(地方教育行政法第43条第1項)ことに帰結す
る。
勤務評定実施に関して各教育委員会規則は「勤務成績の評定と規則」等の名称で細則的事項を 定めているが、勤務成績の評定者と調整者の間は以下のとおりである。
都道府県立(市長村立)学校教職員
被 評 定 者 評 定 者 調整者(評定の調整を行う者)
校 長 都道府県(市町村)
ウ育委員会教育長 な し 校長以外の教職員
m教諭、養護教諭、助教諭、
{護助教諭、講師、事務職員]
所属学校長 都道府県(市町村)
ウ育委員会教育長
また勤務評定の種類についてみると、通例①定期評定(条件付採用期間中の職員を除くその他 の職員について毎年1回以上定期に実施。東京都の場合、毎年9月1日に実施し、評定に当たっ て考慮する期間は前年度の9月1日から当該年度の8月31日まで)、②条件評定(条件付採用期 間中の職員について一定の期日に実施。例えば、条件付採用期間開始後5か月を経過した日に実 施)、③臨時評定(実施権者が特に必要と認めた職員について臨時に実施。例えば転任、復職、
昇任等被評定者に関わる事由により定期評定または条件評定の実施日に公平な評定を行うことが 困難な場合)の3つに区分される。
それでは実際の勤務評定の項目はいかなるものか。全国版モデルとされた都道府県教育長協議 会案(1957年12月20日)をもとに、教諭・助教諭・講師の「勤務評定書」を例にとり、説明しよ
う。o〕勤務評定書は、A勤務成績、B適性・性格、C特記事項、D総評、に区分されている。
Aの勤務成績は、さらに以下の3つの項目に区分される。①職務の状況(評定要素 イ学級経営、
口学習指導、ハ生活指導、二評価、ホ研究修養、へ校務の処理〔5段階評定〕)。②特性・能力
(評定要素 イ教育愛、口指導力、ハ誠実、二責任感、ホ公正、へ寛容・協力、ト品位〔5段階 評定〕)。③勤務状況(評定要素 イ時間を守ったか、〔3段階評定〕、日勤務態度はどうであった か〔3段階評定、事例含む〕、ハ平素の教育者としての態度・素行はどうであったか〔5段階評 定、事例含む〕、二病気休暇〔〕日、ホ欠勤〔〕日、へ遅刻〔〕回、ト早退〔〕回)。
Bの適性・性格は①適性と②性格に区分され、性格は記述式である。また、Cの特記事項も記 述式であり、Dの総評はA〜Cを総合的に判断して評定している。この点、勤務評定書自体は、
評定項目において多岐に及び、職務の広範さを示すとともに、職務や特性・能力における評定要 素は今日においても教師に期待される資質・能力の主たる観点であることは確かである。勤務評 定はこれまで職員団体の反対を受けながらも今日、制度的には定着している。しかし、後述する 東京都の教員人事考課制度の導入の背景にみるように、以下に示す「勤務評定の形骸化」(3〕等が 指摘されているのである。
第1に、校長の観察内容によって評定する方法がとられており、それを補うものとしての自己 申告や自己評価の制度がないこと。また教頭等を評定補助者としてその参考意見を聞く制度になっ ていないことのため、評定の客観性や評定精度に疑問がある点である。
第2に、評定結果が教員本人に告知される制度になっていないことから、校長が個々め教員の 育成課題を把握しても、本人に対する指導育成、モラールの向上等に十分活用しきれていない点
である。
第3に、評定が絶対評価(3段階)で行われ、相対評価が義務づけられていないこともあり、
人事給与面への反映が行い難い形式になっている点である。
第4に、評定期間が9月から翌年の8月までであり、年度単位の実績としての評定ができない こと、また評定の各項目の内容についても、昭和34年の改正以来変更がなく、見直すべき時期に きていることが制度上の課題として挙げられる点である。
第5に、評定者の訓練も十分とは言えず、評定能力の一層の向上が求められる点である。
このように勤務評定はそれ自体内在する問題点が顕在しているが、評定結果に応じた適切な職 能開発、措置をいかに構築するかを看過し得ない。また評定の客観的裏付けをきたすためにも、
評定者は他者の参考意見、公正な判断資料に依拠した360度評価を行う必要がある。このことは、
これまで判例で論争の対象になっていたが、被評定者が職員団体の構成者であること、職員団体 を結成しようとしたこと、もしくはこれに加入しようとしたこと、または職員団体のために正当 な行為をしたことの故をもって不利益な差別的評定を下すことを禁ずるところでもある(憲法第 14条、地方公務員法第56条)。
