2.4 適応ピークキャンセラ
2.4.3 ピーク検出閾値の選択
2.4. 適応ピークキャンセラ 30 した波形は各送信アンテナの送信信号時間波形を,右側にはそのスペクトルをそれぞれ表してい る. p1, p2はそれぞれアンテナ1およびアンテナ2において,ピーク抑圧信号を加算した場合に 生じる帯域内歪みの推定値である. この図において,時間波形の赤で表されたピーク部が抑圧さ れ,スペクトル図の赤で表された帯域内歪みが生じている. 複数の送信アンテナを用いるOFDM 伝送システムでは,アンテナ毎にPAPR低減を行う必要がある. その際,ピーク電力抑圧量(ピー ク抑圧信号の加算量) をアンテナ毎に推定することで, EVMを推定できる. しかしながら,例え ば,送信空間フィルタリング(precoding)を用いる場合,各アンテナから送信される信号の平均電 力が異なるため,抑圧可能なピーク振幅値にアンテナ毎に際が生じる. 送信アンテナ毎に個別に 帯域内の歪み電力推定を行う場合,図2.11(a)に示すように,送信信号全体の歪み電力量には余裕 があったとしても,そのアンテナにおける歪み量がシステムで定義される許容値に達すると,それ 以上のピーク振幅抑圧ができなくなる. これは,アンテナ間でピーク電力の抑圧特性に差異が生 じることを意味する. この問題を解決するために,本検討では,図2.11(b)に示したように全アン テナで同一の閾値を用いて帯域内歪みの総和 (平均値)を推定し,それを許容値以下になるように 制御する手法を提案する.この時,平均の帯域内歪みは(p1+p2)/2となり,これが許容値Pthを満 たすように制御が行われる. ここで, p1は帯域内歪み許容値Pthを超えているが,平均の帯域内歪 みは許容値を満たしている. したがって,提案方式では以前の手法よりもアンテナ1における閾 値を下げることができ,送信信号のPAPRを減らすことができる. 図2.11では送信アンテナが2 本の場合の説明を行ったが,アンテナ数が増えた場合においても同様である. MIMOシステムに おける適応ピークキャンセラのアルゴリズムを, Algorithm 1にまとめる.
2.4. 適応ピークキャンセラ 31
Algorithm 1MIMO-OFDMにおける適応ピークキャンセラのアルゴリズム
1: 送信アンテナmにおけるOFDMフレームが xm = [xm1,xm2,· · · ,xms,· · · ,xmSb]と表される 時,ある送信データフレーム中に最大振幅値 xmaxm が検出される. Sbは送信フレームに含まれ るサンプルの数である. xmaxm はxmsの最大値で定義される.
2: 検出された振幅の最大値 xmmaxが閾値Athを超える場合, EVMの推定を行う.閾値は全送信 アンテナで共通とする.i回目のPC信号加算後の平均EVMは以下で表される.
ε(i)e =ε(ie−1)+ ∆ε(ie−1) (2.37) ここで,∆ε(ie−1)は,i−1回目の抑圧信号加算後に上昇したEVMである.
3: 平均EVMε(i)e およびACLRの最大値ε(i)a max が許容値を満たす場合,最大振幅値 xmaxがAth
と等しくなるように送信信号に以下の式のように抑圧信号PCを加算する.
x(i)(t)= x(i−1)(t)+p(i)r (t−t0(i)) (2.38) ここで,x(i)(t)はi回目のPC信号 p(i)r (t−t(i)0)加算後の送信信号である. t(i)0 はi回目に検出さ れた最大ピーク値の時間である.
4: (a)-(c)の操作を, OFDMフレーム中の最大振幅値xmaxが閾値Ath以下になるまで.もしくは 抑圧信号加算回数が規定の回数に達するまで繰り返す. 推定された平均EVM値もしくは最 大ACLR値のどちらかが許容値を超えた場合も抑圧を止める.
のPC信号を用いてOFDM信号振幅を閾値まで抑圧する. PC信号(ζ−Ath)g′(t)のエネルギーは, E(ζ−Ath)=
Z T2
−T2
(ζ−Ath)2g′2(t)dt
=(ζ−Ath)2 Z ∞
−∞
G′(ω)dω
=(ζ−Ath)2 Z
fin
G′(ω)dω+ Z
fout
G′(ω)dω
!
≡(ζ−Ath)2(Ei+Eo), (2.39)
となる.ここで,G′(ω)= R∞
−∞g′(t)e−jωtであり,T2は窓幅である.平均電力σ2の複素OFDM信号 の瞬時電力値ζ2の確率密度関数は下式の指数分布を用いて表される[19].
r(ζ)= 1
σ2exp −ζ2 σ2
!
. (2.40)
2.5. 適応ピークキャンセラ適用時の理論BER特性の導出 32
௧
0
PC signal
OFDM signal
図2.12ピーク検出閾値の選択方法.
ここでは,σ2は信号の平均電力である. PC信号の加算により生じる歪み電力は下式で与えら れる.
S = Z ∞
Ath
E(ζ−Ath)r(ζ)dζ
= Z ∞
Ath
(ζ−Ath)2(Ei+Eo)r(ζ)dζ
≈Ei
Z ∞
Ath
(ζ−Ath)2r(ζ)dζ. (2.41)
ここで,帯域外輻射電力は帯域内信号歪み電力に比べて十分小さい(Ei ≫Eo)と,信号の平均電 力はPavr =σ2であるので,
10log10(Pin/Pavr)=10log10
"
Ei
σ2 Z ∞
Ath
(ζ−Ath)2r(ζ)dζ
#
, (2.42)
となる.例えば,所要EVMが-20dBであるとき,それを満たす閾値Aothとの関係は, 10log10
Ei
σ2 Z ∞
Aoth
(ζ−Ath)2r(ζ)dζ
=−20 in dB, (2.43)
で与えられる. 本論文では,式(2.43)を満たすAothをピーク検出の閾値とする.
2.5. 適応ピークキャンセラ適用時の理論BER特性の導出 33