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文法規則の組織化と学習(IX) ―指標のアドレス 化―
著者 高橋 孝二
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 31
ページ 59‑67
発行年 1995‑03‑01
その他のタイトル Grammar Modules and Learnability (IX): Indexes and the Emergence of Address
URL http://hdl.handle.net/10105/6881
文法規則の組織化と学習(1X)‡
一指標のアドレス化一
高橋 孝二..
(英語学教室)
要旨:現在、学生が関心を寄せる文法現象に「指示性」の問題がある。これは、
従来の名詞表現を含みつつそれを超えるカテゴリーの存在を志向する動きであ ると考えられる。指示機能はもっぱら言及性を持つ要素によって担われるが、
実体を欠く指示機能だけの指標が、構造変化の過程の中で文法項目の関係の成 立に貢献す糺この相互依存関係の成立を、本論考では「アドレス化」と呼び、
①移動変形に伴う回路の形態変化、②差し向けの機能しか持たない指標が、格
(Case)を付与されることによって実体化する姿、③移動が常に最も短い回路 を切り拓く経済性について、具体的な授業化に向けて背景理論の構築を試みる。
キーワード:言及性 位置の呼応 格照合
1.Wh一呼応の形態舗
Wκ一移動が有界であるとする主張は、次の二つの経験的事実によって支えられる。一つには 島の効果であり、二つには取り出しに伴う形態上の変化であ糺この中で特に注目されるのは後 者であり、単純な舳一構文では、移動が[十V]の拡大投射領域内の何らかの主要部に変化を 与え、長距離では移動回路の[十V]主要部すべてが形態変化する。このサイクル操作は、島の 効果とは独立したW此一移動の局所性を確認させるものである(Chm91994)。
1990年に入ってRizzi−Cinq皿eの路線は、項(arguments)と付加詞(adj㎜cts)との区別から 更に進めて、先行詞統率の要請から逃れ得るW〃一トレースは「本質的に指示的な」文法項の痕 跡に限られるとした。この性質を持つ項は、「話し手の心の中にある、または談話の中で前もっ て確立している集合の特定の話題素に言及する」NPのことである(Cinque1990116)。
この考察から出て来るものは、W〃一移動を相対比する視点とそれが従う局所性の文法化である。
付加詞と「非指示的」NP (より正確にはDP)の移動は有界(順次循環的)であって、この移 動によって残される痕跡は先行詞によって統率されなければならない。他方、「指示的」項NP の移動は非有界(長距離)であってよく、先行詞統率は強制されない。
ここで重要なのはRizzi−Cinqueの移動理論が島の効果だけから成立していることである。勿
*Grammar Modu1es and Leamability(IX)=Indexes and the Emergence of Address
**Koji Takahashi,Department of English Linguistics,Nara University of Education
論この効果は言語学的に示唆するものが大きいが、もう一つの形態論上の効果を見る必要に迫ら れる。移動を受ける文法項の指示性(referentia1ity)が移動回路の[十V]。系に反映される実例 が見出されれば、それは「素性形態論」の一部を構成するものであり、文法教育学に新しいぺ一
ジを書き込むことになるからである。
Chung(1994)のChamorroからの事実分析は、上の取り出し回路に刻印される舳一呼応
(舳一Agreement)が長距離と」l1頁次循環的移動の差異に敏感であり、更に移動要素の指示性にも 反応することを捉えている。広く舳一移動と呼ばれる統語現象は1977年以来の研究によって特 定されているが、その特徴は先行詞一穴(gap)の関係がある要素のC。指定部位への移動によっ て創造されるところにある。更に1986年以来の優勢なGB理論での形態上の一致現象の観点は、
一つの機能的主要部をその指定部に結びつけるSpec−headの統語関係を反映するというもので あった。本論考シリーズ(V皿)は特にRizziモデルに着目しているが、C。とその指定部との統語 上の一致がWん一構文の認可に顕著な役割を果している。取り出しの形態論もこのモデルから構 築されるであろうか。
このような分析はChamorroに当てはまらない。Spec−head呼応は間接的に貢献するが、舳一 呼応において形態はC。の指定部を占めるXPと変化するのではなく、舳一トレース(A束縛)
の格(Case)に応じて変化するからである。学習概念化の可能な特徴は次の通りである(Chu㎎
