博 士 ( 獣 医 学 ) 鎌 田 正 信
学 位 論 文 題 名
Studies on Getah virus infection in horses
( 馬 の ゲ タ ウイ ル ス 感 染 症に 関 す る 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ゲ タウイ ルスは 卜ガウ イルス 料アルファウイルス属のメンバーで,日本,マレーシアおよびオー スト ラリア にお いて主 に蚊か ら分離され,ウイルスの伝播には節足動物による媒介性が推損IJされ る。 血清学 的に は人, 馬,牛 ,豚, カン ガル一 ,並び に鳥類 などが この ウイルスに感受性をもつ こと が明ら かに されて おり, 豚は野外におけるウイルスの伝播の増幅動物として考えられている。
1955年 に ,ElisbergとBuescherがマ レ ― シ ア の蚊 か ら 初 め てゲ タ ウ イ ル スAMM 2021株 を 分離 して以 来, 多くの 生態学 的研究 がな された が,野 外にお ける人 や動 物の病気としてのゲタウ イル ス感染 症の 実態は 明らか でない 。
本 研究で は,1978年秋に 茨城県 の日本 中央 競馬会 美浦ト レーニ ングセ ンターの競走馬群で初め て発 生した 馬の ゲタウ イルス 感染症 の流 行に際 し,自 然感染 発症馬 の臨 床および血液像の観察,
ウイ ルスの 分離 同定, 血清学 的調査 など を実施 し,本 症の流 行を臨 床ウ イルス学的に検討した。
また ,馬か ら分 離され たゲタ ウイル スの 生物学 的,物 理化学 的およ び血 清学的性状にっいて検討 した 。さら に, これら のウイ ルスの馬に対する病原性を調べるため,実験馬の接種試験を実施し,
臨床 ウイル ス学 的に検 討した 。
1.馬の ゲタウ イルス 感染 症の疫 学的検 討
1) 1978年9月 か ら11月に かけて 美浦 トレ― 二ング セン夕 一の競 走馬 群で発 生した 馬の熱 性疾 患の 原因を 臨床 ウイル ス学的 に検討 した ところ ,発熱 馬209頭中62頭からウイルスが分離された。
こ れ ら は エ ン ベ 口 ー プ を 有 す る直 径66 nmのRNAウ イ ル ス で, 工 ー テ ル , ク口 口 ホ ル ム ,pH 3.0,50℃, ディゾ キシ コール 酸に感 受性を 示し, 硫酸 プ口夕 ミンに 抵抗性であった。また,セ シウ ムクロ ライ ド平衡 遠心に よる密 度は1. 25g/田で ,ガチョウの赤血球を凝集した。さらに,
こ れ ら はゲ タ ウ イ ル スのAMM 2021株 ,ハ ル ナ 株 , 並び に サ ギ ヤ マウ イル スと共 通の 抗原性 を 有 してい たこと から ,ゲタ ウイル スと同 定され た。 一方,129頭 の発熱 馬の組 血清 を用い て血清
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学的に検討したところ,108頭の馬でゲタウイルスに対する有意な中和抗体価の上昇が認められ,
こ の 発 生 が 馬 の ゲ タ ウ イ ル ス 感 染 症 の 流 行 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 2)ゲタウイルス自然感染発症馬の臨床および血液像にっいて検討したところ,1,903頭中722 頭が38.5―40.0℃の発熱,全身性の発疹,四肢の浮腫などの臨床症状を示した。発熱は発症馬の 79.1%,発疹は51.1%,浮腫は42.7%でそれぞれ認められ,これらの症状が馬のゲタウイルス感 染症の主要臨床所見であることが示唆された。
2.ゲタウイルスMI一110株の性状に関する検討
ゲタウイルスMI―110株の諸性状を生物学的,物理化学的および血清学的に検討したところ,
