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博 士 ( 医 学 ) 高 橋 宏 明

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 高 橋 宏 明

学 位 論 文 題 名

多 包 性 肝 エ キ ノ コ ッ ク ス 症 の 血 清 診 断 と 臨 床 的 意 義

‑ELISA 法 とWestern‑Blotting 法 学 位 論 文 内 容 の 要 旨

    I.目的

  多包性肝工キノコックス症は、悪性腫瘍に類似した性格を有する疾患である。したがって 早期診断と病巣の外科的完全切除が重要であり、また術後のフオローアップも憤重に行なう 必要がある。種々の診断法のうち、血清学的検査は本症に特異的なものであり、その有用性 が期待される。そこで、これまで主にエキノコックス検診で集積してきた血清検査の結果か ら免疫酵素抗体法(以下ELISA)とWestern―blotting法(以下WB)による血清診断の評価を 行なぃ、さらに手術患者の術後の血清値の変動を追跡して、術後血清診断の意義について検 討した。

    n.対象と方法

1.対 象1986年 から1994年の間に、705,397人にELISAによるスクリーニングを行なっ た。ELISAが陽性であった1,636人(0.23%)のうち1,364人と、繰り越しの受診者720人 の計2,084人に対して検診を行った。このうち多包性肝エキノコックス症と確診されたもの は42人(2%)であり、腹部超音波検査で本症を否定されたものは1,244人であった。この 1,244人を非感染者(以下非感染群)とし、検診外に診断された患者を含めた81人と血清値 の変動を比較検討した。

2.血清検査の方法ELISA法は佐野らが報告した方法により、cotton rat腹腔内に継代中 の多包虫シストから作成した粗抗原を用いてマイクロELISA間接法により測定した。判定は ELISA値0.5以上を陽性とした。WB法は古屋らが報告した方法により行った。多バンド形 成型で55、66kdの位置に必ずバンドを含む完全型を陽性とし、染色の微弱なもの、30― 35kdの低分子域に2本のバンドを形成するもの、97kdの高分子域に数本のバンドを形成す るものを不完全型として疑陽性と判定した。

3.臨床病期分類病期は教室の基準に準じ、周囲臓器への浸潤や遠隔転移巣を認めなぃ場 合で腫瘍占拠肝区域が1区域、2区域、3区域のものをそれぞれStageエ、皿、maとし、浸 潤や転移を認めても完全切除可能と考えられる場合をSta gemb、4区域(全肝病巣)におよ び切除不能なものをstageNとレた。

4.手術治癒度手術で完全に病巣を切除し得たものを完全切除群、肝切除を行ったが病巣 が僅かに遺残したものを不完全切除群、切除不能例などで明らかに病巣が残存したものを姑 息的処置群として3群tご分類した。

5.統 計学 的方 法2群間の検定にはStudent st−testを,多群間の比較には分散分析法

(Scheffe法)を用いた。正規性、等分散性が証明されなぃ場合はMann−WhitneyUtestや Kruskal‑Wallis testを用いた。

‑ 241―

(2)

    m.結果

1. 患 者 群 と 非 感 染 群 のELISA値 の比 較 患者 群77例 のELISA値 (以 後E値 ) は0.72土 0.18であり、非感染群の0.59土0.09に比ベ有意に高値であった(PくO.01)。またスクリ―ニ ングと検診時のE値を比較すると、非感染群では有意に低下したが患者群では軽度上昇した。

2.非感 染群の血 清検査成 績非感染 群1,244例のうち、検診でELISAが陽性であったのは 38%であった。陽性例のE値は0.65土0.12であり、陰性例の0.30士0.11に比し有意に高か った (P<O.01)。WBを行った845例では、WB陽性が9%、疑陽性が11%であった。WB陰性 群のELISA陽性率は22%と低率であったが、疑陽性群、陽性群ではそれぞれ52%、68%と高 率 で あり 、 またWB陽性 群 、 疑陽 性 群のE値 は 、 陰性 群 に比 較 し 有意 に 高値 を 示した

