博士(獣医学)田中敬子 学位論文題名
Ca2 ゛ シ グ ナ ル と 分 泌 に 対 す る VIP と PACAP の 作 用
―モルモット膵腺房細胞と牛副腎髄質細胞を用いた解析―
学 位論文内容の要旨
vasoactive intestinal polypeptideくVIP)とpituitary adenylate cyclase activating polypeptide (PACAP)と は 、 ア ミ ノ 酸 構 成 に お い て 互 い に 類 似 性 が 高 く 、 セ ク レ チ ン 、 グ ル カ ゴ ン な ど と も 類 似 し て お り 、 神 経 ペ プ チ ド の ー 群 を 構 成 し て い る 。VIPとPACAPが 標 的 細 胞 に 作 用 し て 多 様 な 反 応 を 引 き 起 こ す 際 の 共 通 の 細 胞 内 シ グ ナ ル は 、cyclic AMP (cAMP)上 昇 で あ ろ う と 考 え ら れ て き た 。 こ れ ら ペ プ チ ド の 作 用 機 構 の 研 究 が 進 む に っ れ て 、PACAPが 引 き 起 こ す 標 的 細 胞 の 反 応 に は 、cAMPヒ 昇 以 外 に 細 胞 内Caつ − + 濃 度 ( [Ca2゛ ]i) 上 昇 が 関 与 し て い る こ と を 示 す 研 究 結 果 が 発 表 さ れ て き た 。VIPと PACAPが 引 き 起 こ す 標 的 細 胞 の 細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 機 構 を 調 べ る た め 、 モ ル モ ッ ト 膵腺房標本と牛 副腎髄質細胞とを用いて本研 究を進めた。
( 1) モ ル モ ッ ト 膵 腺 房 標 本 を100pMコ レ シ ス ト キ ニ ン ( CCK) で 持 続 的 に 刺 激 す る と 、 振 動 性 [Ca2゛ ]i上 昇 と 持 続 性 ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 が 記 録 さ れ た 。 こ のCCK刺 激 に10 nMVIPを 重 ね て 刺 激 す る と 、CCK刺 激 時 の 振 動 性 [Ca2゛ ]i上 昇 の 頻 度 と 振 幅 は 抑 制 さ れ る に も か か わ ら ず 、 ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 反 応 は 有 意 に 増 強 さ れ た 。 ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ を 活 性 化 す る こ と に よ り 細 胞 内 鹸MP濃 度 を 上 昇 さ せ る フ ォ ル ス コ リ ン (10沁D をCCK刺 激 に 重 ね て 投 与 し て も 、Vロ と 同 様 の 分 泌 反 応 の 増 強 が 認 め ら れ た 。 こ れ ら の 結 果 は 、CCK刺 激 に よ る 分 泌 反 応 をVロ が 増 強 す る 機 構 は c觚 佃 が 関 与 す る 機 構 で あ る が 、Ca2゛ シ グ ナ ル の 促 進 を 介 す る 機 構 で は な い こ と を 示 し て い る 。 し た が っ て 、 CCK刺 激 に よ る 分 泌 反 応 をVロ が 増 強 す る 機 構 は 、 【Ca2゛ ]i上 昇 以 降 の 段 階 か 、 あ る い は 、 [Ca2゛ ]iに 関 与 し な い 系 の ど ち ら か に あ る と 推 測 さ れ る 。 腺 房 標 本 を10nMVロ 単 独 で 刺 激 し た 時 に は 、 ア ミ う ー ゼ 分 泌 を 引 き 起 こ す が 、 [Ca2゛ ]iに は 影 響 を 与 え な か っ た 。 こ の 結 果 か ら は 、Vロ の 分 泌 効 果 に はCa2゛ シ グ ナ ル が 関 与 し て い な い と い う 可 能 性 を 否 定 で き な い 。VIPの 分 泌 効 果 へ のCa2゛ シ グ ナ ル の 関 与 の 有 無 を さ ら に 検 討 す る た め 、 次 の 実 験 を 行 っ た 。 細 胞 内Ca2゛ 貯 蔵 部 位 のCa2゛ ポ ン プ 阻 害 薬 で あ る サ プ シ ガ ル ギ ン (10いM) で [Ca2゛ ]i上 昇 を 引 き 起 こ し 、VIP刺 激 を 重 ね る と 、WP単 独 刺 激 に
