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マルチキャリア信号の適応ピーク電力制御に関する 研究

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

マルチキャリア信号の適応ピーク電力制御に関する 研究

景山, 知哉

https://doi.org/10.15017/4060186

出版情報:Kyushu University, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

      

マルチキャリア信号の適応ピーク電力制御に関する研究

令 和 2 年 3 月

九州大学大学院 システム情報科学府 情報知能工学専攻 景 山 知 哉

      

(3)

概要

近年スマートフォン等の移動体端末の普及やIoT (Internet of things)等の新たな通信デバイス の登場により,高速かつ大容量なデータ伝送への需要が高まっている. その実現には,無線/有線 通信を連携させたシステム設計とその大容量化が重要となる. 無線通信の大容量化を実現する 手法として,極めて多数のアンテナ素子を用いて通信を行う多素子 MIMO (massive multi-input

multi-output)技術が注目されている. また,既存の電力線を用いて屋内通信網を構築する手段と

して電力線通信(PLC: Power line communication)が広く普及している. ところで,直交周波数分 割多重(OFDM: Orthogonal frequency division multiplexing)に代表されるマルチキャリア変調方 式は無線通信および電力線通信における高速伝送技術として広く用いられている. この方式では, 伝送データを周波数の異なる複数の狭帯域信号,サブキャリアに分割して伝送することで,各サ ブキャリアあたりの伝送速度を低速化できるので,伝送路の遅延波による符号間干渉の影響を軽 減できる. しかしながら,マルチキャリア信号は複数のサブキャリアが合成されたものであるた め,各サブキャリアの位相が同位相となった場合に合成振幅の最大値が上昇する. そのため信号 のピーク電力対平均電力比 (PAPR: Peak-to-average power ratio)が高くなり,電力増幅器におけ る非線形歪みに起因した波形歪みが生じる.電力増幅器の入出力特性の線形領域のみを利用する ことで非線形歪みの影響を軽減できるが,そのような電力増幅器は一般的に電力効率が非常に低 い. この問題を解決するには,電力増幅器の入力信号のピーク電力を低減することが有効である. しかしながら,ピーク電力を制限することは通信品質に影響を与えるため,対象とする通信システ ムの要求条件や通信媒体の性質に合わせて送信信号のピーク電力を最適に制御することが求めら れる.

本研究では,マルチキャリア無線通信/電力線通信システムを対象として, その送信信号のピー ク電力低減に関する課題を解決するために以下の3つの検討を行った. 第1に,多素子MIMO とOFDMを併用する多素子MIMO-OFDMシステム用のピーク電力低減技術として,適応ピー クキャンセラ方式と余剰の空間自由度を活用した帯域内歪み補償技術を提案した. 一般的に無 線通信では帯域外へのスペクトル放射が厳しく規制されているため,隣接チャネル漏洩電力比 (ACLR: Adjacent channel leakage power ratio)を許容値以下に抑える必要がある. また,ピークリ

(4)

ミタにより生じる帯域内歪み電力量は エラーベクトル振幅(EVM: Error vector magnitude)とし て規定される. 適応ピークキャンセラ方式は,帯域制限された抑圧信号を反復的に加算すること

で, ACLRとEVMを許容値以下に抑えながら送信信号のピーク電力を低減するものである.さ

らに,多素子MIMOの余剰のアンテナの一部を用いて帯域内歪み補償信号を送信することで,受 信機側で特別な処理を行うことなくピークキャンセラによる帯域内歪みを補償できる.計算機シ ミュレーションおよび理論解析によって提案方式の有効性を明らかにした.

第2 に, 各サブキャリアを帯域制限することでサイドローブスペクトルを低減したマルチ キャリア方式として OFDM/OQAMに着目し,そのピーク電力を低減可能な PS-OSLM (Partial scrambling based overlapped selected mapping) 方式を提案した. 従来, 変調シンボルに対する データマッピングを変更することでピーク電力を最小化させる手法として, 選択マッピング (Selected mapping: SLM)方式がOFDMに対して提案されている. しかしながら,帯域制限波で

あるOFDM/OQAMでは隣接シンボル間で符号間干渉を生じるため,従来のSLMを適用しても

ピーク電力の抑圧効果を十分に得ることができない. 提案方式(PS-OSLM)では,複数シンボル区 間を観測し,そのピーク電力を最小化することで帯域制限波であるOFDM/OQAM信号のピーク 電力を効果的に低減できる. また, SLMにおけるデータマッピングを変更する手法として,送信 シンボルの最上位ビットのみをスクランブルする方式を提案し,従来の全ビットをスクランブル する方式に比べて多値変調を用いる場合に受信特性を大きく改善できることを示した.計算機シ ミュレーションにより提案方式の有効性を明らかにした.

第3に,電力線通信用のピーク電力抑圧技術として, e-SLM (Enhanced SLM)方式を提案した. 電力線伝送路には様々な電子機器が接続されているため,それらが発生させるインパルス性雑音 が受信特性に影響を与える.そのため,電力線通信においては,送信電力増幅器の非線形歪みだけ でなく,受信機におけるインパルス雑音の影響を考慮したピーク電力抑圧技術が求められる.受 信機側においてインパルス性雑音を検出除去するには,受信信号のピーク電力が低いことが望ま しい. しかしながら,送信信号のピーク電力が低減されている場合でも,多重波伝搬路通過後の受 信信号のピーク電力が低いとは限らない. 提案方式であるe-SLMは,送信機側のピーク電力抑圧 と受信機側のインパルス性雑音抑圧を同時に実現する手法であり,送信信号と受信信号のピーク 電力の推定値の重み付き和を最小化するように変調シンボルに対するデータマッピングを変更す るものである.これにより,送信機側における電力増幅器の非線形歪みと,受信機側におけるイン パルス性雑音の影響を共に軽減できる. 提案方式の特性を計算機シミュレーションによって評価 し,その有効性を明らかにした.

最後に,筆者が提案する高速有線/無線連携通信システムの案を示し,本論文の提案技術の適用 範囲について考察を与えた.