3.期待される能力開発型人真考課
(1)人裏考課導入の背景
東京都において教員人事考課制度が全国で初めて導入(平成12年4月)された。特徴は能力開 発型を目指した人事考課制度であり、自己申告制度と業績評価制度を柱としている。これらの結 果に基づき、校長・教頭が適切な指導助言を行い、しかも研修や自己啓発、適切な処遇等を行う ことを通じて、各職種の教育職員の資質能力やモラールの向上、適材適所の人事配置や学校組織 の活性化等を図ろうとしている。
この点、昭和30年代初頭より実施されていた勤務評定の形骸化がこの制度導入の背景にある。
また、昭和31年から35年にかけての全国的な勤評阻止闘争のもとで評定結果をこれまで人事異動、
処遇に反映させない取扱いとした運用上の問題もあった。それゆえ、画一的・年功序列的な人事 管理のもとで教職員の資質能力の向上は個々の自主性に委ねられていた。しかし今日直面する様々 な教育課題に対して、自主性に委ねるだけでは限界に達し、むしろ学校組織が一丸となって対処
していくためには、能力と業績に基づく新たな人事管理の確立が求められたのである。
(2)自己申告、業績評価の視点
人事考課の一つを構成する自己申告は、自ら目標設定することで、より主体的に職務に取り組 むとともに、自己評価を行い、自己の能力や改善すべき点等を把握することにより、職務遂行能 力の開発・向上を目指すことを目的としている。。公立小・中・高などの対象者の提出率が98,0
%の状況(平成12年7月末現在)にあり、理解が得られる方向にあるとみてよいだろうが、この 自己申告は双方向的な仕組みの中で行われるのが特徴である。校長・教員が教育職員一人ひとり との対話を通して、個々のよさを認め、生かし、励ますといった支援的コミュニケーションを取 り入れ、しかも親和的雰囲気を構築できるかどうかによって自己申告の機能も変容してこよう。
他方、業績評価は教育職員の職務遂行状況を的確に把握し、教育職員一人ひとりの資質能力向 上に向けた指導育成方策を見出すことを目的としている。この評価は、人事考課制度の重要な柱
といえようが、これまで業績評価にかかわって職員団体からたとえば次のような意見が出されて いたのも確かである。
○業績評価の導入は、教員一人ひとりを評価することにより、学校全体で連携し協力しあいな
がら教育活動を進めている教員間の信頼関係、管理職と教職員間の信頼関係を壊すことにな らないか。
○教科、職種の違いがあるにもかかわらず、多岐にわたる教員の活動を校長・教頭が評価する ことができるのか。
○評価結果を給与や人事などへ反映させることは労働意欲の減退につながるのではないか。ま たこの制度は、教員の人事管理だけを目的とするものではないか。
これに対し、東京都の人事考課制度導人に関する検討委員会の考え方に照らせば、業績評価は、
連携・協力の中で進められている教育活動において、一人ひとりの教育職員が担当の職務にどの ように取り組み、学校の課題解決に貢献したかを把握するものである。また、教員の教科の内容 自体を評価するものでぽなく、子ども一人ひとりの実態に合ったきめ細かい指導、児童・生徒の 反応を的確にとらえた指導を行っているかといった総合的な観点から学習・生活・進路指導、学 校運営、特別活動などの職務遂行状況を評価する性格となっている。校長の対応としては、加点 主義を基盤に置いた業績評価を通じて、むしろ教員一人ひとりの資質能力や適性、持ち味を把握
し、適材適所の校務分掌、異動希望、指導育成に生かすことが望まれる。
さらにこれまで教育評価において危慎されていた点として、公正で客観的評価が可能なのかと いうことが挙げられる。評価者が評価要素、着眼点、評価基準を理解し、評価能力を向上させ自 信をもって評価にあたることが前提であるが、少なくとも評定の際に陥りやすい以下のような誤 差を認識する必要があろう。ωまた評価結果について規則に従い本人開示をする場合を除き、
知り得た評価結果について秘密を保持することはもちろんであ孔
評価者の評価視点
①被評価者に対する偏見、先入観、個人的感情による好悪、同情等を除去して 評価にあたっているだろうか。
