AWGN OFDM
2.7 余剰アンテナを活用した歪み補償方式
2.7.2 所要 EVM に応じた帯域内歪み補償方式
前節で述べた余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償を用いる場合,多素子MIMOの空間自 由度を消費するため,プリコーディング利得の低下を招く.そのため,用いられる変調方式によっ ては必ずしも総合的な伝送特性が改善されるとは限らない. このことから,余剰アンテナによる 歪み補償量を所要EVM値に応じて最小化できれば総合的な伝送特性を更に向上できると考えら れる. 本節では,変調方式に応じた帯域内歪み電力の許容値を設け,それを満たす範囲で余剰アン テナから送信する歪み補償信号の電力を最小化する手法を提案する. ピークキャンセラ適用時の 余剰アンテナを用いた歪み制御技術の概念図を図3に示す.ここでユーザー数を2とし,ユーザ2 はユーザ1に比べて歪みの許容値(EVMの要求値)が厳しいものとする. 基地局においてピー クキャンセラを適用する場合, PAPRの抑圧量に応じて受信信号に帯域内歪みが発生する. 帯域内 歪みが許容値を超える場合は受信特性が大きく劣化する.従来の歪み補償方式では,全ユーザの 帯域内歪みを完全に打ち消すように歪み補償信号を構成する(図2.18(a)). しかしながら,総送信 電力を一定とする場合,歪み補償信号の電力量に応じて多素子MIMOの空間自由度を消費する
2.7. 余剰アンテナを活用した歪み補償方式 44
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(a) 従来方式.
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EVMڒ༲
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(b)提案方式.
図2.18所要EVMに応じた歪み補償の概念図(2ユーザ時).
ため,プリコーディング利得の低下を招く. 提案方式では,歪み補償信号の電力を制御し,各ユー ザの歪み電力量を所要EVMに応じて補償する(図2.18(b)). これにより,歪み補償に用いる空間 自由度の消費を削減し,総合的な特性を向上できると考えられる.
1. データ送信に用いる各アンテナにおいて, 2.2節で述べたピークキャンセラを適用し,受信 歪み信号を推定する.
2.7. 余剰アンテナを活用した歪み補償方式 45 2. ユーザmのEVM値EV Mmestを以下を用いて推定する.
EV Mmest=
L/2+1
X
l=−L/2
|rml|2/
L/2+1
X
l=−L/2
|sml|2. (2.87)
3. 歪み補償信号に,電力制御係数による重みづけを行う.
r′l =Arl, (2.88)
ただしここで,A∈RM×M は以下で与えれるユーザ毎の歪み補償信号の電力制御係数 √αm
を対角要素とする対角行列である. A=diag(√
α1, ..., √
αm, ..., √
αM), (2.89)
ここでαm はユーザmのEVM値を制御する係数であり, EVMの推定値EV Mmreqと許容 値EV Mmreqを用いて以下で与えられる.
αm =
1−
qEV Mreqm
EV Mmest
(EV Mmreq< EV Mmest)
0 (otherwise),
(2.90) ここで,歪み補償費適用時のEVM推定値が許容値以下である場合(EV Mmreq >EV Mestm )は すでに所要品質を満たしているため, αm = 0とする. αm =0は,ユーザmに対しては歪み 補償を行わないことを表す. 一方で,EV Mreqm <EV Mmestの場合, 0< αm <1となり,歪み補 償信号の電力(空間自由度の消費量)を削減できる.
