奈良教育大学学術リポジトリNEAR
悩みの相談文に対する高校生、大学生、および高校 教師の応答様式の比較
著者 玉瀬 耕治, 中前 一志, 光武 健介
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 30
ページ 107‑118
発行年 1994‑03‑01
その他のタイトル Comparisons of Response Modes among Highschool and College Students and Highschool Teachers to Client Messages
URL http://hdl.handle.net/10105/6831
悩みの相談文に対する高校生、大学生、および
高校教師の応答様式の比較‡玉瀬耕治・中前一志・光武健介 (心理学教室)
要旨=本研究では、カウンセリングの技法訓練のために作成された高校生の悩 みの相談文を用いて、高校生、大学生、および高校教師がそれぞれ好む応答様 式と好まない応答様式を比較した。選択肢としてあらかじめ設定された応答様 式は、支持、意見、解釈、指示、質問、および反映の6様式であった。相談文 は5っ用意され、それぞれについて例示されている応答の中から答えてほしい
(答えたい)応答と答えてほしくない(答えたくない)応答を1つずつ選択させ た。その結果、答えたい応答様式として高校教師は質問と反映を選択し、意見 を選択しない傾向があるのに対して、高校生は答えてほしい応答様式として質 問を選ばない傾向があることが示された。大学生が答えてほしいとする応答様 式は、全体的に高校生と高校教師の中間に位置していた。答えてほしくない
(答えたくない)応答様式に関しては、いずれの群においても解釈と意見を選 ぶ者が多く・特に高校教師では解釈を選ぶ者が多かっれこれらの結果に基づ いて、生徒指導における相談面接の今後の研究の進め方が示唆された。
キーワード:生徒指導、カウンセラー養成、マイクロ技法、応答様式
わが国の教育の在り方については近年きまざまな議論がなされており、知識・技術的な教育水 準の高さでは海外からも高い評価(Skromme,1989;White,1987)を受けている一方、生徒の主 体性や適応力の面では限界が指摘されている(波多野・稲垣、1984)。このような時期に、教育職 員免許法が改正され(1991年4月)、同法施行規則に示されている教職に関する科目として 生徒 指導、教育相談及び進路指導に関する科目}が取り上げられ、授業科目として生徒指導が明確に 位置づけられたことは注目に値する。このことは教員養成大学においては、従来、生徒指導に関 わる内容が教育心理学の枠内でわずかに適応の問題として取り上げられてきたのに比べると画期 的な改正であるといえる。生徒指導を授業としてどのように展開するかは、現在まだ模索中の段 階である。生徒指導は教育の実践的領域に属するものであり、歴史的には生徒の非行化傾向など
* Comparisons of Response Modes am㎝g Highschoo1and Co11ege Students and Highschoo1Teachers to C1ient Messages
**Koji TAMASE,Kazushi NAKAMAE,&Kensuke MITSUTAKE,Department of Psycho1ogy,Nara University of Education
の実態から必要に迫られて取り上げられたものである。しかし全人教育、生涯教育の視点から、
今後は生徒指導を教育の中心的な領域として位置づける必要があるといえよう。従来の教育のひ ずみとして、最近では周囲への影響が大きいいじめや窃盗、暴力などの反社会的な問題ばかりで なく、生徒自らが悩み苦しんで、周囲の人たちにはその意味がよく理解されないような登校拒否
