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博 士 ( 医 学 ) 齋 藤 康 子 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 齋 藤 康 子

学 位 論 文 題 名

ム ス カ リ ン 様 Mi 受 容 体 作 動 薬 の ラ ッ ト 交 感 神 経 活 動 に      お よ ぼ す 影 響 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

1. 目  的

  ムス カリン 様アセ チルコ リン受 容体 は,ラ ジオリ ガンド の受 容体へ の結合および選択的拮抗薬 に 対す る 反 応 の 違い に よ っ て 薬理 学 的 にMi,M2お よ びM3の3種類 に 分 類 さ れて い る 。 この う ち ,M,受 容 体は 交 感 神経節 ,大 脳皮質 および 海馬に 多く 存在す ること が知ら れてい る。 本研究 では, 新しいM,受容 体作動 薬,AF102B,( 土)‑ CIS―2―methyl―spiro(1,3―oxathiolane一 5,3 )quinuclidine hydrochloride hemihydrateの 交 感 神経 節 伝 達 に およ ぼ す 影 響 につ い て 交 感 神 経 活 動 お よ び 副 腎 髄 質 機 能 を 指 標 と し て 麻 酔 ラ ッ ト を 対 象 に 検 討 し た 。

2.方  法

  動 物: 13週齢 前後のWistar系 雄ラッ トを用 いた。 実験 には, 神経無 傷ラッ トに加 えて ,両側 頚部迷 走神経 ,頸 動脈洞 神経お よび大 動脈 減圧神 経を切 断した 調圧神 経切 断ラットならびに脊髄 破 壊ラ ッ ト を 用 いた 。urethaneとd−chloraloseの 腹腔 内投与 により 麻酔し ,gallamine tri‑

ethiodideで不動 化し た後, 人工呼 吸下に て実験 をお こなった。血圧と心拍数は,股動脈力二ユー レに接 続した 圧ト ランス デュー サーに より ,連続 的にモ ニター した。 薬物 は,股静脈に留置した カニュ ーレよ り投 与した 。

  交感 神経活 動記録 :交感 神経節 前線 維であ る副腎 交感神 経お よび節 後線維である下心臓交感神 経は, それぞ れ手 術用顕 微鏡下 で分離 した 。神経 の中枢 側断端 を白金 一イ リジウ厶双極電極に載 せ,遠 心性放 電活 動を増 幅し, 出カを オシ 口スコ ープで モニタ ーした 。神 経活動は,累積積分器 で積分 すると 同時 に,デ 一夕処 理コンピュ一夕ーでノイズレベルを越えた生体信号を計測し,サー マルア レイ・ レコ ーダー にて連 続記録 した 後,解 析した 。

  副腎 静脈血 中カテ コ―ル アミン 分泌 速度測 定:副 腎静脈 血採 取は, 左副腎静脈に直接カニュ―

レを挿 入して おこ なった 。採血 時間と 採血 量より 副腎静 脈血流 量を算 出し た。分離した血漿をア

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ルミナ吸着法にて処理し,HPLC―ECD法によルエピネフリ ン(Ep),ノルエピネフリン(NE) およびド―パミン(DA)濃度を測定した。

  薬物:AF102B,atropine sulfateおよびpirenzepine dihydrochlorideを用いた。これら の薬物は,生理食塩水に溶解し,投与液量が常にO. smE/kgとなるように調整した。対照群には 等量の生理食塩水を投与した。

3.結  果

1.交感 神経活動に対するAF102Bの 影響:神経無傷ラットではAF102Bl mg/kgおよび10mg/

kg投与 により,交感神経節後線維である下心臓交感神経活動(ICNA)は用量依存的かっ有意に 増加し た。この反応は,アト口ピン (l mg7kg)の前投与により 拮抗された。ICNA増加反応 は調圧 神経切断ラットでも観察され た。脊髄破壊ラットでは,AF102BによるICNA増加反応 は顕著となった。この反応は,ピレンゼピン(50〃  g/kg)の前投与により拮抗された。交感神 経 節前 線 維で ある 副腎 交感 神 経活 動(ANA)はAF102Bl mg/kgお よび10mg7kgのいずれの用 量 に お い て も , 対 照 群 と 比 較 し て 有 意 ナ ょ 増 加 反 応 を 示 さ な か っ た 。 2.副 腎静 脈血 中カ テ コールアミン 分泌に対するAF102Bの影響 :AF102Bl mg/kgおよび10 mg/kg投与により,副腎静脈血中へのEp分泌速度は,副腎静脈血流量の変化を伴うことなく,