1994:8)o
11)Wh一トレースの格: Wh一呼応の実現形式:
①Nominative infix一〃炸による取替え
②ObjまたはObj2 名詞化、名詞化される[十V]。が他動詞なら一価一を挿入 ③Ob1ique 名詞化、名詞化される[十V]。が非対格なら一1〃一を挿入
これらの特徴の中で、Wん一痕跡の格(Case)が果たす役割は、痕跡の単なるgap性からの脱皮 である。Wκ一痕跡はそれ自体で指示物に繋ぎとめられているのではなく、句構造ヒエラルキー の上位に分布するA一先行詞に接合されることによって指示物を獲得するのであ糺舳一呼応の 機能は、ある特定の領域内にいまだに接合されない(unbound)Wκ一痕跡が存在することを合図 するところにあ乱格はこのような領域内の痕跡の正確な位置を狭く限定する。呼応はこの格の 共有によって成立する。もう一つの特徴は、名詞化に伴う挿入形態素が他動不定詞に見られる屈 折型と同じ非定形であるところにある。この現象は、ある特定領域の外にそのアンカーを探し求 める前方照応(anaphora)の利用なのである。これは英語の原形不定詞が受動化によってCo不 定詞に交替する現象に新しい原理的説明を与えてくれる。
このようにWκ一痕跡が格を共有する相手は同定されたが、〔十V〕の拡大投射系のどの機能カ テゴリーが上の「ある特定の領域」を画定するのだろうか。最適候補はC。のC一統御領域と、1。
のm一統御領域との二つである。両者ともに痕跡を含み、C。の指定部を典型的に(中間)宿主と するA一先行詞を含まないからである。チャモロ語の所有表現は所有DPの主要部となるD。が 空の場合にWん一移動を受けるという。この時、所有者の舳一移動(関係節化)はいかなる可視 的W〃一呼応も結果として生じない。属格(genitive)のWん一呼応は(1)のリストには入らない。
関係節化されるDPがまとまって左方移動される時、そこに働く操作は付加変形である。前置さ れるDPはIPに左方付加され、C。と残りの1Pとの聞に置かれる。この付加操作が残す痕跡と W此一呼応との関係はどうなるであろうか。Chu㎎(1994)は我々の学習概念化に有効な「尖頭
(cusp)」という語を何気無く使っている。この場合のトレースの五一binderは、C。の
。−command領域とI。のm−command領域との問でバランスを保っている。「特定領域」がC。の
。一統御領域ならば、付加痕跡はその領域内で束縛され、関係節中の動詞にWκ一呼応を認可でき ない。他方、適切領域がI。のm一統御領域ならば、IP付加される要素はrによって現実にはm一 統御されないというモデルに立つ限り、このトレースはこの領域で接合されないままに留まる。
従ってこの領域でのwん一呼応が期待できる。かくして格の共有に参加する相手は屈折主要部1。
であることが判明する。これは文法操作が己に必要なドメインを切り取る仕組みの一断片なので
ある。
W此一呼応がC体系でのSpec−head呼応のみに還元はできないが、原痕跡以外の位置ではこれ が有効となる。この例は長距離のWん一構文に認めら札、一見非有界な踊りを。peratorが順次循 環的に移動する場合である。取り出し回路に沿ってより上位を占めるrがW〃一呼応を示す時、
呼応の形式は元のwκ一痕跡が持つ格によって条件づけられない。上位のI。は、指定部が中問 Wκ一痕跡によって占められるCPとr領域内で一致するのである。そのシナリオは次のように
考えられる。
(2)①このWん一構文では、移動が順次循環的に生起する。
②格は項位置にあるDPやCPに付与(ないし照合)される。
③格の浸透が、最大投射とその主要部位、主要部と指定部との間で可能である。
[xp Spec[x・X㌦・(ここで極大ドメインはlP,VP,CP)
このようにして取り出しの形態論が局所性の統語論に一つのさぐり針を与えることになる。
これまでの形態論的考察は、Ri・・i−Cinque(1990)の相対的局所性の理論化と合致する。原痕 跡(変項)をその領域内に持つ屈折主要部は、w此一呼応のために義務的に屈折する。上位の屈 折主要部が、取り出し回路に沿ってWん一呼応のために屈折するかどうかは、移動されるW仇一句 の性質に本質的に依存する。もし移動される要素がCinqueの分類(下の(3))セの言及性を持つ
(referential)項であるならば、上位のI。はWκ一呼応を示してもよいし示さなくともよい。し かし移動される要素が言及性を持たない、指示性を欠く(n㎝referentia1)ならば、上位のI。は Wん一呼応を示さなければならず、順次的サイクル移動が強制される。指示性に欠ける項は先行 詞統率の型を示さなければならない。
(3)CinqueのDP分類(英語)
指示性を欠くDP 指示性を持つDP Who? 限定DP
every NP What?