(不登校)や中途退学などの非社会的な問題(大阪府科学教育センター、1992;奈良県教育委員会 1993)も見逃せないものとなっている。このような問題行動への対処のみならず、生徒指導では 生徒をよりよく理解し、学校生活全般にわたる指導が行えるように教師の指導力を高めることが 期待されている(岸田、1986;文部省、1981)。生徒指導における中心的活動の1つである教育相 談(文部省、1990)に関しても、すべての生徒を対象とし、生徒の全人的な発達の援助をめざす
ものとして位置づける必要があると考えられる(玉瀬、1991)。
生徒指導の実践に生かせる教育相談の技法訓練については現在さまざまな試みがなされっつあ るが(上地、1990;全国教育研究所連盟、1992;玉瀬、1993)、その方法についてはまだ共通した 理解が得られる段階には至っていない。また訓練の基礎としての現実の生徒や教師の実態に関す る基礎的研究もまだあまり行われてはいない。本研究はわれわれが試作した訓練用の相談文に対 して、実際の高校生や高校教師がどのような応答を示すかを調べようとするものである。ここで この問題に関連するわれわれの先行研究について述べておこ㌔玉瀬・大塚・大谷(1990)は・
心理学専攻の学部学生や大学院生などの初心者にカウンセリングの基本的技法であるマイクロ技 法(Ivey.1993;Ivey&G1uckstem,1982)を訓練するための悩みの相談文を作成した。玉瀬・大 塚・西川(1991)は、これらの相談文の中から選ばれた就職問題やクラブ活動、学業上の悩みな
どの5つの悩みに対応する6つの応答様式を分類した。応答様式としては、支持、意見、解釈、
指示、質問・および反映の6つが採択された。これらの応答様式の定義については後述の方法の 部分で述べられている。さらに玉頼・西川(1992)は、これらの応答様式のうち、大学生のクラ イエントにとっていずれが有用で、満足なものとみなされるかを調べた。また同様の相談文に対 して現職の教師と看護婦がそれぞれどのような意図で応答するかを調べた。その結果、大学生は
質問 と 指示 をもっとも有用で、満足なものとして評定し、 反映}をもっとも役にたた ない、不満足なものと評定していることが分かった。また応答の意図に関しては、現職の教師に は意見や指示のような即時的解決を求める意図が顕著に認められた。これらの結果は、相談面接 を行う上での現実の問題として考慮する必要があろう。
これらの結果をふまえて、本研究では大学生用に作成された相談文を高校生用に改編し、高校 生による悩みの相談文として高校生、大学生、および高校教師に提示した際に、それらに対する 応答様式の選択にどのような差異が見られるかを検討することにした。現実の高校教師が答えた いとする応答様式と、高校生が答えてほしいとする応答様式は一致しているであろうか。また大 学生は高校生の立場に立ってどのように答えてほしいと考えているであろうか。教育相談の望ま しい在り方として、一般的には受容や共感的理解が重視されてきたが(伊東、1963;友田、1960)、
高校生は果たしてそのような応答を求めているであろうか。本研究では高校生と大学生は、悩み を訴えている生徒の立場に立って回答し、高校教師はその生徒に自分が答えることを想定して回
一108一
答している。本研究のような接近法が現実の教育相談やカウンセリングの条件をどの程度に満た しているかに関しては議論のあるところであるが、教師がいかに生徒と対応すべきか、生徒によ りよく接近し、生徒理解を深めるために教師はどのような技法を用いるべきかを模索する具体的 手がかりを提供する資料としては意味があると思われる。
方 法
調査対象
公立高校の2年生3クラスの生徒127名(男子52名、女子75名)、教員養成系国立大学の学生89 名(男子38名、女子51名)および公立高校の教師29名(男性18名、女性11名)。
材料