(5)

i

目次

略語一覧 1

第1章 序論 7

1.1 本研究の背景 . . . 7

1.2 本研究の課題 . . . 9

1.2.1 MIMO-OFDMシステムにおけるピーク電力低減の課題 . . . 9

1.2.2 帯域制限型マルチキャリア方式におけるピーク電力低減における課題 . 10 1.2.3 OFDMを用いる電力線通信におけるピーク電力低減の課題 . . . 10

1.3 本論文の目的 . . . 11

1.4 本論文の章構成 . . . 11

第2章 MIMOマルチキャリア信号のための適応ピークキャンセラの提案と性能解析 13 2.1 関連研究とその課題 . . . 13

2.2 システムモデル . . . 14

2.2.1 電力増幅器モデル. . . 16

2.2.2 評価指標 . . . 17

2.2.2.1 ACLR . . . 18

2.2.2.2 EVM . . . 18

2.2.2.3 CCDF . . . 19

2.2.2.4 ビット誤り率(BER) . . . 19

2.3 MIMOにおける空間信号処理 . . . 20

2.3.1 線形空間フィルタリング . . . 20

2.3.1.1 SU-MIMOにおける線形空間フィルタリング . . . 20

2.3.1.2 MU-MIMOにおける線形空間フィルタリング . . . 21

2.3.1.3 ZFプリコーディング . . . 22

(6)

ii

2.3.1.4 MRCプリコーディング . . . 22

2.3.2 非線形プリコーディング . . . 23

2.3.2.1 THP . . . 23

2.3.2.2 VP . . . 25

2.4 適応ピークキャンセラ . . . 26

2.4.1 ピーク抑圧信号の構成 . . . 26

2.4.2 ピーク電力抑圧アルゴリズム . . . 27

2.4.3 ピーク検出閾値の選択 . . . 30

2.5 適応ピークキャンセラ適用時の理論BER特性の導出. . . 33

2.5.1 QPSK変調時の理論BER特性の導出 . . . 33

2.5.2 多値QAM変調時の理論BER特性の導出 . . . 35

2.5.3 レイリーフェージング下の理論BER特性の導出 . . . 36

2.5.4 E-SDM伝送を用いるMIMO-OFDMシステムの理論BERの導出 . . . 37

2.5.5 MRCプリコーディングを用いる多素子MIMO-OFDMシステムにおけ る理論BER特性の導出 . . . 37

2.6 ピークキャンセラ適用時の多値QAM信号の受信信号判定閾値 . . . 40

2.7 余剰アンテナを活用した歪み補償方式 . . . 41

2.7.1 線形プリコーディング時の余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償 . . 41

2.7.2 所要EVMに応じた帯域内歪み補償方式 . . . 43

2.7.3 非線形プリコーディング時の余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償 . 46 2.7.4 全アンテナを用いた繰り返し歪み補償方式 . . . 49

2.8 特性評価 . . . 51

2.8.1 SISO-OFDMシステムにおける特性評価 . . . 51

2.8.1.1 計算機シミュレーション評価 . . . 51

2.8.1.2 SISO-OFDMにおける理論BER特性評価 . . . 56

2.8.2 E-SDM MIMO-OFDMシステムにおける特性評価 . . . 60

2.8.2.1 計算機シミュレーション評価 . . . 60

2.8.2.2 E-SDM MIMO-OFDMにおける理論BER特性評価 . . . 63

2.8.3 多素子MIMO-OFDMシステムにおける特性評価 . . . 67

2.8.3.1 計算機シミュレーション評価 . . . 67

2.8.3.2 多素子MIMO-OFDMにおける理論BER特性評価 . . . 78

2.9 まとめ . . . 79

(7)

iii

第3章 帯域制限型マルチキャリア信号に適したピーク電力抑圧技術の提案と特性評価 81

3.1 関連研究とその課題 . . . 81

3.2 システムモデル . . . 82

3.2.1 OFDM/OQAM信号の直交条件 . . . 82

3.2.1.1 IFFT/FFTを用いるOFDM/OQAM送受信機の構成 . . . 84

3.3 OFDM/OQAM信号のための拡張SLM方式 . . . 85

3.3.1 自己同期スクランブラを用いるSLM (SS-SLM)方式 . . . 85

3.3.2 部分スクランブルSLM(PSS-SLM)方式 . . . 86

3.3.3 PS-OSLM方式 . . . 87

3.4 特性評価 . . . 90

3.5 まとめ . . . 94

第4章 マルチキャリア電力線通信へのピーク電力抑圧技術の応用 97 4.1 関連研究とその課題 . . . 97

4.2 システムモデル . . . 98

4.3 伝送路モデル . . . 99

4.3.1 数式モデル . . . 99

4.3.2 実伝送路モデル . . . 100

4.4 インパルス性雑音モデル . . . 101

4.5 インパルス性雑音の軽減処理を考慮したSLM型ピーク電力低減方式 . . . 102

4.6 インパルス性雑音の軽減処理(ブランキング) . . . 104

4.7 e-SLMのための伝送路推定手法 . . . 105

4.8 理論検出率(PoD)と理論誤警報率特性(PoF)の解析 . . . 106

4.8.1 検出率特性(PoD) . . . 106

4.8.2 誤警報確率特性(PoF) . . . 107

4.9 ブランキング適用時の理論BER特性解析 . . . 108

4.10 特性評価 . . . 109

4.10.1 PoD特性とPoF特性 . . . 109

4.10.2 ブランキング適用時の理論BER特性 . . . 112

4.10.3 e-SLM方式のピーク電力抑圧特性. . . 114

4.10.4 BER特性 . . . 116

4.11 まとめ . . . 124

(8)

iv

第5章 結論 125

参考文献 129

付録 137

謝辞 139

発表文献一覧 141

(9)

1

略語一覧

ACLP Adjacent channel leakage power ACLR Adjacent channel leakage power ratio AGC Auto gain controll

AWGN Additive white Gaussian noise BER Bit error rate

BS Base station

CCDF Complementary cumulative distribution functions

CE Channel estimation

C&F Clipping & filtering CSI Channel state information

E-SDM Eigenbeam-spatial division multiplexing e-SLM enhanced selected mapping

EVM Error vector magnitude FFT Fast Fourier transform

GI Guard interval

IBO Input back off

IFFT Inverse fast Fourier transform IoT Internet of things

ISI Inter symbol interference

mMIMO Massive multi-input multi-output MIMO Multi-input multi-output

MRC Maximum ratio combining

MSE Mean square error

MU-MIMO Multi-user multi-input multi-output

OFDM Orthogonal frequency division multiplexing OQAM Offset quadrature amplitude modulation

PA Power amplifier

(10)

2

PAPR Peak-to-average power ratio PC Peak cancellation

PDF Probability density function PoD Probability of detection PoF Probability of false alarm PLC Power line communication P/S Parallel-to-sereal

PSS-SLM Partial self-synchronized scrambler based selected mapping PS-OSLM Partial scrambling overlapped selected mapping

QAM Quadrature amplitude modulation QPSK Quadrature phase shift keying ROC Receiver operating characteristic SDMA Spatial division multiple access SDNR Signal-to-distortion and noise ratio SISO Single-input single-output

SLM Selected mapping SNR Signal-to-noise ratio S/P Serial-to-Parallel

SSPA Solid state power amplifier

SS-SLM Self-synchronized scrambler based selected mapping SU-MIMO Single-user multi-input multi-output

