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博士(農学)林 英司 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)林   英司 学位論文題名

クロマツの虫害抵抗性育種における DNA マ ー カ ーの 利用 に関する研 究

   学位論文内容の要旨

  クロマツ(Pinus thunbergii Parl.)は本州,四国,九州の海岸沿いを中心に広く自生し,韓国にも分 布する。本種は,古くから建築用材,加工品などに利用されてきたぱかりでなく,祝賀を表現するも のとして尊ぱれるなど,日本人の文化と密接な関係がある。また,潮風に対する抵抗カもあるので,

防風・防潮林として植えられることが多く,国土保全上必要な機能を有するもとのして重要である。

ところが,マツクイムシ,マツバノタマバェ等の害虫が年次変動はあるものの,マツ林に対して被害 を及ぽしっづけているため,゛マツ林は存続の危機に瀕している。したがって今後,虫害抵抗性を有す るマツの需要が増加するものと予想される。

  また,林木は永年生の植物であるため,育種に非常に長い年月を要することが現段階での最大の問 題の1っである。さらに,遺伝情報がごく限られていることが林木育種を一層困難にしている。した がって,森林に対し多様化する国民のニーズに応じ,さまざまな品種を育成していくには,育種年限 を短縮する技術の開発が望まれている。.

  育種年限の短縮に資する方法の1っとして,目的形質遺伝子と強く連鎖したマーカーを選抜基準と した個体選抜(MAS: Marker‑ Assisted Selection)が挙げられるが,林木ではMASに利用するために有 用遺伝子と連鎖したDNAマーカーを検出した例は非常に少なく,わが国においては未だ報告されて いない。マツバノタマバェ抵抗性は1個の優性遺伝子に支配されていることが明らかにされていたこ とから,抵抗性遺伝子と連鎖したDNAマーカーの検出は理論的には容易であり,わが国においてMAS の研究の端緒を開くためにはマツバノタマバェ抵抗性が最適と考えた。本研究が成功すれぱ,他の有 用形質,例えぱマツノザイセンチュウ抵抗性等のMASによる育種を考えるうえで,弾みにもなると 期待される。さらに,連鎖地図は,量的形質に関わる遺伝子の位置や数,遺伝効果の大きさ等の遺伝 様式を明らかにし,MASを可能にするための基盤になるものであるため,今後林木育種を進める上で 必要不可欠である。しかし,ゲノム全体をカバーする高密度のクロマツ連鎖地図は未だ作成されてい ない。一方,テーダマツrIラジアータマツなどにおいては,多くの遺伝子情報が集積されており,こ の遺伝情報を利用して,外国産マツの連鎖地図とクロマツの連鎖地図を比較検討することによって,

連 鎖 地図 上 に あ るマ ー カ ーや 遺 伝 子の情 報を相 互に利用 すること が可能 になると 考える 。   そこで,本研究では,以下の内容を課題として研究を行い,品種の開発に長い年月を要するクロマ

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ツの育種を,これまでより効率化する技術の基盤を築こうと試みた。

@クロマツにおけるマツバノタマバェ抵抗性と連鎖したDNAマーカーの検出、

@ 連 鎖 し た マ ー カ ー の 抵 抗 性 個 体 で の 保 有 状 況 お よ び マ ー カ ー の 利 用 方 法 の 検 討 、

◎ 連 鎖 し たDNAマ ー カ ー のSCAR (Sequence Characterized Amplified Regions)マ ー カ ー 化 、

@ ク ロ マ ツ の 連 鎖 地 図 の 作 成 と , 他 の マ ツ 樹 種 の 連 鎖 地 図 と の 統 合 の 可 能 性 の 検 討 、   本研究によって得られた成果の概要は,以下のとおりである。

1.RAPD(Random AmplifiedPolymo叩hicDNAs) 分 析 に お い てn60個 の ラ ン ダ ムプ ラ イマ ー,AFLP     ( ぬlpli6edFmgmentL飢g出Polymo叩hi跚s)分析において1024個のプライマー組合せをバル ク法     で 検 討 し た 結 果 , マ ツ バ ノ タ マ バ ェ 抵 抗 性 遺 伝 子 と 連 鎖 し た7個 のDNAマ ー カrを 検 出 す る     こ とに 成功 し ,マ ツバ ノタ マバ ェ 抵抗 性遺 伝子 近 傍の 連鎖 地図 を作 成した。その結果抵抗 性遺     伝子は,イC『G励ば℃GくkとイC(X:鰡C門乙卯,DP(m6ふめの間に位置づけられた。イ(℃c/(℃襾み焔     の )coづ珊 は 抵抗 性遺 伝子 に最 も 近く に位 置し , 抵抗 性遺 伝子 との 地図距離は6.6cMだっ た。