玉瀬・大塚・西川(1991)によって作成された大学生用の5つの悩みの相談文を基本とし、内 容の大幅な変更は行わず、今回相談文ならびに応答部分について若干表現を変えて高校生用に改 訂したものを用いた。付表工は本研究で用いた高校生用の悩みの相談文と応答の選択肢を示した ものである。相談の内容は、①就職に対する不安、②クラフでの対人的な悩み、③家族内での葛 藤、④学業に関する悩み、および⑤失敗への恐れに関するものである。応答の選択肢は次の6つ の応答様式の内のいずれかを表してい札
1.支持:クライエントの立場を是認し、なぐさめたり、不安を和らげたりしようとするもの。
2.意見:クライエントの問題を自分の価値基準で判断し・意見を述べているもへ 3.解釈:クライエントが言ったことを越えて、解釈したり、新しい意味を付加するもの。
4.指示:解決に導くための助言を与えるもの。具体的にどうすればよいかを示すもの。
5.質問:クライエントからさらに事実や情報を得ようとするもへ質問形式でないものも含む。
6.反映:クライエントが言った事実や感情を繰り返したり、言い換えたり、要約したりするもの。
手続き
高校生については著者の1人が学級ごとに実施した。教示では調査用紙の冒頭の部分を読み上 げた。答え方は もしあなたがこの生徒の立場なら、あなたはどの答え方で答えてほしいですか。
答えてほしい答え方にはOを、答えてほしくない答え方にはxを1つずつつけて下さい。}とい うものであった。1間ごとに相談文と6つの応答の選択肢を読み上げ、その内から答えてほしい ものと答えてほしくないものを1つずつ選ばせた。大学生については3名の心理学専攻生が授業 時間の一部を使って調査を実施した。教示の仕方および調査用紙の読み上げ方は高校生の場合と 同様であった。高校教師については、教示の部分が異なる教師用の調査用紙を用いた。教師用の 教示は次の通りであった。 ここに、悩みの相談にやって来た生徒の悩みと、それに対する先生
の6つの答え方が書いてあります。どの答え方が正しいということはありませんが、もしあなた が答えるなら、どの答え方で答えたいですか。答えたい答え方には○、答えたくない答え方には
×を1つずつつけて下さい。}各教師に調査用紙を配布し、調査の要点を説明して回答を依頼し た。1週間以内に用紙は回収された。
桔 果
応答様式の邊択・排斥における性差
それぞれの相談文に対して、高校生、大学生、および高校教師によって答えてほしい(答えた い)または答えてほしくない(答えたくない)として選ばれた応答様式の出現頻度と%をそれぞ れ男女別に算出した。表1は応答様式の選択(答えてほしい、答えたい)または排斥(答えてほ
しくない、答えたくない)の性差を示したものである。個々の相談文に対する応答には見かけ上 顕著な性差が認められなかったので、煩雑さを避けるために表1では5つの相談文に対する%の 平均で全体の傾向のみを示した。表1の値から度数を逆算して選択、排斥それぞれについて調査 対象群×性×応答様式(3×2×6)のパ検定(篠原、1989,pp.203−217)を行った。その結果、
選択、排斥ともに性に関わる要因はいずれも有意にはならなかった。従って、以下の分析では男 女をこみにした値について検討することにした。
表1 選択または排斥された応答様式の性差(平均%)
応答様式 支持 意見 解釈 指示 質問 反映 選択
高校生 男 33.08 23.46
女33.6021.87
大学生 男 21.05 23.69
女26.6719.22
高校教師 男 21,11 6.67
女18,183.64
4.23 21.54 14,23 3,46 6.40 21.60 14,40 2,13 5.26 22.10 24,73 3,12 4.31 22.77 25,88 1,88 6.67 17.78 37.78 10,00 0.OO 16.36 30.91 30.91
排斥
高校生 男 16.54 17.69
女11.2025.60
大学生 男 10.O0 21.05.