②具体的客観的事実、情報に基づいて評価を行っているだろうか。
③評価の手順として、一つの評価要素ごとにすべての被評価者を評価するどい う横断的評価を行っているだろうか。
④評価者が自分を中心に考え、被評価者を自分と対比して固定的評価をしてし まう傾向がないだろうか。
⑤評価者は、評価自体を他人事として安易な気持ちで評価をすることはないだ ろうか。
⑥自己の行うべき評価に対して、他者の補助を受けたり、他者に委ねたりする ことはないだろうか。
4 指導力不足教員をめぐる現状と支擾策
(1)文部科学省委蠣研究の視点
教師として適格性を欠く、子どもたちにとって有害な問題教員を教壇に立たせないようにする
法令上の制度を整備する方針が今日文部科学省によって検討されている。学校で「何か力もまと
もに授業をせず、延々と自分の趣味に関することを話しつづける」「何度注意しても、児童や生 徒にみだらな行動を繰り返す」「どの学校に赴任しても子どもを傷つける発言を繰り返し、不登 校の原因になっている」といった事例が指摘されている。
このような問題状況のなかで、平成12年5月、文部科学省は都道府県又は指定都市教育委員会 を対象に新しい教員の人事管理の在り方に関する実践的な調査研究を委嘱した。この趣旨は、活 力ある学校教育を実施するためには教師のメンタルヘルスを含めた中長期的な計画に基づく採用 管理・人事異動管理・昇進管理・退職管理等を通じて、教員の資質向上・適材適所の人材配置を 行うことにある。
また、中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」(平成10年9月)におい て、提言された適格性を欠く教師や精神上の疾患等により教壇に立つことがふさわしくない、い わゆる指導力不足教員への対応や・今後地方公務員法等の改正により、13年度から導入される新 しい再任用制度への対応といった、人事管理上の新たな課題に対しても総合的な施策を講じる必 要がある点からである。ちなみに調査研究内容は以下の点に大別されるが、特に注目されている のは指導力不足教員に関する調査研究である。
〔採用選考段階における調査研究〕
○教員の採用選考(選考の在り方、条件付き採用期間の在り方)に関する人事管理
〔採用後の段階における調査研究〕
○校種間交流、都道府県間交流に関する人事管理
○心の問題を抱える教員に関する人事管理
○指導力不足教員に関する人事管理
〔定年退職後再任用・高齢者雇用における調査研究〕
○新しい再任用制度に関する調査研究
〔その他〕
○学校以外の機関、施設及び事業体との期限付き人事交流など
指導力不足教員に関する人事管理の調査研究は、16府県(茨城、栃木、埼玉〔ヨ〕、千葉、神奈 川、京都、大阪、島根、広島、徳島、割11、高知、福岡、長崎の14府県、神戸、北九州の2政令 都市)によって行われている。
この点、東京都ではすでに平成9年4月に「指導力不足教員に関する要綱」をまとめ、指導力 不足教員をr東京都公立学校において、病気・障害等以外の理由で、指導力不足等により児童・
生徒を適切に指導できないため、特に人事上の措置を要すると決定された教員」と位置づけてい る。「指導力不足」の認定手続として区市町村立学校の場合、校長が各教育委員会を通じて、都 立学校の場合、直接都教育委員会人事部に申請することになっている。申請を受けた都教育委員 会は、年度末に人事部の判定会議(各課長で構成)を開催し、認定の有無を決定する。平成9年
4月に5人、10年4月に17人、11年4月に10人、12年4月に13人が指導力不足の認定を受けてい る(延べ人数、実数31人)が、校長からの申請は少ないとの指摘もある。
(2)指導力不足数iの類型と具体例
先述のように、他府県でも指導力不足教員の対応について研究開発が進められているところで
あるが、これまで指導力不足教員の概念については学校内外で明確にされてこなかったのではな
かろうか。指導力不足教員の範囲も比較的軽微で校内での観察・指導で可能な程度からもはや矯
正できないほどの適格性を欠き、分限処分として免職の対象になる程度まであり、幅が広い。一 般に指導力不足教員のパターンとして、以下が提示でき孔
ア 学力不足、指導技術面で拙く学習指導を円滑に行えない者
イ 生徒理解の力がなく、学級経営上、生徒指導上で指導力を発揮できない者
