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博士(獣医学)苅和宏明 学位論文題名

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(1)

     博士(獣医学)苅和宏明 学位論文題名

Epizootiological Studies of Hantavirus Infection  among Wild Rodents in Hokkaido Using New       Laboratory Techniques

(北海道の野ネズミにおけるハンタウイルス感染の新診断法による疫学的研究)

学 位 論 文内 容 の 要 旨

  腎 症候性出血 熱(Hemorrhagic fever with renal syndrome: HFRS)はハン タ ウ イ ル ス の 感 染 に よ っ て 起 こ る 重 篤 な 人 畜 共 通 伝 染 病 で あ る 。 自 然 界 に お い て ノ ヽ ン タ ウ イ ル ス は 各 種 の 小 型 哺 乳 類 を 病 原 巣 と し て 世 界 各 地 に 広 く , 分 布 し て い る が 、 本 ウ イ ル ス の 血 清 型 や 人 に 対 す る 病 原 性 が 自 然 宿 主 の 種 類 に よ っ て 相 違 す る た め に 、 人 に お け る 本 病 の 発 生 も 宿 主 動 物 の 種 類 、 密 度 や 棲 息 状 況 な ら び に 感 染 動 物 と の 接 触 機 会 な ど と 深 く 関 連 し て い る 。 し か し 、 本 ウ イ ル ス は 培 養 細 胞 で の ウ イ ル ス 分 離 や 感 染 価 測 定 が 難 し く 、 ま た 、 そ の 取 り 扱 い に 高 度 安 全 施 設 を 必 要 と す る た め に 、 実 験 室 内 検 査 法 や ワ ク チ ン の 開 発 ・ 研 究が著しく 立ち遅れて いた。

  本 論 文 の 第I部 で は 多 種 類 の 動 物 に お け る ハ ン タ ウ イ ル ス 感 染 を 調 査 す る た め に 、3種 類 の 実 験 室 内 検 査 法 を 開 発 し 、 こ れ ら の 実 用 性 を 検 討 し た 。 さ ら に 第u部 で は こ れ ら の 検 査 法 を 応 用 し 、 北 海 道 の 野 生

(2)

げっ歯類についてハンタウイルス感染の有無を調査するとともに自 然界におけるハンタウイルスの存続について生態学的な考察を加え た。

  

I

部 ハ ン タ ウ イ ル ス 感 染 の 実 験 室 内 診 断 法 の 開 発

  1

.プロテイン

G

と酵素抗体法を組み合わせたハンタウイルス抗体 測定法¢roteinGantibody assay:PGA) の開発

  

一般に免疫診断法は抗体測定の感度と精度に優れるが、動物種毎

に免疫グロブリンの特異性が異なるため、多種類の動物血清につい

て同一試薬と同一術式で抗体測定を行うことが困難であった。そこ

で動物種を問わず

IgG

抗体と特異的に結合するプロテインG の特性を

応用し、多種類の動物のハンタウイルス抗体の簡便・迅速な検出法

としてPGA を開発した。まず、マルチウェルスライドに単層培養さ

れたハンタウイルス感染細胞を冷アセトンで固定して、血清を反応

させた。これを洗浄後ビオチン化プ口テインG を加えて

IgG

抗体と結

合させ、さらに

Avidin‑biotin complex

で反応を増幅してジアミノベン

チジンで発色させた。このスライドを光学顕微鏡下で観察し、ハン

タウイルス特有の細胞質内顆粒の有無を基準に判定した。供試され

たラット、マウス、スナネズミ、エゾヤチネズミ、アカネズミと家

兎 の陽性血清の

PGA

による抗体価は従来の間接螢光抗体法や中和試

験 の成績と良く一致した。すなわち、

PGA

は異なった動物種の抗体

を同一試薬を用いて一挙に測定でき、多種類の動物を対象にした感

染症の血清疫学的調査が可能となった。

(3)

  2. 遠 心 カ に よ る 培 養 細 胞 で の ハ ン タ ウ イ ル ス の 感 染 増 強 ( 遠 心 ‐ 細胞接種法)

