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博士(農学)橋場 学,位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)橋場 学,位論文題名

Lactobacillus helveticus

の分子育種に関する研究 学位論文内容の要旨

  微生物は有史以前より人間が摂取する食品の製造や加工に関与してきた。その結 果、現在においては発酵食品や発酵飲料は食品加工工業においてかなりの部分を占 めるに至っている。乳酸菌は牛乳、肉、野菜を原料とする様々な発酵食品や飼料の 菌叢の重要な構成菌であり、その役割は利用可能な糖源を素早く乳酸に転換し、pH を低下させることにある。工業的規模での発酵製品の製造では、性質のよく解かっ たスターターカルチャーを添加することにより常に一定品質、かつ高品質を保持し てきた。スターターとして用いられる乳酸菌は酸生成能、フレーパー生成能、食感 の様な望ましい性質を指標として自然界よルスクリーニングしたり、変異処理を行 ない、選択するという方法が用いられて来た。

  遺伝子組換え法は微生物を育種改良をするための有用な方法である。しかし、乳 酸桿菌の分野ではぺクター開発や遺伝子導入法に関する研究は他の微生物に比べて 遅れ ていたが1987年にChassyらがェレク トロポレーションによりLactobacillus caseiの 形 質 転 換 に 成 功 し て 以 後 、 急 激 に 進 展 し は じ め て き た 。   乳酸桿菌としては多くの菌種が知られており、目的とする菌種の育種改良にはそ の菌種にあったべクターと形質転換法の開発が必要である。そ、こで、チーズやヨー グルト製造に用いられているL, helveticusの分子育種を最終目的として宿主ーベ クター系の開発研究を行なった。

1.L. helveticus SBT2161より潜在性プラスミ′ドpLJlを単離し、制限酵素地図を 作成 した。また、Sangerらの方法によりpLJlの全塩基配列を決定した。塩基数は 3,292 bpで、アミノ酸353個、分子量41 kDaのタンパク質をコードしている1,059 bpよりなるオープンリーディングフレーム(ORF)を確認した。マキシセル法により、

このORFにコードされている未知タンパク質が生産されていることを確認した。ま た、pLHR中のpLJl由来のORF中のAccIを平滑末端化することにより複製能が消失する ことより、この未知夕ンパク質がpLJlの複製に関与していることが強く示唆された。

しかし、この未知夕ンパク質のアミノ酸配列とプラスミド中で複製に関与すること が知られている他の乳酸菌のプラス.ミド上にコードされているRep夕ンパク質のアミ ノ酸配列を比較したが、類似性は認められなかった。

2.L. helveticus中で発現することが知られているEnterococcus faecalis由来 のpAMロ1のエリスロマイシン耐性遺伝子とpLJlおよぴ大腸菌用ベクターpBR329より なるpLHRを 構築した。 本プラスミ ドを用いてェレクトロポレーションによるL. helveticusの形質転換条件を検討した。電圧の最適値は菌種や菌株により異なり、

L. helveticusでは4kV/cmで最高の形質転換効率が得られた。また、定常期後期

(22〜23時間培養)の細胞で最も高い形質転換効率が得られた。更に、他の因子と してエレクトロポレーションに用いられる菌体の培養時におけるグリシンの添加が

(2)

挙げられる。1.2%のグリシンを添加したMRS培地で生育した菌体で高い形質転換効率 が得られた。至適条件である1.2%のグリシンを含むMRSで22時間培養した菌体を用い、

電圧4 kV/cmで1.3x l04形質転換体/mlの効率が得られた。宿主株であるL.helveー ticus SBT2161Cは1皿g/mlのエリスロマイシンで生育を阻害されるのに対し、pLHR を保有するSBT2161C株はlmg/mlのエリスロマイシン存在下でも生育可能であった。

制限・修飾系は異種のDNAを修飾したり分解したりすることにより細菌の形質転換を 著しく阻害することが知られており、SBT2161Cにも弱い制限・修飾系が存在するこ とが示唆された。

3.乳糖はミルクに存在する唯一の糖源であるため、発酵乳の製造に使用されるL. helveticusにおいては、乳糖資化能は食品に利用可能な効果的選択マーカーとなる。

そこで、L. delbrueckii subsp. bulgaricusよルローガラクトシダーゼ遺伝子を取 得し、その塩基配列を決定した。ロ―ガラクトシダーゼ遺伝子をコードするORFの塩 基 数は3,024 bpで、アミノ酸1,008個(分子量114,154 Da)よりなっていた。

  次に、pーガラクトシダーゼ活性を選択マーカーとするぺクター用の宿主として ローガラクトシダーゼ欠損株の取得を行った。L.helveticus SBT2161Cを300mg/mlの ニトロソグアニジンで30分問37℃で処理した。ローガラク卜シダーゼ欠損変異株は 2.4xl02の頻度で得られ、そのなかで変異を安定に保持している一株をSBT2195と 命名した。このSBT2195株の形質転換効率は親株のわずか1/20であった。この低い形 質転換効率のためェレクトロポレーション法では遺伝子操作したプラスミドDNAを直 接L. helveticusにク ロー ニン グする こと はで きな い。し かし 、E.coliとL. helveticus間のシヤ゛トルベクターの形で用いるならば低い形質転換効率であるエレ クトロポレーション法でも十分である。