ウ 常識を欠いたり、他との信頼関係が持てなかったりして、生徒や保護者との適切な対応が できない者
工 独善的で他と協調せず、同僚とのトラブルが絶えず、生徒や保護者の信頼が得られず、指 導力を発揮できない者
オ 勤務、服務上や品行上に問題があり、生徒や保護者の信頼が得られず、指導力を発揮でき ない者
カ 疾病等で教員として指導力を発揮できない者
それでは次に、対象となる指導不足教員を以下の2つの側面に則して検討してみよう。
①分限免識処分の対象となる指導力不足故員とは
公務の能率の維持・向上のために教員がその職責を十分に果たせない事由があるとき、任命権 者によって本人の意思に反して一方的に免職、後任、休職、降給等の不利益を課せられることを 分限処分という(地公法第27・28条)。法令や職務上の義務に違反したり、全体の奉仕者たるに ふさわしくない非行のあった場合に受ける懲戒処分とは性格が異な孔
分限処分が行われる事由は法定されており、ア勤務実績がよくない場合、イ心身の故障のため、
職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合、ウその他その職に必要な適格性を欠く場合、
工職制もしくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合・を規定してい乱 特に、ウの「その職に必要な適格性を欠く場合」とはいかなる状況において該当するか、必ずし
も明確ではない。
これまでの判例で、例えば最高裁判決(長東小学校校長事件、昭和48年9月14日)は、「当該 職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質・能力、性格等に起因して職務の円滑 な遂行に支障があり、又は、支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合」を挙げていた。また 判例とともに・人事委員会の人事判定において適格性の欠如にあたるキーワードを摘録すると・
「指導放漫」「協調性欠如」「独善的」「偏向教育」「勤務実績不良」「暴言」「アルコール嗜癖」等 を列挙できる。
近年の分限免職判例として2件を以下に提示するが、いずれも軽微ではない、もはや矯正でき ないほどの不適格な諸要因を包含しているといえよう。また、平成10年度に免職、後任、起訴休 職の分限処分を受けた全国の状況は25件存在する。
(i)最高裁判決(東京都立豊島工業高校教諭分限免職処分取消請求事件、平成8年4月25日、
確定)
〔判決要旨=教科指導において板書のみの授業た終始し、実習指導においては実技を行わず、講
義形式の授業を多用したばかりでなく、安全指導を徹底せず、生徒指導の面でも注意を与えるな
どの適切な対応を怠った当該教諭の勤務状況は地方公務員法所定の勤務実績が良くない場合に該
当する。当該教諭は、教科指導等の能力が著しく劣っており、校長らの指示にも従わず、学級担
任を受け持つことを拒否するなど、教師としての職務に対する自覚と責任感に欠けるなどの傾向
も顕著であるところ、当該教諭のこのような態度は、職務遂行に著しい支障をきたすものである
ばかりか、一時的なものではなく、その資質、性格に由来するもので、容易に矯正することので
きない性質のものであり、地方公務員法所定の、その職に必要な適格性を欠く場合に該当する。〕
(ii)大阪地裁判決(大阪府守口市立中学校教諭分限免職処分事件、平成11年1月20日、請求棄 却、控訴、平成12年3月確定)
〔判決要旨=原告教諭は、平成8年度には所属中学校を無断で欠勤又は退勤することをくり返し、
平成9年度には所属中学校を同年5月6日以降すべて無断で欠勤したことが認められ、原告の勤 務態度は著しく不良であったと認められる。そうすると右と同旨のもとにした本件処分は適法で あって、裁量権の逸脱はないというべきである。〕
②専門性、社会性を欠く指導力不足教員の実例
分限処分の対象とはなっていなくても、指導力不足教員として校内で問題視される教員は、全 教員の4%ほど存在するのではないかとの指摘もある。
指導力不足教員は、浅いところから深いところまで幅が広い問題であるが、「子どもにとって どうか」の視点のもとでは、「学習指導、生徒指導、学級経営等において指導力を発揮できず、