用量依 存的かつ有意に増加したaAF102BによるEp分泌の亢進は, ピレンゼピン(50〃g/kg) の前投与により有意に抑制された。

3.血 圧に 対す るAF102Bの 影響 :神 経 無傷 ラッ トの血圧は,AF102Bの投与により,1mg/

kg投与群では一過性の降圧反応の後軽度に上昇した。しかし,10mg/kg投与群では一過性の降圧 後も, 血圧は投与前値を上回ること はなかった。AF102B投与による一過性の血圧低下はアF ロピン(l mg/kg)の前投与で抑制された。調圧神経切断ラットでも一過性の血圧低下が認めら れた。脊髄破壊ラットでは薬物投与前の血圧は神経無傷ラットと比較して有意に低値であり,

AF102BlOmg/kg投与で一過性に軽度に低下した後,有意に上昇した。この二相性の反応は,ピ レンゼピン(50〃 g/kg)の前投与により有意に抑制された。

4.心拍 数に対するAF102Bの影響: 神経無傷ラットの心拍数はAF102Bl mg7kgおよび10mg/

kg投与により,血圧と同様に一過性の徐脈の後増加する,用量依存的な二相性の反応を示した。

徐脈に対しアトロピン(1 mg7kg)は拮抗作用を示さなかったが,頻脈を有意に抑制した。脊髄 破壊ラットの心拍数も同じく二相性の反応を示した。心拍数増加反応はピレンゼピン(50〃g/ kg)の前投与により有意に抑制された。

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4.考  察

  AF102Bは神 経無 傷 ラッ 卜において ,ICNAを用量依存的に増加さ せた。このICNA増加反 応 が,AF102B投与直後の一過性の血圧低下に対する反射性の反応である可能性は,調圧神経 切 断ラットにおいてもICNA増加がみられたことから否定される。また,脊髄破壊ラットでも ICNA増加反応がみられたことから,中枢を介した交感神経興奮作用による反応ではないと考 え ら れた 。こ のAF102Bに よるICNA増 加反応撒選択的M,受容体拮抗 薬であるピレンゼピン で 拮抗された。以上の結果は,AF102Bが星状神経節においてM,受容体を介した交感神経刺激 作 用を有することを示すもの と考えられた。また,AF102Bは副腎髄質において,ANAの増加 を伴うことなくEp分泌を亢進させ,この反応はピレンゼピンで有意に拮抗された。したがって,

AF102Bは副腎髄質クロマフア ン細胞に存在するM,受容体を 直接刺激することにより,Ep分 泌を亢進させたものと考えられる。

  AF102B投与により神経無傷ラットおよび脊髄破壊ラットのいずれでも一過性の降圧が見ら れ,この反応は,ア卜ロピンあるいはピレンゼピンで拮抗された。血管内皮のムスカリン様M, あ るいはM2受容体を介する刺激はいずれも血管を弛緩させることが知られているが,AF102B 投与直後にみられる一過性の降圧反応には血管平滑筋のM,受容体の関与が推測された。AF102 B 10mg/kg投与による神経無傷ラットの血圧は,一過性の降圧から回復した後も投与前値を上回 ることはなかった。一方,脊髄破壊ラットでは著明な昇圧反応がみられ,これはピレンゼピンで 拮抗された。このような神経無傷ラットと脊髄破壊ラットにおける血圧の反応の相違にっいてニ っの可能性が考えられた。第一は,血管の緊張性(tonus)の違いによるもので|緊張性が低い 時にはアセチルコリンはムスカリン様M,受容体を介して血管の収縮を起こし,緊張性が高い時 に は弛緩させることが報告されている。脊髄破壊ラットではAF102B投与前にすでに血管の緊 張性が著しく低下しているため,M,受容体を介した血管収縮作用のみがみられた可能性が考え られた。第二は脊髄破壊による交感神経節伝達機構の変化の可能性である。すなわち,神経無傷 ラットでは交感神経節前線維から放出されるアセチルコリンによるニコチン様受容体への緊張性 刺激が交感神経節伝達の主体をなし,これが血圧の維持に主要な役割を果たしている。これに対 して,脊髄からの緊張性入カが消失している脊髄破壊ラットでは,この交感神経節におけるニコ チン様受容体を介した機構が作動せず,ムスカリン様受容体を介した交感神経興奮作用が節伝達 の 主体となり,その結果,AF102Bの交感神経興奮作用による昇圧反応が顕著に現れたという 可能性がある。

