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多素子 MIMO-OFDM システムにおける特性評価

10EVM = -15dB

2.8.3 多素子 MIMO-OFDM システムにおける特性評価

2.8.3.1 計算機シミュレーション評価

次に,適応ピークキャンセラを多素子MIMO-OFDMシステムに適用した場合の特性を評価す る.シミュレーション諸元を表2.3に示す.

多素子MIMO-OFDMシステムにおける適応ピークキャンセラによるPAPR低減の効果を,式

(2.5)で定義した正規化瞬時電力値のCCDF特性を用いて評価する. 図2.42に送信信号の瞬時電

力値のCCDF特性を示す. ここで,各アンテナの送信信号瞬時電力値は全アンテナの平均電力で 正規化されているものとする. 図2.42において,黒線はピーク電力抑圧を行っていない場合の 特性である. 青,橙,緑線はそれぞれ,帯域内歪みの補償を行わない場合に, EVM値を許容値以下 に制限する場合の特性である. QPSK変調時はEVM≤-20dB, 16QAM変調時はEVM≤-25dB,

64QAM変調時はEVM≤-30dBとした.赤線は帯域内歪み補償を行う場合の特性として,ピーク

検出閾値が 5dBの場合の特性である. 図より,歪み補償を行わない場合, CCDF=104における 正規化瞬時電力値を QPSK変調時に約4.4dB, 16QAM変調時に約3.3dB, 64QAM変調時に約

2.4dB低減できることがわかる.適応ピークキャンセラで歪み制御を行う場合, 64QAM等高次の

多値変調を用いる場合は歪みの許容値が厳しくなり,抑圧特性が劣化する.一方で,帯域内歪みの 補償を用いる場合は,抑圧を行わない場合と比較して約4.5dB低減できており,変調方式に依存

せず, QPSK変調時と同等のピーク電力抑圧特性が得られていることがわかる.これは,余剰のア

ンテナを用いて歪みの補償を行うため,送信機側における歪みは無視できるためである.

2.8. 特性評価 68

10

10

ିଵ

10

ିଶ

10

ିଷ

2 4

Normalized instantaneous power [dB]

C C D F

10

ିସ

6 8 10

w/o compensation

w/ compensation

w/o PAPR reduction 64QAM (EVM ӌ-30dB) 16QAM (EVM ӌ-25dB) QPSK (EVM ӌ-20dB)

図2.42多素子MIMO-OFDMにおける送信信号瞬時電力値のCCDF特性.

2.8. 特性評価 69

w/ extra-antenna

based compensation (K30) w/ iterative

compensation

1 3 7

w/o PAPR reduction 10

10

ିଵ

10

ିଶ

10

ିଷ

Normalized instantaneous power [dB]

C C D F

0 2 4 6 8 10

10

ିସ

図2.43全アンテナを用いる歪み補償と専用アンテナを用いる歪み補償を用いる場合の送信信号 の瞬時電力値CCDF特性の比較.

図2.43に2.7.4節で述べた全アンテナを用いる歪み補償と,歪み補償用専用アンテナを用いる

場合の送信信号の瞬時電力値のCCDF特性の比較を示す.ここで,正規化瞬時電力値は1送信ア ンテナあたりのピーク電力抑圧前の信号平均電力で正規化した.黒線はピーク電力抑圧を行って いない場合の特性,赤線がNex=30の歪み補償専用アンテナを用いた場合の特性を表す. 青線は全 アンテナを用いる反復的帯域内歪み補償適用時の特性であり,繰り返し数 Nreをそれぞれ, 1, 3, 7とした場合を表す. 図2.43より,歪み補償専用アンテナを用いる場合は反復処理を行わないた め,送信信号の振幅が閾値以下にすべて制限されていることがわかる.一方で,全アンテナを用い る反復的帯域内歪み補償適用時は,反復処理によってピーク再生成が生じているが,反復回数を 増やすことで再生成の影響を軽減できることが確認できる. 以上より,歪み補償専用のアンテナ を用いる場合は,全アンテナを用いた反復歪み補償において反復回数を十分とした場合と同等の CCDF特性を,少ない演算量で得られることがわかる.

図2.44に増幅器のIBOとACLRの関係を示す. 送信アンテナ数は合計で100とし,単一アン テナを有するユーザ数を 10とした. プリコーディング手法は ZFを用いる. また,ピークキャン

2.8. 特性評価 70

Input back off of the PA [dB]

0 2 4 6 8

-50 -40 -30 -20 -10

A C L R [ dB ]

w/compensation (N80, K20)

w/o compensation (N100,K0) w/o PAPR reduction

(N100, K0)

図2.44適応ピークキャンセラと帯域内歪み補償を用いる場合の増幅器のIBOとACLRの関係.