no NP,nothing au DP something,someone many NP
whatever NP,whoever some NP
この表の中の舳〃は舳舳NPに比べて限定性が弱く、チャモロ語ではWん一呼応を示す。
(4) Hafa ma1ago _mu [f u_mafa maoiik f]?
What wH[OBL]want−AGR wH[NOM]AGR−be fixed
What do you want to be fixed?
Rizzi−Cinqueの理論の中心思想は、言及性とは指標(referential index)を担う能力であると するところにある。この見解によれば、指標は発端句構造での言及性を有する文法項DPに付与
され、この要素は移動する時にその指標を持ち運ぶ。この文法項以外の位置には指標が付与され ず、束縛関係(接合)は言及指標の概念によって定義される(Rizzi1990:86)。指標を持つ要素 は、その指標を波及させることが可能であるから、それらは常に変項と結び合わされる。他方、
指標を欠く要素は先行詞統率という関係鎖を経由してのみ痕跡に結びつけられ糺しかしここで 問題なのは、この指標理論が移動以外の分野でも有効であるかどうかであ私前方照応との関係 で言えば、先に検討したチャモロ語の名詞化から相関性が得られるが、同一意味表示に用いられ る指標とは性質が異なる。学習者はこのハードルをどのようにして越えるのだろうか。このモデ ル化は次章で吟味するが、この章からは次の教育原理が得られたことにな乱
(5)熟知しない(unfamiliar)DPを熟知した(familiar)DPに仕立て直すために、文法は 局所性に向って自己を飼育する。
ここで、「自己を飼育する」とは、己を消し去って、何か別のものに生まれ変わることを意味する。
2.指標の差し向け
この10年来のM.Brodyの関心事は、標準GB理論での格(Case)と文法項との関係である。
(6)①何故PROは必然的に文法項たり得るのか。
‡It is impossib1e PRO to seem that IP
②格マークされるカテゴリーとPROとには、何故離接性が認められるのか。つまり、
何故いずれもがA一連鎖の主要部になり得るのか。
③そもそもA一連鎖の主要部に、格の要請といったものが存在するのは何故か。うら がえすと、A一連鎖の非主要部が格位置にあってはならないのは何故か。
④何故Aと五一連鎖との間に離接性があるのか。A一連鎖とは何か。それは文法項の 抽象的な表示形式なのか。
⑤文法項は異なる派生レベルで差異を示すが、それは何故か。例えばθ役割を担う要 素の変更が見られるのは何故か。
これらの問題点にはどのような原理が潜んでいるのだろうか。
ここで可能な推論は、格を位置のアドレス化機構と見傲すことである。この位置のアドレス化 のための「アンカー」として統率子(goVemOrS)を位置づける可能性である。それぞれの格は、
それを最終的につなぎ止める統率子を持たなければならず、それぞれの統率子は格アドレスのた めの錨として実際に機能しなければならない。これはアンカー作用による格アドレスの相対化で
あり、前章(1)のWh一呼応の実現形式はその断片なのである。このような理論化は文法項の次の 定義へと導く。
(7)ある構成素κが文法項となり得るのは、その統率子が格を持っているか、格を支配し ている時に限られる。
前者はアドレスが成立しだしFレベルでの項を指し、後者はD一構造レベルでの項を指す。実は、
この両者は、LFを表示の基本レベルとすることによって同じものとなるのである。これまでの D一構造の性質をそのままセット化してLFレベルに組み入れると、学習理論はどうなるであろ
うか。
「はじめに連鎖ありき」なのである。連鎖はいかなる統語上の表示レベルにも先立って、語彙 部門から直接「Dセット」を介してLFに投射される。従来のようにD一構造表示からM㎝e一α