よる ア ミ ラー ゼ 分 泌反 応より有 意に大き い反応が 得られた 。これに 対して、 Ca2 ゛ キ レート剤 である BAPTA を 細胞内に 取り込ま せたうえに細胞外Ca ゛も除去し、[ C ボ゛]i を約 70nM ま で 低下 さ せた と き には 、 V ロ によ る 分 泌は ほ ぱ 完全 に 消失 し た 。こ れら の結果は 、 VIP 刺激に よるアミ ラーゼ分 泌反応の 出現には70nM 以上の[Ca2 ゛] i が必要 で あ り 、 Ca2 ゛ シ グ ナ ル 以 後 の 過 程 を VIP が 促 進 す る こ と を 示 し て い る 。 以 上 の結 果 か ら、 CCK 刺激 による分 泌反応を VIP が増強す る機構は 、 Ca2 ゛シグ ナル の促 進 を 介し た 機 構で はなく、 Ca2 ゛シグナ ルから酵 素原顆粒 の開口放 出に至る過 程 の促進機構であると推論される。
( 2 ) 牛 副 腎 髄 質 細 胞 を 100nMPAQ 廿 で 持 続 的 に 刺 激 す る と 、 刺 激 直 後 急 速 な
[&2 ゛]i 上昇を引き起こした。この[ Ca2 ゛] i 上昇は続いて緩やかに下降しながらも十数分 間持 続 し た後 、 刺 激前 の レベ ル に 戻っ た 。同 様 の 条件でカ テコール アミン分泌 を測 定すると 、【 Ca2 ゛] i 上昇経過 に対応し た時間経 過で分泌 反応が記録 できた。細胞外 Ca2 ゛を除去 すると、 PAQ 廿刺激による[Ca2 ゛]i 上昇と分泌反応のいずれも、刺激直後 の一 過 性 の上 昇 反 応( 初 期相 ) の みが 数 分間 残 存 し、緩や かに下降 する反応相 (持 続相)は 消失した 。初期相は細胞内Ca2 ゛貯蔵部位からの Ca2 ゛放出によって形成され、
持 続 相 は 細 胞 外 か ら の 持 続 的 な Ca2 ゛ 流 入 に よ っ て 形 成 さ れ る と 推 定 さ れ る 。 PAa 廿 持続 刺 激 時の Ca2 +流 入 経 路を 解 明す る た め、ホー ルセルパ ッチクラ ンプ法 を 用 い て 、 PAQ 廿 に よ る 膜 電 位 と 膜 電 流 の 変 化 を 記 録 し た 。 200nMPAa 廿は 、 数 分 間持続す る内向き 電流と脱 分極を引 き起こし た。細胞 外 Na +除去に よってこ の内向き 電流 の 約 90 % が 抑制 され るという 結果から 、内向き 電流の主 成分は N が 流入であり 、 この N が流 入によっ て引き起 こされる 細胞膜の 脱分極が電位依存性仁嘗゛チャネルを開 くと考え られる。 PACAP 刺激によるCa2 ゛流入は、I 」型Ca2 ゛チャネルの阻害薬であるニ カル ジ ピ ン( 10 沁 D によ っ て抑 制 さ れた が 、 N 型, P 型 , お よび Q 型 Ca2 ゛チ ャ ネ ルの 阻害 薬 に よっ て は 影響 を 受け な か った 。 さら に 、 PACA 瞬| J 激に よる Ca2 ゛流 入は、
protc 血 k 血 aScC ( PKC )の 阻害薬であ るスタウ ロスポリ ン( 1 い M ) によって 抑制され た。
Ca2 ゛放出に 関連する 細胞内 Ca2 ゛ 貯蔵部位 の種類を 判別する ため、サプ シガルギン と、 カ フ ェイ ン 感 受性 チ ャネ ル を 開口 状 態に 保 持 すること によって カフェイン 感受 性 Ca2 ゛放出 を阻害す るライア ナジン、 および、 IP3 感受性チ ャネルの阻 害薬であるシ ナ ル ジ ン の 3 種 の 薬 物 を 用 い た 。 シ ナ リ ジ ン ( 50 山 め は ヒ ス タ ミ ン ( 10 山 D に よ る Ca2 ゛ 放 出 を ほ ぼ 完 全 に 抑 制 し た が 、 PACAP ( 100nM ) と カ フェ イ ン( 1 師 M ) に よ る Ca2 ゛ 放 出 を 抑 制 し な か っ た 。一 方 、サ プ シ ガル ギ ン ( 10 山 D とラ イ ア ナジ ン (10 斗M )は、 PAQ 廿によるCa2 ゛放出を強く抑制した。
以上の結 果から、 PACAP 持続刺激時の[(譬゛】i 上昇機構は次の二成分から成り立っ
ていると推定される。1 )カフェイン感受性Ca ゛貯蔵部位から細胞質へCa2 ゛が放出さ れ る。 2 )PKC 活 性化 を介 する N が流 入に 依存 して 膜が 脱分 極し、 これによって活性 化 さ れ る I 型 電 位 依 存 性 ( 譬 ゛ チ ャ ネ ル を 経 て 細 胞 外 か ら Ca2 ゛ が 流 入 す る 。
モ ルモ ット 膵腺 房標 本と牛副腎髄質細胞とを用いて行った上述の研究結果を基礎 にこ れま での 研究 報告 を参考にしナよがら、 VIP とPACAP が引き起こす標的細胞の細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 機 構 に つ い て 考 察 し 、 次 の よ う な 結 論 を 得 た 。
膵腺房細胞では、 Vl[P は[Ca ゛]i 上昇を引き起こさず、【Ca2 ゛]i 上昇以後の分泌過程を