  心拍数は,AF102B投与後一過性に減少した後増加する二相性の反応を呈した。一過性の徐

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脈 に っい ては , ピレ ンゼ ピ ンで もア ト ロピ ンで も 拮抗 でき ず ,M,,Mz以外の受容体を介し た反 応 と 考え られ た 。心 拍数 増加反応は ,神経無傷ラット および脊髄破壊ラ ットのいずれにおい ても 認 め ら れ た 。 こ の 反 応 はICNAと 平 行 し た 時 間 的 経 過 を 示 し ,ICNA同 様 ピレ ンゼ ピ ンで 拮抗 さ れ た 。 こ の こ と か らAF102Bに よる 心 拍数 増加 は ,星 状神 経 節に おけ るM,受 容体 を 介し た心 臓 交 感神 経興 奮 によ るも の と考 えら れ た。

5.結  語

1) AF102Bは 神 経 無 傷 ラ ッ ト に おい て 用量 依存 的 に心 臓交 感 神経 活動 お よび 心拍 数 を増 加さ せた 。

2) AF102Bは 脊 髄 破 壊 ラ ッ ト に おい て も心 臓交 感 神経 活動 お よび 心拍 数 を増 加さ せ た。 これ   ら の 反応 はム ス カリ ン様M,受容 体の 選 択的 遮断 薬 であ るピレンゼピ ンの前投与によって 抑制 され た 。

3)交 感 神 経 節 前 線 維 で あ る 副 腎 交 感 神 経 活 動 は ,AF102B投 与 に よ っ て 増 加 し な か っ た 。 4) AF102Bは 副腎 の血 流 量の 増加 を 伴う こと な く, エピ ネ フリ ンの 分 泌を 有意 に増加させ た。

  こ の 反応 はピ レ ンゼ ピン の 前投 与に よ り抑 制さ れ た。

以 上 よ り ,AF102Bは 交 感 神 経 節 刺 激 作 用 を 有 し , こ れは ム スカ リン 様M,受 容体 を 介し たも のであることが示唆された。

学位論文審査の要旨

    主 査  教 授  斎 藤秀 哉     副 査  教 授  本 間研 一     副 査  教 授  菅 野盛 夫

  新 し いM,受 容 体 作 動 薬AF102B, ( 土 ) ―CIS―2→methyl−spiro (1,3―oxathiolane― 5,3 )quinuclidine hydrochloride hemihydrateの交 感神 経 節伝 達に お よぼ す影 響 にっ い て 交 感 神 経 活 動 お よ び 副 腎 髄 質 機 能 を 指 標 と し て 麻 酔 ラ ッ ト を 対 象 に 検 討 し た 。 I. 実験 方法 : 13週 齢前 後のWistar系雄 ラ ット を用 い た。 実験 に は,神経無傷ラット ,調圧神 経 切断 ラ ット なら び に脊 髄破 壊 ラッ トを 用 いた 。urethaneとば‑ chloraloseの腹腔内 投与によ

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り麻酔し,gallamine triethiodideで不動 化した後,人工呼吸下にて実験をおこなった。

  副腎交感神経および下心臓交感神経は,それぞれ顕微鏡下で分離した。神経の中枢側断端を白 金一イリジウム双極電極に載せ,遠心性放電活動を増幅し,出カをオシロスコープでモニタ―し た。神経活動は,累積積分器で積分すると同時に,デー夕処理コンピュー夕一でノイズレベルを 越えた生体信号 を計測し,サ―マルアレイ ・レコーダーにて連続記録したのち解析した。