女12.1622.75
高校教師 男 4.44 25.55
女O.0021.82
24,23 8.85 16.15 16.53 29.33 13,87 8.53 11.47 21.05 12.63 11.05 24.21 30.61 10,19 6.67 17.65 50.O0 5,56 2.22 12.22 47,27 7,27 1.82 21.82
選択:答えてほしい・答えたい・排斥:答えてほしくない・答えたくない。
高校生、大学生、および高校教師の比較
表2は高校生、大学生、および高校教師によって答えてほしい、答えたいとして選択された応 答様式の割合(%)を相談文ごとに示したものである。群差を調べるために、%の基になってい
る度数について個々の相談文ごとに3x6のパ検定を行った。パの値が有意になったものにっ いては残差分析(田中・山際、1992,pp.262−265)を行った。ここでは残差分析で5%または1
%水準で期待値との差が有意であったもののみにっいて取り上げることにする。
まず表2の相談文1についてはパ(10)=18.76で5%水準で有意であった。この相談文は 一nO一
将来の就職についての不安 を訴えているものである。全体としては質問を選んだ者が多いが、
高校生では期待値に比べて支持と解釈を選んだ者が多く、質問を選んだ者は少ない。高校教師で は期待値に比べて反映を選んだ者が多い。
相談文2についてはパ(10)=26.42で1%水準で有意であった。この相談文は クラブでの 対人的な悩み を訴えているものである。全体としては、質問および支持を選んだ者が多いとい
える。高校生では期待値に比べて支持と意見を選んだ者が多く、質問を選んだ者は少ない。大学 生では指示を選んだ者が多く、支持を選んだ者は少ない。高校教師では質問を選んだ者が多く、
意見を選んだ者は皆無である。
相談文3についてはパ(10):42.55で1%水準で有意であっれこの相談文は 家庭内での 対人的な葛藤 を訴えているものである。全体としては意見を選んだ者が多いといえる。高校生 では期待値に比べて意見を選んだ者が多く、質問を選んだ者は少ない。高校教師では反映と質問 を選んだ者が多く、意見を選んだ者は少ない。大学生では反映を選んだ者が皆無であった。
相談文4についてはパ(10)=66.56で1%水準で有意であっれこの相談文は 学校生活で の学業上の悩み を訴えているものである。全体としては質問と指示を選んだ者が多いといえる。
高校生では期待値に比べて支持を選んだ者が多く、質問を選んだ者は少ない。反映を選んだ者は 皆無である。大学生では質問を選んだ者が多く、支持を選んだ者は少ない。高校教師では質問と 反映を選んだ者が多く・指示を選んだ者は少ない。
相談文5についてはパ(10)=30.73で1%水準で有意であった。この相談文は 失敗への恐 れ}を訴えたものである。全体としては支持を選んだ者が多いといえる。高校生では指示を選ん だ者が多く、質問を選んだ者は少ない。高校教師では質問と反映を選んだ者が多く、支持を選ん だ者は少ない。
表2 各群によって選択された応答様式の相談文ごとの比較(%)
応答様式 支持 意見 解釈 指示 質問 反映 相談文1 高校生 39.37
大学生 29.21 高校教師 17.24
4,72 6,74 0.OO
5.51 工1.02 36,22 3,15 1.14 10.11 50,56 2,25 0.OO − 20.69 44.83 17,24
相談文2 高校生 36.22 23,62 8.66 11.02 15,75 4.72 大学生 22.47 14,61 7.78 22.47 26,97 5.62 高校教師 27,59 0.00 10.34 10.34 37.93 13.79 相談文3 高校生 17.32 65,35 3.15 11,02 0,80 2.36 大学生 16.85 58,43 3.37 15,73 5,62 0.00 高校教師 24.14 17,24 0.00 20.69 17.24 20.69 相談文4 高校生 27.56
大学生 3.37 高校教師 6.90
6,30 6.30 44.88 ユ4,96 0.O0 8,99 4.49 46.07 37,08 0,00 0,00 3.45 20.69 51.72 17.24
相談文5 高校生 46.46 12,60 3.94 29,92 3,94 3.15 大学生 49.44 16,85 6.67 17,98 6,74 2.25 高校教師 24.14 10,34 6.90 13.79 24.14 20.69