THP Tomlinson-Harashima precoding

UE User equipment

VP Vector perturbation

ZF Zero forcing

(11)

3

図目次

1.1 伝送路における歪みの影響. . . 8

2.1 MIMOマルチキャリア無線通信のシステムモデル. . . 15

2.2 GI部の構成. . . 15

2.3 無線通信システムの分類. . . 16

2.4 SSPAの入出力特性. . . 17

2.5 隣接チャネルへの影響と帯域外輻射電力. . . 18

2.6 理想的な信号点と観測された信号点の誤差. . . 19

2.7 THPにおけるmodulo演算の例. . . 24

2.8 VPにおける候補信号点. . . 25

2.9 抑圧信号基本波の時間領域波形. . . 27

2.10 抑圧信号基本波の周波数領域波形. . . 27

2.11 MIMO-OFDMシステムにおける提案帯域内歪み推定手法. . . 29

2.12 ピーク検出閾値の選択方法. . . 32

2.13 BER解析のモデル化. . . 33

2.14 ピークキャンセル時に発生する歪み分布の概念図. . . 34

2.15 QPSK信号のピーク電力抑圧後の信号振幅分布. . . 34

2.16 グレイ符号化16QAM信号の信号振幅分布. . . 36

2.17 線形プリコーディング時の余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償適用時の基 地局構成. . . 42

2.18 所要EVMに応じた歪み補償の概念図(2ユーザ時). . . 44

2.19 非線形プリコーディング時の余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償適用した 基地局構成. . . 47

2.20 非線形プリコーディング時の電力制御手法. . . 48

2.21 全アンテナを用いる反復歪み補償方式を用いる送信機構成. . . 50

(12)

4

2.22 繰り返し変形C&F方式のブロック図. . . 51

2.23 SISO-OFDMシステムにおける送信信号の正規化瞬時電力値のCCDF特性. . . 53

2.24 SISO-OFDMシステムにおける適応ピークキャンセラの計算量評価. . . 53

2.25 適応ピークキャンセラ適用時のOFDM信号の電力スペクトルの一例. . . 55

2.26 適応ピークキャンセラを用いた場合のIBOとACLRの関係. . . 55

2.27 SISO-OFDMにおける白色ガウス雑音下でのQPSK信号のBER特性. . . 56

2.28 SISO-OFDMにおける白色ガウス雑音下での16QAM信号のBER特性. . . 57

2.29 SISO-OFDMにおける白色ガウス雑音下での64QAM信号のBER特性. . . 57

2.30 最適な判定閾値を用いた場合のBER特性. . . 58

2.31 SISO-OFDMにおけるレイリーフェージング下でのQPSK信号のBER特性. . 59

2.32 SISO-OFDMにおけるレイリーフェージング下での16QAM信号のBER特性. 59 2.33 SISO-OFDMにおけるレイリーフェージング下での64QAM信号のBER特性. 60 2.34 4×2 E-SDM伝送における送信信号の瞬時電力値のCCDF特性(N=4,M=2). . . 61

2.35 E-SDM伝送における適応ピークキャンセラ適用時の計算量評価. . . 62

2.36 4×2 E-SDM伝送におけるQPSK信号の平均BER特性. . . 63

2.37 4×2 E-SDM伝送における16QAM信号の平均BER特性. . . 64

2.38 4×2 E-SDM伝送におけるQPSK信号の平均BER特性. . . 64

2.39 4×2 E-SDM伝送における16QAM信号の平均BER特性. . . 65

2.40 4×2 E-SDM伝送におけるQPSK信号のBER特性(EVM=-20 dB). . . 65

2.41 4×2 E-SDM伝送における16QAM信号のBER特性(EVM=-25 dB). . . 66

2.42 多素子MIMO-OFDMにおける送信信号瞬時電力値のCCDF特性. . . 68

2.43 全アンテナを用いる歪み補償と専用アンテナを用いる歪み補償を用いる場合の 送信信号の瞬時電力値CCDF特性の比較. . . 69

2.44 適応ピークキャンセラと帯域内歪み補償を用いる場合の増幅器の IBOとACLR の関係. . . 70

2.45 適応ピークキャンセラとその帯域内歪み補償適用時の余剰アンテナ数と受信 SDNRの関係. . . 71

2.46 適応ピークキャンセラと帯域内歪み補償適用時の余剰アンテナ数とBERの関係. 72 2.47 適応ピークキャンセラとその帯域内歪み補償適用時のBER特性. . . 73

2.48 全アンテナを用いる歪み補償と専用アンテナを用いる歪み補償適用時のBER特 性の比較. . . 74

(13)

5

2.49 THPプリコーディングを用いる多素子MIMO-OFDMにおける適応ピークキャ

ンセラとその帯域内歪み補償適用時のBER特性. . . 75

2.50 有相関チャネルにおける非線形プリコーディング適用時のBER特性. . . 77

2.51 MRC プリコーディングを用いる多素子MIMO-OFDMにおけるピークキャン セラ適用時のBER特性(EVM=-20dB,M=2). . . . 78

2.52 MRC プリコーディングを用いる多素子MIMO-OFDMにおけるピークキャン セラ適用時のBER特性(EVM=-20dB,M=4). . . . 79

2.53 MRC プリコーディングを用いる多素子MIMO-OFDMにおけるピークキャン セラ適用時の理論BER特性(M=8). . . 80

3.1 隣接サブキャリアが帯域制限されている場合のスペクトル図. . . 82

3.2 IFFT/FFTを用いるOFDM/OQAMシステムの送受信機構成. . . 84

3.3 グレイ符号化64QAM変調におけるコンスタレーションの推移の例. . . 86

3.4 OFDM/OQAMシステムの送信機構成. . . 88

3.5 PS-OSLMの動作の概念. . . 89

3.6 PS-OSLM適用時の送信信号正規化瞬時電力値CCDF特性. . . 90

3.7 PS-OSLM適用時の観測シンボル数(Nb)とピーク電力値の関係. . . 91

3.8 候補系列数と正規化瞬時電力値の関係. . . 92

3.9 静特性環境におけるPS-OSLM適用時の理論BER特性. . . 93

3.10 PS-OSLM適用時のOFDM/OQAMシステムのBER特性. . . 94

4.1 PLC-OFDMシステム構成. . . 98

4.2 PLC伝送路トポロジーモデル. . . 99

4.3 PLC伝送路の実測周波数応答. . . 101

4.4 e-SLMの送信機構成. . . 102

4.5 ブランキング時のe-SLMの効果. . . 104

4.6 適応windowing方式. . . 105

4.7 検出率特性. . . 110

4.8 誤警報率特性. . . 110

4.9 ROC曲線. . . 111

4.10 ブランキング適用時の理論BER特性. . . 112

4.11 ブランキング閾値Abと理論BER特性の関係. . . 113

4.12 送信信号の瞬時電力値のCCDF特性. . . 114

(14)