HPLC―ECD法に より 副腎 静脈血中工ピネフリン(Ep),ノルエピネフリン(NE) およびドー パミン(DA)濃度を測定した。

JI.結果 :1)神 経無 傷ラ ット で はAF102Bl mg7kgおよび10mg7kg投与により, 交感神経節 後線維である下 心臓交感神経活動(ICNA)は用量依存的かっ有意に増加した。この反応は,ア ト口ピン(l mg/kg)の前投与により拮抗さ れた。ICNA増加反応は調圧神経切断ラットでも 観察された。脊 髄破壊ラットでは,AF102BによるICNA増加反応は顕著となった。この反応 は,ピレンゼピン(50〃 g/kg)の前投与により拮抗された。交感神経節前線維である副腎交感 神 経活 動(ANA)はAF102Bl mg7kgおよ び10mg/kgの いずれの用量においても, 対照群と比 較して有意な増加反応を示さなかった。2)  AF102Bl mg/kgおよび10mg/kg投与により,副腎 静脈血中へのEp分泌速度は,副腎静脈血流量の変化を伴うことなく,用量依存的かつ有意に増 加した。AF102BによるEp分泌の亢進は,ピ レンゼピン(50〃 g/kg)の前 投与により有意に 抑 制さ れた 。3)神経 無 傷ラットの血圧は,AF102B投与により,lmg7kg投与群 では一過性 の降圧反応ののち軽度に上昇した。しかし,10mg/kg投与群では一過性の降圧後も,血圧は投与 前値を上回るこ とはなかった。AF102B投与による一過性の血圧低下はアト口ピン(lmg/kg) の前投与で抑制された。調圧神経切断ラットでも一過性の血圧低下が認められた。脊髄破壊ラッ トでは薬物投与 前の血圧は神経無傷ラッ卜と比較して有意に低値であり,AF1028 10mg/kg投 与で一過性に軽度に低下したのち有意に上昇した。この二相性の反応は,ピレンゼピン(50ILg/ kg)の前 投 与に より 有意 に抑制された。4)神経無 傷ラットの心拍数はAF102Bl mg/kgおよ び10mg/kg投与により,血圧と同様に一過性の徐脈ののち増加する用量依存的な二相性の反応を 示した。徐脈に対しアト口ピン(l mg/kg)は拮抗作用を示さなかったが,頻脈を有意に抑制し た。脊髄破壊ラットの心拍数も同じく二相性の反応を示した。心拍数増加反応は,ピレンゼピン (50ロg/kg)の前投与により有意に抑制された。

m.考察ならび に結語:AF102Bは神経無傷ラ ットにおいて,ICNAを用量 依存的に増加させ た。このICNA増 加反応が,AF102B投与直後 の一過性の血圧低下に対する反射性の反応であ る可能性は,調圧神経切断ラットにおいてもICNA増加がみられたことから否定される。また,

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脊髄破壊ラッ トでもICNA増加反応がみられたことから,中枢を介した交感神経興奮作用によ る 反応 では ない と 考え られ た。このAF102BによるICNA増加反応は選択的M,受容体拮 抗薬 であるピレン ゼピンで拮抗された。以上の結果は,AF102Bが星状神経節においてM,受容体を 介した交感神 経刺激作用を有することを示すものと考えられた。また,AF102Bは副腎髄質に おいて,ANAの増加を伴うことなくEp分泌 を亢進させ,この反応は,ピレンゼピンで有意に 拮抗された。 したがって,AF102Bは副腎髄質ク口マフィン細胞に存在するM,受容体を直接刺 激することにより,Ep分泌を亢進させたものと考えられる。

  口頭発表に際して,菅野 教授から,神経節M,受容体刺 激によるslow EPSPの発現機 序,

AF102BのM,受 容体に対する親和性など,本間教授からは脊髄破壊ラットの作成法,「脊髄破 壊をどのようにして確認したのか」にっいて質問があったが,申請者はおおむね適切な解答をな し得たと考える。また,副査の菅野および本間両教授からは,詳細なる論文審査ならびに面接の 試験が課せられた。

  本論文は, 新しいM,受容体作動薬AF102Bがinvivoにおいて交感神経節刺激作用を有し,

これはムスカリン様M,受容体を介したものであることを解明した研究であり学位に値すると判 定された。

参照

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