表3は高校生、大学生、および高校教師によって答えてほしくない、答えたくないとして排斥 された応答様式の割合(%)を相談文ごとに示したものである。この表について、表2の場合と 同様の分析を行った。排斥の場合は、3×6のパ検定で有意になったのは相談文3のみであった。
相談文3についてはパ(10)=19.84で5%水準で有意であった。全体としては解釈と反映を排 斥した者が多いといえる。高校生では期待値に比べて質問を排斥した者が多く、解釈を排斥した 者は少ない。大学生では質問を排斥した者は少ない。高校教師では解釈を排斥した者が多い。
その他の相談文については統計的な群差は認められないが、標本値から全体の傾向を見ていく と次のとおりである。相談文1では意見を排斥する者が多い。相談文2と相談文4では意見と解 釈を排斥する者が多い。相談文5では解釈を排斥する者が多い。
表3 各群によって排斥された応答様式の相談文ごとの比較(%)
応答様式 支持 意見 解釈 指示 質問 反映 相談文1 高校生 15.75 35,43 8.66 17.32
大学生 10.11 25.84 17.98 17,98 高校教師 0.O0 41.38 27.59 10.34 相談文2 高校生 14.17 28.35 23.62 15.75 大学生 12.36 23.60 26.97 11.24 高校教師 O.O0 44.83 41,38 6.90 相談文3 高校生 12.60
大学生 11.24 高校教師 6.90
7.09 15,75 2.25 25,84 0.00 20.69 7.87 10124
8.99 16,85 0.O0 6.90 1.57 30.71 14.96 13.39 26,77
4.99 38,20 1L24 1.14 33,71 0.00 65,52 3,45 3.45 20169
相談文4 高校生 16.54 40.16 34,65 1.57 大学生 19,10 43.82 20,22 1.14 高校教師 6.90 31.03 48,28 0.OO
2,36 4,72 2.25 13,48 3.45 10134
相談文5 高校生 7,87 6.30 38,58 9.45 27.56 10.24 大学生 3.37 12.36 29.21 14.61 28.09 12.36 高校教師 O.00 3.45 62.07 10,34 3.45 20169
図1は高校生、大学生、および高校教師によって選択された5つの相談文全体についての結果
(%の平均)を示したものである。全体としては、質問、支持、指示、意見など多様な選択が見ら れる。群差を調べるために、この図の値から度数を逆算して3×6のパを行った。その結果、
パ(1O)=27.16となり1%水準で有意であった。高校生では期待値に比べて質問を選んだ者が 少ないといえる。高校教師では質問と反映を選んだ者が多く、意見を選んだ者は少ないといえる。
大学生の値は高校生と高校教師との間に位置しているものが多い。
図2は高校生、大学生、および高校教師によって排斥された5つの相談文全体についての結果 を示したものである。全体としては、解釈と意見を排斥している者が多いといえる。群差を調べ るために3x6のパを行ったが、パ(10)=11.28で有意にはならなかった。従って、全体とし ては群差があるとはいえないが、高校教師の場合は解釈を排斥した者が特に多いといえる(調整
後残差=2.44)。
一112一
(単位:%)
70
60 50
麗高校生群 産大学生群
□教師群
40 30
20
10
支持 意見 解釈 指示 質問 反映
図1 5つの相談文全休でみた各群の応答様式の選択の割合(平均%)
(単位1%)
70 60 50
40 30 20
10
騒高校生群 n大学生群
□教師群
支持 意見 解釈 指示 質問 反映
図2 5つの相談文全体でみた各群の応答様式の排斥の割合(平均%)
考 察
ここでは、まず統計的な分析の結果をふまえて、相談文ごとに群差に焦点をあてながら主な結 果について考察する。群差が明白でないものについては値が高くても取り上げない場合がある。
相談文1ではどの群でも 質問 を選んだ者が多かったが、高校生では支持を選び、高校教師で は反映を選ぶ者も多かった。これは高校生が将来の進路についての不安な気持ちを 支持}によっ て少しでも和らげてほしいと思うのに対して、高校教師は訴えられた悩みの内容を別の言葉で繰 り返す 反映 の技法によって生徒への理解を示そうとすることの現われと解釈できる。この相 談文に対しては、どの群でも 意見 を好ましくないものとして排斥している。これは就職に対 する不安が表明されている時に、いきなり意見を述べることは時期尚早であると判断されたため ではないだろうか。
