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博士(農学)新倉学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 農 学 ) 新 倉 学 位 論 文 題 名

ダイコンの自家不和合性に関わる形質の育種学的研究 学位論文内容の要旨

  雑種強勢を利用した一代雑種(FI)育種法は,そ の実用化にあたりFi種子の効率的かっ 大量の採種方法が前提となり,生殖制御法や受粉制御法の確立が必須となる.現在で強ダ イコン,キャベツ,ハクサイ等に代表されるアプラナ科野菜のほとんどの品種が自家不和 合性を利用して採種されたFi雑種品種となっている.アプラナ科の自家不和合性は,胞子 体型として作用するS (Self‑incompatibility)遺伝子座に存在する一連の複対立遺伝子に支配 される.しかし自家不和合性は,その程度に系統間差が存在すること,種々の内的・外的 要因により容易に打破されることから,S遺伝子以外の遺伝因子にも鰌御を受けているこ とが推察される.

  自家不和合性を利用した採種方法には,自家不和合性がC02ガスにより打破される現象 を利用し原種採種を行う単交配,あるいはS遺伝子に関する同質遺伝子系統対を用いた複 交配 ,が主に用kゝられる,C02ガスによる自家不和合性打破程度(C02反応性)には系統 間差が存在し,単交配の原種採種栽培時にはC02反応性が高いことが,他方,FI採種栽培 の場面では,単交配,複交配を問わず,高い自家不和合性程度を示すことが原種系統に求 められる.しかしこれら形質,すなわち「S遺伝子」,「COz反応性」ならびに「自家不 和合性程度」の相互の遺伝的関係は全く明らかにされていない.

  以上の背景から本研究は,ダイコンを材料に用いて,ー代雑種育種を進める上で特に重 要な生殖形質の選抜の為,いわゆる自家不和合性 を,「S遺伝子」,「C02反応性」なら びに「自家不和合性程度」に分けて評価すること,さらにそれら形貿の遺伝解析を行うこ とを目的とした.

  1.S遺 伝子 の 多様 性を 調査 する ため ,交 配実 験に より71近 交系 統お よ び在来種223 系統の対立性検定を行った.その結果,S201〜S231の37種類のS対立遺伝子を同定した.

この内16種類のS対立遺伝子(ず゜アを除くS'oJー´S211)を有するホモ型系統間交雑によりS 遺伝子ヘテロ型個体を作出し,ヘテロ型とホモ型個体の正逆交雑から,各S遺伝子間の優 劣性検定を行った.その結果,概ね4種の型(I型 ;柱頭・花粉側とも優劣関係を示す,

H型;花粉側にのみ優 劣関係を示す,m;柱頭側に のみ優劣関係を示す,IV型;柱頭・花 粉側とも共優性を示す)に集約され,各型の頻度は18.9%,20.0%,11.1%ならびに45.6% で あ っ た . ま た 出 現 頻 度 の 高 か っ たS対 立 遺 伝 子 は す ぺ て 優 性 で あ っ た .   2.  Brassica oleraceaのSLG遺伝子を基にしたプライマーに,ダイコンの全DNAを鋳型 としたPCRより,ダイコン.SLG遺伝子の単離を行った.その結果,S70iはB.olerロceaのSLG6 とDNAレベルで約80% ,アミノ酸レベルで約88%の相同性を示し,システイン 残基,変 異・保存領域も既知のSLG遺伝子と一致した.加えてノーザンプロットによる発現解析の 結果,自家不和合性の発現する開花前日から,柱頭特異的で,開花当日に最大の転写産物 量を示した.この結果,本実験で初めて,ダイコンのSLG遺伝子の単離が為されたことに なる.

  次に,2種のダイコンSLG遺伝子(S20l,S207)間相同配列から再設計したプライマーを用 いたPCRより増幅の認 められたS対立遺伝子の内, 新たに7種を単離し,塩基配 列を明ら

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かにした.またこれら遺伝子とBrassica属の SLGならびにSLR遺伝子を含めたコード領域 におけるクラス夕一分析を行った,その結果,両種のSLG遺伝子は明瞭なクラスターに類 別できなかった.また5 側領域を用いた場合と3 側領域を用いた場合とでは分析結果が異 なった,

  3.ダイ コンSLG遺 伝子 を基 にし たプ ライ マー を用 い,PCR‑RFLPに よるS対 立遺 伝子 の同定を行った.S対立遺伝子の同質遺伝子系統対ならびにFユ集団を供試し,PCR‑RFLP の結果と交配実験の結果が完全に一致すること を確認した.そこで37種のS対立遺伝子 (S701NSV37)を 供試 した とこ ろ,29種 でPCR産物 が得 られ ,MspIに よるRFLPによ りほ とん どのS対立 遺伝 子が 同定できた.また残り8種のS対立遺伝子ではPCR産 物が得られ なかった.なおS対立遺伝子のPCRによる増幅・非増幅と優・′劣性関係は概ね一致した,

  4.自家不和合性程度は自殖結実率,C02反応性はC02インキュヘ.ーpによる伸長花粉管数t評 点1(少)〜  5(多)1ならび一莢粒数は昔自家受粉により各々評価し,在来種系統にお ける遺伝的変異を調査レた.