(P<O.01)。WBの結果により経過中WBが.すべて陰性であった群、陰性もしくは疑陽性の群、

1度だけ陽性を示した群、2回以上繰り返して陽性反応を示した群の4群に分類してE値の推 移 を 比 較 し た 結 果 、2回 以 上WBが 陽 性 を 示 し た 群 のE値 は0.5以 上 で 遷 延 し た 。 3.患者の血清検査成績多包虫症患者77例のうち.ELISA陽性例は67例(87%)であった。

WBを測定した54例ではWB陽性例が48例(88%)、疑陽性例が4例(8%)であった。両法の併 用により、患者の98%はELISAかWBのぃずれかが異常を示した。

4.臨 床 病 期 、 手 術 治 癒 度 と 術前E値stageNの 術 前E値 は、Sta geI、Hに比 し 有 意に 高かった。また、不完全切除群、姑息的処置群では完全切除群に比し有意に高値であった。

5.血清 反応の術 後推移姑 息的処置 群のE値は術 後も高値で持続したが、完全切除群では 術後1.5年で0.47土O.03(mean土SE)まで低下した。完全切除群18例のうち血清値が低下し たものは14例あり、ELISAで術後3年(1.50土0.78年)、WBで術後4.5年(2.4土1.3年)以内 に全例陰性化した。その後再上昇したものもあったが、最終的にELISAで2.8土2.2年、WB で3.8土2.7年までに陰性化した。不完全切除群11例のうち5例はELISA、WBともに異常反 応が持続したが、浸潤の軽度であった3例と断端陽性の3例では血清反応は陰性化した。姑息 的処 置群10例のE値は高値で遷延し、WBも異常反応が持続した。術前E値が陰性であった 症例は9例(全例完全切除群)あり、9例中6例は術後もELISAは陰性のままであったが、W Bが判 明してい た症例は全例術前WBは疑陽性以上であり、術後は陰性化した。ELISAが術 後 陽 性 化 し た も の は3例 あ り 、 こ の う ち2例 は り ン パ 節 転 移 陽 性 例 で あ っ た 。     W.考察

  粗抗原を用いたELISAは、疑陽性率は高くなるが患者陽性率の点では有用とされる。著者 は、WBの併用により検診で約80%の疑陽性者.を除外できた。また、WBが繰り返して陽性 となった群のE値が高値で遷延したことは、互し`の抗原が多包虫に起因した同一の原因によ るものであった可能性を示唆するものであり、病巣が微小なうちに自然治癒した多包虫感染 者が含まれてぃたことが考えられた。―方、多包虫症患者の患者血清陽性率は、ELISAで 87%、WBで89%(疑 陽性を含 めると96% )であった。ELISAとWBを併用した場合の陽性 率は94%(WB疑陽 性を含め ると98%) になり、精製抗原を用いたELISA(Em2−ELISAで 91〜93%、Em2p'usELISAで97%)と比較しても高い陽性率であった。又、術前E値が高い 症例は病期が進行してぃる症例が多く注意が必要であった。術後の血清反応の変動をみると、

姑息的処置群の血清値は全例高値で遷延したが、完全切除例の約75%は術後2年から3年で漸 次低下した。約25%は両法で陽性反応が持続し微小病変の遺残が疑われたが、再発が認めら れず、感染の極く初期に自然治癒した不顕性の微小病巣が術前から存在してぃた可能性が考 えられた。また、リンパ節転移陽性例の血清値は全例高値で遷延しており、転移巣について も同様にほとんどのものが不顕性のうちに自然治癒した可能性があった。不完全切除例でも、

再発がなく臨床的に治癒したと考えられるものが多く、腫瘍辺縁部が僅かに遺残しても治癒 する可能性のあることが示唆された。

242―

(3)

    V.結語

1. ELISA法とWB法を併用したェキノコックス症の血清診断は、陽性率が高く偽陰性率の 低 い 優 れ た 検 査 法 で あ り 、E値 が 高 い 症 例 は 病 期 の 進 行 し た も の が 多 か った 。 2.完全切除術後2なぃし3年で血清反応は陰性化するが、血清値が異常値で遷延する場合 には病巣の遺残と自然治癒を考慮しなければならなぃ。