相談文2では群によって好ましいとされた応答にはばらっきがみられるが、高校生では支持と 意見を選んだ者が多く、高校教師では質問を選んだ者が多かった。これは高校生ではクラブでの 対人的な悩みという身近な話題に対して 支持 によって認めてほしいと思う者もいるが、はっ
きりと 意見}を述べてほしいと思う者もいることを示唆している。ただし、意見については、
排斥する者も多いことは考慮しなければならない。高校教師では、このような事例ではさらに具 体的に話を聞こうとする態度をとる者が多いといえる。大学生では、具体的な 指示 を求める 者が多いといえる。
相談文3では高校生と大学生で憶見}を選んだ者が圧倒的多数を占めている。これは家庭内 の対人的な葛藤というかなり難しい問題に対して、 兄さんは兄さん、あなたはあなたです。頭 だけで人間の価値が決まるわけではありません。 という言わば理想的な答えを選んだものとい える。実際には、このように言われて問題が解決することはほとんど考えられない。その点、高 校教師の多くが 反映 と 質問制を選んでいるのはより現実的で好ましいものとみなされる。
この相談文で高校教師は解釈を好ましくないものとして排斥しているが、このような事例では勝 手な推測によって生徒の置かれている立場を判断してはならないと心得ているからではなかろう
か。
相談文4では高校生と大学生は指示を選択し、高校教師は質問を選択する傾向が見られる。こ の事例は学業上の悩みであり、高校生や大学生にとっては極めて身近な問題である。もし自分が
このような状態に追い込まれたら、何か具体的な 指示 を与えてほしいと思うのであろう。高 校教師はここでも 質問 によって、さらに詳しく事情を聞こうとしている。すなわち、より慎 重な応答態度を表しているといえる。この相談文ではどの群でも意見と解釈は好ましくないもの
として排斥されている。
相談文5では高校生は支持と指示、大学生は支持、高校教師は質問と反映を選んでいる。ここ で示されたような極端な失敗への恐れは、多くの高校生や大学生にとってあまり体験のないもの であろう。このような事例について、彼らはとりあえずその状態を 支持 し、慰めてほしいと 判断したのではなかろうか。一方、高校教師はこのような事例では 質問}や 反映 によって
一114一
より詳しい事情を聞こうとする態度をとるものとみなされる。
以上のように、個々の相談文にはそれぞれ固有の好ましい応答のあり方があるといえる。ここ では主に相談する側としての高校生、大学生が答えてほしいとする応答と、相談される側として の高校教師が答えたいとする応答の違いに焦点をあてて結果を見てきた。次に、図1と図2に示 された5つの相談文全体の結果について検討してみよう。図1から、各群の応答の仕方は質問、
支持、指示、意見など多様であるが、特に質問と反映で高校生と高校教師の差が明瞭に現われて いる。 質問 と 反映 は、高校教師が答えたい応答として重視している応答様式であるとい える。一方、高校生はむしろ 支持}という応答様式を求める傾向がある。
このような結果について、生徒指導の観点から考えてみよう。初心者に対するカウンセリング の技法訓練においては、もっとも基本的な傾聴の技法として、質問技法と反映技法(言い換え、
感情の反映)が取り上げられることが多い(アイビィ、1985;Ivey,1993;玉瀬、1993)。このこ とから考えて、高校教師が質問と反映を重視しているのは好ましいことであり、傾聴的態度がで きているといえる。ただし、高校教師がこのように考えているからといって、実際に生徒とその ように対応しているかどうかは不明である。ここでの応答はあくまでも こう答えたい一という 認知的レベルでの応答であることに注意しなければならない。実際に高校教師が質問や反映を多 用する応答をしているかどうかについては別に検証を行う必要がある。高校生が支持を求めてい るのは、まずありのままの状態を受け入れてほしいという気持ちの現われではなかろうか。彼ら は、質問や反映よりも、まず受け入れて、慰めたり安心させたりしてくれる言葉がほしいと感じ ているように思われる。例えば、相談文1における支持は そんなに心配しなくても大丈夫です よ。まじめにやっていればきっとやっていけますよ。 であり、相談文2では 気持ちは分かり ます。でももしあなたならきっと最後までがんぱれますよ。 というものである。これらは、単 なる気休め、慰めと受け取れなくもないものであり、果たしてこのように応答されて満足できる かどうかは疑問である。いずれにしても、相談面接の最初の段階ではまず受け入れて、安心させ てやることが必要なのではなかろうか。図2から㌧好ましくない応答としては、どの群でも 解 釈 を挙げている点で一致している。とりわけ高校教師は他の群の倍近い者が解釈を排斥してい