子どもたちの教育への責任が果たせない者。保護者、地域、同僚との良好な関係が築けないこと などから、教育活動に支障をきたしている者を含む」と定義づけられよう。
そこで指導力不足教員として現実にどのようなケースが存在するか具体的に取り上げてみる。
子どもの問題行動と同様、自校に1教員でも問題のある教員が存在すること自体、児童・生徒に 対する影響のみならず、広く学校の活性化にとって支障をきたすこと重大である認識を一層深め
るためにも明らかにしておく意義は存在す孔
第1に、「教育の専門性欠如」という面からのケースであり、教科指導面と生徒指導面から存 在する。
ア 教科指導力に欠けるケース
a 教授力が著しく不足しているケース(教科の学識、専門分野の知識は非常に豊富であるが、
生徒の発達段階、学力、能力を無視した授業をし、生徒にとってみれば何を言っているのか まったく分からない。)
b 教科の学識、専門分野の知識がまったく不足しているケース(間違いばかり教え、生徒が騒 ぐとすぐに怒鳴る。そのため、生徒との信頼関係が崩れてしまう。教える内容が不足してい る先生は案外多く、その上に教授力不足となると、怒鳴る以上に体罰に発展する例)
C 時代や社会の変化に対応できないケース(教員の高年齢化とも関連する。最近の生徒は多様 な価値観、文化を持っており、生徒のなかに入っていけないケース。同じ内容の話しができ ず、ステレオタイプの授業で、生徒から剥離してしまっている例)
イ生徒指導上、問題となるケース
d 生徒が先生の話を聞かないから、力で抑えようとする共通のケース(教科指導力、生徒指導 カには専門性に裏打ちされた、知識、態度、技能が必要とされるが、教員の一方的な価値観 でしか生徒の話を聞かず、生徒の心を理解しようとせず、生徒が反発していき、体罰に連結 する例)
e 生徒との対話、コミュニケーションがとれないケース(対人関係不適応。一方的に話し、生 徒を無視し、コミュニケーション努力をしない、できない。)
f 管理が放任に偏るケース(ホームルーム経営がまったくできていない。教科指導、生徒指導
の場合とも、効果を考えずにやっているのに、すべて生徒のためにしていると反論する。生
徒懇談や保護者会を一度も開かない。)
第2に、「教員の社会性の欠如」という面からのケースである。教員の職務以前の問題である が、極端な部分は指導力の問題にもかかわる。社会人、組織人として生きていく上での問題を持っ ている。好ましい先生のイメージを壊してしまい、保護者から見れば何だこの先生はから、どう いう学校なのというところまで発展しそうである。
a 勤務・服務に問題があるケース(非常によく休む。お酒を飲んだ翌日は必ず休む。しかも無 断欠勤や遅刻もあり、学校へ連絡もしてこない。このため、授業に支障をきたす。出てきて も、自分の欠けた授業のことも気にしていない。)
b 協調性に欠けるケース(会議等で自分の主張以外は絶対に認めず、自分の意見以外には非常 に攻撃的に反対する。学校は、担任会や校務分掌会議、職員会議など合意を基に進められる が、他の先生はその教員の説得に疲れ、会議への出席や発言が消極的になり、校務に停滞を ぎだし、学校の活性化がなくなっている。)
c 責任感・使命感に欠けるケース(・生徒が3,4日休んでも生徒の家に連絡もせず、1週間 位後に生徒の家出が分かった。・通知票が終業式に間に合わず、休み期間中に郵送したり、
新学期に渡したりした。・通知票に他人の成績を記入し、保護者から指摘されると・目の前 で数字を横線で消し、書き直した。保護者が成績や通知票をどう考えているのかと非常に憤 慨した。)
d 態度、品位、品性に問題のあるケース(・夏は暑いから短パン、Tシャツで教壇に立ち、服 装で人を評価できないと言う。・職員室で生徒がいるのに、平気でギャンブルの話を延々と したり、セクハラまがいの発言がいつも出てくるケース㈹
第3に、メンタルヘルスの問題を抱えるケースを無視できない。実は東京都が平成9年にはじ めて指導力不足教員を認定した際、当時電話での回答で認定された教師のほとんどが、精神性疾 患と関連があることを述べていた。病気かどうか見極めがっかないケースもあり、学校として悩 ましい問題である。
この点、全国の病気休職者数4352人のうち、精神性疾患によるものが1707人(前年度比98人増)