  ヘ ル ペ ス ウ イ ル ス な ど で は 接 種 さ れ た 培 養 細 胞 を 低 速 遠 心 す る こ と に よ り 感 染 の 増 強 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 そ こ で 、 培 養 細 胞 で の ハ ン タ ウ イ ル ス の 感 染 効 率 を 高 め る た め に 遠 心 カ の 効 果 を 検 討 し た 。 す な わ ち 、 単 層 培 養Vero E6細 胞 を ウ イ ル ス 接 種 と 同 時 に671x g2時 間 遠 心 レ た と こ ろ 、 ハ ン タ ウ イ ル ス の 感 染 価 が3 21倍 上 昇 し た 。 こ の 感 染 増 強 は0.22Umの フ ィ ル タ ー で 濾 過 さ れ た ウ イ ル ス で も 発 現 す る の で 、 単 な る ウ イ ル ス 凝 集 塊 の 付 着 に よ る も の で は な い 。 レ か し 、 こ の 現 象 は 細 胞 へ の ウ イ ル ス の 接 種 と 遠 心 を 同 時 に 行 っ た 場 合 に の み 発 現 し 、 接 種 前 あ る い は 後 に 遠 心 を し て も 効 果 は 認 め ら れ な か っ た 。 従 っ て 、 遠 心 に よ り 加 重 し た 重 カ が 感 染 初 期 の お そ ら く 細 胞 へ の ウ イ ル ス の 吸 着 ・ 侵 入 を 促 進 し た も の と 判 断 さ れ た 。     3.Nested reverse transcnptase polymerase chain reaction (nested RT‑

PCR)に よ る 感 染 動 物 か ら の ノ ヽ ン タ ウ イ ル ス ゲ ノ ム 検 出 法   ハ ン タ ウ イ ル ス は 培 養 細 胞 で の 増 殖 速 度 が 遅 く 、 感 染 価 の 定 量 が 難 レ い た め に むvivoに お け る 感 染 、 増 殖 や 病 原 性 に 関 する 研 究 が 著 し く 遅 れ て い た 。 そ こ で 感 染 価 測 定 法 に 代 わ る 簡 便 な ウ イ ル ス 検 出 法 として、nested RT‑PCR法の開発を行った。

  ハ ン タ ウ イ ル ス は ヌ ク レ オ キ ャ プ シ ド 蛋 白 、 膜 夕 ン パ ク とRNAポ リ メ ラ ー ゼ な ら び に そ れ ら を コ ー ド す るSML3本 のRNAセ グ メ ン ト か ら 構 成 さ れ て い る 。 こ こ で は ヌ ク レ オ キ ャ プ シ ド 蛋 白 を コ ー

(4)

ドするS ゲノムを検出するプライマーセッ卜を用い、nested RT‑PCR に より感染動物か らのハンタウイルスの検出法を検討した。感染マウ ス臓器におけるS ゲノムの検出感度は従来のウイルス分離法や抗原検 索法よりもはる かに高く、感染動物からのウイルス検出法としての 高い実用性が認められた。

  

第u 部北海 道の野生げっ歯類 におけるハンタウイ ルスの感染調査

  

I

部で開発した3 種類のハンクウイルス検査法を用い、北海道の野 ネ ズ ミ 類 に お け る ハ ン タ ウ イ ル ス の 感 染 調 査 を 実 施 し た 。

  4

.東アジ アで分離されたSeoul 型ハンタウイルスの

M

ゲノムの遺 伝学的解析

  Seoul

ウイルスはRattus 属ネズミを自然宿主とするハンタウイルス である。これま で北海道上磯町のードブネズミ集団において抗体陽 性個体から

1983

、1985 と1988 年にそれぞれ1 株ずつSeoul 型ウイルスが 分離された。こ れらの株は中和試験で抗原性を区別できなかった。

また、ウイルス中和に関与する膜蛋白をコードするM ゲノムの塩基配 列も株間で著しく高い相同性を示していた(

M

遺伝子3651 塩基中10 以 下の塩基置換) 。すなわち、本ウイルスはドブネズミ集団内で長年 維持され、しか も中和抗体陽性例からウイルスが分離されたにもか かわらず、

M

ゲノムの塩基置換が少なく、高い保存性が認められた。

そこで、中国、 韓国と日本で分離された

Seoul

型ウイルスのM ゲノム

の塩基配列を比 較して系統樹解析を行ったところ、ウイルス分離地

の地理的関係とM 遺伝子の類縁関係の間に密接な関連が認められ、感

(5)

染動物の移動経路の追跡が可能となった。

  5

. 北海道の野ネズミ類におけるハンタウイルス感染の疫学調査

  1980

年以来北海道各地で捕獲された土着の野ネズミ類(エゾヤチ

ネズミ、エゾアカネズミ、ヒメネズミ、ミカドネズミ)合計

663

匹につ

い てハンタウイルスの抗体調査を行った。

PGA

による抗体測定では

エゾヤチネズミでのみ陽性例が10 .4 %検出された。既知のハンタウイ

ルスを用いた抗体陽性例の交差中和試験では、いずれの血清も北欧

の ヨーロッパヤチネズミ由来の

Puumala

ウイルスに最も強く反応し

た。また、抗体陽性例の肺材料からRT‑P CR によりS ゲノムを増幅し

たところ、9 例中

8

例からハンタウイルスゲノムが検出された。さら

に、本ゲノムの塩基配列と予想されるアミノ酸配列は既知のハンタ

ウイルスの中でPuumala ウイルスと最も高い相同性を示レ、北海道の

エゾヤチネズミにPuumala 型ウイルスの浸淫していることが推測され

た。しかし、抗体陽性ネズミの肺材料について遠心・細胞接種法を用

い て ウ イ ル ス 分 離 を 試 み た が 、 す べ て 陰 性 で あ っ た 。

  

