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博士(工学)堤 香織 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(工学)堤   香織 学位論文題名

生体内ポリリン酸の遺伝子転写制御に関する研究 学位論文内容の要旨

  ポ リリ ン酸 はりン酸が数個から数千個直鎖状に高エネルギーリン酸結合した化 合物 であ る。 自然界においては、バクテリアなどの原核生物から高等真核生物で ある ほ乳 類や 緑色植物に至る様々な生物の組織内及び細胞内でその存在が確認さ れて いる 。ポ リリン酸は種々の生理機能を有する可能性があるにも関わらず、そ の詳 細は 未解 明なままである。本論文では、大腸菌におけるポリリン酸の機能の ーつ であ るス トレス応答に関係する遺伝子の発現制御に焦点をあて、そのメカニ ズム を明 確に する こと を目 的と して 実験 を行った。本論文は、5章から構成され ており、それぞれの概要は以下の通りである。

  第1章は序論であり、本研究の目的を明らかにした。

  第2章 で は 、 ポ リ リ ン酸 のrpoS遺 伝子 転写 制御 につい て観 察し た。 大腸 菌に お い て ポ リ リ ン 酸 合 成酵素 をコ ード する 遺伝 子(ppk)を 欠損 した 株は 、過 酸化 水素 や浸 透圧 ショック、熱ショックに対する耐性が低下することが報告されてお り、 ポリ リン 酸が大腸菌のストレス応答に重要な役割を果たしていると考えられ ている(Crooke etal.1994; Rao and Komberg1996)。そこで本章では、ポリリン酸 がス トレ ス応 答遺伝子の発現に何らかの影響を及ぼしている可能性を考え、ポリ リン 酸の 遺伝 子転写制御因子としての機能を解明することを試みた。大腸菌菌体 内の ポリ リン 酸濃度は、菌体内でポリリン酸分解酵素を高発現させることにより 検出 限界 以下 にまで減少させた。その結果、ポリリン酸分解酵素高発現株では野 生株 と比 較し て過酸化水素に対して高感受性となった。また、その際にカタラー ゼを コー ドす るね 堪遺 伝子 の転 写効 率が 低下し てい た。 更に 、施 厄遺 伝子の発 現を 制御 して いる ゅ〇S遺伝 子の 転写 を観 察したところ、菌体内ポリリン酸濃度 の低 下に よっ てゅ0S遺 伝子 の転 写誘 導効 率も低 下し てい るこ とが 分か った。つ まり 、菌 体内 ポリ リン 酸の 減少 によ る過 酸化水 素耐 性の 低下 はp〇S遺 伝子の発 現低 下に 起因 することが分かった。本章により、菌体内ポリリン酸がストレス応 答遺 伝子 の発 現制 御因 子で ある ゅ〇S遺伝 子の転写を制御していることを明らか にすることができた。

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  第3章では、ポリリン酸の転写制御因子としての機能が他のストレス応答遺伝 子にも影響を与えているか否かについて調べた。そこで、代表的なストレス応答 レギュロンであるSOS遺伝子群の転写に及ぼすポリリン酸の影響を観察した。第 2章で述べた方法を用いて菌体内ポリリン酸濃度を低下させると、マイトマイシ ンC (MMC)及びUVに対し て高感受性 となった。 この感受性 の上昇は、 菌体内 でPPKを高発現させることによって回復することから、SOS応答とポリリン酸と の関連性が示唆された。このメカニズムを解明するために、SOS遺伝子のーつで あるrecA遺伝子の転写量を観察した。その結果、菌体内ポリリン酸濃度の低下に よってrecA遺伝子の転写誘導効率が低下することが分かった。また、菌体内で PPKを過剰発 現させ、菌 体内ポリリ ン酸の濃度 を上昇させると、UVやMMCによ るDNA損傷の有無に関わらず、recA遺伝子の転写が誘導されることが分かった。

recA遺 伝子以外のSOS遺伝子 としてumuDC遺伝子の転 写への影響を観察したと ころ、菌体内のポリリン酸濃度が低下するとumuDC遺伝子の転写誘導効率も低下 することが分かった。これらの結果より、ポリリン酸がSOS遺伝子群の転写誘導 にも関与していることが分かった。また、ポリリン酸が、大腸菌内すべての遺伝 子の転写誘導制御にグローバルに関わっている可能性を調べる目的で、ストレス 応答遺伝子以外の遺伝子であるlacZの転写誘導にポリリン酸が与える影響につい て調べた。その結果、ポリリン酸のlacZ遺伝子転写誘導への影響は認められな かった。これらの結果より、ポリリン酸による転写誘導の制御は大腸菌すべての 遺伝子に対する非特異的なものではないことが分かった。