で39.2%を占め、過去10年来最も高い数値にある。また、全国的にみると病気休職者のなかで精 神性疾患によるものの比率が半数を超えているのは・13県市(茨城県・東京都、新潟県、長野県、
岐阜県、京都府、大阪府、香川県、佐賀県、長崎県、札幌市、仙台市、福岡市)に及んでいる。
病気休職のなかで精神性疾患者の数自体は東京都(166人)・大阪府(140人)、埼玉県(92人)・
神奈川県(72人)、福岡県(67人)のように大都市部に多い。
さらに・ある県の事例では、精神性疾患による休職者は知事部局に比較し、公立学校教員(管 理職含む)の場合、8倍近くに及んでおり、しかも過去10年間において小学校教員のみが倍増し ている事実もみられ、小学校教員の増員の背景を探ることも課題である。
上記精神性疾患の教員がすべて該当するわけではないが、休職を何回か繰り返していくケース とともに病気であるが、本人が認めないケースもある。具体的事例として、体育の先生が毎時間、
運動場にスーツと革靴で出ていき、生徒に自由にさせ、先生は一時間中立っている。運動場には 出ていくが、出席簿はでたらめ、というケースが挙げられる。
(3)指導力不足教員への支援・対応策
これまで分析してきたように、指導力不足教員の範囲も軽微な教員から適格性を著しく欠く教 員まで及ぶ。前者については、成果が明確に表れていないが、その取り組みは実績として評価で
きる教員、あるいは環境の変化等による一時的な指導力不足とみられ、学校内の協力により回復
可能と考えられる教員も存在し、むしろ校内でのサポート策が重要となってくる。
この点、指導力不足教員の背景を特に教員の職務内容や職場環境に視点をあてて考えれば、次 の点も関連性を有する。ア生徒指導上の問題(問題行動等への対応に追われ、心身ともに疲労し た状態)、イ教科指導上の問題(技術革新や急速な情報化の進展、受験指導に対する保護者の期 待による高度な技量の要求に基づく指導力不足の悩み)、ウ学校教育への過度の期待(しっけな どの基本的生活習慣への期待、保護者や地域住民の学校や教員に対する強い批判、非協力的姿勢)、
工特定教員への過重な負担(不適切な校務分担)、オ同僚との人間関係。
肝心なことは、指導力不足の教師を排除することではなく、むしろ深刻な状況になる前に可能 な限り支援的リーダーシップを校長側が発揮することである。このことは、第一義的課題として、
「働きやすい職場環境づくり」について学校内部で共通認識を得ることも必要である。多様な資 質・能力を持っ教師集団が気軽に話し合い、協力、連携し、しかも革新性、自律性に富んだ教育 活動を展開できる学校文化に向けた指導性が求められる。
行政側からの指導力不足教員に対する支援・対応策を考えてみよう。表は大阪府教育委員会が 検討している教職経験の段階と指導力不足の状況に応じた対応策である。筆者も関連検討委員会
に参画しているが、指導力不足等教員への予防・対応方策として、採用時、初任者、現職各段階 への対応とともに、管理職の役割について、専門性、社会性、勤務態度、服務、疾病の観点から 今後各県・市で参考する際の重要な方向性となろう。(η
注
(1) 『教育改革国民会議最終報告一教育を変える17の提案』2000年12月22臥
(2)都道府県教育長協議会編『勤務評定問題の経緯』1959年、pp.114−116。
(3)東京都教育職員人事研究会編『東京都の教育職員人事考課制度」ぎょうせい、2000年、p p.10−11,189−190、教員め人事考課に関する研究会『これからの教員の人事考課と人材 育成について一能力開発型教員評価制度への転換一』(東京都教育委員会)1999年3月。
(4)東京都教育委員会『評価者訓練IIテキスト平成12年5月一6月』2000年3月、pp.4−5,
22−24を参考にしている。
(5)埼玉県でも2000年11月に入事管理の在り方について新たな論点を公表している。新しい人 事管理の在り方に関する懇話会『新しい教員の人事管理の在り方について(論点管理)」
埼玉県教育委員会2000年11月、総20頁。
(6)大阪府教育委員会の「教職員の資質向上に関する検討委員会」(第2回、2000年9月4日、
第3回2000年11月4日)で公表された指導力不足教員の例に基づいている。
