―クレーム交渉の発生状況、理由及び深刻度
14を中心に―
8.1 本章の目的
これまで、日中両国のクレーム交渉談話において、客側とサービス関係者側がどのよう な言語行動を取るのかについて対照分析を行った。
本章ではクレーム交渉の発生状況、理由及び深刻度について意識調査を行うことにより、
日本人と中国人の交渉に関する社会的通念及び商文化を考察する。また、自然談話のデー タに基づいて日中両国のクレーム交渉談話における交渉の方略について分析したが、自然 談話のデータが少ないため、結果の一般化は困難であると思われる。できる限り個人差の 少ない、共通性を見つけ出すために、量的調査及び質的調査を行うことにした。
8.2 調査 1 の概要
8.2.1 調査方法
日本人と中国人のクレーム交渉の発生状況、理由及び深刻度に関する意識を究明するた めに、選択式の量的調査を行った。調査用紙は日本語版及び中国語版を作成し、調査対象 者には母語で回答してもらった。
8.2.2 場面
2009 年から2012年の間にクレーム交渉場面に限定して自然談話の日本語と中国語それ ぞれ7会話ずつ計14例を収集した。本研究では収集した14場面を取り上げて、調査を行 った。
8.2.3 回収方法及び回収率
調査は電子メールアンケートという形式によってアンケートを実施した。調査 1 では日 本人母語話者50人にメールで送付し、そのうち32人から回答があり、回収率64%であっ た。中国人母語話者については50人のうち34人から回答があり、回収率68%であった。
14 ここではクレームの「深刻度」をクレームの重み、すなわち、客が自身の被った不利益や損害の程度を 指す。
調査は2012年3月15日~10月10日にかけて,海外で生活した経験がない日本人母語 話者及び中国人母語話者を対象として行った。被調査者数の情報は表8-1に提示する。
表8-1 調査1の被調査者数の情報
国 合計(人) 性別 人数(人)
日本 32 男性 17
女性 15
中国 34 男性 14
女性 20
8.2.5 アンケート用紙の構成
場面1 腕時計を購入して1週間で,ガラスの部分が割れたため初期不良として無料で修
理してもらいたかったが,修理代を求められた。
腕時計の値段:4万円弱 修理代の金額:4500円
質問1以上の例のようなクレーム内容は日常生活によく起こると思いますか?
Aよくある B時々ある Cあまりない Dほとんどない
質問2あなたが客である場合、交渉しますか?
A交渉する B交渉しない 理由:
質問3あなたは以上のような場面で発生した事態の深刻度についてどう思いますか?
A大変深刻である B深刻である Cそれほど深刻ではない Dとくに問題ない
調査は場面ごとに三つの質問を設定した。質問1では 14場面15で発生したクレームの事 態は日常生活によく起こるかどうかについて調査した。質問2においては、交渉の必要性 について調査した。また、その理由も述べてもらった。質問3においては、それぞれのク
1514場面すべてのアンケート用紙の構成は「付録調査票2」を参考のこと。
日本と中国における 14 場面で発生したクレーム事態の日常生活での発生状況を図 8-1 と図8-2に示す。また、14場面の全体的な発生状況に関する日中対照を図8-3に示す。
図8-1各場面で発生したクレーム事態の日常生活での発生状況(日本人の場合)
18.7
37.5 9.4
28.1 18.8
12.5 9.4
21.9 12.6 6.3
15.6 21.9 0
9.4
37.5
31.3 40.6
31.3 31.3
34.4 40.5
25 37.5 34.4
46.9 40.6 37.5
62.5
43.8 21.8 50
21.8 40.5 53.1
43.8 43.7 43.6 59.3
34.4 25 62.5
28.1
0% 20% 40% 60% 80% 100%
JP1 JP2 JP3 JP4 JP5 JP6 JP7 CN1 CN2 CN3 CN4 CN5 CN6 CN7
よくある 時々ある あまりない ほとんどない
図8-2各場面で発生したクレーム事態の日常生活での発生状況(中国人の場合)
図8-3クレームの事態が日常生活で発生状況に関する日中対照 5.9
17.6 5.9
11.8 5.9 0
11.8 17.6
20.6 11.8
26.5 11.8 8.8 8.8
23.5
32.4 23.5
32.4 17.6
8.8
23.5 23.5
35.3 20.1
29.4 38.2 32.4
38.2
32.4
29.4 29.4
41.2 58.9 50
32.4 32.4
29.4 23.5
26.5 26.5 23.5
47.1
38.2 20.6 41.2
14.6 17.6 41.2
32.3 26.5
14.7 44.6
17.6 23.5 35.3
5.9
0% 20% 40% 60% 80% 100%
JP1 JP2 JP3 JP4 JP5 JP6 JP7 CN1 CN2 CN3 CN4 CN5 CN6 CN7
よくある 時々ある あまりない ほとんどない
5.6 13.4
15.7
27.1
37.9
32.1
40.8 27.4
0% 20% 40% 60% 80% 100%
日本人 中国人
よくある 時々ある あまりない ほとんどんない
全体的に見てみると、14場面で発生したクレーム事態の日常生活での発生状況について、
日本人と中国人の間には、顕著な差が見られた。日本人に比べると、中国人の場合は「よ くある」と「時々ある」と回答する人が多いことが分かった。中国においては、クレーム の日常生活での発生頻度が日本より高い傾向があると言えるだろう。
日本の商品の「高品質」というイメージは世界で認められている。日本はすでに商品飽 和社会になって、国内市場の競争が激しくなってきたため、日本の企業では商品やサービ スなどを徹底的に管理することが求められているのというのが一つの原因である。また、
日本では、「品質システムの国際規格であるISO9000シリーズ16」などの品質システム及び
「製造物責任法(PL 法)17」や「消費生活用製品安全法18」などの法律が導入されたこと により、さらに商品の品質が確保されているとも言える。
しかし、90年代以降、中国も売り手市場から買い手市場へ転換して、現場の生産管理能 力、市場の販売・サービス能力や製品の開発能力を高めてきたが、まだ商品やサービスな どに関するトラブルは多いようである。
吉城(2009:46)は以上の問題意識のもとに、中国人消費者を対象とした品質に関する意 識調査をアンケート形式で行った。その結果を以下表8-2に示す。
表8-2 各国製品の品質に関するアンケート結果
5.