  第4章では、ポリリン酸の遺伝子転写制御機構のーつの可能性として考えられ ているポリリン酸とRNA polymeraseの相互作用について観察した。その結果、加 vitro及びin vivoにおいて、ポリリン酸とRNA polymeraseの相互作用を示す結果が 得られた。このことから、ポリリン酸がRNA polymeraseと結合することにより RNA polymeraseの機能的性質に影響を与え、promoterの選択性等を変化させる可 能性が示唆された。

  第5章は総括であり、本研究により大腸菌ポリリン酸の遺伝子転写制御因子と しての機能を明らかにすることができた。ポリリン酸の存在はバクテリアからほ 乳類に至るまで広く確認されていることから、大腸菌以外においてもポリリン酸 が転写制御因子として機能している可能性がある。今後更に多くの生物でポリリ ン酸の合成や分解等の代謝に関わる遺伝子がクローニングされることにより、ポ リリン酸と遺伝子転写制御の関連性が解明されていくものと期待される。本論文 で得られた成果は、今後ポリリン酸の遺伝子転写制御因子としての機能を明らか にする上での足がかりとなるものである。

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学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教 授   棟 教 授   上 教 授   木 教 授   高 助 教 授  柴

方 正 信 舘 民 夫 下 晋 一 井 光 男     肇 一

学 位 論 文 題 名

生体内 ポリリ ン酸の遺 伝子転写制御に関する研究

  ポリリ ン酸はり ン酸が数 個から数 千個直鎖状 に高工ネルギーリン酸結合した化 合物で ある。自 然界にお いては、 バクテリア などの原 核生物から高等真核生物で あるほ 乳類や緑 色植物に 至る様々 な生物の組 織内及び 細胞内でその存在が確認さ れてい る。ポリ リン酸は 種々の生 理機能を有 する可能 性があるにも関わらず、そ の詳細 は未解明 なままで ある。本 論文では、 大腸菌に おけるポリリン酸の機能の ーつで あるスト レス応答 に関係す る遺伝子の 発現制御 に焦点をあて、そのメカニ ズ ムを 明確にす ることを 目的として 実験を行 った。本 論文は、5章から構 成され ており 、それぞ れの概要 は以下の 通りである 。

  第1章は 序論であ り、本研 究の目的 を明らかに した。

  第2章 で は 、ポ リ リン 酸 のrpoS遺伝 子 転写 制 御 につ い て観 察 した。 大腸菌に お いて ポ リ リン 酸 リン 酸 化 酵素 を コー ド す る遺 伝 子(ppk)を欠 損し た株は、 過 酸化水 素や浸透 圧ショッ ク、熱シ ョックに対 する耐性 が低下することが報告され ており 、ポリリ ン酸が大 腸菌のス トレス応答 に重要な 役割を果たしていると考え られている(Crooke eta111994; Rao and Komberg 1996)。そこで本章では、ポリリ ン酸が ストレス 応答遺伝 子の発現 に何らかの 影響を及 ぼしている可能性を考え、

ポリリ ン酸の遺 伝子転写 制御因子 としての機 能を解明 することを試みた。大腸菌 菌体内 のポリリ ン酸濃度 は、菌体 内でポリリ ン酸分解 酵素を高発現させることに より検 出限界以 下にまで 減少させ た。その結 果、ポリ リン酸分解酵素高発現株で は野生 株と比較 して過酸 化水素に 対して高感 受性とな った。また、その際にカタ ラ ーゼ を コ ード す るkatE遺 伝 子 の転写効 率が低下 していた 。更に、 ね晒遺伝 子 の 発現 を 制 御し て いるipoS遺 伝 子の転写 を観察し たところ 、菌体内 ポリリン 酸 濃度の 低下によ ってrpoS遺伝 子の転写 誘導効率も 低下していることが分かった。