(7)指導力不足教員に対する評価視点は、八尾坂修『現代の教育改革と学校の自己評価』ぎょ
うせい、2001年(第7章)を参照。
ト。
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表 教職経験の段階と指導力不足の状況に応じた対応策の検討(対応例)
専 門 性 社 会 性 動 務 態 度 ・ 服 務 疾 病(積神疾息等) 共 通 項 目
○生徒を前にした模擬授業 ○集団内での対応力を見る面接試験 ○講師経験者の勤務状況のチュッ ○精神・神経科医師による面接試験 ○非常勤、有期、社会人教員など雇用の
○指導主事を前にした模擬授業 ○集団活動を取り入れた面接試験
ク○適性検杳の実施 多様化
採 用 時 ○専門テストの比重を増やす ○学生時代の部活動・ボランティア活動
○面接官の技量ア・ソフ○インターン制度の導入
など集団活動歴をチエ・フクする
○インターンシップの経験の評価
○宿泊劃11棟の実施
○多面的な人物評価
○民間からの面接官の任用 ・面接専門官、模餐授業
○授業公開・研究授業等による指導 ○民間での社会体験研修 ○民間での社会体験研修 ○徹底的な導入教育
の撤底 ○集団活動を多く取り入れた研修 ○搬務についての研修の充実 ○課題解決能力の伸長
初 伍 者 ○f旨導教官のチーム化
(企業研修・宿泊研修)○初任期間中の評価の実施 ○元管理犠とのマンツーマン
○組線論についての研修 ○評価に基づき4〜6年で必ず異 ○条件付採用期間の評価制度
動
○しっかりした指導教官をっける
○専門知識を獲得する課題別研修 ○長期の社会体験研修 ○長期の社会体験研修 ○健康審杏会のあり方の検討 ○評価システムの導入と反映
○適性による離務分担 ○民間派遺研修の拡大ないし簑務づけ ○悉皆研修とその取り組みへの評 ○指定医を決めて受診させる ○単一の給科表の改善
○教員免許の更新制度 ○知事部局への派遣 価(不参加者の処分) ○休戦中の■」ハビリ出動を可能にす ○戦制・戦階の階層化
○悉皆研修(4年・lO年・15隼) ○悉皆研修(受講しない者や不十分な者 ○改善の戦務命令(改まらなけれ
る○教員免許の更新制度 経 壊 者 ○授業公開週間の年3回完全実施 は減給などの措置を行う)
ぱ処分)○病休の校長承認を厳しくする ○授業の公開
03年に2度の実践報告の義務づけ ○地域との交流事業の推進 ○学校評価(外部評価・第三者評価)
○專門能カを確認する機会を設ける ○甘えを許さない環境づくり
○府大学派遺研修・内地留学の連用
○長期自主研修の拡大
○研究授業を実施しやすい環境づく ○ワークショップ研修 ○菅理動による指導 ○スーパーパイザー・カウンセラー ○学校のサポート体制づくりと教略員間
り
○スーパーバイザー・カウンセラーの配 の配置 の共通認識
支授を裏 ○指導教官をっける
置状1する伽
○管理戦・養議教諭等によるバ・}ク○自信を失いっつある教員への研修
○教科・学年などのバックア・,プ体制の アツプ ○早期発見、負担軽減
確立 ○判断基準の確立
況1一
○校内研修などのマニュアルづくり
○授業公開の養務づけ
○ワークショ・ソプ研修○怨戒処分等の服務上の措置 ○校内の支援体制の確立 ○教o、学校現場から離す研修
一こ1指導カ等○相互評価を取り入れた研修 ○菅理犠の指導を合めた校内研修 ○人事考課制度により絵与に差を ○休議・復厳の内申に必要な診断誉 ○他離場、他離種への異動
○教科・学年などのパックアッブ体
つけるは必ず指定医を合むようにする ○指導力不足教員を甘やかさない環境づ
不足教貫 制を確立し、校内研修を実施する
くりよ1
○判新基準・マニュアルづくり
○校長をサポートする人的支授
る1○教員免許の更新制度 ○間題を起こす都度、処分を貢ねる ○校長の○務命令強化 ○休動・復3の内申に必要な診新書 ○教増、学校現場から離す研修
○悉皆研修 ○事実書己録を積み貢ね分限免載・退動に ○学校評蓄会や外部からの評価の は必ず指定医から ○他載場、他議種への異動 違格性を ○減給処分
区1欠く藪員 導入 ○教員の服務を見極めた復職につい ○退戦、免喩処分
○校内研修で改善が見られない場合、 ○内容によって懲戒処分または分 ての診断
教育センターでの研修、それでも 限免犠 ○連続3年以上休戦での分限処分を
パ.