  自家不和合性程度は,0°/。(19系統)‑v100%(2系統)まで広範な変異が確認された.

C02反応 性 は, 評点1の 系統 が全調査系統中約32%の11系統,評点5の系統が約12%の4 系統であった,一莢粒数は最小0.9粒〜最大6.2粒であった.また全調査系統における平 均一莢粒数は約2.9粒であった.S遺伝子,自家 不和合性程度,CO;,反応性ならびに一莢 粒数の各形質において形質問相関は認められぬかった.

  5. C02反応性の分離するF2集団およびF3系統 を供試して遺伝子分析を行った.その結 果,C02反応性を支 配する遺伝因子はS遺伝子と は異ぬり,高いC02反応性は 劣性一因子 支配であることが明らかとなった.

    次にC02ガスに 応答する器官を同定するため,先のF2集団から同‑S対立 遺伝子ホモ 型で,C02反応性の 異なる3個体を抽出した.こ れら個体間の正逆交雑を行ったが全交雑 組合せの内,高いC02反応性を示す個体を柱頭側に用いた時のみに,その交雑組合せは高 いC02反応性を示した.

  自家不和合性程度に関連する遺伝子を単離するため,簡易ディファレンシャルディスブ レー法を行った.その結果,ある任意のプライマーを用いたとき,自家不和合性程度の低 い系統に特異的なPCR産物が得られ,その産物はSーアデノシルメチオニン合成酵素と高 い相同性を有していた.同様にC02反応性に関連する遺伝子を単離するため,簡易ディフ ァレンシャルディスプレー法を行った.延べ236種類のブライマーを用いてスクリーニン グしたが,単離するには至らなかった.

  6.S遺伝子ならび に自家不和合性程度ならびに一莢粒数の多様性を基にし た栽培ダイ コ ン 系 統 分 化 を 試 み , こ れ ら 形 質 と 他 の 農 業 形 質 と の 関 係 を 調 査 し た , 各在来品種群聞共通なS対立遺伝子数の数量化N類よる計算結果に,主成分分析を適用し,

その因子負荷量により系統分類レたところ,特に国内品種群は古来の地理的分布や形態形 質に関わらず混然一体となり分布した,しかしこれまでの研究では系譜上比較的近いとさ れる,理想ならびに西町品種群において第2主成分の因子負荷量が大きく異なった.自家 不和合性程度は各品種群聞に有意差は認められなかった.しかし 練馬大根 に関与した とされる品種群の中では自殖結実率平均値に統計的有意差が検出された.一莢粒数は各品 種群間に統計的有意差が認められた.すなはちネパール系品種群は比較的高い値を示した のに対レ,国内品種群の多くが比較的低い値であった.

  最後に本研究を通じて明らかとなった結果を基に,「C02反応性」を利用した単交配,

あるいは「S遺伝子Jに関する同質遺伝子系統対 を用いた複交配における,系統育成上で の 各 形 買 の 選 抜 上 の 留 意 点 を 総 合 的 に 考 察 し , 新 たな 選抜 シス テム を提 案し た,

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ダイコンの自家不和合性に関わる形質の育種学的研究

  本論 文は,図20,表19,135ページからなる 邦文で,別に5編の参考論文 が添えられている。

  ダイ コンを含む 多くのアプラナ科野菜は,現 在,自家不和合性を利用し て採種されたF1雑種 品 種と なっ てい る。 雑 種強 勢を 利用した一代 雑種(Fi)育種法は,その実 用化にあたりFi種子 の効率的かつ大量の採種方法が前提となる。自家不和合性は,S (Self‑incompatibility)遺伝子座 に 支配 されるもの の,自家不和合性の程度に系 統間差が存在すること,種 々の内的・外的要因 に より 容易 に打 破さ れ るこ とか ら,S遺伝子以 外の遺伝因子にも制御を受 けていることが推察 さ れる 。自 家不 和合 性 を利 用し た採種方法に は,自家不和合性がC02ガス により打破される現 象 を利 用し 原種 採種 を 行う 単交 配,あるいはS遺伝子に関する同質遺伝子 系統対を用いた複交 配 ,が 主に 用い られ る 。C02ガ スによる自家不 和合性打破程度(C02反応性 )には系統間差が.