6

4.13 αとCCDF=104における正規化瞬時電力値の関係. . . 115

4.14 Eb/N0とCCDF=104における正規化瞬時電力値の関係. . . 116

4.15 ブランキング閾値とBERの関係(QPSK,Eb/N0 =25 dB,U =64). . . 117

4.16 ブランキング閾値とBERの関係(16QAM,Eb/N0=25 dB,U =64). . . 118

4.17 e-SLM適用時の電力線通信におけるαとBERの関係(16QAM,U=64,Ab=7 dB). . . 119

4.18 e-SLM 適用時の電力線通信におけるBER 特性(QPSK, IBO=4dB, U = 64, Ab=7 dB). . . 120

4.19 e-SLM適用時のBER特性(16QAM, IBO=4dB,U=64,Ab=7 dB). . . 121

4.20 適応windowing方式の窓幅とBERの関係. . . 122

4.21 実測チャネルMeasured channel IにおけるBER特性. . . 123

4.22 実測チャネルMeasured channel IIにおけるBER特性. . . 124

5.1 有線/無線連携通信システムの一例と各技術の適用範囲. . . 127

(15)

7

第 1

序論

1.1 本研究の背景

スマートフォンやタブレット端末等の移動体通信機器の普及により,無線通信のトラフィック は毎年2倍, 10年で約1000倍のペースで増大しており,高速かつ大容量のデータ伝送の需要が 高まっている[1]-[2].また,いわゆるモノのインターネット(IoT: Internet of things)とよばれる多 数のデバイスによる無線接続の登場により,端末の多元接続の需要も高まっている. その一方で, 利用可能な無線通信帯域は限られているため,周波数利用効率の改善が求められている.

このような問題に対処するには, 通信エリアの狭い無線基地局を多数配置するスモールセ ル化を図るとともに, 無線通信と有線通信を連携させた通信システムを構築することが有 効である. 無線通信の大容量化を実現する手段として,複数のアンテナ素子を通信に用いる MIMO (Multi-input Multi-output) 技術が有効である[3]-[5]. 特にアンテナ素子数が多数である 場合,多素子 MIMOと呼ばれ,次世代無線通信における主要技術として広く検討がなされてい る [6]-[10]. また,既存の有線回線である電力伝送線を用いる高速電力線通信(PLC: Power line communication) [11]-[13]は屋内高速通信網を構築する手段として広く検討されており*1,無線通 信と連携することでより柔軟な通信網の構築が可能となる.

ところで,無線通信および電力線通信ではいずれも高速伝送方式として,直交周波数分割多重伝 送(OFDM: Orthogonal frequency division multiplexing)に代表されるマルチキャリア変調方式が 用いられる [16]-[18]. マルチキャリア変調とは, 図1.1に示したように送信すべき情報を複数の 狭帯域サブキャリアに分割して送信する手法である.マルチキャリア変調ではサブキャリアあた りの伝送速度を低速化できるため,符号間干渉の影響を軽減できる.また,周波数ごとに異なる歪

*1高速PLC,例えば米国ではHomePlug Powerine AllianceによってHomeplugAV [14],国内ではパナソニック社 によってHD-PLC (High definition PLC) [15]等の規格が提案されており,屋内環境において1Gbpsの伝送速度を 達成するための通信媒体として国内外で研究が進められている

(16)

1.1. 本研究の背景 8

࿘Ἴᩘ

ఏ㏦㊰䛾ఏ㐩≉ᛶ

(a) シングルキャリア変調.

࿘Ἴᩘ

ఏ㏦㊰䛾ఏ㐩≉ᛶ

(b)マルチキャリア変調.

図1.1伝送路における歪みの影響.

みを有する周波数選択性の伝搬路にも強い伝送方式であることから,マルチパスを有する無線伝 搬環境や電力線通信に適した変調方式である.周波数領域に信号を多重させるマルチキャリア変 調は,空間領域で多重を行うMIMO技術と併用でき(MIMO-OFDM),さらなる伝送速度の高速 化が可能となる.

しかしながら,一般的なOFDMではそのベースバンドパルスとして矩形波を用いており,帯域 外にsinc関数状のスペクトル(サイドローブ)が生じる.この問題に対して,各サブキャリアに帯 域制限を行う帯域制限型(フィルタバンク型)マルチキャリア方式が検討されている[19]-[23].

帯域制限型マルチキャリア方式の中でも, 各サブキャリアを直交多重させるためにオフセッ ト QAM (Offset quadtarute amplitude modulation) を用いるものはOFDM/OQAMと呼ばれる.

OFDM/OQAMは各サブキャリアを帯域制限しながらサブキャリアの間隔を最小とすることが

でき,高いスペクトル効率を有するため,次世代無線通信システムの変調方式として検討されて

いる[24]-[25]. しかしながら,周波数帯域を制限するOFDM/OQAMでは原理的にフィルタのイ

ンパルス応答が時間制限されないため,シンボル間の干渉(ISI: Inter symbol interference)が発生 する.

ところで,マルチキャリア変調方式では,伝送データを周波数の異なる複数の狭帯域信号,サブ キャリアに分割して伝送することで,各サブキャリアあたりの伝送速度を低速化できるので,伝送 路の遅延波による符号間干渉の影響を軽減できる.しかしながら,マルチキャリア信号は複数のサ ブキャリアが合成されたものであるため,各サブキャリアの位相が同位相となった場合に合成振 幅の最大値が上昇する. そのため信号のピーク電力対平均電力比(PAPR: Peak-to-average power

ratio)が高くなり,電力増幅器における非線形歪みに起因した波形歪みが生じる. 電力増幅器の入

出力特性の線形領域のみを利用することで非線形歪みの影響を軽減できるが,そのような電力増 幅器は一般的に電力効率が非常に低い.この問題を解決するには,電力増幅器の入力信号のピーク 電力を低減することが有効である. しかしながら,ピーク電力を制限することは通信品質に影響 を与えるため,対象とする通信システムの要求条件や通信媒体の性質に合わせて送信信号のピー

(17)

1.2. 本研究の課題 9 ク電力を最適に制御することが求められる.

OFDM信号用の従来のピーク電力低減技術は大別して種々のリミタを用いて振幅制限を行う 方法と,各サブキャリアの変調シンボルへのデータマッピングを制御し,ピーク値の出現確率を減 らす手法に分類できる[26]-[27]. 前者の手法は信号処理が比較的簡易であるが, ピーク電力の抑 圧量に応じて信号に歪みが発生することが問題となる. 一方,後者の方式は信号に歪みを与える ことなくピーク電力を低減することができるが,データマッピングの変更情報を受信機側に通知 する必要があるため,伝送効率が劣化する. また,受信機側において信号を復元するための信号処 理を行う必要がある.このように,ピーク電力の低減処理に要する損失を考慮して,対象とする通 信システムの要求条件に適したピーク電力低減技術を考案する必要がある.