以上のごとく、多種類の動物を対象にしたハンクウイルス感染症

の簡便な実験室内診断法を確立し、北海道の野生げっ歯類における

ハンタウイルスの感染調査を行ったところ、一ドブネズミ集団から

Seoul

型ウイルスが、また、各地のエゾヤチネズミではPuumala 型ウイ

ルスの感染が証明され、さらにこれらのウイルスの移動や存続に関

しても多くの生態学的知見が得られた。

(6)

学 位 論 文 審査 の 要 旨

学 位 論 文 題 名

Epizootiological Studies of Hantavirus Infection  among Wild Rodents in Hokkaido Using New       Laboratory Techniques

( 北 海 道の 野 ネズ ミ に おけるハ ンタウイ ルス感染 の新診断法 による疫 学的研究 )

  ハン タウイル スはげっ 歯類から ヒトに感 染する腎症 候性出血 熱の病原 体である 。本ウ イルスは 培養細胞 による分 離が困難なために、これまで疫学的研究は著しく遅れていた。

本論 文では、 ハンタウ イルス感 染症の実 験室内診断 法を開発 し、北海 道の野ネ ズミにお ける本ウイルスの浸淫状況について生態学的検討を行った。

  1.フ ロテインG抗体測定 法(ProteinGAntibody AssayPGA) :プロテ インGと酵素 抗 体法 を組み合 せ、同一 試薬と同 一術式に より各種動 物血清の ハンタウ イルス抗 体を一斉 に測 定できる 免疫診断 法を開発 した。こ れにより多 種類の動 物を病原 巣とする 感染症の 血清疫学的調査が可能となった。

  2.遠 心カによ る感染増 強法:培 養細胞に ハンタウイ 丿レスを 接種し、 低速遠心 (671 Xg,2時間 ) す るこ と によ り 感 染価 が通常の321倍上昇し た。これ は感染初 期の細胞 に おけるウイルスの吸着・侵入が促進されたためと判断された。

    3.Nested Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(Nested RT.PCR)   よるウイ ルスゲノ ム検出法 :ハンタ ウイルス の核蛋白を コードするSゲノムを検出するフ ライマーを用いてNested RTPCRによるウイルス検出法を検討した.っ本法によるSゲノム の検 出感度は ウイルス 分離法や 抗原検出 法より高< 、著しい 診断的価 値が認め られた、

  4Seoul型 ハ ン タウ イ ルス のMゲノム の解析: 北海道上磯 町の ド ブネズミ 集団から 数年 間 隔 で分 離 され た3株 のSeoul型 ウイルス (KI株)につ いて、膜 蛋白をコ ードするM ゲノ ムの塩基 配列を比 較したと ころ、こ れらの塩纂 箇換率が 著し<低 <、高い 保行性が 認められ た。また 中国、韓 国と門本 で分離さ れたSeoul型ウイJレスのMゲノムの系統樹解 析で は、分離 地と塩基 配列の間 に密接な 関連が認め られ、感 染動物の 移動経路 の追跡が 叮能となったー

夫 宏 操 夫 信

   

郁 本 田 沼 島 橋 喜

. 小

授 授

授 授

     

教 教

教 助

査 査

査 査

主 副

副 副

(7)

  5.北海道の野ネズミにおける感染調査:PGAにより道内各地の野ネズミのハンタウイ ルス抗体を調査したところ、エゾヤチネズミでのみ全道的に約10%の抗体保有が認めら れた。さらに陽性血清の交差中和試験の成績ならびに陽性ネズミの肺材料からRT‑PCR で増幅されたウイルスゲノムの解析から、エゾヤチネズミの保有するハンタウイルスは 北欧の流行性腎症の病原体であるPuumalaウイルスに類似することが明らかとなった。

  これらの知見はヒトにおけるハンタウイルス感染症の予防対策を確立する上で貢献す るところが大きい。よって審査員一同tま苅和宏明氏が博士(獣医学)の学位を受ける資 格を有するものと認めた。

参照

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