る。このことは相談面接において、表現された内容を逸脱して勝手な推測をすることにはかなり の抵抗があることを示唆してい孔
最後に本研究で得られた資料の意味と限界をふまえて、少し一般的な問題と今後の取り組みに ついて論じておきたい。本研究で用いた相談文の例では、応答がその悩みに答えるとの時点のも のであるのかが特定されていなかった。そのため、高校教師の中には答え方に戸惑いを表明した 者もあった。これは実際に相談を受けた経験のある老であればむしろ当然のことかもしれない。
この点はこの種の研究の限界であるといえよう。相談面接を時間の順を追って考えてみると、高 校生の回答に示されたように、最初の段階では、 支持}によって安心させたり、慰めたりする 言葉が必要であろう。その次には、いわゆる生徒の置かれている状況をさらに詳しく知るための 情報収集が必要であろう。そして最後には解決に向けての具体的な指示や、適切だと思われる意 見の開陳があってもよいと考えられる。このように考えると、どの応答様式が好ましいかを問題
にするよりも、むしろ個々の事例に応じてどの応答様式をどの時点でどの程度に用いるべきかを 問題にするのが妥当であると思われる。この点に関連して、玉瀬・大塚・西川(1991)は大学生 に、相談を受ける立場に立って相談文に自由記述で応答させたところ、全体では評価的応答(意 見)と指示的応答がもっとも多かった。回答の仕方が自由記述になれば、応答は相談の最終段階
までを想定して答えられるものとみなされる。従って、応答様式の適切な用い方を検討していく ためには、相談面接の過程との関連を問題にしなければならないと考えられる。IVey and Mathews(1984)およびアイビィ(1985)は臨床的面接の一般的な過程として5段階構造を仮定
している。すなわち、①ラポールと構造化、②情報収集、問題定義、および資質の識別、③結果 の決定、④選択肢の探究およびクライエントの不一致との対決、および⑤学習の一般化と転移の 5段階である。これを生徒指導における相談面接に当てはめれば、例えば①ラポールの形成、② 情報の収集、③生徒理解の深化、④解決策の探究と実行、⑤他の問題への般化、と考えることが できよう。応答様式との関係では、これまでの研究の結果を参考にすれば、①の段階では支持、
②と③の段階では質問と反映、④と⑤の段階では指示と意見、がそれぞれ有効なのではないかと 考えられる。このような考え方を実証的な形で示すことができれば、生徒指導の具体的な在り方 に一石を投じることができるであろう。本研究で、生徒と教師の認識のずれにっいてはある程度 明確になったが、実際の生徒指導の場において、これをどのように取り入れていくかは今後に残 された課題である。
付記 本研究における資料の収集と整理にあたり、心理学専攻生の陰山久美子、姫野恵利、平野 香織の皆さんの協力を得ました。言己して感謝の意を表します。
引用文献
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付表1 本研究で用いられた調査用紙
生徒の悩みへの答え方に関する調査 高校生()年 男・女 大学生()年 男・女
ここに、悩みの相談にやって来た生徒の悩みと、それに対する先生の6つの答え方が書いてあります。どの答え 方が正しいということはありませんが、もしあなたがこの生徒の立場なら、あなたはどの答え方で答えてほしいで すか。答えてほしい答え方には○を、答えてほしくない答え方にはXを一つずっっけてください。
1. 最近、何をしても心から楽しいとは思えないのです。原因は、就職のことなんです。私は不安なんです。就職 しても、ちゃんと働けるかどうか、厳しい社会の中で生き残っていけるかどうか、自信がないのです。
そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。まじめにやっていればきっとやっていけますよ。
就職する前から悩んでいても仕方がありません。
あなたには、まだ就職したくないという気持ちがあるのかもしれませんね。
進路ガイドなどで情報を集めたり・先賢や友人に聞いてみなさい。
就職について、具体的にどんなことを考えているのか話してくれませんか。
就職のことが心配で、何をしても楽しくないんです札
2.