4. ローガ ラク 卜シ ダー ゼ活性 を選 択マーカーとするべクターの構築を行った。

pLJlの複製に関与する領域を合む断片、pBR329のori断片、L.delbrueckii subsp.

bulgaricusのp−ガラクトシダーゼ遺伝子およぴpAMロ1のエリスロマイシン耐性遺 伝 子を 連結 する ことに よル プラ スミドpBG8EmlとpBG8Em2を構築した。pBG8Emlと pBG8Em2はエリスロマイシン耐性遺伝子とローガラクトシダーゼ遺伝子が同一方向と 反対方向にそれぞれ挿入されている。両者ともローガラクトシダーゼ遺伝子は発現 しているが、pBG8Em2を保有しているL.helveticus SBT2195は乳糖を唯一の糖源と する培地では生育できなかった。この結果は、L. helveticus SBT2195が乳糖を唯ー の糖源とする培地で生育するにはェリスロマイシン耐性遺伝子のプロモーターから のりードスルーが必須であることを示している。

  次に、pLJlの複製に関与する領域を合む断片、pBR329のori断片、L.delbrueckii subsp. bulgaricusのロ―ガラクトシダーゼ遺伝子およびpAMB1のエリスロマイシ ン耐性遺伝子のプロモーター断片よりなる食品に応用するには不適当な薬剤耐性遺 伝子を全く含まないプラスミドpBGl0を構築した。SBT2195(pBGl0)のローガラクト シダーゼ活性は親株の10倍であった。このことはpBGl0のエリスロマイシン耐性遺 伝子のプロモーターは強く、外来性遺伝子発現に利用できることを示唆している。

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本ペクターのエリスロマイシン耐性遺伝子のプロモーターの下流に発現ペクターと しても使用できるように外来性遺伝子のクローニング部位としてのSacI部位を配し た。SacI部位の3 一末端をKlenow断片で除くことにより外来性遺伝子は翻訳開始コ ドンATGの下流に挿入可能とる。pBGl0では、このSacI部位に加えてBamHI、SalI、 PstI部位が一般的クローニング部位として利用可能である。

5.ATG以降から停止コドンまでをPCRで増幅し、pBGl0のエリスロマイシン耐性遺 伝子のプロモーターの下流のSacI部位に挿入し・たBacillus licheniformisのa―ア ミラーゼ遺伝子の構造遺伝子(1,536 bp)はL.helveticusで発現し、その形質転 換体は乳糖を唯一の糖源とする培地で生育可能であった。これらの結果はa―アミ ラーゼ遺伝子断片(1,536 bp)の大きさまでの外来性遺伝子はローガラク卜シダーゼ     と.

遺伝子の発現には影響しないことを示している。

  ロ―ガラクトシダーゼ欠損株であるL. helveticus SBT2195株とp―ガラクトシダ ーゼ活性を唯一の選択マーカーとするpBGl0との組み合わせは食品に利用可能な宿主 ーベクターシステムであり、フレーパーの生産、酸耐性の付与、酸生成能に関与す る 外 来 性 遺 伝 子 を ク ロ ー ニ ン グ し 発 現 さ せ る た めに 役 立っ も のと 考 える 。

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学位論文審査の要旨

    主査  教授  冨田房男     副査  教授  本間  守     副査  教授  匂坂勝之助     学位論文題名

Lactobacillus helveticusの分子育種に関する研究

  本論文は、緒諭と序論が2章、実験の部が5章、和文総括と英文総括が1章、計8章 より構成されている。和文70頁、図32、表6、引用文献120からなり、ほかに参考論 文11編が付されている。乳酸菌は乳、肉、野菜を原料とする様々な発酵食品や飼料 の菌叢の重要な構成菌であり、その役割は利用可能な糖源を素早く乳酸に転換し、

pHを低下させることにある。工業的規模での発酵製品の製造では、性質のよく解か ったスターターカルチャーを添加することにより常に一定品質かつ高品質を保持し てきた。スターターとして用いられる乳酸菌は酸生成能、フレーバー生成能、食感 の様な望ましい性質を指標として自然界よルスクリーニングしたり、変異処理 を行ない、選択するという方法が用いられて来た。しかし、それには膨大なスクリ ーニングを必要とした。遺伝子組換え法は微生物を育種改良をするための有用な方 法である。しかし、乳酸桿菌の分野ではぺクター開発や遺伝子導入法に関する研究 は他の微生物に比べか顔り遅れていたが、1987年にChassyらがェレクトロポレーシ ヨンによりLactobacillus caseiの形質転換に成功して以後、急激に進展しはじめ てきた。乳酸桿菌として多くの菌種が知られており、目的とする菌種の育種改良に は そ の 菌 種 に あ っ た ぺ ク タ ー と 形 質 転 換 法 の 開 発 が 必 要 で あ る 。