4. 歪み補償信号にプリコーディングを施し(x′l =−W′lr′l),余剰アンテナから送信する. 簡単化のため,チャネル推定誤差が十分に小さいと仮定すると, ユーザmのl番目のサブキャ リアの受信信号y′mlは以下で与えられる.
y′ml = 1 Pt
Nt
X
n=1
Hmnl x′nl+
Nex
X
k=1
Hmnl ′x′n′l+ǫml
+nml
= 1 Pt
Nt
X
n=1
Hmnl (xnl+dnl) − αm Nt
X
n=1
Hmnl dnl+ǫml
+nml
= 1
Pt {sml+(1−αm)rml+ǫml}+nml. (2.91) 電力増幅器によって受信信号が受ける非線形歪みが十分に小さい場合 (ǫml ≃0),ユーザmの受信
2.7. 余剰アンテナを活用した歪み補償方式 46
EVM値は
EV Mm′est =
L/2+1
X
l=−L/2
|(1−αm)rml|2/
L/2+1
X
l=−L/2
|sml|2
=(1−αm)2
L/2+1
X
l=−L/2
|rml|2/
L/2+1
X
l=−L/2
|sml|2
=(1−αm)2EV Mmest
=EV Mmreq, (2.92)
となり,許容値と一致することが確認できる. このとき,ユーザ mの受信SDNRを以下で定義 する.
SDNRm=
1
PTE[||Hlx′l||22]
1
PTE[||(IM×M−A)rl||22]+E[nl||22], (2.93) ただしここで|| · ||22はユークリッドノルムを表し, E[·]は集合平均を表す.IM×MはM×Mの単位 行列である.
2.7.3
非線形プリコーディング時の余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償
本節では, THP, VPにおける摂動ベクトルを, 歪み補償信号に重畳することで, 受信機側で
modulo演算を用いることなく信号点を復元する手法を提案する.
THP時の余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償方式
まず, THPに歪み補償を適用する場合の摂動ベクトル補償を提案する.従来のTHPでは一般的
に,図2.20(a)に示すようにmodulo演算を適用し,干渉減算によるプリコーディング出力の増大
を抑える. 受信機側では再度のmodulo演算により信号点を復元する. 受信機側でmoduloを用 いる場合,受信信号のSNRが低い場合, modulo演算によるビット誤り(modulo誤り)が発生す ることが問題となる. そこで本節では,受信機側におけるmodulo演算が不要なTHPとして,摂 動ベクトルを歪み補償信号に重畳して送信することで補償する手法を提案する.摂動ベクトルを zl∈CM×1とし,余剰アンテナから送信する信号に以下のように摂動ベクトルを重畳する.
r′k =rk+diag(lk)zl, (2.94) ここで,右辺の第2項目は摂動ベクトルの受信値を表す. kはサブキャリア番号を表す. r′kにZF プリコーディングを施した送信信号は以下で与えられる.
′ ′ ′
2.7. 余剰アンテナを活用した歪み補償方式 47
Data Source
QAM mod.
Data Source
QAM mod.
THP or VP
IFFT
IFFT
PAPR reduction
PAPR reduction
䞉䞉䞉 䞉䞉䞉
M
FFT
FFT
H ZF Pre-coding
IFFT
IFFT
Perturbation vector
distortion vector
GI
GI Power amp.
Power amp.
䞉䞉䞉
#௧
#1
GI
GI Power amp.
Power amp.
䞉䞉䞉 #௫
#1 ௫
図 2.19非線形プリコーディング時の余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償適用した基地局 構成.
摂動ベクトルの補償適用後の受信信号は以下で与えられ,電力制御による摂動ベクトルが除去で きていることがわかる.
y′k = 1 Pt
nHk(Qks′′k −ek)+r′ko + 1
Pt
εk+nk
= 1 Pt
ndiag(lk)(sk+zk)+Hkek−r′ko + 1
Pt
εk+nk
= 1 Pt
ndiag(lk)sk+εk
o+nk, (2.96)
ところで,提案方式を用いる場合,受信機側でmodulo演算を用いないため,送信機側の電力制 御においてもmodulo演算を用いる必要がない.言い換えれば,摂動ベクトルをサブキャリア毎に 個別に自由に設計可能である.また,摂動ベクトルの電力が増大すると,余剰アンテナの送信電力 が増加し,送信信号の電力が低下するために,摂動ベクトルはできるだけ短いことが望ましい.そ こで提案方式では,図2.20(b)に示すようにs′l,m の実部および虚部に対して以下の電力制御を適 用する.