2.  こ れ らの 連鎖 マー カーの抵抗性遺 伝子に対する相Ohase)を, 複数の抵抗性個体で調査した 。こ     の結果, 凹 C D6j8を除いて,抵抗 性個体により各連鎖マーカ ーの相は変化し,ホモ接合あ るい     は 保有 しな い 場合 もみ られ た。 し たが って ,連 鎖 マー カー を用 いて 抵抗性個体の選抜を行 う際     に は, その 相 を考 慮に 入れ る必 要 があ るこ とが 明 らか にな った 。抵 抗性遺伝子と最も連鎖 の強     い併 C,Dづ珊は,常に抵抗性遺伝 子と相引の関係にあり,現段 階ではもっとも広く利用可能であ     .ると考えられた。

3.  マツバ ノタマバェ抵抗性と連鎖した2個の馳いDマーカーのDNA断 片をクローニングし,塩基配列を     明らかにした。塩基配列にもとづぃて,断片の両端にプライマーを設計し,増幅反応でのアニーリング     温度条件を最適化することでRAP.DマーカーをS(:ARマーカーヘ変換することができた。ここで開発し     たSCARマーカーは,m丶PDよりも長いプライマーを用いるとともに,より高いアニーリング温度条件で     検出するため,再現性が高いと考えられる。したがって,このマーカーは,今後育種の現場で利用する     のにm亀PDマーカーよりも適している。

4.  151個 の 觝LP,48個 の 黜 廿D,6個 のESTお よ び2個 のCAPSが 座乗 す る,20連 鎖群 ,3連鎖 対の     連鎖地図 を作成した。その全長は2092.8cM,平均マーカー聞距離はn.4duであった。マツバノタマ     バェ抵抗 性遺伝子と連鎖したDNAマー カーは,すぺて第1連鎖群上 に存在することがわかった。クロ     マ ツ連 鎖地 図 のそ れぞ れ第2,10連 鎖群 のR恥9D桝 ,R胴 伽嬲 は ,そ れぞ れテ ー ダマ ツの 連鎖 地     図 の 第6,4連 鎖 群 に あ り , 今 後 両 連 鎖 地 図 を 連 結 す る こ と が で き る と 考 え ら れ た 。   以上,本研 究で見出されたマツパノタ マバェ抵抗性遺伝子と連鎖したDNAマーカーを,今後抵抗性の簡 易な確認方法として用いることによって抵抗性育種の効率化に貢献できる。また,本研究で作成されたクロマ ツの連鎖地図を基盤として,多数の有用遺伝子やマーカーを組み込み,より正確で精度の高い連鎖地図を作 成することにより,Q1Lなどの遺伝情報が明らかになるであろう。さらに,テーダマツの連鎖地図と連結が進め ぱ,他のマツの情報を利用できるといえる。こうして,有用形質遺伝子に関わる領域が明らかになれぱ,時に は検定に数十年要する林木育種のサイクルを,DNAマーカーを利用して大幅に短縮することが可能となり,

付加価値の高い優れた品種を創出できると期待される。このような品種を創出できれぱ,衰退する林業の再生     ―149―

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を支えるーつの要因になるとともに,枯れて失われつっある日本のマツ林を再生させ,日本の国土,文化を守 る手段となると考える。

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学位論文審査の要旨

主 査    教    授    寺 沢    実 副 査    教    授    高 橋 邦 秀 副 査    教    授    矢 島    崇 副 査    助 教 授    玉 井    裕

副 査    外 部 研 究 者    河 原 孝 行 ( 森 林 総 合 研 究 所 )

学 位 論 文 題 名

クロマツの虫害抵抗性育種における DNA マ ーカ ー の利 用に 関する研 究

  クロマツ(Pinus thunぬ慴WPaJ・l.)は本州,四国,九州の海岸沿いを中心に広く自生し,韓国にも分布 する。 本種は ,建築 用材, 加工品 などに 利用され てきた ぱかり でなく ,祝賀を表現するものとして尊 ぱれる など, 日本人 の文化 と密接 な関係 がある。 また, 耐潮性 がある ため,防風・防潮林として植え られる ことが 多く, 国土保 全上必要な機能を有するもとのして重要である。ところが,マツクイムシ,

マツバ ノタマ バェ等 害虫が マツ林 に対し て被害を 及ばし っづけ ている ため,マツ林は存続の危機に瀕 してい る。し たがっ て今後 ,虫害 抵抗性 を有する マツの 需要が 増加す るものと予想される。また,林 木は永 年生の 植物で あるた め,遺 伝情報 がごく限 られて おり, 林木の 育種には非常に長い年月がかか る。し たがっ て,さ まざま な品種 を効率 的に育成 してい くには ,育種 年限を短稽する技術の開発が強 く望まれている。