11種類の初代馬胎児培養細胞を合む多くの細胞で増殖し,広範な宿主域を示した。また,ガチョ ウ,ニワトリ,ウマ,ヒト(O型)の赤血球を凝集し,トリプシンに感受性で,pH5.0以下及 びpH 10.0以 上 ,lMMgCl2,50℃ の条 件下 で 失活 した。さ らに,MI−110,AMM 2021, ハ ルナおよびサカイの4株は酷似した抗原性を示したことから,同一の抗原性を有するウイルス群 であることが明らかになった。
3.ゲタウイルスの馬に対する病原性の検討
1)異なる細胞継代歴の比較的高いウイルス量のゲタウイルス分離株を実験馬の筋肉内に接種 し,臨床ウイルス学的に検討したところ,3代目までのウイルスを接種された6頭の馬はいずれ も発熱,下顎リンパ節の腫脹,四肢の浮腫,リンパ球減少症,ウイルス血症および中和抗体の上 昇を示し,ゲタウイルスの馬に対する病原性が実験的に確認された。一方,10代目のウイルスを 接種された4頭の実験馬ではいずれも中和抗体は上昇したが,発疹以外の臨床所見およびウイル ス血症は認められなかったことから,ゲタウイルスの馬に対する病原性は細胞継代によって弱毒 化されることが示唆された。
2)異 なる ウイ ルス 量 のMI110株を6頭の実験馬の筋肉内に 接種し,臨床ウイルス学的 に 検討したところ ,馬の感染および発症に必要な最小ウイルス量はそれぞれ約10‥ oTCID…と 103. oTCIDヨ。であった。発熱,浮腫,リンパ球滅少は10°。TCIDn。以上のウイルス量を接種 されたすべての馬で見られ,下顎リンパ節の腫脹と典型的な発疹は比較的高濃度および低濃度の ウイルス量を接種された馬でのみそれぞれ認められたことから,本症の臨床症状の発現は接種さ れたウイルス量に依存することが示唆された。
3)異なるウイ ルス量のMI−110株を7頭の実 験馬の鼻腔内に接種し,臨床ウイルス学的に 検討したところ,馬の発症に必要な最小ウイルス量は約10゜oTCIDヨ。であった。発症馬は自然 感染発症馬で認められた臨床および血液所見,ウイルス血症,中和抗体の上昇などを示したが,
鼻 腔 か らの ウ イ ル ス 分離 はl07.)TCID…の ウイル ス量を 接種さ れた馬 でし か認め られな かった こと から ,ゲタ ウイル スが野 外において馬から馬へ空気伝播することはまれであると推測された。
以 上の如 く,世 界で初 めて 馬のゲ タウイ ルス感 染症の 流行 が確認 され,ゲタウイルスが野外で 脊椎 動物 に対し て病気 を起こ すこと が明 らかに された 。また ,馬 のゲタ ウイルス感染症の主要臨 床症 状は ,発熱 ,発疹 ,四肢 の浮腫 ,下 顎リン パ節の 腫脹で ,そ の発現 は接種されたウイルス量 に依 存す ること が実証 された 。さら に, 馬群に おける ゲタウ イル スの空 気伝播はまれであり,節 足動 物媒 介性で あるこ とが示 唆され た。 一方, 患馬か ら分離 され たウイ ルスはアルファウイルス 属 の 生 物・ 物 理 化 学 的性 状 を 有 し , 血清 学 的 に は プ口 ト タ イ プ であ るAMM 2021株およ びハル ナ 株 と 同 一 の 抗 原 性 を 有 す る ウ イ ル ス 群 に 属 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。
学位論文審査の要旨 主査 教授 清水悠紀臣 副 査 教 授 橋 本 信 夫 副 査 教 授 小 沼 操 副査 助教授 喜田 宏
ゲタウ イルス はト ガウイ ルス科のアルフアウイルス属に属するウイルスで,日本,マレーシア,
オース トラリ アにお いて主 に蚊 から分 離され ている 。血 清学的 調査か ら,人,馬,牛,豚,カン ガルー 並びに 鳥類が このウ イル スに対 して感 受性を 有す ると考 えられ ているが,人や動物の病因 として のゲタ ウイル スの意 義は 明らかでなかった。申請者は1978年の秋に茨城県の競走馬君羊に発 生した 疾病に っいて 原因学 的調 査研究 を行い ,これ がゲ タウイ ルス感 染症であることを明らかに した 。 本 論 文 はそ の 成 績 を 述べ た も の で ,英 文87頁 から 成 り , 参 考論文12編を 付して いる。