1.2 本研究の課題

本研究では,マルチキャリア無線通信/電力線通信システムを対象として, その送信信号のピー ク電力低減に関する課題を解決するために,以下の3つの検討を行った. それぞれの伝送媒体に おける課題を示す.

1.2.1 MIMO-OFDM

システムにおけるピーク電力低減の課題

OFDMを用いる無線通信システムの下り回線では,端末の簡素化の観点から,送信機側で処理 が完結するC&F (Clipping & filtering)に代表されるリミタ型のピーク電力抑圧技術を用いるこ とが有効である [28]-[32]. C&Fは,リミタによる振幅制限とそれにより生じた帯域外輻射を帯 域制限フィルタによりカットする手法である. 帯域制限時にピーク振幅の再生成が生じるため, ピーク電力を十分に低減するためにはC&Fを繰り返し適用する必要があり,その場合には計算 量が増大する[33]-[34].特に, MIMO-OFDMにC&Fを用いる場合はアンテナ毎に処理を行う必 要があるため,低演算量化が求められる.また,ピークリミタはピーク電力の低減量に応じて信号 に帯域内歪みおよび帯域外輻射を発生させる.一般的に無線通信では帯域外へのスペクトル放射 が厳しく規制されているため,隣接チャネル漏洩電力比(ACLR: Adjacent channel leakage power

ratio)を許容値以下に抑える必要がある. また,ピークリミタにより生じる帯域内歪み電力量はエ

ラーベクトル振幅 (EVM: Error vector magnitude)として規定される. したがって,基地局におけ る要求条件である EVMとACLRを許容値以下に抑えながらピーク電力を抑圧できるピークリ ミタが求められる.

(18)

1.2. 本研究の課題 10

1.2.2

帯域制限型マルチキャリア方式におけるピーク電力低減における課題

帯域制限型マルチキャリア方式にリミタ方式のピーク電力抑圧技術を適用すると,リミタでの 非線形歪みに起因した帯域外輻射が再上昇する. したがって,非線形歪みを生じることなくピー ク電力を抑圧可能なSLMに代表される位相制御型のピーク電力抑圧技術が望ましい[35]-[37].

従来,自己同期スクランブラ(Self-synchronized scrambler)を用いるSLM方式として, SS-SLM (Self-synchronized scrambler based SLM)方式が提案されている[38]. SS-SLMはスクランブラ の初期値を変更することで,同じ入力系列から複数の異なるスクランブラ出力を生成することが できる.受信機側にはスクランブラの初期値を通知することで,デスクランブラを用いて元の系列 を復元できる. しかしながら, SS-SLMでは受信信号系列に誤りが生じた場合にデスクランブル 時に誤り伝搬による特性劣化が問題となる. また,従来のSS-SLM方式を帯域制限型マルチキャ リア信号に適用する場合には,隣接シンボル間での符号間干渉の影響によりピーク再生成が生じ るため,ピーク電力の抑圧効果を十分に得ることができない.したがって,帯域制限型マルチキャ リア信号に対しては,シンボル間の干渉の影響(ピーク再生成の影響) を抑制可能なピーク電力抑 圧技術を考案する必要がある.

1.2.3 OFDM

を用いる電力線通信におけるピーク電力低減の課題

電力線通信では伝送路に接続された様々な電子機器が発生させるインパルス性雑音が受信特性 に影響を与える[39]-[42]. 従来,受信機側においてインパルス性雑音の影響を軽減する手法とし て,ある閾値を超える受信値をインパルス性雑音とみなして除去するブランキングと呼ばれる方 式が検討されている[43]-[51]. しかしながら,ブランキングを用いる場合はインパルス性雑音の 抑圧時に受信信号に歪みが生じる. 特に送信信号にOFDMを用いる場合,信号の高いピーク電力 がインパルス性雑音の誤検出を増加させ,ビット誤り率(BER: Bit error rata)特性を大きく劣化さ せる. インパルス性雑音と受信信号成分を十分に識別するためには, 受信信号のPAPRができる だけ低いことが望ましい. 送信信号のピーク電力が低減されている場合でも,伝送路において遅 延波が合成されるため受信信号にはピーク電力が再生成される. したがって,ブランキングを用 いる電力線通信では,受信信号のピーク電力再生成を抑制しながら送信信号のピーク電力を低減 可能な技術を考案する必要がある.

本論文で対象とする各伝送媒体の特徴と要求条件を表1.1に示す*2.

*2電力線通信においても,伝送路外への漏洩電力を制限するために帯域外輻射が問題となる場合もあるが,本論文で

(19)

1.3. 本論文の目的 11 表1.1各伝送媒体の特徴.

ఏ㏦፹య 䝢䞊䜽㟁ຊ≉ᛶ ᖏᇦእ㍽ᑕ 䜲䞁䝟䝹䝇ᛶ㞧㡢 䝅䞁䝪䝹㛫ᖸ΅

MIMO-OFDM N/A

ᖏᇦไ㝈ᆺ䝬䝹䝏䜻䝱䝸䜰

↓⥺㏻ಙ

N/A

OFDM-㟁ຊ⥺㏻ಙ N/A*1

1.3 本論文の目的

本論文では,マルチキャリア変調を用いる無線通信および電力線通信において,共通の課題で あるピーク対平均電力比の低減を達成するために,各システムに適した電力低減技術を提案する.

まず, MIMO無線通信を対象として,帯域外輻射の制限を考慮したピーク電力抑圧技術を提案す

る. 次に,帯域制限型の無線通信システムに適したピーク電力抑圧技術を提案する. 次に,電力線 通信特有のインパルス性雑音影響下において有効なピーク電力抑圧技術を提案する.最後に,著 者が提案する次世代無線通信の構成案を示し,各提案技術の適応領域について考察を与える.

1.4 本論文の章構成

本論文は以下の5章からなる.まず第1章である本章では,研究背景,課題について述べた.

第2章では,多素子MIMOとOFDMを併用する多素子MIMO-OFDMシステム用のピーク電 力低減技術として,適応ピークキャンセラ方式と余剰の空間自由度を活用した帯域内歪み補償技 術を提案する. 適応ピークキャンセラ方式は,帯域制限された抑圧信号を反復的に加算すること

で, ACLRとEVMを許容値以下に抑えながら送信信号のピーク電力を低減するものである.さ

らに,多素子MIMOの余剰のアンテナの一部を用いて帯域内歪み補償信号を送信することで,受 信機側で特別な処理を行うことなくピークキャンセラによる帯域内歪みを補償できる.計算機シ ミュレーションおよび理論解析によって適応ピークキャンセラ方式適用時のピーク電力抑圧特 性,計算量,ビット誤り率特性を評価する.

