FFTH
2.8 特性評価
2.8.1 SISO-OFDM システムにおける特性評価
まず,適応ピークキャンセラの基礎特性評価として,Nt=1,M=1. Nr=1,K=1の場合の特性評価 を行う.
2.8.1.1 計算機シミュレーション評価
計算機シミュレーションにより, 適応ピークキャンセラの特性評価として, 送信信号の瞬時 電力値の CCDF特性, ACLR特性,計算量, BER特性を示す. サブキャリア変調としてQPSK, 16QAM, 64QAM変調を用いる. サブキャリア数は64, FFT点数は512とする. ACLRの許容値
は-50dBと定めた. 伝送路のモデルとして, 等利得,等間隔の6波レイリーフェージングを仮定す
る.このモデルでは,各素波の到来間隔が等しく,かつ各素波は同一の平均電力を有する独立なレ イリー分布に従う確率変数となる. シミュレーション諸元を表2.1にまとめる.
本節では,比較ピーク電力抑圧方式として演算量を削減した繰り返し変形C&F方式を用いる. 変形C&Fのブロック図を図2.22に示す.変形C&Fでは,従来のC&Fとは異なり,リミタによっ て発生した歪み成分のみをフィルタリングすることで演算量を削減できる. リミタ適用前後の
2.8. 特性評価 52
表2.1 SISO-OFDMにおけるシミュレーション諸元
パラメータ 値
サブキャリア数 64
FFT点数 512
変調方式 QPSK, 16QAM, 64QAM
受信等化手法 ZF
ACLR許容値 ≤-50dB
増幅器モデル SSPA
伝搬路モデル 6波等間隔等利得レイリーフェージング
OFDM信号をそれぞれx(t), xc(t)とすると,歪み成分d(t)は以下で与えられる.
d(t)= x(t)−xc(t). (2.106)
d(t)に帯域制限フィルタを適用したものを dc(t)とすると, C&F適用後の送信信号は以下で与え られる.
xo(t)= x(t)−dc(t). (2.107)
C&Fでは一般的に, フィルタリングの際にピークが再生成される. 変形C&Fを繰り返し適用す
ることでピーク再生成の影響を軽減できるが,計算量が増大する.
まず,適応ピークキャンセラによるピーク電力の抑圧特性を評価するために,式(2.5)で定義し た送信信号の瞬時電力値の CCDF特性を示す. 図2.23は,ピーク電力抑圧前の信号の平均電力 で正規化した OFDM信号の瞬時電力値のCCDF特性である. 比較方式として繰り返し回数が NCit =1, 3, 5, 9回のC&F方式の特性も併せて示す. ピーク検出閾値は適応ピークキャンセラと 繰り返しC&F方式で同一であり, EVMの許容値をQPSK変調の場合は-20dB, 64QAMの場合 は-30dBとした. 図2.23の結果より,適応ピークキャンセラ適用時は, CCDF=10−4における正規 化瞬時電力値を,抑圧を行っていない場合に比べてQPSK変調時に約4.4dB, 64QAM変調時に約
2.4dB低減できることがわかる. 適応ピークキャンセラでは瞬時電力値が閾値レベル以下に低減
されるので,抑圧後のピーク電力値が閾値と一致し, C&F方式において繰り返し回数が十分に多 い場合と同等のピーク電力抑圧特性が達成できることを確認した.
次に,計算量の評価を行うために, 1OFDMシンボルあたりの複素乗算回数をピーク電力抑圧に 必要となる計算量と定義する. 提案方式,時間領域LPFを用いたC&F方式における1OFDMシ
2.8. 特性評価 53
2 4 6 8 10
10
10
ିଵ10
ିଶ10
ିଷ10
ିସNormalized instantaneous power [dB]
C C D F
1 3 5 9
Repeated C&F
Proposed
Original OFDM 64QAM-OFDM (EVMreqӌ-30dB)
QPSK-OFDM (EVM ӌ-20dB)
図2.23 SISO-OFDMシステムにおける送信信号の正規化瞬時電力値のCCDF特性.
5 6 7 8 9
10
ହ10
ସ10
ଷ10
ଶ10
ଵNormalized instantaneous power at CCDF = 10
ିସ[dB]
N um be r of m ul ti pl ic at ions / s y m bol
10
1 3 9
Repeated C&F
Proposed
図2.24 SISO-OFDMシステムにおける適応ピークキャンセラの計算量評価.
2.8. 特性評価 54 ンボル辺りの計算量をそれぞれ次式の通りに定義する.