申請者 は1978年9月 から11月 にか けて日 本中央 競馬会 美浦ト レー ニング セン夕 一の競 走馬 群に 発生し た馬の 熱性疾 患にっ いて 臨床観 察を行 うとと もに ,その 原因の 究明を試みた。この疾病は 発熱, 全身性 発疹, 四肢の 浮腫 を特徴 として いた。 まず 病馬か らのウ イルス 分離を 試み ,209頭 中62頭か ら同一 性状 のウイ ルスを 得た。 このウ イル スは既 知のゲ タウイ ルスと中和試験で交差し たこと から, ゲタウ イルス と同 定した 。129頭の病 馬の組 血清 のゲタ ウイル スに対 する 中和抗 体 価を測 定した 結果,108頭 に有 意な上 昇を認 めた。 以上の 成績 から, この疾 病の原 因が ゲタウ イ
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ル スであ るこ とが判 明した 。
次 に分 離ウイ ルスの 性状を 調べ ,馬胎 児培養 細胞を はじめ ,多 種類の 細胞で増殖すること,ガ チ ョウ, 鶏, 馬およ び人(O型 )赤 血球を 凝集す ること ,卜リ プシ ン,pH 5.0以下またはpH 10.0 以 上 ,lM MgCl2お よ び50℃ で 失 活 す るこ と 並 び に 既知 の ゲ タ ウ イ ルスで あるハ ルナ株 および サ カイ株 と同 一の抗 原性を 示すこ とを明 らか にした 。
申 請 者 は ま た 分 離 ウ イ ル ス の 馬 に 対 す る 病 原 性 を 調 べ , 次 の 成 績 を 得 た 。 細 胞 継代3代 目 ま での ゲタ ウイル ス分離 株を接 種し た6頭 の馬 はいず れも発 熱,下 顎リン パ節 の 腫脹, 四肢 の浮腫 ,リン パ球減 少症, ウイ ルス血 症およ び血清 中和 抗体価の上昇を示した。一 方 ,10代 目のウ イルス を接種 した4頭の 馬で は発疹 および 血清中 和抗体 価の 上昇を 認めた のみで あ った。 これ らの成 績から ゲタウ イルス の馬 に対す る病原 性は細 胞継 代によって弱毒化されるこ と を示し た。
筋 肉内 接種で 馬の感 染に必 要な最小ウイルス量tま 10‥ oTCID‑であった。10" :1TCID。。以 上 のウイ ルス を接種 した馬 は全て 発熱, 浮腫 および りンパ 球減少 症を 示した。さらに高濃度のウ イ ルス接 種で 下顎リ ンパ節 の腫脹 が見ら れ, また低 濃度の ウイル ス接 種で典型的な発疹が認めら れ た 。 ゲ タ ウ イ ル ス 感 染 症 の 臨 床 症 状 は こ の よ う に 接 種 ウ イ ル ス 量 に 依 存 し て い た 。 鼻 腔 内接 種 で 馬 の 発症 に必要 な最小 ウイ ルス量 は10' oTCIDr)}で あった 。鼻腔 からはl07) TCIDs。 のウイ ルスを 接種し た馬で のみ ウイル スが回 収され た。 この成 績から ,ゲタ ウイル スが 馬 の間を 空気 伝播す ること は稀で あると 推定 した。
以 上の 成績に よって 申請者 は, 従来, 動物に 対する 病原性 が全 く不明 であったゲタウイルスの 馬 に対す る病 原性を 明らか にする と共に ,馬 のゲタ ウイル ス感染 症に っいて極めて重要な知見を 数 多く提 供し た。よ って審 査員一 同は鎌 田正 信氏が 博士( 獣医学 )の 学位を受けるに十分な資格 を 有する もの と認め た。
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