Fτ(x)=
TT HP x
|x| x> α
x otherwise, (2.97)
ここでTT HP は電力制御適用後の各シンボルの実部及び虚部の最大電圧を表す. 電力制御適用後
2.7. 余剰アンテナを活用した歪み補償方式 48
I Q
Perturbation vector
(a)従来方式: modulo演算を用いる電力制御.
I Q
Perturbation vector
(b) 提案方式:簡易な電力制御. 図2.20非線形プリコーディング時の電力制御手法.
の送信シンボルは s′′l,m =Fτ(Re[s′l,m])+ jFτ(Im[s′l,m])となる. 摂動ベクトルは以下で与えられる.
zk =s′′k −s′k, (2.98)
一般的にサブキャリア毎に独立な電力制御を行う場合,空間プリコーデイングにおけるユーザ間 の直交性が保証されない. そこで,提案方式では電力制御により加算された摂動ベクトルを余剰 アンテナを用いて受信機に通知することで,受信機で特別な処理を行うことなくユーザ間の直交 性を補償することができる.
VPプリコーディング時の余剰アンテナを活用した帯域内歪み補償方式
次に, VPに歪み補償を適用する場合の摂動ベクトル補償を提案する. 従来のVPでは,プリ コーディングの入力シンボルに対して, 図2.8で与えられる拡大信号点の中からプリコーディン グの出力を最小とするような信号点の組み合わせを探索する.したがって,ユーザ数およびサブ キャリア数が増えるにしたがって演算量が増大する.特に,多素子MIMOにVPを適用する場合 はその演算量が莫大なものとなるため, 適用が困難である. この課題に対して本検討では, プリ コーディングの出力に簡易な電力制御を施して,探索に要する演算量を大幅に削減する手法を検 討する. 一般的にサブキャリア毎に独立に電力制御を行う場合は,ユーザ間の直交性が崩れるが, 提案方式では歪み補償信号に電力制御の摂動ベクトルを重畳することでその直交性を補償する. 従来の電力制御法に代わり,提案方式ではプリコーディングの出力に,以下の数式で与えられる簡
2.7. 余剰アンテナを活用した歪み補償方式 49 易な電力制御を適用する.
x′l,m =
TV P
x′l,m
|x′l,m| |x′l,m|>TV P
x′l,m otherwise, (2.99)
ここでTV P は電力制御適用後の各シンボルの最大電圧を表す.lはサブキャリア番号を表す. x′l,m と xl,mの差分を歪み補償信号に重畳することで,余剰アンテナを用いて摂動ベクトルを補償する.
摂動ベクトル加算後の歪み補償信号は以下で与えられる.
rl =Hlel+zl, (2.100)
提案方式適用時の受信信号は, y′l = 1 Pt
nHlx˜l+H′lx′l+εl o+nl
= 1 Pt
nHlWl(sl+el)−H′lW′l(Hlel+zl)+εl o+nl
= 1
Pt {sl+εl}+nl, (2.101)
となり摂動ベクトルを除去できる.
2.7.4
全アンテナを用いた繰り返し歪み補償方式
多素子MIMOの余剰自由度を活用してピークキャンセルの帯域内歪みを補償するには,必ず しも歪み補償専用アンテナを設ける必要はない. 以下では,歪み補償専用アンテナを設けること なく,帯域内歪みを補償する手法について検討する.
送信機構成を図2.21に示す. 受信機側におけるピークキャンセラによる歪み信号rl を補償す るために,送信信号にプリコーディングを施したrlを加算する.rl 加算後の送信信号ベクトル˜x′ は以下で与えられる.
˜x′l = ˜xl+Wlrl
=xl−el+WlHˆlel. (2.102) l番目のサブキャリアにおける受信信号は以下で与えられる.
yl = 1 Pt
nHlx˜′l+εl o+nl
= 1 Pt
nHl
xl−el+WlHˆlel
+εl o+nl
= 1 Pt
nsl−(Hl−Hˆl)el
o+ 1 Pt
εl+nl,
(2.103)
2.7. 余剰アンテナを活用した歪み補償方式 50
# 1
#N