セラ適用時の抑圧信号加算回数の上限値を1OFDMシンボル当たり100回とした.サブキャリア 数は512とし,サブキャリア変調として64QAMを用いた.黒の破線は, PAPR低減非適用時の特 性である.黒の実線は,Ath=3dBとしたピークキャンセラ適用時の特性である. ACLRの上限値を

≤ −40 dBとした. 赤の実線はピークキャンセラと歪み補償(Nex =20)を併用した場合の特性で

ある.図2.44より,ピークキャンセラを適用することで,増幅器の非線形歪みの影響を軽減できる ので,同一のIBOで比較した場合のACLRが低減できることがわかる.例えば, IBO=4dBとした 場合,ピーク抑圧を行わない場合と比較して, ACLR値を約14.5dB低減できる.また,ピークキャ ンセラ適用時に, 増幅器の入力信号のACLR許容値を≤ −40 dBとしているため,増幅器の非線 形歪みが小さい(IBOが十分に大きい)領域では, ACLR≤ −40 dBに制御できることがわかる.

2.8. 特性評価 71

8 12 16 20 24

Conventional Proposed

12

10

8

6

4

A ve ra ge R ec ei ve d S D N R [ dB ]

The number of extra antennas (K)

in the absence of PA nonlinearity

in the presence of PA nonlinearity

図2.45適応ピークキャンセラとその帯域内歪み補償適用時の余剰アンテナ数と受信 SDNRの 関係.

図2.45に提案方式適用時の余剰アンテナ数(Nex)と全ユーザの平均受信SDNRの関係を示す. 総送信アンテナ数を64,ユーザ数を8とした. 変調方式は4ユーザがQPSK, 4ユーザが64QAM

とし, EVMの許容値をそれぞれ-20dB, -30dBとした.ピークキャンセラの閾値は平均電力に対し

て3dBとし,電力増幅器は,p=6,インプットバックオフが3dBのSSPA [72]を仮定した. 1アン テナ素子あたりの送信SNRは-5dBとした. 破線は電力増幅器の歪みの影響がない場合,実線は 電力増幅器の歪みの影響がある場合の特性を示す.黒線は比較方式としてピークキャンセラによ る歪みを完全に補償する従来方式(EVM=-∞dB)の特性を表し,赤がユーザ毎の歪み制御を適用 した提案方式の特性を表す. 図より, EVM値をユーザ毎に許容値以下に制御する提案方式では, 歪みを完全に補償する従来方式と比較して,最大受信SDNRを改善できることがわかる. これは, 提案方式は従来方式に比べて歪み補償信号の電力を削減でき,プリコーディング利得を向上でき るためである. また,増幅器の歪みの影響がない場合は Nex=14,増幅器の歪みの影響がある場合 はNex=16とすることでSDNRを最大化できることがわかる.

2.8. 特性評価 72

10

ିଵ

10

ିଶ

10

ିଷ

B E R

The number of extra antennas (K)

10 20 30 40 50

3 dB 5 dB

w/o PAPR reduction (K= 0)

w/ PAPR reduction

& in-band distortion compensation

図2.46適応ピークキャンセラと帯域内歪み補償適用時の余剰アンテナ数とBERの関係.

次に,線形プリコーディングを用いる多素子MIMO-OFDMシステムにおける,余剰アンテナ を用いた帯域内歪み補償併用時の特性を評価する.図2.46にSNR=2dBとした場合の,余剰アン テナ数とBER特性の関係を示す.ここで,増幅器のIBOは4dBとした.黒の破線はピーク電力抑 圧非適用時の特性を示す (Nex=0).緑および赤の特性はそれぞれ,Ath=3dB, 5dBのピークキャン セラ適用時の特性である. 総送信アンテナ数を一定 (Nt+Nex=100)としているため,Nexが増え るにしたがって,アンテナ利得が減少し, BER特性が劣化している.一方,Nexが小さい場合には, 歪み補償アンテナの送信電力が増大し,電力増幅器における非線形歪みの影響を受けやすくなる ためにBER特性が劣化している. 図2.46よりAth =3dBの場合はNex=15,Ath=5dBの場合は Nex=12とすることでBERを最小化できることがわかる.