  本研究では、古くよルチーズやヨーグルト製造上重要である乳酸桿菌Lactobaciー llus  helve ticusの分子育種を最終目的として食品に利用可能な発現ベクターの構 築 を 行 う と と も に 、 宿 主 菌 の 形 質 転 換 条 件 を 明 ら か に し た も の で あ る 。   第1章では本研究のねらいと意義について述べている。

第2章の序論では乳酸菌と人類の関わりと遺伝学的研究の歴史および組換え微生 物使用の現状を述べている。

  第3章ではL. helveticusの潜在性プラスミドについて述べられ、下記の内容が 含まれている。

  L. helveticus SBT2161より潜在性プラスミドpLJlを単離し、制限酵素地図を作威 し、その塩基配列を決定した。複製に必要なori領域と推定されるオープンリーディ ングフレーム(ORF)を確認した。マキシセル法によりORFにコードされている未知タ ンバク質が生産されていることが示された。

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  第4章 ではL. helveticusの 形質 転換 法に つい て述 べら れ、 下記 の内 容が 含まれ ている。

  L. helveticus中 で 発 現 す る こ と が知 ら れ て い るEnterococcusfaecalis由来の pAMロ1のエ リス ロマイ シン 耐性 遺伝 子を 選択 マー カー とす る大 腸菌 との シヤ卜 ルベ ク タ ーpLHRを 構 築 し た 。 本プ ラス ミド を用 いて エレク トロ ポレ ーシ ョン によ るL. helveticusの形 質転換 条件 を決 定し た。 また 、SBT2161Cに 弱い 制限 ・修 飾系が 存在 することが示唆された。

  第5章 ではLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusのロ ーガ ラク 卜シダ ー ゼ の ク ロ ー ニ ン グ と 塩 基 配 列 に つ いて 述 べ ら れ 、 下 記 の内 容が 含ま れて いる。

  食 品 に 利 用 可 能 な 効 果 的選 択マ ーカ ーで ある ロ―ガ ラク 卜シ ダー ゼ遺 伝子 をL. delbrueckii subsp. bulgaricusよ り取 得し 、そ の塩 基配 列よ り必 要最 小領 域を決 定した。

  第6章 では ロ ー ガ ラ ク ト シダ ーゼ 活性 欠損 株の 取得 につ いて 述べ られ 、下 記の内 容が含まれている。

  L. helveticus SBT2161Cニ トロ ソグ アニ ジンで 処理し、そのなかで変異を安定に 保 持し てい る一 株をSBT2195と 命名 した 。こ のSBT2195株の 形質 転換 効率 は親株 のわ ずか1/20であった。

  第7章 では 食 品 に 利 用 可 能な べク ター の構 築と 外来 性遺 伝子 の発 現に つい て述べ られ、下記の内容が含まれている。

  pLJlの 複 製 に 関 与 す る 領 域 を 含 む断 片 、pBR329のori断 片 、  L.delbrueckii subsp. bulgaricusの ロ ー ガ ラ ク 卜 シ ダ ー ゼ 遺 伝 子 お よびpAMB1の ェリ スロ マイシ ン 耐性 遺伝 子を 連結し たプ ラス ミド を構 築し た。SBT2195が乳糖を唯一の糖源とする 培 地で 生育 する にはェ リス ロマ イシ ン耐 性遺 伝子 のプ ロモ ータ ーか らの りード スル ー に よ る ロ ー ガ ラ ク ト シ ダ ー ゼ 遺 伝 子 の 発 現 が 必 須 で あ る こ と が 示 さ れ た 。   エリ スロ マイ シン耐 性遺 伝子 のプ ロモ ータ ー領 域の 下流 に発 現ペ クタ ーとし ての ク ロー ニン グ部 位SacIを介 して ロー ガラ ク卜 シダ ーゼ 遺伝 子を 連結 し、 すべて の薬 剤 耐性 遺伝 子領 域を除 去し たfood−grade発 現ベク ターpBGl0を構築した。ATG以降か ら 停止 コド ンま でをPCRで 増幅 し、pBGl0のSacI部 位に 挿入 したBacillus licheni− formisのa一 ア ミ ラ ー ゼ 遺 伝 子 はL.helveticusで 発 現 し た 。 こ の こ と か ら 、a一 アミラーゼ遺伝子断片(1,536 bp)の大きさまでの外来性遺伝子はロ―ガラクトシダ ーゼ遺伝子の発現には影響しないことが示唆された。

  以 上 の 様 に 、L.delbrueckiisubsp. bulgaricusの ロ ー ガ ラ ク ト シ ダ ー ゼ活 性 を 選択 マー カー とす る食 品に 利用 可能なL. helveticusの 発現 ペク ター を構築する と とも に形 質転 換法 を決 定し 、乳 酸桿菌 にお ける 遺伝 子育 種に 関し て基 礎的な貢献 を果たした。

  よって、審査員一.同は,男qに行った学力確認試験の結果と併せて、本論文の提出者 橋 場 炎 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 した 。

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