3.
野球部でキャプテンをやってきました。その責任上、部員から、「冷たい」、「偉そうにして」などと言われて も、部のために必死でやってきました。しかし、今部員が話もっいてきません。全くの独りぼっちです。何も 好き好んでリーダーシップをとってきたわけではないのに…。もう、やりきれない気持ちでいっぱいです。
()気持ちは分かります。でもあなたならきっと最湊までがんばれます㌫
()あなたのやり方に問題があるようです。厳しいだけではだめなんじゃないですか。
() あなたは苦労して自分をみがくことよりも、人によく見てほしいという気持ちの方が強いのかもしれま
せんね。
()誰か・一人でも部内に話せる人を見つけなさい。
()話もっいてこないということはどういうことなのか、具体的に話してください。
() キャプテンであなたとしては必死になってやってきたのに、話もっいてこないのですか。
兄はとても優秀な人で、俗にいう優等生です。私はいつも兄と比較されます。もちろん、優秀な兄には勝てる わけがありません父や母は・私にはいつも冷たく、私はそれに耐え・言われるままにやってきましねでも・
もう限界です。私は疲れてしまいました。
あなたにもきっと良いところがあると思います。自信をもって頑張って下さい。
兄さんは兄さん、あなたはあなたです。頭だけで人間の価値が決まるわけではありません。
そんなに兄さんを意識するのは・兄さんに勝ちたいという気持ちがあなたにあるからで九 一度、自分の思っていることを家族に話してみましょう。
どんなことで兄さんと比較されるのか、話してくれませんか。
いつも優秀な兄さんと比較されて耐えがたい気持ちなんですね。
4.
5.
高校に入ったら、好きなことをしようと思っていました。しかし、現実は試験に追い回される毎日です。もう 耐えるのは苦痛です。こんな状態なので、だんだん何事にも身が入らなくなって成績も下がり始めています。
() よく分かります。でもそんなに成績を気にする必要はありません^
()高校で好きなことをするというのは、勉強をした上でのことですから、少し考えが甘いようですね。
() あなたは高校では好きなことをしたいというあいまいな目標しかもたなかったために、今の状況に置か
れているのです。
()勉強以外でも部活動など、自分のやりたいことを何かひとっ見つけましょう。
()高校に入ったら思い通りにできると思っていたのに、実際は毎日試験に追い回されている・一。
私は失敗することが怖いのです。たとえわずかなことでも、行動に移すとき、不安と緊張に包まれます。失敗 した自分の姿を想像するだけで、恥ずかしくて涙が出そうになります。こうしてお話している今でも、私は失 敗のことばかり考えて落ち着けません。
失敗は誰もがするのだから、そんなに心記しなくても大丈夫ですよ。
失敗を怖がっていたら何もできません。失敗のことばかり考えすぎです。
失敗がそんなに気になるのは、自分を良く見せたいという気持ちが強いからです。
一番いいのは、失敗を恐れず、一度思い切って失敗してみることです。
今までに実際にどんな失敗をしたのか話してくれませんか。
失敗が怖くて、そのことばかり考えて何もできないんですね。
註:ここでの各相談文への応答は、いずれも支持、意見、解釈、指示、質問、反映の順になって いるが、実施の際の応答の順序は相談文によって入れ替えられている。
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