2.8. 特性評価 73

Transmit SNR [dB]

-5 0 5 10

10

10

ିଵ

10

ିଶ

10

ିଷ

10

ିସ

B E R

w/ compensation (N= 85, K= 15)

w/o compensation (N= 100,

K= 0)

w/o PAPR reduction

(N= 100, K= 0)

図2.47適応ピークキャンセラとその帯域内歪み補償適用時のBER特性.

図2.47にピークキャンセラと帯域内歪み補償技術を併用した場合のBER特性を示す. 増幅器 のIBOは4dBとし,ピークキャンセラのピーク検出閾値は3 dBとした.比較として,ピーク電力 抑圧非適用時(Nex=0)の特性を黒の破線で示す. 送信信号のピーク電力が抑圧されていないため に,増幅器の非線形歪みの影響でBERにフロアが生じていることがわかる. また,帯域内歪み補 償技術非適用時(Nex=0)の場合の特性を青の実線で示す. ピークキャンセラによる帯域内歪みが 許容値を満たしていないため, BER特性が大きく劣化している.赤の特性は,ピークキャンセラに よるPAPR低減と,Nex=15とした場合の帯域内歪み補償を併用した場合の特性を示す. 図2.47 より,ピークキャンセラと帯域内歪み補償技術を併用することで, BER特性が改善できることが わかる.

2.8. 特性評価 74

w/o compensation 10

10

ିଵ

10

ିଶ

10

ିଷ

Normalized instantaneous power [dB]

B E R

0 3 6 9 12 15

10

ିସ

w/ extra-antenna

based compensation (K30) w/ iterative

compensation

1 3 7

図 2.48全アンテナを用いる歪み補償と専用アンテナを用いる歪み補償適用時の BER特性の 比較.

図2.48にピークキャンセラと帯域内歪み補償技術併用時の下り回線のBER特性を示す. 横軸 は, 1送信アンテナ, 1ビットあたりの送信信号電力と雑音電力の比率とした. ピークキャンセラ のピーク検出閾値は3dBとし,変調方式は256QAM,増幅器のIBOは4dBとした. 黒線は歪み補 償を行っていない場合の特性であり,帯域内歪みの残留によって, BER特性が大幅に劣化してい ることがわかる. 青線は全アンテナを用いた反復的帯域内歪み補償適用時の特性であり,繰り返 し数 Nrはそれぞれ, 1, 3, 7とした.赤線はNex=30とした場合の歪み補償専用アンテナを用いた 場合帯域内歪み適用時の特性である.図2.48より,歪み補償技術を適用することで,歪み補償を行 わない場合に比べてBRE特性を大幅に改善できることがわかる. また,歪み補償専用アンテナを 用いた帯域内歪み適用時の特性は,全アンテナを用いた反復的帯域内歪み補償適用時とほぼ同等 の特性が得られることがわかる.以上より,余剰アンテナを活用した帯域内歪みにおいて,適切な アンテナ数が事前にわかっている場合,比較的簡易な処理で良好なBER特性が得られることが わかる.

2.8. 特性評価 75

10

10

ିଵ

10

ିଶ

10

ିଷ

10

ିସ

B E R

-9 -3 3 9

Transmit SNR [dB]

Modulo PC w/compensation

Proposed method (Power control PC w/compensation)

Power control PC

w/o compensation for power control

図2.49 THPプリコーディングを用いる多素子MIMO-OFDMにおける適応ピークキャンセラと

その帯域内歪み補償適用時のBER特性.

次に, THPを用いる場合の提案方式のBER特性を評価する. 図2.49にビット誤り率特性を示

す. 比較方式として,青線はmodulo演算による従来のTHPにおいて,摂動ベクトルを余剰アン テナを用いて補償した場合の特性である. Modulo演算による摂動ベクトルの電力に応じて余剰 アンテナの送信電力が増大し,それによって所望信号の利得が減少するためBER特性が大きく 劣化する. 緑線は送信機側でサブキャリア毎に独立な電力制御を行い,その摂動ベクトルを余剰 アンテナによって補償しなかった場合の特性である.電力制御によってユーザ間の直交性が満た されないため,誤り率にフロアが発生している.赤線は提案方式として,サブキャリア毎の電力制 御を行い,その摂動ベクトルを余剰アンテナを用いて補償した場合の特性である. 摂動ベクトル の電力を低減できるので, Modulo演算を用いる場合と比較して受信利得を大きく改善できるこ とがわかる.また,ユーザ間の直交性も補償でき,誤り率のフロアを軽減できていることがわかる. 以上より,電力制御用の摂動ベクトルを適切に設計することで, moduloを行う従来方式と比較し てBER特性を改善できることがわかる.