を経由して派生するのではなくなる。連鎖がSyntaXから独立して形成されるとなると、1eXiC㎝
から出て来た主要部Hは直接的に統語表示(樹枝構造の一部)を投射するのではなく、複数の 空節鴫(e)の中から自分のトレースを探し当てて、それと連鎖を組むことになる。このH鎖か
ら統語構造が投射されるが、この投射は〃鎖の根(root)位置を通して起こる。根位置とは、連 鎖の他の成員を一切C一統率していない位置のことで、この位置だけがθ位置となり得る。指定 部や補部の非主要部もそれぞれ連鎖を形成してからH鎖に組み込まれ乱
このようにして、今や伝統GB理論は自ら余剰部分を切り捨てて「原スケルトン鎖」へと回 帰して行くが、上のBrody路線と軌を一にしているもう一つの組織化の検討に移ることにしよう。
やはりここ1O年来のM.Manzi皿iの関心事は、「相対m一バリアー」(本シリーズη)では把え 切れない下接の条件をも取り込む理論の構築にあった。それは指標(indices)の二重性に注目す
ることから始まる。すべての語彙項目と、語彙的特徴(それが何であれ)によって個別化される すべての要素は、それらの中味としての語彙性を合図する範峰指標を付与される。これらがNP
(DP)の場合、その範瞬指標が言及指標と同定されて、照応と移動の依存関係を表現するのに 役立つ。この言及指標がV移動に関与する時、もはや通常の指示機能ではなくなる。ここでは 指標がアドレス化されていて、移動位置の指標となり、関係を成立させるという点でカテゴリー 指標とは異なる。
一般に、ある主要部によって格マーク(照合)さ軋る位置は、その主要部によってアドレス化
される。
(8)① XP ②[A匡、VAgr1 ③[A目、TAgr]
〈 Spec X 〈
X comp1
特に、格マークされる位置に付与されるアドレスは、その格マークする主要部の範■壽指標に符合 するという点が重要で、これが関係規定となり、C。体系での弱点を補うものとなる。
C。体系では、格がCompの選択されたAgrによって主要位置の痕跡に統率によって付与され るが、格素性が主動詞に起因し、それが統率によってCompのAgrに送られ、主語痕跡に付与 されるとも考えられる。しかし、このヒエラルキーを下る理論化は避けるべきであり、アドレス
化がこれの代案となり得る。即ち、素性AgrはC。を超えて母体文の動詞を包含し(18〕の②)、
そこで自己を照合する。これがBody路線のアンカー概念であり、主要部素性だけが選択される という事実が適切に説明される。照合のために構造配置図を上るのは主要部に限られるからであ り、この主要部移動を許す唯一の構造配置がアドレスというアンカー回路に合致するからである。
同様に、文法項のλ痕跡が主格の照合を受ける時には(8)の③のセグメントが発現する。
指標の差し向ける力の発現(アドレス化)は、前章のWん一呼応を必要としない長距離移動の 可能性に結びつくが、更にこの概念は入痕跡と前方照応句や代名詞との差異をより明らかにする。
Anaphorやprommの先行詞は独自に格マークされるために、指示的に依存する当該要素と はアドレスを異にす糺これに対して、W此一句等の項A痕跡の先行詞は独自に格マークされる ことがなく、アドレスは共有される。この意味で、前章(1)の名詞化はアドレス化の異化作用と見 倣され得る。
一つの主要部によって可視的となる一つの位置がアドレスを付与されるという理論化は、主要 部のカテゴリー指標と見える位置のカテゴリー指標とに対応する指標のペアから成り立つ。そし て見える位置とは格を刻印される位置であることも確認して来れ次に「見える」という文法概 念を、より新しい言語理論から追求することにしよう。
3.最短移動のアドレス効果
最短移動(shortest mo・e)の定義はいくつかの文法概念を導き出すのに役立つ。Ferguson&
Groat(1994)は次の定義づけを試みている。