増強 する こと によ って 分泌 反応 を引き起こす。このVIP の分泌機構は次のような段階
をた どるものと推定される。これまで報告されているII 型PAC 心 受容体(VIP 受容体
に相 当) にV ロが 結合 し、統 いて cAMP が上 昇し 、Ca2 ゛シ グナ ルから酵素原顆粒開口
放 出 ま で の 過程を 促進 して 酵素 分泌 反応 を引 き起 こす 。CCK 刺激 によ る刺 激― 放出
連関 をVIP が 促進 する 効果の 機構 も、上述の諸段階をたどるものと推定される。副腎
髄質細胞では、PACAP 自身が[Ca2 ゛]i 上昇を引き起こし、刺激一放出連関を進行させ
る。 この反応は次のような段階を経て進行すると考えられる。I 型恥L (ニAP 受容体に
PAQ 廿が結合し、カフェイン感受性Ca つ_゛貯蔵部位からのCa2 ゛放出と、PKC 活性化を
介した細胞外からのCa2 ゛流入とのニつの機構によって[ Ca2 ゛]i が上昇し、カテコール
アミン分泌を引き起こす。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
菅野 中里 斉藤 葉原
富 夫 幸 和 昌 之 芳 昭
学位論文題名
Ca2 ゛シグナノレと分泌に対するVIP とPACAP の作用
―モルモット膵腺房細胞と牛副腎髄質細胞を用いた解析ー
vasoactive intestinal peptide (VIP)とpituitary adenylate cyclase activating polypeptide(PACAP) は 類 似 性 の 高 い ア ミ ノ 酸 構 成 を 有 す る ペ プ チ ド で あ る 。VIPとPACAPが 引 き 起 こ す 標 的 細 胞 の 細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 機 構 を 解 析 す る た め 、 申 請 者 は 、 モ ル モ ッ ト 膵 腺 房 標 本 と 牛 副 腎 髄 質 細 胞 と を 用 い て 本 研 究 を 進 め 、75頁 の 本 論 文 に ま と め 、 学 位 論 文 と し て 提 出 し 、 参 考 論文3編を付している。
モ ル モ ッ ト 膵 腺 房 標 本 を100 pMコ レ シ ス ト キ ニ ン(CCK)で 持 続 的 に 刺 激 す る と 、 振 動 性[Ca2゛ ]i上 昇 が 記 録 さ れ 持 続 性 ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 が 確 か め ら れ た 。 こ のCCK刺 激 に10 nM VIPを 重ね て 刺 激 する と 、CCK刺 激時 の 振 動性 【 く ニa2゛ ]i上昇の頻 度と振幅 は抑制 されるに も か か わ ら ず 、 ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 反 応 は 有 意 に 増 強 さ れ た 。 牛 副 腎 髄 質 細 胞 を100 nM PACAP で持続 的に刺激 すると、 刺激直後急速な[Ca2゛]i上昇を引き起こした。この[くニa2゛]i上昇は続 い て 緩 や か に 下 降 し な が ら も 十 数 分 間 持 続 し た 後 、 刺 激 前 の レ ペ ル に 戻 っ た 。 同 様 の 条 件 でカ テ コ ール ア ミ ン 分泌 を 測 定す る と 、【Ca2゛ 】i上昇 経 過 に対 応 し た 時間 経 過 で分泌 反応が 記録で きた。細 胞外Ca2゛を除 去すると 、PACAPIJ激に よる[ (ニa2゛]i上昇と分泌反応のいずれ も 、 刺 激 直 後 の 一 過 性 の 上 昇 反 応 ( 初 期 相 ) の み が 数 分 間 残 存 し 、 緩 や か に 下 降 す る 反 応 相( 持 続 相) は 消 失 した 。 初 期相 は 細 胞内Ca2+貯 蔵 部位 から のくニa2+放出 によっ て形成さ れ、
持 続 相 は 細 胞 外 か ら の 持 続 的 なCa゛ 流 入 に よ っ て 形 成 さ れ る と 推 定 さ れ る 。 ホ ー ル セ ル パ ッ チ ク ラ ン プ 法 を 用 い て 、PAa廿 に よ る 膜 電 位 と 膜 電 流 の 変 化 を 記 録 し た 実 験 の 結 果 か ら 、PAa廿 持 続 刺 激 時 の [ &2゛ 】i上 昇 機 構 は 二 成 分 か ら 成 り 立 っ て い る と 推 定 し た 。 申 請 者 は 、VIPとPAG廿 が 引 き 起 こ す 標 的 細 胞 の 細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 機 構 に つ い て 考 察