っ まり 、 菌 体内 ポ リリ ン 酸 の減 少に よる過酸 化水素耐 性の低下 はrpoS遺伝子 の

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発現低下に起因することが分かった。本章により、菌体内ポリリン酸がストレス 応答遺伝子の発現制御因子であるrpoS遺伝子の転写を制御していることを明ら かにすることができた。

  第3章では、ポリリン酸の転写制御因子としての機能が他のストレス応答遺伝 子にも影響を与えているか否かについて調べた。そこで、代表的なストレス応答 レギュ口ンであるSOS遺伝子群の転写に及ぽすポリリン酸の影響を観察した。第 2章で述べた方法を用いて菌体内ポリリン酸濃度を低下させると、マイトマイシ ンC (MMC)及 びUVに対 して 高感受 性と なっ た。 この感 受性の上昇は、菌体内 でポリリン酸リン酸化酵素を高発現させることによって回復することから、SOS 応答とポリリン酸との関連性が示唆された。このメカニズムを解明するために、

SOS遺伝子のーつであるrecA遺伝子の転写量を観察した。その結果、菌体内ポリ リン酸濃度の低下によってrecA遺伝子の転写誘導効率が低下することが分かっ た。また、菌体内でポルリン酸リン酸化酵素を過剰発現させ、菌体内ポリリン酸 の 濃 度 を 上 昇させ ると 、UVやMMCに よるDNA損傷 の有 無に関 わら ず、recA遺 伝子の転写が誘導されることが分かった。recA遺伝子以外のSOS遺伝子として umuDC遺伝子の転写への影響を観察した結果、菌体内のポリリン酸濃度が低下す ーるとumuDC遺伝子の転写誘導効率も低下することが分かった。これらの結果よ り、ポリリン酸がSOS遺伝子群の転写誘導にも関与していることが分かった。ま た、ポリ1」ン酸が、大腸菌内すべての遺伝子の転写誘導制御にグ口ーバルに関 わっている可能性を調べる目的で、ストレス応答遺伝子以外の遺伝子である血cZ 遺伝子の転写誘導にポリ1jン酸が与える影響について調べた。その結果、ポリリ ン酸のぬcZ遺伝子転写誘導への影響は認められなかった。これらの結果より、ポ リリン酸による転写誘導の制御は大腸菌すべての遺伝子に対する非特異的なもの ではないことが分かった。

  第4章では、ポリリン酸の遺伝子転写制御機構のーつの可能性として考えられ ているポリリン酸とRNApolymeraseの相互作用について観察した。[32P]ラベルし たポリリン酸とRNApolymeraseを混合してgelshinassayを行った結果、ポリリン 酸‐RNApolymerase複合体の形成が濃度依存的に観察された。またNative‐PAGE では、菌体内でPPKを過剰発現させた際の心岨polymeraseの移動度の増加が観察 された。これらの結果から、伽vf加及び加vんDにおけるポリリン酸と心岨poly. meraseの相互作用が示された。このことから、ポリリン酸がRNApolymeraseと結 合することによりRNApolymeraseの機能的性質に影響を与え、promoterの選択性 等に変化を及ぽしている可能性が示唆された。

  第 5章 は 総 括 で あ り 、 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 を 総 括 し た 。   これを要するに、著者は本研究によって大腸菌ポリリン酸の遺伝子転写制御因 子としての機能を明らかにすることができた。ポリリン酸の存在はバクテリアか らほ乳類に至るまで広く確認されていることから、大腸菌以外においてもポリリ ン酸が転写制御因子として機能している可能性がある。今後更に多くの生物でポ

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リリン酸の合成や分解等の代謝に関わる遺伝子がク口ーニングされることにより、

ポリリン酸と遺伝子転写制御の関連性が解明されていくものと期待される。本研 究は、今後ポリリン酸の遺伝子転写制御因子としての機能を明らかにする上での 足がかりとなるものであり、微生物工学の発展に貢献するところ大なるものがあ る。よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと 認める。

参照

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