(9〕①最短移動の原理(Shortest Move Principle)
未照合の素性βを担うカテゴリーXは、βの照合能力を持つ最も接近した可視的カ テゴリーYの照合領域に移動する。
②可視性(Visibility)
カテゴリーYは、そのすべての成貝がXをC一統御する時に限って、カテゴリーX に見える。一つのカテゴリーは、その形態上の素性を照合できるカテゴリーだけを見 ることができ、成分図の最も近いC一統御カテゴリーを探し求める。
③近接性(Closeness)
それぞれがXに見える二つのカテゴリーY,Zがある時、ZがYに見えるならば、Y がXにより近い。(…Z…Y…X…)
この定義づけには既にアドレスの概念規定が含まれている。それを具体的に吟味しよう。
今、規範的な定形節の構造を(1⑪のように設定する時、主語の推移はどうなるであろうか。
{lO [Ag、昌p Agrs。[TpT。[Ag、。p Agroo[vpDPs[v・V.DPo]]]]]
主格の素性[十NOM]を担う主語のDPsは、この素性を照合できる範疇を探す。時制の主要部 下。がそのような範醸であり、DPsにはこれが見え、かつ最も近い。そこでDPsはT。の照合領域
に移動して行くが、この時下。をAgrぐに付加する操作が連動する((8)の③)。この付加によって 生じる時制連鎖は依然としてDPsをC一統御するから、T。はDPsへの可視性を保っている。最
後にDPsはSpec−AgrsPに代入され、T。の照合領域に入る。ここに時制屈折の指標性が認めら
れる。
次に目的語の推移はどうなるであろうか。素性[十ACC]を担う目的語DPoにはT。とV。が 見えるが、V。の方がより近い範■壽である。T。はV。に見えるからである。V。は格照合の能力を 持つから、これがDPoにとって最も近接した可視範藤となり、[十ACC]を照合する。英語では、
V。がLFレベルでAgr.oに付加されて[A。、V.Agr]のアルマガムを形成し、格照合の準備をす乱 V一連鎖の各成員はDPoをC一統御しているから、この連鎖はDPoに見える。かくしてDPoは最 短移動の原理によってV。の照合領域であるSpec−AgroPへ移動する。このように目的語推移は 同一文中のアンカー動詞がAgro。に引き上げられるというアドレス化に準拠しているのである。
これまでの学習理論の中で、厳密なサイクルの条件を動機づける現象は多く認められたが、こ れも最短移動の原理を独立して支持する。例えば、一Super−raisi㎎ のような反サイクルA一移動や、
W片一島を破る反サイクルA一移動は必然的に最短移動の背反につながる。
(11〕a.‡John seems it is certain to1eave.
b.John{seems[Ag、、p Spec[T。/Ag、冒凸is]certainへto leave]
この例で、Spec−AgrsPへの〃の挿入は、派生旬構造が原初の句構造標識を適切に含まなければ ならないとする「拡充の要請」に違反しているが、〃の挿入の派生上の地点に関係なく、[十NOM]
照合のためにJohn{を母体文Spec−AgrsPに引き上げる操作は(9)の原理に背反している。埋め込 み文のづ∫を含んでいるT。/Agrs。アマルガムこそ、主格照合のための近接・可視性の機能範醸な のである。
W〃一素性の照合は近接・可視的な補文のC。が担当するのだから(WH基準)、同様にして次 の派生も阻止される。
○勃a.tWhat do you w㎝der who saw?
b,Whaちdo you wonder[cpSpecσ十wH[Ag、、p who saw,{]]
不必要な移動は禁止されるが、この文法の経済性は変形回路のアドレス性に帰因するのである。
格アドレスの混乱現象をもう一つ見てみる。(このような不適切性は実際の授業で頻出する。)
次例は ㎞proper movement 構造の一つである。
(1炉John{seemsレthat Mary sawぺ.