存在し,単交配 の原種採種栽培時にはC02反応性が高しゝことが,他方,Fl採種栽培の場面では,

単 交配 ,複交配を 問わず,高い自家不和合性程 度を示すことが原種系統に 求められる。しかし こ れら 形質 ,す なわ ち 「S遺 伝 子」 ,「C02反応 性」 なら びに「自家不和 合性程度」の相互の 遺伝的関係は全 く明らかにされていない。

  以上 の背 景か ら本 研 究は ,ダ イコンの一代 雑種育種を進める上で,自家 不和合性を,「S遺 伝 子」 ,「C02反応 性」 なら び に「自家不和合 性程度」に分けて総合的に 評価したもので,主 な結果は次のご とくである。

1.S遺 伝子 の多 様性 を 調査 する ため ,交 配 実験 によ り71近 交系 統お よび 在来 種223系統の対 立 性検 定を 行っ た。 そ の結 果,p 01〜52j7の37種類のS対立遺伝子を同定 した。この内16種類 のS対立 遺伝 子(S207を 除くF01〜S217)を 有 する ホモ 型系 統 間交 雑に よりS遺 伝子 ヘテロ型個 体 を作 出し ,ヘ テロ 型 とホ モ型 個体の正逆交 雑から,各S遺伝子間の優劣 性検定を行った。そ の 結果 ,概 ね4種の 型(I型 ;柱 頭・ 花粉 側 とも 優劣 関係 を 示す ,u型 ; 花粉 側に のみ優劣関 係 を示 す,m; 柱頭 側に のみ 優 劣関 係を 示す ,W型; 柱頭 ・花粉側とも共 優性を示す)に集約     ‑ 254ー

雄 也

芳 義

野 本

佐 島

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

され,各型の 頻度は18.9%,20.0%,11.1%ならびに45.6%であった。また出現頻度の高かったS 対立遺伝子はすべて優性であった。

2Brassica oleraceaのSLG遺 伝子 を基 にし た プラ イマ ーに ,ダ イ コン の全DNAを鋳 型とし た PCRより,ダ イコン.SLG遺伝予を調査し た。その結果,・Sfl01はB.oleraceaのSLG6とDNAレベル で約80%,ア ミノ酸レペルで約88%の相 同性を示し,システイン残基 ,変異・保存領域も既知の SLG遺伝 子 と一 致し た。 ま た, ノー ザン ブロ ッ ト解 析の 結果 ,自 家不和合性が発現する開花 前 日 から 開花 当日 に 柱頭 でゃ °jは特 異的 に転 写 され た。  次 に, ダイコンSLG遺伝子の7種類 に つ いて 塩基 配列 を 決定 し, コー ド領 域 の比較からクラスター分析 を行った。その結果,種間 の SLG遺伝子は明瞭なクラスターに類別できなかった。

3.ダ イ コ ンSLG遺 伝 子 配 列 を 基 に し て ,PCR‑RFLPに よ るS対 立 遺 伝 子 の 同 定 を 行 っ た 。S 対 立遺 伝子 の同 質 遺伝 子系 統対 なら び にF2集団 を供 試 し,PCR‑RFLPの結 果 と交 配実 験の結 果 が 一 致 す る こ と を 確 認 した 。そ こ で37種のS対 立遺 伝子(s2 01〜p3つを 調査 した と ころ ,29 種 でPCR垂 物 が 得 ら れ ,MspIに よ るRFLPに よ り ほ と ん ど のS対 立 遺 伝 子 を 同 定 で き た 。 4.在 来 種 系 統 に お け る 遺伝 的変 異 を調 査す るた め, 自 家不 和合 性程 度 を自 殖結 実率 で,C02 反応性をC02イ冫キュヘ.ーターによる伸長花粉管数で,また一莢粒数を蕾自家受粉で各々評価した。そ の 結果 ,3形質 とも に系 統 間に 広範 な変 異が 存 在す るこ とが 判っ た 。し かし ,こ れ ら3形質 に おいて相互に 相関は認められず,育種的 に変異を自由に組み合わすこ とができると判断できた。

5C02反 応 性 に つ い て 遺伝 子分 析 を行 った 結果 ,高 いC02反 応 性は 劣性 一因 子支 配 であ るこ と が明 らか とな った。また,C02ガス に応答する器官を同定するた め,同‑S対立遺伝子をもち , C02反 応 性 の 異 な る3個 体を 選ん で 正逆 交雑 を行 った 。 その 結果 ,高 いC02反 応性 を 示す 個体 を柱頭側に用いた時のみに,高いC02反応性を示すことが判った。

6.S遺 伝 子 , 自 家 不 和合 性 程度 なら びに 一 莢粒 数の 多様 性を 基 にし た栽 培ダ イコ ン 系統 の分 類 を行 うと 共に , 他の 農業 形質 との 関 連を調査した。主成分分析 の結果は,国内品種群に見 ら れ る自 家不 和合 性 に関 わる 諸形 質が 古 来の地理的分布や形態形質 とは無関係に分化している 傾 向を示した。

  最後 に本 研究 を 通じ て明 らか とな っ た結 果を 基に , 「C02反応 性」を利用した単交配,あ る い は「S遺 伝子 」に 関す る 同質 遺伝 子系 統対 を 用い た複 交配 にお ける,系統育成上での各形 買 の選抜上の留意点を総合的に考察し,新たな選抜システムを提案した。

  以上 のように,本論文 は従来解析が不十分であっ た採種関連要因を総合的に把 握し,異なる 遺伝要因 を明確にした。この成果は ,学術的・実用的に高く評価される。よって審査員一同は,

新 倉 聡 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

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参照

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