Co=
DNw×Npc
E Adaptive peak cancellation DNtap×Nth
E C&F (Time domain LPF). (2.108) ここでhxiはxの平均,NwとNpcはそれぞれ窓幅(2×T2)内に含まれるサンプル数,抑圧信号PC の加算回数を表す. NtapとNth はそれぞれ時間フィルタのタップ数,閾値を超えた信号点数の総 数を表す. 提案方式では,抑圧信号PCを生成するのに抑圧信号PCあたりNw個の複素乗算が必 要となる. Ntap タップの時間領域FIRフィルタを用いる変形C&F方式では,非零の1入力サン プルあたり Ntap回の複素係数の乗算を要する. 本検討では,Ntap=13とする. 図2.24は送信信号
のCCDF=10−4における正規化瞬時電力値を達成するのに必要な1OFDMシンボルあたりの乗
算回数を示す.なお, EVMおよびACLRの両方の許容値を満たす点のみをプロットした.ここで, 適応ピークキャンセラでは窓幅を適切に設計することにより,ACLRとEVMをそれぞれ所要の 比率に制御できる. 本検討では,所望のEVM値によらずACLRが常に許容値を満たすように適 切な値に変更している. 提案方式では,適切に与えられた閾値までピーク電力値を低減できてい ることを確認できる. 一方,繰り返しC&F方式においても繰り返し回数を増加することで, ピー ク再生成の影響を抑えて閾値までピーク電力を低減できるものの,提案方式に比べて計算量が増 加することがわかる. 例えば,正規化瞬時電力値5.5dBを達成するのに必要な計複素乗算回数は, NCit=9のC&F方式では13883回,適応ピークキャンセラでは691回であり,削減量は95%とな る. 提案方式は繰り返しC&F方式よりも少ない計算量でピーク電力抑圧の目標値を達成できる ことを確認できた.
図2.25は, p= 6, IBO=7dBの場合におけるSSPAの出力信号スペクトルである. 赤で表した ものは適応ピークキャンセラを適用した場合の特性,青で表したものはピーク電力抑圧を行わな かった場合の特性である.図2.25より,ピーク電力抑圧を行わなかった場合は送信信号のピーク 振幅がSSPAの飽和点を超えてしまっているために,非線形歪みの影響による帯域外輻射電力が 増加していることが分かる. 検討方式を用いてピーク電力抑圧を行った場合は,飽和点を超える SSPA入力信号のピーク値が低減されているので, ピーク電力抑圧を行わなかった場合に比べて 帯域外輻射電力の増加が抑えられていることが分かる.
図2.26はSSPA出力信号のACLRとIBOの関係を示した図である. 図2.26において, SSPA のパラメータ p = 4,6とした場合の特性をそれぞれ, 破線および実線で示している. また, 適応 ピークキャンセラを用いた場合の特性を青線で,ピークの抑圧を行わなかった場合の特性を赤線 で示している. 適応ピークキャンセラを適用した場合,増幅器の非線形性による歪み電力が十分 小さい場合は 低減による発生した歪み電力が支配的になる そのため がある値以上
2.8. 特性評価 55
Normalized Frequency
0 1.0 2.0
-2.0 -1.0
P ow er S pe ct ra l D ens it y [dB ] 10
-10
-30
-50
-70
図2.25適応ピークキャンセラ適用時のOFDM信号の電力スペクトルの一例.
w/ Prop.
w/o PAPR Reduction
Dotted line Solid line
: p= 6 : p= 4
A C L R [dB ]
0 2 4 6 8 10
IBO[dB]
-10
-20
-30
-40
-50
-60
図2.26適応ピークキャンセラを用いた場合のIBOとACLRの関係.
2.8. 特性評価 56
-5 10
10
ିଵ10
ିଶ10
ିଷ10
ିସ /
[dB]
B E R
0 5 10 15 20 25
: theoretical
: simulation result
EVM -10dB
EVM -15dB EVM -20dB
EVM -25dB EVM -
dB
(ideal case)
図2.27 SISO-OFDMにおける白色ガウス雑音下でのQPSK信号のBER特性.
になると, ACLRがシステムの要求条件の最大値である-50dBとなるように制御されていること
がわかる.さらに図2.26より,例えば p=4のSSPAを用いる場合,適応ピークキャンセラを用い
ることでIBO=6dBにおけるACLR値を約6dB低減できることがわかる. また,同一のIBOで
比較すると,適応ピークキャンセラを用いることでピーク電力抑圧を行わなかった場合に比べて ACPRが低減できていることを確認できる.
2.8.1.2 SISO-OFDMにおける理論BER特性評価
2.5 節で導出したピークキャンセラ適用時の理論BER特性の妥当性を評価するため, 同条 件下でのシミュレーション結果と比較を行う. 図2.27, 2.28, 2.29 にそれぞれ, QPSK, 16QAM,
64QAM変調を用いた場合の白色ガウス雑音下でのBER理論値を示す. 黒の破線はピークキャ
ンセラ非適用時の特性であり,抑圧による誤差が存在しない理想的な場合を示す. 青,橙,緑,赤は EVM値を-10, -15, -20, -25 dBに制限した場合の特性を示す.また,比較のために同一条件下での 計算機シミュレーションによる結果を白抜きのプロット点で示す. なお,抑圧閾値については上
記の EVM値を式(2.43)に代入して算出した値を用いた. 図2.27より, EVMの許容値を適切に
与えることで,信号に加わる歪み量を制御することができ,所望の信号品質を保てることがわかっ
2.8. 特性評価 57