ここで成立を強いられているA一連鎖口。hn,f、〆]において、もし〆が格標識されるならば、
それはまた格連鎖の中の一つのリンクとなり、トレース自体が独立した文法項となる。上のA一 連鎖は項Johnの抽象表示なのだから、〆はこのA一連鎖の部分とはなり得ない。この時Johnは
アドレスの共有を断たれた主題なしの固有名詞となってしまうのである。
この章で吟味して来た「最短移動」の概念は、もう一つの文法要請である「派生のステップを 最少に」という概念と衝突する。ある構造の派生において、移動距離を最短にとればそれだけ移 動のため歩幅の数が多く必要となり、歩幅の数を減少させればそれだけ移動距離が長くなるから である。1990年以来のチョムスキー理論の急展開にはこのパラドックスの解消に向けた努力も含
まれるのだが、ここではMom一αを捨てずにFo舳一Cんα伽と合体させる枠組みを考えてみたい。
その道具立ては本稿の考察で揃っている。
視点は「隔たりと近接」を文法化するところに生じて来る。それは「隔たり」と「近接」とを 同一視するところに得られる。1991年のMlT授業でChomskyが開陳した closer の概念規定と、
その後の「等距離」という概念を排斥しないで生かす試みである。
この概念は、VP内部主語との共存をA一位置への目的語推移に許すための相対m一バリアー 定式化の修正から始まった。相対的最小性は、痕跡が同じタイプのより近い要素によって先行詞 から隔離されないことを保証する。 c1oser とは樹枝構造に配置されるフレーズの相対的な高さ である。
(14 YP
〈
α Y
〈 Y XP 〈 へ X.Y β X / f …
ωの配置で、成分αは、成分βよりも痕跡Cに近接していると見倣される。この時の条件は、Y へのX。付加によって形成される連鎖が、その領域にαとfを含み、βを含まないことである。
これは(9)の「連鎖の可視性」のスルスである。すべてはドメインをどのように画定するかにかかっ ている。ここではYPがX。鎖のドメインになっている。従ってβはX。付加のm一バリアーには なり得ないことになる。
この文法モジュールで注目されるのは、付加操作が主要部を倍増させながら関連領域を切り妬 いて行く点である。つまり歩幅を小さく取りながら、連鎖リンクを少なくしている実相である。
この考え方に、前章の「原スケルトン鎖」を取り入れると何が見えて来るであろうか。
句構造の発生が、「常に既に」主要部〃とその痕跡との連なりに起点を持つとすると、付加現 象にこの原初のアドレス効果を持たせることも不可能ではない。次の㈹を想定してみ乱 (15〕 XPl
〈
UPノ㌧
ZPl X
〈 〈 WP ZP2×1YP ハ
H X2
(…f)
この構造は、〃の初期繰り上げによるXへの付加によって生じている。従って、〃は連鎖CH=
(H、…、f)の頭部となり、〃単独でなくこの連鎖のみがhead一α関係に入る。YPはXとHの 補部領域であり、ここへの付加はない。また、UPやWPの起源によって構成は複雑になる。原 スケルトン鎖CHのドメインが/XP1,XP2)まで伸びているが、その歩幅は最小セグメント付 加により縮んでいる。この二つの性質が同時に発現すれば、それは構造の「たわみ」現象となる。
私はこれを「尺取り虫の原理」と呼びたい。
この原理の指標性はどうなるであろうか。この問いかけは、non−loca1な関係をloca1に規定す
るという文法的課題の中に位置づけられる。文法項DPの局所性が familiar な指示性と通底す ることは前に見たが、ここでは配置図(15に内在する指標性が問題なのである。
一つのアプローチとしてC。のAgr性を考えてみる。オランダ語の方言に、補文標識がそれが 先導する節の主語と呼応する事実がある。この現象は通常のSpec−head関係では扱えない。この 主語はSpec一σ位置にはなく、動詞の屈折そのものがC。へ移動するアマルガム系に属している からである。この移動の前提条件として、IPのAgr主要部がCompに引き上げられることが必 要である。節の主語はSpec−IP位置に帰着しているのだから、それは既にAgrと呼応している。
もしAgrがC。へ繰り上がるなら、その補文標識は主語と呼応することになる。これは屈折動詞 と主語との呼応に等しい。この構造派生はC。のセグメント化C。/Agr。に負う。この照合はψ一 素性のチェックのため働いている。
Wん一呼応の異形としてV/2現象が他言語にも認められるが、V/2現象を示さない句構造で Agrがそのψ一素性を消費してしまっている時にはAgr−to−C。移動が作動しない。従って動詞の Agrへの繰り上げも不可能となる。この時、普遍文法は(14のXPにエキストラ性を許容するよう に思われる。それはCPとIPとの間に皿P(ΣP)を定立することである。Spec一πPの位置の W〃一句はC。によって直接的には照合され得ないが、n Pのn主要部がC。に移動することに よって、C。とWん一句との照合関係が仲介されることになる。nがC。に付加されると、nのド メインがSpec−n PとSp㏄一CPを共に含み、lP内要素から見て、Sp㏄一1I PとSpec−CPの両位置 は等距離になる。依然としてSpec−CPはMωe一αのくぐり門として使える(Branigan(1992))。
このような中継ぎによるアドレス化は、指標性そのものであると言える。
Refel.enC6S
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