  育種年 限の短 縮に資 する方 法の1っ として ,目的 形質遺 伝子と 強く連鎖 したマ ーカー を選抜 基準と した個 体選抜 (MAS:Marke卜舳sistedSelection)が挙げられる。マツバノタマバェ抵抗性は1個の優性 遺伝子 に支配 されて いるこ とが明 らかに されてい たこと から, 抵抗性 遺伝子 と連鎖 したDNAマ ーカー の検出 は理論 的には 容易で あり, わが国 においてMASの研 究の端 緒を開く ために はマツ バノタ マバェ 抵抗性 が最適 と考え た。本 研究が 成功す れぱ,他 の有用 形質, 例えば マツノザイセンチュウ抵抗性等 のMASに よ る 育 種を 考 え る うえ で , 弾 みに も な る と期 待 さ れ る。 さ ら に ,連鎖 地図はMASを可 能に する基 盤にな るもの である ため, 林木育 種を進め る上で 必要不 可久で ある。しかし,ゲノム全体をカ バーす る高密 度のク ロマツ 連鎖地 図は未 だ作成さ れてい なぃ。 一方, 外国のマツにでは,多くの遺伝 子情報 が集積 されて おり, この遺 伝情報 を利用し て,連 鎖地図 上にあ るマーカーや遺伝子の情報を相 互に利用することが可能になると考える。

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  本 研 究は ,マ ツバ ノ タマ バェ 抵抗 性育 種に実際に利用 可能なDNAマーカーを開発す るとともに,連 鎖地 図 を作 成す るこ と によ り, 今後DNAマーカーを用い た虫害抵抗性育種の基盤を築 こうと試みた。

  第 一 の成 果と して , マツ バノ タマ バェ 抵 抗性 遺伝 子と 連鎖 し た7個のDNAマーカー を検出すること に成功し,マツバ ノタマバェ抵抗性遺伝子近 傍の連鎖地図を作成した。ACCC/CCir7T190 0PC06580は抵 抗性遺伝子に最も 近くに位置し,抵抗性遺伝子との地図距離は6.6 cMだった。第二に,これらの連鎖マー カーの抵抗性遺伝 子に対する相(phase)を,複 数の抵抗性個体で明らかにした。甜 C06S80を除いて,抵 抗性個体により各 連鎖マーカーの相は変化し ,ホモ接合あるいは保有しない場合もみられることから,

抵抗 性 個体 の選 抜を行う際に は,その相を考慮に入れる 必要があることが明らかにな った。OPc06sao は, 常 に抵 抗性 遺伝子と相引 の関係にあり,現段階では もっとも広く利用可能である と考えられた。

第三に,マツバノ タマバェ抵抗性と連鎖した2個のRAPDマーカーをより再 現性の高いSCARマーカーヘ変 換した。このマーカーは,RAPDマーカーよりも簡便で再現性が高いため,育種の現場で利用するのに適して いる 。 第四 に,207個のAFLP,RAPD等による,20連鎖群,3連鎖対の連鎖地図を作成し た。その全長は 2092.8 cM,平均マーカー問距離は11.4 cMであった。マツバノタマバェ抵抗性遺伝子と連鎖したDNAマーカ ーは,第1連鎖群 上に存在していた。クロマツ の連鎖地図の第2,lO連鎖群に座乗したESTは,それぞれテ ーダマツの連鎖地図の第6,4連鎖群にあることが明らかにされており,今後マーカーを増やすことによって両 連鎖地図を連結する可能性が示された。

  本研究で見出さ れたマツバノタマバェ抵抗 性遺伝子と連鎖したDNAマーカーを,抵抗性の簡易な確認方 法として用い,抵抗性育種の効率化に貢献できる。また,作成されたクロマツの連鎖地図を基盤として,多数の 有用遺伝子やマーカーを組み込み,より正確で精度の高い連鎖地図を作成することにより,QTLなどの遺伝 情報が明らかになる期待される。さらに,テーダマツの連鎖地図と連結し,遺伝情報を相互に利用する道が開 かれたといえる。 有用形質遺伝子に関わる領域が明らかになれぱ,長期を要する林木育種のサイクルを,

DNAマーカーを利用して大幅に短縮することができる。こうして優れた品種を効率的に創出できれぱ,衰退す る林業の再生を支えるーつの要因になるとともに,枯れて失われつっある日本のマツ林を再生させ,日本の国 土,文化を守る手段となると考えられる。本研究は,先端的林木育種技術の開発の端緒を開くものであり,クロ マツの育種の推進において重要な成果をあげたといえる。

  よって審査員一 同は,林英司が博士(農学 )の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。

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