2.4 適応ピークキャンセラ
2.4.2 ピーク電力抑圧アルゴリズム
送信アンテナmの複素マルチキャリア信号をxm(t)とする.時刻t= t0で最大振幅値|xm(t0)| が検出されたとする.|xm(t0)|が閾値Athを超える場合,次式のPC信号を加算することでピーク
2.4. 適応ピークキャンセラ 28 値を低減させる.
pr(t−t0)=−Apejθg′(t−t0) (2.32) ここで,g′(t)=g(t)w(t)であり,w(t)はg(t)を時間制限するための窓関数である.Ap=|xm(t0)|−Ath
であり,θ は xm(t0) の位相である. 窓関数によってPC信号基本波を時間制限する場合,帯域外 輻射および帯域内歪み電力が上昇する. 本手法では,抑圧信号を加算した際に上昇する歪み電力 を事前に推定し, それが許容値以下に収まるように制御できる. まず,隣接チャネル漏洩電力比
(ACLR)の推定法を述べる.ピーク抑圧信号の基本波g(t)および,窓関数乗算後のピーク抑圧信号
基本波g′(t)のフーリエ変換対をそれぞれG[s],G′[s]とする.G′[s]を加算することによる帯域外 輻射電力(ACLP)の上昇量∆Poは以下で与えられる.
∆po = po
P =
2L+1X
l=L+2
G′[s]+
−1
X
l=−L
G′[s]
XL l=1
G[s]2
= 1 L
2L+1X
l=L+2
G′[k]+
−1
X
l=−L
G′[k]
(2.33)
ピーク抑圧信号の基本波 g′(t)に対して,∆Poは定数で与えられる. したがって,∆Poは抑圧信号 加算前に導出可能である. i回目の抑圧信号加算後のACLRの推定値ACLRe(i)は,i回目のピー ク振幅低減に必要となる抑圧量A(i)p を用いて以下の式で与えられる.
ACLRe(i)=ACLRe(i−1)+|A(i)p|2∆Po (2.34) 同様に,G′[s]を加算することによる帯域内歪み電力の上昇量∆Piは,以下で与えられる.
∆pi= pi
P = XL
l=1
G′[s]
XL l=1
G[s]2
= 1 L
XL l=1
G′[s] (2.35)
i回目の抑圧信号加算後のEVMの推定値EVMe(i)は,以下で与えられる.
EVMe(i)=EVMe(i−1)+|A(i)p|2∆Pi (2.36) 適応ピークキャンセラでは,∆pi,∆poを逐次的に推定し, EVMe(i), ACLRe(i)が許容値を満たす範 囲でピーク抑圧信号の加算を繰り返し行う.
図2.11に, MIMO-OFDMシステムにおけるピーク電力抑圧の様子を示す.ここでPthは帯域
内歪みの許容値である. 簡単化のため,送信アンテナが2本の場合の説明を行う. 図の真ん中に示
2.4. 適応ピークキャンセラ 29
ଵ௧
OFDM signal 0
௧ଶ
0
time
time Antenna # 1
Antenna # 2
ଵ
ଶ௧
௧
ଵ ௧
ଶ ௧
Frequency
Frequency
࢚ࢎ ࢚ࢎ
(a)各アンテナ毎に個別に帯域内歪み推定を行う場合.
௧ᇱ
OFDM signal 0
ଵ௧
௧ଶ
0 ௧
ᇱ
time
time Antenna # 1
Antenna # 2
ଵ
ଶ௧
௧
ଵ ௧
ଶ ௧
Frequency
Frequency
/ ࢚ࢎ
(b)全アンテナの平均帯域内歪みをの推定を行う場合(提案手法).
図2.11 MIMO-OFDMシステムにおける提案帯域内歪み推定手法.
2.4. 適応ピークキャンセラ 30 した波形は各送信アンテナの送信信号時間波形を,右側にはそのスペクトルをそれぞれ表してい る. p1, p2はそれぞれアンテナ1およびアンテナ2において,ピーク抑圧信号を加算した場合に 生じる帯域内歪みの推定値である. この図において,時間波形の赤で表されたピーク部が抑圧さ れ,スペクトル図の赤で表された帯域内歪みが生じている. 複数の送信アンテナを用いるOFDM 伝送システムでは,アンテナ毎にPAPR低減を行う必要がある. その際,ピーク電力抑圧量(ピー ク抑圧信号の加算量) をアンテナ毎に推定することで, EVMを推定できる. しかしながら,例え ば,送信空間フィルタリング(precoding)を用いる場合,各アンテナから送信される信号の平均電 力が異なるため,抑圧可能なピーク振幅値にアンテナ毎に際が生じる. 送信アンテナ毎に個別に 帯域内の歪み電力推定を行う場合,図2.11(a)に示すように,送信信号全体の歪み電力量には余裕 があったとしても,そのアンテナにおける歪み量がシステムで定義される許容値に達すると,それ 以上のピーク振幅抑圧ができなくなる. これは,アンテナ間でピーク電力の抑圧特性に差異が生 じることを意味する. この問題を解決するために,本検討では,図2.11(b)に示したように全アン テナで同一の閾値を用いて帯域内歪みの総和 (平均値)を推定し,それを許容値以下になるように 制御する手法を提案する.この時,平均の帯域内歪みは(p1+p2)/2となり,これが許容値Pthを満 たすように制御が行われる. ここで, p1は帯域内歪み許容値Pthを超えているが,平均の帯域内歪 みは許容値を満たしている. したがって,提案方式では以前の手法よりもアンテナ1における閾 値を下げることができ,送信信号のPAPRを減らすことができる. 図2.11では送信アンテナが2 本の場合の説明を行ったが,アンテナ数が増えた場合においても同様である. MIMOシステムに おける適応ピークキャンセラのアルゴリズムを, Algorithm 1にまとめる.