非常に良い
4.
比較的良い
3.どちらとも いえない
2.
比較的悪い
1.
非常に悪い 中国製品の
品質
4 1.4% 61 21.1% 121 41.9% 90 31.1% 13 4.5%
韓国製品の 品質
10 3.5% 94 32.5% 117 40.5% 39 13.5% 29 10.0%
日本製品の 品質
37 12.8% 143 49.5% 60 20.8% 29 10.0% 20 6.9%
吉城(2009:46)によると、中国の消費者も自国の商品やサービスにあまり高い信頼性は
置いていない。商品品質・サービスを向昇させるためのシステムや法律などを徹底的に実
161987年、良い品質の製品を作り出すことにつながる品質システムについて、第三者の審査機関が審査を することで、国際的な認められた品質システムとして、どこの国の企業とも取引を行うことが容易になる メリットがあった。(ISO:International Organization Standardization 国際標準化機構の省略)
17 1995年に製造物責任法(PL法)が制定され、製造者の過失によらず、製造物に欠陥があったことが証
明された場合、被害者が、製造者に対して損害賠償を求めることができるようになった
18 2006年に、改正消費生活用製品安全法が施工され、製品事故について、経済産業省への報告を義務化さ
れるようになり、家庭用成員の重大事故への関心がより高まった。
行できないという問題点は日本ではすでに解決されているが、中国ではいまだ問題が残さ れているといえるだろう。
吉城(2009:46)
具体的に見てみると、さらに場面間の差も見られた。14の場面のうちCN7については最 も差が見られた。
CN7 については、「よくある」と「時々ある」と回答した日本人母語話者は 9.4%しか占 めていなったのに対して、「よくある」と「時々ある」と回答した中国人母語話者は約半分 であった。
CN7 はスーパーで買ったフライドチキンが腐ったようなので交換してもらうように交渉 する談話である。日本では、スーパーの食品衛生管理が厳しいので、腐った商品を販売す ることはあまり多くない。また、たとえそのような事態が発生しても、サービス関係者が ただちに交換や返品するように対応するのが普通である。
図8-5 クレーム交渉の必要性に関する結果(中国人の場合)
図8-6 クレーム交渉の必要性に関する日中対照
全体的に見てみると、日中両国には、大きな違いはなかった。14 例のうち、もっとも違 いが見られたのは談話例のJP6、CN1、CN2であった。
52.9
23.5 20.1 88.2
26.5 61.8
94.1 70.6
50
94.185.394.1 82.4
52.9 47.1
76.5 79.9 11.8
73.5 38.2
5.9 29.4
50
5.9 14.7 5.9 17.6
47.1
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
交渉しない 交渉する
63.2 64
36.8 36
0% 20% 40% 60% 80% 100%
日本人 中国人
交渉する 交渉しない
8.2.6.2.1 談話例CN1の場合
CN1は不良品の交換についてのクレーム交渉談話である。「交渉する」と回答する中国人 母語話者人が 70%以上を占めているのに対して、日本語母語話者の回答率は半分以下であ ることが分かった。
「交渉する」と回答した理由を分析した結果は図8-7に示す。
図8-7 「交渉する」と回答した理由(CN1の場合)
一方、「交渉する」と回答した中国人母語話者の理由を分析した結果、「一ヶ月は早すぎ る」、「明らかな初期不良なので、交換できると思う」、「二回目で故障したので、もうこの 店は信用できない」などの理由が見られた。
一般的に中国で欠陥商品が販売されていることが日本より多いことは事実である。この ため、中国では欠陥商品の存在を前提とした商習慣ができている。そして、このような商 習慣があるため、中国の消費者は、欠陥商品が出たら、返品できるという期待を持ってい る。
36.3 13.4
18.2 26.8
45.5 46.4
0 13.4
0% 20% 40% 60% 80% 100%
日本人 中国人
一ヶ月は早すぎる 明らかな初期不良 二回目の故障 商品自体が高い
「交渉しない」と回答した理由を分析した結果を図8-8に示す。
図8-8「交渉しない」と回答した理由(CN1の場合)
「交渉しない」と回答した日本人母語話者の理由を分析した結果、「買ってから一ヶ月以 上経ったので、初期不良かどうか判断できない」、「使用の頻度を店側に証明できない」、「店 側は修復するサービスを提供しているので、返品するのではなく、修復を依頼する」など の理由が観察された。
8.2.6.2.2 談話例JP6の場合
JP6とCN2は金銭的な利益に関わるクレーム交渉談話である。
JP6は契約後 1ヶ月でちょうど1年間になるので短期違約金を払わなくてもいいかにつ いて賃貸管理会社と交渉する談話である。その場合では、「交渉する」と回答する中国人母 語話者人が 61.8%であったのに対して日本語母語話者の回答率は 28.1%しか占めていなか った。
「交渉しない」と回答した人の理由を分析した結果を図8-9に提示する。
19 22.2
23.8 55.6
42.8 22.2
4.8 0
9.6 11.1
0% 20% 40% 60% 80% 100%
日本人 中国人
一ヶ月以上経った
使用の頻度を証明できない 修復を依頼する
商品自体は高くない 面倒だから