第3章では,帯域制限型マルチキャリア変調方式の一種であるOFDM/OQAM方式に着目し, そのピーク電力を低減可能なPS-OSLM (Partial scrambling based overlapped selected mapping)

(20)

1.4. 本論文の章構成 12 方式を提案する. 提案方式(PS-OSLM)では,複数シンボル区間を観測し,そのピーク電力を最小 化することで帯域制限波であるOFDM/OQAM信号のピーク電力を効果的に低減できる. また, SLMにおけるデータマッピングを変更する手法として,送信シンボルの最上位ビットのみをスク ランブルする方式を提案し,従来の全ビットをスクランブルする方式に比べて多値変調を用いる 場合に受信特性を大きく改善できることを示す.計算機シミュレーションにより提案方式の有効 性を明らかにする.

第4章では,電力線通信用のピーク電力抑圧技術として, e-SLM (Enhanced SLM)方式を提案

する. e-SLMでは,送信機側のピーク電力抑圧と受信機側のインパルス性雑音抑圧を同時に実現

する手法であり,送信信号と受信信号のピーク電力の推定値の重み付き和を最小化するように変 調シンボルに対するデータマッピングを変更するものである.これにより,送信機側における電力 増幅器の非線形歪みと,受信機側におけるインパルス性雑音の影響を共に軽減できる. 提案方式 の特性を計算機シミュレーションによって評価し,その有効性を明らかにした.

第5章では,第2章から第4章における研究で得られた成果をまとめる. 最後に,次世代無線通 信システムの構成案を示し,本論文で提案した各技術の適応領域について考察を与える.

(21)

13

第 2

MIMO マルチキャリア信号のための適 応ピークキャンセラの提案と性能解析

2.1 関連研究とその課題

OFDMに代表されるマルチキャリア変調では,送信信号のピーク電力対平均電力比(PAPR:

Peak-to-average power ratio) の抑圧が重要な課題となる [26]-[27]. OFDM信号用のピーク電力 抑圧技術は種々提案されているが,移動体無線通信では受信端末の簡素化の観点からC&Fに代 表されるリミタ方式が望ましい [28]-[34]. しかしながら,この方式ではフィルタリングによる ピークの再生成が問題となる. C&Fを繰り返し適用することでピーク再生成の影響を軽減できる が,その場合は計算量が増加する.特に,送信アンテナを複数用いるMIMOシステムにおいては, ピーク電力の抑圧処理が送信アンテナ毎に必要となるため,演算量の低減が重要となる.

ところで,送信基地局に極めて多数の送信アンテナを有する多素子MIMOシステムでは,ユー ザ数に対して余剰の空間自由度を有するため,この自由度を有効に活用することで効率的なピー ク電力抑圧を達成する手法が提案されている [55]-[65]. これらの方式では,ピーク電力を最小化 するためのプリコーディング(Precoding)行列を反復的に求めるものであり,反復回数を十分と することで最適なプリコーディング行列を求めることができるが,アンテナ数の増大に伴う演算 量の増加が問題となる. [66]では,リミタによるピーク電力抑圧と余剰のアンテナを用いた歪み 補償が提案されている.この方式では,リミタによる帯域内歪みを補償する信号を,データ送信ア ンテナとは異なる余剰アンテナを用いて送信する. しかしながら,この方式は帯域外輻射の抑圧 が考慮されていない.

本章ではこの課題に対して,従来のリミタ型のピーク電力抑圧方式と同等のピーク電力抑圧量 を1/10以下で達成可能な新しいピーク電力抑圧技術として,適応ピークキャンセラを提案する. 提案方式では,あらかじめ帯域制限されたピーク抑圧(PC: Peak cancellation)信号を送信信号の

(22)

2.2. システムモデル 14 ピーク部に加算することで,設定した閾値を超える送信信号のピーク振幅値をすべて閾値以下に 制限する方式である. 抑圧を行う際に加わる歪み電力量はPC信号の電力より事前に推定可能で あり,それらがシステムにおける許容値以下に制限できる. また,多素子MIMO-OFDMシステム にPCを適用する際に,余剰のアンテナの一部を用いた帯域内歪み補償技術を提案する. この方式 では, PCによる歪み信号を余剰のアンテナを用いて送信する. 伝搬路において,送信信号と歪み 補償信号が合成されるようにプリコーディング行列を形成することで,受信機側で特別な処理を 行うことなく帯域内歪みを補償できる.また,所要EVM値に応じて歪み補償信号電力を最適化す ることで,総合的な伝送特性を向上できる. 計算機シミュレーション評価および理論解析により, 提案方式の有効性を示す.

2.2 システムモデル

本章で検討するMIMOマルチキャリア無線通信のシステムモデルを図2.1に示す. Nt, M,Nr, Kはそれぞれ基地局のアンテナ数, ユーザ数, 1ユーザあたりの受信アンテナ数, 1ユーザあたり のストリーム数を表す. 送信基地局(BS: Base station)ではまず,情報源にて各ユーザへのビット 列のデータを生成後, S/P (Sereal-to-parallel)変換を用いてKストリームのデータに分割する.各 ストリームのデータに対して1次変調としてQAM (Quadrature amplitude modulation)変調を適 用した後,各ユーザのデータを直交させるためにプリコーディングと呼ばれる空間信号処理を適 用する. プリコーディングの詳細は次節で述べる. 各送信アンテナにおいて, IFFT (Inverse fast Fourier transform)処理によって時間領域OFDM信号を生成する. PAPR低減を適用した後に,マ ルチパスによる干渉軽減のためにガードインターバル(GI: Guard interval)と呼ばれる冗長部を 付加し,電力増幅器で増幅後,送信アンテナから送信する. ガードインターバルは一般的に, 送信 シンボルの後ろ数サンプルをコピーして,シンボルの先頭に付加する(図2.2). 受信機側ではGI 部分をカットすることで,遅延波によるシンボル間干渉の影響を軽減できる.

受信機側では,雑音が加わった後の信号からガードインターバルを除去する. 本章では,雑音 として加法性白色ガウス雑音(AWGN: Additude white Gaussian noise)を仮定する. その後, FFT (Fast Fourier transform) 処理によって周波数領域へと変換し,ポストコーディング(Postcoding) 処理による空間分離を行う.最後に, QAMシンボルの判定を行ってデータを復調する.

無線通信システムにおいて送信アンテナ数Nt=1,ユーザ数M=1,受信アンテナ数 Nr=1の場 合はSISO (Single-input single output)と呼ばれる. 送受信アンテナ数が複数になると, MIMOと

(23)

2.2. システムモデル 15

Data source for user #1

Data source for user # Data source for user #2

䞉䞉䞉 䞉䞉䞉䞉䞉䞉䞉䞉䞉

QAM mod.