243

(4)

学位論文審 査の要旨

学 位 論 文 題 名

多包 性肝エキノコックス症の血清診断と 臨床的意義

‑ E LISA 法と Western‑Blotting 法

  多包性肝 エキノコ ックス症は 、悪性腫 瘍に類似 した性格 を有する 疾患であ り、早期診 断と病巣 の外科的 完全切除が 重要であ る;また 術後の経 過観察も 慎重に行 なう必要があ る:血清 学的診断 は本症に特 異的なも のであり 、その有 用性が期 待される が、尚多数例 の詳細な 検討はな ぃ′ユそこで申請者は、これまでエキノコックス検診で集積してきた血 清 検 査 の 結 果 か ら 免 疫 酵素 抗 体法 ( 以 下ELISA)とWestern−blotting法 ( 以下WB) による血 清診断の 評価を行な ぃ、さら に手術患 者の術後 の血清値 の変動を 追跡して、術 後血清診 断の意義 について検 討した、

  1986年 か ら1994年 の 間 に 、705,397人 にELISAに よ る ス クリ ― ニ ング を 行な ぃ 、 ELISAが 陽 性 で あ っ た1,636人 (0.23% ) の う ち の1,364人 と 、繰 り 越 しの 受 診者 720人 の 計2,084人 に 対し て2次 検診 を 行 った . このうち 多包性肝 エキ丿コ ックス症 と 確 診 さ れ た も の は42人 (2% ) で あ り 、 腹 部 超 音 波 検 査 で 本 症を 否 定さ れ た もの は 1,244人であ った,こ の1,244人を非 患者(以 下非患者 群)とし 、検診外 に診断された 39人 を 含 め た 患 者81人 ( 以 下 患 者 群 ) と 血 清 値 の 変 動 を比 較 検 討し たELISA値 (以 下E値) は 、cotton rat腹 腔内 に 継代 中 の 多包 虫 シス ト か ら作 成 し た粗 抗 原を 用いマ イ ク ロELISA間 接 法 に よ り 測 定 し た ; 判 定 はE値0.5以 上を 陽 性 とし た 、WBは 古屋 ら が報 告 した 方 法 によ り 行 った , 多バ ン ド 形成 型 で55.66kdの位 置に必ず パンドを 含む 完 全 型 を 陽 性 と し 、 染 色の 微 弱な も の 、30‑35kdの 低分 子 域 に2本の バ ンド を 形 成す るも の 、97kdの 高 分 子域 に 数本 の バ ンド を 形 成する ものを不 完全型と して疑陽 性と判 定した、

  臨床病期 分類は教 室の基準に 準じ、周 囲臓器へ の浸潤や 遠隔転移 巣を認め なぃ場合で 腫 瘍 占 拠 肝 区 域 が1区 域 、2区 域 、3区 域 の も の を そ れ ぞ れStageI、n、IIIaと し 、 浸潤 や 転移 を 認 めて も完全 切除可能 と考えられ る場合をSta gemb、4区域( 全肝病巣 ) にお よ び切 除 不 能な ものをSta geNとした; 手術治癒度 は、手術 で完全に 病巣を切 除し 得た完全 切除群、 肝切除を行 ったが病 巣が僅か に遺残し た不完全 切除群、 切除不能例な ど で 明 ら か に 病 巣 が 残 存 し た 姑 息 的 処 置 群 の 3群 に 分 類 し て 検 討 し た 、   そ の 結 果 、 患 者 群77例 のE値 は0.72土0.18で あり 、 非患 者 群 の0.59土0.09に 比 べ 有意 に 高値 で あ った : ま た1次 と2次 ス クリ ー ニン グ 時 のE値を 比 較す る と 、非 患者群

244

一 紀

純 知

野 川

内 皆

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

では有意に低下したが患者群では軽度上昇した 非患者群1,244例のうち、初回2次検 診でELISAが陽性であったのは38%であった,陽性例のE値は0.65土o.12であり、陰 性 例の0.30土0.11に比 し 有意 に 高か っ た;WBを 同 時 に行 った845例では、WB陽 性 が9%、疑陽 性が11%であ った:WB陰性群 のELISA陽性率は22%と低率であったが、