QAM mod.

QAM mod.

QAM mod.

QAM mod.

QAM mod.

Precoding

IFFT IFFT IFFT

䞉䞉䞉

Add GI Add GI Add GI

PA PA PA

#1

#2

# PAPR

reduction PAPR reduction

PAPR reduction

#1

#

Remove GI

Remove GI

FFT

FFT

Postcoding

QAM demod.

QAM demod.

䞉䞉䞉 䞉䞉䞉

User #1

User #

䞉䞉䞉

S/P S/P S/P P/S

Base station

#1

#

Remove GI

Remove GI

FFT

FFT

Postcoding

QAM demod.

QAM demod.

䞉䞉䞉 䞉䞉䞉 P/S

図2.1 MIMOマルチキャリア無線通信のシステムモデル.

K&D 䝅䞁䝪䝹

ϭ䝅䞁䝪䝹㛗

䝁䝢䞊

GI

図2.2 GI部の構成.

(24)

2.2. システムモデル 16

㏦ಙ䜰䞁䝔䝘ᩘ

ཷಙ䜰䞁䝔䝘ᩘ

(䝴䞊䝄ᩘ)

1 1

10 100 1000

10

MIMO

ከ⣲ᏊMIMO

SISO

図2.3無線通信システムの分類.

呼ばれ,その中でも特にユーザ数M=1の場合は シングルユーザMIMO (SU-MIMO: Single user MIMO),ユーザ数がM≥2の場合は マルチユーザMIMO (MU-MIMO: Multi user MIMO)と呼

ばれる[67]-[71]. さらに, MU-MIMOの中でも送信基地局のアンテナ数が極めて多数 (例えば数

十∼数百)の場合は多素子MIMOと呼ばれる[54].各方式の関係を図2.3に示す. 以下では,本章 で用いるMIMOにおける空間信号処理について述べる.

2.2.1

電力増幅器モデル

本論文では,電力増幅器モデルとしてSSPA (Solid state power amplifier)モデルを用いる[72].

SSPAモデルの入出力特性は以下の式で与えられる.

|y(t)|= αPA|x(t)|

"

1+ |x(t)|

Psat

2pPA#2pPA1 , (2.1)

ここで,x(t),y(t) はそれぞれ時刻tにおける増幅器の入力信号および出力信号を表す. また,Psat

は出力が飽和点に達したときの入力電力(真値)であり,αPAは増幅器の利得を表す. また,pPAは SSPAモデルの特性を決定するパラメータであり,pPA を増加させることで増幅器の線形性を高 めることができる.一例として,pPA =4, 6,∞の時のSSPA入出力特性を図2.4に示す. また,増 幅器への入力バックオフ(IBO: Input back off)は以下の定義を用いる.

IBO(dB)=Psat(dB)Pave(dB), (2.2)

(25)

2.2. システムモデル 17

௉஺

1

Input amplitude

O ut put a m pl it ude

0

௉஺

௉஺

6

௉஺

4

図2.4 SSPAの入出力特性.

ただしここで,Psat(dB)およびPave(dB)はそれぞれ,出力が飽和点に達したときの入力電力および, 入力信号の平均電力のデシベル値を表す. pPA =∞の場合のPsat(dB)Pave(dB)の差分をIBOと 定義することもできるが,本研究では, pPAを変化させた場合でもIBO算出の基準点を同じにす

るため,式(2.2)の定義を用いる,電力増幅器では一般的に,バックオフ量を増やすと非線形歪み

の影響は軽減できるが,その効率が低下するために帯域外輻射と電力効率はトレードオフの関係 にある.

2.2.2

評価指標

システム要求条件である帯域外漏洩電力と帯域内歪み電力を定量的に評価するものとし て,隣接チャネル漏洩電力比 (ACLR)および,エラーベクトル振幅 (EVM) を定義する. また, ピーク電力抑圧特性を評価する指標として,送信信号の瞬時電力値の補累積分布関数(CCDF:

Complementary Cumulative Distribution Function)を定義する.伝送特性の評価にはビット誤り率 (BER)を用いる.

(26)

2.2. システムモデル 18

Lower channel Communication Upper channel

channel

図2.5隣接チャネルへの影響と帯域外輻射電力.

2.2.2.1 ACLR

図2.5に漏洩電力が隣接チャネルへの及ぼす影響を示す. ACLRは送信信号の平均電力 Paで 正規化された帯域外漏洩電力(ACLP : Adjacent Channel Leakage Power)と定義され,次式で与え られる.

ACLR= Z

ACLRU,ACLRL

S(ω) Pa

dω. (2.3)

ここで,S(ω) は送信信号の電力スペクトル密度を表す. 複素OFDM信号の周波数帯域を(−L2 + 1)f0L2f0とする場合,ACLR の観測帯域は fU = (L2 +3)f0 ∼ (3L2 +2)f0, fl = (−3L2 −1)f0 ∼ (−L2 −2)f0 となる.ここで,L はサブキャリア数,f0 = T1 であり, f0 はサブキャリア間隔,T は

1OFDMシンボル長を表す.ここで fU および fLの観測帯域におけるACLRをそれぞれACLR-

U,ACLR-Lとする.

2.2.2.2 EVM

EVMは,理想の信号点と実際に受信した信号点との平均自乗誤差を,平均電力で正規化したも のとして定義される.

EVM= XL/2 l=L/2

|XlX˜l|2/ XL/2 l=L/2

Pc[l]. (2.4)

ここで,Pc[l]はl番目のサブキャリアの平均電力を表す.XlX˜lはそれぞれPAPR抑圧処理なし, 抑圧処理ありの場合のl番目のサブキャリアの複素データを表す.図2.6に理想的な(本来の)信 号点とPAPR抑圧後の信号点を示す. PAPR抑圧処理による帯域内歪み量はEVMを測定するこ とにより評価される.

(27)

2.2. システムモデル 19

௟ ௟

ℎ ℎ

図2.6理想的な信号点と観測された信号点の誤差.

2.2.2.3 CCDF

本論文では,提案方式によるピーク電力の抑圧特性を評価するために, CCDFを用いる. CCDF は,確率密度関数P(z)においてある値zが与えられたとき,確率変数Zzを超える確率として 次式で表される.

CCDF(z)=Prob(Z≥z)= Z

z

P(t)dt. (2.5)

2.2.2.4 ビット誤り率(BER)

伝送特性の評価指標として,ビット誤り率(BER)を用いる. BERは,伝送したすべてのビット 数のうち,誤って受信されたビット数の割合を表す.

(28)

2.3. MIMOにおける空間信号処理 20

2.3 MIMO における空間信号処理

2.3.1

線形空間フィルタリング

2.3.1.1 SU-MIMOにおける線形空間フィルタリング

ユーザ数がM=1のSU-MIMOにおける空間多重方式として,伝搬路の固有ベクトルを用いて 各ストリームの信号を空間上に多重するE-SDM (Eigen spatial division multiplexing)-MIMOに おける信号処理について述べる[5]. ユーザ1への伝搬路行列H(l,1)∈CNr×Nt を以下で定義する.

H(l,1)=













H1,1(l,1) . . . H(l,1)1,N .. t

. Hi,(l,1)j ... HN(l,1)

r,1 . . . H(l,1)N

r,Nt













(2.6)

ここで第i j要素Hli jは,l番目のサブキャリアで送信アンテナ jから受信アンテナiへの伝搬路の 周波数応答を表す. 基地局およびユーザ端末のアンテナ間の相関行列RBS ∈RNt×Nt,RUE ∈RNr×Nr

を以下で与える[73].

RBS =













ρBS1,1 · · · ρBS1,N .. t

. . .. ... ρBSN

t,1 · · · ρBSN

t,Nt













, (2.7)

RU E =













ρU E1,1 · · · ρU E1,N .. r

. . .. ... ρU EN

r1 · · · ρU ENr,Nr













, (2.8)

ここで,ρi,jBSi,U Ej はアンテナi-j間の相関係数であり,以下で与えられる. ρBSi,j =exp −|ij|

βBS

!

, ρU Ei,j =exp −|ij| βU E

!

, (2.9)

βは相関の強度を決定するパラメータである. アンテナ間相関を考慮した伝搬路行列は以下で与 えられる.

(l,1)=RU EH(l,1)RBS (2.10)

E-SDMでは,各サブキャリアにおける伝搬路行列を特異値分解し,その右特異ベクトルおよび

左特異ベクトルを空間フィルタとして用いる.

H(l,1)= UlΣl(Vl)H, (2.11)

(29)

2.3. MIMOにおける空間信号処理 21 ここで,Ul, (Vl)Hはそれぞれ右特異ベクトル,左特異ベクトルを表す. (·)Hは複素共役転置を表す. Σlは特異値を対角成分に持つ対角行列であり,以下で与えられる.

Σl =diag[

q λl1,

q λl2, ...

q

λlK], (2.12)

ここでλlkk番目のストリームの固有値を表す.送信空間フィルタWlt ∈CNt×K,受信空間フィル タWlt ∈CK×Nr はそれぞれ以下で与えられる.

Wlt =Vl

Wlr =(Ul)H (2.13)

l番目のサブキャリアにおける受信信号yl=[yl1,yl2, ...ylK]T は次式で与えられる. yl=Wlr(H(l,1)Wtlxl+nl)

=UlH(H(l,1)Vlxl+nl)

=UlH(UlΣlVlHVlxl+nl)

= Σlxl+UlHnl, (2.14)

ここで, (·)H は複素共役転置行列を表し,nl = [n1l,nl2, ...,nlNr]T は受信信号に付加される加法性白 色ガウス雑音である. 送受信フィルタを用いることで伝搬路を対角化でき,受信データが分離で きることがわかる.

2.3.1.2 MU-MIMOにおける線形空間フィルタリング

MIMOシステムにおいて,複数ユーザを多重する場合はマルチユーザMIMO (MU-MIMO)と

呼ばれる. MU-MIMOでは一般的に, 他ユーザでの伝搬路情報を取得することができないため,

送信機側であらかじめユーザ間の干渉を除去してから送信する必要がある.この処理はプリコー ディングと呼ばれる. プリコーディング技術の詳細は次節で述べる. MU-MIMOの中でも特に, 基地局に極めて多数の送信アンテナを用いる場合は多素子MIMOと呼ばれる[54]. 以下では,

MU-MIMOシステムの基本的な数式表現を示す.

mユーザへのチャネル行列がH(l,m) ∈CNr×Nt で定義される場合の,全ユーザの連結チャネル行 列Hl∈CMNr×Nt を以下で定義する.

Hl =[H(l,1), ...,H(l,m)...H(l,M)]T, (2.15) プリコーディング行列を Wl ∈CNt×MNr とすると. l番目のサブキャリアにおけるプリコーディン グ後の送信ベクトルxl ∈CNt×1は以下で与えられる.

xl=Wlsl, (2.16)

(30)

2.3. MIMOにおける空間信号処理 22 ただしここで,sl ∈CMNr×1は全ユーザへの送信QAMシンボルであり,ユーザmへの送信QAM ベクトルをs(l,m)∈CNr×1とすると,以下で与えられる.

sl =[sT(l,1)sT(2,m)...sT(l,M)]T (2.17) l番目のサブキャリアにおける受信信号ベクトルyl ∈CMNr×1は以下で与えられる.

yl= 1 Pt

Hlxl+nl

= 1 Pt

HlWlsl+nl, (2.18)

ここでnl ∈CMNr×1は雑音ベクトルを表す.Pt は送信電力正規化係数である.

2.3.1.3 ZFプリコーディング

多素子MIMOシステムでは,送信機側においてプリコーディングと呼ばれる指向性制御技術が 用いられる[67].多素子MIMOでは基地局の多数のアンテナが受信利得を向上できるため, 比較 的簡易なプリコーディング技術を用いた場合でも,伝送特性を向上可能である.以下では,線形空 間フィルタを用いるプリコーディング方式として, ZF (Zero Forcing) [68], MRC (Maximum ratio combining) [74]について述べる. 単化のため,各ユーザの伝送ストリーム数はK=Nr とする.

ZFプリコーディングは,伝搬路行列の疑似逆行列を用いてユーザ間干渉を除去する方式であ る.lサブキャリアにおけるZFプリコーディング行列WlZF ∈CNt×MNr は以下で与えられる.

WlZF =HHl (HlHHl )1, (2.19) ZFプリコーディングを用いた場合の受信信号ベクトルylは以下で与えられる.

yl = 1 Pt

HlWlZFsl+nl

= 1 Pt

HlHlH(HlHlH)1sl+nl

= 1 Pt

sl+nl. (2.20)

2.3.1.4 MRCプリコーディング

MRCプリコーディングでは, ユーザ間干渉,ストリーム間干渉を完全に除去できないが, 各ス

トリームの受信信号の信号対雑音比 を最大化する サブ

図 2.5 隣接チャネルへの影響と帯域外輻射電力 .
図 2.7 THP における modulo 演算の例 . 行う . s ′ k,m = s k,m − m − 1X i=1 r k,mi /r k,mm · s k,i
図 2.9 抑圧信号基本波の時間領域波形 .
図 2.11 に , MIMO-OFDM システムにおけるピーク電力抑圧の様子を示す . ここで P th は帯域
+7

参照

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