疑陽性 群、陽性群 ではそれぞ れ52%、68%と 高率であり、またWB陽性群、疑陽性群 のE値は、陰 性群に比較 し有意に高 値を示した :WBの結果に より経過中WBが すべて 陰性であった群、陰性もしくは疑陽性の群、1度だけ陽性を示した群、2回以上繰り返 して陽 性反応を示 した群の4群に分 類してE値の推移を 比較した結 果、2回以上WBが 陽性を 示した群のE値は0.5以上で遷 延した.多包虫症患者77例のうち、ELISA陽性 例は67例(87%)であった.WBを測定した54例ではWB陽性例が48例(88%)、疑陽性 例が4例(8%)であった:両法の併用により、患者の98%はELISAかWBのぃずれかで 異常を示した:臨床病期、手術治癒度別に術前E値を比較検討すると、Sta ge lVの術前 E値は、Sta geI、Hに比し有意に高い値を示し、不完全切除群、姑息的処置群では完 全切除群に比し有意に高値であった。

  血清反応の術後推移は、完全切除群18例のうち血清値が低下したものは14例あり、

E値で術後3年(1.50土0.78年)、WBで術後4.5年(2.4土1.3年)以内に全例陰性化した:

その後 再上昇した ものもあっ たが、最終 的にE値は2.8土2.2年、WBは3.8土2.7年ま でに陰 性化した; 不完全切除 群11例のうち5例はELISA、WBともに陽性反応が持続し たが、浸潤の軽度であった3例と断端陽性の3例では血清反応は陰性化した:姑息的処 置 群10例 のE値 は高 値 で遷 延し、WBも 異常反応が 持続した: 術前E値 が陰性であ っ た症例は9例(全例完全切除群)あり、9例中6例は術後もELISAは陰性のままであった が、WBが 判明してい た症例は全 例術前WBは疑 陽性以上であり、術後は陰性化したっ E値が術後陽性化したものは3例あったが、このうち2例はりンパ節転移陽性例であった;

  以上の 結果より、ELISA法とWB法 を併用した 多包性肝エ キノコック ス症の血清診 断は、患者血清陽性率が高く偽陰性者の少なぃ優れた診断法であることが判明した,ま た、術前E値が高い症例は病期の進行したものが多く、術前薬物療法などの必要性が示 唆された・さらに手術により完全に病巣が切除されると2ないし3年で血清反応は陰性 化するが、血清反応が陽性で遷延する場合には病巣の遺残の他、自然治癒病巣の存在も 考慮しなければならない.また、リンパ節転移陽性例では血清反応が長期化する傾向に ありその評価には注意を要することなどが発表された,

  審査にあたり、皆川教授から生化学検査との関連、病巣の完全切除の判断などについ て質問があり、I gGサブクラスや細胞性免疫検査などの検討が必要であること、手術 所見による完全切除の判断には限界があり血清学的検査による治癒判定が期待されるこ となどが解答された:宮坂教授から術後の血清値の変動と非患者群の血清反応の長期推 移について質問があり、抗原の局在は判明しつつあるが免疫反応は複雑で未解明な点が 多いこと、術後E値は境界値付近である程度変゛動する可能性があること、検診除タ|例は 1  ‑2年しか追跡できないことが解答された、藤岡助教授から血清検査の地域性、自然 治癒例の判定法についての質問があり、これに対し地域性の報告はあるが今回の検討で は地域による考察はなかったこと、自然治癒病巣の画像診断とラット腹腔内への病巣接 種によ る治癒病巣 判定法など が解答され た石渡助手から交差反応とWB疑陽性の評価 について質問があり、単包虫症以外に交差反応を認めていないこと、WB疑陽性以上を 陽性と判断する妥当性について述べられた・

    ELISA法 とWB法の併用による本症の血清診断の有用性と、術後の経過観察の指標

‑ 245

(6)

としての可能性を明らかにした点で意義があり、審査員一同はこれらの成果を高く評価 し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した

246

参照

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